ポケットモンスタードールズ   作:水代

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四天王ゲンジ②

 決着は、まさしく、一瞬だった。

 

 たった一度の交差。

 

「ぐ…………が…………」

 

 膝を突く…………()()()

「…………嘘だろ」

 心境を言えば、そんなところか。

 

 まさか、と言った気持ちが強い。

 

「…………本当に完成させやがった、()()()()()()

 

 ずだん、と相手のボーマンダが崩れ落ち、無言で倒れ伏す。

 完勝…………とは言い難い。エア自身、相当なダメージと疲労が溜まっているのは分かる。

 それに、やはり自身の想像通り、かなり負担が大きいらしい、たった一撃で三手か四手程度は持つはずの“ゲンシカイキ”が解除されて、メガシンカ状態まで戻っている。

 

 だが。

 

 それでも。

 

「…………私の勝ちよ」

 

 倒れ伏すボーマンダを見下ろしながら、エアが呟く。

 

「…………なん、だ…………? 今、の?」

 

 分けが分からない、と驚きの表情で、息も絶え絶えにボーマンダが呟き。

 

「教えてやるか…………バカ」

 

 その頭をエアが踏み抜き、完全に沈黙した。

 

「……………………詰み、か」

 倒れ伏し、動かないボーマンダをボールに戻しながら、ゲンジが呟き。

「なるほど…………確かな絆があるらしいな」

 目を光らせる。

 

「ならば、最後まで試していけ…………このワシを超え」

 

 そして。

 

「チャンピオンに届きうるのか、見せてみろ!」

 

 次のボールを投げる。

 

「ヌメルゴン!」

「ぴょろ?」

 

 場にヌメルゴンが現れ。

 

「まだ行けるか? エア」

「…………ぐ…………あたり、前、でしょ!」

 

 ふらふら、と揺れる体で、それでもエアが立ち上がり。

 

 

「ルウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 絶叫染みた叫びを上げながら、ふわり、と浮き上がり。

 

「ヌメルゴン!」

「エア!」

 

 “れいとうビーム”

 

 “ガリョウテンセイ”

 

 ヌメルゴンの放つ“れいとうビーム”。4倍弱点のはずのそれを片手で弾き飛ばす。片腕が凍り付く。だが関係無いとばかりに、中空を蹴り上げ。

「ルアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 ヌメルゴンに激突。勢いのままにヌメルゴンが弾かれ、フィールドに倒れ伏す。

 

 “ねんえき”

 

 触れた瞬間、エアに纏わりつくヌメルゴンの粘液を、エアが鬱陶しそうに払い。

 

「ハルト」

「了解」

 

 “キズナパワー『うちけし』”

 

 ぶん、と全身を振り回して粘液を完全に振り払う。

 

 と、同時にゲンジが次のボールを投げ。

 

「ガブリアス!」

「グウウウウアアアアア!!」

「エア!」

「まだ、行ける!」

 

 “げきりん”

 

 “ガリョウテンセイ”

 

 互いが激突し、()()()()()()()()()()()()()

「堕ちろおおおおおおおおおお!!!

 

 “そらのおう”

 

 “りゅうせいぐん”

 

 放たれた流星がガブリアスを次々と狙い打ち確実にフィールドに沈める。

 

「サザンドラアアアアアア!!!」

「グルゥゥ…………グオオオオオオオ!!!」

「エアアアアアアア!」

「オオオオオオオオオォォォォォォォ!

 

 “りゅうせいぐん”

 

 “ガリョウテンセイ”

 

 次々と降り注ぐ流星を躱し、弾き、それでも被弾して、けれど歯を食い縛り。

 

「沈メエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」

 

 エアの渾身の一撃がサザンドラの耐久を一撃で奪い去り。

 

「グルゥ…………オ…………ォ…………」

「ぐ…………あ…………」

 

 同時にフィールドに倒れ伏す。

 

「…………………………」

「…………………………」

 

 互いが無言で互いのポケモンをボールに戻し。

 

「……………………くっ」

 ゲンジが、一瞬俯き。

「ぐわあああっはっはっはっはっは!!!」

 大口を開けて笑う。

「見事成る哉! これほど大負けしては笑うしかあるまいよ!!!」

 笑って、笑って、笑って、ひとしきり笑うと、こちらへと向き直る。

 

「見事! いよいよお前は四天王を全て突破し、最後の戦いへと望む権利を得た!」

 

 呟いた瞬間。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 地響きを立てながら、ゆっくりと、その背後の扉が開く。

 

 瞬間。

 

「っ?!」

「む? ははっ! 猛っておるな!」

 

 感じたのは圧倒的威圧。

 

 まるで手持ちも無く、野生のポケモンに出会ってしまったかのような圧倒的な圧迫感。

 心臓を鷲掴みにされたかのような感覚に一瞬、凍り付き。

 

「チャンピオンも、お前との戦いが待ち遠しいらしいな…………だが次の戦いは一週間後。どちらが勝とうと、お前がこれまで戦ってきた中で最も厳しい戦いとなることは間違いは無い」

 

 故に。

 

「全てを出し切れ。あらゆるものを振り絞って、そうして、悔いだけは残さぬようにな」

 

 踵を返し、歩きだす。

 

 『あく』使い、四天王カゲツ。

 『ゴースト』使い、四天王フヨウ。

 『こおり』使い、四天王プリム。

 『ドラゴン』使い、四天王ゲンジ。

 

 四天王四人との全ての戦いがこれで終わった。

 

 そうして、次に待ち受けるのは。

 

「ついに…………来たよ、ここまで」

 

 初めて出会った時を思い出す。

 石屋で出会ったのが始まり、そしてあの時手にしていたメガストーンはきっと…………。

 

 次に出会った時を思い出し。

 その実力を間近で体感し、その強さを肌で感じさせられた。

 

 今度は誤魔化されない。

 

「俺の三万…………返してもらう!!!」

 

 ……………………何か間違えた気がする。

 

 

 * * *

 

 

 眠れない。

 

 ホテルのベッドの中で、寝返りを打ちながら、眠気を感じながらも、けれどそれ以上の興奮で目が冴える。

 三度、四度と寝返りを打ちながら、けれど一向に収まることの無い心に、ため息を一つ吐き。

 

「…………寝てる、な」

 

 すやすやと寝息を立てて眠るみんなを見て、そっと部屋を抜け出す。

 特に何か用があるわけでも無いが、自然と足は上へ上へと進んでいく。

 一週間前と同じく、再び屋上の扉を開いて。

 

「あら?」

 

 そこに、一週間前と同じく、少女がいた。

 

「…………エア?」

 

 自身にとっても、少女…………エアにとっても予想外な出会い。どうやら部屋を出る前に確認した時には気づかなかったらしい。

 自然と、二人並ぶように、屋上の縁、フェンスへと持たれかかる。

 

「どうしたんだ? こんな時間に」

 

 日付が変わるか、変わらないか、と言った程度に時間帯。

 少なくとも、いつものエアなら寝ている時間だろう。

 

「それはこっちの台詞よ…………寝なくていいの?」

 

 まあそれはお互い様である、とエアが苦笑しながら尋ね。

 

「なんか…………夢見て、起きたら、もう寝れなくなった」

 

 そんな自身の言葉に、エアがその赤く綺麗な瞳を真ん丸にして。

 

「…………私も同じ」

 

 そんなことを言う。

 自身の見ていた夢は。

 

「「あの日のチャンピオンとのバトル」」

 

 互いの声が被る。

 全く同じ夢を見ていた…………そんな事実に。

「ぷ…………あはははははは」

「くす…………あはははははは」

 なんだか酷くおかしくて、思わず二人、顔を合わせて笑ってしまった。

 

「一週間前もここでこうしてたな」

 

 ふと思い出したように呟いた一言に。

「え…………あ…………えっと…………」

 ぼん、と一瞬でエアの顔が紅潮し、言葉に詰まる。

「覚えてる? 俺の言ったこと?」

「え…………っと…………うん」

 こくり、と赤くなった顔を覆い隠すように帽子で顔を抑えながら、エアがこくりと呟く。

 

 そうしてエアに問いかけながら、少しだけ思い出す、一週間前のこと。

 

 

 * * *

 

 

「きっとさ…………難しく考えすぎなんだと思うよ?」

 

 碓氷晴人は紛れも無く、人間らしい人間だ。

 一時、不幸があって、感情の発達が遅れた部分もあったが、それでも今となってはまっとうな人間と言っても過言ではない。

 社会人になって、多少の経験もして。

 

 それでも未だに一つだけ学べていない感情があった。

 

 碓氷晴人は恋と言う感情を知らない。

 

 大概の青少年が抱くだろう感情を、幼少期の不幸のせいで経験することなく、思春期と呼べる年齢を通り過ぎてしまっていた。

 故に碓氷晴人は、その二十年余りの人生において、他人に恋愛感情を抱いたことが無い。

 

 そしてその記憶を受け継いだ…………否、受け継いでしまったハルトは、だからこそ、恋愛感情に鈍い。

 以前から自身が持て余していた感情に名前を付けることすらできないほどに、なまじある程度成熟してしまった精神が最初からあっただけに()()()()ことも出来ないままにこの年齢になるまで過ごしてきてしまった。

 

 それでも、だ。

 

 分からないだけで、無いわけじゃない。

 知らないだけで、育たないわけじゃない。

 

 少なくとも、エアとキスを交わした時、ハルト自身感じるものがあった。

 その感情に名前を付けるのなら…………きっと。

 

「好きなら好きでいいじゃん」

 

 恋…………とはハルトは呼ばない。

 そもそもそれに名前なんて付けない。

 だってつける必要も無いじゃないか。

 だってそれは明確なほどに、ハルトに教えてくれるのだから。

 

「俺は、エアが好きだよ…………それがエアの好きと同じかは分からないけど」

 

 それでも少なくとも。

 

「エアの好きと同じくらい、俺はエアが好きだから」

 

 だから。

 

「深い意味は良いよ。人だとか、ポケモンだとか、正しいとか、間違ってるとか、そんな区別もいらない」

 

 必要なのは、思いの深さ。それだけあればハルトには十分だ。

 

「キミが俺を好きでいてくれるなら、俺もキミを好きで居続ける」

 

 だからそれは、約束だ。

 

 一度目はエアから、二度目はハルトから、三度目はお互いに。

 

 そして四度目は、約束だ。

 

「絶対に放したりしないわよ?」

「いいよ、ずっと一緒だ」

 

 その約束。

 

 

 * * *

 

 

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」

 思い出してエアが頭抱えだす。

 ホント、とことんこういうのに耐性無いなエアって、と傍観者目線でいると。

「う…………うう」

 顔を隠した帽子の下からちらちら、とエアがこちらを見てきて。

「……………………っ?!」

 視線が合うと、さらに顔を紅くしてさっと顔を俯けてしまう。

「……………………ふふ」

 思わず笑みがこぼれ。

「エア」

 抱きしめる、その小さな体を。

「え、あ、え、え、え、え、えええええ?!」

 エアが酷く慌てた様子で、けれど拒否することも無く、ひたすらにテンパっているのを見て。

「ふふ…………可愛い」

「あ、あう」

 笑みを浮かべ呟いた一言に、エアが熱を出し、目を回して倒れる。

 

 楽しいなあ、なんて。

 

 これが恋心だろうか。とかつての親友を思い出し。

 多分それはサド心だと思うぞ、と想像の中の親友が言った気がした。

 

 

 

「それで、真面目なところ」

 それからしばらくして、互いに、と言うかエアがようやく平静を取り戻したくらいのタイミングで、問いを投げかける。

 

「真面目な話、勝てると思う?」

 

 誰に、とか何にとか、そんなこと言わなくても分かっているだろう。

 何せ、同じ夢を見たのだから。

 エアもまた、自身と同じ。

 

 かつてのチャンピオンとの戦い、そして()()()()()()()()()()()()()()()()から。

 

「分からない…………」

 空を見上げたまま、エアがぽつりと呟いた。

「強くなった…………そう言う自信、と言うか自負はある、けど」

 そう、けれども。

 

()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()

 

 こちらはメガシンカを使ったエアと、メガシンカを使わなかったヒトガタのメタグロス。

 だと言うのに、エアが負けた、完膚なきまでに。一方的に叩きのめされた。

 

「かなりメタな話だけど種族としての強さみたいなのはほぼ同じくらい。個体値、と言うか才能みたいなのも同じく最高レベル。だから違いがあるとすれば」

 

 育成、つまり。

 

「トレーナーの差、と言うことかな」

 

 思わず呟いた一言に。

 

「それはっ!」

 

 反論しようとしたエアを片手で制する。

 

「分かってるよ…………でもやっぱりそこは見て見ぬふりは出来ないところだよ」

 

 恐るべきは『はがね』タイプを育てる際のチャンピオンの才能であろう。

 種族値や個体値、努力値の差すらも覆しかねないほどの凶悪なトレーナーズスキルと育成能力の組み合わせ。

 

 有り体に言えば。

 

 今まで戦ってきた四天王の長所を全て組み合わせたような相手だと言える。

 

 カゲツの読みと、フヨウの育成、プリムの異能と、ゲンジの統率。

 

 その全てを足して四で割らないような相手。

 

「…………まじでふざけろ」

 

 なんだそのチート、反則だろ、と言いたいが、それが現実。

 

「本当に…………どうすっかなあ」

 

 なんて呟いてみて。

 

「ハル」

 

 短く、呟く。

 一週間前から、時折呼ぶようになった、その呼び方で。

 

「大丈夫だから」

 

 そっと、エアが手を伸ばし…………自身の手を取る。

 

「今度は負けない…………絶対に」

 

 呟き。

 

「ハルは絶対に劣ってなんかない…………私にとって、一番のトレーナーだから」

 

 だから。

 

「勝って証明するから」

 

 何を?

 

「ハルがこのホウエンで一番のトレーナーだって」

 

 だから。

 

「だから」

 

 だから。

 

「信じて」

「勿論」

 

 今更過ぎる。

 

 そんなの当たりまえだ。

 

 そうか、だから。

 

 こう言えばいいのか。

 

「勝て、エア」

 

 そっと呟いた一言に。

 

「任せなさい!」

 

 力強くエアが頷く。

 

 

 二人の手は離れなかった。

 

 

 




半分タイトル詐欺なんじゃないだろうか、と思いつつも。

次からコミュ回。
取りあえず一人一話やってたら長すぎるので、3人一話くらいかな。

それ終わったら、いよいよチャンピオン戦です(データ作成中


それにしても、感想見てるとエアちゃん読者に愛されるなあと思えて、作者としては嬉しい。




キズナパワー『うちけし』→発動時、自身に影響のある不利な効果を全て解除する。
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