FAIRYTAIL SEVEN KNIGHTS 作:マーベルチョコ
エリオが出て行ったギルドには土煙が立ち込めていたが徐々に煙が晴れてくる。
晴れたところにはマカロフたちが無傷で立っていたが、全員が不安な表情だった。
「なんじゃ、あの魔力は……」
「今までに感じたことのない魔力でした。異質な魔力……、ルーシィも攫われてしまった。不甲斐ないです」
「………ルーシィのことは後じゃ。まずはハルトをどうにかせねば」
マカロフが振り向くと、そこにはハルトの治療をしているウェンディの姿があった。
「ハルト〜……」
「ふっ、くっ……!」
マタムネは心配そうにハルトに縋り付き、ウェンディの額には汗が浮かんで辛そうな表情だ。
「おい!ウェンディ!ハルトは大丈夫なのかよ!?」
「ちょっと!邪魔しないでよ!」
ナツがウェンディに詰め寄るとシャルルがそれを止めた。
ウェンディの側にいたレインはウェンディの治療に違和感を覚えた。
ハルトの腹にできた傷の治りが遅いのだ。
「ウェンディ?大丈夫?」
「う、うん……だけどハルトさんの傷が治りにくくて、傷の周りの何かが私の魔法を邪魔してる……!」
ウェンディがより魔力を込めるが、傷の治りは良くならない。
そこにカミナもハルトの側に座る。
「マーベル。俺が傷の周りを覆っている魔力を解いていく。そこから傷を治療していけ」
「は、はい!」
「カミナ!俺たちも何か手伝うぞ!!」
ナツたちが提案するが、カミナは断る。
「治療の邪魔だ。お前たちは攫われたハートフィリアのことを考えていろ。ジェット、お前はポーリュシカさんを連れて来てくれ。この傷は魔法だけじゃ骨が折れる」
「わかった!」
カミナの指示にジェットは二つ返事で了承し、すぐさま走るスピードが速くなる魔法『神速』でポーリュシカの元に向かった。
ハルトの治療をカミナたちに任せ、マカロフたちは攫われたルーシィのことを話し始めた。
「じっちゃん!今すぐルーシィを助けに行くぞ!!」
ナツが怒りの表情で叫ぶがマカロフは止める。
「どうやってじゃ?相手も分からず、どこにいるかも分からんのにか?」
「うぐぐ……」
マカロフの言うことは正しく、相手は不明、ハッピーたちに空から探しに行ってもらったが見つからず、ルーシィを連れてどこかに消えてしまった。
「だがハルトを襲った奴には見覚えがあるな」
「僕もです」
グレイとレインがそう呟くとカミナが話し合いに参加した。
「エリオだ。かつて俺とハルトの仲間だった」
「ハルトの容態はどうじゃ?」
「とりあえずは峠を越えた。後はマーベルとポーリュシカさんに任せる」
その報告にハルトの安全が確保出来たことに全員が安心した。
「エリオってアスラの時のか!?」
「どうしてその名を知っている?」
「我輩が教えたのだ」
オリオンは自分がエミリアの元星霊だと教えた。
エルザはエリオがハルトを襲い、ルーシィを攫った理由をオリオンに問いただす。
「エリオの狙いは何だ?」
「エミリアを蘇らせようとしている」
その一言に周りが騒つく。
死者の蘇生などできるはずがないのだ。
例え、神秘の魔法でもだ。
もし、できたとしてもそれは明らかに人の道から外れた行いだ。
しかし、オリオンはそこに付け足す。
「実際にはエミリアは死んでるわけではない。アスラを封印するための器として今も肉体だけは生き続けている。魂の方はどうかわからんがな……」
「では、何故ルーシィを攫ったんじゃ?」
「恐らくルーシィ嬢の体を代わりの器にする気なのだろう。だが、あれの封印は強大な魔力を持つエミリアだから出来たこと。まだ未熟なルーシィ嬢では移すことはできても封印は出来ずに死んでしまう」
その言葉に全員に緊張が走る。
「ふざけんじゃねぇっ!!ルーシィが犠牲になるってのか!!?」
「何故ルーシィなのだ?ルーシィより高い魔力を持つ者は多くいる」
ナツが怒りでオリオンに詰め寄るがエルザは落ち着かせ、何故ルーシィを選んだのか聞く。
「ただ魔力が高いだけでは駄目なのだ。星霊魔導士でなければならない。星霊魔導士の魔力は他の人間とは異なる魔力だ。その中でも器となれるのはまた条件がいる。1体以上の黄道十二門の星霊かそれと同等の星霊と契約してなければいけない。ルーシィ嬢は5体の黄道十二門の星霊と契約しているようだが、適正は十分になる」
オリオンのその言葉に殆どの者が理解したが、ナツは納得がいかなかった。
「だからって何でルーシィなんだよ!?他にも黄道十二門の鍵を持ってる奴だっているだろうが!!」
「そうだ!そうだ!」
憤るナツに続いてハッピーや他の者達も憤る。
騒がしくなる皆の中でカミナが呟いた。
「復讐だ」
カミナのその一言に皆が注目する。
「エリオはハルトを恨んでいる。アイツの最も大切なものを奪いたんだろう。自分がそうされたように」
「だがカミナ!あれは仕方がなかったのだろう!?」
「アイツの記憶を見たならわかるだろう。理屈じゃどうにもできないことだってある」
それを言われたエルザは悔しそうにした。
恨みで心を囚われた人間を知っているからであろう。
「それでは、次に奴らの行動はわかるか?」
マカロフがオリオンに尋ねるが首を横に振った。
どうやらオリオンはエリオの計画はわからないらしい。
するとカミナは話し合いの輪から抜け出し、ギルドを出ようとする。
「カミナ、どこに行く?」
「ジェイドのところに行く。奴なら何か知っているはずだ」
「俺も行くぞ!!」
「俺もだ。やられっぱなしでいられるかよ」
「僕もです!」
「オイラも!」
ナツ達が名乗りを上げ付いて行こうとするがカミナは拒否した。
「来るな。お前達が来てもあっちで邪魔なだけだ」
冷徹な態度で拒否するカミナにナツは溜まりに溜まっている怒りが爆発する。
「ンだとー!!」
殴りかかろうとするナツをマカロフは一喝して止める。
「やめんか!ナツ!!お前はここで待機じゃ!!」
「なっ!?なんでだよ、じっちゃん!!」
「お前が城に行って問題を起こされると今回の件の解決に時間がかかるわい!エルザ、カミナについて行ってやれ。お主なら大丈夫じゃろう」
「はい、わかりました。という訳だカミナ。嫌でも付いて行くぞ」
「………好きにしろ」
カミナは少しため息を吐いてギルドを出て行く。
エルザも付いて行こうとするがマカロフが呼び止めた。
「エルザよ。カミナはどうやら今回の件に責任を感じ、焦っているようじゃ。助けになってやってくれ」
「はい、任せてください」
そこにミラも少し心配そうにエルザに近づく。
「エルザ、カミナのことお願い」
「ああ」
こうして2人はフィオーレ王国の首都、花の都『クロッカス』を目指した。
○
行きの馬車の中でカミナとエルザは全く話そうとしていなかった。
普段からあまり口数が少ないカミナだが、エルザとは同じ剣を使う者として鍛錬などを幾度かやってきたため、そこそこの交友はある。
しかし、今のカミナは緊張した雰囲気を放っており、話しかけることができないでいた。
だが、マカロフに任されたエルザは仲間のカミナを放っておくことはできなかった。
「ハルトなら大丈夫だ。ハルトが死ぬはずがない」
エルザはそう言ってカミナに笑いかける。
カミナはそれを目だけを動かして見るが、すぐに外の景色に視線を戻した。
ダメか、と思ったエルザだが、今度はカミナが話し始めた。
「アイツは優等生ぶっているが本質はバカだ。人の気持ちも知らないで勝手にズカズカと人の内側に入ってきて、勝手に引っ張りあげていく。まったくお節介な奴だ」
少し笑みを見せるカミナにエルザは黙って聞く。
「だが、そのおかげで俺は光に立てている。ギルドに入り、ミラにも出会えた」
「それは私も同じだ。私もハルトがいたから真にギルドの一員になれたんだ」
カミナはエルザと正面を向き、真剣な表情になる。
「エミリアが死んだ時、俺はどうすればいいかわからなかった。アイツみたいに心の内側に入れる自信がなかった。だから……ハートフィリアを救って必ずハルトを助けるぞ」
決意を新たに2人はクロッカスに向かう。
目的の場所はもうすぐそこだ。