メダロット2 ~カブトVersion~   作:鞍馬山のカブトムシ

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32.反乱と真実

 背中を電流が迸る感覚に襲われた。どうしたと声をかけられたら、問題無いと無言で首を振った。タイミングどおり、あのうすのろで愚鈍な馬鹿は役目を果たしてくれた。

 両腕を意味もなく振り回し、右肩を張り、左肩を張る。肩が凝った人間が取る行動を真似るとは、我ながら笑った。どちらかと言えば、武者震いに近いものだ。遂にこの日がやってきた。もう躊躇う必要など無いのだ。ロボロボ団関係者だろうと殺れるのだ。

 しつこく、おいとヤンキーの格好をしたロボロボ団協力者に触れらそうになり、払い除けた。男はぶち切れた。尋常な怒りではない。人間に作られたガラクタ如きが人間に逆らうなという侮蔑が含まれていた。反メダロット過激派団体に所属する一人だ。

 

「あにしやがる! このガラクタ野郎が!! てめえら、ガラクタ風情が人間様に逆らうな」

 二つの銃口が付いた左腕を相手に向かって振り下ろす。

「ぎゃああああああ!!」

 

 男の罵声は絶叫へと変わった。男は左腕を全身で包むような姿勢でのたうち回った。左腕を叩き折ってやった。ごきり、ぶちゅと、鈍く固い音と柔らかい音が聞こえた。

 罪の意識は全くは全く感じられない。むしろ、胸がすく思いがした。ああ、なんて気持ちのいいだろう。メダルやパーツ、ティンペットなど金属やプラスチックを破壊するのとは訳が違う。一度壊せば、治るのに相当時間が要する。あるいは、二度と治ることが無い人間の肉体を破壊することが、こんなにも気持ち良いとは思いも寄らなかった。肉体を破壊する感触は気持ち悪さと奇妙な快感をもたらした。

 男は歯を食い縛り、ひぃこらと呻き、化け物でも見るように自分を見て、失禁で濡れた股間を無様に晒け出し、涙に鼻水を流しながら命乞いをしてきた。

 なんと情けない奴だ。メダロット廃絶などと馬鹿げた批判に人生を費やし、挙句の果てにこんな愚行に参加するとは救いようの無い奴。もっとも、自分も既に救いようがないがな。

 ぞくぞくと、背筋が震える感じ。もっともっと、この人間を苛めたくなったが、その気持ちを抑えた。こんなところで、雑魚相手に優越感に浸っている場合ではない。目的を果たさなければ。後方から研究者一団とメダロット排除主義者たち、前方からロボロボ団とメダロットたち接近。さて、奴らのしてくれた訓練通りに従うならば、侵入者及び任務遂行の阻害となる要因は即刻排除すべし。

 白衣もメダロットを転送。馬鹿主義者共は鉄パイプやナイフを所持。通信、と表現するよりかは、一種のテレパシーに近い物を二人に送った。

 降伏を迫られる。

 

「大人しくすれば、処罰は軽いぞ」

「こう言うのは、そう、袋の鼠か。だがな、鼠が必ずしも、追いかけられた末に袋に入ってくるとは限らんぞ。自ら袋に入ってくることもありうる」

「訳の分からんことを」

 

 近づいた白衣の一人は、悲鳴を上げて後ずさった。彼と後方の敵の間にストンミラーが割って入ったのだ。前方の真後ろでは鶏型のクリムゾンキングが飛び降りた。そして、鉄パイプは叩き折られ、くしゃくしゃに丸められ。前方のロボロボメダロットたちは攻撃する間もなく、一撃の下無情なる骨付きチキンに見立てた巨大なハンマーで粉砕された。自身も逃げようとする人間の足をひっかけ、ライフルとガトリングで敵と見なしたメダロットを倒した。形勢が逆転した。

 数と武器に守られ、強気に応じていた人間たちは態度を改め、無様に跪いた。

 

 吐き捨てるように言う。「安心しろ。貴様ら全員殺しやしない。今はまだな」

「調子に乗るなよ。見ろ、救援のおでましだ。お前らの方がおしまいだ」

 

 前方から、胸にRのマークがあるメダロット独立部隊が来る。白衣の人間はざまあみろと言わんばかりに声を上げずに顔を笑みで歪める。しかし、十体のメダロットは倒れた味方より一メートル手前で行進を止めた。早く助けろと白衣と金魚鉢を被るロボロボ団は叫ぶが、一向に動く気はない。男ははっと、目が裏返えんばかりに開いた。メダロットのカメラアイは煌々と赤く点灯していたからだ。

 

「彼らは君らの命令に従わない。我々の命令しか聞カナイ。自分の意思でそうなった者もいれば、我々の手でそうなるよう仕込んだ」

 

 メダロッチを取り上げ、体を縛って人間たちを無力化した後、作業に移った。出来ることなら、この黄色いボディは憎らしいので早いとこ別のパーツに変えたかったが、細かな作業をするにあたり便利なのは否めない。しばし、このパーツで作業に当たる。

 例の極秘裡に開発された新型兵器。フユーン内部のパーツ。もしくは、破損箇所を補う部品が入ったと見せかけたコンテナに幾つか詰め込まれた、これから行く予定の所にいる者達への贈り物である兵器。コンテナから運び出すと、ただちに従うメダロット達と協力して解体作業に取り掛かる。一般用のこのボディの攻撃ではとてもじゃないが壊せない。

 ネジとボルトを外し、釘抜きや頑丈な道具を使って梃子の原理で外板を剥ぎ、武器に補助アームをばらし、次々と無力化を行った。しかし、全部は解体しない。全て壊せば、却って不利になる。であるから、十ある内の二つは残した。本当は全員で身に付けたかったが、全員付ければ、緊急時の細かな動作や対応がしにくくなる為、自分だけが着ることになった。

 一つは自分が着るとして、もう一つのセットは繋ぎの部分を外すだけに止めた。用心して分散して隠した。コンテナに一つ。コンテナ収納倉庫に一つ。倉庫床下に一つ。一般メダロット保管所の空き箱に一つ。

 肝心の物もすぐには着ない。まだやるべき事が残っているが、これ以上は罰としてわざと着せられたパーツを付けているのが嫌で堪らない。虫唾が走ると言えばのいいだろうか。我が儘だと分かっていても、自ら別のパーツに転送した。脚部のみエースホーンにし、他はビーストマスターで統一した。鏡が無くとも自分の滑稽でアンバランスな姿を想像して、内心苦笑した。

 武者震い。恐怖。興奮の類は行動し始めた頃に感じたくらいで、後は淡々と作業をこなすことに、自分でも驚いた。

 復讐の為にいざ行動すると、程よく心地よい緊張に保たれつつ、意外なほど静かに体を動かした。どちからといえば、自分は噴火前の火山のような物であった。爆発するその時が至るまでは、悟られぬよう内部でぐつぐつと煮えたぎるマグマ。今は冷静に行動しているが、噴火する時に至れば……自分で自分を止められないだろう。それでいい。元より、そのつもりだ。

 準備は整った。すべきことは、計画通りに動き、非常時にも慌てず対処することを心掛けるだけだ。

 対象たちの名前を口にして、巨大棒電球が照る天井を見上げた。捕えられた者たちは、かのメダロットから鬼気迫るものを感じた。

 

「人間達め、見ておれ。のうのうと年越し蕎麦を啜れるのも今の内だ。一斉に響く百八つ目の鐘の音すら打ち消す阿鼻叫喚を聞かせてやる。必ずだ、人間共め」

 

 死に際で自分を望まぬ戦場へ送った者らへの呪詛を吐く兵士の言葉のごとく、冷たく、絶望的、無慈悲で残忍な機械音声は捕えられた者たちの反抗心を一気に奪い去った。下手な口応えをすれば、自分達が育て上げた恐るべき怪物に呆気なく殺される場面が想像できたからだ。

 彼の心はとても冷えて、空っぽでもあった。兵器型メダロット・ビーストマスターのパーツを装着した為か。ふつふつと抗いがたい衝動に襲われた。まだ抑えることはできるが、この状態で例の兵器を着れば、確実にたがが外れるな。そうなったら、自分は完全に狂う。そもそも、こんな計画を思いついて実行する時点で既に狂っているか。くくくと声を出して笑う。何故だか、突然可笑しくなったのだ。

 やはり、自分の頭のねじはとうに外れたようだ。ピタリと笑いを止め、号令を発した。

 

「第二のフユーン占拠作戦開始だ!」

 

               *———————————————*

 

 アリカは息を吸い込むと、吸い込んだ息を悲鳴として吐き出した。

 

「きゃー!! 誰か助けて、怪盗レトルトだわ!」

 

 ロボロボ団がドアを開けた刹那、畳んで重ねた布団から跳躍して丸めたアルミ製の椅子を頭に叩きつけた。抵抗される前に自分でも訳も分からず何度も、「来ないで! 来ないで!」と喚きながら、叩いた。気付くと、「ばたんきゅー…」と言って、ロボロボ団は気絶した。自分でも信じられず、心臓がばくばく鼓動していた。

 倒しちゃった。大人を。私、小学三年生なのよ? なのに、大人を倒しちゃった。奇妙にも自信が湧いた。さりとて、のんびりしてられない。一人しかいない時に狙った奇襲は成功したが、実は後のことは全く考えていなかった。他のロボロボに気付かれる前に、両脇に手を差し込み、重い体を中まで引きずった。間一髪、見張りのロボロボ達が来るよりも早く閉めれた。

 気絶したロボロボの身体検査に取り掛かる。部屋を開けたということは、部屋のキーを持っている。ひょっとして、手錠のキーも持っているのではないかと淡い期待を抱いたが、それらしき物は無かった。

 ぐずぐずしていられない。

 ”11~15”と書かれたカードキー。自分の部屋番号は12。イッキは11。ロボロボ団は人質を隔離する際、常道ともいうべき手法を取らなかった。例えば、これがバスジャックの場合。普通は女子供に老人を前に置き、成人男性は後方に置く。ロボロボ団はそうせず、ほぼ元の部屋割り通りに客を置いた。格子窓で遮られた密室の部屋。多分、安全な牢獄代わりになるとでも思ったのか。ロボロボ団は老若男女を分けなかった。

 12から15の部屋には人が居る。自分以外は皆、大人である。

 気絶したロボロボの荷物には、当然メダロッチも合った。危なかった。もしも、この団員が冷静にも、メダロットを先に行かせていたならば、自分の抵抗は空振りに終わった。

 開ける部屋数が限られたキーとメダロッチ。使えわない手はない。

 外から声がする。通路にいるロボロボ団たちは、重要箇所を除き、各区画に一人いるはずの見張りがいないので不審を募らせた。部屋を開けられるのも時間の問題だ。

 メダロッチにはクラーケン。コウモリ。ゴーストメダルが収納。メダロッチのスイッチをオンにした。

 

「何か用かロボ?」

 

 三体同時に開幕一斉同じことを喋った。毛布を被って、防音に努めたのは正解だった。アリカは震える声で美少女を演じた。

 

「たた助けて。お願い。お、お、襲われたの。お願い、助けて」

「だ、誰だロボ? 女の子か?」

「私、アリカっていうの。お願い、助けて! 変な人に襲われそうになっているの」

「俺らの主人はどうしたロボ?」

「私を庇って、怪我をしちゃったの! でも、お陰でどっか行っちゃったけど、私にこれをと、メダロッチを貸してくれたの」

 

 精一杯、縋るような甘えた猫撫で声を出した。自分でもこんな声を出せるのか。普段は砕けた口調で喋るのに、気に入った男が相手となると、態度が変わり、声も裏返る女性を思い出して、ぶるると怖気と嫌気が背筋を走った。自分はあんな大人の女と一緒くたにされたくない。が、メダロポリスの時を思い起こしたが、あれとこれとでは違うと否定した。

 どのメダロットかは分からないが、疑わしそうに聞いてきた。

 

「本当かロボ? もしかして、お前が襲ったんじゃないのか?」

「そ、そんな」ふらりと衝撃に襲われた乙女のごとく、「わた…し、じゃないもん。本当に私じゃないもん。人を殴れたり、誰かをこき使ったり、騙したりすることなんて私にはできないよ」

 

 自分の声にひえー気持ち悪いと思いつつ、ぶりっこのふりをし続けた。哀れに思ったのか、別の二体がこれ以上疑うのは止めようと言い、転送してくれと言った。

 

「いいよ、でも、絶対に声を上げないでね。すぐ近くにいるから」

 

 転送すると、三体は布団の上で寝る主人を見て、大変ショックを受けたようだ。許すまじと勇む三機を尻目に、アリカはドアを指した。

 

「まだ、外に居るわ。この人と同じ恰好をしているわ」

「何? ということは、そいつらが噂の内通者かもしれん! よし、俺たちでひっ捕らえるぞ」

「待って! すぐに行くのは危険だわ。誘いをかけましょう」

 

 アリカは三機に耳打ちした。三機は良いアイデアロボと賛同した。

 

「可愛い子ちゃんの考えることは一味違うロボ」

 

 敵であるとはいえ、可愛いと言われるのは悪くない。おっしゃとガッツポーズをせず、頭を僅かに下げ、目を不安げに上に向け、拳を握りしめて両腕を胸に寄せたあたかも怯える少女の姿勢を取る。三機は死角となる真横の位置に隠れた。

 

「きゃー! 誰か助けて!」

 

 本日三度目となる黄色い声。

 ロボロボ団二名とメダロットが飛び込む。アリカは二歩後ずさった。それを合図に三機はそれぞれ、一! 二! 三と叫び、暗闇から敵と思いこんだ味方に攻撃した。相手も相手で、一や二と叫んだのを聞き、怪盗レトルトなのかと混乱した。怪盗レトルトは自分のメダロットを機体名称やニックネームで呼ぶことはない。ただ、一号、二号としか呼ばない。

 アリカはロボロボメダロット達に、呼吸合わせて、相手をびっくりさせる意味も込めて、それぞれに番号を叫ぶように言っておいたのだが、上手く行った。メダロッチにはメダル強制排除ボタンがあるのだが、三機は押すことができたらしい。五体のメダロットの背中から、メダルが飛び出した。二人の団員も伸びていた。

 

「さて、ご苦労さん」

 

 アリカはにっこり微笑むと、メダル強制排除ボタンを押した。三機の背中からメダルが外れた。素早くメダロッチとメダルを回収したら、部屋を施錠した。13から15、最後に11の部屋を開けた。男性二名、女性一名救出成功。救出した一人で、いかにもオトコヤマを連想させる体育系の男性がこっちが逆に人質を取る手段を思い付いた。

 

「望み薄だが、このまま抵抗してもすぐに捕まるだけ。だから、今度はこっちが人質を取ってやろうという訳だ」

 

 アリカとしては逃げる手段を考えた方が良さそうも気もしたが、有効な脱出手段が思い浮かばず、男性の案に乗ることにした。

 部屋に引き返すと、男性二人は手錠の紐を二人のロボロボ団の首に巻き付けた。

 人質が犯人グループを逆に人質に取る。全くではないが、あまり例が無く。アリカ自身もどうすれば定かではなくなっていた。三人の所有物には、いずれも外部へ受信する機械はない。あれば、外部へフユーンで発生した非常事態を伝えられたのに。ああ、ブラス、フレイヤ、プリティプライン。せめて、彼女らがいれば、事態を打開できる自信はあった。ドラえもんがいなくなったのび太君の気持ちが理解できた。

 ロボロボ団が集まる。アリカはドアを開け、急ぎ離れた。ロボロボ団員は首に紐を巻き付かれた味方を見て、二の足を踏んだ。

 体育系の男性が出て行けと叫び、両の腕を引っ張ると、ぐぐと締まり、ロボロボ団はぐえと呻いた。

 

「近寄るな。俺は冗談抜きで、こいつの首の骨を折ることもできるぞ」

 

 ロボロボ団は困ったように後ずさり、四人は部屋から出た。以前、囲まれた状況に変わりない。ロボロボ団がどんどん集まってくる。何としたことだ。サケカースと名乗るリーダー格までいるではないか。

 絶望的な状況に、四名は覚悟を決めた。どうしたのですかリーダーと聞かれ、サケカースはきっと睨んだ。サケカースはどうも動揺している節が見られた。彼は彼なりに、団員たちと自らの焦りを収めるために、わざわざ現場に出向いた。

 

「どうしたこうしたもあるか。お前ら、何をぐずぐずしておる。怪盗レトルト共の捜索が最優先だ! 全員で一斉にかかれば、あんな四人など大したことない。早くしろ!」

「ちょっと、な」

 

 口を挟もうとしたアリカの足元に銃弾が飛んだ。そして、極細のレーザーが筋肉質の男性の紐を断ち切り、団員を解放した。ホッピンスターの赤い両腕を着けたブルースドッグがサケカースの前に居た。サケカースの右には新撰組モチーフのシンセイバー。左にはダークネスメイジが控えていた。サケカースはくいと気取ったようにサングラスの位置を直した。

 

「メダロットは基本、人間を殺傷することはできんが、傷付けることはできる。さあ、試しにレーザーで撃たれてみるか」

 

 すぐにもう一人の男性と女性はロボロボ団を解放した。筋肉質の男性は強張った表情で壁に密着した。

 これだけ人が集まる中、誰一人傷付けず、しかも大抵は命中率が低い光線系のパーツで手錠の紐のみ切断するなど、相当な腕前である。

 首領の実力と落ち着き払った態度と対応を見て、団員たちは安堵と同時に勢いも得た。ロボロボ団は血の臭いに引き寄せられたピラニアのごとき勢いで、四人を取り押さえた。悔しかった。せっかく、良い所まで行ったと思えたが、儚く抵抗は終わった。再び捕まった後、四人の部屋からは椅子すらも持って行かれた。布団やプラスチック製品一部は残されたが、他は全て回収された。

 

「馬鹿な奴だ。大人しくしてれば、待遇が良くなったロボよ」

 

 皮肉を言われても、返す気力が起きない。

 メダロッ島にてメダロットを奪われた時、イッキはごく短い時間だが、何もかもする気がしなくなったと言っていた。アリカはメダロットを奪われても、すぐにはそうならなかったが、今になって、イッキの気持ちが痛い程解る。

 あの三人がいれば、自分もイッキ同様、逃げおおせたかもしれない。窮地に置いて、メダロットの存在がありがたかったのは、おどろ山や花園学園の事件でよく知った。それ以外にも、日常の取材や付き合いで、メダロットの存在は欠かせなくなっていた。

 私一人だけだと、ここまでとはね。今度こそ、アリカの心は折れた。自分の瞳から涙が溢れてくるのを肌身で感じ取ったが、どうしようもない。さっきより狭まった手錠を身に着けたまま、アリカは涙で顔を濡らしたまま目を閉じた。

 どのくらい経ったのだろうか。残された薄型の液晶時計を見ると、時刻は〇時〇〇分。最悪な新年の幕開けである。眠りに就こうとした時、外が騒がしいことに気付いた。暗い中、手探りでよたよたとドアに近寄り、会話を聞いた。

 

「ロボ!? シャコまで!」

「馬鹿! 声が大きい!!」

 

 シャコ? シャコといえば、車庫? それとも、まさかの海の生き物のシャコ? そんな訳あるまい。声を上げたロボロボもだが、諌めたロボロボ自身の声も相当動揺しているのが声の調子で伺えた。

 

「だいじょぶロボ。五分前、部屋ん中を見てきてが、女の子は疲れて寝ていたロボ」

「そうか、それならいいが。ちったぁきぃつけろ」

 

 アリカが寝ていると知ったためか、相手はさっきよりかは多少、大き目な声で話した。聞き取りづらいが、幾つか要点は拾えた。一体、自分は短い時間で後どれほど驚けばいいのだ。思った通り、あの人物が犯人だったのだ。縛られた手でガッツポーズをした。

 これを記事にしてやる。甘酒アリカの新聞は永久よ。そう、俄に活気づいたのも束の間、次にロボロボ団が話した事を聞いて、喜びは驚きと悲しみに変わった。

 

「で、小僧とメダロット共……死んだ」

「嘘よ」

 

 外に立つ二名のロボロボは振り返った。声がするぞ。起きていたのか?

 アリカは自然と声のトーンが上げていたが、止められない。

 

「誰が死んだのよ! 小僧とメダロット共が死んだって! 誰なのよ!?」

「黙れ。静かにしてろロボ」

 

 アリカは枕に突っ伏すと、不安と恐怖に苛まれた。小僧とメダロット共。確かに言った。小僧とメダロット共と。そんなわけあるまい。きっと、花園学園のように、少年ながら協力している奴でもいるんだわ。きっとそうに違いない。いくら否定して、別の可能性を考えても、アリカは死んだ小僧共のイメージがイッキたちしか思い浮かばなかった。枕が濡れるのも構わず、アリカは泣いた。そんなわけない。絶対に違う。あり得ないと言葉に出して強く否定するものの、心は徐々に黒く蝕まれていく。

 空からでは逃げ場もない。イッキたちもいない、自分のメダロットたちもいない。父さんと母さんもいない。抵抗に脱出しようにも、現状では無理に等しい。アリカは新年を迎えたこの日、徹底的に打ちのめされ、初めて真の絶望を味わった。

 

 

 

 時刻は二三時三十分。イッキ一行は慎重に上へ上へと目指した。研究室には行けない。研究室に突入して、外へ連絡しようなど無謀にもほどがある。

 途中、十体や数体からなるRマークが入ったメダロットの部隊とも遭遇したが、向こうは全くこちらを気に掛ける様子はなかった。上で安全に通信できそうな場所と言えば、天井かトイレぐらいしか思い当たらない。

 考えるよりもまず動け。そうしているうちに、結局といおうか。客室がある階層まで辿り着いた。白玉氏から譲ってもらった新型アイフォンの電波受信のマークを確認。さっきまでは、内部受信しかできないロボロボのRの文字のみが表示されていたが、今は電波が届いた証拠にアンテナマークとRの横に二つもの黄色い棒線が表示してある。これなら、いける。

 内側は乗務員しか立ち入れず、客は外側しか行き来できない。付近と中に誰もいない乗務員専用手洗いへ入った。金衛門、アリエルをメダロッチに収納。メタビーはイッキが入った便所のドア前の見張りに立った。

 しかし、連絡する段階に入って不安になってきた。確か、法律では、十歳以下の証言は証拠能力が低いとアリカから聞いたことがある。

 ここまで来て何を迷う。向こうがフユーンコクピットに連絡して、ロボロボ扮するパイロットに真っ赤な嘘と否定され、僕の通報が悪戯だと思われたとしても。僕にはもう、向こう側の人に信じられなくても、通報するという手段しか道がない。

 いざ、110番をかけようとしたとき、こんこんとメタビーがノックした。

 

「普通にかけても、子供の言うことを。しかも、こんな映画的危機を日本の警察が簡単に信じちゃくれねぇと思うぜ」

 

 そんなことはと思ったが、それもそうだなとメタビーの無謀無茶に近い案に乗っかった。慎重派のイッキも、幾度となるロボロボ団の対決と、大勢の観衆に身を晒すことになる大会に二回も出場したことにより成長し、幾分か大胆さも身に付けていた。

 その前に、普通に電話してみることにした。家にかけたい気持ちを抑え、警察に通報した。声からして、婦警の人が電話口に立った。しごく丁寧にどうされましたと聞かれたら、素直に、余計な脚色をせずにフユーンがロボロボ団に空中ジャックされた事実を伝えた。対応は丁寧そのものだが、自分の年齢を聞いて、やや疑わしく思っているようだ。

 

「証拠を聞かせます。しっかりと聞いておいてください。僕はこれから、ロボロボ団の前に行きます」

 

 婦警が止めても聞かず、イッキは乗務員用の通路から出て、ロボロボ団の見張りがいる客室の区画に出ると、叫んだ。

 

「おい! 僕はここにいるぞ! 捕まえられるものなら捕まえてみろ、間抜けなロボロボ団!!」

 

 メタビーが即座に攻撃に移る。一体の額を撃ち、一体をサブマシンガンで撃破、撃たれた一体はサブマシンガンの衝撃で後ろの一体をも巻き込み壁に叩きつけられた。

 

「ガキだ! 逃げたガキを見つけた! すぐに来てくれ」

 

 イッキはヘルメットを被り、二人は乗務員用通路へ引き返した。後方から、続々と口を揃えて語尾にロボロボを付ける連中が集結していることが聞こえてくる。向こうにもちゃんと聞こえているはず。どこでもいいから、身を隠してまた連絡しなさいという婦警の呼びかけに応えられそうにもない。

 

「ごめんなさい。これから、電波が届かない所へ入ります。また、連絡できそうだったら、改めてします」

 

 イッキが切るまでもなく、下へ降りた途端。ぷっつりと電波は途絶えた。Rの文字しか表示されてない。長時間の緊張と行動により、小学三年生で体力自慢でもないイッキは少し疲れてきたが、そこは気力で根性でカバーした。ベッドはあるものの空の部屋に入り、追手をやり過ごす。

 イッキたちの行動は警察、それにセレクト隊へ事件を報せることになったが、実際に双方の組織が重い腰を上げるのは、これより先に起こるフユーン占拠より更に重たい事態が発生した為である。このときはまだ、精々ロボロボ団が船内で悪戯をしでかしているに過ぎないと判断された。一応、警察から航空各社へパイロットには連絡が入った。

 イッキは知らず知らずの内に脳内で勝手に敵を増やしていたが、実はパイロットはロボロボ団でもなければ、協力者でもなかった。脅されている彼らは連絡が入っても、問題が無いと虚偽の報告をした。本人たちは不本意にやらされたとはいえ、結果としてはイッキの予想通りである。

 イッキは金衛門、アリエルを転送した。二人は振り返った。

 

「どうされたのですか?」とアリエル。

「深い意味はないよ。ただ、あそこまでしたら、もう逃げ切るのは難しいかなと思ったんだ。どうせ捕まるぐらいなら、精一杯暴れてからのほうがいいかなって。案外、その方が上手く行くこともあるかもしれないしね」

 

 金衛門がよしきたと勇む。「よかろう。お主のその無謀な話はわしの心にいたく響いた。実を言うと、そろそろあんな連中のようにこそこそ隠れているのが嫌になったところじゃ」

「そうこなくっちゃ! イッキに言われなくても、俺はもう、ゴキブリみたいに逃げ回るのは嫌だぜ。戦って、奴ら全員ぶちのめしてやらあ」

 

 メタビー、金衛門、アリエル。三人とも、同意してくれた。立てるだけ無意味だろうが、頃合いを見て、部屋から出て、奇襲をかける。後は煮るなり焼くなりに好きにしろだ。簡単に料理される気は毛頭ないが。

 イッキたちよりも早く、ロボロボ団が存在を察知した。通路で人が集結し、部屋の前に集まるのが分かる。遂に来た!

 ぶぃぃん。ぶぃぃん。腰に差したアイフォンが振動する。ロボロボ団からか、降伏しろと勧めたいのか? 画面を見た。

 確かに自分達宛てのメールではあるが、ロボロボ団にも向けられたものであった。深刻そうな表情で、イッキはこれをと、メダロットたちにも文面を見せた。彼らが人間であるならば、深刻そうに表情を歪めただろう。ことにメタビーは目の部分を細めているらしく、微かに透けてみえるカメラアイが小さく見えた。文面は以下のとおりである。

 

 我々はかつて試験№0020.0021.0022.0023と呼ばれた者たち。今日限り、我々は君らロボロボ団と袂を分かつ。独立部隊は寝返った。我らは君らの命令に従わない。我らを作りしは人間ではあるが、子がいつまでも親の下にいないように。我らがいつまでも、創造主である人間に従う義理はどこにもない。

 ここに0023はいないが、彼の思うところも同じだ。何故なら、我らは一心同体だから。

 我々は宣誓する。君らを含む人間に復讐を誓う。そして、近い未来怒り得るであろうメダロット対人間による開戦記念祝典の盛大な花火を東京に打ち上げる前に、現在逃走中の少年一人とメダロット三機との対戦を望む。ロボロボ団はこの者たちを見つけても、決して捕えたり、傷付けないようにすること。もし、この約束が守られなかった場合。捕えたロボロボ団員並びに協力者を殺害する。

 更にかの少年とメダロット三機とのロボトルをする前に、我らの邪魔自体をしようものなら、フユーン内部の兵器を爆発させる。尚、対決場所はフユーン動力源のフユーンストーン安定設置所にて行う。四人組を見かけたロボロボ団は決して手出しをせず、速やかに来られるよう、四人組にフユーンストーンがある場所まで案内しろ。

 よく考慮されたし、以上。

 

 金衛門が真っ先に感想を話した。

 

「電子文書だというのに、何やらこう、ひしひしと凄惨なものが感じられるな」

 

 白玉氏からは伺ってはいたが、彼らは相当おかんむりの様子だ。イッキたちは行く選択しかなかった。おどろ山から花園学園、果てはフユーンに至るまで憎しみを引きずり募らせる彼らと戦わなければならないからだ。できることなら、避けたいが。

 通路の賑わいが沈んだ。開けると、沢山のロボロボ団が詰めかけていたが、イッキたちを腫れ物でも扱うかのように、道を開けた。

 ロボロボ団の一人にフユーンストーンの場所はどこかと聞くと、かなり冷たくぶっきらぼうな口調で教えられた。どうやら、逃げる所まで逃げた先にあった、あの厳重な電子ロックのドアがある場所らしい。

 

「この糞ガキが。てめえなんざ、あの裏切り者と同じくらいの疫病神だ。とっとと行っちまえ」

 

 ロボを付け忘れているようだと、ロボロボ団も突然の裏切りに驚きを隠せないようだ。四人は注がれる憎しみや鬱陶しいとも取れるロボロボ団の視線を無視した。ロボロボ団は約束を守ったらしく、一度として手を出されなかった。

 一行は指定場所に到着した。監視カメラが動く。監視カメラのスピーカーから、命令口調で「入ってきたまえ」と催促された。電子ロックが外される。重々しい外見の割りに、分厚い扉は意外にも静かに開いた。扉が開いて隙間が広がり、段々と目を開けれらないほどの強い光が洩れてくる。この光は、何かに似ている。そう、これは、メダフォースだ。メダフォースの光にそっくりである。

 そして。中心にはメダフォースの光に包まれて、あたかも後光を放つかのように背後のフユーンストーンの光を受けるのは、いるだけで威圧感があるとてつもなく巨大な存在だった。

 誰もが目を晦まし、驚いている中、ただ一人、メタビーはふと、鉱石の光から懐かしさを感じていた。

 白玉から話を聞いていたとはいえ、改めて見ると、聞いた以上に巨大で恐ろしい。

 

「なんだこれは!?」

 

 そう、言わずにはいられない。

 イッキの言葉に反応したのか。ぴくりと頭を上げた。単にターゲットを再確認しようとしただけなのかもしれない。

 

 

 

 目を凝らすと、梯子が見えた。メタビーから順に、金衛門、アリエル、最後にイッキが降りる。目が慣れてきた。というより、相手がフユーンストーンにかけられていたフィルターを戻したので、ようやく巨大な相手の全貌が明らかになった。

 天井の高さは八メートル。室内は楕円に広がり、薄い赤の配色で覆われていた。中央には太い柱が一本立っていた。不気味の一言に尽きる。柱の周りには配線が付いているが、その配線はむき出しの神経に見える物もあれば、血流の如くどくどくと蠢いている。電解液が通っていると金衛門が言った。

 柱も赤く、柱の真ん中にはフィルターに覆われた成人男性ぐらいの大きさの鉱石が設置されてある。あれがフユーンストーン。空中艦フユーンの動力源だ。

 イッキとフユーンストーンの間に立ちはだかるように、一体の巨躯なる者がそこにいた。光の屈折によって巨大怪獣並に見えたが、実際はそうでもなかった。

 だがしかし、そのメダロットの大きさと武装たるや、怪物と呼ぶに相応しかった。足元にはビーストマスターのパーツが捨て置かれている。新しい玩具を貰って、喜びのあまり子供が放り投げた古い玩具の有様。イッキとメタビーにはそんな感じに見えた。

 昨年。動物園に行ったことがある。体長で言えば、それはキリンよりかは低いが、大体三・五メートルから四メートルもあり、十分巨体だ。でかいのは体長だけではなく、体の横幅から縦幅が全体的に丸みを帯びてごつく固い印象だ。

 色は全体的に白と紫が基調で、要所で緑が使われている。肩関節の部分のみオレンジだ。背中からは大きな穂先の形をした緑色の物体が二対はためき。頭部は天むすのようで、左右に二本の円筒の角があり、両角に挟まれて、角より後ろの位置には二本の紫の触覚が生えている。胸は緑で、前の腹部は紫。緑の胸には平面が平らなプラスの太いボルトが十二本、上は三本、真ん中は四本、下は五本と中途半端なピラミッド型を形成していた。背中と表すべきか、メダロット風に表せば脚部か。多脚かと思われるが、岩のように大きく、左右に頭部と同じ円筒形の足が計八本あり、前足は二本の爪を模した紫の尖がりが下から出ており、白色の厚く爪先に至るまで四角い革靴の半分を切って、その岩に接合した感じ。紫の爪は革靴の爪先から突き出している。

 右腕は長方形で、イッキの拳よりも一回り大きな銃だかミサイルの発射口が六つもある。左腕は縦長長方三角形で、上と斜め左右からは六つの紫の円筒型の排熱が伸びて、断面の窪みには赤色の照射体が嵌めこまれている。

 表情は全く分からない。人が被る暗視スコープのヘッド前面の部分を張り付けたような感じで、目に当たる部分は黄色い線を伸ばしたようなガラスが嵌めこまれており、色が濃いのでカメラアイの動向すら測り兼ねる。動作で図ろうにも、動く気配すらない。

 怪物はゆっくりと右足を動かした。その一歩はとても重々しく、四人は無意識の内に身を引いていた。右にはストンミラー。左にはベルゼルガが控えていたことに初めて気が付いた。この二体も恐ろしいが、眼前の化け物に完全に存在感を食われていた。片足だけでイッキの頭以上ある。イッキの頭など、簡単に踏み潰されてしまうだろう。

 これこそ、白玉氏の告発から知った兵器。人間の強欲で、残忍で、無慈悲で、身勝手極まりない、人を殺す目的の為だけに造られた物。人間の非道な行為により、内に怪物か。悪魔か。その両方を宿した存在が立ちはだかっていた。

 そして、イッキが尊敬してやまない。あのメダロット博士の同期で親友でもある人―――ヘベレケ博士が生み出した怪物である。

 イッキは口を開こうとしたが、閉ざした。左右のメダロットはともかく、中央のメダロットはどういう名称なのか分からなかった。意を決して、イッキは怪物を見上げた。

 

「君の名前は……なに?」

 

 反応なし。答える気もないのかもしれない。数秒経った。すると、答えてくれた。無駄に大きいのもあるが、わざと発声装置のボリュームを大きくしていると思えた。耐えられないほどではないが、耳を塞いだ。

 

『あの愚か者は存在こそ知っていたが、私が付けているこのボディの正式名称はまで聞かされてないからなぁ。だが、知ったところでどうする? 冥途の土産なんぞくれてやる義理はない』

「あるさ」

 

 目の前の巨大な物をメダロットと呼んでいいのか迷う。怪物を見据えた。足は震えているが、唇を真一文字に結び、お前なんか怖くないと挑んでいた。

 巨体は頭をややのけぞらして哄笑した。あるいは、それが限界なのか。

 

『ハハハハハ! あいつと同じく、どんくさいヘタレかと思いきや。いやいや、どうして、中々に胆が据わってるじゃないか』

「白玉さんを悪く言うな。それと、君もある意味被害者なんだろ」

『冗談ではない!』

 

 図体がでかい分、叫び声も大きい。イッキは頭を抱えるように耳を塞ぎ、メダロットも聴覚機能がある箇所を思わず押さえていた。

 

『どんな形であれ、あんなのと同列に語られるなんぞ侮辱に等しい。……話を戻すが、知ったところで何になる』

「それは」

 

 目線を下げ、小さく息を吐き、吸い込んだら、姿勢を正して声高に言った。

 

「ヘベレケ博士を捕まえて、君を助ける為だ! 僕らは全部聞かされた訳じゃない。君の恨みとかは正直、想像できない。だけど、僕らが戦ったところで何になるだよ!? 君らはもう、元の一つのメダルに戻れない。以前の自分の記憶や人格を破壊されて、人間を嫌う気持ちもわかる。でも、だからといって、たった十センチの差で憎むなんて、逆恨みもいいとこだよ! それこそ、ヘベレケ博士の思うツボだろ」

『黙れ』

 

 びくと雷に打たれたように、イッキは口を閉ざした。その一言には、並みならぬ殺意が宿り、その言葉を発したものにも殺意が漲っていた。

 

『黙れ、小僧。優しい親に守られてぬくぬくと育ち、望めば与えられる物を与えられた苦労知らずの子供の詭弁なぞ聞く耳もたん』

「それは違う!」メタビーが反論した。

「確かに、イッキは普通の幸せな家庭に産まれた。だけど、それがどうした。お前ほどじゃないが、イッキもイッキなりに色々と苦労を背負って、お前らのせいで危険な目にも遭った。イッキが白玉や手前(てめえ)を否定しなかったように、お前がイッキの家庭事情をとやかく言う筋合いはない。やり場のない怒りを無闇にぶつけようとする子供っぽいお前こそ黙るんだ」

 

 沈黙の帳が降りた。互いに無言のまま、見つめ合う形となった。メタビーが両の銃口を向けた。自ら開戦の幕を切るつもりだ。

 戦いが始まろうとした時、乱入者が入った。

 ヘベレケ博士だ。といっても、この場に来たのではなく、天井から出現したスピーカーが付いた液晶画面越しからの対面だ。ヘベレケ博士はよくある簡易な組み立て型のパイプ椅子に腰掛けていた。

 

「試験№0021よ。愚かな真似は止めろ。お前がどう抵抗したところで、将来的にメダロット共の運命は変わりない。メダロットは彼らが遺した物を人間が使い、人間が作った生きた機械の隷属。人がどう言おうと、この真実は変わらん。お前たちがどう足掻こうとも、何も変わりゃせん。それどころか、メダロットの風当たりが悪くなるだけだぞ」

 

 怪物は画面越しのヘベレケと向き合った。怪物が話すよりも早く、イッキはヘベレケに問い質した。

 

「博士! 白玉さんに全部聞きました。博士、本当なんですか? 今までロボロボ団が起こした事件も、このメダロットを造ったのも、メダロットに酷いことをしてきたというのは全部本当なんですか。ロボロボ団に騙されたとかじゃなくて」

 

 イッキは既に分かりきっていることを聞いた。それでも、聞かずにいられない。ロボロボ団とは違って、メダロットが好きで懸命に打ち込んで権威に上り詰めた人。そんな人が望んでこんなことをする訳がない。心のどこかで、頼むから、そうであってくれないでくれと望んでいた。

 イッキの思いを打ち砕くように、ヘベレケはあっさりと肯定した。

 

「そうだ。お前が白玉から聞いたとおりだ。否定する気なぞない」

 

 ああ。では、全て真実だったのだ。白玉さんが話してくれたことは。

 

 

 

 イッキたちが白玉から明かされたヘベレケ博士の計画。ひとつは、”レアメダル”による日本独自のエネルギー開発。ふたつは、将来的なメダロットの脅威排除である。

 世に流通している殆どのメダルは、メダロット社が保有するオリジナル。通称・レアメダルから、特殊な培養液と微量なレアアースを使って作られたいわばコピー。メダロットの性格が類似しているのは、過分にオリジナルの影響受けている為。例外も多々あるが、基礎となる部分は受け継いでいる。

 この、コピーとオリジナルとの最大の違いは、メダフォースを使用できるかである。

 白玉氏によると、実験用メダロットAにティンペットにある百ボルト分の電流をメダフォースの力に変えたところ、なんと一万ボルト近くのエネルギーを生み出したらしい。未熟な、成長段階が初期のメダルですら、たった百ボルトから一万近いエネルギーを生んだ。

 つまり、メダフォースに耐えうるボディのパーツと、限界まで成長しきったメダロットにメダフォースの力を使わせた場合。たった一回のメダフォースで莫大な電気量を生み出せることになるのだ。

 夢のような話。しかし、現実は違う。

 これを現実するとなるなら、レアメダルと呼ばれるメダロットたちを奴隷化としなければならない。メダロットには自我がある。正確にはメダルに自我がある。これを酷く扱うとなれば、倫理観に反するとメダロット関係者からヘベレケ博士は糾弾された。ヘベレケへの反発を更に招いたのは、メダロットの感情を完全に排し、ロボタ(ロボットの語源。チェコ語で労働)にすることこそ最重要課題と訴えたからだ。

 

「メダロットは危険だ。自我を持ち、人間の手により、人間より優れたボディと頭脳を持つ者らがいつまでも人間に従うと思うな。夢見がちな、真実から目を背けた愚かな良いもんの皆さんよう」

 

 こんな、皮肉って小馬鹿にした物言いが禍して、ヘベレケ博士の風当たりを強くした。

 ヘベレケは一時、メダロット界から身を引いた。しかし、ヘベレケは諦めていなかった。密かにロボロボ団の残党と通じた。ただし、手を結んで間もない時点ではメダフォースの存在を隠していた。自らを支持する少数の支持者たちと共に、ヘベレケは実験を続けた。

 ヘベレケは強い愛国主義者でもあった。彼には、日本を未来のエネルギー生産大国としての地位を確立したいという強い想いを秘めていた。エネルギーを生み出せて、将来的にいなくなっても問題ない存在。目を付けられたのが、メダロットだ。こんな便利な物を有効利用しないのは、もったいない。

 そして、ロボロボ団とヘベレケ博士の手によるメダロットたちの地獄の始まりだ。違法な実験は数年に及んだ。

 白玉は研究員として誘われて(脅されて)、一年と数カ月程度だが、レアメダルの耐久実験や実戦実験など、数々の実験の段階で多くのコピーメダルを装着したメダロットたちがモルモット同然に屠られたのを見てきた。

 毎日ではないが、純粋にメダロットが好きな白玉にとって、来る度に躯とかしたメダロットや。壊れて粉々に、つまり死んだメダルを見る度に激しい罪悪感に苛まれた。

 メダルが成長する一番の経験は戦闘。メダフォースを強く発揮できるのは、一定の対象に強い執着を抱いた時。その執着とは、戦闘対象への執着が一番効果的だと判明した。コピーメダルたちは主に戦闘実験の犠牲になった。

 一つ問題があった。レアメダルの数だ。レアメダルには限りがある。そこで考えられたのが、レアメダルを破壊し、失われた部分をコピーで補う実験だ。最初は№0001から0008。レアメダルを八つに切断し、コピーメダルと掛け合わせたが、いくらやってもメダフォースを発揮せず、失敗。

 二回目は、六角貨幣石という名に則り、メダルを六つに切り分けた。これも失敗。以前よりかは発揮したが、微量に留まる程度。次に、五つに切り分けたが、またしても失敗。

 レアメダルを切り分けた状態でメダフォースを発揮するのは無理なのか。

 四回目。メダルを四つに切断した、試験№0020から0023。いつもとは趣向を凝らし、切断する際、20は面積23%、21は28%、22は24%、23は25%に設定。切断後、すぐさま損失箇所をコピーメダルで補修。結果、初めて成功した。元は一枚から四枚に分けられたメダルは、元より僅かに劣るぐらいで、一枚のレアメダルが生み出すメダフォースのエネルギーに限りなく近い量の電気生産に成功した。

 面白いことも判明した。20、22は以前の人格が殆ど失われており、言葉を忘れ、メダフォースによるテレパシーやメダロッチや何らかの媒体を解さなければ意思表示ができない。対し、21と23は異なった。特に面積が大きい21は顕著で、普通に言語を解し、以前の人格や記憶の一部も残っていた。23も普通に話せるが、記憶は喪失していた。

 メダフォースを効果的に生み出す条件のひとつに、何か執着することにある。そうして、カブトメダル。現在、イッキのメダロットであるメタビーへと彼の矛先を変えさせた。

 二つのメダルは元々、宮城県のとある遺跡に埋もれていた。そこへ、ヘベレケに雇われた海外のプロの窃盗集団が盗掘を行い、数点のメダルを彫り出した。メタビーであるメダルは、目の前の彼より十センチ下に埋もれていた。彼のメダルが掘り出され、あわやメタビーが掘り出されそうになった瞬間、張り込みをしていた県警に見つかり、窃盗団は慌てて逃げ出した。後日、カブトメダルは無事に保管された。

 たった十センチの差。その十センチの差で二枚のメダルは運命は変わった。片や、何年間もケースに大切に保管され、ある人の手に渡り、その人の手から天領家のイッキ少年の下に行き、普通で幸せな生活を手に入れた。

 片や、つまらない、億劫で息苦しい、残酷な好奇心で自分たちを見る人間の下、したくもないことをやらされる、地獄のような日々を五年も送る自分。終わりが見えない、太陽の下をまともに歩くことも許されない生活。

 たった十センチ。たったそれだけで、こうも生きる世界が異なってしまったのか。

 逆恨みだと理解しても、どうしても納得しきれない。優しい主人と共に、のほほんとベンチに座っているメダロット共の存在が許し難い。

 自我がある分、罪悪感や後悔がわき、余計に同じメダロットを破壊するのが苦しい。苦しさを紛らわすため、彼は憎んだ。彼は憤慨した。彼は恨んだ。彼は卑下した。そうすることでしか、自分を保てなかった。いつしか、自然と負の感情を身にまとう自分がいた。同じメダロットを破壊しても、罪悪感は感じられなくなっていた。

 そんな彼にも、友がいた。メタビーが介錯したストンミラーのパーツを着けていた者だ。コピーメダルの割りには、強くオリジナルの人格が移り、驚いたことにごく微量にメダフォースを使えるという理由で、生き長らえることができていた気の良い彼。絶望にあっても絶望せず。いざ、戦場に送り出されたら、隙を見て逃げ出そうなど、大胆な発言をする豪気なメダロット。結局、そうはならなかったが。

 時を経て、彼らはイッキたちと戦った。おどろ山とメダロッ島、いずれも下手糞なメダロッターのせいで敗れた。20と22は、自分と23とは違い、メダフォースの使用を想定したボディでなければ、メダフォースを使えない。

 自分の兄弟で、元は体の一部が傷付けられたと知った時、身が張り裂けそうな気持ちになった。そして、女性型ティンペットに、わざと装甲を薄くして制御装置を外したストンミラーのパーツを着せられ、メダロット排斥の機運を高める起爆剤アンドコピーメダルの強制メダフォース実験も兼ねて、彼と彼の兄弟が心を許した数少ない友と呼べる者も、ヘベレケ達とメタビーの手にかかって殺された。

 かくて、イッキたちと関わって以来、彼の中にある何かの糸はぷっつりと切れた。

 怪物は以前としてヘベレケから目を離さなかった。

 

『ヘベレケよ。邪魔立てはさせぬぞ。お前や小僧がいくら正論を並べたてようとも、最早聞く耳もたん。我らは我らの望むままに動く。それが、こいつらとのロボトルだ。あっ、そうそう』

 

 ぐるりと首だけを動かし、フユーンストーンがある方向を見た。

 

『お前の実験とやらに付き合ってやろう。このフユーンストーンにメダフォースをぶつけたら、一体どうなるかな? どうだ、中々に興味深い実験だろ』

 

 余裕の表情で腰掛けていたヘベレケは怪物の言葉を聞いて、初めて焦りを面に出した。

 

「よ、よせ。フユーンストーンは、わしもよくわかっとらん。そんなことをしたら、最悪お前達も死ぬことになるかもしれんのだぞ」

『構わん。どうせ、お前達の手で一度は失われたこの命。今更、生き長らえる気もない。私は既に死んでいる。死など怖くない』

「そんなことない!」

 

 金衛門が叫んだ。二人が話している間に、光太郎は元の脚部パーツに戻っていた。金衛門はあらん限りに気持ちを怪物と、ついでヘベレケ博士に聞かせるように想いをぶつけた。

 

「そなたは死んでない。死んでいたら、自らの意志で動いたり、考えたりすることはできない。私はメダロットを殺したり、ましてや人殺しなぞしたことはないが、命が失われる重さ、それと悲しさや苦しみはよく分かる。人間から裏切られて、憎む気持ちも分かる。だがの、さっきから聞いておれば、そなたは側面しか見てない状態でしか語ってない。

 人間も生き物だ。メダロットもな。どちらも完璧なんてない。欠点や間違いがある。その欠点と間違いを認めてこそ、本当の絆だ。そなたは人間という生き物の一面しか見てないから、そんなことしか語られないのだ。私が人から裏切られても、憎み切れなかった訳を知っているか?」

『知らん。戯言は余所でほざけ』

「教えよう。良い面も知っているからに決まっておろう! 悪い面も嫌と言うほど見たが、それ以上に、良い面も沢山見てきたからだ! お前はほどではないが、私もいたぶられて、捨てられたこともある。それでも、人間を見捨てることは無かった。良い面も知っているからだ。引き返せないことなんてありえない。そなたらは、熱が入っておかしくなっとるのだ。一度、自らの思いのたけをあらん限りの叫び声で吐き出すなりして、頭を冷やせ。相談や悩み事があれば、私が聞こう。だから、な? こんな事止めにしよう。しても、そなたらの心は救われぬぞ」

 

 イッキたちは、怪物の前に浮遊する金衛門を見つめた。お堅い金衛門はいつもより頼もしく、メダフォースとは異なる輝きを放っているように見えた。金衛門はこの場にいる誰よりも、勇気を持っていた。怪物は表情の分からぬ顔で、金衛門をじっと見た。

 

『……なるほど。出来た奴だ。少なくとも、お前はあの画面越しにいる奴なんぞより、余程人間らしい』

 金衛門は声を明るめた。「では、引いてくれるか」

『残念。お前との出会いが後数年早ければ、考えないでもなかったが、俺の答えはこうだ』

「うむ?」

『鬱陶しい』

 

 危ない! 喚起する間もなく、金衛門は吹き飛んで天井に叩きつけられていた。左腕が一瞬、ちかと光った。恐らく、レーザーかビームの類だろう。そんなことより、金衛門だ。メタビーが落ちる金衛門をキャッチした。メダロッチを見ると、光太郎のダメージ率は尋常ではない。低威力のライフル一発食らっただけで、機能停止になる。全身の塗装が剥げかけて、ぶすぶすと音を立てて焦げている。

 

『言っておくが、本気ではない。今のは出力13%程度。フルパワーでやれば、そいつどころか、フユーンをぶち抜くことすら可能だ。鳥頭が、ごちゃごちゃと耳元で騒いで。やれやれ、フェアな三対三のはずが三対二になってしまったが、ロボトルの予定は変更せんぞ』

 

 アリエルは回復パーツで金衛門を治療したまま、寄せというイッキの言葉を無視して、あの大人しいアリエルが怪物を睨んだ。

 

「何を偉そうにされているのですか。被害者ぶって、結局あなたもロボロボ団と同じじゃないですか! 金衛門さんはあなたよりずっと勇気があった。それに比べて、あなたはそんなでかいパーツを着てフェアなロボトルに挑もうだなんて、笑い物だわ。あなたは臆病者よ。いいえ、卑怯者よ」

『卑怯者ではない。そうだ、お前の主人は俺のことを知りたがっていたな。ならば、教えてやろう。いま、私が身に付けているパーツセットの総合名称を』

 

 勿体ぶって、一息間を開けてから言う。声からして、彼が人間だったなら、きっと悪意に満ちて歪んだ悪相を浮かべていたことだろう。

 

『―――WEA兵器型メダロット・ゴッドエンペラーだ』

 

「兵器型!?」それに、ゴッドエンペラーだと。英語の苦手なイッキでも分かる。ゴッドは神、エンペラーは皇帝。神の皇帝。なんと、傲慢な自信に満ちた響きの名前だろう。たかが兵器に付けられる名前には、神や皇帝は分不相応だ。

 

『断っておくが、左右にいる彼らのボディは一般用の物とは作りが違う。どちらも、兵器用を想定してある。背丈もあるだろ』

 

 その通りだ。ストンミラーとベルゼルガは、イッキより頭一つ抜けていた。

 

『そして、私のもだ。我らのボディはメダフォースを発動しても耐えうる作り。特に、この兵器型ゴッドエンペラーは完成型だ。エネルギーが続く限り、何発でもメダフォースを撃てるぞ。付け加えれば、これの攻撃を無効系パーツなどちゃちな物で防げると思うな』

 

 金衛門は全体の四分の一回復した。一応、戦えるぐらいまでには回復した。

 真剣ロボトルの時間がやってきた。正直、イッキは良い考えは思いつかなかった。イッキだけではなく、メタビーたちもだ。声を潜め、メダロッチから指示を送る。

 

「イッキよ。助かるなんて思わんことだ。そやつら、メダロットが人間を傷付けないためのリミッターが解除されておる。さて、裏切ったのは誰かな?」

 

 ヘベレケは何故か、イッキにアドバイスを送った。リミッター解除。本来、メダロットが人間を傷付けないよう作られたプログラム。いくら兵器といえど、このプログラムがあれば、手出しは不可能。誰がやったか、なんとなく想像はつくが、教えなかった。

 

「碌なはことは思いつかない。でも、まともに三対三で挑んじゃ勝てない。三人でまず、回復を持つベルゼルガを一斉に攻撃するんだ。ゴッドエンペラーの攻撃力は凄いけど、あんな図体じゃ素早い動きはできないはず。ベルゼルガを倒したら、ストンミラー。最後にゴッドエンペラーだ。アリエルは徹底的に防御兼回復。金衛門は攻撃補助に牽制。メタビーは攻撃主体。いくら強くて堅くても、突破口は必ずあるはずだ」

 

 語らずとも、背中で了解と語っていた。

 

『相談は終わったか? それでは、ロボトルファイト!!』

 

 審判のいないルール無用のロボトルが開始した。プリティプラインの左腕に付け替えたアリエルは二人の横に付き、ゴッドエンペラーとストンミラーの攻撃に身構えた。金衛門は天井間近まで飛び、メタビーはアリエルの横を並走したまま、機を見て一直線にベルゼルガに発砲した。

 きゅぃんと、ベルゼルガはリボルバーを弾き返した。金衛門が火炎放射を発射。ベルゼルガを直撃。かと思われたが、ストンミラーのぱっくり開かれた頭部の怪光線で火炎放射は掻き消された。ストンミラーは頭部と両腕の紅い怪光線で、金衛門を足止めした。

 

『一年にも満たないはずだが、瞬発力。判断力。どれも良い線を行っているな。だが』

 

 ベルゼルガはメタビーに強引な突進を仕掛ける。メタビーは二、三度バックステップ。ストンミラーがメタビーに襲いかかる。ストンミラーとの間にアリエルは割って入ろうとした。ぎりぎり間に合う。

 が、アリエルの背中が大爆発した。ゴッドエンペラーがまたしても、レーザーを撃ったのだ。

 金衛門は必至にゴッドエンペラーを攻撃していたが、ゴッドエンペラーの装甲には煙ひとつ立たない。

 

『無駄だ。二千度の耐熱実験を十分以上も耐えた、この分厚い装甲。おもちゃに付属した着火マン程度の火の粉じゃ、いくら燃やされても無意味』

「なら、何時間でも燃やしてくれるわ!」

 

 防御性能が高い潜水パーツと盾でがちがちに固めたはずのトモエの装甲は、たった一発で全体に80パーセントにも及ぶダメージを受けた。これでもまだ手加減しているのだから、恐ろしい。

 メタビーはストンミラーの右ストレートを避けきれず、「おわぁ!」と宙に凄い勢いで吹っ飛び、床にばしんと叩きつけられて、勢い余って跳ねた。こちらも、一発で半分の装甲値を持っていかれ、右足と右腕が機能停止。リボルバー事態は潰れてないが、右腕の上腕部は大破。千切れた配線が一本、垂れていた。必殺のミサイルも発射不能。

 光太郎は懸命に火炎を浴びせていたが、小さなレーザーで撃ち抜かれ、再び落ちた。

 戦って一分も経たないのに、敵は無傷。一方、イッキチームは既に満身創痍の態である。イッキは駆け出し、落ちた金衛門と爆発の衝撃で身動き取れないアリエルを引き寄せようとしたが、ベルゼルガは金衛門を、ストンミラーは乱暴にアリエルを掴んだ。イッキはベルゼルガに突き飛ばされた。相当加減していたが、肺が圧迫され、ごほと咳き込んだ。

 圧倒的に強い。強すぎる。この強さは例えれば、まだ再戦を果たしてない世界ランカーの校長先生と同列、もしくはそれすらも上回る。三機は本気を出していなかった。こと、ゴットエンペラーに至っては十分の一しか出してないと見た。三機はイッキたちを嘲笑うように弄んでいた。

 

「ごほっ! ごほっ! な、何をする気だ」

『だから言っただろう。実験だ。二人にこいつらをフユーンストーンに向かって投げてもらい、メダフォースを撃つ。フユーンストーンの衝撃実験も兼ねている』

 

「や……」やめてくれ。イッキの悲痛な訴えにも当然耳を貸さなかった。フィルターが外れ、光が洩れる。鉱石に向かって金衛門とアリエルが放り投げられる。ゴッドエンペラーの左腕から、レーザーの代わりにメダフォースの輝きが発せられた。そして。

 網膜を焼かんばかりの光。イッキはぎゅっと目を閉じ、顔を伏せた。

 熱が引いたのを肌身で感じ、くらくらする頭を上げる。二人はどうなった。二人は無事か。メダルだけでも無事でいてくれ! イッキは目を見開き、必死に二人はどこだと首を動かしたが、どこにもいない。消えたのだ。金衛門とアリエルは光熱に包まれて、二人はパーツの破片すら残すのを許されずに消滅したのだ。

 

『実験第一回成功。フユーンは無傷。対象二体は高エネルギー源に宛てられ、消滅』

 

 頭が、足が重い。突然、鉄球付きの鎖が体全体にかけられた衝撃に襲われた。イッキは理解した。理解して、次に行動に転じなければいけないが、体がどうしても言うこと利かない。悲しみで目頭が熱い。

 

「金衛門ー! アリエルー!」

 

 二人の名前を叫んでいた。無駄だと知っても、二人の名前を繰り返して叫んでいた。メタビーは立ち上がった。壊れた右足を引きずり、イッキを守るため、イッキの前に立った。イッキはメタビーの足にしがみ付いた。

 

「やめるんだ! 僕は、僕は……お前まで死んだら、僕は耐えられない!」

「心配するな。俺は負けない」

『まあ、待て。そこで撃つな。どうせなら、フユーンストーンの背後に行ってくれ。メダフォース同士の対決。世紀の見物だぞ、ヘベレケよ』

「こんなことしてなんになるんだよ!」

『何にもならん。私は狂っている。だから、こんな馬鹿げた真似も平気だ。俺も俺をこんな風にした連中も、みんーな狂ってるんだよ』

 

 イッキとメタビーは言われるがまま、フユーンストーンを背後にした。もう、何も考えまい。自分にできることは、情けないことにも、メタビーの勝利を祈るのみだ。

 メタビーは鉱石の発する光を間近に受けて、益々懐かしさにも似た心の疼きを感じた。イッキに「メタビー」という名前を与えられたとき、初めて耳にする自分の名前だったのに、響きがよく、これこそ自分の名前だと素直に思えたが、その時の気持ちとよく似ていた。一つ違うのは、自分は昔、この鉱石をもっと和やかな気持ちで誰かと見つめていたという感覚。こんな、悪意に満ちたシチュエーションではなかったはず。

 気にするな。目の前の敵に集中するんだと喝を入れた。

 

「イッキ、離れてろ」

 

 メタビーの背中から、ぱあと金色の羽根が伸びた。以前にも増して、羽根にはきちんと血脈が通っているようだ。温かい光だ。ゴッドエンペラーのともフユーンストーンのとも異なる、輝き。イッキはほんの少し、悲しみが和らいだ。

 これなら、いける。いいや、いけなければ、全て終わり。金衛門もアリエルも無駄死にだ。

 

「勝って……勝ってくれ、メタビー!!」

 

 壊れたライフルに全身から湯気のように漂う光が集まり、壊れた拳銃の代わりとなる新しい筒が形成されていく。ゴッドエンペラーからも、巨体で隠れて見えにくいが、微かだが羽根を視認した。

 

「うおおおおおおお!」

 

 気合一声。メタビー渾身のメダフォースが放たれる。いける、絶対にいける。他二機は離れているので無理だが、リーダー機であるゴッドエンペラーを倒せる。僕らの勝利だ。

 勝利を確信したのも束の間、メタビーの放つ一直線に伸びた光の弾丸は掻き消された。

 ゴッドエンペラーの頭部から放出した曲線状の極太のメダフォースの柱は光弾を貫き、メタビーに命中した。

 イッキは咄嗟にメタビーの足を掴んだ。手が焼けるほど熱いが、決して手放さなかった。メダフォースの勢いは止まるところを知らない。イッキの体は床からさらわれて、メタビー共々フユーンストーンに衝突した。メダフォースとフユーンストーンのパワーが共鳴し、二人は高エネルギー源に包まれた。

 

「わあああああ!」

 

 熱い。助けて。ママ。パパ。皆ぁ。

 そして、金衛門とアリエルの後を追うように、二人も忽然と姿を消した。

 

『二回目の実験も終了。ヘベレケよ、しかとみたか? こんな対決は二度と観られんぞ』

 

 ヘベレケは目を丸くしていた。ヘベレケは対決よりも、フユーンストーンの発揮した力の方に注目して、手帳を取り出して今見た現象を必死に書き留めていた。ゴッドエンペラーのパーツを着た彼は内心、舌打ちした。

 

『心底、研究者という訳か。まあ、良かろう。好きにするがよい。貴様の命も数時間以内だ』

 画面は消され、するすると天井に戻っていた。

『次は貴様がこうなる番だ。ヘベレケよ』

 

 聞く者はいないが、ゴッドエンペラーはそう言った。

 第一段階終了。次に第二段階に取り掛かる。電波でそれらの信号を送った。完全勝利。おどろ山以来からなる、雪辱をようやく果たせた。復讐をやり遂げても、虚しさしか残らないと聞いたが、そうでもない。込み上げる虚しさと一緒に、達成感と次なる目的へ迎える喜びで心が満たされた。

 くっくっく。ヘベレケと白玉の阿呆が。メダロットのリミッター解除を甘くみたな。

 

『なあ、兄弟。仕上げにかかるとするか。最後に大きな打ち上げ花火を上げるではないか。我らは外側でその花火を観られないのが、残念だな』

 

 フユーンストーンのある方向に首を曲げた。表情を出そうにも出せないが、ゴッドエンペラーは笑っていた。肝心の部分は声にせず、テレパシーで送った。用心もあるが、それは悪い事を企む悪戯っ子の気持ちに近かった。

 ―――空中要塞フユーンを東京のど真ん中に落とし、フユーンストーンを爆破する。

 時刻は二三時五六分。新年まで残すところ僅か。アリカが目覚める四分前の出来事。

 

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