ポケットモンスタードールズ   作:水代

98 / 254
魔境トウカシティジム

 ルールは二対二のシングルバトル。

 それ以外にルールは無い。

 

 師匠からの許可は出ているし…………ここは。

 

「行って、サナ」

 

 ボールを投げる。

 出てきたのはサーナイトのサナ。

 自身の最初の相棒。

 そして相手がボールを投げ、出てきたのは。

 

「オォォォォォォォオォォォォ!」

 

 白く長細い胴が特徴のポケモン、マッスグマ。

 トウカシティジムは『ノーマル』タイプのジムだし、マッスグマの進化前のジグザグマはホウエン地方の全域で見かけることのできるメジャーなポケモンだ。故に選出候補としては真っ先に挙げられていたポケモンであり。

 

「注意するべきは“はらだいこ”…………一気に『こうげき』を上げられるから。下手すればただの“でんこうせっか”でも必殺の一撃となりかねない…………だったよね」

 

 互いに最初の一手。

 

「サナ“サイコキネシス”」

「マッスグマ“はらだいこ”」

 

 届いた指示に、互いのポケモンが動き出し。

 

 そして。

 

 

 * * *

 

 

「ふひっ」

 

 “じしん”

 

「ふあひゃひゃひゃ」

 

 “どくづき”

 

「ひゃははははははきゃっはははははははは!!!」

 

 “ストーンエッジ”

 

「ひひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! ひひひひ、キャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ!!」

 

 “ファントムキラー”

 

 揺らし(じしん)突き刺し(どくづき)打ち上げ(ストーンエッジ)切り裂く(ファントムキラー)

 解き放たれた暴威が笑い、哂い、嗤う。

 狂ったように嗤い声を挙げながら、倒されては出てくる敵を沈め、沈め、沈め、沈め、沈め、沈め続ける。

 

 百体勝ち抜きシングル。

 

 それがセンリが告げたルール。

 文字通りの二対百。

 それでも。

 

(のろ)い」

 攻撃されるより先に一刀で叩き伏せ。

 

(もろ)い」

 守りを固めた敵をいともたやすく打ち砕き。

 

(ぬる)い」

 放たれた一撃をけれど、片腕で払い。

 

「沈め」

 

 “ファントムキラー”

 

 放たれた片腕が、相手のポケモンを切り裂き、相手のポケモンが気絶する。

 

「うーん…………これは酷い」

 そしてジムトレーナーたちが全員ドン引きしているのを見ながら、思わず呟く。

「……………………誰がここまでやれと」

 隣で見ていた父さんも、顔が引きつっているレベルで酷い。

 勝負にならない、と言うかこれじゃただの蹂躙劇である。

「やっぱ強いな、アース」

 

 6Vの600族と言うのは同じポケモンの中でも一種特別なのは分かっていたが、やはり凄まじい。

 

 アースもこの二年の間、エアとばかり戦っていたので違う相手と戦えてはしゃいでいる。テンション上がり過ぎて、手加減と言う物を完璧に忘れている模様。

 二対百だったはずの戦いは、すでに残り三十を切っている。

「これでは逆効果だな…………よし、残り全員でかかれ」

「おい、パッパ」

「まあ大丈夫だろ、多分」

 大丈夫なら大丈夫で、余計に心が折れるような気もするが。

 

「キキャキャキャキャキャャキャ!!! 良いぜ、全員で来いよ、このまま終わりなんてつまんねーぞ、おいっ!」

 

 壮絶な笑みを浮かべるアースに、トレーナーたちが一瞬気圧され。

 覚悟決めた表情で、残った全員がボールを投げる。

 すでに三十には満たずとも、それでも二十を超えるジムで鍛えられたポケモンたちが一斉にその牙を向け。

 

「キヒャハヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」

 

 アースが狂ったように嗤いながら、手にした琥珀色の石をかざした。

 

「…………あっ」

 

 呟いた時には、すでに時遅かった。

「…………しーらね」

 持ち物変え忘れた責任から全力で視線を逸らしつつ。

「今頃ミツルくんはどうなってるかなあ」

「おい…………おいっ、ハルト?!」

 背後で響く悲鳴や怒号、轟音にさしもの父さんも一言物申そうとして…………。

「…………いや、まあいいか」

「え、いいの?」

 さすがにこれは文句言われても仕方ない、と思っていただけに予想外の一言に反応してしまう。

「去年の冬のジム対抗戦で優勝してから、どうにも増長するジムトレーナーたちが増えてなあ」

「…………ああ」

 そうして出てきた言葉に、思わず納得してしまう。

 二年前から強さに対してさらに真摯になった父さんだったが、それに感化されたようにジムトレーナーたちもメキメキと力をつけ、去年の冬のホウエンジム対抗戦で全戦全勝による文句無しの優勝。しかもまだジムリーダーが交代したばかりのフエンタウンジムとの戦いなど、トウカシティジムトレーナーがフエンタウンジムリーダーを残り一体に追い詰めるところまで行くなど、圧倒的な力の差を見せつけての勝利となった。

 これに触発されかのように各ジムでもさらなる研鑽が行われるようになったとか言う話だが、とにもかくにも現在ホウエン最強のジムと言われれば誰もがトウカシティジムを上げるほどにその強さは別格の物となっている。

 だがまあ人間立場があがれば増長するものだ、父さん曰く、トウカジムシティのジムトレーナーであることがイコールで強いみたいな勘違いをしたトレーナーが増えているらしい。

 

「強いトレーナーほど慢心しないものだ…………何せ、上を見上げれば天井知らずの世界だからな」

 

 ため息一つと共に吐き出した父さんの台詞に、確かに、と苦笑する。

 思い出すのは去年の防衛戦。

 ホウエンチャンピオンとして初めての防衛戦の相手は…………シキである。

 どうやらダイゴはホウエンリーグ自体に不参加だったらしい。まあどうせ今年か来年か、またさらに強くなって挑みに来るのだろう…………勘弁して欲しい。

 ダイゴは自身の知る限り最強のトレーナーだが、シキとて決して侮れない相手だ。

 特に互いのネタが割れている状態だっただけに、戦いは壮絶な殴り合いとなった。

 

 最終的に相手の知らない札…………ギリギリで調整の終わったアースを投入してのギリギリの勝負だった。

 

 シキの持つ伝説、レジギガスも以前よりもさらに強くなっており、一時は負けも覚悟したが、エアが最後の最後でレジギガスを沈め、紙一重で勝利することとなった。

 改めて異能トレーナーの理不尽さを実感させられた勝負だったが、これから挑むことになる伝説たちを考えれば少しでも理不尽に慣れていたほうがマシなのかもしれない、とも思う。

 

「…………終わったか」

 父さんの呟きに、思考の中から戻って来る。

 気づけば静寂がフィールドを包み込んでいた。

 振り返る、そこに立つ一匹の巨大な竜の全身を光が包み込み、途端にそのサイズを縮小していく。

 

 そうして。

 

「あー…………楽しかった」

 

 満足気な表情で呟く、アースにご苦労様と告げながら、ボールへと戻す。

「…………これでこっちは終わりか。ミツル君、どうなっているかな」

 呟いた言葉に、父さんがふっと笑い。

「分かっていてここに連れて来たのだろう」

「…………まあね」

 

 まあ、十中八九。

 

「負けてるだろうね」

 

 

 * * *

 

 

「サナ“サイコキネシス”」

「マッスグマ“はらだいこ”」

 

 届いた指示に、互いのポケモンが動き出し、先手を取ったのはマッスグマ。

 だがこれ自体はミツル自身分かっていた。相手のほうが素早いのは、師匠であるハルトから聞いて知っているから。

 同じくらいのレベルならば、種族のポテンシャルが物を言う。

 そもそもミツルが最初に与えられたラルトスたちだって、別に師匠のようにヒトガタであるわけでも無い、普通の個体なのだから。

 

 それでも“はらだいこ”は『こうげき』を絶大に上げる代わりに体力の半分を失う非常にリスキーな技だ、そこにサナの全力のサイコキネシスを叩きこめば、一気に押し込めるだろう。

 

 そう考えて。

 

 ぽん、ぽん、と自身の腹を叩くマッスグマにつられるように、“サイコキネシス”を撃とうとしていたサーナイトの動きが止まる。

「…………サナ?」

 何故止まったのか、その理由が理解できずにいると、サナもまた腹部に手を当て、ぽんぽん、と叩きだす。

 

 “はらだいこ”

 

 “ついずい”

 

 “はらだいこ”

 

 自身の指示した“サイコキネシス”ではなく、サーナイトと言うポケモンが覚えるはずの無い“はらだいこ”をし始めるサナに、さしものミツルも困惑する。

「サナ“サイコキネシス”!」

 自身の指示にサナもまた応えようとするのだが、目の前で“はらだいこ”をするマッスグマを見ているとどうしても、同じことをしてしまい、技が出せなくなる。

「…………どうして…………いや、待って…………これ、まさか」

 そこに至って、ようやくミツルも原因の特定に行き当たる。

 

「…………トレーナーズスキル」

 

 そして気づいた時には、すでに遅いのだ。

 

「マッスグマ…………“しんそく”」

 

 呟きと共に、放たれた矢のようにマッスグマの体が()()()

 

 “しんそく”

 

 ずどん、と気づいたその時にはマッスグマの体がサーナイトに突き刺さり。

「ァァ…………アァ…………」

 サナが崩れ落ち、動かなくなる。

「…………サナ、ごめん…………ゆっくり休んで」

 サナをボールへと戻し、唇を噛む。

 何もできないままにやられた、そのことが悔しい。

 サナが悪いのではない、自身が…………トレーナーが悪かったのだ。それが理解できるからこそ、歯噛みするし、同時にハルトが何故このジムに限ってサナたちを使っていいのか理解した。

「こうなるって分かってたんだ…………ハルトさん」

 自身のポケモンたちがすでにレベル的には最上位に達していることは分かっている。

 ヒトガタでも無いポケモンならば、レベル100が上限であり、だからこそ、ある意味サナたち二匹は()()されたポケモンだ。

 だがまだ()()はしていない。そのことを自身が理解していなかった。

 

 仮にもチャンピオンに二年も師事してきたのだ、すでに二匹には裏特性すら仕込んである。

 だがそれでもまだ足りない。全く足りない。

 

 言い方はあれだが、まだこの程度なのだ。

 ジムリーダーどころか、ジムトレーナーにすら勝てない程度の実力。

 ポケモンバトルはポケモンとトレーナーの両方が揃って初めて成立する。

 故に、ポケモンだけが()()していても、いつまで経っても()()はしないのだ。

 

 理解する。

 

 理解する。

 

 理解する。

 

 故に。

 

「…………頼むよ、エル」

「ギシャァ…………シュキィ!」

 

 繰り出したのは…………エルレイドのエル。

「マッスグマ!」

「オォォォォォォォオォォォォ!」

 場に出たエルレイドを目指し、トレーナーの指示を受けたマッスグマが再び突撃の態勢を取り。

 このままでは先ほどの二の舞…………故に、故に、故に。

「エル…………キミに全て賭ける。だから、ボクを信じて」

「…………シュキィ!」

 こくり、と頷きマッスグマへ向けて構えを取るエルレイドに、口元を歪め。

 

「行けっ!」

「今だ!」

 

 相手の指示と同時に、こちらも指示を飛ばす。

 “しんそく”は超高速による突進技だ、一々視認でタイミングを計っていては絶対に間に合わない。

 故に相手の指示でタイミングを計る。そして、その速度故に互いの指示が()()()()

 

「ギシャアアアアアアアア!!!」

「オォォォォォォオオォォォォ!」

 

 “とっこうせいしん”

 

 “しんそく”

 

 エルが体を捻り、回転をつける。

 その脇を全身からぶつかるようにマッスグマが突撃してきて。

 

 “げいげきたいせい”

 

 振り下ろしたエルの肘打ちが、ジャストタイミングで突撃してくるマッスグマを捉え、その身体を撃ち落とす。

「オオオォォォォ?!!」

 突撃しようと跳ねた中空で撃ち落とされ、マッスグマが勢い良く地面を転がって行き…………やがて止まる。

 そしてその瞬間にはエルはすでに走り出している。

 

「エル!!! “インファイトォォ”」

「シャアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 “インファイト”

 

 走った勢いのままにマッスグマとの間を詰めたエルの拳がマッスグマへと突き刺さり、その体をフィールドの端まで吹き飛ばす。

「ォォ…………オ…………」

 ぐったりと、力無く倒れたマッスグマ。完全に『ひんし』であると、理解し。

「…………やった?」

 ほとんど思いつきのような指示。けれどそれが功を奏したと言う事実を理解して。

「…………わあ」

 相手トレーナーが驚いたように目を丸くしていた。

「…………交代だ、サオリ」

 マッスグマをボールに戻した女性のトレーナーが後ろ方来た男性のトレーナーと交代し。

「さて、次は俺だ…………行け、ザングース!」

「ガラアアアアアア!!!」

 投げられたボールから出てきたのは白と赤の毛並みのポケモン、ザングース。

「エル! “サイコカッター”」

「ザングース、“まもる”」

 “インファイト”は強力だが、自身の『ぼうぎょ』と『とくぼう』を下げてしまう。使うならばここぞ、と言う時だろう。その点で言えば“サイコカッター”は優秀だ。急所に当てやすく、威力も高い。弱点タイプを突けないが様子見としては申し分無い。

 だがエルの“サイコカッター”はザングースの前面に展開された透明な障壁によって防がれ。

 

「“まもる”は連発できない、チャンスだよ、エル! “インファイト”」

「ザングース…………“みがわり”」

 

 ここで一気に畳みかける、そう考え指示した必殺の一撃を、けれどザングースはHPを消耗し、みがわりを作り出し、作りだされた分身をエルの一撃が破壊し、分身が消え去る。

「…………“まもる”と…………“みがわり”?」

 両方とも相手の技を透かすための技である。だが攻撃を透かすだけで、それ以上でもそれ以下でも無い。いや、むしろ“みがわり”は自身のHPを消耗するので、この組み合わせはデメリットが大きい。

 

「エル! “サイコカッター”」

「ザングース“まもる”」

 

 またもエルの攻撃が防がれる。

 一手様子を見るか、一瞬そんな考えが浮かび。

 

「ザングース…………“フェイント”」

 

 突如ザングースがエルへ接近し、片方の拳を振り上げる。

 振り上げられた拳に、思わず防御姿勢を取ったエルに、ピタリと拳を止めて反対の拳で下から抉り込むように殴る。

「シャアアアッ」

 咄嗟に首を捻り、衝撃を殺したためそれほどダメージは無いようだったが、エルが顔を歪め。

 

 “かんせんげん”

 

 直後、目を見開き、膝から崩れ落ちる。

 

「…………エルっ?!」

 

 突如起きた目の前の光景に理解が追いつかないままに。

 

「シャア…………シュキィ…………」

 

 苦痛に顔を歪めならがも、何とか立ち上がろうとするエルだったが、けれどふっと、全身から力が抜けたかと思えば。

 

「…………エル」

 

 けれどエルは答えなかった。

 

 

 

 




ポケモントレーナー ミツル



サナ(サーナイト) 特性:シンクロ 持ち物:無し
わざ:ハイパーボイス、サイコキネシス、めいそう、こごえるかぜ

裏特性:????
????



エル(エルレイド) 特性:せいぎのこころ 持ち物:無し
わざ:サイコカッター、インファイト、ストーンエッジ、みちづれ

裏特性:????
????

専用トレーナーズスキル(A):げいげきたいせい
ターン開始時相手の攻撃技を一つ指定する。相手がそのターン、指定した技を使用した時、相手の技を無効化し、次に出す攻撃技の威力を二倍にする。自身の技の優先度を-7に変更する。相手の技が攻撃技以外だった時や相手の攻撃が失敗した時は自身の攻撃技も失敗する。



ヴァイト(????) 特性:???? 持ち物:????
わざ:????






そしてこちらが今回使い捨てキャラのために(10分くらいで)作った二体。


マッスグマ 特性:はやあし 持ち物:いのちのたま
わざ:はらだいこ、しんそく、まもる、かぎわける

裏特性:とっこうせいしん
同じ技を使う度に威力を1.2倍にする。

専用トレーナーズスキル:ついずい
相手より先に行動した時、相手に自身が先に出した技と同じ技を使用させる(相手のポケモンが覚えない技でも使用できる)。



ザングース 特性:どくぼうそう 持ち物:どくどくだま
わざ:フェイント、からげんき、まもる、みがわり

裏特性:めんえきたいしつ
『どく』『もうどく』のダメージを無視する。『どく』『もうどく』状態の時、『すばやさ』ランクが1段階上昇する。

専用トレーナーズスキル:かんせんげん
相手を直接攻撃する技が命中した時、自身が『どく』『もうどく』ならば、相手を自身と同じ状態異常にする(『もうどく』のターンカウントも引き継ぐ)。『もうどく』のターンカウント数を2倍にする。




ジムリーダーと闘う前から、これを倒さなければならないトウカジムの魔境具合(
そして彼らは再び出てくることは無いだろう…………そんな尺はもうねえ!!!(そんなー


ところでミツルくん、即興で専用トレーナーズスキル作るとかどうなってんの(

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。