GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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コメディ?部分が長くなったので区切ります。



ところで前話の感想殺意高いの混じってたんですがそれは(震え声)


15.5:Proof of Love/そして母になる

 

 

<6日前/18:41>

 栗林 志乃 二等陸曹

 ファルマート大陸・アルヌスの丘/アルヌスの街

 

 

 

 

 

 

 栗林が診療施設で検査を受けたのは、駐屯地に帰還して、檜垣三佐に独り先んじて帰還した事への事情説明を行い、探査中の合間合間に暇を見て伊丹が記した行動記録をベースに具体的な報告書を作成して……

 

 等といった諸々の事後処理を済ませ、ようやく手隙の時間を確保出来た頃であった。

 

 例によって診療施設は相変わらず閑古鳥が鳴いており、その為一度受付が済めば後はスムーズに問診から各検査を終えるまでの流れも極めてスムーズに行われる事となった。

 

 特地派遣部隊の診療施設は史上初の異世界での任務という性質上、対NBC戦を含むあらゆる状況下での治療を想定した様々な設備が置かれている。

 

 その中には主に悪所街の街娼を対象とした性感染症の調査、また伊丹達によって保護された望月紀子のように性的暴行を受けた他の拉致被害者に処置を行う場合に備え、産婦人科用の設備もまた含まれていた。担当の医官もまた専門医クラスの知識を持つ優秀な人物である。

 

 それでも栗林の診察を担当する事となった衛生科の女性医官は、驚きを隠せない様子で手元の問診票と患者用の丸椅子に座る栗林の間で視線を往復させるという反応を見せた。

 

 陸上自衛隊を中心に25000名もの人員が投入されている特地派遣部隊内において栗林は二等陸曹という比較的下位の階級にありながらかなり名の知れた有名人だ。

 

 そもそも特地派遣部隊において、栗林の診察を受け持つ衛生科の女医のようなアルヌス駐屯地の外に出る機会が殆ど無い後方要員ではない、最前線で活動する普通科(歩兵)所属の女性隊員そのものが限られている。

 

 しかも栗林志乃という女は入隊基準の150センチを下回る身長に反比例するかのような爆乳という特徴的な外見に加え、女だてらに格闘徽章を持つ猛者であり、おまけに()()伊丹が率いる偵察隊のメンバーともなればそれだけで注目の的であった。

 

 極めつけがインナーサークル残党に拉致されての処刑未遂生中継と脱柵を経ての炎龍退治である。

 

 日英露の情報公開により伊丹ばかりが目立っているが、実の所栗林もまた、今や派遣部隊どころか全国区クラスに名の知れた有名人なのだ(本人は殆ど自覚していないが)。

 

 そんな彼女がよりにもよって妊娠の有無を確認して欲しいとやって来たのである。関わった医官らが動揺と好奇心を抱いてしまったのも仕方あるまい。

 

 それはそれ、医官らもプロフェッショナルの端くれだ。意識を切り替え、問診を経て触診や機材を使った検査を行い、キビキビとチェックすべき項目をこなしていく。

 

 やがて検査の結果は――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへへへへへへ」

 

 

 診療施設を離れた栗林はふらりと足を延ばしてアルヌスの街にある行きつけの食堂を訪れていた。

 

 数ヶ月ぶりに訪れた、第3偵察隊時代からよく通っていた食堂は最後に訪れた時よりもより賑わいを増していた。

 

 そんな中で、栗林は上機嫌に笑みを浮かべてはジョッキを呷る、という行動を繰り返していた。

 

 ただしジョッキの中身は酒ではなく、柑橘類の果汁を水で割って蜂蜜で微調整したものだ。甘味よりも酸っぱさが強く、テーブルには酒のつまみではなくこれまたカットされた柑橘類が盛られた皿。

 

 

「あらクリじゃありませんの」

 

「おっ栗林二曹お久ーっす」

 

「1人で飲んでいるなんて珍しいな。というか伊丹隊長達と資源探査任務で帰還はまだ先じゃなかったんじゃないのか?」

 

 

 懐かしさを覚える声がかけられる。順番に黒川と倉田と富田、第3偵察隊当時の顔馴染みがあった。

 

 そのまま黒川は栗林の隣に、テーブルを挟んで反対側に倉田と富田が座り流れるように3人はビールをジョッキで注文。そのまま酒盛りに突入する。

 

 

「やっほー皆久しぶりー。元気にしてた?」

 

「ええ、ええ。伊丹隊長とクリが離れてからは桑原曹長の指揮の下で滞りなく日々の任務をこなしていましたわ」

 

「伊丹隊長の頃と比べるとおっかないのが玉に瑕っすけどね」

 

「倉田、それはお前が私語が多いせいだろ」

 

「そっかぁ。うん、皆無事ならそれはいい事よね」

 

「二曹の方は伊丹隊長にレレイちゃん達と一緒にずっと移動しながら資源探査任務したっけ。何か面白いの見つかりました? ドラゴン以外にファンタジーな種族とか、新たなケモ耳種族とか!」

 

 

 伊丹と同じオタクだが、どちらかといえば彼よりもアグレッシブなケモ耳スキーである倉田が鼻息荒く身を乗り出してくる。

 

 どうせウェアラブルカメラによる記録映像付きで報告書は提出済みだし、相手は気心の知れた同僚という事もあって、栗林の口も自然と軽くなった。

 

 

「んー、そーねぇ。私は直接遭遇しなかったんだけど、隊長とロゥリィとヤオが迷宮でコカトリスとミノタウロスと戦ったって言ってたわね」

 

「コカトリスにミノタウロス!? しかも迷宮で? まさかのダンジョンアタックっスか! 何その浪漫」

 

「あ、あと迷宮にはゾンビも出たらしいわよ」

 

「まさかのバ〇オ案件!?」

 

「生きた屍……こちら(特地)では実際に起こりえる現象という事ですか。中々興味深い症例ですわね」

 

「本当なら私も伊丹隊長と肩を並べてダンジョンアタックしたかったんだけど、レレイと一緒に風土病にかかっちゃってさぁ。危うく死にかけるどころか下手すると病気で死んだ後に蘇ってゾンビの仲間入りしてたかも……」

 

「無事に治って良かったな。いや冗談抜きで」

 

「病気が治ったのも結局は隊長達が迷宮で特効薬を見つけてきてくれたお陰なんだけどねー。風土病で苦しむ私を付きっきりで看病して励ましながら、薬を手に入れる為に危険な迷宮へ旅立つ隊長……カッコ良かったなぁ」

 

 

 そう語る栗林の脳裏に蘇るクレティ出発予定日前夜の情事の記憶。

 

 初体験がなし崩し的に男1人女5人の6P、それも女が主導で――思い出すだけで乙女のように恥じらうと同時に口元が勝手に緩んでしまう。

 

 傍から見たそんな栗林の姿は、アルヌスを離れる以前までの彼女には足りていなかった、男の本能を擽る甘い色香が醸し出されていて。

 

 

「ねぇ富田二曹、何か栗林二曹って前より色っぽくなった気がしません?」

 

「本人の前で何言ってるんだお前……確かに否定はしないが」

 

 

 思わず肩を組んでこしょこしょ囁き合う男2人。

 

 なお富田と倉田の会話は黒川の耳によってバッチリ拾われていた。野郎どもを白い目で見つつ、黒川は栗林に尋ねる。

 

 

「ではクリは罹患した風土病の検査を受けに帰還したという事でよろしいのかしら? 」

 

「ああいや今回先に戻ってきた理由はまた別口なの」

 

「んじゃあどんな理由なんすか?」

 

 

 倉田もそう尋ねつつ、ジョッキに口を付ける。富田と黒川もそれに倣う。

 

 栗林はあっさりと告白した。

 

 

「んー、私ね。子供が出来たの」

 

「「「ぶーっ!!!?」」」

 

 

 一斉に噴く3人。

 

 その様は8時に全員集合が合言葉な伝説のお笑い番組か、はたまた週末のお昼時に流れる新喜劇か。示し合わせたかのように揃って舞ったビールの毒霧がテーブルを汚した。

 

 あのクールビューティな黒川ですら口元を麦酒の残滓で汚した状態で固まってしまった辺り、元第3偵察隊メンバーを襲った衝撃の凄まじさが窺えた。

 

 

「……………………………………………………マジで?」

 

「マジもマジ、大マジよ。初期も初期だから超音波とかでもほとんど確認出来ないけど検査では陽性って言われたし、何より神様直々にお告げを受けちゃったもん」

 

 

 続けてベルナーゴで特地の正神であるハーディが降臨し、依り代として憑依したレレイの口を借りて栗林のお腹に子供がいると宣告された事も話した。本物の神様とまで遭遇したと知らされてこれまた驚く野郎2人。

 

 なおクレティ以降の旅路の合間に度々繰り広げられた肉欲の一時に関しては当然ながら報告書には書かれていない。

 

 だが診療施設に受診した以上、担当の医官経由で檜垣三佐以下幕僚らに探査任務中に伊丹と交わした行為と栗林の体の変化について知れ渡るのは時間の問題だろう。

 

 と、富田と倉田に遅れてフリーズから復帰した黒川が飲みかけのジョッキを静かにテーブルへと戻したかと思うと、いきなり栗林の両肩を掴んで体ごと相対させた。

 

 

「く、クロ?」

 

「……いては」

 

「ふぇ?」

 

「相手は、誰ですの?」

 

 

 血を吐くような声色での問いかけであった。

 

 

「誰って、伊丹隊長だけど……」

 

「あーやっぱりな」

 

 

 と漏らしたのは富田だ。

 

 大島空港での戦闘直後、銀座へ帰還するヘリ内で伊丹を押し倒そうとしていた姿を彼もその目で見ていたし、炎龍退治にも職務を放棄してまで伊丹に同行した事も派遣部隊内では広く知られていたので、大体察していたらしい。

 

 

「…………ふ、ふふふふふふフフフフフフ」

 

「ちょ、ちょっとクロ?」

 

「と、富田二曹。黒川二曹が怖いっす!」

 

「言うな倉田俺もだ」

 

 

 栗林の両肩を掴んで俯いた格好のまま不気味な笑い声を漏らし始める黒川。

 

 小柄爆乳ショートカットの相方とは対照的な、190センチ越えスレンダーな彼女が黒の長髪を前に垂らし、顔が隠れた状態で地の底から響くような発声を繰り返す様は、ホラー映画の怨霊が哀れな登場人物を毒牙にかける3秒前にしか見えない構図であった。

 

 実際周囲で酒盛りを楽しんでいた筈の客と応対に勤しんでいた店員らも、あまりにおどろおどろしい黒川の姿に引き攣った表情で逃げ出している。

 

 するとおもむろに黒川が立ち上がる。ビクッ! と更に距離を置く周囲。

 

 

「ちょっと隊長を去勢してきますね」

 

 

 それは殺意に満ち溢れたとてもとても美しい笑顔であった。

 

 

「ダメダメダメそれはダメー!」

 

 

 早足で立ち去ろうとする黒川の腰に栗林は慌てて抱き着き行かせまいとする。

 

 体格差は歴然だが鍛え方は栗林が格段に上だ。筋密度もさる事ながら各種格闘テクニックの応用で振り解かれ難くかつ相手の動きも封じる組み付き方にも熟練している彼女が本気になれば、体格を上回る男性隊員ですら対抗出来る者は限られる。

 

 何より相手は妊婦であった。無理矢理抵抗して万が一があれば――黒川は諦めて元の席に座り直した。

 

 

「……改めて聞き直しますが、お腹の子供の父親は本当に伊丹隊長なのですね?」

 

「だからそう言ってるじゃない。伊丹隊長以外に体を許した覚えも無いし、もし隊長以外の相手に襲われたら犯される前に睾丸を潰した上でそのまま引き千切って去勢してやるんだから」

 

「富田二曹聞いてるだけで股間が痛いっす」

 

「言うな倉田俺もだ」

 

 

 顔から血の気を引かせて股間を押さえる富田と倉田とその他周囲の男性客を横目に、黒川は深い深い溜息を吐いた。

 

 

「分かっていますのクリ。お腹の子に責任はありませんが、貴女と隊長はよりにもよって職務の真っ最中に不埒な関係を結んだ事になりますのよ。いくら隊長が英雄であろうとも間違いなく処分は免れないでしょうね」

 

「かもね。でも覚悟はしてるわ。だって好きになっちゃって我慢出来なかったんだもん」

 

「頭が砂糖漬けの小娘みたいな事を仰ってまったく……テュカにレレイ、ロゥリィにそれからヤオといいましたか、彼女達も貴女が懐妊した事は存じているのですよね」

 

「うん。皆も祝福してくれたし、テュカやレレイも羨ましがって自分達も子供が欲しいって隊長におねだりしてた」

 

「お待ちなさい、テュカとレレイが何ですって?」

 

「あ」

 

 

 笑ってない笑顔を貼り付けた黒川に尋問された栗林は、伊丹が女性陣公認で5股している事を正直に白状してしまった。

 

 そして彼女は再び殺気を漲らせて立ち上がった黒川をもう1度必死に止める羽目になった。

 

 

 

 

 

 ~少々お待ちください~

 

 

 

 

 

「皆で相談して決めた結果だから! 隊長も責任はちゃんと取るって言ってくれたから!」

 

「良いわけないでしょう! 一般常識の問題です!」

 

 

 ヒートアップする黒川抑え込む栗林。

 

 

「実際問題彼女達が隊長の事好いてたのは俺達の目から見ても明らかだったからなぁ」

 

「隊長……正直羨ましいっす隊長……!」

 

「お前だってペルシアさんが居るだろうが」

 

「それはそれこれはこれ男のロマンはまた別なんです!」

 

 

 最早我関せずとそっぽを向いてジョッキを呷る富田と羨ましげに唸り声を上げる倉田。黒川が怖いので矛先が向かないようにしているだけとも言う。

 

 

「そもそもクリもそのような不品行な関係を受け入れてどうしますの! 貴女も思う所はないのですか!?」

 

「だってレレイ達も隊長の事が好きだって分かってたし……あの子達だって死ぬかもしれないって理解してて、でも私と一緒で隊長に声をかけられなくても自分から炎龍退治に付いていった位なのよ? その時の場の空気に流されたのも否定出来ないけど、誰か1人に拘ってギクシャクしちゃうよりかは同意の上で皆まとめて隊長に受け入れて貰った方が幸せだと思ったし……」

 

 

 実際栗林の感覚では、伊丹やレレイ達との繋がりがこれまでよりも更に親密に―精神的にも、そして肉体的にも―なったと感じていた。

 

 

「ともかくデキちゃった以上は産むって決めたし、ちゃんと隊長も認知してくれてるからクロが心配しなくても大丈夫だって!」

 

「私が言いたいのはそういう事では――はあ。もういいです。分かりましたわ。クリと隊長の関係についてはもう何も言いません。隊長には探査任務から戻り次第直接お話(尋問)させて頂きますが」

 

 

 黒川の表情が不意にとても真剣な表情に切り替わる。

 

 

「最後にこれだけはお聞きしますわ――後悔はしていませんの?」

 

 

 鋭く細められた眼光と固く引き締められた口元が、誤魔化しや虚偽は許さないと言外に語っていた。

 

 だから栗林も黒川の視線を真っ向から受け止めながら、ありのままの本音を告げた。

 

 

「後悔はしてないよ。女としての悔いを残したまま死にたくないって思ったから、私は私の意志で隊長に抱いて貰ったんだから。

 だから私は絶対に後悔なんてするつもりはないし、したくない――それにさ。好きになった男性の子供を孕んで後悔するだなんて、隊長にもお腹の中のこの子にも失礼でしょ?」

 

 

 そう言い切った栗林の顔は、まぎれもない母親としての顔をしていて。

 

 

「……そうですわね。確かにクリの言う通りですわ。親に誕生を望まれぬ赤子ほど悲しいモノはありませんものね」

 

「流石にお腹に子供がいる間は隊長と一緒に任務に行けないのは残念だけどね」

 

「当然です。今は目立った自覚症状が無くとも今後胎児が育つにつれつわりや発熱といった症状が出てくるでしょう。そのような体で重い銃を抱え、各種携行品を詰め込んだ辟易する程嵩張る防弾チョッキで赤子が居るお腹を締め付けた状態で不衛生かつ何が起きるか分からない前線に赴くなど愚かの極みと言えますわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはそれとして、まともな医療設備の『い』の字もない僻地への遠征任務の真っ最中に未成年を含めた複数の女性と肉体関係を結んだ自制の効かないお猿さんもかくやな指揮官と、そのお猿さんとの間にデキちゃった事を理由に任務を途中で離脱した発情期の犬そっくりに盛りのついた女性自衛官がいるそうなので・す・が!

 ……弁解はございますか?」

 

「イイエアリマセン……」

 

 

 

 

「富田二曹、黒川二曹がマジ怖いっす。あの栗林二曹が子犬みたいに縮こまって震えてますよ」

 

「言うな倉田下手に触れるとこっちまで巻き込まれるぞ」

 

「そういえば禁令を破って現地の御令嬢と逢瀬を重ねられていた殿方もおられましたわね。ねぇ富田二曹?」

 

「ギクッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『赤ん坊とは、世界は滅んではならないとする神の見解だ』 ――カール・サンドバーグ

 

 

 




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