ポケットモンスタードールズ   作:水代

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四章だ! 四章だ!! 四章だあ!!!

予定? 未定! プロット?? アドリブ!! 結末??? 知らん!!!


ホウエントラベ(ブ)ラーズ
旅立ちの日に一人だけスタートを切れないやつがいるらしい


 

「はふっ」

 手を口に当て、漏れ出る欠伸をかみ殺す。

 朝の木漏れ日に目を細め、手をかざして陽光から目を隠す。

「ハル」

 呟かれた声に、振り返る。

 何時もの赤と青の服装の上からエプロンを付けたエアがそこに居て。

「いってらっしゃい」

 どことなくぎこちの無い、けれど優しい笑みを浮かべ、柔らかな声でそう告げた。

「うん…………行ってくるね、エア」

 にっこり、と笑って返せば、エアの頬に差す朱に、苦笑し。

「…………頼んだわよ、アース」

 背後でエアが呟いた一言に、かたり、と腰のボールが一つ揺れた。

 

 

 * * *

 

 

「それじゃあ、ハルカ」

「うん、分かってるって」

 玄関の扉を背で押し、半ばまで開きながら、視線の先に並ぶ両親に頷く。

「ハルトくんに余り迷惑かけちゃダメよ?」

「分かってるって」

「それと、珍しいポケモンを見つけたら、お父さんにも連絡をくれ」

「それも分かってる」

 昨日から何度となく、それこそ耳にタコができるほど聞かされ続けたことだ。

「なら、まあ…………」

「そうね」

 両親が互いに頷き。

「「いってらっしゃい」」

 告げた言葉に、微笑み。

「うん、行ってきます」

 半開きの扉を開き、玄関を潜る。

 朝の日差しに一瞬、瞼を閉じて。

 

「うん、良い天気…………楽しくなるね」

 

 にかっ、と笑って、そう呟いた。

 

 

 * * *

 

 

「本当に行くのかい?」

 父の口から出たその言葉に、一体これで何度目だろうか、と思う。

 それでも、それだけ自身を心配しての言葉だと思えば、決して悪い気もしない。

「うん…………それに、この子たちのためにも、ボクもトレーナーになりたい」

 腰に付けられた三つのボールがかたりと揺れる、まるでそこに自分たちが居ると自己主張するかのように。

 そんなボールの中のポケモンたちに苦笑し、そっとボールを撫でると、ぴたりと揺れが収まる。

 そしてそんな自身たちの様子を見た父がはあ、と一つため息を吐き。

「やれやれ…………本当に、元気になったな、ミツル」

「うん…………父さんと母さんと…………それと」

「ハルト君のお蔭、だろ…………分かってる、まあ心配しておいてなんだが、ハルト君がいるなら大丈夫だろうと思ってる」

 ここ二年の間にすっかり有名になってしまった自身の憧れの名に、笑みが零れる。

「あ…………時間。ごめん、父さん…………もう行かなくちゃ」

「そうか…………まあこれだけは言わせてくれ」

 自身の肩を掴むがっしりとした両腕、その頼もしさを感じると共に、これからその頼もしさから離れることに寂しさも感じる。

「頑張らなくても良い」

 そして告げられた言葉に、目を丸くする。

「できないことはやらなくても良い、無茶もいらない…………ただ元気でな」

 困ったように笑みを浮かべる父の顔に、少しだけ涙が出そうだった。

「…………うん、父さん…………行ってきます」

「ああ…………行ってらっしゃい」

 旅立ちの朝。背けた顔。玄関を潜ると朝日が眩しかった。

 

 

 * * *

 

 

 旅をする。それは二年前…………どころか七年前から決まっていたことだ。

 十二歳。それは実機で言うならば、原作開始の年。

「予想してた面子と大分変ったなあ」

「何か言った? ハルくん」

「いや、なんでもないよ、ハルちゃん」

 隣で首を傾げるハルカに、苦笑して誤魔化しながら、こちらへやってくる人影に、視線を向ける。

「来たみたいだね」

「あ、ホントだ。おーい」

 ハルカが手を振って、声を挙げる。そうして少しだけ焦ったように、人影が走ってきて。

「はあ…………はあ、おはようございます、ハルトさん、ハルカさん」

「おはよう、ミツルくん」

「おはよう!」

 息を切らせるミツルに、苦笑しつつ、ペットボトルを渡す。

「ありがとう、ございます」

「そんなに急がなくても良かったのに」

「いえ…………()()を、待たせるだなんて」

「あ、その師弟ごっこまだやってたんだ」

「ごっこじゃなくて、本当になったけどね」

 

 大分前に、ミツルくんにトレーナーのイロハを教えたことがある。

 その時、半分冗談で師弟になったのが、今でもずるずると続いて、ホウエンリーグからトレーナー育てるならちゃんとやれ、って言われた結果本当に師弟になった。

 まあ正確には、チャンピオンが遊び半分でトレーナー育てるな、だが。

 育てるなら、弟子としてちゃんとやれ、と言うお達しだったが、まあそれもいいか、と思ったのでミツルには自身がこの世界で学んだことをありったけ詰め込んでいる途中だ。

 まあ二つ年下のこの弟子は、今日から正式にトレーナーデビューと言うことで、バトルする相手も今までほぼ自身で固定されていたので、この旅で総仕上げと言ったところだろうか。

 原作的に考えて強くなるのは分かっているし、上手くやればマグマ団、アクア団と戦う時の戦力になるかな、と言う打算も多少ある。

 

「さて、それじゃあ行こうか…………まずはコトキタウンだね」

 

 誰か一人足りない気もするが…………まあ集合時間に遅れているのだから仕方ない。

 

 こうして旅するのは懐かしいなあ、となんて思いながら。

 一歩、足を進める。

「さて…………行こうか、みんな」

 振り返り、告げ。

 

 ホウエンを巡る旅の一日目が、そうして始まった。

 

 

 * * *

 

 

 前世で旅をする、となると割と荷物がかさばる。

 まあどこを、と言う点で荷物量は大きく変わるが、例えば街と街を旅するにしても、最低衣類は必須だ。まさか行く先々で買い変えるなんて真似も出来ないし、洗濯すると言うことを考えても三日、四日分くらいはいるだろう。この時点でけっこうな荷物だ。

 それに、それ以外にも必要なものは多い。移動が徒歩な以上、一日で街にたどり着けなかった場合の備えと言うのも必要だ。

 だがこの世界ではその事情が大きく異なる。

 

 原作でも持ち物をパソコンに預けると言う謎過ぎる技術があったし、よくよく考えれば自転車などのかさ張る物や、金に飽かして買いこんだ道具などをどこに持っていたのかと言う疑問。『かいふくのくすり×99』とか『ハイパーボール×99』など誰でもやるだろう買いこんだ道具類、だが原作主人公たちの誰もそんな大量の荷物持ってる様子が無いわけで。

 

 つまり、それが答えだ。

 

 物質の量子化、つまりデータ化と再生再現技術。この世界にはそう言うものがある。

 手荷物はいざという時に使う、ボール類をいくらかと薬の類など。

 それ以外はだいたいデータ化して、マルチナビに保存されている。

 自転車、などの大きな荷物もそれで保存できるのでかなり便利なものである。

 ポケモンのボックス転送などもこの技術によって作られており、この技術のお蔭でトレーナーたちの旅が段違いに簡易になったと言える。

 十歳の子供がポケモンがいるとは言え旅に出れる背景と言うのはこの辺りからきていると言えよう。

 そのせいでトレーナーが増えた、とも言えるが。

 

「まあこんなのポケモンバトルには何一つ関係無いけどね」

「無いですか?!」

「旅するなら便利、程度の知識だよ。技術者ならともかく」

 

 えーっと言う顔をするミツルに、ニコニコと笑うハルカ。そしてニヤニヤとする自身。

 ミシロを出てコトキタウンまで半ばほど、と言ったところか。

「で、ハルちゃん」

「ん? なになに?」

「この辺のポケモンのデータは取らなくてもいいよね?」

 問う言葉に、ハルカが一つ頷く。

「うん、この辺はもう一通り調べつくしてるからね」

「そっか、じゃあミツルくん」

「あ、はい!」

「適当にポケモンバトルでもしながら行こうか」

 告げた言葉に、ミツルが大きく目を見開き。

 

「は、はい!」

 

 すぐに表情を変え、微笑んだ。

 

 

 * * *

 

 

 101番道路。ミシロタウンとコトキタウンを繋ぐ唯一の道。

 五歳の時にここをエアと二人で通ったことが遥か昔のことのようだ…………いや、七年も前の話だし、やっぱり遥か昔のことだ。

 基本的にこの辺りにいるトレーナーたちは、新人が多い。コトキタウンを拠点として周囲でジグザグマやケムッソなどの野生のポケモンを相手に経験を積み、時折出てくるポチエナと戦いレベルを上げ、同じ新人同士でバトルをしトレーナーとしての腕を磨く。

 

 この辺りに出てくる野生のポケモンが比較的弱い個体が多く、さらに気性も大人しいことも手伝って、新人トレーナーの練習場のような体を為している。

 まあそもそも、五歳児だったハルカが観察(ウォッチング)と言う名で遊び場にしていた時点でその危険性はお察しであろう。

 野生のポケモンとのバトルは意外と神経をすり減らす。何せ相手はルールを守ったトレーナーでは無い、ルール無用、弱肉強食が基本の凶暴な獣だ。戦うことに慣れない新人トレーナーはここでゆっくりとバトルに対する経験を積まねば、いざという時パニックになって指示も出来なくなる。

 

 まあそう言う意味では自身も昔は結構無茶した気がするが、自身の場合、隣にいてくれる頼りになる仲間がいたからこそ、慌てることなく戦えた、と言う部分もある。

 新人トレーナーがいきなり最初のポケモンにそこまでの信頼を預けるのも、最初のポケモンが新人トレーナーをそこまで信頼するのも無理な話なので、あくまで自身は例外と言えるだろう。

 

 まあ何が言いたいかと言えば、この場所にいるようなトレーナーならば今日ようやく正式なトレーナーになったばかりのミツルでも同じくらいの実力で戦えると言うこと。

 

「まあ、当たって砕けろ、その辺の相手にバトル申し込んでみたら?」

「は、はい…………頑張らないと」

 

 緊張した様子で、震える手でボールを確認し、周囲へと視線をさ迷わせ。

 

 同じくきょろきょろと辺りを見渡していた麦藁帽と網とカゴと言う虫取り少年スタイルな幼児と視線が合い。

 

「おい、おまえ! オレとしょーぶだ!」

「はは、はい!」

 

 しどろもどろになりながら頷く。

 

「なんでミツルくん、幼稚園児に弱気になってんの」

「優しい性格なんだよきっと」

「それって優しいって言うの?」

「あ、蝶々」

「なんでいきなりバカになるのさ」

 

 などと言う外野の声も緊張からか聞こえなかったらしく。

 

「サナ、“ハイパーボイス”!」

「あっ」

「えっ」

「は?」

 

 聞こえた声に視線を向ければ、推定レベル3~5のケムッソに、努力値『とくこう』『すばやさ』極振りのレベル100のサーナイト(NNサナ)が先手を取って全力の“ハイパーボイス”をかましていた。

 

 音が弾ける、と言う言葉で表現するならまさしく今目の前の光景のようなことを言うのだろう。

 ケムッソが軽く十メートルくらい吹き飛び、後方に生えていた木に激突して、ずるり、と落ち目を回す。

「……………………ハルくん?」

「あっ……………………あの二匹は禁止って言い忘れてた」

 自身が遊びとは言え初めて師と名乗った時に捕まえた二匹のポケモンの片割れ、ラルトス、今となってはサーナイトのサナ。捕まえてから二年近くもずっと自身のポケモン相手にバトルさせていたのである。

 その辺の新人トレーナーの相手させればこうなるのは分かっていた。

 だから旅に出ると決めた直前に渡した努力値だけ振らせた低レベルの個体が一匹いるのだが、二匹は禁止と言い忘れたせいで、普通に使ってしまったらしい。

 ミツルもミツルで、平時バトルするのが自身か父さん、テレビとかでもバトルを見てもそれは基本ホウエンリーグ等のエリートトレーナーたちのバトル。

 

 今の自分の実力が、実戦経験以外はその辺のエリートトレーナーよりよっぽど高いと言う事実に気づかなかったらしい。

 らしい、と言うか自身も忘れていた。

 

「あー…………どうしようこれ」

 

 視線の先には目を回し動かなくなったケムッソ、そして呆然とした表情で動かない幼児。

 そして顔を青ざめさせたミツルと、困惑した様子のサーナイト。

 

「あ、蝶々」

 

 困って視線を向けると、ひらひらと舞うアゲハントとそれを観察しようとカメラを構えるハルカ。

 

「初日から面倒くさ」

 

 ため息一つ、思わず呟いた。

 

 

 * * *

 

 

「………………………………」

 ミシロタウン入り口。周囲を森とポケモン避けの柵に囲まれているが故に、コトキタウンに繋がるこの場所がミシロタウン唯一出入り口と言っても過言ではないだろう。

 そしてその場に立ち尽くす少女が一人。

「………………………………」

 艶やかな黒のサイドテールが特徴の少女。慌てていたのか、かけた眼鏡がずれ、髪と対象的な白いシャツと紺のハーフパンツに黒の靴下と靴。

「置いて…………行かれた」

 どさり、と少女が膝から崩れ落ちる。同時、斜めがけの黒の鞄がずしり、と地面に落ちる。

 マルチナビを起動し、時間を見る…………時刻は午前八時十五分。

 集合時間は…………八時。

 

「…………マルチナビの時計がずれてるとか…………そんなの無いわよ」

 

 ミシロタウンからコトキタウンへのマップはある。

 今から走れば、普通に考えれば徒歩の彼らと合流できる…………はずだが。

 

「…………い、行けるわよね」

 

 震え声の呟きに、腰に下げた自身の相棒の入ったボールがガタガタと激しく揺れる。

 

 その様子を言葉にするならば。

 

『ヤメロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』

 

 と叫んでいるようにも見えるが、少女は気にしない…………気にしなかった。

 愕然としていて、絶望感に浸っていて、気づけなかった。

 端的に言えば、焦っていたのだ。

 

 だから、無謀にも彼女は踏み出したのだ。

 

 ミシロを出て、一歩目からして、何故森へ向かうのか。

 

 仕方がないではないか…………少女は極度の方向音痴なのだ。

 

 少女が先に行ってしまった少年たちと出会えるかどうか。

 

 まさしく、神のみぞ知る、であった。

 

 

 

 




四章一話目から迷子発生。

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