トリオン兵ちゃんは幸薄い   作:看取る人

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友情を知りたい

「大丈夫?」

「……ん、大丈夫」

 

 ボーダー本部の屋上にて、突然倒れた緑川を抱えあげて介抱するノア。一度気絶したせいで、緑川の顔の赤みもだいぶ引いてきたようだ。

 屋上を吹き抜ける夜の風が、ノアと緑川の体温を奪っていく。緑川にはちょうどいい熱冷ましとなることだろう。

 

「そっかぁ、よかった。いきなり倒れちゃうからどうしたのかと思ったよ」

「……いや、あれはその--だったし……ノアの、お--たし……」

 

 もごもごと口を動かす緑川。

 しかし声が小さすぎて、ノアには何を言っているのかが聞き取れない。ノアの聴覚、及び視覚のスペックはそこまで高くないのである。

 その代わりと言うべきか、ノアは色々とバケモノ染みた回復力を持っていたりするのだが。今は関係の無い事である。

 

「ん? どうしたの?」

「な、何でもない」

 

 ふいっとそっぽを向いてしまう緑川。

 初々しい反応である。尤も、ノアはまったく気づいていないようであるが。

 しかし、それも仕方ないことであろう。長らく人との関わりを絶ってきたノアには、人の感情の機敏が感じ取れないのだ。端的に言うとニブチンなのである。

 

「……ノアはさ、ボーダーの人なの?」

「え? あ、えーっとそれは……」

「違うの?」

「…………違う、かな」

「じゃあ捕虜?」

「捕虜……どうしてそう思うの?」

「今日遠征に行ってたトップチームが帰ってきたってみんな言ってたから、そうかなって。あと名前。日本人じゃないっぽいし」

 

 予想外に鋭い緑川の推論に、ノアは言葉を詰まらせた。それと同時に、この組織は捕虜を捕まえるような物騒な組織なのかと疑念が沸いた。

 

 しかし、ノアをこうして(本部内とはいえ)自由にしている所を見るに、そこまでガチガチに拘束する気は無いのだろうと思える。そこだけが、ノアにとってだいぶ救いだと言える所だろう。

 

「でもオレ初めてだよ、人型のネイバーと話すの。こっちの人間とあんま変わんないんだね」

「……そうだね、あんまり変わらないよ。向こうも、こっちも」

 

 あえて訂正はしない。緑川がノアのことをトリオン兵ではなくネイバーだと勘違いしてくれているなら--それで話が拗れることなく進むのなら--それはそれでいいのである。

 

 それに、ノアを作ったお母さんも、ノアが遠巻きに見ていた戦場の人達も、こちらの世界で出会った人達と大差はなかった。それは間違いのない事実なのだから。

 

「そっかー……じゃあノアもさ、トリガー起動して戦ったりすんだよね? 向こうのトリガーはこっちのと違ったりすんの?」

「ううん。アタシはトリガー持ってないの。というより、使わないんだ。ごめんね」

 

 困ったように苦笑するノア。さすがに「今まで生身で戦っていました」とは言えないだろう。正気を疑われてしまう。

 その答えに緑川がちょっと残念そうな表情を浮かべるも、すぐに気を取り直したのか、体を起こしてノアの方に体を向けた。さっきからずっと膝枕状態だったので、これで二人は向かい合うように座っている形になる。

 

 ボーダーの建物はトリオン製なので、直に座っていても冷たいだとか固いだとか、そういったよくあるマイナス的な要素は皆無なのだ。

 

「使わないってことは……ノアって一般人のネイバー? じゃあなんで捕まったの? なんか重要な技術とか、情報を持ってるってこと?」

「う~ん……まあどっちかと言えば技術かな……」

 

 自分の体が、なんとなく他のトリオン兵と違うことは理解している。

 その違う部分に何か特別な技術が使われているのではないかと推察しているのだ。ノアは臆病だが、バカではないのである。

 

「ふーん、技術ね……それってどんな--」

「駿、こんなところで何してるの」

 

 次の質問を繰り出そうとした緑川の言葉が、とある声によって遮られる。その少女のような声は緑川の背後から聞こえてきたので、緑川は反射的にそちらを振り向く。

 

 そこにいたのは、金色の髪をツインテールにした背の低い少女であった。小柄な体躯につり目がちな表情も相まって、非常に気の強そうな印象を受ける少女である。

 

「おっ、双葉」

「『おっ、双葉』じゃない。なんでこんな時間に本部に居るの。明日学校遅刻するよ?」

「へーきへーき。だって明日、朝一番に防衛任務入れてもらったから」

「はぁ? 防衛任務って……草壁隊は今あんた一人しか居ないじゃいないの。一人で防衛任務するつもり?」

 

 双葉、と呼ばれたこの少女。A級六位、加古隊攻撃手(アタッカー)黒江双葉(くろえふたば)は呆れたように緑川を見おろした。

 二人は幼馴染みであり、気心の知れた仲である。だからこそ、こういった言い合いは日常茶飯事なのである。

 

「ちっちっち。そんなわけないじゃん。もっと現実を見ようぜ双葉」

「…………!」

「あだっ!?」

 

 黒江の鉄拳が、緑川の頭に降り注ぐ。これは緑川の自業自得と言わざるを得ない。

 

「真面目に答えなさい」

「いってて……はいはい。双葉、加古隊のシフト覚えてるよな」

「もちろん。今日のお昼と明日の--ってまさか」

「おう。そのまさか」

 

 黒江は顔をひきつらせて緑川を睨む。

 そんな黒江に、緑川はドヤ顔を返すだけだった。今の黒江にそんな対応が出来るとは、ある意味大物である。ある意味では、だが。

 

「……うちと合同で防衛任務ってこと?」

「そういうこと!」

 

 ここ二日の加古隊のシフトは今日のお昼と明日の早朝。そのため、緑川はボーダー上層部に打診して一時的に加古隊と合同の任務にしてもらったのだ。

 

 その理由は単純にして明快。

 

 緑川の見たい映画が、今夜テレビで再放送されたからである。別に録画しておけば済む話なのだが、映画はリアルタイムで見るのが一番なのだと荒船から聞いたので、実践してみたくなったのだ。映画館に行けと言いたい。

 

「まあ、あんたを遊ばせとくのは戦力的に勿体無いから当然と言えば当然……か」

「いやー、実力派エリートはひっぱりだこなもんで!」

「調子にのるな」

「いてっ!」

 

 またも鉄拳が緑川の頭にクリーンヒットする。懲りない緑川であった。

 

「--で」

 

 と、一旦会話を切ったかと思えば、黒江は緑川の向こうに居る少女--ノアへと視線を向けた。

 

「その子は何なの、駿?」

「ふぇっ!?」

 

 突然視線を向けられたノアはビクッと震え、少しだけ後ずさる。

 そんなノアの様子を、黒江はその冷めた目で見つめていた。その温度は絶対零度。そんな目で睨まれてしまっては、たとえ臆病なノアでなくとも怯えてしまうこと間違いなしだろう。

 

「ああ、この子はノア。太刀川さん達が遠征先から連れてきた捕虜だよ」

「……捕虜?」

「う、うぅ……」

 

 緑川の言葉に難色を示すも、黒江はノアの側に近寄り、しゃがみこんだ。

 

「な、なぁに……?」

「…………」

 

 じーっとノアのことを見つめる黒江。その視線はまず髪の毛に、次いで服装に、そして最後にはそのスカイブルーの瞳に注がれていた。

 そうして一通り眺めた黒江は、何かを考えるようにして顔を伏せ、そしてすぐに上げ、またしてもノアのスカイブルーの瞳を見つめ続けていた。

 

「おい双葉。あんまり睨むとノアが--」

「--綺麗」

「へ?」

「………………」

「おい双葉。今なんて言って」

「……何でもない。行くよ駿。うちと合同なら、作戦会議しないと」

「あ、ちょっ、ひっぱるなよ~!」

 

 ズルズルと、緑川の襟を掴んで引き摺っていく黒江。

 それはまるで照れ隠しのような行動でもあった。黒江が何を感じてノアから逃げるように去っていくのかは分からないが、どうやら機嫌を損ねたというわけでは無いらしい。

 

「またな~! ノア~!」

 

 黒江に引き摺られつつも、手を振ってノアに別れの挨拶をする緑川。それに答えるため、ノアも右手を振り上げる。

 

「うんっ! またね。ミドリカワ、クロエ!」

 

 その言葉を聞いた緑川はニカッと笑い、黒江は歩くスピードを早めた。後者は照れているのだろうか。

 二人の姿が見えなくなるまで、ノアは手を振り続けていた。それはまるで、別れを惜しむ子供のように。

 

「--ふふっ。またね、かぁ」

 

 まさか自分がそんな言葉を使う日が来るだなんて。人と関わりあう日が来るだなんて。

 ノアは胸に手を当て、感慨深そうに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 研究者はその男性と過ごすようになってから、少しだけ逞しくなりました。

 

 戦場での戦いかたも覚えたし、戦術だって若干かじりました。しかし、それでも研究者は男性の足元にも及びません。根本的にモノが違うのです。

 男性は研究者にとっての憧れでした。

 少し乱暴でガサツだけど、根は優しくて面倒見がいい彼のことを、研究者はとても慕っていたのでした。

 

『はぁーん……てめぇら、いい度胸だ。来いよ、まとめて遊んでやる。来ねぇなら--こっちから行くぞごらぁぁぁ!』

 

 なんて言って、単身敵陣営に突っ込んでいくのは正直止めて欲しかったのですが。それでも彼はいつも無事に帰ってくるので、研究者の心配も杞憂に終わっていたのでした。

 

 しかし、そんな日が続いたある日、とある戦場にて研究者は一人孤立してしまいました。敵の罠に嵌まって、みんな一人ずつ分断されてしまったのです。

 ここまでか--研究者がそんな風に覚悟を決めたその瞬間。

 

『おい。勝手に死ぬなんて、誰が許可したよ』

 

 彼が風のように現れ、鮮やかに研究者の窮地を救って見せたのでした。

 その姿を見て、研究者は彼にますます惹かれていきました。その感情は本当に不思議なものでした。それはおおよそ、研究者が生きてきた今までの生涯では感じたことの無かった感情だったのです。

 

 その感情が恋だと気づくのに、あまり時間は掛かりませんでした。研究者は生まれて初めて、人を好きになったのです。

 

 

 

 

 

 

 無機質な感じのするボーダー本部の廊下を、ぺたぺたと裸足で歩くノア。

 あの二人と別れてから数時間、そろそろ日が昇ってくる時間になったので、国近も追跡を諦めたであろうと思って戻ってきたのだ。

 

 屋上から飛び降りて逃げ出してもよかったのだが、一応捕虜としてここに居る以上、逃げ出すことは出来ないだろうと判断したのだ。

 

(……なんか首とかに仕掛けがしてあって、逃げ出したらどかーん……とかなっちゃうかもしれないし……)

 

 至極尤もなノアの推論は、しかし当たってはいなかった。

 ボーダーは何も、捕虜に爆発物をくっつけるような非人道的な組織では無いのである。ノアの予想は、安全な方向に外れていたのだ。

 

 それでも、ボーダーのすべてが安全かと言えばそうでもないのであるが。

 

「どこに行けばいいんだろ……」

 

 似たような景色が続いている廊下を、ノアはゆっくりと歩いてゆく。

 とくにこれといった目的地もなく、これから何をするでもないノアには、今のこの時間がひどく長く感じられていた。

 と、そんな時。

 

「お、いたいた」

「え」

 

 曲がり角からにゅっと出てきたヒゲもじゃ黒コートの青年に、そんな言葉を掛けられた。

 

「え、え……?」

「お前どこいってたんだよ。隊室に居ないからビックリしたぞ」

「--う」

「う?」

「うわぁぁぁぁん!!!」

 

 そんなヒゲもじゃの青年--太刀川に怯え、ノアはまたしても逃げ出したのだった。いったいこれで何回目だろうか。

 太刀川はそんなノアを慌てて追いかける。

 

「お、おいちょっと待て!」

「来ないでーーー!!」

 

 太刀川の呼び掛けにも、ノアは聞く耳持たず。いや、太刀川だからこそ聞く耳を持たないのだろう。これが今さっき出会った緑川や黒江だったならば、難なくノアを呼び戻せていたことだろう。

 

 太刀川は苦い表情を浮かべつつ、グラスホッパーを起動させた。太刀川の体が、凄い速さで前方に吹っ飛んでゆく。

 その勢いのまま太刀川はノアを後ろからだき抱え、羽交い締めにしてしまったのだった。

 

「ふぅ、捕まえた」

「いやー! 放せー! つじぎりー!」

「……つじぎりってお前」

 

 地面に着地して静止してもなお、ノアはじたばたと暴れ続ける。その往生際の悪さは、まるで元気盛りの仔猫を彷彿とさせた。

 実際は、そんな可愛いものでもないのだが。

 

「また痛いことするんでしょ! あの時みたいに、あの時みたいに!」

「その言い方は多大なる誤解を生むだろうからやめておけ。あと、今回は違う。お前を城戸さんのとこに連れていくだけだ」

「城戸……さん?」

「ボーダーの--この組織のトップの人だな」

「………………怖い?」

「怖いぞー。ちみっこいお前なんか簡単に食べられちまうかもな」

「やだーーー!!」

 

 愉快そうな笑みを顔に張り付けている太刀川の言葉に、ノアはますます激しく抵抗を示していた。

 太刀川の髪を掴んだり、脇腹を蹴ったり、それこそできうる限りの抵抗をノアは実行していた。

 

 しかし、今のノアの攻撃では太刀川にはまったく通用していない。はっはっは、と乾いた笑いと共に受け流されるだけである。

 

「さ、一緒に行こうなー」

「はーなーせー!!」

 

 騒ごうとも周囲に人はおらず、ノアを助けてくれる人物は居そうにない。

 --で。

 

「お前が、例のトリオン兵か」

「………………」

 

 抵抗むなしく、ノアはボーダー上層部の面々の前に引きずり出されていた。

 会議室のような部屋のなかで、ノアを囲むように六人の人物がコの字型の机に座っている。右に二人、左に三人。そして正面に一人だ。

 

 加えて、ノアの後ろにはトリオン体の太刀川が控えている。

 その中でも、ノアの目の前に座っている人物こそがボーダー最高司令官、城戸正宗(きどまさむね)その人である。顔に一閃の傷が残る、とても威圧感を漂わせた初老の男性であった。

 その傷を左手ですーっと撫でるような仕草もまた、よく分からないプレッシャーをノアに与えている。

 

(……こ、怖い。何が怖いって、目付きが。これって、さっきのクロエの五倍は怖いような……)

 

 黒江の眼差しは絶対零度だが、城戸の視線は温度とかを感じさせるまもなく、物理的に人を刺し殺せるのではないかと思うほど鋭いものだった。

 

「本来なら拘束してから真っ先に尋問すべきだったのだが、些か厄介な案件があってな。後回しにしてしまっていた」

「……は、はぁ」

「さて、これからお前にはいくつか質問に答えてもらうことになる。返答の種類は最低でもイエスかノーだ。曖昧な答えは許さん」

「ひっ--は、はひっ!」

 

 城戸の底冷えするような声音に、ノアは小さく悲鳴を上げつつも頷いた。

 そうして始まった尋問タイムに、いの一番に参加してきたのはボーダー本部開発室室長、鬼怒田本吉(きぬたもときち)であった。

 

「では早速聞かせてもらおう。お前を作ったのはどこの国の、どんなやつだ?」

「え……えっと、国の名前?」

「そうだ。あとは製作者の名前もな」

 

 いきなり核心に触れる質問を……と、城戸以外の四人は内心穏やかではない心持ちでノアからの返答を待っていた。

 

「アタシが作られた国の名前は、ゼーロス--もうすでに、近界(ネイバーフッド)から消滅している国だよ」

「なっ……!」

「なに……!?」

 

 予想外すぎる返答に、質問した本人と右側に座っていた男性が驚きの声をあげる。

 ボーダーのスーツがよく似合う、ダンディだが若々しいオーラを纏った男性だ。その佇まいからは熟練の戦士特有のピリッとした雰囲気が漂ってくる。

 

「国が滅んだあとは、いろんな国を転々としてたの。その途中で……まあ、捕まっちゃったんだ。ここに」

「ふむ」

「それと、お母さんの名前はミリアだよ。もう……死んじゃったけど」

「お母さん……?」

「アタシがそう呼んでるだけ。実際に産んだわけじゃないけど……あの人はアタシを作ってくれた、お母さんなんだ……」

 

 質問をした張本人である鬼怒田さんは、思わず息を呑んだ。なぜなら、ノアがその名前を呼んだとき、見ていられないくらいの沈痛そうな表情を浮かべていたからである。

 

 お母さんというのは、古今東西、世界が違っても愛しいものなのだろう。

 

「……ふーむ、そうかそうか。じゃあ俺からも質問いいかい?」

「あ……うん、いいよ」

 

 次いで手を上げたのは、右側に座った眼鏡をかけた人物。無精髭をはやし、タバコを加えながら飄々とした雰囲気で話かけてくる。そんなゆるやかな雰囲気を纏わせる人物は、玉狛支部支部長、林藤匠(りんどうたくみ)である。

 

 他の人物たちとはずいぶん違う空気を醸し出している林藤を見て、ノアは少しだけ違和感を感じたのだった。

 

「君のお母さんは、君のことを大事にしていたかい?」

「え?」

「トリオン兵だとか、中身がどうだとか言うつもりはない。ただ、大事にされていたかが聞きたいんだ」

「………………」

 

 予想外すぎる林藤の質問に、ノアは目をぱちくりとしばたかせて、固まった。

 まさか、トリオン兵である自分に対して、そんな人間にするような質問をしてくるなんて思わなかったからだ。

 

「…………多分、大事にしてもらってたよ。お母さんにとっての、二人目の子供だって言ってたから」

「そうか……それならいい」

 

 ノアには知り得ないことだが、林藤はつい最近玉狛にやって来た白い新人の姿を、ノアに重ねて見ていたのだ。

 

 背も同じくらいだし、その新人が時おり見せる暗い表情が、ノアの顔とかぶって見えてしまったのだ。その為、ついこんな年よりじみた質問をしてしまったというわけである。

 

「二人目、とは?」

 

 間髪いれず、城戸が質問をぶつける。

 もはや許可をとるつもりは無いようだ。

 

「お母さんには、娘がいたの」

 

 アタシが作られる前に死んじゃったらしいけど。とノアは付け加え、その場に視線を落とした。

 

 もし、その娘が生きていたのならノアのお姉さんになっていたののだろうか。なんて--考えても意味のない、仮定の話である。

 

「お母さんと娘……か。では、お前の体のつくりもそのお母さんとやらしか分からんのだな?」

「うん。アタシには、アタシの体に関する記憶は入ってないの。精々、怪我をしてもすぐ治るとかぐらい」

「ふむぅ……手がかりなしか」

 

 残念そうに肩を落とす鬼怒田さん。それと同時に、城戸が新たな議題を切り出してきた。どうやら、これ以上有益な情報を持っていないと判断されたのだろう。

 次なる議題は、ノアをどうするかということ。監禁か、処分か、解放か、研究材料か、それとも--

 

「お前の処遇は、既にこちらで決定してある」

 

 城戸のその言葉に、ビクッと体を震わせるノア。

 城戸の信条として、ネイバーは絶対に許さないというものがあるが、それはネイバーの使役する兵器であるトリオン兵であっても同じだ。それをここに来る直前に太刀川から聞いていたノアとしては、これから発する城戸の言葉は死刑宣告に等しい。

 

 このままいけばノアは廃棄一直線(ゴミ捨て場送り)--の、筈だったのだが。

 

「お前は太刀川による監視のもと、ボーダー本部で暮らしてもらう。そして、毎日開発室で解析検査だ」

「…………!」

「ほう」

 

 ネイバー嫌いの城戸からしたら、それは一万歩くらい譲歩しているのではないかと感じるほどの破格の待遇である。

 太刀川が思わず感心するような声を上げてしまったのも、仕方のない事であっただろう。実際、太刀川は即刻処分とまではいかなくとも、開発室にでも拘束されるものだとばかり思っていたのだから。

 

 "監禁"ではなく"暮らす"というのなら、やはりある程度の自由は保証されるということなのだろうから。

 

「太刀川」

「はいはい?」

「たしか『俺が預かります』だったな? ならばお前に預ける。決して勝手な真似はさせるなよ」

「…………! --了解っ」

 

 あの時の言葉が、鬼怒田さんを通して城戸にまで伝わっていたのだ。太刀川は自分の言葉が城戸を動かしたという事実と、これからノアの管理は自分に一任されたのだという事実を噛み締め、ニヤリとした笑みを浮かべて返事をした。

 もっとも、当の本人であるノアは、カタカタと顔を青くして震えているわけであるが。

 

(た……タチカワといっしょ……!?)

 

 これから四六時中--というわけでもないだろうが、トラウマの元凶と行動を共にすることがほぼ決定的に決まり、ノアのストレスは既にマッハであった。

 そんなノアの肩を、太刀川がポンと叩いた。

 

「これからよろしくな」

 

 とびっきりの笑顔と共にもう片方の手でサムズアップをする太刀川。

 あ、これは戦おうとしてる顔だ。と瞬時に察したノアは、その瞳からハイライトを消し、その顔に絶望の表情を覗かせる。

 

「………………うん、よろしくタチカワ」

 

 一瞬で悟りを開いたノアは、ひどく落ち着いた声音でそう言葉を帰したのだった。

 

 

 




カバー裏風キャラクター紹介

 ラッキー変態・みどりかわ
 ヒロイン(人外)とのラッキースケベを初体験した中学生。初めての体験だったが、別の漫画では更に上がいるのでまだまだ甘い。
 これからもラッキーは続くのだろうか。続いたら間違いなく鼻血が出る。

 正義の鉄拳・くろえ
 幼馴染みのボケに容赦ないツッコミを入れ、その幼馴染みの脳細胞を破壊するという非道を行う忍者。慈悲はない。
 内心ではノアちゃんカワイイヤッターと叫んでおり、実は一番ノアに惹かれていたりする。
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