メダロット2 ~カブトVersion~   作:鞍馬山のカブトムシ

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12.メダロッ島(二日目)

 簡素なコンクリートで固められた選手入出用の道を抜けて、大会場闘技台へイッキは大観衆の視線にその身をさらした。観客席の照明は仄か、逆に舞台の照明は眩しかった。

 少し遅れて、カリンも闘技台反対方向へと回り、おしゃまなお辞儀をした。ふわりと、絹めいた髪とスカートが緩やかに翻る。カチコチに固まったイッキは、意外にも物怖じしないカリンちゃんの態度に、賞賛と軽い嫉妬のようなものを覚えた。

 イッキも首と背を小さく曲げた。

 

「船以来のご対面になりますわね。私、ロボトルに自信はありませんが、精一杯頑張ります。よろしくお願いします、イッキさん」

 

 イッキは返事に困り果てた。緊張していて、しかも、可愛いらしい女の子に一体どう接したものかと迷った。ミスター・うるちが北の通路から姿を現し、観衆と選手に深々と腰を折り、お決まりの前口上を述べた。

 と、カリンが何か思い付いたのか。ポンと右手で広げた左の手の平を叩き、ミスター・うるちに来るよう手招きした。カリンはうるちの耳元で何事かと囁き、観衆にイッキも少女と審判の動向に注目した。

 

「えー。ただ今、純米カリン選手からイッキ選手への提案で真剣ロボトルが要望されました。イッキ選手が拒否する場合、直ちに試合は賭け無しの大会ルールに乗っ取った真剣ロボトルが行われます。イッキ選手、パーツを賭けた真剣ロボトルを受諾しますか?」

 

「カ、カリンちゃん! どうして?」

 イッキは当然の疑問をぶつけた。カリンはイッキを見据えて言った。カリンの目には、いつもとは異なる強い意志が見て取れた。

 

「……実は私。コウジさんや仲の良い友達となら遊び程度のロボトルをしたことならありますけど、まだ、一度も真剣ロボトルをしたことが無いのです。いえ……本当はパーツを取られることよりも、ナースちゃんたちが傷付く様を見たくないがために、これまで避けてきたのです。ですが、この前の事件に、イッキさんやコウジさんの戦いぶりを見て、私も一度は全力を持ってロボトルを経験してみたくなったのです。手前勝手な頼みとは承知しておりますが、どうか私の挑戦を受けてくれませんか? イッキさん」

 

 即断ろうとしたが、カリンちゃんの潤ませた真剣な眼を見たら、二の足を踏んでしまい。結局、ミスター・うるちに了承の意を伝えた。

 

「それでは、メダロッ島ロボトル大会第一回戦第一試合! ロボトルファーイトォ!!」

 

 イッキはメタビーを転送、カリンはプリティプライン…それとも、プリティプラインのパーツを付けたセントナースと表せばいいのだろうか。

 

「……カリンちゃん……それは?」

「ナースちゃんです。本当はもう一体、シルビアという子がいるのですが。ナースちゃんと比べたら、まだ経験不足なので、シルビアのパーツをナースちゃんに装着したのです」

 

 ともかく、二人と二機は試合を始めた。ナースの鞭のようにしなる電流を帯びたソード攻撃を、メタビーは難なく回避。ナースは動きがなってなく、真剣ロボトル経験が無いのは本当のようだ。カリンに嫌われたくないと思ったイッキは、メタビーに出来る限り手を抜くよう指示した。

 ものの数分間、追って追われるの試合展開が続き。始めは応援していた観客も、真面目にやれという声がちらほら聞こえてきた。

 仕方なく、イッキはリボルバーで適当に攻撃するよう言った。

 パアン! メタビーの力無い弾丸が、左腕の盾に僅かな跡をつける。

 

「つっまんねぇの」

 

 メタビーが愚痴る。

 

「お待ちください!」

 

 カリンが祈る形で両手を握り、叫んだ。そして、薄らと涙目を浮かべた。なんだよ、なんだよ。あの子、びびっちゃったのかな。こりゃ、次の試合まで待つか。観客席から露骨に不満気な声が漏れ、闘技台の選手たちの耳にもしかと届いた。

 

「イッキ、手加減しようという気持ちは分かるけどさぁ。ここは、全力でたたきつぶそうぜ」

 

 メタビーの二度目の文句。焦るイッキに観衆を物ともせず、カリンはイッキに訴えかけた。

 

「イッキさん! ……私が最初に言ったことを覚えていますか? 私は、真剣ロボトルを要望し、あなたは確かに了承してくれました。しかし、何なのですか。これは!? イッキさんほどの実力をお持ちの方からすれば、私が全力でお相手するには力不足だとは承知しています。ですが、それらを承知の上で、私のナースちゃんと戦ってくれることをあなたは承ってくれました……。短い時間とはいえ、私が前にコウジさんとのロボトルで見せた、イッキさんとメタビーちゃんの実力はこんなものでは無いはずです。不承を承知でお願いします。イッキさん、どうか私と真剣にロボトルをしてください!」

 

 切々と、無垢で力強い可憐な少女の訴えかけに戸惑うイッキ。不満を漏らした観衆もざわめきながら、少女の声に耳を傾けていた。

 イッキは二度頬を張り、深呼吸すると、決然とした表情を浮かべてミスター・うるちに一声かけた。

 

「審判員さん。試合中断してご免なさい。これから、戦闘開始します」

 

 事態をどう収集したものかと本部と相談していたうるちは、先ほどとは一変したイッキの表情を見て、本部にはもう大丈夫ですと答え、高々と試合続行を告げた。

 

「細かな指示は僕に任せて。メタビーは、自分が思ったとおりの全力アタックをしろ!」

 メタビーは意気揚々に「よっしゃ!」と応えた。

 

 本気を出したメタビーの前に、ナースの攻撃など掠りもしなかった。わざと隙を見せて、切りかかってきたナースの軸足を引っ掛けて転ばし、メタビーはサブマシンガンを至近距離から発射した。

 さしものプリティプラインの盾も、耐え切れず砕け散った。リボルバーでソードも折られてしまい、ナースは丸腰となった。メタビーがしっかりと頭部に銃口を向ける。

 会場一帯は、少女がどう判断をくだすか注目していた。

 カリンは挙手し、審判に降参の意を伝えた。ミスター・うるちがイッキとロクショウの勝利を告げた。

 

「やはりお強いですね。イッキさんとメタビーちゃん。では、約束通り」

 

 カリンはメダロッチから予備用のプリティプラインの右腕を、にっこりと微笑みながらイッキに渡した。こうして間近で見ると、やっぱりカリンちゃんは可愛かった。

 イッキは赤らめた頬を掻き、躊躇いがちにパーツを受け取った。

 会場から、青春の熱く青臭い試合を見せてくれた二人にささやかな拍手が送られた。

 

 

 

 一悶着あるかなと身構えたが、意外にもコウジはイッキを咎めたりしなかった。

 

「カリンがあんなに積極的にロボトルしようとするなんて初めて見るぜ。しかし、その相手がお前だとはな……。まっ! 準決勝で会おうぜ!」

 

 キクヒメの一回戦対戦相手は、ショーチュー王国という聞いたこともないような小国の王族。キール王子が相手だった。

 キール王子は中東風の顔立ちで、インドの貴族っぽい服を着ていた。まだ幼く、イッキより二つ年下だった。頭の金でできた冠が、見る者に彼を、王子様に見えないことも無いと思わせた。

 対戦結果だが、試合は一分以内にキクヒメがキール王子の愛機の一機、マッドマッスルに勝利。そのまま次の試合へ……と、ミスター・うるちは進めたいところであったが、キール王子は激しく喚いた。

 

「!!!#$?+KP〜:*=|(%GBI&…ギィ」

 

 ショーチュー王国独特の言語でキール王子は喚き、泣き、怒った。通訳の日本人男性も同じく、「お…王子様落ち着いてください! トラトラトラ、ミハラヤマノボレ。ウンヌンカンヌン。パラポロピレ、カクカクシカジカ」と難解な言語で王子を懸命に慰めた。

 ここでSPが登場し、通訳とSPが二人がかりでキール王子を連れていった。 

 一回戦に続いて二回戦もこの有様。観客に運営担当者たちは、先行きを心配した。だが、その後、第一試合と第二試合以外は滞りなく試合が進められた。

 後半戦。アリカ対コウジ。イッキはできればアリカの勝利を願った。任せなさい!アリカは無い胸をどんと叩いた。三分後、アリカは笑顔で控え室に帰ってきた。イッキはアリカの琴線に触れぬよう聞いた。アリカは晴れ晴れとした顔で「完敗した」と即答。

 

「じゃ。私、応援席に居る母さんとチドリおばさんの所に行くわ」

 

 二十分の休憩を挟み、二回戦第一試合。イッキ&メタビーチームVSキクヒメ&セリーニャの対戦。

 今まで辛酸を舐めさせられたが。今度こそはキクヒメとセリーニャに打ち勝つぞと、イッキとメタビーは燃えた。

 右腕のパーツを残しておいたチャーリーベアの物に替えて、二人は試合に臨んだ。

 

「はっはーん! 広範囲の重力波射撃でセリーニャを撃ち落とそうってわけね。甘い、甘い。あんたのカブトムシの射撃の腕前じゃ。どうせ、当たりゃしないわ!」

 

 イッキとメタビーは何も言わなかった。サブマシンガンや反応弾はまだ無理だが、重力系の攻撃ならば、命中させる自信が今ならある。

 ペッパーキャットのセリーニャが、電流を爆ぜさせた両腕で殴りかかってきた。メタビーは、サブマシンガンでセリーニャを懸命に避けた。

 一転、二転!セリーニャの華麗なバック転。セリーニャは勢いをつけて回転跳躍。そこを、右腕の溜めておいたエネルギー弾を放射した。

 セリーニャは弾かれ、回転したまま地面に叩きつけられた。メタビー反応弾発射! 二発のミサイルはまともにセリーニャに命中した。

 キクヒメの多少の油断。トリッキーなセリーニャの数少ない隙ある行動パターン。以前記録していた戦闘パターン例と、ヘッドシザースほどではないにしろ、最大限まで高めたロックオン機能でセリーニャの動きをメタビーは捉えていた。

 あんぐりと口を開いたキクヒメを残し、イッキとメタビーは控え室に戻った。戻るさながら、イッキとメタビーは手をハイタッチさせた。遂に因縁の相手、スクリューズのキクヒメとセリーニャに実力で勝てた。

 

 

 

「メタビーは二戦連続出たし。次こそは、私が出場する番ですな」

 

 金衛門も試合に出たいようだ。メタビーも大量のエネルギーを使った訳ではないが、後を考慮をして、ここは金衛門を出すことにした。

 三回戦前。相手選手のほうからイッキに会いに来た。

 

「ハアィ! ご機嫌いがが、リトルボーイ」

 

 お腹回りと僅かに胸元が露出した白いタンクトップ、ハサミでちょんぎったかのような太腿の辺りまでしかない短いジーンズ、ボサボサの頭をポニーテールにまとめ、顔を覆うように横幅に拡がった黒いアップラウンドのサングラスを付けた。ボン、キュッ、ボンという表現がよく似合う。グラマラスな黒人美女がイッキに話しかけた。

 イッキは思わず視線を逸らしてしまった。相手と視線を合わせたがらない日本人特有の行動ではなく、目のやり場に困ったからだ。

 

「あら、緊張しているのアナタ? 私、ブラジル生まれのシャンデーね。次のアナタのお相手よ」

 

 イッキはお茶濁しな挨拶を返した。それにしても、色っぽくて野性的だ。同じ大人のお姉さんでも、ナエが社交界の貴婦人だとすれば、シャンデーは都会の荒波を豪快に乗り切る気丈な女性といった感じ。

 あらあら、この子も。意味ありげに笑い、シャンデーは去ろうとした。立ち去ろうとするシャンデーに、イッキは震えるも力の篭もった声で言った。

 

「あの、僕、負ける気はありませんから!」

 

 イッキの発言に、シャンデーは怪しい(つや)な笑みを浮かべた。

 あら。ふふ……どうやら、一回戦の女や二回戦のスケベ男と違って、このリトルボーイとの対戦は楽しめそうね。

 

 

 

 シャンデーより遅れてイッキも闘技台にきた。使用するメダロットは金衛門。金衛門を使用してのロボトルはまだ数えるほどだが、その実力は確かなものであった。

 シャンデーの愛機は、サフィオと名付けられたスフィンクスをモデルとしたメダロット、キングファラオ。

 転送したデスフェニックス金衛門の頭部だけを、ソニックタンクの物に付け替えた。フェニックスメダルは射撃を若干苦手とするが、全て格闘系だけでは心許ない。

 

「フフフ。キュートなリトルボーイ、お・て・あ・わ・せプリーズ!」

 

 キングファラオが両腕をぶんぶん振り回しながら、空中の金衛門に先制攻撃を仕掛けた。鈍くて重い戦車タイプの脚部のキングファラオの素早い攻撃に、イッキと金衛門は面食らったが冷静に対処し。空振りしたところを、左腕の火炎放射で脚部を焼いたが、表面に僅かな焦げ目をつけただけだ。キングファラオの脚部装甲の厚さは、全メダロットでも指折りもの。如何に強力な攻撃でも、一発や二発じゃこの装甲は崩せない。

 キングファラオのサフィオはもう一回同じ攻撃を仕掛け、金衛門は火炎を浴びせてやった。

 当たらないと判断したシャンデーとサフィオは動くの止めて、重たい脚部を砲台とし、接近行動から遠隔攻撃に切り替えた。

 砲台と化したキングファラオは、三百六十度回転可能な腕、首、胴体を光太郎の飛ぶ方向に合わせて重力波を撃ちまくった。

 金衛門も反撃したいところだが、炎が届く範囲には限度がある。

 一分間、逃げの一手が続いた。イッキはどうしたものかと思考した。キングファラオ並みの威力がある頭のナパーム弾でめくらましをも考えたが、そんな手はあまり通用しそうにないし、一発でキングファラオを落とせる自信が無い。

 

「うぬー! このままでは、いずれ落とされるのも時間の問題だな」

 

 メダロッチからの通信で、金衛門が喋った。いや、めくらまし事態が効かないわけではない。要は使いようだ。その使い方をどうすればいいやら。

 金衛門の装甲では一発喰らうだけでも危ないから、無茶な特攻はできない。

 悩むイッキに、金衛門が通信を送った。

 

「イッキ。こんなときはけちらず、どーんと一発かまそうではないか! あの硬い装甲を一発では落とせないであろうが、活路は開くはず!!」

「一発に賭けるか、めくらましか。よし! こうなったら、やってみるか」

 

 金衛門は多少、重力波を喰らう覚悟で接近した。そうして、キングファラオが止めの頭部ナパームを撃つよりも早く、光太郎は二発のナパームを発射した。

 しかし、急速な勢いで態勢を崩し、二発は全く的外れの方向に着弾。一発は、シャンデーとキングファラオ阻むように硝煙が立ち上った。

 ヴィィィィーン! 会場の喚起装置が作動した。

 

「ノンノン。甘いわね。リトルボーイ。中々エキサイティングだったけど、切り札を無くした以上、アナタの勝ちはノーホープ。サフィオもアナタのトリさんの動きをそろそろロックオンしたよ!」

 

 グボォン!

 何かが炸裂した音。続いて、迫る熱風。シャンデーは金衛門が墜落したと思い、口端を歪めた。だが、メダロッチから愛機であるサフィオの電波が途絶えた。

 

「WHY!?」

 

 硝煙が晴れると、左腕が大破した金衛門がキングファラオの真上を旋回しており、キングファラオの背部のメダル挿入口が開いて、メダルは地面に転がっていた。

 キングファラオの頭は真っ黒に焼け焦げていた。

 イッキと金衛門は必殺のナパーム二発を決めてとして使わず、大胆にも二発ともめくらましに使用した。シャンデーとキングファラオ・サフィオの視界を遮り、一箇所に自身を砲台として固定したサフィオの頭部に火炎を浴びながら、破裂するのも構わず金衛門は上空から左ストレートをぶちかました。

 キングファラオの脚部を破壊するのは到底無理だが、頭部や腕なら別。頭部と腕の耐久値は脚部の半分にも満たない。

 

「第三回戦、ウィナーはイッキと金衛門選手!」

「イッツアグレート! 二発ともめくらまし使うなんて、ワタシでも中々できない。グレイトな大和魂ね、アナタ!」

 

 派手な試合ぶりに会場は大興奮。二人は速やかに控え室へ戻された。

 控え室へ戻るとき、シャンデーはイッキの肩に手を置き、そっとほっぺにキスをした。大人の女性の甘い吐息と情熱的なキス。

 

「素晴らしいファイトを見せてくれた。せめてものプレゼントよ。ジャ、後半戦も頑張ってね。イッキボーイ!」

 

 シャンデーのとびきりのご褒美に、イッキは控え室に戻ることも忘れて、通路でえへらえへらと有頂天になった。次の試合の選手が、流し目で崩れた顔のイッキを見た。

 

「イッキ! ったく。色気に惑わされやがって、ばかやろが!」

「しばし、頭が冷えるまで待つしかあるまい」 

 

 メダロッチに居る二機は、うら若きマスターが早いとこ正気に戻るのを待ちわびた。

 

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