カタクチイワシは虎と踊る   作:ターキーX

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第四十話 さらば、イワシ

―――決勝戦前々日、継続高校学園艦。

 

「……ようこそ、継続高校へ」

 学園艦中央に位置する樹状構造物が投げかける深い影。その木陰に停車しているBT-42の上に座りつつ弦楽器を奏でる、帽子を被った少女がひとり。

「君たちが良ければ、コケモモのジュースや山葡萄のプディングと共に歓迎の曲を一曲奏でるところだけど……そうもいかないみたいだね」

 継続高校戦車道隊長・名無しことミカはそう言うとBT-42を降り、眼前のP40の前に立つアンチョビに歩み寄った。

「明日の朝には戻らないといけないからな……突然の申し出を受けてくれて、感謝する」

 礼をするアンチョビ。

「『黒森峰との試合前に試しておきたい戦法がある』と言われればね。ただ、何故わざわざ継続高校に来てまで私たちを指名してくれたのかには、興味があるかな」

「ウチと縁があった学校の中で、おそらく個人戦ではお前たちが最強だ。この戦法がお前たちに通じなかったら、西住姉妹にも通用しないだろう」

「随分と買ってくれたものだね。でも、それだけかい?」

 涼しい顔で尋ねるミカに、アンチョビは皮肉めいた笑みを浮かべた。

「それと……ミカ、お前には練習試合でも公式戦でも私は負け通しだ。決勝前に一度くらいは勝っておかないとな」

 ミカは微笑むとカンテレをひとつ鳴らし、アンチョビに言った。

「悪いけど……」

 表情こそ穏やかなままだが、その瞳には静かな闘志が宿っている。

「……来客相手でも、加減はしないよ」

 

 

カタクチイワシは虎と踊る 第四十話 さらば、イワシ

 

 

 市街地中心部東側・商店街方面。急な開発によるものからか左右に並ぶ商店は造りも構えもバラバラで、只でさえ狭い道を更に狭くしている。そこを煙幕を噴き出しつつ走るP40。その車体は幾つもの砲弾の擦過痕が残り、側面に描かれていたイワシのマーキングも上下で両断されてしまっている。

「……こちらイワシ。ウサギ、そっちからは何か見えるか?」

 車長席に座るアンチョビは通信機を手にした。その顔には疲労の色が濃く出ている。

『えっと……ティーガー、隊長の撒いた煙幕の手前から動いていません。さっきティーガーⅡ、エレファントと合流しましたが、その2両は周辺の哨戒に回すみたいです』

「商店街方面は狭い道が多いから、邪魔を入らせない方に使うつもりッスね……」

 ペパロニが言う。ヘッツァーが撃破された今となっては実際に東側にいる大洗の戦力はアンチョビ達のP40、そして高速道路の高架で隠れているM3Leeだけだが、仮に西側からこちらに増援が来たとしても重戦車と重駆逐の哨戒を潜り抜けてくるのは難しいだろう。

「増援なし、敵はティーガー、おまけに乗っているのは高校生最強の戦車乗り……!」

「待っていたら包囲殲滅……いや、その前にこっちのフラッグ車が撃破されるか」

 カルパッチョの言葉に麻子がいつもの通りの口調で返した。操縦したまま今度はアンチョビに尋ねる。

「この先は袋小路になるぞ。何処へ行く?」

 

「………」

 

 アンチョビは腕を組み、天を仰いだ。

 

「………」

 様々な事を考える。『アレ』以外でこの状況を打破できる起死回生の策は無いか、どうにかして無傷でまほの乗るティーガーを仕留める方法は無いか。

 だが、確認できる情報は全てこちらに逆風だ。そしてそれは時間の経過と共に悪くなる。

 

「……仕方ない、よなァ」

 ああ、多分今の自分は泣きそうな顔をしているな。

 アンチョビはそう思いつつ上を向きながらため息をつき、表情を引き締め直すと顔を下げて言った。

「『ソスタ作戦』を実行する! ペパロニ、カルパッチョ、麻子、作戦用意!」

「マジっスか!? でもアレは、継続の隊長からもダメ出しされてたんじゃ……」

 ペパロニが驚いて聞き返す。アンチョビは鋭く返した。

「この状況で打てる手が他にあるか?」

「……それしか無いですね」

 カルパッチョが答える。ペパロニも少し考え、同様の結果にたどり着いたようだ。

「んー……確かに、そうッスね。折角の決勝戦だし、もうちょっと楽しみたかったんスけどねー」

「なに、今のお前たちなら来年も決勝戦に進出できるさ」

 アンチョビはそう言うと、最後に操縦席の麻子に言った。

「麻子、頼む」

「……分かった。行くぞ」

 数秒、何か言いたげな沈黙を作った後に結局何も問わず麻子は頷き、操縦桿を強く押した。

 

 

 大洗のヘッツァーの撃破後、観客席にはやや弛緩した空気が流れていた。

「奇襲役のヘッツァーがやられたのは、大洗にとって相当に厳しい展開ですね」

 カチューシャを肩車したままのノンナが言う。

 

 ここまでの黒森峰の動きを制限出来ていた要因のひとつとして、隠蔽率が高く、かつ高火力を備えていたヘッツァーの存在があったのは確かだ。

 残っている大洗の車両のうち、八十九式とB1bisは火力の低さからさほど脅威にはならない。その2両よりはやや格上になるM3Leeにしても徹甲芯弾を使っても至近距離での貫通は70mm弱。これは黒森峰の車両であればヤークトパンター以外の車両なら正面で受ける事が可能だ。

 つまり、現時点で黒森峰が警戒すべき大洗の戦力はP40・Ⅳ号戦車・ポルシェティーガーの3両だけで良いのだ。そしてその内の2両は西側で攻撃を行っている。このままの流れならば程なくアンチョビのP40も撃破され、完全に戦況は黒森峰の側に傾くだろう。

 序盤戦からの大洗側の奇策によって思わぬ損害こそ被ったが、黒森峰の地力が勝った。多くの観客が既にそう確信している。場内のやや弛緩した空気の原因はそれだ。

 

「それにしたって大洗も無茶をするわね。回収車を巻き込むなんて……一歩間違えたら即刻退場じゃない」

 ノンナの頭上で器用にバランスをとりつつカチューシャが言う。右隣に座るミカがカンテレを鳴らした。

「むしろ、そこはあの場面でアンチョビに撃たなかった西住まほを賞賛すべきだろうね。あそこでもし撃って回収車に命中していたら良くて警告、悪ければ退場だった」

 

 獲物を追い詰めている時に、狙いをつけた相手から外して憶測で別方向を狙う。これは簡単に出来る事ではない。それを迷わず実行したまほの判断とそれに十全で応えたティーガー搭乗員の技量は、一般的な戦車道を修めている高校生の枠を超えたものと言えるだろう。

 

「これは、大勢決したという事でありましょうか?」

 列の端に座っていた福田が悔しそうに言った。知波単と大洗に直接の接点は無いとはいえ、絶対的な強者に挑む姿にシンパシーを感じているのかもしれない。

「んー……?」

 ふと、ミカの更に右隣で観戦していたミッコが何かに気付いた。モニター上、マーカーで表示されたP40が僅かに動きを止め、そして再度動き出す。商店区画の奥、袋小路になっている所にティーガーを誘い込もうとしているようだ。

「ミカ。これって、ひょっとすると……」

 ミッコの言葉に、ミカは少しだけ目を伏せると再度カンテレを鳴らした。

「そのようだね。確かに、彼女たちが打てる手段はあれしか残っていないだろう」

「……『あれ』?」

 ミカの含みある言葉を聞き止め、ノンナが尋ねた。頷くミカ。

「決勝戦の前々日、私たちはアンチョビと練習試合をしたんだ。1対1のね。試合前にどうしても試したい戦法があったんだそうだ」

「戦法……ですか」

「それで、その練習結果はどうなったの?」

 ノンナの頭上からカチューシャも聞く。ミカは隠すでもなくあっさりと答えた。

「負けたよ。私たちが」

「アンタ達が!? それなら……」

「……でも、戦法としては失敗作だった」

 継続高校のミカ達のチームの強さは、鹵獲ルールによる非公式戦で幾度となく戦ってきたノンナやカチューシャも良く知る所である。それに勝ったという戦法にカチューシャは驚いたが、ミカの言葉の続きは明確な否定だった。

「むむ、勝ちはすれども失敗作……何かの謎かけでしょうか?」

 絹代が顔に疑問符を浮かべつつ腕を組み、ミカの言葉について考え始める。ミカは僅かに笑いながら言った。

「フフ、そんな込み入った話ではないよ。単純な事さ」

 そしてミカは一同に、アンチョビが何をしたかを簡潔に語った。

 

 

「……そういう事ですか、貴女の話が分かりました」

「それって……何て言うのか、聞いた事無いわよ、そんなの」

「ええと、自分は浅識のため良く分からないのですが、規約上は問題ないのでありますか?」

「戦車道規約上の問題は無い……が、確かにそれは……」

 頷くノンナ。呆れるカチューシャ、戸惑う福田、言葉を失う絹代。

 彼女らの反応を当然のものと受け止めつつ、ミカはその日の事を思い出した。

 

 

「……なるほど、こういう事だったんだね」

 黒煙と共に白旗を上げるBT-42から顔を出しつつ、ミカは言った。自分の戦車から降り立ったアンチョビが歩み寄りつつ尋ねてくる。

「どうだ、この戦法の出来は?」

 その表情は勝利したとはいえ決して明るくはない。ひょっとすると彼女自身もこの戦法の致命的な欠陥に気付いているのかもしれない。

 ミカは少し考えてから、アンチョビを真っ直ぐに見つつ答えた。

「そうだね……この戦法は、使わない方がいい」

「……そうか」

 アンチョビはさほど落胆した風でもなく頷いた。ミカは言葉を続ける。

「確かにこの戦法なら例え西住姉妹だろうと裏をかけるだろう。でも、余りに確実性に欠ける上に、余りに代償が大きすぎる」

 ミカはアンチョビから視線を離し、その『代償』を見た。白旗を上げるP40。

「でも……」

 そこで一度言葉を止め、ミカは手元のカンテレを鳴らした。

「全ての手段が無くなり、それでもどうしても勝たなければならない時……その時の最後の一発には、なるかもしれないね」

「それで十分だ……ありがとう、本当に助かった」

 満足そうにアンチョビは笑い、そしてミカに深々と頭を下げた。

 

 

「……ミカ、どうしたの?」

 傍らのアキから声をかけられ、ミカは自分が記憶に没頭していた事に気付いた。表面上は何事も無いかのようにカンテレを鳴らし、涼しい顔で答える。

「何でもないさ。それより、彼女らの戦いを見届けようじゃないか」

 ミカはそう言うと、モニターに視線を向けた。

 

 

 商店街のアーケードを抜け、ティーガーⅠは裏町めいた通りへ抜けた。

 平時は駅から降りてきたサラリーマン等を出迎える通りなのだろう。飲食店や喫茶店、飲み屋等が狭い路地に軒を並べている。駐車場などもあり一応は一般車が通れる程度の幅はあるが、全幅3.7mのティーガーⅠでは文字通りギリギリの幅だ。

 突き出たネオンの看板を、砲塔から半身を出したままの西住まほは少し頭を下げて避けた。かなり薄くなっているが、彼女らの周辺には僅かな煙が残っている。大洗のP40がこちらに逃げてきた証拠だ。

 まほは喉頭マイクに手をやり、周辺を哨戒しているティーガーⅡの直下に通信を送った。

「こちら1号車、4号車、周辺の状況はどうだ?」

『こちら4号車、商店街周辺に敵影なし。障害物置き場にも姿を見せていません。それとM3Leeを高速道路の高架上で確認しました。敵の偵察車両のようです』

「分かった。隊長車の救援に来るかもしれない。お前たちは引き続き警戒に当たってくれ。M3はそのままにしておけ。位置が確認できていれば、逆に把握しやすい」

『了解しました』

 通信を終え、まほは考える。偵察用のⅢ号戦車が撃破された事で敵状の確認は難しくなった。黒森峰有利の状況だが、油断は許されない。

「……居たか」

 やがて、その視界の先に見えてきた1両の戦車。傾斜装甲の形状からP40なのは間違いない。突き当りのT字路を右に曲がってゆく。

「………」

 区画に入る前に見た地図の構造を思い出す。確かこの先は袋小路だったか。

「榴弾装填。突き当りの手前で一旦停止し、砲塔を左10時の方向に転回」

 搭乗員に指示を飛ばす。既に道はティーガーが砲塔を十分に回せない程に狭い。スペースを確保できるT字路手前にティーガーは停車し、砲塔を左に向けた。

「撃て!」

 発砲指示と共に榴弾が放たれ、店舗の一つに撃ち込まれた。数秒の間隔の後に榴弾は爆発し、破砕した建物の瓦礫が道路を塞いでゆく。

「砲塔を正面に戻したのち、P40を追う。右に向かえ」

 榴弾の効果を確認し、まほは次の指示を与えた。落ち着いた動きで、そこに焦りは感じられない。

 右に向かったティーガーはやがて道なりに左へと曲がり、少し進んだ後に更に左へと曲がった。やや長い直線。前方にいるはずのP40の姿は見えない。更に先に行っているか。

「……予想通りか」

 まほは小さく呟くと、速度を上げるよう操縦手に指示を出した。

 やがて直線だった道は左への曲がり角となり、そのままぐるりと彼女らが入って来た侵入口へと繋がっている。本来ならば、だが。

「………」

 果たしてP40は瓦礫の前で立ち往生していた。砲身が短いだけに砲塔の転回こそ出来たようだが車体までは回せなかったようで、背面を見せたままになっている。

 その様子に、まほは自身の読みが当たっていた事を確信した。

 

 正面からではティーガーを抜けないP40にとって狙うべき箇所は側面か、背面。

 ティーガーより小柄な車体と優秀な操縦手の技量を活かし、彼女らはこの袋小路でまほの背面を取ろうと目論んだのだ。確かに砲塔も車体も満足に回せないこの道で背後を取られれば、ティーガーといえど危なかっただろう。

 だが、読めてしまえばこれの対策は容易だ。あらかじめ逃げ道を塞いでしまえば、逆に自らをこのように追い詰める結果となってしまう。

 

 最後の抵抗であろうか。P40から砲撃が放たれる。

 だが、やはりそれはティーガーの防盾に阻まれた。軽い衝撃がまほにも伝わるが、内部にまで貫通はしていない。

「………」

 まほは無言でP40を見ていた。更に砲撃。弾く。

「……最後まで諦めない、という事か」

 無駄な抵抗である。しかし、それでもなおP40は砲撃を繰り返す。

 傍から見れば見苦しい抵抗かもしれない。しかしまほは、それに敬意を感じた。隊長として、チームを勝利するために、無駄であろうと最後まで足掻く姿に。

「言っておくことはあるか?」

 声をかける。

「………」

「装填完了しました!」

 返答はない。車内の装填手からの声。

 まだ完全な決着ではないが、これで大勢は決する。アンチョビを失い士気の下がった大洗の部隊を各個撃破して終了だ。

「……勝って見せてくれ、か」

 我ながら無茶な頼みをしたものだ。まほは誰にも聞こえない声で呟き、攻撃を行った。

「撃て!」

 放たれる88mm徹甲弾。それは狙い過たずにP40の背面に撃ち込まれた。

 数秒の後、その車体から白旗が上がる。

 

『大洗女子学園・P40、走行不能!』

 

 まほは放送を聞き届けると、そこで初めて息をついた。

「皆、よくやってくれた。ここからは西側の撃滅に移る。この区画を撤収後……」

 次の指示を出そうとしたその言葉が途中で止まる。

 

 何かの音がする。遠くから、何かが走るような音が。

 

 まほは直下との通信を開く。

「こちら1号車、敵P40を撃破した。そちらから侵入した車両はあるか?」

『お疲れ様でした、隊長。そちらの区画に侵入した車両はありません』

 安堵の入り混じった直下の声。だが、まほの表情は険しいままだった。

「確かか?」

「はい、私とエレファントで哨戒し、郊外はⅣ号駆逐が見回っています」

「……そうか」

 通信を終え、再び耳を澄ます。やはり何かの走行音が聞こえる。先ほどよりも近い。

「全速後退。この袋小路から出るぞ」

 操縦手に指示を送り、ティーガーは後ろ向きに走り出した。超信地転回も出来ないほどの狭さだ。一旦ここから抜け出すしかない。

 走りながらもまほは思考を重ねる。更に音が大きくなる。増援が侵入してきてはいない、ではこれは何だ?

 脳裏に一つの可能性が浮かんだ。大洗の10両目、シークレット枠。

「……いや」

 だが、その可能性をまほは否定した。それは有り得ない。動かす人間がいないのだから。

 後退しながら曲がり、更に逆走で出口を目指すティーガー。右に、右に、そして右に。

 音は既に耳を澄まさずともはっきりと聞こえていた。こちらに近づいている。否、ティーガーが近づいているのか。袋小路の出口が見えてきた。そこから抜ければ転回も可能となる。

 その時、1両の戦車がそこから飛び出してきた。

「何?」

 まほは一瞬、言葉を失った。

 

 観客席モニター横、大洗側の戦力表示の最下段。伏せられていた車名が現れる。

『CV38』

 

 間違えようもないシルエットだった。小柄な車体に、取り付けられた20mm機銃。その豆戦車がティーガーの背面にまっしぐらに向かってくる。

 砲塔は回せない。転回も出来ない。

 だがそれより、まほの脳裏に浮かんだのは単純な疑問だった。

「(誰が乗っている?)」

 車体はともかく、試合への参加者を伏せる事はできない。間違いなく、大洗に10両目に搭乗する事が可能な人員はいなかったはず―――

 そこまで思考を巡らせ、まほはある事に思い当たった。

 

―――今撃破したP40には、何人乗っていた?

 

 

 突き出た白旗が風になびく。袋小路の奥で停車したままのP40。

「上手くいってくれたッスかねー?」

 操縦席で、ペパロニは体を伸ばしながら言った。

「やれるだけはやったわ。後は、統帥と麻子さんを信じて待ちましょう」

 砲手席のカルパッチョがそう答え、車長席に目を向ける。そこには誰もいない。

「……回収まで、ちょっと寝るかな。カルパッチョ、回収車が来たら起こしてもらっていいッスか?」

 ペパロニの声に僅かの悔しさが混じっている事にカルパッチョは気付いた。おそらくは本人も自覚していないであろう、最後までアンチョビと一緒に戦いたかったという小さな嫉妬。

「……ええ、お疲れ様」

 カルパッチョは優しく答え、静かにアンチョビ達の勝利を祈った。

 

「やれやれ、何とか袋小路を出る前に間に合ったな」

「『途中下車(ソスタ)作戦』、ここまでは成功か! 仕留めるぞ!」

 全速で走るCV38の中、麻子とアンチョビはそれぞれがティーガーを見据えて言った。

 

 煙幕で足止めを行っている間にアンチョビと麻子がP40から降車。そこから徒歩で駐車場に隠していたCV38に搭乗。ペパロニとカルパッチョのみを乗せたP40を追いかけるティーガーが狭所に入り、後背が空いた所に攻撃を仕掛ける。

 ここまでは上手く行ってくれた。だが―――

 

「なあ、アンチョビ。やっぱり一つ聞いていいか?」

 眼前のティーガーが急激にその大きさを増す中、麻子はアンチョビに尋ねた。

「何だ?」

「気になっていたんだが、こいつの20mm機関砲であいつを抜けるのか?」

「普通の『戦争』なら無理だ。だが『戦車道』ならまだ可能性はある! 背面のエンジン冷却部、そこを破壊してラジエーターを使えなくさせれば判定装置は動く!」

 そう言い切るアンチョビに、麻子はあくまで淡々と聞いた。

「その確率は?」

「……その、何だ、上手い感じで機関部に弾が当たってくれて、それで、何かいい感じに判定装置が働いてくれれば!」

 銃撃可能な距離まで来た。麻子は呆れと諦めが入り混じった声で言った。

「……それは一般的に『奇跡』と言わないか?」

 

(ああ、麻子、その通りだ。こんなもの、作戦とも呼べやしない!)

 

 アンチョビは麻子の言葉に答えず、銃座に着いた。

 

(だが仕方ないだろう!? 大洗の戦力で、あの西住姉妹の裏をかこうと思ったら、これしか私には思いつかなかったんだ!)

 

 照準を合わせ、俯角を可能な限り上に向ける。狙うは一点、ティーガー機関部。

 

(ああ畜生! 戦車道の神様、アンタがもしそこに居て、少しでも慈悲ってのがあるんだったら、この先の人生で二度と砲弾が貫通しない呪いがかかってもいい! 食べるパスタが全て半煮えでもいい!)

 

 泣きそうな顔でアンチョビはトリガーを引き絞る。

 

(だから頼むよ! これだけは、この攻撃だけは通させてくれ!)

 

 まほとアンチョビ、両者の間でマズルフラッシュの光が迸った。

 

 

カタクチイワシは虎と踊る 第四十話 終わり

次回「目覚める虎と空飛ぶウサギ」に続く

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