カタクチイワシは虎と踊る   作:ターキーX

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第十二話 サラミの凱歌と干し芋の真実

 オイ車の100mm砲の砲撃が、P40が身を隠していたブロック塀を吹き飛ばした。

「次の装填までは時間があります。45mm砲に側面を向けないようにしつつ後退!」

 車内のカルパッチョは操縦手に指示を飛ばした。現在、彼女のP40はアンツィオの撤退ポイントのひとつだった団地から若干離れた住宅地に展開していた。

 そしてP40から見て遥か前方に壁のように立ちはだかるオイ車。

 車体から顔を出し、カルパッチョは周囲を見回した。右側の路地にチハが一両。だが砲撃の気配はなく、牽制するように前後に車体を動かしている。

「やはり知波単の狙いはオイ車による蹂躙……それ以外のチハは牽制役ね」

 状況を確認して車内に戻り、ペパロニとの通信を開く。

「こちらカルパッチョ。統帥、そちらの状況は如何ですか?」

『こちら統帥。今、マカロニが茹であがった。これからポイントに向かう!』

「了解、何とか間に合いましたね」

『まだだ。カルパッチョ、そちらにCV33を二両送った。何とか連携してオイ車を駅前のターミナルまで誘い込んでくれ』

「分かりました。知波単ですが予測通り、オイ車単独でこちらの全滅を狙っています」

『デビュー戦で強さを誇示するつもりだな。上出来だ!』

 ペパロニの声にカルパッチョは試合開始前との変化を感じ取っていた。どことなく軽く、勢いだけで押し切ろうとしていた彼女は今は必死に自分で考え、動こうとしている。

 この逆境が彼女にとって大きな糧となったか。カルパッチョはそこに喜びを感じた。

『……どうした。カルパッチョ?』

「いえ、お任せください。統帥」

 カルパッチョはそう言うと通信を終え、搭乗する仲間たちに言った。

「統帥は準備が整いました。次は相手を誘い込みます。アーヴァンティ!」

 

 

 カタクチイワシは虎と踊る 第十二話 サラミの凱歌と干し芋の真実

 

 

「……アンツィオの動きが変わりましたね」

 観客席、華は拡散してゆくアンツィオ戦力の動きを見て言った。

 先ほどまで一か所に集まり、P40のみが知波単周辺で距離を置きつつ足止めを行っていたがそちらも微妙に動きを変えた。距離を離し過ぎないようにしつつ、誘い込むように駅前の方に後退している。

「これは多分、ペパロニの準備が整ったな」

 顎に指をあててアンチョビが言った。沙織が尋ねる

「準備?」

「まあ、アイツが私の考え通りの事をするつもりかは分からないが……おそらくは」

「いい加減ね……て言うか、あのP40どこに行ってるのよ?」

 あいまいな返事にモニターを見つつエリカが言う。

 ペパロニの搭乗するP40はカルパッチョの支援に向かうでもなく、かと言って彼女らが誘い込もうとしているだろう駅前に向かうでもなく、逆の方にセモヴェンテ一両と共に移動していた。

 やがてその動きはある箇所で止まり、また方向を変える。

「……踏切?」

 P40は踏切から線路に入り、そのまま線路上を進み始めた。

 

 

 一方、知波単のオイ車は徐々に駅前に近づいていた。

『隊長殿、この敵の動きはおそらく当方を誘っているものかと……』

「そのようだな。最後の足掻きと言った所だろう」

 西絹代の進言に、オイ車の車長席に座る辻つつじは平然と答えた。11人の搭乗員を要するオイ車の車内は、その巨大さも相まって一つの事務所の様でもある。

「相手が総力戦を挑んでくるのならば逆に好都合だ。一挙に撃破して終わりとしよう」

 今の彼女は高揚感と全能感に包まれていた。200mmの装甲に効かぬと分かりつつも撃ち込んでくる敵の抵抗。それを一方的に撃破する100mm砲の火力。今までの頼りないチハの装甲と火力に比べて何と堅牢であり圧倒的なことか。

「お前たちは手を出すな。オイ車の履帯や転輪を狙ってくる奴だけ警戒しておけ」

『……承知しました』

 微妙に澱んだ副隊長の返事。相変わらず西はこの車両の運用に否定的だ。彼女以外にもこのオイ車の運用に否定的な声はある。それに対し辻は軽蔑の念を覚える。知波単の古臭い突撃信奉。それを自分は打破しようと言うのだ。それが何故分からないか。

 

 実際のところ、辻の考えもまたその「古臭い考え」とかけ離れたものではない。彼女はオイ車の強さばかりに目を向け、その弱点や運用について深い考えを持ってはいないのだ。

 ただ「強い車両を使って圧倒すれば良い」という稚気じみた発想。しかし彼女を諫める者はいないし、いたとしても彼女は耳を傾けないだろう。

 

 アンツィオのP40は牽制の砲撃を時折行いつつ後退を続ける。周辺の風景に住宅が減り、次第に店舗やビルが増え始める。このまま進めば駅前のターミナルに出るだろう。

「なるほど。広い場所での一斉攻撃か」

 確かにアンツィオに残っている手段があるとすればその程度だろう。

 オイ車の装甲を抜くことは出来なくとも、それならば履帯の破壊によって足止めする位はできるかもしれない。

「西、このままあえて誘いに乗りターミナルに出る。オイ車の側面、左右の履帯や転輪を狙われぬように広場に出たら4両のチハでオイ車側面を防げ」

『了解しました、隊長殿』

 だが、これでその狙いも阻まれる。白旗を上げたチハはそのまま盾となるだろう。

 

 やがてオイ車を先頭とする知波単の部隊はターミナルに侵入した。かつては数十台の車が行き来したであろう、幾つものバス停と広いタクシー乗り場のスペースが設けられた駅前の広場はオイ車と6両のチハ、1両の九五式を迎えてもなお余りある広さだ。

 P40と二両のCV33は彼女らから見て奥。駅ビルの入り口を背に陣取っている。

「45mm砲はCV33を、100mm砲はP40を狙え」

 各砲手に指示を出し、辻は車長席から周囲の状況を確認する。

「……撃て!」

 三門のオイ車の砲門が同時に火を噴いた。こちらの砲撃のタイミングを予測していたか、それより僅かに早くアンツィオの三両はそれぞれ別方向に回避し、そのままオイ車側面に回り込もうとする。

「やはりそう来たか、西!」

『はっ! 玉田、細見、池田。私と共にオイ車の側面を守れ!』

『了解であります!』

 一手早く4両のチハがオイ車の左右に入り込んだ。CV33は慌てたように停車し、何とか隙を作れないかとターミナルを回り始める。それに容赦なく撃ち込まれる45mm砲。100mm砲は装填に時間がかかる。P40に使うため無駄撃ちは出来ない。

 P40はCV33によって作られる隙を待っているのだろう。射線上にCV33を置かないよう位置を調整しつつ、彼女らとは逆回りにターミナルを回る。

 その時、西から通信が入った。

「隊長殿、9時方向から敵! 残りのCV33とP40、セモヴェンテです!」

 車長席のハッチを上げ、辻はそちらの方角を確認した。

 こちらに全速力で向かってくるCV33と、その後方から支援砲火を狙うP40とM41。しかし、余程のラッキーショットでも命中しない限り、それらの攻撃でオイ車の装甲を抜く事はできない。無駄な努力だ。

「さて、その涙ぐましい努力もここまでとしよう」

 辻はそう嗤い、車内に戻った。

「ここで終わらせる。全砲門、後部機銃も含めて一斉砲撃」

 

 4mの高度から一斉に放たれる悪魔めいた砲火。CV33の一両が45mm砲を避けきれず吹き飛んだ。建物に激突し、白旗が上がる。

 

『アンツィオ高校・CV33、走行不能!』

 

 辻の口元に笑みが浮かぶ。

 そうだ。蹂躙が必要だ。この知波単のオイ車の存在を知らしめるだけの蹂躙が。

 更に一両、CV33が僚機のチハの牽制の砲撃をエンジン部に食らい炎上した。カーボンと耐熱処理によって搭乗員は無事だが、車両からはやはり白旗が上がった。

 

『アンツィオ高校・CV33、走行不能!』

 

 これで残り4両。そしてそれも直ぐに片が付く。

『隊長殿、その、妙ではありませんか?』

 砲撃音の交差する中、側面に位置する西のチハから通信が入った。

「何がだ、西?」

「その……何故敵の隊長車は砲撃してこないのでしょう?」

 そう言われ、辻も初めて気づいた。発見されたポイントから動かず、ただ砲門を向けているだけで一発も撃っていない。

 

『アンツィオ高校・CV33、走行不能!』

 

 しかしその疑問はオイ車の砲撃で更に一両吹き飛んだCV33によって吹き払われた。怯えているか、ならばそのまま撃破すれば良い。

「ここに来て怖気づいたか! ならば先に落としてやろう!」

 僅かにオイ車が揺れた。P40からの砲撃が防盾に当たったのだ。だがその75mm徹甲弾でもオイ車の装甲を僅かに削る程度しか出来てはいない。

「砲塔旋回、フラッグ車のP40を狙え!」

 ゆっくりと砲塔が回る。既にCV33は全滅、ターミナル内に残るP40も満身創痍だ。

やがて、オイ車の100mm砲がフラッグを立たせたP40を捉えた。

「撃て!」

 指示と共に放たれる徹甲弾。それは狙い過たず、射線上のP40を撃ち抜いた。

 火花すら発さず、それは煙と共に大量の木片を散らす。放送は流れない。

「……何?」

『隊長殿、上です!』

 その直後、西からの通信と辻の頭上に強烈な衝撃が撃ち込まれたのはほぼ同時だった。

 

『―――知波単学園フラッグ車・オイ車、走行不能! よって、アンツィオ高校の勝利!』

 

 

「……フゥ」

 傾いたP40の車内で、ペパロニは放送を聞いて大きく息をついた。

『統帥、あの、そろそろ抜いても大丈夫ッスか?』

 P40の後方から砲身を差し込み持ち上げていたM41から通信が入る。

「ああ、大丈夫だ……よくやってくれたな、お前ら」

 そのP40の前面には急いで描いたからか荒い部分もあったが、空と景色を模した書き割りが取り付けられていた。

 

 P40とM41は、駅の高架上の線路にいた。セモヴェンテで後方を持ち上げて角度を付け、4m以上の高さのオイ車の上面を狙ったのだ。

 前面200mmを超えるオイ車だが、上面装甲は30mm。それが唯一狙えるポイントだった。

 かつてアンツィオにいた頃のアンチョビが立案した、書き割り看板による偽装作戦。「マカロニ作戦」とアンチョビが呼んでいたそれを、ペパロニなりにアレンジしようと用意していた資材が当初の目的とは異なったが役に立った格好だ。

『お疲れ様でした。統帥』

 通信機からのカルパッチョの声。

「カルパッチョこそ、よく最後まで持ちこたえてくれたな。それが無かったらヤバかった」

『いえ、でもこれで……』

「……ああ。あいつ等が負けなければ、次は大洗だ」

 ペパロニの瞳には、既に次の戦いへの闘志が宿っていた。

 

 

「隊長殿、ご無事ですか!?」

 オイ車砲塔付近、ハシゴで上った絹代は未だ煙を上げるハッチ付近に近づき声をかけた。

ゆっくりとハッチが開き、中から憔悴した辻が姿を見せた。眼鏡にはヒビが入り、落ちかけているのにも気付いていないようだ。

「……まだだ、まだだ西! 知波単は終わっていない!」

 咽から声を振り絞るようにして辻は言った。よろめきながらも腕を振り、続行可能を示そうとする。だが、ICチップ判定で既に白旗が上がった車両の走行不能は戻らない。

「この程度でオイ車が止まる訳が無い! チハで牽引させろ、試合続行許可を……!」

「見苦しいですぞ、隊長殿!」

 拳を固く握り、絹代は遂に耐え兼ね辻を一喝した。

「ヒッ!」

 瞬間、その権幕に怯えるように体を竦め、辻は絹代を見上げた。それは、ほんの数分前まで己の力を誇っていた人物とはとても同一とは思えぬ卑小な姿だった。

「……隊長殿、終わったのです。我々は敗けました」

「敗け……た?」

「はい」

「敗けた……」

 虚脱したように辻は腰を落とした。彼女を横目に絹代はオイ車の車内に入り、通信手からオイ車の通信機を借りて広域通信を行った。

「こちら知波単学園副隊長の西絹代であります。辻隊長殿が通話困難なため、失礼ながら通信を代行させていただきます。アンツィオの隊長殿、聞こえますでしょうか?」

『ああ、聞こえてるッスよ』

「来度のアンツィオの戦、お見事でした。貴官らの今後の健闘と武運を祈ります」

『……アンタも大変だったみたいッスね』

「いえ……これで、良かったのかもしれません」

 労いのペパロニの言葉に返す絹代の表情は、今までの憂鬱さが取り払われたかのように澄んだものに戻っていた。

 

 

 観客席は大きな歓声に包まれていた。アンツィオの応援席からはクラッカーが鳴り、紙吹雪が舞っている。既に祝勝会の準備が始められているようだ。おそらくは知波単の生徒やスタッフも労う派手なものになるだろう。

「いやー、凄かったね! そんじゃ、祝勝会の邪魔にならないように私らも帰ろ……」

「……で、済むとは思ってないわよね?」

 背を伸ばして席を立つ杏をエリカが呼び止めた。流し目でエリカを見る杏。

「……やっぱりダメ?」

「約束でしょ。アンツィオが勝ったら全部話すって」

「そうだぞ杏、ちゃんと話さないと」

「アンタもよ」

 腕を組んで言うアンチョビに、エリカは振り返って言った。

「分かってるよ……おーい! すまないけどトラさんチームと麻子だけ残ってくれ! 後は、先に戻って私達の帰り支度を頼む!」

 小声で答えると、アンチョビは大声で後方のカエサル達に言った。

「何かあるのか?」

「まあ、トラさんチームにちょっとした頼み事だ」

 アンチョビは立ち上がり、エリカ達に移動を促した。アンツィオの観客席からも離れた、人もまばらな一般客用の客席まで移り、帰り支度のため逆方向に行く大洗の他メンバーを見送ってから改めて残ったエリカ、優花里、華、沙織、麻子、杏、桃、柚子を見渡す。

 

 

「さて、どこから話をしたらいいかな……?」

「まずは一つ―――あのアンツィオのP40の購入費用はアンチョビが出した。これは間違いないのね?」

 話の切り出しどころを考える杏に、エリカは鋭く切り込んだ。アンチョビが頷く。

「ああ、そうだ。二両の内一両はもともとアンツィオが積み立てていた資金で購入したものだが、残り一両は私が金を出した。この大洗に来る条件で出た金でな」

「え!? ちょ、ちょっと、それってどういう事!?」

 突然の告白に、状況を理解できず沙織は周囲を見回した。

「その、大洗の隊長になりながら、アンツィオに重戦車を用意していたという事ですか?」

 戸惑いつつ優花里が言った。

「……つまり隊長、アンタは最初から大洗を優勝させる気なんて無くて、アンツィオを優勝させるためにわざわざ大洗で隊長になっていた……って事でいいのね?」

 エリカがアンチョビと目を合わせつつ言う。その口調は静かだが、強い怒りが籠っているのはその場の全員が理解していた。

 彼女の怒りの視線を正面から受け止めつつ、アンチョビは答えた。

「それは違う! 私は大洗を優勝……」

「だったら何でそれを黙って、敵に戦車送るような事をしてたのかって聞いてんのよ!」

 エリカの怒りが噴出した。それは自分が裏切られた怒りだけでなく、自分の仲間が裏切られていたという怒りだろう。

「そこからは私が説明するよ」

 アンチョビの言葉を引き継いだのは杏だった。背後の心配そうに見つめる桃と柚子にひらひらと手を振って、エリカの前に立つ。

 

「―――取引だったんだよ。ウチはチョビの隊長就任を条件にアンツィオにP40を導入。アンチョビはアンツィオの強化を条件に大洗隊長になる。どっちが勝っても恨みっこなし。そういう条件でね」

 

 

 数か月前、アンツィオ学園艦。

 イタリアモダンに統一された応接室に、三人の少女がいた。アンチョビ、杏、そして呼び出されたばかりのカルパッチョ。

「そんな、統帥!」

 アンチョビの話を聞き、カルパッチョは驚きと共に彼女を制止する言葉を探した。

「すまない、カルパッチョ……でも、もう決めたんだ」

 その反応を予想していたか、アンチョビは心底申し訳なさそうに言った。

「何故そんな事をする必要があるんです!? 統帥がいなくなったら、このアンツィオはどうやってこれから戦車道をやって行けば……!」

「……お前なら分かるだろう?」

 静かにアンチョビに言われ、カルパッチョは言葉を止めた。常にアンチョビの傍らでペパロニと共に彼女を支えてきた身だ、当然分かっている。彼女がその決断を下した理由も、目的も。

 

 豆戦車と突撃砲だけのアンツィオにとって、他校と正面から渡り合える戦車の導入は古くからの夢であった。そのためにコツコツと貯めた基金により、ようやく今年になってP40の導入が可能になったのはアンツィオにとって大きなニュースだった。

 

 ―――しかし、それで足りない事はアンチョビも、勿論カルパッチョも理解していた。

 

 CV33で敵陣をかき回し、混乱したところをセモヴェンテの75mm砲で仕留める。

 アンツィオの得意戦法として知られるこの戦法は、実際は他の選択肢が戦力的に不可能故にこの戦法の練度を上げるしか無かっただけに過ぎない。

 これにP40が一両加わる事は確かに大きいが、重戦車一両で今までとは異なる戦略を自在に立てられるようになるかと言えば実際困難だった。相手はその一両だけに気を向けていればよく、またそれがフラッグ車であれば迂闊に矢面には出せない。

 今までのアンツィオを変える戦略のためにあともう一両、もう一両の戦車が必要だった。

 

「約束は守るよ。必ずアンツィオにP40一両分の資金を用意する」

 アンチョビの横に座る杏が言った。

「……ペパロニには、言わないのですか?」

 力なくカルパッチョが尋ねる。アンチョビは首を振った。

「アイツにはこういう理屈は通用しないからな……私が姿を消したら、『金目当てでアンツィオを裏切った』とでも言っておいてくれ。そうすれば、私がいなくなった後の皆の気持ちをペパロニに向ける事も出来る」

「統帥……本気で大洗を優勝させるつもりですか?」

 カルパッチョは顔を上げてアンチョビを見た。いい加減な答えであれば手段を選ばず大洗には行かせない。そういう決意が込められた目をしていた。

「……なあ、カルパッチョ。お前に出来るか? 経験者はいない、戦車も無い学校が『ウチに隊長に来て、西住姉妹を倒して今年の大会で優勝させてくれ』と言って、門前払いを幾つも食らって、それを繰り返した挙句に他所の隊長に直談判して、こっちに戦車を買ってやるから隊長に来てくれと本気で言う事が」

 それに答えるアンチョビの目にも迷いは無かった。

「私は言えない。言った所でバカにされるだけだからな……でも、こいつは本気だった。だから私も本気で返す。大会でアンツィオとぶつかるなら、本気で叩き潰す」

「……敵わないですね、統帥には」

 僅かな間の後、カルパッチョは肩の力を抜いてソファに座りなおした。杏に体を向け、丁寧に頭を下げる。

「角谷さん。どうか、統帥をよろしくお願いします」

「……ありがとう」

 杏もそれに対し、頭を下げた。

 

 

 杏の話が終わり、場は沈黙に包まれていた。

「ちょ、ちょっと待って。とりあえず隊長の件は分かったけど、まだ引っかかるわ。何でそこまでして戦車道の旗揚げを? 助成金目当てならわざわざ戦車を買って浪費する必要は無いじゃない?」

 その沈黙を破ったのはエリカである。まだ言葉に棘はあるが、先ほどまでの怒りは治まったようだ。彼女の問いに対し、杏は困ったように笑った。

「あー……やっぱり、そう来るよねえ」

「会長……」

 柚子が一歩踏み出し、桃が心配そうに両手を合わせる。杏は頭を掻きつつ答えた。

 

「―――ウチの学校、この大会で優勝しないと廃校になるんだ」

 

 

カタクチイワシは虎と踊る 第十二話 終わり

次回「虎の鍛錬、イワシの鍛錬」に続く




ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
次回から再び大洗VS継続に物語は戻ります。次回は特訓回で、次々回から試合開始予定です。
宜しければ引き続きお付き合いください。
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