カタクチイワシは虎と踊る   作:ターキーX

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第二十一話 溶けるチーズと天の雷

 

 観客席に設置された大型プロジェクター。マルチ分割されていた画面のひとつが拡大され、木々の間を駆け抜けるクルセイダーを映し出す。

「さあ、いよいよ撃ち合いが始まりました! 丘を挟んだ東側、突撃を仕掛けた大洗側が果敢な攻撃を行います!」

「戦車の総合力では大学選抜が勝るから、大洗としては掻き回す事で少しでも有利にしたいところでしょうね」

 実況席の大河の声に、横のケイがコメントを添える。

 

「………」

「………」

 

 その客席の賑やかな個所からやや離れた一角、まるで人避けがされているような空白地帯があった。二人の女性を中心として、見事な円状の空席ができている。

 ひとりは西住流家元・西住しほ。

 もうひとりは島田流家元・島田千代。

 二人は口も開かず、また視線を交わす事もない。しかしその両者の間には「刺々しい」という表現でさえ柔らかく思えるような殺伐とした空気が漂っている。

 

「始まりましたわね」

「ええ」

 

 千代の言葉に最低限の返事でしほが答える。

 プロジェクターの表示が両戦力の動きを示す俯瞰図に変わる。丘を挟んで三対の矢印が向き合っていた。その内、大洗側の矢印のひとつが大きく突出している。対して大学側は中央の矢印が二又に分かれ、その突出したところを横から攻めようとしている。

 

「速攻戦ね」

「稚拙ですね」

 

 しほの言葉に、今度は千代が最小限の表現で、しかし辛辣に答える。

 

「………」

「正直……」

 

 口を閉じるしほ。千代は初めて視線をしほに向けた。

 

「正直……手の内をお見せしたくは、ありませんでした」

「手の内?」

 

 謎めいた言葉。しほも初めて千代に視線を向けた。両者の視線が交わされる。

 

「西住姉妹を叩き潰すのは、彼女らが大学に上がってきてから万全の態勢で行いたかったのですけど」

「……島田流には『傲慢』を旨とする教えがあるようですね」

「彼我戦力を比較した上での客観的な見解です」

 

 その口調はあくまで穏やかなまま。しかし仮に今、両者の間に割り入った者がいれば殺気に満ちた空気に昏倒するだろう。

 

「そちらのお二人の強さは私も知っていますわ。本当に強く、技量があり、戦車乗りとしてのセンスを持ち合わせている」

「………」

「ただ……うちの娘も、なかなかのものでして」

「島田愛里寿。小学校入学時から文武共に卓越した才能を示し、12歳にして高認にも合格。13歳にして大学戦車道の選抜チーム隊長を務める天才……お噂は伺っています」

「恐縮です……母親として、私も驚きましたわ。私が20歳を過ぎてようやく修めたような島田の戦術を、一度教えただけで応用も含めて習得してしまうんですから」

 

 そう言いつつ千代は微笑んだ。自分の娘を誇らしく思う気持ちは本物なのだろう。

 

「今の学生戦車道に、あの子に勝てる者はいないと断言できます。西住姉妹だろうと、それに勝ったアンチョビさんや、逸見さんだろうと」

「……ふふ」

 

 その時、しほの口元に僅かな笑みが浮かんだ。

 

「何か?」

「いえ……母親と言うのは、同じような事を考えるものだなと」

「……同じような?」

「私も全く同じことを考えていましたから。あの決勝戦までは」

「………」

 

 千代は無言で扇子を広げ、口元に寄せつつプロジェクターに視線を向ける。

 丘の頂に向かって進撃する二両のティーガー、その砲塔から身を出す西住みほ、西住まほの姿がそれには映っていた。

 

 

 劇場版カタクチイワシは虎と踊る  第二十一話 溶けるチーズと天の雷

 

 

「後続、大丈夫か?」

 まほは後方を振り返りつつ、僚機へ通信を送った。重心のバランスが悪いIS-2が若干遅れているものの、全体としては滞りなく進めている状況だ。

『こちら最後尾の副隊長、全体の遅延なし。後方に回り込んでいる敵もいないわ』

「了解。東側のチェダー中隊が集中砲火を受ける前に丘に上がり、支援を行う」

 最後尾を進むT-34/85のカチューシャからの応答に頷き、まほは改めて丘を見上げた。

 遠くから遠雷のような砲声が聞こえてくる。

 

「こちらカマンベール中隊。まもなく丘上に到着、支援を行う」

『モッツァレラ中隊、了解。頼んだわ』

『ゴルゴンゾーラ隊、こちらもあと少しだ』

 

 エリカの声と──アンチョビの声。

「………」

 数秒待ち、まほは再度通信を開いた。

「チェダー中隊、応答を」

『あ? あ、ああ! こちらチェダー中隊、何とか持ちこたえてる。頼むぜ』

「……何かあったのか?」

 少し戸惑うような音子の声にまほが尋ねる。

 それに返ってきた言葉は、奇妙な問いかけであった。

『あー、いや、ちょっと聞きてえんだけどよ。30―4を3で割ったら幾つだ?』

 

 

「(高三でそれ分かんないのはマズいッスよ、姐さん……)」

 ヤークトパンター車内、搭乗員を務める舎弟たちは彼女の言葉に一様に思った。

 

 森林を抜けて走るチェダー中隊。先頭をヤークトパンターが走り、後続のローズヒップたちを先導している。

 轟音と共に付近の地面が土煙をあげる。音と衝撃の間隔はほぼ無い。敵もかなり距離をつめてきているようだ。

 その切羽詰まった状況の中ながら、車長の音子は焦るでなく何かを考えていた。

 

『……8で2余る。それが何か?』

「いや、こっちに攻めてきてる数が妙に少ねえ気がしてな」

 

 まほの答えに、首を傾げつつ音子が言った。

 最初にチャーフィーを撃破して、その後中央の部隊からの増援。数的には十数両がこちらに来ていなければおかしい計算となる。

「なんだけどよ……どーも、そんなには居ねえ感じなんだ」 

 それは、冷静な観察や洞察に依るものではない。音子の、動物めいた直感によるものだ。

 直後、激しい衝撃音。至近弾が撃ち込まれたようだ。

「うおっと!? 近くなってきやがったな! まあそんな感じだ! 敵さん、何か仕掛けてる臭いぜ。ゴルゴンゾーラ、そっちも急ぎな!」

『ゴルゴンゾーラ了解! 任せておけ!』

 アンチョビからの応答を確認し、音子は通信を切ると搭乗員に激を飛ばした。

「もうひと踏ん張りいくぞ! 各車両、方向転換! もう一回攻撃を仕掛ける!」

『お任せくださいですわーっ!』

 張りのあるローズヒップの声。お嬢様学校と思っていた聖グロリアーナにも面白い奴がいるものだ。音子はそう思い、僅かに笑みを浮かべた。

 

 

「………」

 音子との通信を終え、アンチョビはCV38の上部ハッチを僅かに開けると双眼鏡を構えた。

「あれは……」

 

 拡大される視界の中、前線に向かって進む2両の戦車。一両はパーシング、もう1両は──

 

「こちらアンチョビ、1000m前方をT-34/85とパーシングが進攻中」

『仕掛けるか、アンチョビ殿?』

「あくまで標的は島田愛里寿のセンチュリオンだ。ここはやり過ごす」

 後方の茂みに潜むテケ車からのしずかの問いかけに、アンチョビは首を振った。

『……T-34/85か』

 同様に後方で隠れているBT-42。カンテレの音色と共にミカの声。

「どうした、ミカ?」

『副隊長。ちょっと言っておきたいんだけど……あのT-34/85には注意しておいてくれるかい? アレには、私たちの先輩が乗っている』

「先輩?」

『ああ……トウコという継続の前隊長でね。私の数倍は面倒で、厄介な相手さ』

「それは……相当に厄介だな」

 アンチョビは息を呑みつつ双眼鏡を戻した。

 

 

 第四の部隊・ゴルゴンゾーラ隊は丘の南南西、エリカのモッツァレラ中隊とルミ隊が睨み合うのを横目に静かに大学側の陣地へと浸透していた。

 彼女らこそしずかが提案し、それにアンチョビが幾つかの修正を加えた「四種のチーズピザ作戦」の肝である島田愛里寿を密かに仕留める部隊である。

 まず高速戦車を中心としたチェダー中隊で東側の部隊に先攻をかけ、大学側に展開させる余裕を残して中央の部隊にあえて側面を叩かせる。

 流石に全車両がそちらには行かないが、半数以下になった小隊で丘を警戒しつつ他方にまで意識を向けるのは困難だ。そこを利用し、少数の部隊で敵陣深くに入り込み隊長である愛里寿を仕留めるという狙いである。

 過去の大学選抜の試合から、緒戦での愛里寿の行動はほぼ予測できていた。すなわち展開している各部隊から等距離に位置する、陣地の後方中央部。

 その手前まで、アンチョビ達は辿り着いていた。

 

 

 ゆっくりと進むCV38の車内で、アンチョビは地図を広げるとそこに幾つかの印を書いた。

「このままでいいのか?」

 横で操縦桿を握る麻子が丁寧に操縦しつつ尋ねる。

「ああ、このままだ。センチュリオンはどの部隊にも確認されていない。おそらくは予測位置からまだ動いていないだろう」

 これで上手く愛里寿の不意を突き、センチュリオンを撃破できれば大学側の足並みは大幅に乱れる。そこに丘からのカマンベール中隊の支援攻撃が加われば、総崩れさせる事も出来るはず。アンチョビはそこまで考え、視線を上げた。

 愛里寿が陣取っていると思われるポイントを迂回するように進む。正面からでなく側面から仕掛ける態勢だ。

 

「次の稜線を越えた先に目標はいるはずだ。私が先行して偵察。センチュリオンを確認できたら一気に進攻して仕留める。準備はいいか?」

『委細承知』

『任せるよ』

 

 張り詰めたアンチョビの声に、間髪入れず二人からの応答が返ってくる。 

 草むらの生い茂る箇所をCV38は進み、やがて稜線の手前まで到達する。アンチョビは再度双眼鏡を構え、その向こう側を観測した。

「……いた!」

 その視線の先、少し盛り上がった視界の開けた位置に佇むセンチュリオンがあった。周辺に護衛車両は見当たらない。それは島田流の自信の表れなのか、戦術のひとつなのか。

「(周辺に遮蔽物は無し……いけるか?)」

 センチュリオンの周囲の状況を手早く確認し、アンチョビは考えた。

 東側の森林からの砲声が遠く聞こえる。速度に勝りつつも火力、装甲面で大学側に劣るチェダー中隊がパーシング部隊を支えられるとは思っていない。あくまで役割は足止めだ。アンチョビ達に与えられた時間はさほど多くはない。

「センチュリオン発見。時間もない、一気に行くぞ。ミカ、私のCV38としずかのテケ車が前方からまず仕掛ける。お前は側面に回り込んで奇襲を」

『承知。いよいよだな』

『ふふ、責任重大だね』

 自身が提案した作戦という事もあるのだろう、しずかの声には緊張がある。

 対してミカは平時と変わらない、まるで呑気な口調である。しかし彼女と幾度となく勝負を繰り広げたアンチョビには、彼女らが既に臨戦態勢である事が分かっていた。

 

「行くぞ、アーヴァンティ!」

『いざ、参る!』

 

 鬨の声と共にCV38と赤いテケ車が稜線を越えた。一定の距離を置きながら並走し、センチュリオンに接近してゆく。

 夏の生い茂る草が助けてくれたか、センチュリオンの反応はアンチョビの予想よりやや遅かった。500mを切る距離まで近づいた時点でようやく気付いたのか、2両の豆戦車に砲塔を向ける。

「ここで一発撃たせる。麻子、回避を頼む!」

「分かった」

 淡々と麻子は答え、操縦桿を捏ねるように動かした。左右に車体が揺れ、相手の狙いをつけ辛くさせる。

 横を進むテケ車の37mm砲が火を吹いた。その火力は500mで30mm装甲を貫通する、豆戦車としては破格の火力を誇るが流石にセンチュリオンの装甲を抜く程ではない。BT-42の奇襲をより成功させるための牽制だ。

 果たしてしずかの放った徹甲弾はセンチュリオンに命中するものの、損害を与える事無く弾かれた。

「(来るか!?)」

 アンチョビは眼を凝らし、センチュリオンの次の動きを待ち構えた。だが──

「ん?」

 センチュリオンの砲塔のハッチが開いた。そこから一人の少女が姿を見せる。

「……な!?」

 

 

「フヒヒッ」

 

 

 そこから現れたのは、愛里寿ではなかった。

 ボサボサの黒髪を雑に纏めたヘアバンドから伸びた、アンテナめいた飾りが揺れる。

 T-34/85に搭乗していた筈のトウコの姿がそこにあった。

「……しまった、さっきのT-34か!?」

 瞬間、アンチョビは愛里寿の意図を察し後方を振り返った。

 

 

「フヒヒッ、驚いてる、驚いてるねっ」

 センチュリオンの砲塔からCV38の戸惑う反応を確認し、トウコは愉快そうに笑った。

「(まあ、アタシも隊長からいきなり言われた時には驚いたからねェ)」

 数十分前、愛里寿から言われた指示をトウコは思い出す。

 

『一時的にお前の車両と乗り換える。敵の奇襲を撃退した後、再合流だ。それまでは撃破されるな。敵の動きだが……』

 

 まるで雲行きから午後の天気を予想するように平然と語る愛里寿の姿に流石にその場では半信半疑のトウコだったが、こうして彼女の予測通りにアンチョビ達が姿を現した以上、それを疑う余地は無かった。

「こちらトウコ、敵と遭遇。前方に豆戦車二両。隊長の言う通りだったら、多分側面に一両回り込んでるね」

『分かった。じきに第四部隊の攻撃が始まる。足並みが乱れた所を殲滅しろ』

「……りょーかい」

 愛里寿の声には読みが当たったという高揚も興奮も無い。それだけがトウコにとっては不満であった。

「見てみたいねェ、あの子が本気になってるトコ」

 通信を終え、トウコは呟いた。

「ま、この試合、その前にケリが着きそうだけどね……右側面を警戒しつつ後退。来るよ。5号車、砲撃後に前進」

 高速で下がるセンチュリオン。直後、その手前の地面が砲撃によって噴き上がる。大きな爆発はない。おそらくはセンチュリオンの装甲を貫くための、成形炸薬弾。

 

 

 その時、空気が震えた。

 直後、丘の方角からの轟音。同時に高く噴き上がる噴煙。

 

 

「……フヒヒッ、始まったね」

 先ほどの炸薬弾が打ち込まれた方向に、センチュリオンの背後から90mm砲が撃ち込まれる。それを回避しつつ慌てるように姿を見せるBT-42。

 精巧な擬装施されたシートを剥がしつつ、一両のパーシングが姿を現した。

「こっちも、終わらせるとしようか!」

 

 

 轟音が響く、その数分前。

 丘の上に展開する10両の戦車が半円の陣形で展開していた。頂上を押さえたカマンベール中隊の車両である。

『全車両、展開完了! いつでも支援いけるわよ!』

 通信機からのカチューシャの声に、まほは頷いた。

「……よし。各車両、榴弾装填」

 そう指示を出すまほのティーガーの横に位置する、もう一両のティーガー。そこからみほが身を出しつつ周囲の状況を確認する。

 チェダー中隊は一撃離脱を繰り返し、何とか撃破こそ回避しているが次第に疲弊している。モッツァレラ中隊は平原で大学側部隊と正面からの撃ち合い。こちらは大学側も足止め狙いなのか積極的な攻撃は仕掛けていないようだ。

 アンチョビ達のゴルゴンゾーラ隊はみほの位置からは確認できない。おそらくは丘下の小隊の、更に先。

「号令に合わせて一斉に撃ちます。呼吸合わせてください」

 ティーガーの搭乗員に名乗り出た黒森峰のメンバーに、みほは落ち着いた口調で言った。

 一瞬の静寂。各車両の装填が完了する。

 まほは全車両の準備が整った事を確認し、右手を掲げた。

「撃て……」

 

 

 直後、丘の頂点に大爆発が起きた。

 土砂が数mもの高さに吹き上がり、その場にいた全員の視界を妨げる。

 

 

『アイヤーッ!?』

 T-44に乗っていた南陽子の悲鳴。土煙の間から、文字通り“吹き飛んで”腹を見せて白旗を上げるT-44の車体。

『だ、弾ちゃーくっ!?』

 辛うじてその衝撃を回避したⅢ突から、エルヴィンが叫んだ。

「これって!?」

 みほは砲撃を止め、着弾のあった地点を見た。

 通常の戦車の榴弾による弾痕どころではない。まるでクレーターめいた穴がそこには作られていた。

「一体、何が……!?」

 

 

「不覚、読まれていたか……!」

 しずかは苦渋の表情を浮かべ、傍らのCV38を見た。

「な、何、今の音!?」

 車内にまで響いた丘への謎の攻撃に、テケ車内の鈴が動揺する。 

「分からぬ! 如何にする、アンチョビ殿!?」

『せめての手土産だ、センチュリオンだけは撃破する! その後、全力で撤退。再合流して態勢を立て直す!』

 アンチョビの声には隠せない焦りがあったが、それでも決断は素早かった。その迷い無い指示に、しずかは自分を取り戻す。

「承知!」

 

『……私はどう動けばいいかしら?』

 

 ミカではない、通信に割り込む4人目の声。“ベルウォールの熊”こと土井千冬の静かな問いかけ。

『土居さん、あんたまではまだ気付かれてない筈だ! 予定通り頼む!』

『フフ、了解』

 含み笑いを残し、千冬は通信を切った。

 改めて前を見据える。センチュリオンと、隠れていたパーシング。

「……楯無高校百足組、参る!」

 しずかの叫びと共に、テケ車が一際大きく唸りを上げた。

 

 

「おーおー、逃げずに挑んでくるか。いいねっ、いいねっ、楽しみ方を分かってるねっ」

 トウコは楽しげに笑うと、センチュリオンの砲身を向けた。

 CV38の20mm機銃がセンチュリオンの正面装甲に火花を散らす。76mmの正面装甲を撃ち抜くには火力が足りていない。

「っとと! あんまり傷付けて返したら、隊長に怒られちゃうからねっ」

 BT-42を視界の端に入れつつ、センチュリオンは円を描くような動きで攻撃を回避する。

 テケ車がその横を掠めるように走り抜けた。赤い車体がトウコの目に留まる。車上から闘志に満ちた視線を送るしずかの姿も。

「……フヒヒッ」

 トウコは再び笑った。

 直後、パーシングからの砲撃がCV38に向けて放たれた。90mm徹甲弾を紙一重で避けるものの、車体のバランスを崩したのか減速して大きくよろめく。

「おおー! CV38に向けて榴弾! 細かく狙わずに撃って!」

 チャンスと見たトウコは砲手に指示を飛ばした。ここで副隊長兼参謀であるアンチョビを撃破すれば、試合の大勢は決まる。

 豆戦車二両とBT-42だけで敵陣に踏み込んできた度胸は大したものだが、これで終わりだ。

 

 そこまで考え──トウコは違和感を覚えた。

 

 ──何故こいつらは、センチュリオンを仕留めるために『この程度』の戦力で来た?

 

「フヒッ!?」

 突然の別方向からの殺気に、トウコは身体を震わせた。

 

 

 丘の中腹、車体の各所に枝を括り付け簡素な擬装を施されたエレファント内。

「……ここ」

 千冬は照準をセンチュリオンに合わせ、トリガーを引く。

 距離2000mにして150mmの装甲すら貫く、長砲身88mm砲が火を吹いた。

 

 

劇場版カタクチイワシは虎と踊る  第二十一話 終わり

次回「アリスとカンテレ」に続く

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