「え、えと……あの……その」
ついさっき、どこかのソファーの上で目を覚ましたトリオン兵は、目の前の光景に困惑していた。
「お~、起きたかね~?」
「ふん。人様の隊室で居眠りとは、呑気にも程があるな」
あの怖い黒コートの人と戦闘したあと、見知らぬソファーの上で再び目を覚ましてみれば、目の前にはまたも見知らぬ人間が居たのだ。しかも二人。
片方はユルい感じでトリオン兵に声を掛け、もう片方は高慢な感じでトリオン兵を罵った。そんなある意味対極ともいえる対応をされて、トリオン兵はどっちに対応したらいいのか困っていたのだ。
「あたしは
「太刀川さんが連れてきたからどんな人物かと思えば、まだ子供じゃないか。本当にこんなやつが太刀川さん達相手に善戦したというのか?」
「唯我くん、唯我くんは速すぎて見えてなかったと思うけど、遠征先で唯我くんの頭吹き飛ばしたのこの子だよ?」
「なっ、なんですとぉーーーっ!?」
ゆったりと握手をしてくる国近とは裏腹に、唯我は驚きに満ちた声で飛び退いた。
(……なんだろう、この人達--ってタチカワ!?)
太刀川という名前を聞いた瞬間、トリオン兵は自然に体が拒否反応を起こして、その場から飛び退いてしまった。
ここまで来ると、もはや条件反射の域である。
「タ、タチカワ……! タチカワって、あの怖い人の事でしょ!? あ、あなた達もあいつの仲間なの!?」
物影に隠れてから二人を窺うように覗き見るトリオン兵の目は、やはり迷子の子猫のようである。先刻、太刀川と戦ったときに見せた凶暴な雰囲気は微塵も感じられなかった。
良く言えば可愛い。悪く言えば覇気がない、だ。
「あらら~? 遠征の時とは随分雰囲気違うね」
国近もあの時とのギャップが激しいことに気づいたのか、疑問の声をあげながらトリオン兵に近づいてゆく。今その行動は逆効果なのではと思うが、国近はそんなことは気にしない。マイペースなのだ。
フリーダムマイペースという、字面だけ見ればなんかカッコいい性格をしている国近だが、その本質はかなり厄介である。
「い、いやっ……! こないで……!」
「ん~? 今の何かに似てるような……。あ、そっかそっか。ねえ君~ちょっと『ク、クルナ……クルナトイッテイル……』って言ってみて~?」
「…………く、くるな……くるなといっている……?」
「おお~ほっぽちゃんみたい。これは中々そそるものがあるね~?」
「ヒィッ!?」
おまけにゲームマニアと来ている。
唯我には何をしたいのかサッパリ分からなかったが、国近は何やら息を荒くして手をわきわきと動かし始めた。その目は新しいオモチャを見つけた子供のソレに似ている。
トリオン兵は、どうやら完全に国近のターゲットに認定されてしまったようだ。
「待って~。今度はこれ着てみない~? セーラー服セーラー服。あなた黒髪だし、これ着て『内臓ぶち撒けろッ!』って言ってみて? きっと似合うよ~」
「そ、そんな怖いセリフ言いたくないー!」
「………………」
国近は丈の短いセーラー服を引っ張り出してきて、トリオン兵に着せようとする。対するトリオン兵も、着てたまるかといった執念で国近の手から辛うじて逃れていた。
唯我は黙ったままそのやり取りを眺めていた。首を突っ込めば色んなものが飛び火すると直感していたからだ。尊大でプライドの高い唯我にしては、賢明な判断だったと言えるだろう。
「いやあああー!」
「あ! 外に逃げた! 追うよ唯我くん!」
「僕もですか柚宇さん!?」
まあ黙っていようが何していようが、結局は巻き込まれるのが唯我クオリティなのだが。
太刀川隊の隊室を抜け出し、ボーダー本部の通路をがむしゃらに走りまくるトリオン兵。ボディは元からトリオンで出来ているため、移動のスピードはかなり速い。
そして、それを追いかける国近と唯我の二人。国近は"もしもの時"のためにオペレーター全員に支給されている護身用のトリガーを起動させており、トリオン兵にギリギリの所で追い縋っていた。それはつまり、国近も黒のコート姿になっているという訳で。その姿はお世辞にも似合っているとは言えなかった。
なぜそこまでして追いかけるのかと言えば、単に、セーラー服が似合いそうだから。ただ、それだけ。
「まちなさいな~」
「やだー!」
トリオン兵を追いかけ、辿り着いた先は個人ランク戦のブース。
今の時間は夜--というか深夜なので、やはり人はまばらにしかいない。しかし、必死で逃げていたトリオン兵はあろうことかそのまばらにしか居なかった人にぶつかってしまった。
「きゃっ!?」
更に悪いことに、そのぶつかった人物も悪かった。
「--あん? なんだ、このチビ」
ボサボサに伸びた黒髪に、ギザギザの歯。それに加えて鋭い目付き。トリオン兵がぶつかった人物、それは間違いなくB級二位、影浦隊のエース兼隊長、
「あ……ご、ごめんなさい。ぶつかっちゃって」
「………………ああ?」
「ヒイッ!?」
上から見下ろされるように凄まれ、トリオン兵は一歩後ずさる。
別に凄んでいる訳ではないのだが、背の低いトリオン兵には角度と目付きによってそう見えてしまうのだ。だから、今のこの状況は見た目的にかなりマズイ。太刀川に続く、二件目の事案発生である。
「…………なんなんだ? お前」
「え?」
なんなんだ、とはどういう意味か。
トリオン兵がその質問の意味を図りかねていると、国近が二人の場所に追い付いてきた。
「やっと追い付いた……ってあれ? そこにいるのは~」
黒いコートをはためかせて走ってきた国近は、トリオン兵の側で停止する。
ちなみに唯我はトリガーを持たずに飛び出したので、まだはるか後方を走っている。哀れ。
「影浦くん。なんでこんな時間にここにいるの~?」
「あん? なんで俺のこと知ってんだ?」
「そりゃあ知ってるよ~。前にA級六位まで来たことあるもんね~?」
「……ああ、思い出した。そのダセェ隊服、太刀川隊か」
しかも女ってことはオペレーターだろ、と影浦は付け加え、国近を睨んだ。
国近が発するぽわぽわとした感情が纏わりつくように刺さってきて、なんともうっとおしくなったからだ。
これならば、単純に突き刺さる感覚の方がまだいい。綿毛が身体中を這い回っているような感覚がするのだから、国近の感情がどれだけぽわぽわしてるのかが窺えるだろう。
「ってことはこのチビはお前らんとこのか。ならしっかりしつけとけ、ガキはうろちょろしてウザッてぇからよ」
「う~ん……ガキって言って良いのかな~?」
「……そりゃどういう意味だ?」
影浦の表情が険しくなる。
国近の何かを含んだような物言いに、少しイラッときたのだ。
「いやね、実はこの子は……あ、でもこれ言っちゃって良いんだっけ~」
「……………………」
「太刀川さんなにも言ってなかったから多分良いんだと思うけど……でもやっぱりダメな気も……」
「……………………」
「じゃあ思いきって、ゲームであたしに勝ったら言うってのはどう? 今ちょうどP○P二つ持ってるからぷよぷ○で--」
「ぐああああ! まどろっこしい! いいからさっさと喋りやがれこの天然女! あとゲームはやらねぇ!」
国近の態度に業を煮やした影浦は、ボサボサの頭を更にボサボサにするよう掻きむしりながら大声を発した。
その怒声にトリオン兵が怯え、国近の背後に隠れたのは心底理解できる心理だ。
「じゃあ言うね~? この子、人じゃなくてトリオン兵なんだ~」
あっさりと、端的に要点だけを告げた国近。
「トリオン兵……ああ、それでか」
それに対し、対して驚いた様子もなく、影浦は「そういうことか」と呟いた。
影浦の"そういうこと"とは、おそらくサイドエフェクトの事だろう。
感情受信体質。
相手の感情が、肌に刺さるような感覚で判断できるサイドエフェクトである。そのせいで、日常生活では結構しんどい思いをしている影浦だが、その分戦闘では狙撃などが効きにくいというメリットにもなっているのである。
「このガキ、あんなに怯えてたくせに"刺さんなかった"からな。ようやく合点がいったぜ」
ガシガシと頭を掻きながら、めんどくさそうに言う影浦。
トリオン兵だから、刺さらない--? しかし、一見するとこのトリオン兵には感情というものが備わっているように見えるが--やはり、何かが違うのだろうか。
人間で言う所の感情と、このトリオン兵に宿る感情は、似て否なるものだと言うことだろうか。
「…………」
トリオン兵はしゃべらない。すっかり影浦に怯えてしまっているようだ。
「……ハッ、じゃあな天然女。子守りはちゃんとしとけ」
「はいは~い。ちゃんとしとくよ~」
後ろを向き、別れの言葉を告げる影浦。それは普段の影浦にしてはかなり珍しい行動であった。
やがて影浦の姿が見えなくなると、トリオン兵は国近の後ろから離れ、影浦が消えていった通路の方をジッと見つめた。
「…………あの人、怖い人?」
「ん~? どうかな。あなたはどう思ったの?」
アタシは--
「そんなに、怖くない--って思った」
▲
むかしむかしあるところに、とある研究者がいました。
その研究者はいわゆる天才というもので、ほとんどの事は一人でこなし、一人で研究成果を上げていました。研究者はどんな難しい研究テーマでも、頑なに人を頼ろうとしなかったのです。
だって、一人で出来てしまうのですから。
そんな研究姿勢に周囲の人間は呆れ、嫉妬し、事あるごとにその研究者をのけ者にしていました。
どうせお前は一人で出来るのだろう、と。
しかし、研究者は何も感じません。目の前の研究を、提示されるテーマに沿ってただ淡々とこなしていくだけでした。
『それが、戦争に使われる技術だとしても』
研究者は日々研究に没頭していました。そうすれば余計なことを考えなくて済むからです。
やがて、研究者の周りからは人が居なくなりました。話をする人も、反発する人も、認めてくれる人も--誰も居なくなってしまったのです。
『君の才能、私達が使ってやろう』
残ったのは、研究者の才能を利用してやろうという思惑を持った、欲深いお偉いさん達だけでした。
そんなある日、研究者は戦場に出向いてデータを取ってくるよう命じられました。戦場というのはとても危険なところで、研究者の同僚が何人も出かけていまだに帰ってきていないことを研究者は知っていました。研究者は悟りました。自分はもう、"彼ら"にとって用済みになったのだと。
研究者は了承しました。もう、どうでもよかったからです。
一人で延々と研究を続けることに--一人でいることに--疲れてしまっていたのです。
『バカかテメェは! トリガーも持たずに戦場に来るだなんて、非常識すぎだ!』
研究者は叱られてしまいました。
戦場で出会ったとある男性に、そう叱られたのです。それは研究者にとって、生まれて初めての体験でした。
男性はとても強く、戦場のど真ん中で研究者を守りながら戦っても、敵を圧倒するに余りある力を持っていたのです。
おまけに気も強く、研究者に一通り説教をすると、研究者には今から自分と一緒に行動するよう言いつけました。
研究者はこくんと頷きます。それ以外の行動を、許可してくれそうに無かったからです。
『お前の命、俺が預かってやる。覚悟しとけよ』
こうして研究者は、ひょんな事からその男性と共に過ごすことになったのでした----
▼
「はぁ……はぁ……」
影浦と別れ、国近と二人きりになったトリオン兵は、またしても追われることとなっていた。無論、国近に、だ。
走っても走っても、国近はレーダーでも見ているがごとくトリオン兵の居場所を正確に見つけ出すのである。その姿は正に追跡者。
それもそのはず、実際に見ているのだから。
ボーダーのトリガーで換装できるトリオン体には、周囲の対象の動きが分かるレーダーが標準でセットされているのである。
オペレーターである国近はレーダーの機能を熟知しており、その効率のよい見方も当然心得ているのであるから、トリオン兵が見つかるのは半ば必然の結果であったのだ。しかし、人型トリオン兵にセーラー服を着させるためだけにそこまでするのは、ボーダー内部と言えども国近くらいのものだろうが。
「………………撒いたかな」
鬼ごっこを二時間ほど続けた二人だったが、今はトリオン兵は一人である。
ずっと追い回されるという状況に我慢ができなくなったトリオン兵が、国近のトリオン体を破壊したのだ。具体的には、国近の体をおもいっきり突き飛ばしたのである。
そのせいで国近は生身に戻ってしまい、レーダーも使えなくなってしまったのだ。国近がまたトリガーを使うには、そこそこのインターバルが必要となることだろう。
「ああしておけば、もう追ってこれないはず……」
トリオン兵は、別に誰かに好かれようと思って行動しているわけではない。ただ、痛いのが嫌で、怖いのが嫌いというだけなのだ。
しかし、そんなマイナス過ぎる思考回路では普通の人付き合いなどできるはずもない。事実、トリオン兵は今日の今日まで一人で生きてきたのだ。今さら人と関われと言われても、そもそもやり方が分からない。分からなさすぎる。
だから、国近も武力で遠ざけてしまった。"それ"は、トリオン兵自身がもっとも嫌っている行為だと言うのに。
「……ほんと、いや」
こんな短絡的な思考しかできない自分に。
こんな力を持っている自分に。
--嫌気が差す。
「はぁ……」
ボーダー本部の屋上にて、夜風を受けながらトリオン兵はため息を吐いた。
周囲には明かりらしい明かりもなく、眼下から見下ろす景色にもまた、明かりの類いは存在していなかった。それもひとえに、ボーダー本部の周囲は警戒区域として廃墟同然となってしまっているからだ。生活する人が居なければ、当然明かりもつくはずがない。
トリオン兵は空を見上げる。人工的な明かりが無いせいで、星がとてもよく見える。
「………………」
綺麗だ。
暗い夜空に広がる数百、数千の星は、見たものの心を大いに感動させてくれる事だろう。
だが、しかし、残念なことに、トリオン兵にはあまり効果がなかった。理由は単純。向こうの世界ではもっと綺麗な星空を嫌というほど見ていたからである。
トリオン兵は星空に手を伸ばす。星空ではなく、その手を見ながら、トリオン兵は自身の中に宿る力について考える。
(……痛いのが溜まっていくと、なんかだんだん視界が自分のものじゃないような感覚になる。まるで、良くできた映像を見てるかのような--そんな感覚。あれは、何なんだろう……)
痛いのが溜まるとは、つまりダメージが蓄積していくということ。このトリオン兵は体が破損してもすぐに元通りになるが、やはりまったくの無傷という訳ではなかったのだ。
ダメージは、肉体ではなく精神に溜まっていく。それが先の戦いの時に見せた、暴走に似た凶暴化--及び、姿の変化だったのだろう。
アレは、トリオン兵が自力でやっていたことでは無いということだ。
(……自分が、自分じゃない感じ。でも、痛みは感じる--理不尽だよね、こんなの)
体のコントロールは利かないくせに、その状態でもきちんと感覚はある。それはつまり、体だけが勝手に動いてしまうということだ。しかも、自分ではそれを止められない。
敵を殺すまで、このカラダは止まらない。
だから、戦場には極力近づかないようにした。
他人とは、絶対に関わらないようにしてきた--それが、お母さんとの約束だったからだ。
だから、トリオン兵は今まで誰かと共に過ごしたこともない。数年前、お母さんと暮らしていたのが最後だ。
「……お母さん……」
呟きながら、右手を下ろす。
夜風に吹かれ、着ている白いワンピースの裾がふわりとめくれ上がった。すこし肌寒い。
しかし、トリオン兵は気にしない。さっきまで走り回っていて暑かったからちょうどよかったし、どうせここには自分一人しか居ないわけだし、誰かに見られる心配も--
--カラーン。
「え?」
トリオン兵はくるりと体を反転させると、音がした方向を見つめた。
するとそこでは、白いジャージに身を包んだ茶髪の少年が、顔を真っ赤にしてこちらを見ていたのだった。少年の足元には、飲みかけの缶ジュースが落ちている。なるほど、あれが落ちて音がしたのだろう。
「………………」
少年はフリーズしたように固まっており、驚きに目を見開いていた。ゆでだこのように真っ赤な顔も、トリオン兵が原因だと考えると、まあ妥当といった所だろう。
身体機能は元より、色々と無駄な部分が精密に造られているトリオン兵は、下半身さえも普通の人間と遜色がない程に造られているのだ。ましてや、今トリオン兵が身に付けているのは白いワンピースただ一枚。
そんな状況で、少年が風でめくれ上がったワンピースの内側を見てしまったのなら--それはまあ、当然の反応であるだろう。
「どうしたの? ここに何か用事?」
「………………」
トリオン兵が話しかけてみるも、少年は無反応。トリオン兵はぺたぺたと少年に近寄り、顔の前で手を振る。
「もしもーし?」
「…………はっ!?」
「気がついた?」
トリオン兵が顔を覗き込むと、少年はこれでもかというほど視線を泳がせた。
そんな少年の様子に、トリオン兵は少しだけ微笑む。
トリオン兵が微笑んだ瞬間、少年の顔が更に赤くなったのは、気のせいではないだろう。
「あ……あの、えっと--」
「ん?」
「あ、あんた誰?」
精一杯絞り出したのだと分かるような声音で、少年はトリオン兵に疑問をぶつけた。
その質問に、トリオン兵は困ってしまった。誰、と問われても、素直に「自分はトリオン兵です」と公言するわけにはいかないだろう。既に知っている者は別として、だ。
(ど、どうしよう……名前、何か名前を--)
なんて、そんな風にトリオン兵が焦っていたその時--
『ノア』
「----え?」
頭の中に突然響いてきた声が、トリオン兵の口を通してそのまま言葉になる。
ノア--少年には確かにそう聞こえた。
「ノア……それが、名前?」
『うん、そうだよ。それがアタシの名前』
「そっか--オレは緑川って言うんだ。よろしく」
『ミドリカワ、だね。こっちこそよろし……く?」
「なんで疑問系? でもそっかノア、ノアか……」
呆けたようにトリオン兵の名前を繰り返す少年--緑川。そんな様子に、トリオン兵はひたすら首を傾げていた。
こんな反応を示すトリオン兵を見るのは、正直言って珍しい。普段のトリオン兵ならば、人を確認したら隠れるか逃げるかしてしかるべきなのだが、緑川相手にはそういった傾向がまるでない。
お互いに背が近く、常時顔を真っ赤にする、というなんとも
それとも、直前までしていた思考によってお母さんのことを思いだし、人恋しくなってしまったからだろうか。
どちらにせよ、トリオン兵がこちらの世界に来てから初めてまともに話をした人物は、緑川が初である。
「……ノアはさ、何でこんなところに居んの?」
「アタシ? アタシは……ちょっと涼もうと思って」
「すず……!」
涼む、という表現に何かを想起してしまったのか、緑川は咄嗟に鼻を押さえて俯いた。
今の緑川はトリオン体なので鼻血は出ないが、生身だったならば確実に血が噴き出していただろう。それほどまでに、緑川の顔は真っ赤になっていた。
「どうし--きゃっ」
トリオン兵--ノアの軽い悲鳴に、驚いて顔を上げた緑川は更に驚愕した。
「~~~~ッ!!??」
まるで何かの示し合わせのように吹いてきた突風によって、またしてもノアのワンピースがめくれあがってしまっていたのである。
当然、二人は今まで向かい合って会話していたのだから、緑川の対面にはノアの体があるわけで--
「------ぐはっ」
「あ」
予想外というべきか、はたまた予想通りというべきか、ノアの"とあるもの"バッチリと目撃してしまった緑川は、たまらずあお向けに倒れて伏してしまったのだった。
後に緑川は、この時の出来事をこう語っている。
「不可抗力だったんだって!」--と。
カバー裏風キャラクター紹介
臆病な無防備少女・のあ
一応本作の主人公--なのだが、自分の体に振り回されたり、目が格子状の人に斬り転がされたりと、なにかと回転していることが多い。もしかしたら転がり落ちる運命を保持しているのかもしれない。
不幸というか薄幸なので、良いことはきっと起こるはず。生きろ。
逃げるのなら脚を切る・たちかわ
ノアにかなりの興味を示している一人で、外見がどうあれとりあえず斬ってみようと考えている辻斬り系アタッカー。右腕、左腕、右脚を斬り落としたので、残るは左脚だけである。コンプリートはしてはいけない。
原作よりも若干戦いへの執着心が強いかも。