FAIRYTAIL SEVEN KNIGHTS 作:マーベルチョコ
「これが俺とアルバスの過去だ。笑えるだろ?自分が作ったものに裏切られて、唯一の家族にも裏切られた」
過去を話し終わったカルバートは自傷気味に笑みを浮かべる。
「お前さんは変わろうとしているのではないか?」
マカロフの言葉に何を言っているかわからないカルバート。
「兄を助けようとするのはお前さんが兄の言っていた機械の心から人としての心を持ったからではないのか?」
「何をバカなことを言っているんだ……俺は兄貴を殺そうとしたんだぞ!!」
「殺そうと思えば一人でできたのではないかのう。それを人に頼んでやらせようとしたのは葛藤して自分では手出しできなかったからではないのか?」
マカロフの言葉は否定しているカルバートの心に突き刺さる。
自分でも薄々分かっていたのだ。
やろうと思えば一人でもできた。
多くの人を犠牲にしてCOREを破壊することだってできた。
しかし、それをしなかったのはアルバスと別れたカルバートが一人になり思いついた考えだったが、ただ認めることができなかった。
「お、俺は……」
「人は機械のように物事を全て論理的に考えることはできん。心があるからだ。心がある限り人は怒り、悲しみ、そして喜びを感じる。お前さんはアルバスと別れ、心で考えたから今回のように事を起こしたのでないか?」
「………」
マカロフの論するような言葉にカルバートは黙ってしまう。
「カルバート」
そこにエルザが話しかける。
「恐らくアルバスもそれを気づいていたのではないか。だからアルバスはおとなしく捕まっていた。アイツはいつでも逃げられる状態にも関わらず逃げなかった。それは変わったお前を信じていたからだと私は思う」
エルザはアルバスを拘束する際、カルバートのことが信じきれずアルバスの拘束を逃げられるように緩めておいたのだが、アルバスはそれでも逃げなかった。
「アルバスを助けに行こう。お前の罪も過去も全てに決着を付けに行こう」
エルザは手を差し伸べた。
エルザにはカルバートが自分と重なって見えていた。
今度は失わないようにと願って手を差し伸べた。
カルバートは悔しそうにしながらも手をしっかりと取った。
「これよりアルバスを救出しに行くぞ!」
『おう!!』
エルザの号令に一斉に声が上がる。
「空間の魔女、ラナ殿。貴女の魔法ならサリックスまでどのくらいかかる?」
マカロフはカウンターでカクテルを飲んでいたラナに話しかける。
「そうね。ここにいる全員なら1日かけて運べるわよ」
ラナは笑みを浮かべて得意気に言う。
「いや、それじゃ遅い。COREは明日にでもこの国中の主要都市を狙う気だ」
「なんと……何故そこまで分かる?」
「この10年間、アイツらを監視していた。アイツらが今まで大きな攻撃をしてこなかったのは戦力が整っていなかったからだ。兄貴を手に入れたアイツら明日に攻撃を仕掛けてくると思う」
「そうか……ラナ殿。10人程度であればどのくらいかかる?」
「飛ばして行けば4、5時間で行けるわ」
「うむ。エルザ!さっきの話を聞いておったな?10人ほど連れて行く者を選ぶのじゃ。残った者はワシを中心に、この街と近隣の街の護衛にはいる!!」
「わかりました。私たちのチームはカルバートと共に行くぞ!」
「うっし!やってやるか!」
「燃えてきたぞ!!」
「あん時の借りもあるからな……」
「うえ〜〜敵地に乗り込むの〜?」
ルーシィ以外はやる気満々で気合いが入る。
「後は……」
「俺とガジル、ジュビアを連れて行け」
エルザにそう言ったのはカミナだった。
「カミナか…珍しいな。お前が進んで出てくるとは」
「大勢を相手するんだろう?なら俺がいた方がいい」
「なんだ、カミナも来るのか」
「お前じゃ頼りないからだよ。タンポポ頭」
「あ?」
いつも通りのカミナの煽りに乗ってしまい睨み合うハルトとカミナにガジルが割って入る。
「おい!待て!死神!!なんで俺が勝手に入ってんだ!!」
ガジルは勝手に決められて怒っている様子だが、カミナは冷静に返す。
「よく考えてみろ。お前はハッキリ言ってこのギルドの信用はほぼゼロだ」
「本当にハッキリ言ったな……」
カミナの率直な意見にハルトは少し呆れる。
「今回の戦いでその信用を勝ち取ればいいだろう」
「そんな必要ねえよ!!そうじゃなくてなんでお前が……!!」
「それに今回の敵はほぼ鉄だ。選り取り見取りだぞ」
「………」
その言葉にガジルはピタッと止まり、挑戦的な笑みを浮かべる。
「ギヒ!相手がなんだが知らねえが余裕だ倒してやるよ」
ガジルは手のひらに拳を打ち付け、気合いが入った様子を見せ、カミナはそれを見てチョロいな、と思った。
「というわけで助けてやるよ。サラマンダー」
「んなっ!?お前の手助けさなんかいらねえよ!!」
「グレイ様ー!!貴方が行くところなら例え火の中水の中でもお供しますーー!!」
「げっ……色々と面倒臭いことに……」
「これで決まったな。では1時間後出発するぞ!!」
○
「アンタちょっと待ちなさい」
「えっ?アタシ?」
それぞれが準備をしているなかラナはルーシィを呼び止めた。
「え、えっと…何かようですか?」
ルーシィはさっきのことが頭によぎり若干ビビってしまう。
「アンタ今回の戦い参加するのやめなさい」
「え?」
「アンタじゃ戦力どころか足手纏いになるだけよ。今回は大人しくここで待ってなさい」
「な、なによ。いきなり……アタシはハルトたちと一緒に戦うの!!」
「ハルトが好きだから?」
その一言にルーシィは顔を真っ赤になる。
「なっ、な、なんで……」
「一つだけ言っておくわ。実力が伴ってなければハルトの側で戦ってもアイツが傷つくだけよ」
ラナはそれだけを言うと、ルーシィから離れていき、残されたルーシィは胸にモヤモヤとしたものができた。
「なんなのよ……」
○
「スカーレット」
「カルバート。どうかしたか?」
準備をしているなかカルバートがエルザに話しかける。
「お前は俺を恨んでいるんじゃないのか?俺はジェラールを利用していたんだぞ」
「……正直に言えばまだ恨みが消えたわけではない。しかし、恨んでいるだけでは前に進む方ができないことが仲間のおかげでわかった。だからお前の手助けをするんだ」
エルザはカルバートを真っ直ぐに見据え、そう言い切る。
カルバートにはそれが眩しく見えた。
「……そうか」
「では、私は行くぞ」
「待ってくれ。お前にこれを」
カルバートが傍に置いてあった箱から取り出したのは機械の剣だった。
「これは?」
「コーサーみたいな上位種には普通の武器は効くにくい。勿論魔法の武器もな。だがこの剣は奴らの電子信号を破壊するように作った。これなら確実に倒せる」
「ああ……ありがたく使わせてもらう」
「……………すまなかった」
カルバートが剣を渡して去る時に微かに聞こえるほどの言葉にエルザは少し目を開き驚いたが優しげな笑みを浮かべた。
○
アルバスを救出する組の準備が終わりギルドの前に並んでいた。
「じゃあ……気をつけてね」
「ああ、必ず帰ってくる」
ミラが心配そうにカミナにそう言うとカミナは安心させるように少し笑顔を見せ、ミラの頭を優しく撫でた。
それを見ていたルーシィは羨ましそうな顔をしてハルトを見た。
ハルトはラブラブだなといつもカミナと睨み合ってる姿と比べ、呆れた表情を浮かべていた。
ルーシィはいつかハルトとあんなことができるのかな、と思った瞬間、ラナの言葉を思い出した。
『実力が伴ってなければハルトの側で戦ってもアイツが傷つくだけよ』
その言葉を頭を振って、振り払う。
(大丈夫よ、ルーシィ!!アタシだってハルトと一緒に戦えるんだから!!)
そう心の中で自分を鼓舞し、気合いを入れる。
「それでは気をつけて行くのじゃぞ」
「はい、行ってまいります」
「任せとけよ。じいさん」
「行くわよ」
ラナがそう合図し、ハルトたちが一斉に浮かび上がり、スピードが上がり空に消えて行った。
それを見届けたマカロフは自分の後ろにいる残りのギルドメンバーのほうを向く。
「エルザたちが敵地に向かった!ワシらは全力で街、村を守るぞ!!」
『オオォォォォォォォッ!!!!!!』
マカロフの言葉に全員が声を上げて気合いを入れる。
もうすぐ攻防戦が始まる。
○
空を飛ぶハルトたちはラナが作り出した巨大なキューブに乗り、空を飛んでいた。
「では作戦を言うぞ。私たちの目的はあくまでアルバスの救出だ。COREを倒そうなどと思うな」
「なんでだよ!?ついでに倒しちまえばいいじゃねえか!!」
「そうよ!どうせなら倒してしまいましょ!!」
エルザの作戦にいつも通りナツが反論するがそれにルーシィも反論した。
「どうしたの?ルーシィがそんなことを言うなんて珍しいね?いつもならみっともないぐらいビビってるのに」
「みっともなくないわよ!今回は別に……特別な意味は……」
言い淀むルーシィに全員が首をかしげる。
ルーシィはラナに弱いと言われて悔しかったし、何よりハルトの足手まといになると言われたことが一番悔しかった。
だから今回の戦いでラナを見返してやるつもりだった。
「いや、ダメだ」
「「なんで!?」」
「今回の敵は数が多すぎる。上手くことを運ぶしかないからだ。いつもみたいに暴れ回ってはジリ貧もいいところだ。わかったな?」
「ぐぬぬぬ……」
「ぶぅ〜……」
「返事っ!!!」
「「はいっ!!!!」」
エルザの説明に納得いかない二人は不満そうな顔をしたがエルザの一喝に背筋を伸ばして、ヒビりながら返事をした。
ルーシィは気合いを入れたのに出鼻を挫かれたように落ち込んで座り込んだ。
「珍しいな。ルーシィが戦いたいって言うなんて」
「ハルト……今回はカルバートのことがあるから気合いが入っただけだよ」
そう言ってルーシィは少し落ち込んだように視線を下げる。
ハルトはそれを見てルーシィの隣に座り、ルーシィの頭に手を乗せ優しく撫でた。
「ハルト?」
「まあ、なんだ。あんまり焦るなよ?ルーシィは大切な仲間なんだ。
俺たちがついてる」
ハルトは安心させるように言うとルーシィは頬を少し赤く染めて、笑みを浮かべた。
「ありがとうハルト。………でも本当は仲間以上になりたいんだけどね」
「なんか言ったか?」
実力が伴ってなければハルトの側で戦ってもアイツが傷つくだけよ」
「ううん!なんでも!……でも、もっと撫でてくれると嬉しいな……」
「お、おう」
「えへへ……」
慌てて否定したと思ったら、上目づかいでハルトにおねだりして、ハルトも少し顔を赤くしてルーシィの頭を撫で、ルーシィは気持ち良さそうにしている。
「なんだ。結構上手くいっているじゃないか」
「やはりハルトさんが恋敵?」
「何言ってんだオメェ」
それを見ていたカミナたちが呟いたりしているのをラナは尻目に捉えながら呑気ね、と思っていると急に前から何かを感じとり空間を急に傾けた。
「きゃあ!」
「うぉっ!?」
「ぐ……どうした!?」
「ラナ、何かあったのか?」
「こっちの居場所がバレたわ。下に降りて歩くしかないわね」
突然傾けたため全員が踏ん張ることができずに転がってしまう。
「いたた……」
「な、なあルーシィ」
ルーシィは転がって打った頭をさすりながら起き上がると下からハルトの声が聞こえ、下を見るとルーシィがハルトを押し倒しているように見えた。
「どいてくれねぇか?」
「ご、ごめん!」
ルーシィは慌てて退いたが触れ合ったところを妙に意識してしまい、お互い顔が赤かった。
ラナは森の中に降り、空間を解いた。
「もうサリックスに着いたのか?」
「いや、ここは王国の周りにあった森だ王国はここから10キロ離れてる」
グレイの言葉にカルバートはそう返し、ラナの方を向く。
「もう少し近づけないねぇのか?ここからじゃ流石に遠いぞ」
「近づけてたら行ってるわよ。でもこれじゃ……」
ラナは前の雑木林を魔法で切り分け、ハルトたちに見せた。
「流石に難しいわ」
ハルトたちがいる場所は高台になっており、サリックス王国を見渡せるようになっていたが、そこには国民がいなくなり廃墟になった建物どころか、辺り一面を覆い尽くす機械の群衆が目に入った。
「これは……」
「マジかよ……」
「うそ……」
その光景にハルトたちは改めて大きな絶望に立ち向かおうとしていることがわかった。