ブラック・ブレット もう一発の銃弾   作:八咫勾玉

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第七話

「……聖天子様」

 

聖天子はアールヌーヴォー調の精緻な細工の椅子にゆったりと腰かけており、背後に高そうな絵画や天蓋付きのベッドが見える。聖居内にある彼女の私室だろう。

黎はあくびを噛み殺しながら耳を傾ける。

 

『楽にしてくださいみなさん、私から説明します』

 

誰一人として座する者はいなかった。

 

『といっても依頼事態はとてもシンプルです。民警のみなさんに依頼するのは、昨日東京エリアに侵入して感染者を一人出した感染源ガストレアの排除です。もう一つは、このガストレアに取り込まれていると思われるケースを無傷で回収してください』

 

 ーーケース?まさか!?

 

 パネルに別のウィンドウが開かれジュラルミンシルバーのケースのフォトがポップされ横には成功報酬が表示された。その値段を見て周囲の空気が困惑g混じり出す。黎は、この成功報酬を見て苦虫を噛み潰した顔になった。

 三ヶ島が手を上げた。

 

「質問よろしいでしょうか。ケースはガストレアが取り込んでいる、もしくは巻き込まれていると見ていいわけですか?」

 

『その通りです』

 

「感染源の形態、種類、潜伏場所など政府は情報を掴んでいますか?」

 

『残念ながらそれについては不明です』

 

 木更が挙手する。

 

「回収するケースの中には何が入っているか聞いてもよろしいでしょうか?」

 

『おや、あなたは?』

 

「天童木更と申します」

 

『…お噂は聞いております。それにしても妙な質問をなさいますね天童社長。それは依頼人のプライバシーに当たるのでお答えできません』

 

「納得できません。感染源ガストレアが感染者と同じ遺伝型を持っているという常識に当てはめると感染源ガストレアもモデル・スパイダーでしょう。そ程度ならウチのプロモーターでも倒せます」

 

「問題はなぜそんな破格の依頼料でしかも民警のトップクラスのヒトたちに依頼するのかが腑に落ちません。ならばそれに見会った危険がそのケースの中にあると邪推してしまうのは当然ではないでしょうか?」

 

『それは知る必要のないことでは?』

 

「かもしれません。しかし、そちらが手札を伏せたままでいるなら、ウチはこの件から手を引かせていただきます」

 

『……ここで席を立つと、ペナルティがありますよ』

 

「覚悟の上です。そんな不確かな説明でウチの社員を危険にさらすわけにはまいりませんから」

 

 木更はそういって席を立とうとして一端こちらに目を向けた。黎は目を閉じて小さく首を降り行動を制した。木更は不思議そうに首を少しかしげたが思い止まったようだ。

 黎は部屋に侵入したヤツに向けて鋭い視線を向けながら口を開く。

 

「木更、今回は俺にしたがってくれないか?それに俺の勘があっている場合非常にヤバイことになる。そうだろ?影胤」

 

 そういうとけたましい笑い声が響き渡った。会議室にいる全員が声の主に集まる。

 先程まで空席だったとこにシルクハット、赤い燕尾服の怪人が卓に両足を投げ出して座っていた。

 両隣の社長たちは忽然と現れた仮面男に驚いて椅子から転げ落ちている。

 蓮太郎は目を見開き驚き口から「お前は…そんな馬鹿なッ」と口走っていた。

 影胤は卓の上に土足で上がり中央で立ち止まると聖天子と相対する。

 

『……名乗りなさい』

 

「これは失礼」

 

 影胤はシルクハットを取り体を二つに折り畳んで礼をする。

 

「先程そちらの序列五十位様からご紹介いただきました。私は蛭子影胤という。お初にお目にかかる、無能な国家元首殿。端的に言うと私は君たちの敵だ」

 

 蓮太郎は腰から拳銃を抜き向けていた。

 

「お、おまえッ……」

 

 影胤は蓮太郎に顔を向けた。

 

「フフフ、元気だったかい里見くん。我が新しき友よ」

 

「どっから入ってきやがった!」

 

「フフフ、その答えに対しては、正門から、堂々と―と答えるのが正しいだろうね。もっとも小うるさいハエみたいなのが突っかかってきたので何匹か殺させたけどね。おおそうだ、丁度良いタイミングなので私のイニシエーターを紹介しよう。小比奈、おいで」

 

「はい、パパ」

 

 小比奈と呼ばれた少女は難儀して卓の上にのぼると影胤の横に来てスカートをつまんで辞儀をする。

 

「蛭子小比奈、十歳」

 

「私のイニシエーターにして娘だ。」

 

 小比奈と名乗った少女は影胤の服の裾を引っ張りながら「斬ってもいい?」と言って影胤から制止され「うぅ…パパァ」と少しご機嫌ななめな様子だ。

 すると蓮太郎が影胤に声をかけた。

 

「なんの用だ」

 

「今日は挨拶だよ。私もこのレースにエントリーすることを伝えておきたくてね」

 

「エントリー?なんのことだ」

 

「『七星の遺産』は我らがいただくと言っているんだ」

 

 その単語を聞いた瞬間、聖天子が観念したように一瞬目をつぶった。

 黎もその単語を聞いてやっぱりかと半ば諦めたように目をつぶった。そして目を開きパネルの画面に写っている聖天子に鋭く殺気だった視線を送る。それから影胤に視線を向け様子を伺う。

 

 

 

 

 

 数分のやり取りでこちらは負傷者が出ていた。なにが起きたかというと将監が影胤に切り込むとその剣が弾き飛ばされそれから黎と桜香以外の全員が自営用の拳銃で一斉射撃を浴びせたがドーム状のバリアにより弾き返された。それにより跳ね返った銃弾が負傷者を作ったのだ。

 影胤が鷹揚に両手を広げる。

 

「斥力フィールドだ。私は『イマジナリー・ギミック』と読んでいる」

 

「……バリア、だと?お前本当に人間なのか?」

 

「人間たとも。ただこれを発生させるために内臓のほとんどを摘出してバラニウムの機械にた詰め替えているがね」

 

「機械……?」

 

「名乗ろう里見くん、

私は元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊『新人類創造計画』蛭子影胤」

 

 三ヶ島が驚きに目を見開く。

 

「……ガストレア戦争が生んだ対ガストレア用特殊部隊?実在するわけが……」

 

「信じる信じないは君の勝手だよ。まあなにかね里見くん?つまり私はあの時まったく本気じゃなかったのだよ。悪いね」

 

「君にプレゼントだ。ではこの辺でおいとまさせてもらうよ。絶望した前民警の諸君。滅亡の日は近い。行くよ小比奈」

 

「はい、パパ」

 

 二人は窓まで歩いていくと窓を割り自然な動作で飛び降りた。

 黎は木更たちに近づき声をかけようとして聖天子の声が響く。

 

『静粛にッ!』

 

『事態は尋常ならざる方向に向かっています。みなさん、私から新たにこの依頼の達成条件を付け加えさせていただきます。ケース奪取を企むあの男より先に、ケースを回収してください。でなければ大変なことが起こります』

 

 木更が聖天子を睨む。

 

「中に入っているものがどういうものなのか、説明していただけますよね?」

 

「木更…それには及ばないよ。俺が知っているからな」

 

「えっ…!?」

 

「七星の遺産…あれはモノリスの結界を破壊し東京エリアに大絶滅を引き起こす封印指定物だ。あれはガストレアステージⅤを呼ぶ触媒となりうる」

 

 黎のその言葉に会議室にいた全員が息を飲んだのだった。

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