FAIRYTAIL SEVEN KNIGHTS   作:マーベルチョコ

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第120話 生きろ

微睡む意識の中から徐々に復活してきたハルトはゆっくりと目を開けた。

 

「ここは……そうだ!エミリ…ぐっ!?」

 

意識が戻ったハルトは起き上がろうとするが頭に強い痛みを感じ、また倒れてしまい、体のいたる場所から痛みを感じる。

 

「……ここ、どこだよ」

 

ハルトが痛む頭を押さえながら周りを見ると、そこはどこかの洞窟だった。

 

「よかった……目を覚ましたのね」

 

そこにいくつかの果物を持ったエミリアがやってきた。

 

「エミリア!!無事だったのか!!うっ……!」

 

ハルトはまた起き上がろうとして痛みで倒れる。

 

「あなたよりはね。私を庇って頭と身体中を強く打ったみたい」

 

エミリアは濡れタオルでハルトの痛む頭を冷やす。

 

「……何で私を助けたの?」

 

「なんでって、そりゃあ……」

 

ここでエミリアが好きだから、と言えるほどハルトの度胸はなかった。

 

「な、仲間だからだよ」

 

「そう……」

 

エミリアはそう答えて、また悲しそうな顔をし黙ってしまう。

 

「今回の旅の最終的な目的は知ってる?」

 

「あ?確かエミリアの中にいる化け物を倒すんだろ?」

 

「じゃあ、その方法は?」

 

「……いや、何も聞かされてねえ」

 

それを聞いたエミリアは悲しそうな笑みを浮かべた。

 

「私の中にいるアスラを倒すには封印された状態で倒すの。復活した状態じゃ誰も倒すことなんてできない。だから封印された状態で倒すしかないの。私に封印された状態で……」

 

「ってことはエミリアを殺すってことか!?」

 

エミリアは静かに首を縦に振った。

 

「あの王子様は私からアスラを取り出すのを手伝ってくれるって言ったの……だから今回はこうやって旅をしてる」

 

「エリオは知ってんのかよ?」

 

「私が誰にも言わないでって言ったの。人を殺すのが目的なんて知ったら誰も賛成なんかしないわ。あの王子様はそうでもないみたいだけどね……」

 

「どういうことだ?」

 

「あの人は国のためならなんでもやるって……たとえ人を殺してでも」

 

今回の旅の目的がエミリアを殺すことにも驚いたが、それを分かった上で自分たちを雇ったジェイドに苛立ちを覚えた。

 

「………私が吹き飛ばされたとき、なんで助けたの?」

 

エミリアが小さな声でハルトに質問した。

 

「なんでって、仲間だったら助けるだろ?」

 

「死に行く仲間を助けるのが仲間なの?」

 

エミリアのその言葉がハルトに深く刺さった。

 

「私は幼い頃からアスラを封印するために命を捧げろって言われ続けてきた。年端もいかない子どもに死ねって行ってくるんだよ?考えられる?………私はこんな世界に何も夢を持たないし、希望もない……吹き飛ばされたときに死ねばよかった………」

 

エミリアは暗にあの時助けなければ死ねたのに、とハルトに言った。

 

「じゃあ、なんで俺を助けた?」

 

「え?」

 

「死にたかったら俺を助けずにどこにでも行けばいいだろ」

 

エミリアはそう言われ、少し目が泳ぐ。

 

「何も希望を持たない奴はそんなことしないと思うけどな」

 

「貴方に何がわかるの……」

 

「わかるよ。そんな人間いっぱい見てきた」

 

ハルトはそう言いながら、自分の故郷であるボスコを思い出した。

自分が育った歓楽街にはどん底に陥った人間が数多くいた。

 

「エミリアの目は絶望した目じゃない。生きたいって思ってる目だ」

 

「………アンタに何がわかるのよ!!生きたくても生きられない運命の私を!!!」

 

エミリアは立ち上がり、目に涙を溜めながらハルトに向かって叫ぶが、それはどこか自分に向かって叫んでいるようにも見えた。

生きたくても生きられない。

エミリアは自分でハッキリと生きたいと言ったのだ。

ハルトはそんなエミリアに何を言えばいいかわからなかった。

 

 

一方カミナたちはハルトたちより一足早くフラスタに辿り着き、空き家でウルフヘイムとの戦闘で傷ついた体を治療していた。

 

「っ……」

 

「ごめんね。片手だと巻くのが難しくてね」

 

カミナは片腕をクスコに手伝って貰いながら包帯を巻いていた。

クスコも体に包帯を巻いているが、全員の中ではまだ軽傷のほうだ。

ラナはウルフヘイムが檻を破った際の反動で気絶してしまい、ベッドに寝かされており、外の様子を窓から見ていたジェイドも頭に包帯を巻いていた。

そこにエリオが切迫詰まった表情でジェイドに近づいていく。

 

「エミリアを探しに行く」

 

「ダメだ。外は親父が送った軍隊と雇われた魔導士たちがいる。できるだけ見られるのは避けるんだ」

 

「そんなの関係あるかっ!!!俺だけでも……!!」

 

「四天王の1人ウルフヘイムに顔を見られているんだ。それにアイツは鼻がいいはず、ここはカミナが結界を張ってくれているから場所はバレないが、結界の外に出た瞬間バレる。勝手な行動するな」

 

「お前……!!」

 

「落ち着いて2人とも!ここで争っても意味がないだろう?今は2人が無事であることを信じよう」

 

喧嘩になりそうなところクスコが止めに入り、2人を宥める。

エリオはクスコに宥められ出て行きはしなかったが、納得はしていないようだった。

ジェイドは半開きになった窓から忙しなく走るフィオーレ王国軍の兵士を見て、ポツリと言葉を零した。

 

「間に合えばいいが……」

 

 

ハルトが目を覚ましてから、次の日ハルトは自身の体を確かめるように準備運動をして、手を握ったり開いたりしていた。

 

「よしっ!もう動けるな。じゃあ行くか!」

 

「……」

 

エミリアは自身の秘密をハルトに話してから、話しかけても何も返してくれなかった。

ハルトに反応せず1人で洞窟から出て行ったエミリアをハルトは慌てて追いかける。

 

「なあ、どっちに向かってるのか分かってるのか?」

 

「………」

 

ハルトを無視してエミリアはどんどん森の奥に進んでいく。

ハルトは仕方がないなと思って黙ってついて行く。

 

「………なんでついてくるのよ」

 

「仲間だからな」

 

「………ハァ」

 

エミリアは呆れたようにため息をつき、先を進んでいく。

やがて夜になり、2人は野宿をしているがその距離は離れている。

会話もなく、エミリアは目すら合わせないがハルトはエミリアの近くにいた。

 

「………」

 

「………」

 

会話がないため、夜の森の音が2人を包み込むが、ハルトの内心は焦っていた。

 

(気まずっ!)

 

エミリアにバレないように心の中で叫ぶがだれも助けてはくれない。

 

(エミリアは会話しようにも無反応だし……仲良くやりたいんだけどなぁ。空からなんかきっかけでも降ってこねえかなぁ)

 

ハルトが夜空を見上げてそんなことを考えていると、突然空から巨大な卵が降ってきた。

 

ガンッ!!

 

「がっ!?」

 

「きゃっ!な、何?」

 

卵はハルトの顔面にぶつかり、ハルトはその痛みで悶え、エミリアは突然降ってきた卵に驚いた。

 

「卵?なんで空から……鳥の巣なんて見当たらないのに」

 

エミリアは恐る恐る卵に近づき、ゆっくりと触れるとその卵はビクッと動いた。

それに驚き、一瞬手を離すがもう一度しっかりと触れる。

 

(暖かい……)

 

エミリアは両手で卵に触れて、その暖かさをゆっくりと感じる。

それを見ていた鼻を赤くしたハルトはエミリアに話しかける。

 

「その卵どうすんだ?」

 

「……任せて、開け孔雀宮の扉、クックス」

 

エミリアが星霊の鍵から召喚したのは2mはある大きな孔雀だった。

 

「クックス暖めてあげて」

 

エミリアがクックスにそう指示するとクックスはその大きな羽で卵を包み込んだ。

 

「暖めてあげるのか」

 

「うん……放っておいたら可哀想だし」

 

そう言ったエミリアの表情はとても慈愛に満ちたものだった。

ハルトがそれに見惚れているとエミリアはクックスに近づき、片翼を広げたクックスに抱きつき暖をとって目を閉じた。

 

「じゃあ俺も……」

 

ハルトもどさくさに紛れてエミリアに近づこうとするが、近づいた瞬間、クックスがハルトの頭を嘴で小突いた。

 

「イタッ!何すんだよ!」

 

「………」

 

クックスはハルトを敵を見るかのように睨みつける。

ハルトが意地でも近づこうとするが、クックスの突きがそれを邪魔する。

ハルトとクックスの攻防は夜遅くまで続いた。

 

 

朝になり、ゆっくり目を覚ましたエミリアは目の前にある昨日降ってきた卵を優しく撫でる。

 

「目ェ覚めたか、食べ物取ってきたから食えよ」

 

そこに果物を持ってきたハルトが声をかけたが、エミリアはそれより気になることがあった。

 

「なんで顔ケガしてるの?」

 

「なんでもねぇよ」

 

その後2人は森を進むが、ハルトは歩いているのに対して、エミリアはクックスに乗りながら卵をローブで包み込んで抱きつき出来るだけ暖めていた。

 

「意外だな」

 

「何が?」

 

「絶望してるって割にはそうやって優しいところとか」

 

「………誰にも助けてもらえないなんて悲しいじゃない」

 

そう言ったエミリアは悲しそうだった。

自分には誰も助けてくれなかった。

死ぬしかないという世界に絶望してしまっている。

だから、誰も信じられないなら自分だけはそうはならないように助けれる命は助けようと思っている。

 

「………なぁ」

 

ハルトがエミリアに話しかけようした瞬間、彼らの目の前に何かが落ちる。

その衝撃で風が吹き荒れ、土埃が舞い上がり、姿が見えないがハルトは流れてくる匂いで、額から冷や汗が流れ出る。

 

「まじか………」

 

思わず悪態をついたハルトたちの目の前に落ちてきたのは先日ハルトたちを追い詰めたイシュガルの四天王の1人、ウルフヘイム。

 

「漸く見つけたぞ。ガキども」

 

明らかに苛立った様子のウルフヘイムにハルトはどうするべきか思考を巡らせる。

 

(大人しくしておくか?……いや!エミリアのことがバレればどうなるかわからねぇ!!エミリアを庇いながら逃げる?ダメだ!守りきる自信がない!!)

 

自分より強大な敵にハルトは焦りが出始める。

ハルトは一瞬振り返ると、怯えるエミリアが目に入った。

それを見たハルトは決心する。

 

「わ、私が……」

 

「逃げろっ!!」

 

エミリアが自分が身を差し出せば、この場が収まると考えたエミリアは自ら名乗ろうと恐怖で震える声を振り絞るが、それよりハルトが大声でエミリアに向かって叫ぶ。

 

「逃げて……生きろっ!!!」

 

その言葉はエミリアに軽い衝撃を受ける。

 

(生きろ……?)

 

今まで言われたことのない言葉、その言葉はエミリアに深く突き刺さった。

エミリアはウルフヘイムと対峙するハルトの背中を見つめる。

 

「おい!鳥!早くエミリアを連れて行け!!」

 

「わかっているわ!それと某の名はクックス!」

 

「喋れんのかよ!!」

 

クックスはエミリアを乗せその場から離れていった。

ハルトは引きつった笑みを浮かべながらウルフヘイムに構える。

 

「何か勘違いしとるようじゃが、別にワシはお前らを殺しにきたわけじゃないわい」

 

「そんなのわかってんだよ。ただ……」

 

ハルトの両拳から黄金の魔力が灯る。

 

「好きな女の前でカッコつけたいだけだ」

 

ウルフヘイムはそれを見て、ため息をこぼす。

 

「全く最近の若者はァ……戦場に恋愛ごとなんぞ持ち込みおって……

仕置きが必要じゃな」

 

他を威圧する雰囲気を滲ませ、睨んでくるウルフヘイムにハルトは飛びかかった。

 

 

森を駆け抜けるクックスの背中に乗ったエミリアはさっきのハルトの言葉を思い返していた。

 

(生きろなんて……初めて言われた)

 

 

エミリアたちは今ハルトたちが目指しているフラスタ出身だった。

元々エミリアの両親はフラスタ国の専属魔導士であり、国と国王に仕えていた。

そして母親にエミリアが宿ったとき、まだ胎児であるにも関わらず、聖十大魔導士に匹敵するほどの大きな魔力を持つことに驚かれた。

生まれる前から強大な魔力を持つエミリアの事を知った国王は両親にある提案を持ちかけた。

それはフラスタ国が古代から封印してある禁忌『アスラ』を封印してはどうか、と。

その時アスラを封印していた術式が何者かの手により破壊されかけていたのだ。

直すにも古すぎる術式のため、誰も手が出せず、封印されるのを待つだけとなっていたが、その時エミリアの存在が希望になったのだ。

その希望とはエミリアとアスラを生体リンク魔法で繋げ、エミリアの体内に封印することだった。

しかしその代償でエミリアは魔法がほぼ使えなくなってしまうのは明らかだったが、エミリアの両親はそれを快諾した。

というのも、エミリアの両親はエミリアを恐れていたのだ。

兄であるエリオでも魔法の才があるとはいえ、それは年相応のもの。

育てていけば偉大になると思えるものだった。

しかし、エミリアは生まれる前から化け物級の力を持った子。

自分たちで制御できるかわからなかった。

そこで魔力をほぼ全て奪うことで、自分たちの心の平穏を保とうとした。

そして生まれたばかりのエミリアにアスラを封印する時………

 

「それではアスラをお前たちの娘に封印する……良いな」

 

「はい!早くしてください!!」

 

「早くやりましょう。妻がもう限界です……」

 

フラスタ国の奥地に広がるアスラが封印されている古代都市で、フラスタ国王がエミリアの両親に確認を取ると母親は産んだばかりというのに気が狂ったように催促し、父親はやつれた様子だった。

母親は体内から自分のものではない強大な魔力を浴び続け、気がおかしくなってしまい、それを世話していた父親は疲れてしまったのだ。

 

「わかった……それでは始めよう」

 

国王の合図でエミリアの父親が魔法陣を台座に寝かされたエミリアを中心に魔法陣を展開する。

そして、その後ろで城で仕える全魔導士がアスラが封印されている巨大な魔水晶に向かって魔法陣を向けると、魔水晶からエミリアに向かって赤黒い光が何本も放出されて、エミリアの体に吸い込まれていく。

入った同時にエミリアが泣き叫ぶ。

それは生まれたばかりの産声のものではなく、痛みに耐えるものだった。

 

「すまない……すまない……!」

 

エミリアの父親は涙を流し、痛みに耐えるエミリアに謝りながらながら、魔法陣を展開し続ける。

やがて全ての光がエミリアに吸い込まれると、泣き叫んでいたエミリアも気絶したように泣き止んでいた。

 

「これで終わったのか……?」

 

国王のその一言に全員がホッとしたような顔になるが、その瞬間エミリアの体から光が溢れ出し、国王たちを光で包んだ。

光が止むとそこにはエミリア以外生き絶えた人の姿があった。

 

 

国王の謎の突然死、それは国中に広がり、大きな波紋を呼んだ。

それにより新しい国王が王位を継承したが、前国王に比べて、政治については全くの素人で好きなようにしたため、内戦が勃発。

闇魔法集団にも付け込まれる事態となってしまった。

 

 

エミリアはエリオを預けられていた親戚が見つけ、国のはずれにある村で住むことになった。

内戦の影響で村は貧しくなり、そこではエミリアを歓迎したものではなかった。

エミリアを睨みつけ、無視したりなどした。

さらには国がこうなったのはお前のせいだとも言う者や、死んでしまえばいいのにとも言う者がいた。

それでもエミリアに危害を加えなかったのはアスラを恐れていたからだ。

エリオが唯一の家族であるエミリアに何度も会いに行こうとするが親戚がそれを止めた。

親戚が将来有望なエリオをエミリアの近くにいさせたくないのか、出来るだけ離していた。

結局エミリアは孤独な生活だった。

 

 

「なんでアイツは私のことを……」

 

そう呟いたエミリアはクックスに声をかける。

 

「クックス!止まって!」

 

「どうしました主人殿?」

 

「アイツがいるところまで戻って!」

 

「なりませぬ!あそこに落ちてきた者はまさに化け物。某たちが行ったところでどうにもなりませぬ。今はあの少年が時間を稼いでいる間に出来るだけ離れるのが得策!」

 

クックスが言っているのはその通りだ。

エミリアが戻ったところでどうにもならないのは確かだ。

それでもエミリアは戻りたかった。

なぜハルトがそこまで自分に優しくしてくれるのか、なぜ生きろと言ってくれるのか。

どうしても知りたかった。

 

「大丈夫。彼を召喚するわ」

 

「それこそいけませぬ!彼奴を呼ぶと主人殿の魔力が……!」

 

「いいから戻って!お願い!」

 

「〜っ、どうなっても知りませぬぞ!」

 

クックスは方向転換し、ハルトがいる方に向かって行った。

 


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