木更と蓮太郎は、今しがた黎が発した言葉に驚愕していた。
それもそのはずだ。
この天童民間警備会社は、出来ただかりで知名度も低いため高位序列の黎たちに払えるような大金は、ないからだ。例え、払えたとしてもすぐに倒産してしまうだろう。
それなのに、いま黎が発した言葉はこの会社を倒産させるようなことを言ったのだ。木更と蓮太郎は、困ったような目で黎たちをみていた。
それに気づいた黎は、こう付け加えた。
「あ……俺は、お前に興味があってここまで気づかれないようにつけてきたんだからな…里見くん」
「え……お、オレ!?」
黎は、蓮太郎に指を差し、蓮太郎はなぜ自分が指差されたのか理解できないでいた。するとその様子を見て黎が話を切り出した。
「その反応は、理解できてないな」
「そりゃそうだ…俺は、あんたと話したり、すれ違ったりしたことがないからな。あんたはどこで俺をみかけたんだ?」
「ん?そりゃあ、さっきお前さんがそこのお嬢さんに報酬を貰い損ねて怒鳴られてた仕事のときだ。正確には、お前とイニシエーターが走り去って行く時だったかな。なぁ桜香?」
「ふぁ~…え~とそうですね。」
「桜香なんか眠そうだな」
「う~ん……黎眠いです…」
「そうか…スマンがソファー貸してもらっていいか?」
「ええ…いいですよ」
「スマンな……」
黎は、木更に断りをいれ桜香をソファーへと誘導し寝かした。
「すぅすぅ……zzZ」
桜香が、寝付き始めた頃黎は改めて木更と蓮太郎に向かって口を開いた。
「寝たか……さて返事を聞かせて貰おうか」
「えーと…少し考えさせて貰ってもいいかしら…」
木更が、そういい考え出した。しかし、木更はすぐに考えることをやめ口を開く。
「……貴方を雇わせていただくわ…黎さん。でも本当に良いの?貴方ほどの実力者ならもっと良いところに入ることも…」
「出来ただろうな…だがな俺は自分で決めたとこしか入らないと決めてたからな~その点お前らは運が良かったってこった」
黎がそう言うと、木更は納得しまた口を開いた。
「そうですか…これからよろしくお願いします。で…話が変わりますが桜香ちゃんの寝顔カワイイですね…(///ω///)♪」
「だろ?この寝顔を見ると癒されるんだよなぁ~」
黎は、寝ている桜香の頭を優しく撫でながら見ていた。その顔にはどこか慈愛に満ちた表情に見えた。
黎と桜香はどれ程の苦難と苦痛に耐えて今の序列に上がったのかわからない…がしかし、二人には他の誰も入ることができない強い絆が感じられた。
「さぁこの話はここまでにして里見くんお茶いれて」
「自分でやれ」
「あら、今日報酬を貰い損ねたのはどこのお馬鹿だったかしら?」
「ここでそれをぶり返すかよ……木更さん…」
「私は、事実を言ったまでよ?」
「チッ、はいはい、ただいまお持ちしますよ、お嬢様」
「あ…じゃあ俺にも頼めるか?てかお前ら仲が良いなぁ~」
「「え…そうみえるの/か!!」」
「ほら、今も息ピッタリ」
「……それはさておき、お茶淹れてくるよ」
蓮太郎は、苦虫を噛み潰した様な顔をしながら応接室を出て給湯室にいき急須に湯を注ぎ黎と木更の前の机の上に置いた。
「ん、ご苦労」
「ありがとさん」
木更は、お茶を手に黒檀の執務机に移動し、肘掛け椅子に座るとノートパソコンを開きキーを叩き出した。黎は、お茶呑みながらまったりしていた。…しばらくして木更が、キーボードを叩くのをやめふと顔を上げる。
「ねぇ、里見くんが倒したガストレアって感染者だったのよね?」
「そうだよ」ぶっきらぼうに言って、彼女の言わんとすることを察して続ける。「感染源の方は見つけられなかったけど、おそらく同じモデルスパイダーの単因子だ。鳥型とか羽虫型とかじゃないから、もうとっくに他社が見つけて始末してるだろ。ステージⅢ以上の敵だとしたら、こっちに応援がかかるはずだし、その証拠にバイオハザード警報も発令されてない」
蓮太郎が倒したような単因子のガストレアは地球上の生物をスケールアップしただけだ。二重因子以降は、特に四つ以上のDNAが混ざったガストレアの姿は怪物としか言えない。
通常ステージⅠ~Ⅳの間で表されるガストレアの成長度合いだが、数値が上がるごとに加速度的に強くなるので、お世辞にも仲がよいとは言えない民警同士も、さすがに自分の手に余ると感じた場合、連携して殲滅をする。
そのお呼びが掛からないということは、あっさり駆除できたということではないか。
木更はパソコンのディスプレイに視線を落としながら蓮太郎の意見を一蹴した。
「そんな情報はないし、それどころか目撃情報も上がってないわよ」
「えッ?」
「それは本当か?」
黎も話に入ってきた。
木更はノートパソコンを百八十度回転させる。そこに写っていたのは地図だった。ガストレアとの交戦があった場所、目撃情報が出た場所が最大九十日間にわたって遡ることができる民間機関のウェブサイトだった。