GATE:Modern Warfare   作:ゼミル
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6.5:Topic of Gossip/伊丹という男(1)

 

 

 

<2017年初冬>

 栗林 志乃 第3偵察隊・二等陸曹

 ファルマート大陸・アルヌスの丘/自衛隊駐屯地

 

 

 

 

 

 

 ――伊丹耀司二等陸尉(『銀座事件』での活躍により三等陸尉から昇進)は栗林志乃が所属する第3偵察隊の隊長である。

 

 つまり栗林の上官であると同時に、彼女が嫌ってやまない筋金入りのオタクであった。

 

 彼女の同僚である第3偵察隊の仲間は伊丹の事をこう評する。

 

 

「つかみどころのない性格ですが、まぁ、悪い上官ではないのでは?」(富田二等陸曹・これぞ兵士の見本みたいな人物)

 

「俺は隊長の事気に入ってますよ。話も合うし、何より『めい☆コン』の主題歌をフルで歌える人に悪い奴はいません!」(倉田三等陸曹・隊長と同類のオタク)

 

「もうちょい覇気があっても良いもんだが、何だかんだぼやいててもやる事はきっちりこなしてくれる分にゃ頼りになる指揮官だと思うぞ」(桑原曹長・部隊いちのベテラン)

 

「特殊な趣味はお持ちですし見た目も冴えないですが、死体を前にしても冷静沈着で取り乱さない所は評価してもよろしいかと」(黒川二曹・衛生担当で貴重な女性自衛官仲間)

 

 

 でもって栗林本人による伊丹評は、

 

 

「ないわー、あんな冴えないオタクが『銀座の英雄』だなんて未だに信じられないわー……」

 

 

 ってなもんであった。

 

 実際にはもっとこう、部外者が聞けば「上官に対して不敬じゃないか」とツッコまれてもおかしくないぐらい散々な事を考えたりしちゃってるのだが、逆に伊丹耀司という人物を身近に知る人物が聞けば、苦笑はしても栗林の考えを否定はしないであろう。

 

 つまりはソレぐらい、伊丹の普段の振る舞いと、彼が銀座で打ちたてた実績と活躍の内容に大きな隔たりができてしまっているのである。

 

 伊丹は異世界にやって来てからも、職務怠慢で処分されない程度に仕事をこなしつつ彼のやりたいように過ごしている。つまり時々仕事をサボってはベンチや木陰で寝転がって妙に露出の多い女の子が描かれた薄い本を愛読しているのである。

 

 そこには数千人の民間人が避難完了するまでの時間を稼ぐべく、ほんの少数の警官隊を指揮して万単位の敵集団の侵攻を阻止し。

 

 あまつさえアクシデントで人質に取られた100名近い警官を救出する為にほぼ単騎で敵のど真ん中へ殴り込んで屍山血河を築き、そして見事に生還してみせた勇猛果敢な戦士としての面影なんぞ、これっぽちも漂わせていないのであった。

 

 ……あるいはそのような戦士として扱われる事自体を拒むかのように。

 

 

 

 

 

 

「本当、現実って残酷よねー」

 

「何ですか藪から棒に」

 

 

 自衛隊駐屯地内、完成して間もない大食堂でのやり取りである。

 

 およそ3個師団、軽く万を超える人員で編成された自衛隊特地派遣部隊の腹を膨らませる為に建てられた食堂はかなり広く、近々日本有数の某コンビニチェーンの支店もこの中に設置されるという。

 

 

「保護した難民の事なら、彼らを見捨てた他の避難民については自分もいささか無情じゃないかとは思いましたが、あちらも引き取る余裕がないのは事実でしたでしょうから」

 

 

 栗林のぼやきの内容を勘違いした富田が見当違いなフォローを口にする。

 

 第3偵察隊は先日、調査任務中に炎龍と呼ばれる未確認巨大飛行生物の襲撃に遭遇。

 

 襲撃を受けた森の中の村……の成れの果てからエルフの少女を保護したのを筆頭に、炎龍出現の知らせを受けた近隣の村々から避難途中に襲ってきた炎龍によって家族を失った子供や、重傷を負って同胞から見捨てられた負傷者。

 

 はたまた道中で遭遇して半ば無理矢理同行してきた黒ゴス神官少女だの、自主的に自衛隊への接触を求めてきたこの国の知識層らしき主従だのを含めた計25名もの現地住民を、第3偵察隊長である伊丹の独断でこのアルヌス駐屯地へ連れ戻ってきたばかりなのであった。

 

 ちなみに各偵察隊は提示連絡が義務付けられているのだが、伊丹は難民を保護した直後から帰還に至るまで提示連絡を行っていない。もちろん栗林らもその事に気づいている。

 

 彼らの指揮官が上から「避難民を見捨てろ」と言われる事を恐れ、わざと通信をサボったのは明白であった。

 

 もっともその代償として、避難民用の寝床から配布する食料その他もろもろの手配を丸々押しつけられた伊丹は、帰還直後から現在に至るまで書類仕事に埋もれている真っ最中なのであった。

 

 

「違う違う。そっちの事じゃなくて隊長の事よ、た・い・ちょー」

 

「ああそういう事ですか。クリは直接顔合わせするまで『銀座の英雄』である伊丹2尉に憧れを抱いていましたものね」

 

「ちょっとクロ、男性陣の前でバラさないでよ!」

 

「あら失敬」

 

 

 顔を赤くして叫ぶ栗林に黒川はクスクスと笑って応える。

 

 入隊の合格基準である最低身長に達しているかも怪しいほど小柄でありながら背丈に似合わぬ爆乳と格闘徽章を手にするほどの格闘技術を有する猛者である栗林と、第3偵察隊の男性陣をも上回る背丈を持つ衛生担当の黒川は、傍から見ると非常に対照的な組み合わせであるが、同じ部隊の仲間である以前に派遣部隊でも数少ない女性自衛官同士とあってかかなり仲が良いのである。

 

 黒川によって栗林の悩み事がバラされた事により、話題は彼らの上官へとシフトしていく。

 

 

「そういえば栗林2曹はどーして伊丹2尉の事嫌ってるんすか? 憧れの人だったんでしょ?」

 

 

 日替わり定食をかっ込む合間に倉田が尋ねた。この場にいる面子では彼が最も階級が下(倉田は三曹で他は全員二曹)なのだが、今時の若者らしく砕けた口調である。

 

 すると栗林は間髪入れずこう答えた。言われてから答えるまでのタイムラグのなさから、大して考えようともせずに脊髄反射的に発言したのは明らかであった。

 

 

「いやぁ、だってオタクだし。どっからどう見ても英雄ってガラじゃないでしょーあの人」

 

「それは流石に偏見が過ぎるのでは……」

 

 

 と富田は反論するが、尻切れトンボな語尾から彼の本心が滲み出ていた。尋ねた倉田の方もあんまりにもあんまりな栗林の回答に口元を引きつらせている。

 

 固まった男性陣に代わり黒川が冷静に指摘を行う。

 

 

「ですが伊丹隊長が事件当時、現場の真っ只中である銀座で表彰に値するほどの活躍を行ったのは紛れもない事実でしょうに。一部始終もしっかり記録された上での活躍なわけですし」

 

「それも分かってるんだけどさー。だからこそしっくりこないっていうの?」

 

 

 そう言いながらも栗林は口を尖らせて不満げな表情を浮かべるのである。

 

 そのような仕草をしている分には小柄で可愛らしい爆乳美女にしか見えないのであるが、それを直接栗林に指摘しようものなら、数々の男性自衛官を叩きのめしてきたお得意の格闘術でもって痛い目を見る羽目になる程度には手が早いので注意が必要である。

 

 栗林も黒川が言っていた現場の記録映像―『銀座事件』の真っ只中に遭遇し、そして伊丹に助けられた海外メディアの特派員による、襲撃直後から皇居前攻防戦の終盤に至るまでの一部始終を捉えた動画―は目を通していた。

 

 だがしかし、いやだからこそ、動画の中に映っていた勇猛果敢冷静沈着不撓不屈な英雄の姿と、やる気があるのかないのか分からないようなグータラオタクな隊長の姿が栗林の頭の中で一致せず、栗林を悩ませているのである。

 

 

「だけどあの記録動画を見たんだったら伊丹隊長がオタクなのも分かると思うんすけど。ほら最後に運ばれてきた時のセリフとか――」

 

「同人誌即売会の意味が分かんなかったのよぉ……」

 

 

 倉田のツッコミに、勝手に胸に抱いていた理想を砕かれた栗林はがっくりと肩を落とす。

 

 これがオチとなって話もひと段落である。しばらくは静かな(と言っても食堂内には他にも多数の自衛隊員が食事に訪れているので周囲はかなり騒がしいのだが)食事タイムが続くかと思われた、その時であった。

 

 

「俺はむしろ、伊丹隊長なら『銀座事件』で活躍したのも当たり前だと思ったがなぁ」

 

 

 などと発言した富田に、彼を除いた3人の姿勢が一斉に集まった。

 

 

「どうしてよ」

 

「だって伊丹二尉、あれでもレンジャー持ちだぜ」

 

「嘘ぉ?」

 

「マジっすか!?」

 

「あらあら本当ですかそれ?」

 

「本当だ。俺が入った頃には既に二尉は過程を終えて別の部隊に移っていたが、富士学校の教官達の間じゃあの人の事は有名だったよ」

 

 

 レンジャー徽章を持つ富田がそう語る。富士学校とは各部隊から選抜された普通科隊員をより屈強な精鋭へ鍛え上げる為の施設であり登竜門であった。

 

 同時にレンジャーや特殊作戦群に憧れを持ち、また選抜されてもおかしくない能力を有していながら、女という理由から門戸を閉ざされてしまっている栗林からしてみれば、よりにもよってあのオタクがレンジャーであるという事実は、いささか衝撃が強過ぎた。

 

 しかも、富田が告げる衝撃的な内容はそれだけでは終わらなかったのである。

 

 

「それだけじゃないぞ。これは習志野に移った同期のレンジャーから聞いたんだが、伊丹二尉も一時期習志野に配属されていたそうだ」

 

「習志野……って事はレンジャーどころか空挺徽章持ちって事っすか伊丹隊長って!?」

 

 

 習志野駐屯地とは陸上自衛隊唯一の空挺部隊である第一空挺団、そして陸自最精鋭にして特殊部隊である特殊作戦群の本拠地である。

 

 

「それどころか伊丹2尉、急に異動扱いで空挺団からは名前が無くなったのに以降もしょっちゅう習志野で見かけ続けて、でも通信隊や警務隊にも配属されたって話も聞かなかったらしいから、消去法で特戦群に引き抜かれたんじゃないか、なんて噂も……」

 

 

 日本には『同じ釜の飯を食う』ということわざが存在する。この場合、寝食や苦楽を共に過ごした間柄の事を指す。

 

 そして同じ経験を共有した仲間同士で構築された独自のネットワークは、昨今インターネットによる情報の氾濫や、街中に設置された監視カメラや政府機関による検閲が問題視される現代の情報化社会においても、時としてそれらを遥かに上回る収集能力と伝達速度を発揮するのである。

 

 富田が口にした情報は、その信憑性と証拠の有無はさておき、まさにそのお手本であった。

 

 

「……私、『銀座事件』当時は中央病院に勤務していたのですけれど」

 

 

 妙に押し殺した声で、黒川までも喋りだした。

 

 

「事件から2ヶ月が過ぎる頃まではとても忙しかったのですが、事件の内容が明らかになり始めた直後辺りに奇妙な入院患者が運ばれてきまして……私は直接担当したわけではありませんが、その患者の正体は伊丹二尉ではないかと、他の看護師の間で噂されておりましたの」

 

 

 しかし実際に伊丹の姿を目撃できた職員はほぼいないという。銀座で大量に発生した負傷者の治療に過労レベルで忙殺されたのもあるが、何より入院しているとされる病室への接近が極めて厳重に制限されたからである。

 

 病室周辺は警務隊員により四六時中監視され、当の入院患者自身も検査以外に病室から出る事を禁じられていたと聞き及んでいる。

 

 もちろん検査を担当した医者と看護士にも厳重な守秘義務が課せられた。しかし人の口に戸は立てられぬのことわざ通り、最前線の野戦病院もかくやな激務に疲れ果てたせいでつい口が緩んでしまい、そうして謎の入院患者についての話は自衛隊病院の職員の間に少しずつ漏れ広まっていったのであった

 

 

「もしあの病室の患者が伊丹二尉で、富田二曹の仰るとおりあの方が当時特戦群に在籍している身だったのだとすれば、アレだけ厳重な警護が付いていたのも一応納得がいきますわ」

 

 

 特殊作戦群は部隊の特性上、隊員1人1人が機密事項の塊のようなものである。

 

 その一員の顔と名前が功績共々世間に晒されたとあっては、当時『銀座事件』の事後処理と対応に追われていた幕僚本部と防衛省もこれ以上の情報流出の封じ込めに躍起となり、結果厳重な隔離処置が行われたのだと、黒川は結論を下した。

 

 これが、ただでさえ伊丹がレンジャーである事に大いにショックを受けていた栗林へのとどめとなった。

 

 

「ひぃぃぃいいいやぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「ちょっ、栗林二曹ー!?」

 

 

 まさに絹を引き裂くようなと形容するにふさわしい怒りと絶望に満ちた悲鳴を上げた栗林は席を飛び出し、走り出してしまう。

 

 そこへ件の噂話の元凶である伊丹が食堂の入り口に姿を現した。

 

 

「腹減ったぁ、書類仕事疲れ――おげろっぷぁぁぁ!?」

 

「いやぁぁあああああああああ!!」

 

「「「あっ」」」

 

 

 慣れない書類の山に心身をすり減らし、足をふらつかせていた伊丹は栗林の猛烈な突進にそのまま跳ね飛ばされてしまう。

 

 上官を撥ね飛ばした事すら気づかぬまま、栗林はそのまま夜の駐屯地へ走り去っていったのであった。

 

 

「きょ、今日は厄日だ……ガクリ」

 

 

 撥ね飛ばされた方の伊丹はそう言い残してガックリと食堂の床の上で力尽きる。もちろん実際には死んでおらず、ただ倒れ伏した状態から起き上がるだけの気力が残っていないだけであった。

 

 ちなみに最後の『ガクリ』という効果音は伊丹自ら言っている。こういう場合、効果音も自分で言うのが様式美なのである。

 

 

「……伊丹隊長が特戦群って話、やっぱり単なる噂じゃないっすか?」

 

「俺もそんな気がしてきた……」

 

「あらあらクリってばはしたない」

 

 

 寸劇の一部始終を見届けた残りの伊丹の部下達は、崩れ落ちた上官へ駆け寄ろうともせずに大きな溜息を吐くのであった。

 

 

 

 

 彼らは知らない。

 

 自分達の上官が噂を遥かに上回る過去を背負っている事を。

 

 そして上官の過去の因縁がこれから数日後、大いなる脅威となって彼らにも襲いかかる事を。

 

 彼らはまだ、知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<それから数日後>

 

 

 

 

 建物の前に停められた車両を前に、伊丹を除く第3偵察隊の面々はポカンと立ち尽くしていた。

 

 呆然と車両を眺めているのは第3偵察隊のみならず、たまたま近くを通りかかった他部隊の隊員も、その車両の存在に気づくと驚きに目を見開いたり、不思議そうだったり怪訝そうな表情になったりしながら横目にそれを見つつ指で指し示し、同僚とヒソヒソ話を交わしながら歩き去っていくのである

 

 そんな大いに注目の的と化している車両について唯一事情を知っているらしき部隊長に対し、隊を代表して倉田が質問を投げかけた。

 

 

「あの、伊丹隊長?」

 

「なんだい倉田」

 

「……この車、どーしたんですか? 見間違いじゃなければ目の前にあるのはいつもの73式じゃなくて輸送防護車っすよね、これ」

 

 

 そう、第3偵察隊の前に鎮座していたのは73式小型トラックではない。

 

 日本では輸送防護車、外国ではブッシュマスター装甲車として各国軍隊で採用されている装輪装甲車であった。

 

 全長だけでも民生品の小型四駆をベースとした73式の倍近い。それどころか各深部情報偵察隊に配備されている高機動車と軽装甲機動車をも大きく上回るサイズと重量である。

 

 地雷や仕掛け爆弾による襲撃を前提に設計された車体の耐久性はもちろん、3箇所の銃座が車体上部に設けられている事もあって多方向からの襲撃にも対応できる設計となっている。従来の輸送防護車における前部銃座はミニミ軽機関銃がマウントされるのだが、送られてきた車両には軽装甲機動車と同様にM2重機関銃が据え付けられていた。

 

 しかしこの輸送防護車という車両、陸上自衛隊に採用されたのは2014年と極めて最近であり、基本廃棄しても惜しくない型落ち装備を優先的に持ち込んでいる特地派遣部隊に、このようなピカピカの新型車両が持ちこまれたのはいかなる理由からなのか。

 

 別の偵察隊の車両をチェックしてみると、他は高機動車・軽装甲機動車・73式小型トラックといういつもの組み合わせである。ならば何故第3偵察隊だけこのような新型が配備されたというのか、当の第3偵察隊の面々こそ、もっとも不思議がっていた。

 

 

「ああ、避難民の住居とか手配するついでに要望出しといたのがついさっき届いたんだよ」

 

「よく要望通りましたね」

 

「パンツァーファウスト直撃しても死なない空飛ぶゴ○ラみたいなドラゴン相手に、高機動車ならともかく73式じゃ流石に分が悪すぎるからさ。どこまで通用するかはともかく、今後もああいうのに襲われた時に備えて火力と防御は上げといた方が良いでしょ」

 

 

 第3偵察隊が遭遇した炎龍にはM2重機関銃の12.7ミリ弾が容易く弾き返されたどころか、パンツァーファウストⅢと称される110ミリ個人携帯対戦車弾の直撃を受けてもなお、一応の手傷は与えど仕留める事ができずに終わった。

 

 そうでなくとも、アルヌスの丘を攻めてきた地元軍に混じっていた炎龍よりも小型の飛竜でさえも、戦闘ヘリや自走高射砲の機関砲クラスでなければ貫通できないほどに強靭な鱗を有しているのだ。

 

 輸送防護車以外にも、64式もしくは89式小銃の銃口に装着して発射する06式小銃てき弾も日本から持ってこさせたという。

 

 

「ドラゴン以外にもオークだとかジャイアントオーガーみたいなでっかい怪物もこの世界には居るんだし、戦場じゃ火力が多過ぎて困るより足りなくて困る場合の方が腐るほどあるからねぇ」

 

 

 真面目くさった顔でそう語る伊丹。

 

 実際に『銀座事件』においてオークやジャイアントオーガーといった大型の野生動物すら上回る巨躯の怪物相手に、64式小銃やM2よりも遥かに威力で劣る拳銃やサブマシンガンで立ち向かわざるをえなかった(そして撃退してみせた)伊丹だけあって、その発言は大いに説得力を感じさせるものであった。

 

 

「マジかよ」

 

「輸送防護車なんて生で見たの初めてだぜ」

 

 

 追加の火器のみならず新型車両までもスムーズかつ迅速に届けられたという現実に、それらの待遇を甘受する側となった第3偵察隊の面々は、喜ぶよりも先に戸惑うばかりである。

 

 特に先日、伊丹の過去の経歴についてアレコレ議論を交わしていた栗林や富田や倉田や黒川に至っては、いち尉官にありながらこうも容易く後方のお偉方から新しい車両と火器を分捕ってきた伊丹について、「やっぱり特戦群だったのって本当なんじゃ」「さすが英雄、ネームバリューが違いますね」などなどと小声で言葉を交わしていた。

 

 

「こういう時、コネと弱みを握ってると助かるよなぁ」

 

「? 何か言いましたか隊長」

 

「いんや別に。さぁさぁ、さっきから注目の的になっちゃってるみたいだし、各員乗車して出発するぞー」

 

 

 あくまで伊丹の個人的な伝手で調達した代物なだけに特地へ持ち込まれた輸送防護車は第3偵察隊に配備された1台だけである。

 

 だものだから、伊丹達と同様に出発準備中だった他の偵察隊から興味と羨望の視線を向けられるのは至極当然の事であり、それに気づいた第3偵察隊の面々はそそくさとあらかじめ指定された車両にそそくさと乗り込むのであった。

 

 

 

 

 彼らの最初の目的地は駐屯地からやや離れたふもとに設けられた難民キャンプである。

 

 

 

 

 

 

 

『中傷や噂は真実よりも速く伝わるが、真実ほど長く留まらない』 ――ウィル・ロジャース

 

 




作中の輸送防護車はWW3のせいでリアルよりも大量に調達されているとでもお考えください。



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