GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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遅れましたが新年あけましておめでとうございます。
年明けから色々と燃え尽きてましたが今年もよろしくお願いします。


11.7:The Enemy of my Enemy/呉越同舟

 

 

 

 

<05:45>

 アレックス CIA(米中央情報局)SAD(特別行動部)オペレーター

 カストビア・ヴェルダンスク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペンタゴン(国防総省)ラングレー(CIA本部)や軍事基地でコーヒー片手に尻で椅子を磨いている上司の代わりにアメリカの敵を排除する。

 

 或いはそいつらが手に入れた危なっかしい玩具を取り上げて使い物にならなくする。

 

 どちらにしたって偵察衛星や、無人偵察機や、アクションカム(ウェアラブルカメラ)諸々といった機械の目を通して数百キロだか数千キロ離れた作戦本部で呑気に見物するお偉方の代役としてその手を敵兵の血で穢す。もしくは敵の(ねぐら)に正しく爆弾が落ちるよう精密誘導を行う。

 

 典型的な汚れ仕事(ウェットワーク)。それが俺達の仕事。

 

 だけど文句はない。少なくとも、今の所は。

 

 現在の上司であるケイト・ラズウェルから武器を持たない女子供を殺せという命令を下された事も無ければ、間違った情報のせいで一般人が働くミルク工場への誤爆を誘導してしまったなんて事もなく。現場で行動を共にしてきた実働チームのメンバーも、背中を預けるに足る優秀な兵士ばかりで。

 

 情報機関の工作員としては幸運、なのだろう。

 

 厳しいがキチンと面倒を見てくれる上司。頼れる仲間。歴史には残せなくても内容としては真っ当と言える任務。人として恥ずべき汚点も汚名も背負わずにここまでこれた。

 

 

 

 

 今回の任務も、そうなる筈だった。

 

 

 

 

 

 脱走したロシア軍の大将が仕切る化学兵器工場の破壊と製造された毒ガスの確保。

 

 民間人は無し。現場にいる人間全てが(悪いロシア人)。歩兵戦力の差は大きいが航空支援を受けられる。もしロシア軍(いいロシア人)と遭遇した場合一切の交戦は禁止。

 

 危険で難しいがシンプルな任務。

 

 昨今、アレックス達のような特殊部隊は人手不足が激しいのが現状だ。反米・反西側諸国を標榜する武装勢力の増大もさる事ながら、特にアメリカはWW3による人的資源の損失から未だ回復し切れておらず、経験豊富な特殊部隊員が大きく数を減らした分だけ隊員1人1人の負担が激増し、オーバーワークにより残った隊員らの能力が低下するという悪循環に陥りつつあった。

 

 その影響は今回の任務にも及んでいた。本来アレックス以外の作戦要員は海兵隊から選抜されたメンバーで統一される予定だったのだが、人手不足により急遽デルタフォース(陸軍特殊部隊)からも1人だけだが抽出せざるをえなくなったのである。

 

 まぁ有難い事に(陸軍有数の特殊部隊から引き抜いたのだから当然と言えたが)臨時の助っ人もまた優秀な――訂正、とびっきり優秀な兵士だったのでアレックスとしては文句はない。

 

 資料ではロシア軍が北米侵攻してきた当時の激戦区の1つであったニューヨークでロシア艦隊を一掃する反抗作戦に従事し、欧州ではハンブルグ・パリ・ベルリンとこれまた激戦区を転戦。戦場に取り残されたVIPの救助や狂犬マカロフの側近だったHVT(高価値目標)の確保にも携わった、まさに精鋭中の精鋭。

 

 それはともかく今回の任務だ。

 

 途中まではそう、順調だったのだ。航空支援によるクラスター爆弾で施設の大部分が炎上し、警備が混乱の最中を突いて施設内へ突入。

 

 途中で存在が発覚し海兵隊員が1名犠牲になったものの、順調に敵を排除し出荷寸前の化学兵器が置いてある倉庫まで辿り着いた。

 

 ここまでは良かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 倉庫の電源を復活させて封鎖されたシャッターを動かす。化学兵器はこの向こう側にある筈だった。

 

 ゆっくりと鉄の扉が持ち上がっていく。自然と息が詰まり、銃を構える手に力が籠もる。つい先程操車場は似たような状況で待ち構えていた敵の攻撃によって仲間を失ったのだから、アレックス達が過剰に身構えてしまうのも至極当然で。

 

 だがアメリカ人を出迎えたのは敵の待ち伏せでも、お目当ての毒ガスでもなく。

 

 

「撃つなアメリカ人!」

 

 

 そんなロシア訛りだが流暢な、明確な英語での呼びかけだった。

 

 作戦開始からこのかた遭遇した敵が発する言語は皆生粋のロシア語ばかりで、上官と仲間以外の口から英語を耳にしたのは今回が初めてだった。しかも相手は少なくともアレックスらがアメリカ側の人間である事まで把握している。

 

 アレックスは咄嗟に握り拳を掲げて「発砲禁止!」と海兵隊員に命じた。

 

 シャッターの向こう側が露わになる。ロシア軍独特のフローラ迷彩に完全武装の兵士の小部隊が待ち構えていた。

 

 面構えと雰囲気が、爆撃に右往左往していた施設の警備兵とはまるで違う。女の兵士も混じっていたが彼女も含め、ここまで相手してきた警備兵よりも遥かに格上の歴戦の雰囲気を滲ませている。

 

 アメリカの兵隊とロシアの兵隊が銃を突きつけながら睨みあう。傍から見れば一触即発の状況。

 

 アレックスですら左手で射撃待ての合図を出しつつも右手1本で特殊作戦仕様のM4アサルトライフルを構え、臨戦態勢を崩していない。

 

 場の空気は乾いた殺気と緊張感で極限まで張り詰めていた。物音1つ立てればパンパンに膨らんだ風船を針で突くが如く一瞬で銃弾飛び交う修羅場と化すであろう、そんな状況。

 

 そんな中でただ独り、最前列に立つ兵士は武器を持たず両手を挙げるロシア人がいた。他のロシア兵の態度からしてこの男が謎の部隊の指揮官とアレックスは判断した。

 

 丸坊主の細面であるそのロシア人の顔を真っ向から見つめる。

 

 そしてすぐさま何者であるかを思い出した。それはアレックスだけではなかったようだ。

 

 

「おいマジかよ」

 

 

 海兵隊員の誰かが思わずそう漏らすのが聞こえた。目の前に立っているのはアレックスのような情報機関や軍部関係者どころか、今や世界中の人々の間にも知れ渡っている存在だ。

 

 念の為、だが確信を持ってアレックスは尋ねた。

 

 

「アンタ、まさかあのユーリか? 第3次大戦を終わらせてウラジミール・マカロフを殺したあの?」

 

「終わらせたのは俺じゃない。和平会談を成功させたワルシャフスキー大統領だ。だがマカロフを殺すのに手を貸したかどうかについては……イエスだ」

 

 

 今度こそ動揺とざわめきがCIAと海兵隊の間に生じた。

 

 その男はロシア人にありがちな何たらエフだのコフビッチだのスキーといった姓もミドルネームも抜きにただ『ユーリ』とだけ知られている。

 

 かのイムラン・ザカエフが指導者だった当時からロシア超国家主義派に潜入し、狂犬マカロフが地位を引き継いでからは彼の側近として立場を固めながらも、WW3の引き金としてマカロフが自作自演した空港テロ事件の直前に正体が発覚。

 

 マカロフ手ずから処刑されかけ半死半生を彷徨いながらも奇跡的に生還後はあのタスクフォース141に参加。その部隊も激戦によってたった4人まで戦力をすり減らしながらも拉致されたロシア大統領救出を経てWW3を終結に導き、最終的にマカロフ暗殺をも果たした。

 

 最後の4人(ラスト・フォー)。最新の戦場神話の誕生は記憶に新しい。

 

 ついでにCIAの一員としてはTF141関係の情報公開直後ラングレー(CIA本部)ではアジア方面を担当する部署のお偉方が大虐殺(リストラ)されて人事が上へ下への大混乱だったとかなんとか。

 

 一介の現場要員に過ぎないアレックスには、情報公開にまつわる本国-日本&ロシア&イギリス間で繰り広げられた実力行使も交えての暗闘など知る由もなかった。

 

 ともかくそんな英雄の1人がこうして目の前にいる。相手はほんの1年前まで血で血を洗う世界大戦の敵だったロシア人だが、不毛な犠牲をの連鎖を終わらせようと戦争を終わりに導いた人物である。

 

 そもそもだ。まだ警備兵が駆けつけてくるかもしれない最中にわざわざ敵意が無いのを示して対話を持ち掛けてきた第3者まで敵に回す事にどれだけのメリットがある?

 

 アレックスが国と個人を分けて考える程度の冷静さと誠実さを持ち合わせていたのは、この場に集まった者達にとって大きな幸運だった。

 

 右手で構えたライフルをゆっくりと下ろす。後々敵に回るとしても、今この場で殺しあうリスクの方が危険だと判断し、アレックスは対話に応じる事にしたのだ。

 

 

「皆も銃を下ろせ」

 

 

 アレックスが命じると、一瞬躊躇いを見せながら海兵隊員達も銃口を下げる。

 

 固く強張っていた英雄殿の表情が安堵で僅かに緩んだ。彼もまた背後に控える部下ら―おそらくスペツナズ―に合図を送って臨戦態勢を解かせた。

 

 

「伝説の英雄に会えて光栄だ」

 

「よしてくれ、英雄に称えられるような立派な人間じゃない」

 

「なら本題だ。そちらの目的と我々に接触を試みた理由は何だ」

 

「アンタ達と同じだ。ここで製造された化学兵器の調査と確保が目標だった。だが……」

 

 

 ユーリが手を振って周囲を示す。ロシア人が何を言いたいのか察したアレックスは小さく悪態を漏らした。

 

 発送間近との情報を元に踏み込んだ倉庫の搬出場だが、停車したトラックの荷台を含め化学兵器の容器らしき物体はどこにも見当たらなかった。無線の応答ボタンを押す。

 

 

3-1(アレックス)からウォッチャー(ラズウェル)へ。問題発生だ。ガスは発見できず。繰り返す、ガスはここにはない」

 

『了解3-1。その場所に置いていないのであれば既に施設から発送済みの可能性が高いわ。どこに発送されたのか手がかりになりそうな情報を可能な限り捜索して』

 

「了解した」

 

 

 再びユーリを見据える。2人の指揮官の視線が再度ぶつかり合う。

 

 彼の表情と態度から、ラズウェルから受けた指示の内容をユーリも察しているとアレックスもまた見抜いていた。仰ぐ国旗(はた)の違いを除けば立場も目的も同じ者同士だからこそ見当がつく。

 

 

「お互い目的のものは一緒という訳か」

 

「そうなるな。ここはお互い協力すべきだ。ここで俺達が殺し合っても得をするのは――」

 

「ロマン・バルコフ」

 

「そういう事だ」

 

 

 ここまで把握しているんだぞ、と言外に指摘しても動揺は見えない。

 

 その時ヘッドセットから電子的な通知音。直後無線通信特有の僅かなひずみを帯びたラズウェルの声がアレックスの耳朶を打った。ロシア人もまた同じように通信を受ける仕草を見せる。

 

 

『3-1、悪い知らせよ。敵の援軍を乗せた車両が複数、貴方達がいる倉庫を目指して敷地の外から接近しているのを無人機が捉えたわ。今すぐそこから離脱するか迎撃態勢に移って』

 

 

 チラリとユーリを見やれば一旦はわずかに緩んだ細面は再び強張り……いや緊張とは別物の、銃剣を思わせる鋭利さを帯びた硬質なものへと化していた。敵を機械以上に無駄なく確実に処理すべく研ぎ澄ましてきた兵士特有の雰囲気。

 

 向こうもこれまた自分達と同じ知らせを作戦本部から受け取ったに違いない。口に出さずとも見つめ返してくる瞳が雄弁に肯定していた。

 

 アレックスは覚悟を決めた。そもそもラズウェルからもロシア軍(いいロシア人)との交戦は禁止されているのだ。この場での敵は悪いロシア人(バルコフの手下)だけで十分だ。

 

 

「オーケイ分かった。手を組もう。アンタ達はいいロシア人なわけだからな。ただし見つけた情報は全て共有する。この期に及んで隠し事は無しだ」

 

「お互いにな」

 

「そう、お互いにな。その前にまずは悪いロシア人をやっつけるとしよう」

 

 

 ここに協定は結ばれた。その場限りの共同戦線。

 

 差し迫った脅威の存在を告げた上で指揮官が命じれば、双方の部下も戸惑いを浮かべつつ、指示通り悪いロシア人の歓迎準備を始めた。

 

 

 

 

 相手を信用して背中を向けた瞬間撃たれるかもしれない――なんて心配など、頭数も銃の数も上回る共通の敵が迫ろうとしている状況の前には些末なものでしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<同時刻>

 ユーリ

 

 

 

 

 

 咄嗟の賭けは成功だった。

 

 相手が理性的で良かったと、ユーリは心の底から安堵に浸るも迎撃の準備を整えるその動きはまったく淀みない。

 

 無人機オペレーターによれば敵の増援は歩兵を乗せた非装甲の輸送車両が主体で構成されているとの事。

 

 ただし数が多く残念ながら無人機の爆装だけでは全車両を始末するのは不可能であり、ユーリらロシアとアメリカの即席混成部隊との接敵は避けられそうにない。おまけに2両だけだが砲塔を備えた装甲車両も混じっているという。

 

 幸運だったのは―同時に敵増援には不運な事に―短い時間だがサプライズ歓迎の準備を行うだけの猶予が彼らには在った。

 

 

「罠を準備してくる」

 

 

 カプカンが素早く駆け出し、車両用ゲートの門柱へと小さなレンガに似た物体を慣れた手つきで取り付けた。不可視のレーザーに触れた瞬間起爆し周辺の敵を吹き飛ばす彼特製のブービートラップ。

 

 更に遠隔起爆装置を取り付けたC4(ニトロセル)をゲートからやや離れた道路際に茂る草藪の中に設置するのが見えた。敷地外から倉庫前へ直接車両が進入する場合ゲートを必ず通過しなくてはならない。

 

 罠を仕掛け終えたカプカンは海兵隊員の1人と共にゲート近くの監視塔に潜む。

 

 フューズとタチャンカは倉庫外壁のキャットウォークに陣取り広い射界を確保。

 

 カプカンに並ぶ爆発物の専門家は、ベストに取り付けた特大のポーチから何やら取り出す。太い筒に何らかの電子機器と接地用のコンパクトな三脚を組み合わせただけにしか見えない、武骨を通り過ぎて簡素なそれは筒先をゲート方向へ向ける形でフェンス上に設置された。

 

 一方火力支援担当は今こそコイツの出番と言わんばかりに背負っていた骨董品(DP28)の銃身をフェンスのフレームに乗せ、即席の機関銃陣地を作り出した。

 

 

「オイオイ、そんなもんどっから掘り起こしてきた」

 

「死体の山からだ。死体も皆驚いてたぜ」

 

 

 持ち場に移動する最中、そんな大いに呆れかえっているのが目に浮かぶようなアメリカ人と、覆面越しでも伝わってきそうな自慢げなロシア人のやり取りが聞こえてきた。

 

 

「いつも同じジョークね」

 

 

 ついでにフィンカのウンザリとした呟きも一緒にだ。彼女はアメリカ側の兵士―暗い中で分かり辛いが多分アフリカ系―と監視塔に隣接する警備小屋の屋根に伏せて待機する。

 

 独り単独行動だったグラズもユーリの命令を受け倉庫前を一望出来る斜面に狙撃地点を確保して監視に就いていた。

 

 そして最後に、ユーリはアメリカ側の指揮官共々最も見晴らしの良い倉庫の屋根に陣取り指揮を執る。

 

 

「まさかこんな場所で第3次大戦の英雄と肩を並べる事になるとはな」

 

 

 皮肉気な響きを帯びた苦笑いがアメリカ人の顔を彩った。

 

 顔の下半分を丁寧に整えられた豊かな髭で隠しているが、笑い皴で下向きに歪んだ目元は意外と若々しさを帯びていて、少なくとも自分よりは数歳年下であろうとユーリは読み取った。

 

 

「お気に召さないかな?」

 

「そうは言ってないさ。心から光栄に思っているとも。ただそうだな……こういう他人の土地に忍び込んでの汚れ仕事で地元の兵隊から、それもよりにもよってつい最近までアメリカと戦争をしていた国の伝説的存在に協力を持ちかけられるなんて事なんて普通はあり得ないだろう?

 実を言うとまだ戸惑ってるのが正直な本音さ」

 

「アンタらの国と俺達の国との戦争は終わったんだ。今俺達が戦うべき相手はバルコフの私兵であって殺し合う理由はない。そうだろう?」

 

「口で言うのは簡単だが実際にやれるかどうかは別物だ。それをこうして実行してみせたからこそアンタは英雄になれたんだろうな」

 

「よしてくれ。英雄と呼ばれるべき人間はもっと他に居る」

 

「謙虚な英雄殿だなまったく。ところで倉庫ではどうやって俺達の存在を察知して先回り出来たんだ?」

 

 

 ユーリはポーチの空きスペースに無理矢理突っ込んでいたデジタル無線機とヘッドセットを引っ張り出した。

 

 

「操車場の死体から回収したものだ。そっちが代わりに爆撃してくれたお陰でこちらも楽に忍び込む事が出来たよ」

 

「クソっそういう事か」

 

 

 そんなやり取りを交わしていると、屋根の2人から同時に通信機のノイズ音。

 

 ユーリはちらりと音の出所に目を向けただけに留めると、アメリカ人が胸元の無線機の送信ボタンを押し作戦本部との通信を交わすのを横目に見守った。

 

 

『3-1。今そちらと行動を共にしている武装勢力についての説明を求めます』

 

 

 それなりの年月と経験を滲ませる女からの詰問は虚偽を許さぬ威圧的な響きがありありと感じ取れる声色であった。

 

 アメリカ人の現地指揮官もまた一瞬だけユーリを見やると瞑目した。次に瞼を開いた時、彼の瞳には決意の光が宿っていた。

 

 

「3-1よりウォッチャーへ。現在我々は現場指揮官の権限によりロシア軍部隊と一時的な共闘状態にある。通信以上!」

 

『待ちなさい3――』

 

 

 早口に言い終えたアメリカ人はすぐさま通信を切った。

 

 一部始終をまじまじと見つめていたユーリとアメリカ人の視線がもう一度ぶつかる。

 

 返ってきたのはコメディ番組の俳優よろしく肩を竦めてみせるという、アメリカ人らしい大袈裟な仕草であった。

 

 

「良かったのか?」

 

「うちの上司は厳しいが話が分かる相手だ。毒ガスは回収出来なかったが、情報を持ち帰りさえすれば何とかなるだろう。それに――」

 

「それに?」

 

「――ロシア軍に攻撃するなとは言われていたが、ロシア軍と共闘とするなとは言われてない」

 

「そうか……こっちもだ」

 

 

 自然と2人の口元には笑みが浮かんでいた。

 

 非合法な汚れ仕事には不釣り合いな、だけど今この瞬間にだけは相応しい、暗い感情を一切帯びない男臭い微笑み。

 

 

「そういえば英雄殿に自己紹介が遅れたな。アレックスと呼んでくれ。短い間だがよろしく頼む」

 

「こちらこそよろしく頼む」

 

 

 

 

 

 車両部隊のエンジンによる重低音の多重奏が半壊した施設へと近付きつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『善に協力するのは義務である。と同時に、悪への協力を拒否するのも義務なのである』  ――マハトマ・ガンジー

 

 

 

 




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