メダロット2 ~カブトVersion~ 作:鞍馬山のカブトムシ
波にゆらゆら五時間、天領一家の居る部屋からでもメダロッ島の島影が見えた。
メダロッ島はシーズン毎に客を分けていて、天領家が選んだ夏休み第一シーズンでは、スタッフを含む総勢一二万人もの大衆が、最小二日から最長一週間メダロッ島に滞在する。夏休みのシーズンでは、外国人のゲストを招いた大規模なメダロットの大会を開催するので、毎年、十万人超えは当たり前。
シャーク号が港に着くまで、子供たちはメダロットとともに甲鈑や船内を探索し、親はのんびりと船室で寛いだ。一時間ほど前から小雨が振り出さしたので、イッキは携帯ゲーム機に興じ、金衛門は瞑想に耽り、メタビーはイッキの漫画を読み、チドリは小雨が降る四十分ぐらい前から仮眠していた。
そうして時間を潰していたら、船内アナウンスが後二十分で船は港に着くと放送した。
チドリはむっくりと起き上がり、船室内の洗面付きトイレで洗顔した。チドリはイッキに下船の支度をするよう伝え、自身は身近な物をバッグにまとめた。
ぽー! ぽー!
シャーク号は出港するときと同じく、二回汽笛を模した機械音を鳴らし、船内アナウンスが残り五分で港に着くことを告げる。
天領一家に甘酒親娘は下船口近くのカフェで荷物を置いて待機していた。
体感からして船が止まるのに気づく、イッキは何となく外を見やる。中世ヨーロッパの城下町城門を思わせる作りのメダロッ島遊園地入場口が聳え立っていた。
チドリは目覚めのコーヒー代金の支払いを手早く済ませ、天領一家は一拍遅れて甘酒親子の背を追う。船上からでも、既に膨大な人間が港やメダロッ島で動き回る姿が確認できる。
イッキたちが泊まる予定のホテルは、港から海沿いを歩いて二時間ほどのところにある。歩くには遠いので、各施設から送迎用バスが送られる。
混雑した中ではぐれぬよう、チドリとイッキは互いの手をしっかりと握り合った。移動の邪魔になるかもしれないので、メタビーと金衛門はメダロッチに収納、おかげでイッキはメタビーに割り当てた荷物を持つことになり、重いから早く送迎バスに乗れることを願った。
「メダロッ島タカサゴホテルお泊りのお客様の方々はいらっしゃいませんか? タカサゴホテル送迎バスはこちらです!」
四十代の男性が人混みの中、ざわめきと各施設の添乗員に負けぬぐらい大声を張り上げていた。
二組の親子は群衆を掻き分けて、送迎バス停まで何とか行けた。急ぎ、大荷物だけをバスに詰め込み、イッキは肩が楽になれた。
二組の親子が乗ってから数分後、添乗員の男性が人数を確かめると、バスは発射した。移動の間、イッキは雑談を交わしつつ、シャーク号と港、そしてバスからの景色を眺めた。
十五分ぐらいで、バスはタカサゴホテルに到着した。タカサゴホテルは四階建ての和洋折衷な建築物。天井は屋根瓦、下は薄い水色と賑やかな点々模様が塗られた近代的なビル。
パパが四月頃から、ついでに甘酒母子の分も予約していたホテル。書入れ時に合わせて、ホテルはシーズン対応の大サービス格安宿泊期間を設けた。本来、一週間の宿泊料は親子二人(メダロットは荷物扱い)で十一万二百円もするが、サービス期間に付き、家族学生割引で六万円である。パパは会社が用意したところで眠るから、ジョウゾウパパの宿泊代については実質ただである。
その分、食事やお土産に宴会で元を取ろうという魂胆がある。
雨が本降りとなり、ホテル前の海辺で遊ぼうにも遊べず、ロボトルもできない。天領一家は三階の305号室、甘酒親子は一つ隔てた307号室。まずは荷物を置いた。外は予報どおりの雨。どうせ濡れるから、イッキはすぐにでも海水パンツを履いて海に行こうとしたが、チドリは波が荒れているので危険だと止めた。
部屋の窓から海を見ると、確かに波は荒れていた。が、船が転覆するほどのものでもない。イッキは波に揺られたかったが、母親とメダロッチ越しから金衛門にも止められてしまい、渋々と引き下がった。。
一室の広さは十四疊の広さがあり、二人と二機で過ごすには十分過ぎる空間だった。
テレビで刑事物ドラマの再放送を見ていたら、メダロッチから転送したブラスも連れて、アリカは天領家の部屋に訪れた。ママはアリカが部屋に入ること喜んで許した。
「イッキ、今暇でしょ? だからさあ、一緒に持ってきた宿題片付けない」
「あら、良いアイデアだわね。アリカちゃん」
ママもアリカの言ったことに賛同した。他にすることが無いので、イッキはアリカと宿題をすることにした。ママは甘酒おばさんに用があると言って、部屋を出た。
イッキが持ってきた宿題は一番嫌いな算数の宿題。夏休みの宿題はこれの他に、社会、国語、日記、歴史などがある。イッキは算数、日記、社会の宿題を持ってきた。アリカは社会と歴史に日記。
アリカの場合、嫌いというより好きな部類の宿題を持ってきた。
金衛門、ブラスが教師役として時に助言を与え、二人の宿題を手伝った。メタビーはイッキの代わりにと、ご親切にもゲームをしてくれていた。イッキはてんで駄目で、完全に金衛門とブラスが教師役となり、アリカに「どっちがマスターか分からないわね」と笑われてしまった。
二日目、昨日のうちにバケツをひっくり返した天気は日本晴れ。九時には早速、メダロッ島遊園地行きのバスに乗った。
イッキ、それとアリカは、この日のために受けられる限りの真剣ロボトルを受けた。目的は実力向上とメダロッ島での限定品を買う為である。
ゴールデンウィーク三日前、メダロット研究所に寄った時、ナエさんから一早く情報をもたらされた。メダロッ島夏休み第一シーズンにて、ヴァルキュリア型メダロットのプリティプライン三十式、人魚型メダロット・ピュアマーメイドの後続機メイティン四十式が、ティンペットと抱合せで計百体が限定販売されるという情報だ。
両機体は今年の一月に新発売されたメダロット。値段は高く、プリティプラインは八万円、メイティンは七万円、それに四万円もする女性型ティンペットも買えば、実際は十二万円と十一万円のお値段が付く。
その両機体が今年の夏休みメダロッ島夏休み第一シーズンにて、七万円と六万円という破格の値段で売られる。
抽選予約は一万名、インターネットで受付中とのこと。自宅に帰るとイッキ、アリカは即行で抽選予約を済ませた。イッキはママとパパにこのことを話した。両親はイッキが二機目のメダロットを持つことを承諾した。メタビーがとうに一家の一員として馴染んでいたのも、両親が承諾した理由だろう。
そんなとき、ゴールデンウィークで金衛門を拾ってしまった。ママとパパは悩んだが、一万名の応募があるので当たる訳がないだろうと思った。
だが、両親の思惑は外れ、何という強運。イッキはメイティンを買える権利が当たり、アリカはプリティプラインだった。今更捨てろと言うわけにもいかず、チドリとジョウゾウはイッキが買うこと許した。
「しょうがなわいね。でも、そろそろ人間の家族が増えてもいいなと思わない」
このとき、ママがパパに対して意味ありげな視線を送り、パパが赤面をして誤魔化すように新聞で顔を隠したのを今でも覚えている。あれはどういう意味なのかな?
開園前だが、昨日以上に混雑を極めていた。今日の一四時から開催する国外ゲストを招いたロボトル大会の席取りを目的とした客が大半だ。
イッキ、アリカは限定商品予約の際にこのロボトル大会の参加申し込みを済ませておいた。
ゲストの権利として、一枚無料観戦チケットが進呈される。そのため、チドリと甘酒母親の表情は余裕だ。
イッキがチドリの顔を見上げる。
「ねぇ、ママ。大会まで自由に動いていい?」
「そうねぇ。アリカちゃんと一緒なら構わないわ」
アリカもイッキと同じように母親の顔を見た。
「母さん、私も大会が始まるまでは自由に動いていいでしょ?」
「イッキ君と一緒ならね」
二人の親の承諾を得て、イッキとアリカは改札口はくぐると、まずは一直線に売店を目指した。人を掻い潜り、押しのけられながら、目的の売店に辿り着こうとしたそのとき、ヘイユーと何者かが二人を呼び止めた。
他の誰かを呼び止めたのだろうと思い、先を急ごうとしたが、またしてもヘイユーと叫んだ。
「一体誰なんだよ? 姿を表したらどうなんだ」
イッキの要望に答え、謝りながら混雑を掻い潜る人影。
一見、西部劇の黒服を着た悪者ガンマンのような格好をした、キリリとしたブラウン色の太いゲジ眉、妙に睫毛が伸びたぱっちりお目目、スポーツ刈りで、口回りをどっかの泥棒みたいに髭を生やした、三十代ぐらいの外国人がイッキとアリカの前に立ち塞がった。
「そこのアナタ! 時間は取らせないから、ちょいとミーとロボトルするねえん! ワタシ、テキーラだよ!」
「あの、何を言っているのですか? 今、急いでいるのですけど」
年上なので、イッキはそれなりに丁寧な話し方をしたが、相手は聞く耳をもたなかった。
「ノンノン! マンの言葉に二言は無い! これ、武士道の精神。てなわけで、カモーン!」
テキーラという男性はイッキとアリカに見せるように掲げたメダロッチから、メダロットを転送した。テキーラのメダロッチから転送されたメダロットは、見たことが無い。両腕は回転式の機関銃、脚部は四本の植物の根っこの先に車輪が付いていて、頭はサボテンにカウボーイハットを被せたような、主に緑の配色で染められたメダロットだ。
イッキが何か言おうとする前に、謎の男テキーラが先んじて二体のメダロットに指令を出した。
「イックワヨー! トゲトゲアターっク!!」
テキーラが命じるまま、二体の謎のメダロットは右腕のガトリングを乱射した。地面を抉る弾丸が土埃を発生させて、イッキとアリカはむせた。
「いったーい! 危ないじゃないの!」
「アグリィガールはお黙りなさい!」
「アグリィガールって何?」
アリカがブラスにアグリィの意味を尋ねた。ブラスは素知らぬふりをした。本当は意味を知っているが、それを言ったらアリカがどういう行動に出るのか測りかねるので、あえて口に出さない。
uglyとは、醜いやブスという意味の英単語である。アリカがイッキの背中を押した。
「やっちゃいなさいイッキ!」
「え! そんなぁ」
「ナニヲごちゃごちゃと! メダロット、ヒューマンにダメージ与えることしないね! だから、どんどん安心して喰らいなさい!」
今度は左腕のガトリングが土埃を立てた。周囲は危ないぞ、他所でやれと文句を言いつつ、血気盛んに暴れるお姉口調の気味悪い外国人を止めようとする者はいなかった。
メダロッチからメタビーと金衛門が声を発した。
「イッキ、俺と金衛門を出せ! あの馬鹿、どう聞いても話しが通じるようなたまじゃない」
「メタビーの言うとおりだ」
仕方なく、イッキはメタビーと金衛門を転送した。テキーラが不敵に微笑む。
「ウフフフ……。私のワンダフルでエキセントリックな技を浴びる覚悟はできたようね、アミーゴ!」
「出来てないよ。しかも、アミーゴって」
テキーラはさらりと受け流した。
「ウフフ! これで、止めヨ! ローリング・トゲトゲ・ボンバー!!」
「無茶苦茶だあー!」ツッコミで返すイッキ。
胸部の銃砲も開口したテキーラのメダロット。応戦の構えを取るメタビーと金衛門。
「こらー! やめなさい!!」
この騒動を仲介にしきたセレクト隊員。全ては、同時に起こったことだった。テキーラがホワイと呟き振り返り、二体のメダロットも振り返った。どうやら、テキーラのメダロットはテキーラと同じ行動を取る、一心同体なのかもしれない。イッキもセレクト隊員を見た。だが、メタビーと金衛門はもう攻撃の手を止められなかった。
一体のメダロットはサボテン頭をリボルバーで一発。一体は金衛門の左ストレートで顔面を殴られ、二体は同時に機能停止した。
全ては一瞬の出来事だったので、当事者たちには何がなんだか理解不能だった。
たった一つ理解できるのは、形はどうあれ、イッキのメダロットがテキーラのメダロット二体に打ち勝ったのだ。
「ほら、これ以上、面倒事に巻き込まれちゃかなわないわ」
アリカがイッキの腕を掴んで人混みに紛れた。テキーラはショックで立ち尽くしていた。現場に駆け付けたセレクト隊員がテキーラを羽交い締めにした。
「こら! こんな場所で騒ぎを起こすなどけしからん奴であります。設営支部まで一時連行するであります」
そして、二体のセレクト隊御用達の恐竜型メダロット、ティラノザウルス型アタックティラノとプテラノドン型エアプテラが二体の機能停止したメダロットを回収した。と、テキーラはもがきながら吠えた。
「大会場で待っているわ!」
「さっさとこい」
群集の隙間から、テキーラが羽交い締めのまま引き摺られていく姿を見届けた。トラブルや余計な証言を避ける為、二人は二十分程度売店から離れた。売店近くのゲームセンターに入り、百円でゾンビを撃つシューティングをプレイ。それから、ゲームセンター内を適当にうろつき、売店へと向かった。
こちらは外ほどではないが、係員が客を整列させていた。二人は引換券を見せて、列に並んだ。どうやら、自分たちが最後尾らしかった。主に若者やファミリーを中心に、プリティプラインとメイティンのパーツが入った箱、ティンペットBOX、メダルの三点セットを持って店から出てくる。胸が高鳴ってきた。三人目にして、最後の仲間を迎えられる。
メイティン一式を買うために、戦利品であるパーツの多くを切り売りするのは惜しまれたが、その惜しさも目的を目前にして消えた。
前に並ぶアリカがパーツ、ティンペット、メダルの三点セットを先に購入。自分も引換券とお金を渡し、さあ、ご対面。そのはずだったが、世の中そうそうイッキの思い通りにはならなかった。
女性店員が非常に済まなそうな顔で言った。
「誠に申し訳ございません。さきほどの方でメダルは品切れとなりました。次回までの入荷は未定となっております」
「そんなぁ。パーツやティンペットも? メダルも一緒じゃないの」
「いえ、パーツやティンペットはお売りいたします。ですが、メダルは別売りとなっておりまして」
「えー! 普通、そういうのも一緒に渡す物じゃないの」
アリカがイッキの肩に手を添えた。言わずとも、今は無用なトラブルを避けろと言いたいのが分かった。イッキは渋々、大人しくメイティンのパーツとティンペットだけを受け取った。
アリカは嬉しげにシノビをメダルを陽にかざしたが、イッキは溜め息をついた。折角入手しても、メダルが無ければただの人形。動いて会話できてこそ意味があり、そうでなければ意味が無い。かと言って、このまま手放すこともできない。
メダロッチの時計を見た。十時中頃を指していた。こうなれば、僕ができることは一つしかない。
「何がなんでも入賞しなきゃね。確かベスト4に入れば、メダル、パーツ一式、ティンペットのどれか一つを貰えるんだよね」
アリカはイッキの思考を読み取った。イッキは一応聞いてみた。
「勝たせてくれるの?」
「まっさかー!前は負けてあげたけど、今度は手抜きなしよ。優勝はこの私とブラスと……えーっと、何て呼べばいいかな?」
「どこか落ち着ける場所で組み立てから、名前を決めましょ」とメダロッチからブラス。
「そうね。というわけでイッキ。大会の間はライバル同士よ」
そう言って、アリカは何処へと去っていった。残されたイッキはただ一人、途方に暮れた。なんだかなあ。まっ、愚痴を言ってももう手遅れか。こうなれば、やるだけってみるしかないよなぁ。やるのは、メダロットたちのほうだけど。イッキは俯いまま言った。
「メタビー、金衛門。頼んだよ」
メダロット関連の大会を行う場所は、外観は東京ドームそっくりだった。
受付で身分を証明して、選手控え室に入った。控え室内は、黄色人種、黒人、白色人種と、人種の
反面、コウジやスクリューズのイワノイ、カガミヤマとは大分離れており、幸か不幸か、アリカの一回戦の対戦相手はコウジだった。キクヒメとは、キクヒメと自分が勝てた場合の話だが、二回戦で当たることになる。コウジとは準決勝で相見えることになりそうだ。
ドームスピーカーが、天領イッキと純米カリンの出場を告げた。