D.Gray-man 孤高の鋼戦士   作:星月

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鋼戦士、参戦

 ――かつてそこは人々が集まり、活気がある町並みであった。

 町に住む人間や訪れた者ならばそう語る。だが今はそんなことを言ってもほとんど誰も信じないだろう。その光景は今となっては見る影もないのだから。まるで何か大きな自然災害や大火災にでも見舞われた直後のように、建物の多くは崩れ去り、瓦礫の山と化していた。町のあちこちから煙が立ち込めるばかりで人の姿さえ見えなかった。

 

「……ぅっ……ぐっ……」

 

 そんな廃墟と化した光景の中、一つの瓦礫の山の中から一人の少年が這い出てきた。

 苦しそうに呻き声を上げながらもしっかりと両腕で瓦礫を左右に押し退けて、ようやく彼は外へと飛び出した。気を抜けばすぐさまよろけてしまう体に鞭を打ち、しっかりと立ち上がる。

 

「そんな。……こんな、ことって……」

 

 そして目の前に広がっている光景に、言葉を失った。

 とても信じることができなかった。つい先ほどまでにぎやかな繁華街が広がっていたというのに、短時間でこれほどまでに破壊されてしまったのだから。突如町に現れた、未知の物体によって。

 だが、いつまでも愕然としているわけにはいかない。惨劇を見て彼の脳裏にある人物の顔が思い浮かんだのだ。

 

「――っ、父さん!! 母さん!!」

 

 がむしゃらに瓦礫を掘り起こしていく。かつて自宅であった場所であるが、ここにいたのは自分だけではない。彼の両親、彼の大切な人も共に同じ時間を過ごしていた。

 二人の無事を願いつつ呼び続けながらもひたすら手を動かす。きっと大丈夫だと、自分が助かったのだからきっと生きていると。そう信じて疑わなかった。

 そしてやがてあるものを見つけて彼の動きは止まった。何者かの顔であった。それを見つけて彼に笑みが浮かぶ。

 

「父さん!」

 

 見間違えるわけがない。生まれてきてから今までずっと見続けてきた、父の顔だ。

 すぐに父親の顔の周りの土を掘り、引き出せるようにと作業を再開した。こうなればもう苦労はない。すぐさま瓦礫をどかして父親の顔へと手を伸ばし――

 

「――――ッ!!??」

 

 ――救い出そうと触れた瞬間に、父親だったものは砕け散った。とても人間の体とは思えないほどもろく崩れ去った。

 

「あ、あ……っ、ぅああああああああああああ!!」

 

 希望は潰えた。大切な者の死という事実さえも生ぬるい、死体さえをも残さないという悲劇であった。

 目の前の現実を受け入れられずなかった少年。彼の悲痛な叫びが無人の廃墟に木霊する。

 

 ――やがて、涙が枯れ果てたことでようやく彼は立ち上がることができた。

 せめてもの弔いとして父親がいたはずの場所を元に戻し、無事に眠れるようにすると母親の捜索を再開するも……無駄なことであった。彼が見つけたときには崩れた建物に押し潰されて、すでに息を引き取っていた。

 まだ死体が残っているだけ父親よりも幾分もマシである。そう考えればよいのかもしれないが。……とてもではないが、微塵たりとも喜べない心境であった。だから母親の遺体を父親がいたすぐ近くに移動させ、そして埋めた。これでせめて二人は一緒にいられると思ったから。

 作業を終えると、近くの瓦礫に腰かける。もう立っていることさえ辛かった。肉体的にも、精神的にも。

 

「……なんで、どうして俺だけ生き残ったんだろう」

 

 いっそ自分も死んでしまえばよかったとさえ思えてしまう。

 このような精神的状況ではまともな思考さえできない。口にするのは絶望を語るものばかり。生きる気力さえ失せて自然と視線も下がった。

 

「……あれ?」

 

 するとその視線の先で、彼は一つ異変に気づいた。

 

「俺、いつの間にこんな格好してたっけ……?」

 

 この場には不釣合いな間抜けな声。

 つい先ほどまで突然の事態に我武者羅になっていたがために気がつかなかったが、彼自身も気づかないうちに服装が変わっていた。いや、性格には今まで彼が着ていた服の上に、見知らぬものが被さっていたのだ。

 

 

――――

 

 時間が経過していくにつれて煙が晴れ、視界も回復していく。

 しかしそこに広がっていたのは信じられないものだった。

 

「お、おい。アレン。弾丸の着弾点を見てみろ! あの銀色の服は……」

「あれはまさか、チャン!? 彼が撃たれたということですか!?」

 

ラビに促され、アレンはリナリーがいた場所、アクマの銃弾が打ち込まれた場所を目にする。すると彼の瞳には、先ほど見た銀色の服が映りだされた。クロウリーもその姿が視界に入ってしまい、動きが鈍る。

 

「リナリーを助けたのであるか! くっ、なんということだ……!」

「アレイスター、悔いている暇などないぞ! まだアクマは健在じゃ!」

 

 そんなクロウリーを叱咤するとブックマンは自身のイノセンス、ヘブンコンパスで押し寄せてきたアクマ二体を串刺しにし、破壊した。

 彼の言うとおりまだアクマは数が残っている上にレベル3も破壊できていない。後悔などする暇もなかった。

 

「今はこの場を生き残ることを考えるのだ。

 ……ラビとアレイスター、おぬし達は戦闘を続行してアクマたちを食い止めろ。決してアクマをリナ嬢に近づけるな! ウォーカーは儂と共にリナ嬢の下へ向かうぞ!」

「わかりました!」

「ああ。この場は任せろさ! そっちは頼むぞ!」

「やるしかないであるか。……ならば、存分に暴れさせてもらう!」

 

 年長者ということもあって、ブックマンはたくみにアレン達に指示を飛ばす。

 皆その言葉に従い、ラビとクロウリーはこの場に残るアクマの方へ、アレンとブックマンはリナリー達の方への駆け出した。

 

 

――

 

 

「なんで、どうしてあなたがここに!? どうして私を助けて……!」

「女性を助けるのに理由がいるのか? それは知らなかったな」

 

 未だ激しい争いが繰り広げられている戦場の中、リナリーの悲しい嘆きが響く。

 守りたかった、守らなければならない相手(チャン)に守られた。それを重々理解しているからこそ、リナリーは顔を歪め、気持ちを露にする。

 そんな彼女を見かねたのかチャンは何でもないと言う様に、柔らかい口調で語りかける。

 

「……馬鹿!」

 

 その心遣いは理解できる。だからこそリナリーは彼を「どうしようもない馬鹿だ」と言った。

 

「リナリー、チャン!」

「御主、まさかアクマの砲撃を受けたのか!?」

 

 二人の元にアレンとブックマンが駆け寄る。どうやら戦いをラビとクロウリーに任せ、こちらに来たようだ。

 

「私は大丈夫、それよりもチャンが私を庇ってアクマの砲撃を……」

「な、そんな……」

「やはりか。それでは、もう」

「……気にすることではない。この程度の攻撃、なんともないさ」

 

 リナリーの説明に、言葉を失う二人。

 しかし肝心のチャンはまるで何事もなかったかのように、立ち上がった。

 

「何を馬鹿なことを言っているんですか! 寄生型のエクソシストでもない人間がアクマの砲撃を受けたら……!」

「……待て小僧。チャン、御主なぜそのように平然としていられるのだ?」

「え……?」

「ブックマン、何を言っているの?」

 

 強く怒鳴りつけるようアレンだが、チャンは答えない。

 するとブックマンが代わってチャンに問いかけた。アレンやリナリーが疑問に思っているところを尻目に、ブックマンは疑問を投げかけた。

 

「本来ならば、すでにチャンの肉体はアクマウイルスに犯され、崩壊を起こしているはず。それなのになぜ御主はそのように立っていられる?」

 

 それはチャンの異常を示すもの。

 常人ならばすでにその体を保つことさえできないはずなのに、目の前のチャンはこうして立ち上がっている。これが表すことは、一つしかない。

 

「……私も確信がないために断言はできないが。おそらく、この私が纏っているものこそが、君たちの言うイノセンスだからだろう」

 

 それはすなわちチャンがアクマウイルスを消す物質、イノセンスで防いだということ。そして彼がアレン達の仲間・エクソシストであるということだ。

 

「……イノセンス? 纏っているものって、その服のことですか?」

「服だけではない。この外套はもちろんのこと、帽子に靴、手袋。私の体を覆うもの全て。私はこの鉄壁の守りを鋼鉄ノ外套(メタルコート)と呼んでいる」

「……ッ!!」

 

 アレンの予想をさらに上を行く、鋼鉄のイノセンス。それこそがチャンのイノセンス、メタルコート。

 三人を守るように、その姿をより強く映るように背を向ける。その彼の外套には傷一つついていなかった。それを見た三人は驚愕し同じことを思った。

 

(……ファッションとかセンスで着ているわけじゃなかったんだ)

 

 チャンに対してとても失礼なことを。

 気まずい空気が流れるが、知ってか知らずかそれを一蹴したのはチャンであった。

 

「わかっただろう。私が君たちの言う、アクマを破壊した男だ。だからこそ心配はしなくていい。私もここから参戦させてもらうぞ。……リナリーは戦えないようだしな」

 

 リナリーを一瞥してからチャンは戦場を見やる。

 たしかに彼の言うとおりリナリーが戦闘続行不可能な今、戦力が増えることは嬉しい限りであった。鉄壁の防御力を見せてくれたチャンが加勢してくれるならば、戦況は大きく変わるだろう。

 

「是非とも頼む。ウォーカー、御主も戦場へ戻れ。リナ嬢は私が守り抜く。

 ――天針(ヘブンコンパス)、加護の針・東の罪(イーストクライム)!!」

 

 ブックマンの言葉に応じ、ブックマンとリナリーの周辺を包み込むように黒い針が出現する。対象者を守護する堅固な防壁、これならば並大抵の攻撃では壊せないだろう。

 

「随分と奇怪な武器だな。イノセンスと一言で表しても、こんなにも差があるものか」

「リナリーのことはブックマンに任せましょう。……行きますよ、チャン!」

「了解した、アレン。この身も鋼鉄で守護されている。そう易々と墜とされはしない!」

 

 率直にヘブンコンパスの感想を述べると、チャンはアレンに続く形で戦場へと飛び出す。

 左右から一機ずつレベル1が迫ってくる中、二人は各々の武器を展開して地を蹴る。

 

十字架ノ槍(クロス・スピアー)!」

 

 右からの接近に対処するのはアレン。迫り来る弾丸を最小限の動きでかわし、相手との距離が0になるまで迫ると、左腕(イノセンス)を槍状に変化させる。槍のエネルギー体は切れ味も抜群。レベル1を切り刻み、個体は爆発した。

 

「はあああああっ!」

 

 雄たけびを上げてチャンは駆ける。

 左から迫るレベル1。チャンは砲撃を受けながらもひたすら真っ直ぐ進む。レベル1の攻撃ならば受けきれるという自信があるのだろう。

 

拳弾丸(バレットパンチ)!」

 

 振り上げられる拳。それは何も特別な効果はない。衝突の寸前にわずかに手首の回転が加えられているだけ。しかしそれはただ強く、そして重い。

 アクマのボディーに振り下ろされたその一撃は、硬いアクマのボディーをまるで銃弾のようにいとも簡単に打ち抜いた。

 

「ふんっ!」

 

 腕を引き抜き、さらに次へと目標を定めるチャン。後ろで聞こえる爆発音には目もくれない。彼が視界に捉えたのは、自分に背を向ける形でクロウリーと激しくもみ合っているレベル3、リナリーと戦っていたアクマである。

 

「クロウリー、後退しろ!!」

「むっ!?」

「――流星拳(メテオナックル)!!」

 

 チャンの咄嗟の指示に反応し、クロウリーは後ずさる。

 その声にレベル3もチャンの方へと振り向くが、遅い。レベル3の体をチャンの打撃技が襲う。目にも止まらないほどの攻撃の嵐。防ぎきることはできず、レベル3は直撃を許してしまった。

 

「ちぃっ! ……不意打ちとは、やってくれたなエクソシストが」

「生憎仇に対して手段を選ぶほど、俺はできた人間ではないのでね。……さて、形勢逆転だな。悪いがお前にはここで消えてもらう!」

 

 チャンの声に呼応するように、クロウりー、そしてラビとアレンも並び立つ。他のアクマ達は二人が全て殲滅したようだ。後はこのレベル3を残すのみ。

 

「一体四か。さすがに、これは分が悪いか。……ならば!」

「なっ!? あいつ、逃げる気だぞ!」

 

 レベル3は大きく跳躍し、空中に身を躍らせる。自身の不利を悟ったのだ。レベルの上昇により、知能も増大したのだろう。

 

「追いかけましょう!」

「いや、その必要はない。そう簡単に逃がすものか! ……鋼鉄ノ網(アイアンネット)!!」

 

 ラビやアレンが駆け出そうとするが、それはチャンによって制せられた。

 チャンは左半身をレベル3の方角に向け投擲の構えを取ると、素早く右手を殴りつけるように前に出す。するとその動きに合わせ、外套の右手首の部分が細い槍のように射出される。雲の糸の様に広がるそれは、凄まじい速さで瞬く間にレベル3を捕らえ、自由を奪う。体の自由を奪われたレベル3はなすすべもなく、地面に横になった。

 

「バカな。このようなもので私の動きを止めようなどと……図に乗るなエクソシスト!」

「そうであろうな。もとよりお前を逃がさないことが目的だ。だからこそ、少しでも時間を稼げればそれで十分すぎる!」

 

 そう言ってチャンは再び戦場を駆ける。

 レベル3は自分を縛る鋼鉄の網を振りほどこうともがくが、イノセンスの一部であるそれはそう簡単には脱出できない。

 その間にもチャンはどんどん距離を詰める。まさにレベル3の目の前に迫ると、地面を蹴って跳躍する。空中で左手の握りこぶしを右手で包み、大きく振りかぶった。

 

「や、やめろーーー!」

「――鋼ノ衝撃(メタルバースト)!!」

 

 着地と同時に響く轟音。チャンの拳により、レベル3の腹の中心に大きな風穴が開いた。

 

「が、はぁっ……!?」

「これで終わりだ。……堅さとは強さ。鋼鉄の拳を前に、壊せないものなど存在しない」

 

 ゆっくりと拳を引きぬき、チャンが語り終えると同時にレベル3は機能を停止する。

 押し寄せるアクマはこれで全滅した。この争いは終了した。

 

「やれやれ、ようやく終わったか」

「……あ」

「リナリー! ブックマン!」

「二人とも無事であるか!」

「何はともあれ、これで万事解決さ」

 

 ヘブンコンパスも発動が停止し、その中からブックマンとリナリーが姿を現す。二人とも怪我はない。レベル3が破壊されたことで黒い靴の重さも元に戻ったのだろう、リナリーは自分の足で歩いている。

 その姿を確認してアレンやクロウリーは安堵し、ラビの顔にも笑みが浮かぶ。

 

「……さて、果たしてどこから話すべきか」

 

 仲間の元に駆け寄り、無事を祝っているアレン達を見て、チャンは一人呟いた。

 

 

――――

 

 

 全員の治療を済ませ、一同は再び先ほどは中断されてしまった話の続きを始めることにした。

 

「それじゃあ、チャン。もう一度話の続きを聞かせてください」

「了解した。だがその前にアレン、一つだけ確認したいことがある」

「何ですか?」

「君は先ほど誰よりも一早くアクマの接近を感じ取っていたな。君はアクマを感知できると考えて良いのか?」

 

 戦いの前のことを思い出し、チャンはアレンにたずねる。

 何も知らなかった彼から見れば異常なことだっただろう。突如アレンが乱れたと思えば、他の仲間も彼の言葉を信じ、動き始めたのだから。しかしだからこそ、仲間がそこまで信じるのだから効果はあるというもの。

 

「え、ええ。ある程度アクマが近づけば僕はそれに反応して、すぐに知らせます」

「そうか。……ならば、これを展開し続ける必要はない、か」

「……え?」

「――メタルコート、展開終了」

 

 チャンがそう言うとイノセンス、メタルコートの発動が解けた。

 帽子と手袋はなくなり、普通のコートに収束される。これにより、今まで隠れていたチャンの顔も明らかになった。その姿に、一同はまたしても驚くことになった。

 

『……若っ!!』

「むっ。そうか、そういえばまだ君たちには素顔を見せてはいなかったか。あの格好では顔を見せることも適わなかったからな」

 

 その反応は予想外だったのだろうが、すぐに納得して言いつくろう。

 程よく伸びたツンツンした黒髪、黒目。ここまでは中国人ということを考えれば普通だ。だがしかし、それなりに整った容姿であるその顔はとても若々しい。

 

「え? ちなみにチャンって何歳なんさ?」

「19歳のはずだ。たしか来年で丁度二十歳を迎える」

「嘘!? そんなに若かったんですか!?」

 

 今までの大人びた雰囲気や話し方から二十代後半はいっているだろうという予想があったが、それは的外れも良い所であった。ラビの質問に淡々と答えるチャンにアレンは驚くしかない。

 

「あのメタルコートは私にとっては守り神のようなものでね。できるだけ肌身離さず装着しているようにしているんだ」

「……なあ。それじゃあそこから教えてもらえねーか? イノセンスはいつ発動したんさ?」

 

 懐かしむように微笑むチャン。思い入れがあるということを感じられる。それをラビも理解し、まずはその点から聞いていくことにした。

 

「良いだろう。……私がこのメタルコートの存在を知ったのは、先ほど話した、両親が殺されたときだった」

「アクマの襲撃の時ですか?」

「そうだ。私は両親と家にいたのだが、家はもろくも崩れ去り、私もその下敷きとなってしまった。

 ……だがそのときに、まるで私を守るようにこのメタルコートが出現した。気がついたらこれを着ていたんだ」

「イノセンスが勝手に発動したと……?」

 

 たしかに適合者が近くにいればイノセンスは自動的にその適合者の下へと赴くことがある。

 しかしチャンのように最初から装備型のイノセンスが特定の形を持って出現するのは数少ない異例である。だがチャンが嘘をついているようには見えない、おそらく事実であるのだろう。

 

「それのおかげで私は助かった。今こうしてここにいるのも、生活を送れるのもメタルコートがあってこそ。そうでなければこうしてこのコロシアムで過ごすなどできないだろうしな」

「それはどういうことですか?」

「詳しくは私もわからないのだが、このコートを展開していると防御力が上がることに加え、あらゆる環境条件をもクリアしてくれるようなんだ。熱さや寒さをはじめ、強風などの天候条件。……それに、一時期ためしに海に潜ってみたりもしたが、不思議と水圧も感じなかったな」

「……あれで海で泳いだんですか?」

「で、でもそれが本当ならこれほど頼もしいことはないわよ」

 

 試すことは大事であるとはいえ、あまりにもシュールな絵が思い浮かんでアレンは言葉を失った。

 だがこれが全て本当ならばチャンはかなりの戦力となる。リナリーのような身体能力の強化はないようだが、堅い守りとそこから発揮される爆発的な威力を持つ打撃、そしてあらゆる障害をクリアするイノセンス。幅広い分野での活躍が期待される。

 

「じゃが、そこまで理解しているのならば我らが言っていたことも理解できたじゃろう?」

「ああ。イノセンスとそれに選ばれた神の使徒・エクソシストだろう?」

「そうさ。俺達は同じイノセンスの適合者を探してるんさ」

 

 ブックマンの問いに頷く。その様子から可能性を感じたラビはさらに言葉をつなげた。

 

「アクマを破壊できるのはエクソシストだけなのである」

「そしてチャンはその力を持っている」

「どうでしょうか? ――エクソシストになりませんか?」

 

 クロウリーとリナリーにつなげて、アレンはチャンに道を示す。

 同胞への誘い。これから先待ち構えていることは決して優しいものではないだろう。今日の戦いでもそれをチャンはその身で感じたはずだ。

 

「いいだろう。どうせこのまま暮らしていてもまともな最期は期待できない。

 このような俺でもできることがあるというのならば……喜んで力になろう。俺を仲間に入れてくれ」

 

 それでもチャンは修羅の道を行く。少しでも自分のできることを成し遂げるために。自分のような犠牲者を再びださないためにも。


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