ポケットモンスタードールズ   作:水代

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恋とか、あと影とか。


実りの秋だからきっと色々実ってる

 残すは六日。

 九月に入り、夏の暑さも大分和らいできた気がする。

 とは言うものの、日差しに当てられればまだじんわりと汗ばむような季節ではある。

「大丈夫? シア」

「溶けそう…………です…………」

 うだるような暑さも過ぎ去ったとは言え、まだまだ日中の気温は高い。

 自身ですらそうなのだから、暑いのが苦手なシアからすれば、余計に、と言うものだろう。

 

 チャンピオンリーグもいよいよ最終局面、と言ったところか。

 

 残すは最強、このホウエンの頂点たるトレーナー。

 

 チャンピオンダイゴ。

 

 やることはもうやり切った、と思う。

 実際、ゲンジ戦で確かめることはできなかったが、今のパーティはすでに自身が当初考えていたパーティを軽く上回った完成度だと自負している。つまり、今以上の成長と言うのはまだ自身には思いつかない、と言うことでもあり。

 だからこの一週間は、何も考えないことにした。

 

 ただ、気楽に。

 

 ただ、道楽に。

 

 その日を待つ。

 六日後を。ただ待つ。

 

 泣いても笑っても、これで最後だ。

 

 

 * * *

 

 

「あー…………お茶が美味しい」

 先ほど買ったばかりの冷えた麦茶を飲み干し、ゴミ箱にペットボトルを投げ捨てる。

 ホテルに籠ってばかりじゃ気分も下がるし、どこかぶらりとでかけるか、と考えたのだが。

「木陰だとまだ少し涼しいね」

「そうですね」

 リーグ街は一つの街だ。最早規模が縮小され、ほとんどの店が撤退してしまったとは言え、一つの街と呼べるだけの敷地があり、店は撤退してしまったとは言え、建物自体は残っており、中心部以外は人の居ない伽藍どうの街が残っている。

 そんな街でどこかに出かけようとしても、まず買い物と言う選択肢は抜ける。

 実際問題、全ての店を冷やかしても半日も潰せない程度の距離しかない。

 なので適当にお昼ご飯でも用意して公園でのんびりピクニックでもしようか、と全員を誘ったのだが。

 

「あのはくじょーものども」

「あ、あはは、まあまあ」

 

『退屈だし、体動かしてくるわ』『ねむいでしゅ、ごしゅじんひゃま』『探検だー! 冒険がアチキを呼んでいる!』『え、えっ、ち、ちーちゃん!? なにそのキャラ、あ、待ってちーちゃん、ご、ごめんなさい、マスター』『干からびそうだからお風呂入ってるねー』

 

 以上、誰がどんな状況か、非常に分かりやすいコメントだった。

 結局シアだけである、一緒に来たのは。

 

「ほら、シア」

 先ほど買って来たばかりの買い物袋の中身からカップアイスを取り出すと、付属のプラスティックスプーンと一緒にシアに渡す。

「ありがとうございます、マスター」

 嬉しそうにそれを受け取ると、早速蓋を開けて食べ始めるシアの顔がほころび、こちらまで笑みが浮かぶ。

「暑いっちゃ暑いけど、こっちの木陰だとまだマシかなー」

「そうですね、思ったより風が良く吹くので、大分マシですね」

 公園に乱立して生えた七、八メートルほどの上背の木の影に腰を落ち着け、足元に敷いたビニールシートに先ほどの買い物袋を置く。

 

 比較的温暖な気候のホウエンだが、海に接する地域が多いお蔭か風が良く吹き、それほど熱を感じさせないことが多い。

 特にこのリーグ街のあるのは小島だ。四方八方海に囲まれており、潮風がほどよく熱を冷ましてくれる。

 

「お弁当とか、良く用意できたな、シア」

「あり合わせですけど、まあ気分は出ますよね?」

 買い物袋とは別に用意されたバスケットを開けば中には色取り取りのサンドイッチが入っている。

 実家のような台所も無いのに、良くまあこれだけの物を作れたものだと割と驚きがある。

「朝ご飯食べてないから、お腹減ったなあ」

「マスターがお腹空かすって言って食べなかったんじゃないですか、一応お昼ご飯に用意したんですけどね、これ」

 時間的には午前十時くらいと言ったところか。少し早いお昼ご飯ともちょっと遅い朝ご飯とでも言える時間帯だが。

「ブランチって言っておけばいいんだよ」

「そう言うところ適当ですよね、マスター」

 シアが口元に手を当てて笑う。

「美味しいご飯があって、隣に可愛い女の子がいれば、男なんてあとは適当でも良いんだよ」

 ああ美味しい、とサンドイッチをぱくぱくと食べながらしみじみと呟く。

「……………………」

 そんな自身の言葉に、目を見開き、言葉を失ったシアに、ん? と首を傾げ。

 ぼん、と顔を真赤にしてるシアに苦笑する。なまじ肌が透き通るように白いだけに、余計にその赤は目立っている。

「シアって割と照れ屋だよね」

 見た目一番クールそうなのに、褒めると一番恥ずかしがる。そう言うギャップがまた可愛いのだが。

「ま、マスターは…………その」

 頬を染めたままシアが珍しくジト目でこちらを見つめ。

「浮気性なんですか?」

「…………はあ?」

 呟かれた言葉に、思わず目が点になる。

「なにそれ」

「だってマスター、エアを受け入れたんですよね?」

「ぶほっ?!」

 思わず噴き出す。けほけほ、とせき込みながら、吐き出しかけたサンドイッチをなんとか飲み込む。

「な、なんで知ってんの?!」

「…………本当に分からないと思ってたんですか?」

 じーっと、見つめてくるその瞳に、吸い込まれそうになる。

 そうして同時に気づく、目の前の少女が僅かにイラだっていることに。

 

「……………………シア、もしかして」

 

 何故だろうか、と考え。

 やはり思い出されるのは、以前にリップルが言っていた言葉。

 

「…………嫉妬してる?」

 

 自身の言葉に、シアが僅かに驚いた顔をして。

 

「…………割と」

 

 頬を膨らませながら、ぷい、と顔を背ける。

 思わずその膨らんだ頬を、つん、と人差し指でつつく。

「…………何するんですか」

「悪戯」

 笑みを浮かべながら呟いた一言に、シアが、むっ、とした表情になり。

「シアがそう言う顔するの、珍しいね」

 呟いた一言に、ピタリ、と止まる。

「……………………仕方ないじゃないですか」

 やがて絞り出すように出た言葉。

「私だって、マスターのこと、大好きなんですから」

 拗ねたようにぷいっ、と顔を背けたシアに、思わず苦笑し。

「仕方ないなあ」

 ビニールシートの上、膝立ちで起き上がって、シアへと手を伸ばす。

「…………えっ」

 伸ばされた両手がシアの頭を掴み、思わずと言った様子でシアが驚き、こちらを向いて。

「よしよし」

 胸の中に抱くようにその頭を抱き寄せ、後ろ髪を梳いていく。

「え、あの、ま、マスター?」

「まあまあ、気にするなって」

「気にしますよ?!」

 声を荒らげるシアの様子に、本当に今日は珍しい姿が良く見れるなんて思いながら。

 

「いつもありがとう、大好きだよ、シア」

 

 呟いた一言、腕の中でシアがびくり、と跳ねた。

 

 

 * * *

 

 

 蕩けそうになる思考の片隅で、いつまでも梳かれる髪に、この人はこれが好きなのだろか、なんて考える。

 ああ、もう、本当に。

 

(ずる)いですよ、マスター」

 

 狡い、卑怯、反則だ。

 

 ありがとう、と言われた時、心が弾む。

 大好きだ、って言われれば、心が跳ねる。

 

「本当に、狡いですよ」

 

 ずるい、卑怯だ、反則だ。

 本当に、本当に、本当に。

 だって。

 

「ありがとうだなんて、大好きだなんて」

 

 そんなこと言われたら、貴方にそんなことを言われたのなら。

 

「私が、私たちが拒めるはずないじゃないですか」

 

 頬が熱くなる。溶けてしまいそうなほどに、心が温かい。

 ただ触れられただけで、胸が早鐘を打つ。

 声を聴くだけで、思考が蕩けてしまいそうで。

 

 好きだなんて言われたら、もう抵抗なんてできない。

 

 全身から力が抜けていく。

 ただただ、抱かれるがままに。

 全てを委ねてしまう。

 

「マスター」

 

 呟いた一言に。

 

「シア」

 

 呟かれた名前に。

 

「…………好きです」

 

 自身はポケモンである。

 

「ああ…………俺もだよ」

 

 目の前の少年は、ヒトである。

 

「大好きだよ、シア」

 

 それでも、これは、この気持ちは。

 

「はい」

 

 紛れもなく、恋だった。

 

「私もです」

 

 

 * * *

 

 

 そもそもな話。

 

 いつからだったのだろうか。

 

 ふと、少女、シャルは思考してみる。

 

 けれど、やはり、どうしても、行きつく先は同じ。

 何度も、何度も、何度も。

 考えて、思い出して、想って。

 それでも、やっぱり、行きつく先は、いつも同じ。

 

 最初から、だ。

 

 五年前に。

 

 この世界で。

 

 初めて彼に出会ったその時から。

 

 自身は彼が好きだった。大好きだった、愛していた。

 

 大切に、大切で、大切な自身の主を。

 

 敬愛していた、親愛していた、信愛していた。

 感情は複雑で、でも一言で表そうとすればシンプルに。

 

 “大好き”

 

 それだけで事足りる。

 だからシャルは、彼が大好きだった。

 大好きで、大好きで、大好きで、それで事足りていた。

 

 事足りていた、はずだった。

 

 はずだったのに。

 

「…………はあ」

 

 思わずため息。

 夜の公園、何故ブランコなんてものがあるのだろうか。

 確かここはリーグトレーナーやその他関係者しか来れないはずの街なのに。

 一体誰が使うんだろうか、なんて一瞬考え。

 なるほど、今現在、自身が使っている、と思い直す。

 

「…………ふう」

 

 二度目のため息。

 煌々と明るい秋の月は、暗い夜を照らしている。

 それでも夜は夜だ、暗いことには変わりない。

 いつものシャルならば、苦手な暗い場所。

 それでも、今日だけはそのほうが都合が良かった。

 

「…………こんなの、見せられない」

 

 昨日、正確には深夜、戻ってきたエアを見た。

 シャルの睡眠時間は長い。早く寝て、最後に起きる。

 けどそれが必要かと言われると、そうでも無い。

 だってシャルは…………シャンデラは『ゴースト』ポケモンだ。

 他のどのタイプのポケモンたちとも違って『ゴースト』タイプのポケモンたちは、()()()()()()

 この言い方、表現が的確かと言われると首を傾げるが、それでも他に言い表しようが無い。

 本来食べる必要も無い、眠る必要も無い、生理的な欲求も無ければ、生殖的欲求も無い。

 『ゴースト』ポケモンの体とは、つまり精神の具現化だ。

 だからシャルにとって睡眠とは回顧である。

 眠っているように見えて、その実寝ていない。夢は見る、けどそれは文字通り、過去の記憶の回顧をしているだけ。だから実のところ、その場で起きている状況と言うのはしっかりと把握している。

 だから夜中に戻ってきたエアと主のことを知っている。

 そしてその時のエアの様子を知っている。

 その様子に違和感を覚えた、覚えてしまった。

 

 同時に、昼に目を覚ました時、帰って来たシアを見た。

 だから気づいてしまった。

 彼女たちは受け入れられたのだと。

 同時、自身の中で浮彫になる感情に。

 

 自身の主に対する、恋心に。

 

 そしてこの臆病者は気づいていた。

 きっと自身の主たちは自身たちをみんな受け入れてしまうのだろうと。

 

 五年前、自身たちを探してホウエンを旅した時のように。

 

 だからこそ。

 

「受け入れられない」

 

 誰よりも何よりも、自身が受け入れられない。

 他のみんなとは違う、全く違う、ポケモンだとか、人間だとか、ヒトガタだとか、そんな理由じゃなくて。

 生きてすらいない自身(ユウレイ)が、生きた人間に恋するだなんて、許されるはずがない。

 ただ好きだったなら、それだけで良かった。

 ただ憧れているだけならば、それだけで良かった。

 気づかなければ良かった、自身の思いなんて。

 気づかなければ良かった、受け入れるかもしれないなんて希望。

 誰よりも、何よりも、シャル自身が理解してしまっている。

 

 人と交われば、決して禄でも無いことになると言うことに。

 

 魂を燃やす悪夢のキャンドル。

 

 そんなバケモノがヒトに恋しただなんて、決して悟られてはいけない。

 

 受け入れられた仲間に、嫉妬したなんて、決して気づかれてはならない。

 

 人だとか、ポケモンだとか以前に。

 

 自身は生命ではない。

 

 命なんて物がない。

 

 ぞわり、と影が蠢く。

 

 足元から沸きだした影が公園中に広がり、そこらかしこを黒に染め上げていく。

 緑の芝生は枯れ堕ち、青々と茂っていた木々は葉を落としていく。

 溢れ出す影が周辺にある命と言う命を絞りつくしていく。

 そうして溢れだしそうになる想いを塞ぎ、押し込めれば込むほどに、影は溢れ出す。

 

 いつからだったのだろう、と考えれば、きっと最初からだったのだろう、と答える。

 

 本当に、気づかなければ良かった。

 

 こんな感情。

 

 (くる)しくて、(にが)くて、痛くて、辛くて。

 

 いらない、いらない、こんな感情なんて、いらない。

 

 だから、吐き出す。

 

 消えろ、消えろ、と思いながら。

 

「好き…………大好きです、ご主人様」

 

 呟いた言葉に。

 

「俺もだよ、シャル」

 

 言葉が返って来た。

 

 

 




シャルの言ってた独白は、ゴーストポケモンはなんか人間とかポケモンが死んで成った物、みたいな設定をどこかで聞いた気がするのでその辺を考慮し、組み込んだ独自設定です。


6V夢フカマルゲット!
しかも♀だぜ。アースちゃんと名前を付けておく。


と言うわけでいよいよタツベイ厳選始めました。
目標は♀6V。エアちゃん作りたい感。
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