トリオン兵ちゃんは幸薄い   作:看取る人

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 お久しぶりです。
 二ヶ月も時間が開いてしまって申し訳ありませんでした。大規模侵攻の構成に手間取ってしまいまして……(その割りには大して捻ってもいないという)

 今回は遊真達の入隊から数日後の場面です。
 言い分けさせてもらいますと、入隊式でノアが関われる場面ってほぼ無いんですよね。ですので思いきって飛ばしてしまいました。お許しください!

 次回から大規模侵攻編です。あ、今回タイトルはほぼ関係ありません。


メガネを知りたい

「これがスコーピオン。これが弧月で、これがレイガスト。機能で言うと左から攻撃、バランス、防御って所かな」

 

 玉狛支部にある殺風景な仮想戦闘ルームの中、テーブルに置かれた三つのトリガーホルダーを指差し、迅が説明をしている。

 ノアはそれを興味深そうに見ており、真剣な表情でテーブルに釘付けであった。

 

「どれにするかは実際に使ってみてから決めればいいよ。練習相手ならいくらでもなってあげるしね」

「ありがとう、ジン--ううん、師匠」

「いいって、いいって。大規模侵攻までやることないだけだから。あと師匠はやめてくんない?なんかむずがゆいからさ」

「……分かった、ジン」

「そうそう」

 

 そう言いながら笑う迅であったが、内心は不安で一杯であった。

 まず第一に、ノアには未来予知のサイドエフェクトが効かない。それによって、ノアを見てもこの先の未来を窺い知ることが出来ないのだ。

 それはつまり、ノアの相手をしている間は未来が見えないというわけで--そこからは言わずとも分かるだろう。

 第二に、ノアがトリガーを起動できるのかといった不安。これができなければ、まずもって戦闘指南など不可能だ。

 もっとも、今回はそれを確認する場でもあるのだが。

 

(起動できればそのまま教える。起動できなきゃ鬼怒田さんに改良してもらう……前者がいいなぁ)

 

 後者の場合、鬼怒田さんにする説明がとてもめんどくさい。前者の場合でもそれはそれで問題だが、鬼怒田さんのお小言に比べればよっぽどマシなのだ。

 

「そのホルダーを持って、トリガー・オンって言ってごらん。そうすれば起動できる筈だよ」

「分かった--トリガー・オン」

 

 その言葉に反応して、ノアの体が足先から徐々に変化していく。

 ふわりとした白いワンピースはきっちりとした白いジャージを模した隊服に変わり、その右手には日本刀のような刀が握られていたのだった。

 

「よし、ちゃんと起動できたみたいだね」

「これが、トリガー……凄いね、みんなこんなの持ってるんだ」

 

 自らの手に握られている刀をしげしげと観察し、感嘆の息を漏らすノア。その顔は驚きと感心に染まっている。

 いきなり手に武器が出現したらそうもなるだろうが、今までトリガーを使ってこなかったノアにとっては驚きもひとしおだろう。

 

「弧月か。なんでそれにしたの?」

「…………タチカワが、使ってたから」

 

 若干目を伏せながらそう呟くノアに、迅はあからさまに頬をゆるませながらノアの頭を撫でた。

 

「あっはっは。子供は親の背中を見て育つって言うけど、それ本当みたいだねー」

「い、いやこれは、別にそういうことじゃ……って、タチカワは親じゃないよ?」

「知ってる知ってる。よし、それじゃ始めよっかー」

 

 生ぬるい笑顔のままトリガーを起動して、ノアの対面に移動する迅 。そんな迅を見て、ノアはなんとも言えない感情のまま、戦闘訓練を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 ボーダー本部のとある一室にて。部屋の奥に鎮座する城戸と、その眼前に相対する太刀川の姿があった。

 

「……呼ばれた理由は、分かっているな?」

「ええ。あのトリオン兵がらみの事ですよね?」

 

 ゆっくりと、重々しく口を開いた城戸に対し、あえていつもと変わらない声音で言葉を発した太刀川。それを受けて、城戸は更に言葉を紡ぐ。

 

「最近、放し飼いが過ぎるのではないか?」

 

 鋭い眼光と共に、太刀川へ鋭い言葉が飛ぶ。

 その言葉に少しだけ表情を苦くし、太刀川は反論する。

 

「普段からちゃんと目の届く場所へは置いていますよ。玉狛へ行く時には林道さんを通して迅に俺の権利を一任していますし、一概に放し飼いとは言えないんじゃないですか?」

「……林道支部長から玉狛滞在の件は聞いている。防衛任務や昼間の学業時には面倒が見れないことも了承しているつもりだ」

 

 だが、と城戸は言葉を切った。

 

「これを見てしまっては、今までのように扱うわけにもいかんだろう」

「これ?」

 

 スーツの懐からタブレットのような携帯端末を取り出し、太刀川に手渡す。それを受け取った太刀川は、それを起動させて中に保存されたデータを確認した。

 ボーダー隊員ならば皆知っている、トリオンによって起動する便利な道具だ。開発者はもちろん鬼怒田さんである。

 

「…………これは」

「鬼怒田開発室長からの報告書だ。これを見ればお前もあのトリオン兵に対する考えを--」

「これ、何が書いてあるんですか?」

 

「………………」

 

 てへ、と笑って頭を掻く太刀川に、城戸は呆れとか怒りとかそういった色々なものを超越して絶句した。

 というか、絶句しかできなかったのだ。

 せっかくシリアスな雰囲気を出してきたのに台無しである。そのデータは難解で、ある意味では太刀川の反応も間違ってはいないのだが、ここは空気を読んで黙認するところだろう。

 城戸は場を仕切り直すために咳払いをひとつした。

 

「……簡潔に言えば、あのトリオン兵の内部にはブラックトリガーが埋め込まれている。それによってあのような力を発揮している--と、言うことが書いてある」

「っ!?」

 

 今度は太刀川が絶句する番だった。

 確かに、それならばあの桁違いなまでの再生能力に説明がつくし納得もいく。

 ブラックトリガーとは、人の命を代償として創られるトリガー--その能力は、創り手の性格や気質に大きく左右される。

 しかし、それらは大抵バケモノ染みた強さを誇っていることがほとんどである。実際、ボーダーにあるブラックトリガーだけを見ても、壁さえすり抜ける超遠隔斬撃、辺り一体を更地にする破壊の化身。そして、最近玉狛に入った新人のコピー能力。

 ブラックトリガーには内容トリオンのブーストがかかるという基本能力を差し引いても、凄まじいラインナップだ。

 

「ヤツのブラックトリガーは、高密度のトリオンを絶え間なく放出しているというものらしい。さしずめ永久機関とでも呼べばいいだろうか」

「永久機関……」

「その有り余るトリオンを使って、あのような獣の姿に変化していたらしい。暴走するのは、受けた傷によって体内のトリオンバランスが崩れるからだそうだ」

 

 玉狛支部所属の烏丸恭介が使う、ガイストのようなものだ、と城戸は総括する。

 ガイストは、トリオン体の各部位にわざと必要以上のトリオンを流し、トリオン体のスペックを大幅に上昇させるというものだ。その必要上、バランスを崩したトリオン体は数分で崩壊するらしい。

 

「だが、あのトリオン兵はその有り余るトリオンで崩壊するボディすらも修復しているらしい。それがあの再生能力の秘密だ」

「なんか詳しいですね」

「鬼怒田開発室長から懇切丁寧に説明を受けたのでな」

「ああ、それで」

「お前も後で受けてくるといい」

「遠慮しておきます」

 

 軽口を叩いてはいるが、太刀川の内心は驚愕でいっぱいだった。まさか、身近にもうひとつブラックトリガーが存在したとは。

 そして、それと同時に胸の奥から言い表しようのない焦燥感が上ってきている事も感じていた。

 これは、何なのだろうか。

 自分でも分からない。今まで感じたことの無いような焦りと、それに伴う不安感が太刀川の胸中に広がっていくのが分かった。

 

「…………」

「どうした、太刀川」

「……いや、何でもありません」

 

 よく分からない感情の変化を押し殺し、太刀川は渋面をして口をつぐんだ。

 いつも悩みなんて無さそうに、能天気に笑っている太刀川らしくない、苦々しげな顔だった。

 

「とにかく、これからはより一層あのトリオン兵の動向に気を付けろ。特にこれから来る大規模侵攻の時にはな」

「……了解」

 

 大規模侵攻。

 今まで何度も聞いてきたその単語が--今回はいやに、不安に聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「よし、今日はここまで。初日にしてはまあまあな動きだったよ」

「ありがとう……ございましたです、ジン」

「あはは、こっちもいい練習になったよ。サイドエフェクトに頼らないで戦うのって、新鮮だったからさ」

 

 トリガーを解除しながら朗らかに笑う迅に釣られて、ノアもまた微笑を浮かべた,。

 まだまだ不安そうで、頼りなさそうな顔をしているが、着実に成長はしているようだ。少なくとも、普段からこうして、ぎこちなくだが笑えるようになっているのだから。

 迅の影響もあるかもしれないが、それでも、だ。

 

「さて、無事に初日の訓練も終わったことだし、うちの後輩たちにノアちゃんのお披露目といきますか」

「お披露目?」

「そう。メガネくん、遊真、千佳ちゃんに、ノアちゃんのこと紹介しとかなくちゃと思ってさ」

 

 その言葉を聞いて、ノアはあからさまに不安そうな表情を浮かべる。

 太刀川からあらかじめノアの人見知り癖のことを聞いていた迅は、やっぱりな、という表情を浮かべた。

 とは言え、同時に太刀川からそれが一時的なことだろうとも聞いているので、そこまで心配してはいないのであるが。

 

「大丈夫、大丈夫。三人ともいい子だからさ。きっと友達になれるって」

「……そう、かな」

「そうそう。背も同じくらいだし」

 

 そこは、重要なポイントなのだろうか。

 

「んじゃ、三人ともリビングで待ってるって連絡あったし、早速行こうか」

「あ……う、うん」

 

 迅に手を引かれて、訓練室を出るノア。そのまま一直線に歩いてきて、リビングへ続く扉の前まで着いたのだった。

 相変わらずノアの顔は不安そうであるが、そんな感情を吹き飛ばすがごとく、迅は勢いよく扉を開け放った。

 

「はーい皆ちゅうもーく!」

「ちょっ、ジ、ジン!?」

 

 一緒に飛び込んだノアの困惑ぎみな声を無視して、迅は目の前のソファーに座った三人の少年少女に声をかけた。

 一人は真面目そうなメガネをかけた少年。二人目は白い髪をした小さな少年。最後にアホ毛が伸びている小柄な少女の計三人だ。

 

「あ、迅さん」

「いきなり召集とは、何事ですかな?」

「…………」

 

 三者三様の様相を呈しているが、程度の差はあれ、三人の共通している感情は"疑問"だ。

 訓練でも防衛任務でも、はたまた特別な日でもないのに上司から召集とは、普通に疑問に思うだろう。

 そんな疑問に答えるように、迅は後ろにいるノアのことを指さした。

 

「紹介が遅くなって悪かったね。この子が、新しく俺の弟子になったノアちゃんだ。三人とも、弟子仲間として仲良くしてやってくれ」

「…………よ、よろしく」

 

 控えめに挨拶をするノアを見て、二人の少年は物珍しげな表情を浮かべる。その視線を受けて、ノアは慌てて迅の背後に隠れてしまったのだった。

 

「その子が、迅さんの弟子……」

「ふむ。中々にちっこいですな」

「ええー……お前が言っちゃうのそれ」

 

 白髪の少年、遊真が発した言葉にすかさずツッコミを入れる迅。

 そんな三人をよそに、残った少女、千佳だけは、ノアを見つめてしきりに首をかしげていたのだった。

 

「…………?」

「どうしたんだ、千佳?」

「え、あ、ううん。何でもないの修くん。ただ……」

「ただ、なんだ?」

「…………やっぱり、なんでもない」

 

 顔を伏せてしまった千佳に、メガネをかけた少年、修はそれ以上追求することもなく、そうか、とだけ言って視線を外したのだった。

 

(…………気のせいかな。あの子、人間じゃないように感じたんだけど……気のせい、だよね。きっと)

 

 そうは言っても、それは気のせいなどではないのだが。心の声ではその判断を肯定してくれる人も否定してくれる人もいない。

 サイドエフェクトが効くか効かないかで判断したのか、それとも普通に雰囲気や挙動から察したのか--どちらにしろ、それは千佳以外には知り得ないことであるが。

 

「ノアは何歳なんだ?」

「さ、十三歳……」

「ほう、おれ達よりも年下か。よかったなオサム。新しい後輩ができたぞ」

「それはいいことなのか……?」

 

 修は少し困惑した表情で額から冷や汗を流す。

 

「ノア、ちゃんは。ボーダーに入隊してるんだよね?」

「あ、えっと……実は正式にボーダーには入ってないというか……特例というか」

「特例?それ、あの城戸さんが認めたのか。珍しいな。あの人そういうことには特に厳しそうなのに」

(そりゃあ、ネイバーはともかく、トリオン兵組織に入れるとかは無理でしょ……たぶん)

 

 千佳の質問に焦って対応するノア。ものは言いようである。

 そんな光景に、迅は内心でぼそりと言い訳を口にした。

 

「ノアは、戦闘とか得意なのか?」

「……ううん、全然。今までそういうことは……やってこなかったから」

「オサムも得意じゃないからお揃いだな」

「嬉しくないお揃いだな、それ……」

 

 正確には、やろうとしてもできなかった、が正解である。一度傷を負ってしまえばたちまち暴走して相対する敵を殲滅するのだから、戦い方など覚えられるはずもない。

 その点、ボーダーのトリガーは痛みや体の欠損も起きないので、ノアの体質にはかなり合っていると言えるだろう。

 

「お、そろそろ本部に戻る時間か。ノアちゃん、帰る準備してきな」

「あ、う、うん」

 

 リビングの壁掛け時計を確認した迅は、ノアに振り向いてそう言った。訓練と顔合わせでだいぶ時間が経っていたのか、時計の短針は6を指している。

 迅は帰る準備と言っていたが、元々身一つで拉致されてきたノアには大した持ち物はないのである。精々が、忍田本部長に持たされたカバンとタオルくらいだろう。

 

「えっと……」

 

 玉狛支部にある部屋のひとつに入るノア。ここはノアが玉狛に来ている間に、何かあったら使ってもいいと言って当てられた部屋である。

 実際、使うことはそう多くはないのだが。

 ノアはその部屋に置かれたカバンを拾い上げ、部屋をあとにした。

 

「お待たせ、ジン。遅れちゃった」

「大丈夫だよ。ぼんち揚食う?」

「どっから持ってきたの……?」

 

 戻ってきたノアを待っていたのは、ぼんち揚の袋をこちらに差し出してくる迅だった。

 後ろの三人も食べているところを見るに、やはり出会った人皆に薦めているのだろう。もう常に携帯している勢いでぼんち揚を持っている迅であるが、そんなに人にあげて自分の分は無くならないのかといつも不思議に思うノアであった。

 

「じゃあ、これにてお披露目は無事終了だな。んじゃ皆かいさーん……ってことで」

「はい、迅さん。またな、ノア」

「強くなったらおれとも戦ってくれよな」

「……またね」

「うん。またね、三人とも」

 

 三人からの挨拶を受けて、玉狛から本部へと出発するノア。

 解散したはずなのに玄関にまで見送りに来てくれるというその行動は、やはり修たちが優しい人物であることを物語っているのだろう。

 それがわかった事で、ノアの警戒心もだいぶ和らいだようである。しかしそれは断じてノアがチョロい訳ではない。それほど修たちの雰囲気が優しかったからである……本当だよ?

 

「……三人とも、いいひとだったね」

「だろ?うちの自慢の後輩だよ。メガネくんはちょっと不器用だけど、強い意思と、物事を考えられる頭を持ってる。遊真だって、今のノアちゃんの十倍は強いよ」

「十倍……それはすごいね」

「千佳ちゃんだって、俺たちとは桁違いのトリオンを持ってるしね。何だかんだで、いいチームだと思うよ」

 

 そう話をする迅の顔は満足げで、あの三人に対する期待の度合いが見てとれた。

 

「だから--さ」

 

 迅はくるりと後ろを振り向き、後を着いてきていたノアに正面から向き合う。

 

「あいつらのこと、できたら助けてやってほしいんだよね」

 

 

 

 

 

 

「ふぁーあ……」

 

 白い髪の人形に迫り来る幾つものエネルギー弾。それに当たれば木っ端微塵だということは、隣にある立派な木が証明してくれているだろう。

 幹の中ほどから上が消し飛び、葉っぱがそこらじゅうに散乱しているのが見てとれた。

 

「ぬぅ……!!どうなっている!?なぜ当たらん!」

 

 しっかりと狙って撃っているはずなのに、そのことごとくが人形、ツバサを通過する。

 いや、避けられていると言ったほうが正しいか。最小限の動きでエネルギー弾を避け、最小限の動きで元の場所に戻っているからそう見えるだけなのだ。

 ツバサがエネルギー弾を避けるたび、身に纏った漆黒のワンピースがふわりとはためく。

 

「遅いよー、遅すぎ。ほんとにあたしを撃つ気あるの?」

「くっ……調子に乗らんことだ!!」

 

 エネルギー弾を発射していた大男、ランバネインは、使用しているトリガー、ケリードーンのバーニア機能を使い、空中高くに舞い上がった。

 そこから豪雨のように散弾を撃ち込み、それらが的確にツバサを狙って降り注いでいく。避けるスペースすらもない。

 

「ふーん。じゃあちょっと本気出そっか、なっ!」

 

 ツバサは地面を思いっきり踏み締め、脚に込めた力を一気に解放した--と、次の瞬間。

 

「やっほー」

「なっ……!?」

 

 ランバネインの目の前には、逆さまになったツバサの顔があった。そこから少し遅れて、後頭部に強い衝撃。

 ランバネイン自身は何をされたのか分からなかったが、ツバサのサマーソルトキックがランバネインの後頭部に綺麗に命中したのだ。

 

「ぐっ……!?」

「まだまだ!」

 

 そこから蹴った脚を起点にしてランバネインの後ろに飛び、マントのエリを掴んで思いっきり下に放り投げる。

 

「ぬおおおぉぉっ!?」

 

 重力の数倍ものスピードで地面に迫るランバネイン。だが、地面スレスレのところでバーニアを使って軌道を横に変えた。

 そんな不安定な体勢から、まだ空中にいるであろうノアに向かってエネルギー弾を放つ。それは空中で身動きのとれないツバサにとっては必中の攻撃となるだろう。

 案の定、ランバネインが放ったエネルギー弾はツバサに当たってもうもうと煙を立ち上げていた。

 

「やったか……っ!?」

 

 期待を込めた眼差しで着弾点を見たランバネイン。だが、すぐにその表情が驚きに染まる。

 

「キルルル……」

 

 確実に当たった筈なのに。あの凄まじい威力のエネルギー弾を喰らったのに。ツバサは空中に何でもない風に"浮かんでいた"。

 それどころか、背中からは鳥類じみた翼を生やし、手と足には鋭い鍵爪を生やしている。

 その眼光はまるで野生の鷹を思わせる鋭さを持ち、特徴の一つである白い髪は腰の辺りにまで伸びきっていたのだった。

 

「出たか……だがこの勝負、負けるわけにはいかん!うおおおぉぉぉぉっ!!」

「……クルル」

 

 無数の--もはや砲撃と呼んでも差し支えない威力の--エネルギー弾が、ツバサに向かって勢いよく放たれる。

 それは完全に消費トリオンを無視した荒業で、ランバネインがここで勝負を決めようとしているのが見てとれる攻撃だった。

 実際、常人がこんな威力と密度の弾幕を喰らえば跡形も残らないことだろう。

 

 --しかし。

 

「遅いよっ!」

 

 獣化したツバサにとっては、ランバネインの砲撃は避けるのなど容易いものだった。確かに、ケリードーンによる砲撃は当たればほとんどの敵を撃ち抜ける程のパワーがある。

 しかし、何事もパワーとスピードを同時に高水準で維持できる攻撃などそうはない。ランバネインの砲撃にパワーがある以上、それは多少なりともスピードの低下をもたらすものなのだ。

 まあ、速度が速くなるほど物体のぶつかる威力は上がるのだが、それを実行するためには莫大なエネルギーを擁する。

 しかしエネルギーは進むたびに減少するわけで--つまりそれは、終わりのないイタチごっこを続けるようなものである。もちろんケリードーンにはそんな不毛な機能は付いていないのだが。

 

「ちぃっ……!当たらん……っ!」

 

 弾幕の合間を縫うようにして飛行するツバサに、ランバネインは一発も砲撃を当てられていない。それはひとえに、ツバサの機動力が凄まじすぎるからだ。

 

「はぁっ!」

 

 鍵爪による、一閃。

 それによりランバネインの両腕が切り飛ばされ、そこからトリオンが勢いよく漏れ出す。

 

「これで--とどめ!」

 

 ランバネインが最後に感じたものは、吹き飛んだ両腕が地面に落ちる音と--自分の腹部に風穴が空く、久しぶりの感触だった。

 

 

 

 

 

 

「やったー!やったやったー!ランバネインに勝ったー!」

「一度ならず二度も負けるとは……ふっ、完敗だな」

「これで、あたしも遠征に連れていってくれるんだよね!?」

 

 嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねるツバサと、それの横に座って満足そうに眺めるランバネイン。

 その場所は荒れ地に作られた訓練所といった景観の場所で、大体の場所は荒野という荒れ果てた土地だが、所々には青々とした緑が見てとれる。

 その数少ない緑も、今は無惨に散っているわけだが。

 よく見れば地面にも大量の穴が空いており、それが今さっきここで行われていた戦闘のすさまじさを物語っていることだろう。

 実際は、ランバネインの砲撃によるものがほとんどなのだが。

 

「ああ。兄者に連れていくよう進言してみよう。俺に勝てるのならば、足手まといにはならんだろうからな!」

 

 がっはっは、と豪快に笑うランバネインに釣られて、ツバサも満面の笑みで笑う。

 

「しかし、あの力はなんだ?だいぶ姿が変化していたようだが……」

「ああ、あれ?あれはねー、なんか使える不思議パワーなんだ!」

 

 誇らしげにそのそこそこ膨らんだ胸を張るツバサだが、まったく要領を得ないその説明にランバネインは少し首をかしげてしまった。

 が、まだ見ぬ世界にはそう言うものもあるのか、とすぐに思考を切り替えたのだった。性格が垣間見える切り替えの早さである。

 

「そうかそうか、不思議パワーか!」

「そうそう!不思議パワーなの!」

「はっはっはっ!」

「あはははは!」

 

 彼の兄が端から見たなら思わず頭を抱えてしまうだろう会話をしている二人だが、そこでふと、思い出したようにランバネインは顎に手を当てた。

 

「そういえば……遠征挺にお前の乗るスペースがあったかどうかが問題だな」

「えんせいてい--遠征挺。船のこと?あれ、それじゃああたし、皆に付いていけないの?」

「いや、そんなことは無いだろう。最悪、俺の膝の上にでも乗っていればいい。お前は小さいから可能だろうしな」

「ランバネインはおっきいもんね!」

 

 あぐらをかいて地面に座っているランバネインの膝の上に、ツバサはぴょこんと飛び乗って見せた。実践の前の練習だろうか。

 

「……ふふ。なんだかんだ言いつつ、お前に一番関わってしまっているのは俺だな。これでは兄者のこともとやかく言えん」

「ん~?ランバネインは遊んでくれるから好きだよ?」

「遊びか……はっはっは!俺の戦いを遊び扱いするとは、兄者もそうだがお前もとんだバケモノだな!」

「?」

 

 笑いながらポンポンと頭を撫でるランバネインの言葉に首をかしげるツバサだが、その内釣られて笑顔になり、そのまま一緒に笑ってしまっていた。

 端から見れば、体格差も相まって親子にでも見えることだろう。その割りには、顔の造形がちっとも似ていないが。

 

「兄者とはやったことはあるのだったか?」

「うん。残念ながら負けちゃった」

「はっは。トリオン兵のお前にアレクトールは天敵だろうな」

「そうなんだよ!あたしが再生する前に次から次へとキューブにしちゃってさ!ハイレインってばイジワルなんだよ!」

 

 なんて。

 頬を膨らませながら見上げてくるノアを見て、ランバネインはまたも笑うのだった。

 

「しかし、本当についてくる気か?遠征は何かと危ない事も多いぞ?」

「大丈夫!あたしそこそこ戦えるし!」

 

 お前がそこそこなら他の奴等は大体がそこそこになるのだが。とは思ったが、口には出さなかった。ランバネインにもプライドというものはあるのだ。

 --なお、プライドなんてかなぐり捨てた方が早く楽になれるもよう。遠征に行きたければ俺を倒してから行け!なんて、どっかの門番みたいなことを言っておいて何であるが。

 

「それに、ランバネインもハイレインも居るんだから絶対負けないよ!」

「……はっはっは!ああ、そうだな!」

 

 俺たちと、お前が居れば絶対に--

 

「負けはせんな!」

「負けないさー!」

 

 そう宣言して、二人はまたも高らかに笑うのだった。

 

 




 カバー裏風キャラクター紹介

 信念のメガネ・おさむ
 新しく後輩兼弟子仲間ができた、玉狛第二の隊長。メガネが本体だという噂もあるが、本当のところは……?
 戦績はまったく変わらず、風間さんとは引き分け。緑川には惨敗。ノアと関わるのが遅かったせいで、変化ナシなのです。

 ノアよりちっちゃい・ゆうま
 大抵のボーダー隊員には身長を抜かれているが、まさかトリオン兵にまで抜かれるとは思わなかっただろう。本人は然程気にしていないようであるが。
 こちらも特に変化はナシ。緑川が多少大人(意味深)になっていた程度である。

 砲撃よーい・ちか
 こちらは三割増しの力で基地の壁をぶち抜いたとか……いないとか。真実は知らない方がいいのかもしれない。
 内包トリオン量は依然としてトップであるが、ブラックトリガーという強力なライバルが出てきたのでこれからが楽しみである(何がだろうか)。
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