GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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前話の感想数に失笑しましたHAHAHA!(ヤケクソ


予め警告しておきますが、今話よりある意味最も原作から乖離した展開に突入します。


13:God only knows/神と人と

 

 

 

<14:42>

 伊丹耀司

 ベルナーゴ・地下神殿

 

 

 

 

 

 

 ハーディは銀色の長髪を持つ女神だった。

 

 降り注ぐスポットライトのような光の中に文字通り浮かぶハーディは髪も肌も透けるような……というか実際わずかに向こう側が透けて見えていて、慎ましやかではあるが完璧に均整が取れたスタイルと美貌は確かに神に相応しい。

 

 見惚れてしまっているとハーディが伊丹の方をおもむろに見やったため、互いの視線がぶつかり合う。正面から女神の顔を見据える形となり、一瞬胸の高鳴りを覚えてしまった伊丹であるが、

 

 

(でも神様ってロゥリィが言うには容姿なんて好きに変えれるそうだし、あの美貌ももしかしてゲームのキャラ作成みたく自分で整形したものなんじゃ……)

 

 

 もしくはリアル3DCG。ミックミクなDanceとかそんなの。ホログラムっぽく透けてる辺りやっぱり人工っぽいし。

 

 女神の美貌が作り物であると一旦認識してしまうと、ハーディに感じた胸の高鳴りが消沈するのも一瞬であった。

 

 やっぱり人は、人工物よりも自然が生み出した本物にこそ心惹かれてしまう生き物なのだ。

 

 

 

 

 例えばそれはレレイの華奢ではあるが日々の成長が伝わってくる体つきだとか。

 

 テュカの外見年齢10代後半の少女らしい健康的な(だが出る所はしっかり突き出た)肢体とか。

 

 ロゥリィのエターナルゴスロリ娘に相応しく起伏は慎ましいが手足はスラリと長いスタイルだとか。

 

 ヤオの上に挙げた3人には決して出せない、むっちりと成熟した果実を思わせる要所要所の膨らみとダークエルフ特有の褐色肌の組み合わせがもたらす色気だとか。

 

 そして栗林の、本人の遺伝的特性が生み出す低身長・高胸囲に加え、実は乳に負けず劣らず見事な肉付きのヒップとか。

 

 3Dモデリングしたキャラに歌わせてみたな動画も勿論好きだが、それはそれとして3次元はやっぱり天然物の方が良いよね!

 

 

 

 

 ……等といった感想が伊丹の脳裏を通過していった。

 

 女性陣と破廉恥な関係を結んでしまった影響は、案の定伊丹の思考にも肌色方向の汚染を齎している様子である。

 

 すると伊丹を見ていたハーディの表情が急に傷ついたものに変わり、おまけに驚いてもいるのか緑の瞳を丸々と見開きながらロゥリィに何事か訴え始めた。

 

 ハーディの声は伊丹には全く聞こえないのだが亜神であるロゥリィには聞き取れるようで、涙目な女神からの訴えにゴスロリ亜神は優越感の篭もったニヤニヤ顔を返すばかり。

 

 

「ロゥリィ、この神様なんか訴えてるみたいだけど」

 

「『この姿は整形じゃないって伝えてくれ。あと自分を差し置いてこの男と褥を共にしてるのか?』って騒いでるだけよぉ」

 

「……もしかして心読まれてる?」

 

 

 涙目で睨まれながらハーディは首を縦に振った。

 

 レレイや栗林は神様の前で何考えてんだ? と言いたげな視線を向けた。白ゴス神官と司祭は恐れ戦いたように目を丸くした。

 

 本物の神様に懇ろな女性達とのあれやこれやな想像を見抜かれてしまった伊丹は無言で平身低頭した。

 

 それは憑依する為の依り代(よりしろ)を求めたハーディがよりにもよってレレイに乗り移ってしまうまで続いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「遠路はるばる、よくおいで下さいました。私がハーディです」

 

 

 ハーディによって身体を乗っ取られたレレイの様子は一変していた。

 

 襟にかかるぐらいのショートカットだった白銀の髪はハーディが支配権を奪った瞬間から腰まで届く長さまで伸びている。

 

 何よりも顔立ちはレレイそのものであっても雰囲気があまりに違い過ぎる。人懐っこくにこやかな態度で伊丹の腕に抱きついてくる姿に、伊丹の本能は大音量で警告を鳴らし続けている。

 

 スキンシップ自体は一線を越えて以降、増加傾向にあったのは否定しない。しかし本来のレレイはもっとこう、一見そっけないように見せかけてふとした瞬間に年頃の少女らしい可愛らしさと一途さを覗かせる、そういった部分に伊丹はいわゆる萌えと愛しさを抱いていたのだ。

 

 対してハーディは、レレイの顔で本来のレレイではまず浮かべないようなあからさまに婀娜な姿を伊丹に見せつけてくる。

 

 元の造形の良さもあって確かに可愛らし、色っぽい。それは認めよう。

 

 

(でも何だかなぁ)

 

 

 だが欲望以上に、深い関係を結んだレレイが好き勝手に弄ばれ穢されている気分がして、それに対する怒りが勝った。

 

 相手は心が読め、しかも実力行使を行っても傷つくのはレレイの肉体だ。今はその時ではないと感情を制御する。怒りの炎が冷徹な敵意へと移り変わっていく。

 

 

「そう身構えないで欲しいわ。悲しくなっちゃう」

 

 

 ハーディはレレイの口でそう言うものの表情も態度も全く堪えているようには見えない。愉快そうに笑みを深めるばかりだ。

 

 伊丹だけでなくロゥリィにテュカ、ヤオと栗林も彼と同じ心境のようで、据わった目でハーディを捉え続けている。

 

 

「くすくす、貴方達皆この娘の事が大切なのね。安心して。久々の肉の(からだ)をしばらく楽しんでからこの娘の躰は返してあげるわ」

 

「本当に返してくれるんですね!?」

 

 

 アルペジオが勢い良く食いつく。ロンデルでは義妹相手に対抗心から醜態を幾晒していたがその本心はやはりレレイが大事なのだ。

 

 

「勿論よ。ただし色々と楽しんでからね」

 

「色々って……例えば?」

 

「そうねまずは食事からかしら。食欲は肉の躰を持つ生命だけが持ち得る根源的な欲望の1つだもの」

 

 

 神官共々ハーディに引き連れられた伊丹達が足を踏み入れたのはベルナーゴ門前町の中でも一等豪華な雰囲気の食堂。

 

 メニューの最初から最後まで全ての料理を順番に持ってこさせると次から次に皿を空にしていく。

 

 普段のレレイの食事量からは信じられない大量の食事がどんどん彼女の中へ消えていく様に、成り行きで同じ食卓を囲む事になった伊丹達は驚くやら呆れるやら。

 

 

「一体どこに消えてるんでしょうねあれだけの食べ物……」

 

「さ、さぁ」

 

 

 栗林の囁きに流石の伊丹も返す言葉が思い浮かばない。

 

 見かねたテュカが少しは気をつかえと依り代になってるレレイの肉体を慮っての言葉を投げかけると、それをきっかけにハーディは生身を持たない神という存在について弁舌を振るいだした。

 

 無限の時の流れを過ごしていると段々と感動と感情を失い、最終的に淡々と役割を果たすだけの機械と化してしまわない為には時折こうして神としての魂に喜びと潤いを与える必要がある。

 

 これはテュカのような数千年の寿命を持つ精霊種も同じような可能性があり、その点をハーディに指摘されたテュカは閉口して顔を背けてしまった。代わりにアルペジオが口を挟む。

 

 

「食欲を満たした次は何に満足されればレレイを返してくれるんですか?」

 

「そうね。やはり次は性欲かしらね」

 

「せっ!?」

 

「そういう訳だからロゥリィ、(わたくし)の嫁になりましょ? 別に私が嫁でも良いけれど、一緒に溶け合って永遠を楽しみましょう」

 

「い・や・よぉ! もう間に合ってるものぉ」

 

「間に合ってるってああ、この殿方の事ね」

 

 

 ハーディの両腕が再び伊丹の腕に絡みついた。

 

 

「羨ましい殿方。この躰の娘に、エルフに、ダークエルフに、そこの貴方と同じ『門』の向こうから訪れた女性、皆と纏めて肉の悦楽を共有しながらロゥリィとも愛し合うだなんて……本当に羨ましい」

 

 

 最後の方の声色にゾッとしたものを感じて伊丹の口元が引き攣った。嫉妬に狂った神がどれだけ恐ろしいのかは、地球産の神話(特にギリシャ関係)が嫌という程証明しているのだから。

 

 

「良いでしょうロゥリィ。記憶を読んだけれど、この躰の娘とは貴女も仲良く(・・・)この殿方と交じり合った間柄なのだから別に構わないでしょう? 仲良く愛し合いましょうよ」

 

「構うわよぉ! それはレレイの話であってアンタじゃあないわぁ! ヨウジもレレイもわたしぃのものなんだからさっさと離れなさぁい!」

 

 

 ハルバードの刃を無理矢理両者の間に捻じ込んできた事でハーディはようやく伊丹の腕を解放した。

 

 問答の対象は今度はヤオへと移り、炎龍とそれの犠牲となったダークエルフの話題になった。

 

 ハーディは言った。炎龍がダークエルフを喰い荒らしたのはあくまで食物連鎖の一環に過ぎず、それはごく自然な弱肉強食の世の習いの一例でしかないのだと。

 

 

「そもそも冥府の主は私なのです。死者の魂は一部を除けばみいんな私の所にやってくるの。

 死後の幸福はこの私が保証します。ならば生き物の生殺与奪も私の自由。一時の苦しみも死後が幸せならばそれは生みの苦しみと同じ。この現世からあの世へと移り住んだのと同じぐらいの事でしかないのよ。

 貴女の両親も、友人も、かつての婚約者も、皆冥府で幸せに暮らしてるのよ」

 

「んなっ!」

 

 

 それは死者の住処を司る支配者ならではの、どこまでも傲慢で一方的な論理だった。

 

 遺された生者の心境などこれっぽっちも考慮しない、それどころか無関係な者でも憤慨してもおかしくないハーディの持論に、元々激情家で喧嘩っ早い性分の栗林は思わず腰を浮かせた。

 

 その栗林よりも早く、ヤオが腰のレイピアを引き抜きながら立ち上がった。

 

 

「そんなの勝手に――!!」

 

 

 

 

ヤオ(・・)

 

 

 

 

 それは静かな声だった。

 

 激情のままにハーディへ剣を突き出そうとしたヤオの体は瞬時に停止した。

 

 伊丹の声が、アルヌスで炎龍退治へ嗾ける為にテュカの心を壊したあの夜に聞いた時とそっくりな響きをしていたからだ。

 

 死と狂気と殺意と憤怒を完璧に制御した者にしか発する事のできない静か過ぎる声。

 

 ゆっくりとした動作でヤオは剣を戻し、椅子に座り直した。

 

 ハーディをまっすぐ見据える伊丹の表情は一見平静に見える。

 

 しかしよくよく観察してみると僅かに眉根の間には険しい皺が刻まれ、瞳の光も波紋一つない水面に見せかけてはいるが、その実奥底では海底火山の如く漆黒の感情がフツフツと静かに煮えたぎっていた。

 

 伊丹もハーディが語る持論に思うところがあるのは明白だった。

 

 ただ鍛え研ぎ澄まされた精神力でもってヤオのように表に出さず抑え込んでいるだけに過ぎない。ハーディもお見通しだった。

 

 

「貴方も言いたい事があるのであれば語っても構いません。どれだけ私と相反する考えであろうとも私は聞いてあげましょう。気に入らないからといってこの娘の躰を返さない、貴方達を呼び寄せた理由も説明しないといった真似もしないと冥府の神ハーディの名において保証いたします」

 

 

 悠然とハーディが言い放つ。肉の躰に憑依している間は心が読めないからちゃんと口に出して欲しい、と付け加えて。

 

 そんな彼女を伊丹はジロリと胡乱気に一瞥し、頭を掻き毟ってから、重々しく口を開いた。

 

 

「……個人の価値観や論理なんて人それぞれだ。そんなものひとりひとりが別々の人生の中で積み上げてきた経験の中で自然と創られていくものだろうし、長年続けてきた考え方がちょっとした些細な出来事であっさり引っ繰り返る事だってそりゃあるだろうさ」

 

 

 例えばヤオが炎龍による一族の危機に直面した結果、只人の生涯よりも長く信奉してきた主神ハーディへの信仰を破棄すると決意したように。

 

 

「別にそれ自体が悪いとは思っちゃいません。こっちの世界じゃどこまで認められているかは分からないけど、どの宗教を信じるのかも、どんな学問を学ぶのかも、何を信じてどんな事をするのかも、人間の基本的権利として保障されているのが俺達の世界です」

 

 

 同時にそれは地球上の国家の大半が標榜する民主主義の前提でもある。

 

 

「ヒトの基本的権利……あらゆる自由を全てのヒトに保証する。ふふふ、それを認めたのはどんな奇特な王かしら」

 

「さぁ? 何百年か前の偉い学者さん達が最初に言い始めた事だったと思いますよ」

 

 

 軽い口調で返す伊丹の目は笑っていない。

 

 

「でも自由の保障にはある重要な前提があるんですけど、ハーディ様は分かります?」

 

「あら、何かしら?」

 

周囲に迷惑をかけない(・・・・・・・・・・)事」

 

 

 殺すなかれ。盗むなかれ。偽りの証を立つるなかれ。人の持物をむさぼるなかれ。

 

 己を律する事が出来ず周囲に害を為したものは罪人として排除される。そうしなければ社会システムの構築も維持も不可能であるからだ。

 

 無論、現実には現代社会が構築されるまでの歴史が金・資源・領土・あるいは己が信奉する主義の正当化を求める大国同士のパイの奪い合いで成り立っている事も伊丹も分かっている。

 

 先の戒めを唱えた地球世界最大の宗教組織も、かつては聖戦の名の下に他教徒への激しい弾圧を行い略奪と殺戮を繰り返した事は有名な話だ。

 

 それでも。

 

 

「ハーディ様は神様なんですし、俺みたいな凡人には分からない高尚な考えがあるのかもしれませんけど、だからって無理矢理他人に自分の思想を押し付けたり迷惑をかけるような真似をされちゃ、俺にだって思うところはありますよ」

 

「ふぅん。貴方は冥王である私の行いが迷惑であると言いたいのね」

 

「相手が王様だろうが神様だろうが、実際に振り回されて被害を被った側にとっちゃ迷惑以外の何物でもありませんね」

 

 

 3万人の部下を核爆発で奪われた事をきっかけに変節した中将によって多くの戦友を失ない追われる身となった男は、本物の神へ真正面から言い捨てた。

 

 周囲は固唾を呑んで伊丹とハーディのやり取りを見守っている。アルペジオ、グレイ、シャンディーなど、生まれた時から特地の信仰と寄り添ってきた現地のヒト種勢に至っては額に脂汗を浮かべながら口を開けずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこまでも張り詰めていくように思われた場の空気を破ったのは、上品に口元へ手を当てながら発せられたハーディの軽やかな笑い声だった。

 

 

「くすくすくす。忠言でも自暴自棄でもなく、ロゥリィみたいな私と同じ神の身でもない只のヒトから真っ向からそのような事を言われたのは何千年ぶりかしら。ジゼルが炎龍や新生龍と一緒に貴方に敗北したのも理解できます」

 

「ジゼルって、あのジゼルですか?」

 

 

 今はアルヌスで監視下に置かれている筈の蒼肌巨乳痴女ドラゴン娘の名前が唐突に出てきた事に不意を突かれた伊丹は反射的に聞き返した。

 

 

「私の命令でも2度と貴方と戦いたくないって、ジゼルってば涙を浮かべてまで懇願してきたのよ? あの子にあそこまで言わせた益荒男なだけの事がありますわね、イタミヨウジ」

 

「そ、そこまで言ってましたか」

 

 

 見た目に関しては巨乳エロ美人だったジゼルに思い出しただけで泣かれたとまで言われてちょっとだけ傷ついちゃう伊丹。

 

 ジゼルのトラウマの大部分はどちらかといえば不死身の亜神だからといって首チョンパでの連行を提案したり、導爆線で緊縛プレイをした挙句ノリノリで女王様チックに嬲ったロゥリィが原因じゃないかと思ったり思わなかったり。

 

 伊丹がしたのは精々がショットガンをぶち込んだり、ナイフで何度も刺したり、股座に蹴りを叩き込んで失禁させたり自分諸共手榴弾で自爆して下半身を吹き飛ばしたり梱包爆薬の起爆に巻き込んだり……

 

 訂正、割とやらかしてたわ俺。ちょっと反省。でも後悔はしていない。

 

 

「貴方、『生きているのなら神様だって殺してみせる』ってジゼルに言い放ったそうね?」

 

「ぶっふぁあっ!?」

 

 

 そして噴いた。

 

 ジゼルへの挑発についつい調子に乗ってとある名作伝奇作品から拝借した厨二力全開な台詞を、まさか本物の神様から詰問される事になろうとは……!

 

 

「たかが400年と少ししか生きていない肉体からの解脱もまだの亜神とはいえ実際にジゼルは貴方達に心をへし折られてしまったようだし、そういう意味では炎龍殺しだけでなく神殺しとしても扱って差し上げましょうか?」

 

「ま、まぁそれについては襲われたので形振り構っていられなかったという事でひとつ。俺もロゥリィに加護を貰ってなければ何度か死んでましたし、そこら辺は御互い様って感じでお願いします」

 

「いいでしょう。そうそうジゼルで思い出したのだけれど、そろそろ貴方達をここへと呼んだ理由についての話に入るとしましょう」

 

 

 ようやく話し合いは本題に入る。

 

 伊丹達に見てきて欲しい所がある、とハーディは言った。

 

 それは平行して流れる川が地形の影響で接近しそのまま接触したかのように繋がった2つの世界を固定する帝国が作り出した魔法装置……すなわち『門』によって生じた歪みが表に噴出している場所なのだという。数ヶ月前に帝都を襲った地震も、長期間の接続による歪みが齎した影響の1つだとも。

 

 そもそもハーディが炎龍を目覚めさせたのも『門』を確保した自衛隊を追い払って『門』を破壊する為だったというのだ。

 

 ……それ以前に特地と地球を繋いだのもまたハーディの仕業なのだが。

 

 

「本当はジゼルに現地の様子を見守らせるつもりだったのだけれど貴方達がアルヌスに捕らえたままでしょう? だから貴方達に直接その目で見て、どうすべきかを考えて、行動しなさい。お互いの世界の為にね?」

 

 

 これまた上の連中が頭を抱えるだろうなぁ、と伊丹は他人事のように思った。

 

 先程とは打って変わってぼんやりと何を考えているのか分かり辛い弛緩した顔の伊丹に、神である自分に啖呵を切った男のあまりの落差に忸怩たるものを覚えたハーディはロゥリィを見やった。

 

 

「ヨウジはこういうヤツなのよぉ。普段はグータラでぇ逃げ足も速いけどぉやる時はとことんまでやる。そこがまた良いのよぉ」

 

 

 そう語るロゥリィはとても甘い感じに笑み崩れていたという。

 

 嫁として自分が狙っているゴスロリ亜神が別の男へデレる姿に、ちょっとイラっときたハーディである。

 

 

「ああそうですか。そういう事ならやる気を出すように褒章を出します。貴方達を悩ましている問題を、全部ってわけにはいかないけどかなりの部分を片付けてあげられるようにしてみせましょう」

 

「と言いますと?」

 

「イタミヨウジ、貴方を狙っている刺客に夢のお告げを下しました。軽率な連中はここに集まって来るでしょう」

 

 

 伊丹の表情と気配が再び鋭いものへと転じた。

 

 

「お膳立てはしてあげました。場も整えて差し上げましょう。ここまでして差し上げるのです、ジゼルに炎龍、新生龍すら見事に打倒した本物の戦士であれば、これらの刺客程度退けるなど大して難しくもないでしょう?」

 

「……はぁ。まぁレレイの学会の事もありますし、やっつけた分だけ余裕が出来るのも確かか。分かりました。そっちの思惑に乗ってあげましょう」

 

 

 我が意を得たりとばかりにハーディの口元がにんまりと歪んだ。

 

 

「それではもう一つ、貴方達に餞別を与えましょう。いいえ、餞別と云うよりもお告げになるのかしら」

 

「?」

 

 

 ほっそりとしたハーディの―と言うか依り代であるレレイの―指先が持ち上がり、ある一点を指した。

 

 一同の視線が一斉にハーディが示した先へと集まる。

 

 

「え? え? 私?」

 

 

 唐突に指で示されたのは栗林だ。

 

 そうして冥界の神はその超常的能力でもって栗林本人すら気付いていなかったある事実を端的に告げたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おめでとう。彼女、貴方の子を身籠っているわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人間が自由でありうる為には、神が在ってはならない』 ――シェリング

 

 

 

 




「ヤればデキる」
ンッン~名言だな(ry


モチベ維持の燃料となりますので感想お待ちしております。

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