GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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神を撃ち落としていたら遅くなりました。
とりあえずTS褐色俺っ娘神霊ランサーを当カルデアにお迎えできたので彼女には焼き立てクロワッサンご馳走されながら所長とイチャイチャする仕事について貰う所存です()

とりあえず最終決戦前の伏線回その2。
また微妙な感じに長くなったので区切ります。


15.7:Confidential Agreement/異郷の旧友

 

 

<3日前/11:30>

 ジョン・プライス 在特地・英国特別観戦武官

 ファルマート大陸・アルヌスの丘/自衛隊駐屯地

 

 

 

 

 

 

 

『こうして話すのはお前が二ホン入りする前以来になるな、ドラゴンスレイヤー?』

 

 

 20年以上前にプリピャチの地で文字通りプライスと共に這いずり回ったかつての上官にして現MI6(英国秘密情報部)長官であるマクミランは、ビデオ通話アプリ越しにプライスの髭面を見るやニヤニヤと笑みを浮かべながら、開口一番におとぎ話にしか出てこないような称号でもってプライスを揶揄った。

 

 一方言われた側のプライスは「フン」と鼻を鳴らして腕組みをしながら背もたれに体を預け、口元の葉巻を揺らす。

 

 立場で言えば情報機関の主にまで上り詰めたマクミランの方がはるかに上であるにもかかわらずふてぶてしい態度を崩さないプライスに、しかしマクミランは気を害した様子も無く、それどころか彼らしいと言わんばかりに愉快気な笑みをより深めるばかり。

 

 そこにはかつての階級も今のお互いの地位も意味を成さない、対等な戦友として顔を合わせる男達が居た。

 

 

「ご生憎だが鳥の言葉が理解出来るようにもなってはいないし不死身にもなった覚えも無いぞ」

 

 

 プライスは口から紫煙を吐き出しながら、北欧とゲルマン神話に登場する邪竜ファフニールを討ち取ったジークフリートが得た異能を引き合いに出した。

 

 もっとも不死身の肉体に関しては、亜神という肉体を持つ本物の神という形で実際に存在するのだがそれはともかく。

 

 

『なら安心したとも。もしお前がジークフリートと同じ力を手に入れていたのなら、俺はお前を特地に置くよりもさっさと帰国させて研究所送りにするよう首相に提言しなければならなかったところだ』

 

「下手な冗談を言う為だけにわざわざ連絡してきたのか?」

 

『悪かったよ。早速本題に入るとしよう』

 

 

 口ではそう言いつつも表情は破顔したままMI6長官は特地特別観戦武官(非公式)に本題を告げる。

 

 

『お前が今居る特地に各国から報道陣と視察団が入るのは聞いてるな?』

 

「くだらない観光旅行の団体様だ。それがどうした」

 

『そのくだらない観光旅行の団体に俺も含まれている事を知らせておきたくてな。今は日本の英国大使館に居る』

 

 

 プライスの両の眉根が狭まり、姿勢を正した元SAS大尉は葉巻をノート型PCの隣に置いていた灰皿へ移すと訝しげに唸り声を漏らした。

 

 

「スパイの親玉がテムズ川の穴倉からはるばる極東の島国に? それはまた大層な事だな。ダウニング街の偉い共の御機嫌でも損ねでもしたのか?」

 

『安心しろ、お前とその戦友達のお陰で首相からはそれなりに気に入ってもらえててな。もうしばらくは空調の効いたオフィスから追い出されずに済みそうだ。

 秘密協定を結んでいる者同士、視察団の派遣にかこつけて代表者が顔を合わせての話し合いの機会を改めて持とうという話になってな。英国側の代表役も兼ねて視察団に押し込まれたというわけだ』

 

 

 対外的にはイギリス陸軍から送り込まれた武官として視察団に加わる予定だという。

 

 MI6入りしてからはスーツばかりだったから陸軍の軍服(No2ドレス)に袖を通すのも久しぶりだと、マクミランは懐古的に笑った。

 

 

『出来れば直接会って酒を片手に思い出話に花を咲かせたいところだが、お前は本来異世界に居ない事になっている存在だ。それはまた次の機会に取っておくとしよう』

 

「……そうだな。生き延びた年寄り同士、昔のように古い話に花を咲かせるとするか」

 

『ああ。昔のように、な』

 

 

 

 

 ――彼らの願いは別の形で成就される事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<1日前/13:45>

 ユーリ スペツナズ《一時復帰》/米露情報機関合同非公式統合任務部隊(タスクフォース)

 中華人民共和国・某港湾区域

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずGRUのペーパーカンパニーが所有するプライベートジェットに乗って目的地近郊の国際空港へとひとっ飛び。

 

 到着したら偽の所属と偽の名前が登録されてはいるが効力自体は本物の外交特権付きIDを振りかざして入国検査と手荷物検査を無審査で通過する。

 

 鉄と合金と強化樹脂に無煙火薬で構成された危険なおもちゃに軍用爆薬、アラミド繊維とセラミックプレートを用いた現代の鎧等々といった真っ当な空港職員が見たら卒倒しかねない中身でパンパンの手荷物を、現地で待機済みのエージェントが用意した車両に押し込んだらいざ目的地へ。

 

 持ってきた装備は移動中の車内で身に着ける。

 

勿論車は外交官ナンバーだから完全武装の兵士を満載していようが警察に停められる心配もしなくていい。

 

 

(真っ当な支援を受けられるありがたみがよく分かるな)

 

 

 ユーリは街中に設置された監視カメラを筆頭とする撮影機器を妨害する特殊な処理が施されたスモークガラス越しに異国の街並みを眺めながらしみじみと感じ入った。

 

 ザカエフ、そしてマカロフと袂を分かつ前のインナーサークル時代は国家発行のパスポートとビザを携えた観光客のようにとはいかないが、豊富な資金力と強固だが後ろ暗いコネクションを活用してピカピカではないが空調とクッションはまともな車でのドライブを楽しむ事はまだ許された。

 

 マカロフと袂を分かった以降は贅沢な旅から一転、大国だの国際的反政府組織だのといった大手からのバックアップが受けられない情勢によって金無し・資材無し・宿無しどころか国際指名手配されているので身分も無しの四重苦に見舞われ……

 

 期間的には半年に過ぎないものの、その間の移動環境の酷さには筆舌に尽くしがたいものがあった。

 

 中古ならぬ密輸された盗難車で散々乱暴に使い回されても、民生品でありながら砂漠だろうが雪原だろうが山岳地帯だろうが走破してみせる優秀な性能の(そのせいで各国の軍隊からもテロリストからも愛用される)日本車を調達出来たならまだしも。

 

 質実剛健の代償に乗り心地の悪さに定評のある旧ソ連時代の、それこそユーリより年上でもおかしくなさそうな代物しか拾えなかった日には、些細な路面のギャップだろうが通り抜ける度に尻を強烈に蹴り上げられるような目に1日中遭い続けるとあって、我が故国の製品ながら辟易とさせられたものだ。

 

 いや、自前の乗り物が手に入ればまだ上等な方である。

 

 時には国境越えの為に密輸業者が用意した手段として、家畜を満載したトラックや列車に否応無く乗り込まなければいけなかった事もあり……

 

 その時はアフリカ大陸特有の熱気とクソをひり出す家畜の臭気でむせ返る荷台の中でソープが散々悪態を、伊丹は泣き言を、あのプライスですら後半になると短くもハッキリと怨嗟の声を吐き捨てていた程度には、悪夢のような体験だった。

 

 ニコライだけは、資金と装備調達の為の別行動名目で文字通りのクソ溜めよりずっと快適な別ルートを利用していたのだが。

 

 アフガン帰りの元スパイには散々助けられたとはいえ、あの時ばかりは恨めしく思ったものである。

 

 

「どうしたんだユーリ。ボーっとして」

 

 

 独り回顧していると、同乗していたアレックスが怪訝そうに声をかけた。

 

 

「何でもない。ちょっと思い出に浸っていただけさ」

 

「もうすぐ目的地だ。準備はいいか?」

 

 

 運転手が振り替える事無く乗客のユーリ達へ告げた。

 

 CIAとGRUの秘密部隊を運ぶ車列は中国有数の巨大港湾施設の敷地内へと入り込んでいた。

 

 巨大なコンテナが見渡す限り規則的な間隔で何段も山積みになっている光景は、まるで巨人が積み木で拵えた街並みに迷い込んだかのような錯覚を抱かせる。

 

 遥か彼方に見える埠頭に目を凝らしてみると、大型コンテナを貨物船へ乗せる為のデリッククレーン(ユーリは日本の宗教施設で見かけた鳥居を思い出した)と、海の向こう側から運んできた積み荷を次々と下ろしている真っ最中のコンテナ船や数千台の自動車を船内に収める事が可能な自動車運搬船といった、下手なビルよりも巨大な停泊中の貨物船の姿が確認できた。

 

 時刻は真昼間だが、敷地が広大なのと港で働いている者達は基本的に積み荷の載せ降ろしが頻繁に行われる埠頭周辺で作業するので、使われない空きコンテナが集められている区画等は日が高い時間帯でも人気は感じられない。

 

 だが現在目指している一画に人が寄り付かない真の理由が現地に配備された中国人民解放軍によって借り上げられ、港湾関係者の立ち入りが禁じられている一種の隔離地帯だからであるという事をユーリ達は知っていた。

 

 

 

 

 

 

 カストビアの化学兵器工場で入手した手掛かりを元に姿を消したバルコフと彼が所有する新型化学兵器の追跡を開始して早2ヶ月近く。

 

 お互いの()()を駆使しながらバルコフ達の痕跡を辿って中国と近隣諸国を転々としてきたCIA(アメリカ)GRU(ロシア)の工作員がようやく辿り着いたのがこの港湾区域であった。

 

 一旦目星を付けて重点的に調査してみれば出るわ出るわ、不自然な数の西洋人が陸路空路海路を駆使して港湾区域近隣の都市へ訪れている事が判明。

 

 様々な偽名と国籍が記載されたパスポートの顔写真を片っ端から照合にかけた結果、バルコフ隷下の部隊を筆頭にWW3終結直後行方を眩ませた講和反対派のロシア兵のデータと一致したのである。

 

 また同時期にこれまた不自然な数の()()()()()()()()が輸出品の名目で港内へ運び込まれているのも発覚している。

 

 それらの搬入を許可したのは港湾関係者ではなく、現地配備された人民解放軍の幹部だった。

 

 只の幹部ではない。人口13億もの大国を支配する中国共産党、その最高機関である中央軍事委員会幹部の腹心を勤める大物だ。

 

 かなり強引に横紙破りを行ったらしくそのせいか偽装も杜撰で、シギント(電子的情報工作)担当の分析官が少し調べただけで港湾側の責任者を怒鳴りつけて無理矢理許可を取った際の通信記録がすぐに見つかったのである。

 

 要注意人物として本格的に件の人民解放軍幹部の調査を行ったところ、本人直々に中国軍基地ともほど近い例の港湾地域に出向くという情報も察知。

 

 だが電子的情報網で掴めた手がかりはそこまでであった。

 

 分析官はバルコフ率いるロシア軍脱走兵と彼らに協力する中国側勢力と何らかの会合が行われると推測。

 

 ここから先はより直接的な手段でなければ重要な情報は手に入らない――

 

 米露の責任者は実働要員、すなわちユーリとアレックスらの派遣を決定。

 

 今回の目的は会合内容の傍受と情報回収、接触予定と目されるバルコフ側の人間と解放軍幹部の拉致ならびに尋問だ。

 

 アメリカとロシアの工作員が人民解放軍の大物を攫おうというのだから関与の証拠は当然何一つ残せない。

 

 小細工の一環として今回用意した銃器が中国製なのもその1つ。

 

 CQ-A。アメリカで開発されたM4・アサルトライフルをノリンコ―正式名称は中国兵器工業集団、ひと昔前の日本裏社会で黒星拳銃やギンダラと呼ばれ流通したトカレフの中国製コピーを量産していた―

 

 中国最大の国有兵器メーカーがコピー生産した代物だが、技術の蓄積と設備の近代化に伴い製品そのものの質が向上したのもあって実際のポテンシャルは馬鹿に出来ない。オリジナルのM4より低価格なのも相まって他国の軍・警察に採用される程度の性能を有している。

 

 低倍率の光学照準器(ドットサイト)とサイレンサーを取り付けた特殊戦カスタムが今回のユーリのメインアームだ。アレックスも同様である。

 

 ユーリ以外のロシア組は旧ソ時代から連綿と受け継がれてきたAK47のコピーである56式を、アメリカ組は指揮官と同じCQ-A以外にもNR-08、ドイツのMP5サブマシンガンのコピー品で武装。勿論どの銃もサイレンサー装着済み。

 

 当然銃以外にも手榴弾、爆薬、工事道具じみたブリーチングツールといった装備も忘れていない。

 

 

「グラズ。タチャンカと所定の狙撃位置に」

 

 

 車列が減速した。後ろを走っていた車両から狙撃担当のグラズと観測手(スポッター)の役目を与えられたタチャンカが、長大な荷物を背負っているとは思えない機敏な動きで車から飛び出し、コンテナとコンテナの間へ滑り込んですぐ見えなくなった。

 

 ロシア人の両名には今回狙撃による援護のみならず遠方から会合内容を記録するという重要な役割が任されている。

 

 長大な荷物の中身は監視用機材とグラズにはやはりノリンコ製のコピー版ドラグノフ狙撃ライフル、タチャンカは軽機関銃でいざという時の火力支援も担当。

 

 ユーリとアレックスを含む残りのメンバーを乗せた車はほんの僅かな時間走り続けた後、コンテナの陰に隠れるようにして停車した。ここから先は徒歩での接近となる。

 

 

「ドローンを出すぞ」

 

 

 専用ケースから取り出したドローンを地面に置くと、専用の情報端末から操縦システムを呼び出したフィンカの操作を受けて強化プラスチック製の羽を持つ機械仕掛けの蜂が目を覚ます。

 

 静音処理と空に最も溶け込み易い青みがかった灰色の迷彩塗装を施された小型のクッションサイズのドローンがあっという間に高度を上げてしまえば、そこにドローンがあると認識した上でよくよく注意しないと肉眼で判別するのはかなり難しい。

 

 

「フィンカはこのまま残って上空からの管制を頼んだ」

 

「それでは諸君、仕事の時間といこうか」

 

 

 訓練と実践を重ねてきた男達が動き出す。

 

 

 

 

 

 

「作戦会議でも言ったがこの港は中国海軍の基地にも隣接している。連中が出てきたら厄介だから派手な展開にならないよう静粛に任務をこなすんだぞ」

 

「派手好きなのはお前らアメリカ人の方だろう。いざって時の為に爆装した無人機の1つぐらい飛ばしていたりはしないのか?」

 

「残念だがフライトプランが許可されなかったんだ」

 

 

 軽口を交わしながらも、完全武装で各々が示し合わせたように別々の方角を警戒し、互いを援護し合いながら音も無く動く彼らの姿は、本来別々の国の組織でもしかすると殺し合いすらしていたかもしれない立場だったとは到底思えない。

 

 1個の生物かと錯覚する程のチームワークでコンテナの迷宮を足早に進むロシア人とアメリカ人の混成部隊の足を止めたのは、空からの目(ドローン)を操るフィンカからの警告だ。

 

 

『前方に歩哨が2名。武装している』

 

「待て……こちらも確認した。ありゃ中国軍じゃないな」

 

 

 アレックスの言う通り、港湾施設職員の作業着を着た2人組は明らかに中国軍のそれからかけ離れていた。肩から提げるアサルトライフルは中国軍の採用品でもないしそもそもどちらも白人の大男だ。偽装したバルコフ派兵士に違いない。

 

 

「あれなら排除して大丈夫だ。俺は左をやるからフロストは右を頼む。3、2、1――」

 

 

 短い瞬きのような銃声が2度生じ、2つの命が瞬時に散った。

 

 死体を物陰に引きずり込んで証拠隠滅。地面に散った血痕も足で砂を被せてしまえばオイル染みか辺りと見分けがつかなくなる。

 

 

「ロシア軍に居た癖に西側の装備を使ってやがる」

 

「ザカエフが生きてた頃から超国家主義派の連中は兵器についてはこだわりが無かったからな。性能が良ければ遠慮なく西側の兵器も仕入れてたものさ」

 

 

 ロシア軍部内にも協力者が多かった都合上Mi-28(ハボック戦闘ヘリ)だのBTR(歩兵戦闘車)だののような大型兵器はロシア製が主体だったが、歩兵単位の武器に関しては西側製武器も大量に揃えていた事をユーリは思い返す。

 

 中でも現役のスティンガーSAM(携行式対空ミサイル)やジャベリン対戦車ミサイルといった1発云十万ドルもする代物ですら複数調達出来ていたのだから、今更ながらザカエフとマカロフの金満っぷりと調達ルートに驚くやら呆れるやらのユーリであった。

 

 

『そのまま100メートル前進すれば目標の建物が見えてくる筈よ』

 

 

 言葉通りにコンテナの回廊を進み続けると、積み上げられた10メートル規模の長方形の壁に囲まれるように佇む横広の4階建ての建物が見えてきた。同一デザインのそんな建造物が何棟も横並びに設けられている。

 

 かつてこの港湾が誕生した当初から最低でも数百名、最盛期には1000名オーバーもの昼夜問わず働く港湾作業員用の宿舎として利用されてきた。港湾地域の拡大と老朽化に伴い廃棄され、解体もされず放置された建物の外壁はそこかしこで崩れ、一見廃墟にしか見えない。

 

 だがよく観察してみれば大部分の窓ガラスは無事だし、その奥でちらつく人影は歩哨同様明らかに武装していた。他にもパソコンや無線設備を操作している者の姿も確認出来る。

 

 放棄は表向きの事で電気も無事なこの建物を武装した何者かが今も使用しているのは明らかだ。

 

 幸いなのは最盛期とは違い人が活動している気配が見られるのは正面入り口に真新しい車が停車している棟のみである点か。

 

 いかにも高級なリムジンクラスの車両には国の権力者専用である事を誇示するかの如く人民解放軍の小さな旗がはためいていた。

 

 

「グラズ。そこから目標の建物が見えるか。送迎用の車が入り口に停まっている建物だ」

 

『こちらは既に射界を確保して建物を監視している』

 

「そこから会合を行う部屋を見つける事は可能か?」

 

『少し待ってくれ……ここは違う。この部屋も違う……見つけた。最上階、正面入り口の真上の部屋だ』

 

『こちらもドローンで確認するわ――――記録と顔写真が一致。目的の解放軍幹部に間違いないわ』

 

「よしグラズ、盗み聞きの時間だ」

 

『了解。傍受装置を作動する』

 

 

 カチャカチャとセッティングした機材を操作する音。

 

 数秒の間を置いて、部屋の窓や物体にレーザー光線を照射し跳ね返ってきた光線の微妙な変化を解析する事で音声を読み取るレーザー式盗聴器が正常にその機能を発揮した。

 

 

『傍受成功。どうも様子がおかしい。言い争っているようだ』

 

「こちらエコー3-1(アレックス)だ。中のやり取りをこちらにも聞こえるようにできるか?」

 

『了解。音量を予め下げておく事を勧めておくぞ』

 

 

 途端甲高い喚き声に鼓膜をブン殴られたものだから、ユーリとアレックスは顔を顰めながら慌てて無線機の音量ダイヤルを縮小方向へ回す羽目になった。

 

 落ち着いて耳を傾け直す。互いの意思疎通のし易さを考慮してか英語でのやりとりだった。中国訛りの英語が激しい口調で捲くし立て、冷たいロシア訛りの英語が中国訛りの言い分をにべもなく両断するといった具合だ。

 

 

『約束が違うではないか! 今回の取引を最後に金とそちらが握っている情報を全て我々に引き渡す、そういう取り決めだった筈だ!』

 

『手間賃は支払う。しかし情報を引き渡すのは我々の全ての部隊が目的地に到着してからだ。本隊が無事到着したとの報告が来るまで引き渡しは一切応じない』

 

「建物内に入るぞ」

 

『この負け犬の大鼻子(クソロシア人)どもが! この期に及んで未だ我々に集るつもりか!?』

 

「右の部屋に2名」

 

 

 短連射2回。

 

 

「お昼寝の時間だ」

 

『我々がどれだけ敗残兵の貴様らの為に危ない橋を渡ってきたと思っている! 狂った指導者に唆されて世界を燃やした挙句、戦争に負けた事を受け入れず祖国からも追い出されたバルコフや貴様達を受け入れてやった恩を忘れたのか!?』

 

『どうやら誤解があるようだが、我々とバルコフ閣下は追い出されたのではない。ザカエフの後継者が消え去った今の祖国から失われた大義を貫く為に自ら国を捨てたのだ』

 

「階段へ向かう」

 

「歩哨を確認。フロスト、排除しろ」

 

 

 キルスコア2名追加。老朽化した階段をゆっくりと踏みしめて上る。

 

 

『かく言う貴様らはどうだ? その場の金欲しさに我々に手を貸した貴様達もまた世界を燃やした共犯だろうに』

 

「何だと?」

 

『もう片方の音声照合が完了。バルコフ大将の参謀、こちらも脱走兵として軍のデータに記録されている人間よ』

 

 

 生中継を聞きながら建物内の掃討を行っているとフィンカからの解析報告が割り込んできた。

 

 

『あれは……あくまで現地責任者が勝手に……』

 

『だがそれも元はと言えば利権と権力を求めてアフリカの国々を金に飽かせて買収した貴様らの責任だ。違うか?』

 

『…………』

 

『忘れたのならば改めて教えてやろう。

 資源欲しさにアフリカへ進出した貴様達が現地に作ったのは石油や鉱物の採掘施設()()()()()()。腐敗した現地の高官どもを買収した貴様達は密約の下で何を生み出し、その結果何を招いたのか――我々は全て知っているのだ』

 

『ぐっ……!』

 

 

 歯噛みする様が目に浮かぶような中国人の呻き。

 

 

『誤解しないでもらいたいが、我々はあくまで順番に済ませようと言っているのであって取引を反故にするつもりはないと理解して貰いたい。

 これまでの手間分の代金は見ての通り十分用意してある。遠慮しないで良いとも、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……?」

 

 

 肉体は半自動モードで捜索と掃討を行いつつ、意識はバルコフの参謀と解放軍幹部のやり取りに耳を傾けていたアレックスとユーリはロシア人の発言に違和感を覚えた。

 

 

『…………本当に、証拠のデータは渡してくれるのだな?』

 

『勿論だ。そちらにバルコフ大将の望みを叶えてもらうのもこれで最後になる。貴様もそれが望みなのだろう』

 

 

 ユーリ達も最上階に到達。

 

 剣呑だった会合の方も何だかんだで破局を迎えず終幕の様子だ。階段から目標が居る部屋の前までもう歩哨の姿もない。

 

 

 

 

 

 兵士達は足早に、しかし気配を悟られぬようそっと部屋の前まで忍び寄り――――

 

 

 

 

 

 

 

 

『権力欲は強さでなく弱さに根ざしている』 ――エーリヒ・フロム

 




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