トリオン兵ちゃんは幸薄い   作:看取る人

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 今更ですが、ノアの認識に関して個人の間でかなりの差があります。ノアがトリオン兵だということは(玉狛と太刀川隊を除けば)A級部隊の隊長だけにしか知らされていません。
 つまり、加古さんはあれでもノアの正体を知っていたんですねー。部下には伝えてなかったわけですが。
 その他にも噂とか人づてで聞いた人は知っているかもしれませんね。


大規模進攻編
ネイバーを知りたい


 その日は、朝から冷え込む日だった。

 ただそれだけの、いつもと何の変化もない、穏やかな日になる--はずだった。

 

「多数のゲートの発生を確認!ゲートの数、37、38、39、40……以前増加中!」

 

 ちょうど昼頃だったであろうか。

 空が急に暗がりに包まれ、異様な雰囲気が三門市内を襲った。

 空に開いた無数のゲートの中から、警戒区域内に数多のトリオン兵が流れ込んできたのだ。

 

「任務中の部隊はオペレーターの指示にしたがって展開!トリオン兵を撃滅せよ!」

 

 ボーダー本部の指令室。多数の機器が並ぶこの部屋の中央で、本部長である忍田が各隊員に聞こえるよう、指示を飛ばしている。

 それは非番の正隊員はもちろん、その他すべての戦力に対して、だ。

 

「全戦力で迎撃に当たる!戦闘開始だ!!」

 

 

 

 

 

 

「な、なに!?警報!?」

「おー、始まったかー」

 

 作戦室にて、太刀川と一緒にご飯を食べていたノアは突然の警報に驚いていた。

 ちなみに、ノアが食べているのは加古がドライブへと出発する前に置いていった炒飯である。今回はどうやら当たりの八割を引き当てたようで、至って美味しそうな普通の炒飯なのだが。

 太刀川はやはりというか、餅である。味付けは焼き醤油だ。きなこは禁止されているゆえ、致し方なし。

 

「……お前、よくそれ平気で食えるな」

「え?美味しいよ?」

 

 食べてみる?とノアがスプーンで掬って進めてみたところ、丁重に断わられた。

 使われている具材はネギ、卵、鳥肉、サンマと、至って普通の食材なのだが、隠し味に昆布がまるごと入っているのは内緒である。

 どうやら、かつおぶしと一緒に入れると美味しくなるということを知って、実践してみたのだろう。何を思ったのか、入っているのはカツオではなくサンマであるが。

 

「なんか、炒飯に入ってちゃいけないものが見えたんだが……」

「そう?……って、そんなこと言ってる場合じゃないよ!さっきの警報は大規模侵攻でしょ!?早くいかなきゃ!」

 

 ノアがテーブルから立ち上がり、作戦室の出口に向かって駆け出す。

 

「おい待て」

 

 しかし、それを太刀川が言葉で引き留めた。

 

「何!?くだらない話なら後に--」

「俺は迅じゃないが、一応言っておく」

 

 ノアの言葉を遮り、太刀川は普段は滅多に見せない真剣そのものの態度で言葉を発する。

 

「--お前は出撃するな。嫌な予感がする」

「予感?でも、あたしだけ中に居るわけには」

「いいから」

「……っ!?」

 

 太刀川は一瞬でトリガーを起動させ、ノアの正面まで一息に"跳"んだ。

 

「ここにいろ」

「…………」

 

 有無を言わさぬ威圧感を発しながら、今まで見たこともない表情でノアを引き留める太刀川。

 そんな真剣な顔は、今まで誰にも見せたことはないだろう。もちろん、親にも師にもメンバーにも。今までは戦闘の時でさえ、若干の余裕というか、どこか戦闘そのものを楽しんでいる節があった太刀川だが、今ははそれが一切ない。

 俗な言い方をするならば、真顔というやつだ。

 

「……っ!いやだ!」

「なっ……」

「アタシは、戦えるようになったんだもん!ここで戦わなかったら--いつ戦うの!」

 

 懐に忍ばせていたトリガーを起動し、太刀川の股下をすり抜けていくノア。

 不意を突かれた上に、一番妨害しにくい場所を猛スピードですり抜けられたのだから、これは突破されても仕方がないだろう。それこそ、未来でも見えていなければ止められない。

 

「アタシは、今度こそ皆を守るんだから!」

 

 ノアはそう言い残し、太刀川隊の作戦室を飛び出していってしまった。

 

「…………」

 

 取り残された太刀川も、追うまではしないようであった。単純に諦めたのか、それとも。

 

「……ったく。忠告はしたからな」

 

 太刀川はトリガーを解除し、テーブルに起きっぱなしの餅を再び食べ始めたのであった。

 

 

 

 

 

 群れ群れ群れ。数百--下手したら数千のトリオン兵の群れ。

 バンダー、バムスター、モールモッド。おまけに狙撃手殺しのバド。数多の種類のトリオン兵が警戒区域内を埋め尽くしていた。

 

「うへぇ……気持ち悪い……」

「気持ち悪いだけだろ」

「そうそう。このくらいなら何ともねぇって」

 

 スコーピオンを構えながら嫌な顔をする緑川に、出水と米屋の二人がなんとも呑気な声でトリオン兵の大群を仰ぐ。

 これは一人辺り何体を相手すれば前に進めるのかと言ったぐらい敵の数が多いのだが、そこはA級部隊の攻撃手(アタッカー)射手(シューター)。汎用機の相手など朝飯前である。

 

「いずみん先輩のメテオラで殲滅するって手もあるよ?」

「それはさすがに味気ねぇだろ。せっかく思いっきり暴れられるチャンスだってのによ」

「んじゃ、何体ぐらい倒せるか勝負するか」

「いいねそれ!」

「おお、面白そうだな」

 

 米屋の提案に緑川が乗り、出水も満更でもない返事を返して、チームが違うA級隊員三人によるトリオン兵討伐合戦が始まったのだった。

 最初に飛び出したのは、もちろん攻撃手の二人。米屋は走って、緑川はグラスホッパーを起動させて、それぞれトリオン兵の群れの中に突っ込んでいった。

 

「おれが一番だもんねっ!」

「グラスホッパーはずりーだろ」

「いやいや、一番ずるいのいずみん先輩だからね?」

「あ、そういやそうだな」

 

 納得の米屋であった。

 射手の間合いは中距離。つまり、二人よりも多くのトリオン兵を射程に捉えているというわけで--

 

炸裂変化弾(トマホーク)

 

 手のひらに四角いキューブを二つ出現させ、そのキューブを融合させる。そのままキューブから幾つもの光の線が伸びていき、的確にトリオン兵に着弾する。

 空はバドから、地上はバンダーまで。合計して三十体程度のトリオン兵に当たっただろうか。

 そして、そのことごとくが派手な爆発と共に消滅したのだった。

 

「うへー……えげつねー」

「ほらね。よねやん先輩、おれらも負けてらんないよ!」

「だな!」

 

 出水の活躍に負けまいと、二人はより一層気合いを入れて大群の中に突っ込んでいったのだった。

 

 

 

 

 

 

「凄い数……っ!はっ!」

 

 弧月を片手に、警戒区域の中を疾走していくノア。時に撃退し、時に踏み越え、トリオン兵の群れを突破して行く。

 迅に教わった体捌き、体重移動、すべてを駆使して前に進む。

 

『そこをまっすぐ行って右に曲がって、その次はまたまっすぐねー』

「……ありがと、クニチカ」

『いいよー。太刀川さんからアシストしてやれって言われてるからねー』

「…………」

 

 頭のなかに響いてくる国近の声に返事を返し、本部を出ていくときのやり取りを思い出す。

 

『ここにいろ』

 

 その言葉が、何度も頭のなかで反響していた。

 太刀川は迅とは違い、未来を見る力なんてものは持っていない。しかし、戦闘における絶妙なカンと、抜群のセンスを持ち得ているのだ。

 例えば。

 例えばの話だ。

 今回の大規模侵攻が--大規模侵攻でのノアの立ち回りが--太刀川のカンに触れたのだとしたら。

 

(だとしたら……どうなの?あのままあそこにいれば良かったの?)

 

 違う。

 あの不安になる夢を見て、お母さんの言葉を聞いて、不安に駆られて強くなろうと迅に弟子入りした。

 だったら、その不安を吹き飛ばすためにも自分は戦うべきじゃないのか。

 少なくともノアはそう思った--そう、思ってしまった。

 

「っ、やぁっ!」

 

 飛び掛かってくるモールモッドの下をスライディングで滑り抜け、バンダーのボディに弧月を突き立てた。それを足場にして背中の上に飛び乗り、一気にかけ上がる。

 敵の体、倒壊寸前のビル、ボロボロの家屋。そのすべてを、小さなからだを駆使して跳んで行く。

 

「この先に迅が居るんだよね!?」

『うん。迅さんは基地の西側担当だからねー』

「なら--もっと早くいかなきゃ!」

 

 今の時点でもうトップスピードなのだが、ノアは空間にあるありとあらゆるものを使って更に加速していく。

 挙げ句のはてには、飛び上がってバドに下から弧月を突き刺し、その勢いを維持したまま前方に飛んでいった。

 他のボーダー隊員が見たら、曲芸師か何かかと思う動きだろう。

 

『でも何で迅さんの所に行くのー?迅さんはすっごい強いから心配するだけ無駄だと思うけど』

「……そうかもしれないけど、嫌な予感がするの。よく分かんないけど、今じゃなきゃいけない気がするの」

『ふーん?そっかそっか。じゃあ行ってみてもいいんじゃない?ノアちゃんは一応フリーだし、本当に動いてもらうなら城戸さんが指示するだろうしねー』

 

 そこで何故忍田本部長ではなく城戸指令の名前が出てくるのかは、ノアの体の仕組みを知っているのが鬼怒田さんと太刀川、そして城戸しかいないからである。

 駒を動かすならば、その駒のスペックを完璧に知っていなければ動かすこともままならない。それはチェス然り、将棋然り、駒に役割を持たせる"盤上ゲーム"には当然の要素であるからだ。

 ちなみに、国近はノアの仕組みはもちろん知らない。緊急時には城戸が指示を出す、と通達されただけである。

 

「あとどのくらい!?」

『えっとねー……あと百メートル!』

 

 百メートルならもう見えるだろうと思い、ノアはそこらにあった手頃なビルの上に飛び乗った。

 そうして周囲を見渡して--

 

「--っ、迅!」

 

 鳥のような、人のような、それらを掛け合わせたような異形に襲われる、迅の姿を見つけた。

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、なんでアイツだけ行かせたんだよ」

 

「なんのことだ?」

 

「とぼけんじゃねぇ!アイツが出ても良いなら俺だって出てもいいはずだろが!さっさと俺を戦闘に出しやがれ!」

 

「それはできんな」

 

「ハァ!?」

 

「お前は"人間"だろう。そして、あいつは"トリオン兵"だ。ここまで言えば分かるだろう」

 

「……チッ、アイツもあくまで尖兵って訳かよ。随分と贅沢な尖兵じゃねぇか」

 

「役割に沿った動きをさせているにすぎん」

 

「--ハッ、相変わらず冷静なこって--この根暗野郎が」

 

 

 

 

 

 

「アハハハッ!中々強いねお兄さん!」

「ちっ……!」

 

 腕についた傷から、トリオンが勢いよく漏れ出す。

 目の前の、自分の弟子によく似た顔立ちをした異形の少女からの攻撃で負った傷は、迅の戦闘力を確実に削いでゆく。

 

(油断した……!本人の未来が見えてないからって、これは弛みすぎでしょ、おれ……!)

 

 どうしてこんなところにノアちゃんが?とか、黒いワンピース着てるのはイメチェンなのかな?とか、そんなくだらない疑問を零コンマ一秒でも抱いた過去の自分を殴ってやりたい。

 迅の内心は、そんな後悔の念で一杯だった。

 

「……まさか、敵さん側にもノアちゃんのお仲間が居たとはね。道理で未来がかなり不安定になってるわけだよ」

「未来?何言ってるのお兄さん。今、あたしたちがいるここが、もう未来だよっ!」

 

 突進してくる異形を紙一重で避け、そこらに転がったている大きな瓦礫をスコーピオンに突き刺し、異形が飛んでいった方向へと向ける。

 

「目隠しのつもりかな?でも無駄だよっ!」

 

 瓦礫ごと迅を吹き飛ばさんとする勢いで空中からダイブしてくる異形。その一撃は瓦礫を見事に粉砕し、辺り一面に土煙を巻き上げた。

 視界は遮られ、互いの姿が見えなくなる--迅の思惑通りに。

 

(よし、今のうちに--)

 

 離脱しよう、なんて考えは。

 

「ていっ」

 

 甘かったのだと思い知らされる。

 

「……おいおい、マジか……」

 

 異形が翼を一振りすると、辺りを覆っていた土煙は一瞬で振り払われた。

 

「けほっ、けむい……あ、みーつけた」

「…………」

 

 本格的にどうしようかと悩む迅。少し切り結んでみた感じ、機動力、出力は向こうが数段上。おまけにノアと同じ超速再生とサイドエフェクト遮断を備えている。

 ブラックトリガーである風刃ならば互角以上に戦えたであろうが、ボーダー規定のノーマルトリガーでは些か無理があるだろう。

 迅は深く息を吐いて、刃状にしたスコーピオンを握り締める。

 

「……これは、本気でやんないとヤバイかもな……」

「アハッ。お兄さん雰囲気変わったねー!そうこなくっちゃ!」

 

 なんて。

 突進してくる異形に、迅はこの後の展開も、未来も、全てを度外視して挑もうとした所--空から、一太刀の弧月が降ってきた。

 

「っ!?」

 

 それは的確に異形の頭を狙っていたが、紙一重の所で弾かれる。

 そして、空中へと舞ったその弧月を掴み取り、空から迅の前に降り立つ人影があった。

 

「……ノア、ちゃん」

「間に合ったね、迅!」

 

 目の前に居るのは、確かにノア。

 その姿はさっき見た偽物なんかではなく、訓練生用の白い隊服に身を包んだ--まぎれもない迅の弟子であった。

 

「……ははっ。まさか弟子に助けられるなんてね。これは師匠失格かなぁ……」

「なな、何言ってるの!?アタシ、弟子になって一ヶ月くらいなんだからね!?やめられちゃったら困るよ!?」

「ぶふっ--そうだね」

 

 こんな状況でも笑みがこぼれるのは、慌てる弟子の姿を見たからか。それとも、この状況を打破できる存在が来てくれた安堵からか。

 どっちにしろ、迅はノアの存在に未来を掛けてみることにした。

 

「……ノアちゃん、聞いて。あいつは多分ノアちゃんとおんなじ型のトリオン兵だ」

「おんなじ……?でも、アタシと違って鳥っぽい姿になってるけど」

「それは分かんないけど……とにかく、あいつにはサイドエフェクトが効かないんだ。だから、あいつの相手は任せたいんだけど--できる?」

 

 尋ねる迅の声に、ノアは答える。

 

「もちろん。できるできないじゃなくて、やってみせるよ。じゃなきゃ--迅の弟子になった意味がないもんね」

 

 ノアは静かに、確かな声で、そう言った。

 

「……なんか、邪魔っけだなぁ……」

 

 

 

 

 

 

「あら、緊急連絡?」

「はい。大規模侵攻が始まったようです」

 

 所変わって、三門市の近郊。

 非番を利用してドライブに来ていた加古と黒江の二人は、その連絡を受けて少し残念そうに車の進路を変更させた。

 

「まったく……タイミングが悪いわねぇ」

「そうですね」

 

 若干不機嫌そうな加古と、いつもと変わらない表情の黒江。

 確かに、本来休みのところを緊急で呼び出されたらいい気分にはならないだろう。しかし、侵略者から住民を守るという仕事がある以上、文句は言っていられない。

 そして、そこはさすがA級6位チームの隊長。機嫌が悪かろうと、やるべきことはしっかりやってのけるのだ。

 

「双葉、これ持ってなさい」

「……何ですか、これ」

 

 運転中だというのに、懐から四角い箱形の機械を取り出して黒江に投げ渡す加古。どこまでいってもマイペースなのは変わらないようだ。

 

「その箱にランプが付いてるでしょう?その光が赤から緑になったらトリガーを起動させてみなさい。あ、心構えと戦う準備だけはしておくようにね?」

「はあ。そしたら一体何が起こるんです?」

「大惨事対戦よ」

「真面目に答えてください」

「うふふ。そうね、あえて言うなら……双葉が望んでること、かしら?」

 

 不敵な笑みを湛える加古に、少し怪訝な視線を送る黒江。

 どういうことか分からないまま、黒江は右手にトリガーを握った。いつでも起動できるように、精神も集中済みだ。

 ここでふと、そう言えば加古が北川に頼んで何かを作ってもらっている所を見たことがあると思い出した。

 あの時は何を作っているのか分からなかったが、なるほど、これを作っていたのか。と、妙に納得した黒江であった。

 

(……心構えと戦う準備……これは間違いなく)

 

 戦場に飛ばされるのであろうな。

 と、少し好戦的な表情になって、黒江は改めてトリガーを強く握るのだった。

 

 

 

 

 

 鋭い鍵爪が、頬を掠める。

 立派な翼から放たれる風圧が、小柄な体を軽々と吹き飛ばす。

 ギラギラと燃える紅い瞳が、獲物を捉えて離さない。

 ノアはほとんど紙一重の所で、異形の攻撃に食らいついていた。

 

「くっ……!」

「アハハッ。いつまで逃げ回ってるのー?あたしのそっくりさーん」

 

 上から急降下してきたと思ったら、今度は右へ急旋回。かと思えば、地面スレスレを飛んで一直線に突っ込んでくる。

 周囲のビルを足場にしたり防壁にしたりしてなんとか凌いではいるものの、異形の攻撃一回につき二、三棟のビルが瓦礫に早変わりするのは、些かやり過ぎなトリックであろう。

 種も仕掛けも、ありゃしないが。

 

「失礼な……そっちがそっくりなんでしょ」

「えー?そっちがそっくりなんだよー」

 

 弧月を一閃、避けられる。

 弧月を投擲、弾かれる。

 弧月で受け止め、吹き飛ばされる。

 

「むー……じゃあいいよ。勝った方が本物ってことにするから、さ!」

「思考パターンはまったく似てないけどね……ってわわっ!?」

 

 頭部狙いの鍵爪を避け、一旦距離をとるノア。しかし、それを許さないとでも言うかのようにノーモーションの突撃がノアを襲う。

 なんとか弧月で受け止めるものの、反撃はできそうにもない。浮いているというアドバンテージを最大限に生かし、両手両足という普通の人間の二倍の手数で異形はノアを攻め立てる。

 腕を降り下ろし、脚を蹴り上げ、回転を加えて翼を横薙ぎに薙ぎ払った。

 

「しまっ……!?」

「--アハッ」

 

 右腕が吹き飛んだ感覚がした。

 例によって痛みはない。が、これはかなりまずい状況になった。弧月はそこそこ重量があるため、スコーピオンと違って片手で扱うには少し無理がある。

 しかも、よりによって吹き飛んだのは弧月を持っていた右手である。

 

(間に合わ--)

 

 ドスッ、と。刃物が刺さる音がした。

 

「あたしの、勝ちだね」

 

 軽い爆発と共に、ノアの体が"こちら"へと戻ってくる。トレードマークの白いワンピースが風に靡き、粉塵で少しだけ汚れた。

 

「さ、て、と。ハイレインは人間を捕まえて来いって言ってたよね。じゃあ気絶させて連れてこっかな?」

「っ……!」

 

 地面に降り立ち、獣化を解除する異形。その姿はまさにノアと瓜二つ。トリオン兵なのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。

 ワンピースが黒かったり、髪が白かったり、瞳が紅かったりなどの違いはあるものの、確かにノアと同じ型のトリオン兵だと思って良いだろう。

 しかし--

 

(人間って言った?アタシのことを人間って……もしかしてこの子、自分がトリオン兵だってこと--分かってない?)

 

 もしそうなら、もしそうなら--もしそうなら。

 

「ねえ!あなたは--人間?」

 

 この子は、

 

「ん?ワケわからない質問するね、アナタ。あたしは人間だよ、産まれたときからね」

 

 あの夢の--

 

「--え?」

 

 なんて。嫌な想像を巡らせていたその時、ノアの胸元に貼ってあった加古隊のステッカーが突然光を放ち出した。

 その光は徐々に勢いを強めていき、最終的に周囲を眩い光で覆い尽くす。

 

「--なるほど、こういうこと(スイッチボックス)だったんですか」

 

 光が収まった、その後に立っていたのは--

 

「私が望む……そうですね。確かにこれは--臨むところです」

 

 紫色の隊服に身を包んだ、A級6位の攻撃手(アタッカー)、黒江双葉だった。

 

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