GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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源文先生オメガ7の続刊まだですか?(挨拶)

今話からMWシリーズの東海岸とヨーロッパみたいな事になっていきます。


17:Pale Horse Coming/レイド・オン・トーキョー

 

 

 

<18時間前>

 防衛省

 新宿区・防衛省市ヶ谷地区

 

 

 

 

 

 

 

 陸・海・空の自衛隊を統括する防衛省は、本省庁舎の所在地が他の各省庁が集まる霞が関から若干外れたその地名から単に『市ヶ谷』と内外から呼称されてきた。

 

 市ヶ谷とはすなわち3つの自衛隊の中枢でもある。各隊の幕僚監部とそれらを1つにまとめて統べる統合幕僚監部もここに集約されている。

 

 他の省庁よりも幅広い分野と定員を有し―外務省で6000人強、財務省で7万人、防衛省で26万人、警察庁は都道府県警合わせて25万強―

 

 かつ日本という国の護りの中枢とあって、防衛省は省庁舎と付随する関係施設の規模も特性も一線を画していた。

 

 まず敷地内にはAからFまで複数の庁舎が存在している。特にA棟からD棟の4つに防衛省の要たる部署が居を構えていた。

 

 陸・海・空と統合幕僚含む各幕僚監部と防衛大臣が陣を張るA棟。B棟は各自衛隊の通信関係部隊が使用する通信局舎として利用され200メートルを超える電波塔が衆目を引く。

 

 C棟は情報本部、D棟は防衛省外局の装備庁と監察本部など、防衛省を構成するあらゆる分野のトップが市ヶ谷に集結しているといっても過言ではない。それもあり一般的な自衛官(制服組)よりも遥かに高い地位への栄達を約束されたキャリア組(背広組)の大半が市ヶ谷に勤めている。

 

 他にも特筆すべきは都心の省庁舎で唯一高射砲部隊が敷地内に配備されている点か。

 

 市ヶ谷に対し敵航空戦力による攻撃が行われた場合はパトリオットミサイルを実装した空自の第1高射群が速やかに迎撃を行う手筈だ。

 

 また敵の陸上戦力に対しては小銃で武装した自衛隊員の他、敷地内に極秘に設けられた地下トンネルから機甲部隊が出撃して厳重な防衛線を敷く……とまことしやかに囁かれているが、そこら辺の真偽は明らかにされていない。

 

 

 

 

 

 

 結果から先に述べると、市ヶ谷は敵部隊の奇襲によって壊滅した。

 

 

 

 

 

 

 敵は都営新宿線上沿いに正門前を横切って走る靖国通りから堂々と現れた。

 

 靖国通りの上り車線から走行してきた3台の車両がゆっくりと速度を落としながら路肩に寄り、防衛省正門前の交差点で揃って停車した。

 

 1台は宅配便業者のロゴが描かれた一見変哲もない箱型の小型トラック。1台は都心ではあまり見かけない大型の四角張ったオフロード車。きっと海外の車種だと警備員はぼんやり思った。

 

 最後は平台に覆いをかけた資材か建設用重機か何かを積んだ4トントラックだ。積み下ろし時用の固定用か車体後部にジャッキが追加装備されたトラックがオフロード車より若干の間隔を置いてやはり停車してしまう。

 

 移動式の車止めが並べられた正門に配置されている警備要員は自衛隊員だけでなく、民間の警備員も採用されていた。今日は各国視察団の『門』入りに関連して観光客やマニア相手の防衛省見学ツアーも休止になっており、どちらかといえば普段よりも暇な時間を彼らは過ごしていた。

 

 国の重要施設に配置されるだけに訓練も経験も積んだ人材が送り込まれているとはいえ、如何せん民間人の範疇に過ぎない彼らが軍事分野の専門知識に明るい筈もなく。

 

 共に警備に就いていた自衛隊員も、普段から通行量が多いこの通りでは車が路肩で一時停車するのも珍しくなかったのもあってすぐに意識から外してしまった。

 

 だからオフロード車が民間モデルに偽装したGAZ-2330・ティーグル装甲車の派生型である事も、4トントラックの積荷のシルエットの違和感も見落としてしまった。

 

 異変を察知したのは上り側の歩道にいた通行人がキョトンと、もしくはギョッとした表情になって何人も立ち止まったのに気付いてからだった。

 

 小型トラックの車体の陰から異様な人影が現れる。

 

 全身をややダボっとした光沢のあるスーツで纏い、ガスマスクも装着して一部の隙もなく素肌を覆い隠している。更にその上から戦闘用ベストを着用した人物は片膝を突くと、右肩に筒状の物体を乗せて一回り太い先端部分を正門へと向けた。

 

 人影が対化学戦仕様の武装した兵士であり、RPG-7・ロケットランチャーの標的にされていると警備員が理解した時には手遅れだった。

 

 発射器の後端から高温のバックブラストが噴出。弾頭がほんの数車線分しか離れていない正門に隣接する来客者用の受付兼警備詰め所へと突き刺さった。

 

 弾頭先端の信管が作動し、爆発を起こす。

 

 RPG-7は外付け式の装填方式から複数種の弾頭が発射可能という利点を持つ。

 

 防衛省正門に撃ち込まれたのは奇しくも現在同じタイミングで銀座駐屯地を襲撃した改造ドローンの搭載火器と同じサーモバリック弾だった。この弾頭は高熱だけでなく強烈な爆圧を発生させる仕組みから、上手く建物内に叩き込む事で人体どころか建造物も効果的に甚大な被害を齎せる。

 

 正門が詰め所内の人員ごと文字通り吹き飛んだ。爆風と飛散した瓦礫が歩哨を根こそぎ薙ぎ払い、詰め所が土台から崩落した事で支えを失った正門ゲートにかかる屋根もまた落下し、一瞬にして正門は瓦礫の山によって封鎖されてしまう。

 

 ロケットランチャーを撃ち込んだ男には特に問題はない。防衛省内部への突入は最初から予定していない。むしろ敷地内の警備部隊が騒ぎを聞きつけて出撃してきても瓦礫が良い足止めになってくれて好都合だ。

 

 役目を終えた発射器を足元に転がすと兵士は背負っていた近代型のAK47・アサルトライフルを手に周辺警戒を行う。

 

 同じ化学防護服姿の仲間が次々と小型トラックを降りてある者はやはり周辺警戒に就き、ある者は中型トラックに取り付いて積荷の覆いを剥がしに掛かった。

 

 

 

 

 前後をトラックに挟まれたティーグルにも変化が起きていた。車体の屋根が2ヶ所、ゆっくりと上方向へと持ち上がる。

 

 1ヶ所につきのっぺりと塗装されたRPG-7の発射器よりも一回り太い筒が縦横2本ずつ計4本、その根元にいくつものレンズを備えた機材とセットになったハードポイントが車体内から出現した。

 

 この格納式ハードポイントに8発の対戦車ミサイルと遠隔操作式発射システムを搭載したティーグルは運用するミサイルのコードネームからコルネットEMの名を与えられていた。

 

 助手席の制御システムからの命令に従いハードポイントが旋回。照準器のレンズが捉えたのは庁舎B棟、その通信塔。

 

 通信塔の根元にロックオン。今時のミサイルは歩兵携行型でも撃ちっ(ファイア)放し(・アンド・)機能(フォーゲット)が標準装備だ。後はミサイルが目標めがけて勝手に誘導してくれる。

 

 立て続けにまず2発の対戦車ミサイルが発射された。RPG-7よりも大型でありながら技術の進歩と洗練された設計により、発射音もバックブラストも一瞬だけ生じて一瞬で消える工夫が施されている。生まれて半世紀経つ、発射の度に派手な煙を撒き散らすロケット砲と比べると大人しいぐらいだ。

 

 反対にその威力はやはり技術と設計の進歩、何より弾頭そのものが大型なのもあって格段に上回っている。

 

 やはり技術の発展によって装甲強度を高めた現代の装甲車に対抗して開発されたRPG-7用タンデムHEAT(成形炸薬)弾の貫通力が鋼板相当で最大750ミリ。

 

 陸上自衛隊の特地派遣部隊が関係者から空飛ぶ戦車と評された炎龍の撃退に使用した110mm個人携帯対戦車(パンツァーファウスト)(3)がブロープ伸長時の対戦車榴弾モードで700ミリ。

 

 そしてコルネットEMの貫通力は1300ミリにも達する。

 

 戦車のような装甲板も爆発反応装甲(リアクティブアーマー)もアクティブ防護システムも備えていない、単に頑丈な鉄骨とケーブルで構築された鉄塔などひとたまりもなかった。

 

 モンロー・ノイマン効果が生み出したメタルジェットが鉄骨を穿つのみならず、鉄塔の中心を通る何本もの極太のケーブルを破断させた。

 

 同時に数キロ分の高性能爆薬と殆ど消費されなかった固体燃料ロケットが組み合わさり、周囲の鉄骨を強烈な爆圧でもってひしゃげさせる。土台のコンクリすら爆散した電波塔はたった2発のミサイルによって目に見えて傾ぐ。

 

 助手席に座る射手はもう2発、ミサイルを発射した。

 

 それがとどめになった。自重を支えきれなくなった200メートルを超す電波塔が根元から完全にへし折れた。

 

 不運にも倒れた先には隣接する庁舎C棟が位置していた。高層ビルに匹敵する長さと相応の質量を秘めた鉄塔による一撃を食らったC棟の屋根と最上階はマッチ箱を積み上げて作った紙の家よろしく押し潰された。

 

 これにより各地を結ぶ自衛隊の通信ネットワークは大幅にその能力の低下を余儀なくされたのである。

 

 また同時刻、霞が関の警視庁本部庁舎の電波塔も同様の攻撃を受け破壊された。

 

 襲った側にとっては通信塔の破壊も目的のひとつだが、真打の出番はここからだ。

 

 4トントラックの荷台に取り付いた兵士が荷台の覆いを引っぺがした。偽装の下から出現したのは建築用の重機でも資材でもない。

 

 コルネットEMの発射装置よりもシンプルかつ大型の筒が何本も並んだ状態で大型の旋回装置と共に平積みの荷台に固定されたそれは、BM-21と呼ばれる多連装ロケットランチャーだった。

 

 RPG-7のような歩兵携行型とは桁が違う。使用する122ミリロケット弾だけでも全長は軽く2メートルを超え、重量は50キロにも達する。最早火を噴いて飛ぶ巨大な槍というよりも柱そのものにしか見えないそれを射出する為の発射器も、車両に搭載しての運用を前提としたサイズだ。

 

 バルコフ配下の兵が運用するこのBM-21は独自の改修として、射撃担当がティーグル搭載型コルネット対戦車ミサイル同様に発射のみならず砲塔を操作しての照準も助手席から可能なシステムを搭載していた。

 

 弾頭全体の大型化により対装甲貫通力はともかく、弾頭そのものの破壊力と射程もコルネット対戦車ミサイルを上回る。発射可能な弾頭も単なる榴弾からクラスター弾頭に照明弾と豊富だ。

 

 その中には化学兵器弾頭も含まれている。

 

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 トラックの運転席に陣取るドライバーが一旦車体をバックさせながらハンドルを切り、ロケット砲台を積んだ荷台が上り車線を塞ぐ形になるよう位置調整する。ロケット砲と車両の配置上車体がまっすぐのままでは運転席が射線に重なって邪魔になってしまう。荷台を横向きにしてやればロケット砲はより広く市ヶ谷地区を射界に収める事が出来る。

 

 ジャッキが下ろされてアスファルトへめり込むほどに強く押し付けられる。これにより発射時の反動を受け止めて車体を安定させるのだ。

 

 空挺部隊向けの12連装発射器がゆっくりと旋回、縦2列横6列に配置された砲口が無防備な防衛省庁舎へと据えられた。

 

 その頃には押っ取り刀で自動小銃を手に敷地内の警備部隊が73式小型トラックで正門前へ駆けつけていたが、瓦礫製のバリケードに変貌した門の残骸に阻まれたところに護衛役の歩兵からの激しい銃撃を受け釘付けにされている。

 

 

『発射準備完了!』

 

 

 砲手がヘッドセットへロシア語でがなり立てると、車外に居た歩兵は4トントラックから距離を取り、耳を塞ぐ。

 

 

発射(ВЫСТРЕЛ)!』

 

 

 先んじて放たれたRPG-7とコルネットとは比べ物にならない激しさの噴射炎と尾を引く発射音が3度、立て続けに生じた。

 

 122ミリロケット弾の噴射が生み出したエネルギーは発射器の背後にあったビルのガラスを悉く叩き割り、不運にも逃げ損ねてソファーや机の陰に隠れて震えていた一般人をまとめて部屋の奥へ弾き飛ばす程の凄まじさで。

 

 しかし、発射地点と標的(庁舎)との距離があまりに近いせいで水平発射も同然で放たれた122ミリロケット弾の直撃が生み出した被害と比べれば些細なものだった。

 

 BM-21の最初の標的は庁舎D棟。

 

 庁舎壁面のど真ん中にロケット弾が突き刺さってはRPG-7の砲撃よりも大規模な爆発を起こした。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、庁舎とその真下に広がる儀仗広場を覆っていく。

 

 ロケット砲塔が僅かに左へ旋回。次の目標は最大規模を誇るA棟だ。

 

 射手はロケット弾の被害が満遍なくA棟へ広がるよう、1発ごとに照準を微調整しながら計4発を撃ち込んだ。適度に散らばった着弾によってA棟の壁面にも大穴が空き、巻き込まれた勤務中の職員ごと建物は半壊状態に陥った。

 

 せっかく配備されていた高価な迎撃用ミサイルも、堂々と正門前から撃ち込まれるロケット弾の直射砲撃からは守りようがなかった。

 

 発射器内の残弾は残り5発。通信鉄塔が存在したB棟と隣接するC棟は正門付近から見ようとすると靖国通り沿いを囲む斜面上の並木林に建物本体が遮られてしまう。

 

 射手は砲塔の向きを更に左へずらし、仰角をやや下げると発射モードを単発から連射に設定。庁舎B棟とC棟が位置する辺りへ向け残りを一斉に撃ち尽くした。

 

 B棟に関しては対戦車ミサイルの攻撃を受けた通信鉄塔が庁舎を巻き込みながら完全に倒れた時点で十分な損害を与える事に成功しているので、この砲撃に限っては直撃しなくても構わないつもりだった。

 

 並木林を掠めるどころか木々の先端を撃ち砕いてそのまま通過していく程の低弾道でもって、122ミリロケット弾は儀仗広場上空を切り裂いた。

 

 立て続けに着弾する様はやはり並木林に遮られてハッキリと目視出来なかったが、発射からほぼ間を置かず発射時の衝撃とは別種の振動が地面を震わせ、すぐに並木林の向こうで新たな枯草色の濃密な雲が生じたので、B棟かC棟のいずれかに何発か直撃、少なくとも至近に着弾したのは間違いあるまい。

 

 黄色い(もや)は弾頭に仕込まれた数キロ分の炸薬が発生させた爆風に乗って正門近くまで漂ってきている。

 

 全弾撃ち尽くした時点でBM-21を放棄して撤退する事は最初から決まっていた。

 

 大型で目立つから置いて行くのではない。

 

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 BM-21の運転手と射手は小型トラックに駆け寄ると既に撤退準備に移っていた仲間の手を借りて荷台へと飛び乗った。小型トラックが急発進、ティーグルが後を追う。

 

 撃退の為に正門前へ駆けつけた筈の自衛隊員達は、不思議と逃げ去る襲撃者達を追おうともしなければ、苦し紛れに離れていく車両に向かって発砲する者も1人もいなかった。

 

 

 

 

 

何時の間にか、市ヶ谷から声が途絶えていた。

 

 

 

 

 

 放置された車両のアイドリング音、サーモバリック弾で破壊された正門で燻ぶる炎の爆ぜる音、倒壊した通信鉄塔や122ミリロケット弾の被害を受けた庁舎の一部が崩壊する衝撃音……生命以外の存在から発せられる音はあちこちで鳴っている。

 

 なのに都心のど真ん中でかつ当時何千人もの職員が勤務していたであろう防衛省の中枢にもかかわらず、上官からの指示や被害状況の詳細を求める自衛隊員の声も、襲撃に巻き込まれた通行人の悲鳴も聞こえなくなっていた。

 

 鳥も、野良犬も、野良猫も、虫も、人間以外の生命の声すらも一切合切、あらゆる命の声が途絶えていて。

 

 

 

 

 それはの静寂だった。

 

 そして静かな地獄だけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『攻撃部隊より報告。ギンザとイチガヤの攻撃に成功。『門』も確保に成功したそうです』

 

『よろしい。艦内に通達、我が方の部隊も上陸を開始せよ』

 

『了解、港湾内の通信妨害を開始します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<攻撃開始から10分経過>

 港区・品川コンテナ埠頭

 

 

 

 

 

  

 

 ConRO船と呼ばれる種類の貨物船が数時間前からレインボーブリッジの目と鼻の先で停泊していた。

 

 車両甲板を持つRO(搭載)-RO(揚陸)船とコンテナ船の融合型であるこの多目的貨物船に、入港手続きを担当した港湾関係者は違和感を抱いていた。

 

 入港して以降、無線で『設備の故障により上陸作業が遅れる』と一方的に通告してからは、タラップも降ろさず船員も甲板上に姿を見せず、それどころか国際航路では必須である再三の税関職員の受け入れ要請にも反応しないのである。

 

 不運にもこの船の担当に当たってしまった税関職員は、こうなったら強硬手段も辞さないと警察と海上保安庁にも協力を要請すべく仕事用の携帯電話を取り出した。

 

 画面を見て、おもむろに眉を顰める。圏外の表示が出ていた。ほんの数分前に上司に報告を入れた時は受信感度も最高だったのだが。

 

 水路を挟んで本土には住宅街、東京湾側には臨海副都心がほんの数百メートル先にあるというこのインフラが整った立地で、今時急に電波が拾えなくなるだって?

 

 周囲に確認してみると、他の同僚も同じく携帯を手に首を横に振ってみせる。それどころか広い港湾内では必需品の携帯無線機に至っては突如として激しいノイズしか発さなくなり、別の意味で使い物にならなくなる始末。

 

 だからだろう、件の多目的貨物船で生じた動きに税関職員らが遅ればせながら察知した頃には、車両用ランプウェーが岸壁へと下ろされ終えたところだった。

 

 ランプウェーに通じる船内への入り口は大型コンテナや重機を積載したトレーラーがそのまま入れるほどに大きい。その入り口の大部分を埋め尽くさんばかりの角ばったシルエットが差し込む陽光によってにわかに浮かび上がる。

 

 税関職員はあんぐりと口を開けて固まった。周囲の港湾関係者も同じように呆然と立ち尽くした。

 

 まず6輪タイプのウラル・タイフーン装甲車が怪獣じみたエンジンの咆哮を轟かせながらランプウェーを駆け下りた。数ヶ月前に箱根にて自衛隊員と特地来賓を乗せて大チェイスを繰り広げたのとはプラットホームは共通だが別メーカー製の装甲兵員輸送車である。

 

 16名の完全武装の兵隊を乗せた24トンの車体を整地なら時速100キロ以上で走行可能というハイパワーな装甲車のバンパーには、従来のオプションに存在しないドーザーブレードが溶接されていた。

 

 タイフーンに続いてBTR-80が上陸を果たす。現代的なボンネットトラックタイプのタイフーンから一転、東西冷戦期のソ連時代で主流だった平べったい台形を上下に貼り合わせた様なデザインの車体は年期の入ったカーキ色主体の迷彩もあって一見時代遅れのようだが、AK47やM2重機関銃と同じくアップグレードを重ねながら現代でも各国の軍や戦場で活躍を続ける装甲車のベストセラーである。

 

 タイフーンと違い標準装備の砲塔には30ミリ機関砲を搭載。兵員室に8名の兵士を乗せる事が可能。

 

 次にウラル4320輸送用トラック。荷台には西側東側問わず様々な銃器で武装したロシア人の兵士を満載している他、大量の補給物資を積載した車両も含まれている。

 

 輸送トラックの荷台に30ミリ連装機関砲と対空ミサイル、対空レーダーを搭載したパーンツィリ-S1・対空防御システム。

 

 小型四駆のUAZ-469が数台。もう1台タイフーン装甲車。専門家が見ていれば追加されたアンテナ類から指揮通信機能を強化した移動司令部仕様であると見抜けたであろう。

 

 部隊の出撃はランプウェーに通じる車両用デッキ以外の場所でも進められていた。

 

 船体上部、コンテナ積載用の広く平坦な甲板上に並べられていた偽装コンテナ(複数のコンテナを繋げて広い内部空間を確保してあった)が展開されたかと思うと、複数の軍用ヘリが姿を現した。

 

 そして極めつけにT-90主力戦車やBMP-2歩兵戦闘車だのといったいかにもな存在がトランスポーターに乗せられてランプウェーから出現した頃には、港湾関係者は完全にパニック状態に陥っていた。

 

 生憎軍事知識に詳しいその手のマニアは含まれていなかったのだが、それでもテレビやネットニュースで腐るほど流された第3次大戦の記録映像に出てきた戦車とロシア人の兵隊を目の当たりするにあたって、彼らはようやく現実を認識するに至った。

 

 

「ロシア軍だ! ロシア軍が攻めてきたんだ!」

 

「け、警察を呼ばないと」

 

「馬鹿警察なんか相手になるか自衛隊だ自衛隊を呼ぶんだよ!」

 

「でも電話も無線も通じないんだぞ!?」

 

 

 誰かが口走ったその言葉に彼らの顔から一斉に血の気が失われる。一体誰に助けを求めればいいのか分からなくなったのだ。

 

 その間に次々と船内から吐き出されたロシア製の軍用車両は一部を残して既に港から走り去っていた。

 

 

 

 

 

 行く手を塞ぐ存在は人だろうが乗用車だろうが、先頭を走るタイフーンのドーザーブレードの餌食になった。

 

 目撃者による通報は電波妨害によってしかるべき政府機関へ届く事はなかった。

 

 たまたま装甲車の車列に遭遇した警察も手の打ちようがなかった。たかが拳銃1丁で戦車を含む装甲車両を止めるなど不可能だ。

 

 それどころか運の悪いパトカーや交番は、行きがけの駄賃とばかりに機関砲の短連射によってあっさりと穴だらけの残骸へと変えられた――中身の人間諸共。

 

 日本の交通規則も規制も無視した鋼鉄の獣の群れが都心を目指して突き進む。

 

 目的地は銀座。潜入していた仲間の奇襲を受けて銀座側の『門』を護る自衛隊と警察が指揮系統ごと壊滅状態に陥っている今、最早数十台の機甲部隊を止められる戦力は存在しない。

 

 首都高速環状線沿いにたったの10分と少し走ると装甲車両の大群は目的地へと辿り着く。

 

 『門』出現以降も数十万人もの通勤客に加え観光客も多数集まる昼間の中央区なだけに、銀座駐屯地への攻撃による混乱が広がってもなお何万もの一般市民が残っていた。

 

 何処に逃げればいいのかも分からず、もしくは手近な建物に逃げ込んで身の安全を確保出来たと勘違いした彼らの前に、自衛隊の装備品からかけ離れた多数の装甲車に乗ったロシアの兵隊が立ちはだかる。

 

 機甲部隊は分散し、輸送車両を主体とした歩兵戦力と一部の装甲車両は銀座駐屯地へ向かった。

 

 T-90にBTR-80といった装甲戦闘車両、対空・対戦車兵器を装備した兵員輸送車各1台~2台ずつで編成された変則的車両分隊は銀座の主要道路に配置され道路封鎖を敷く。

 

 封鎖部隊は戦力を展開し終えると、銀座へと近付こうとする者、銀座から離れようとする者両方に等しく攻撃を加えた。

 

 兵士のライフルや同軸機関銃で撃ち殺されるならまだマシな死に方で、大口径の機関砲や戦車砲の直撃を食らって人の原形を留めぬ肉片に変えられた犠牲者が続出する。

 

 やがて虐殺を恐れた市民が道路に出てこなくなる頃、兵士達は車両に搭載した暴動対策のスピーカーから銀座どころか都心中に轟かんばかりの大音量で録音した音声を流し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『……銀座は我々が掌握した。逃げ出そうとした者、反抗を試みた者は容赦なく処刑する。

 貴様らを護る警察も、軍隊も、既に我々の攻撃によって烏合の衆と化した。

 我々の目的は『門』である。日本政府が我々の要求に従い、手出しを控えれば無事に家族の下へ帰る事を許そう。

 もし政府が要求を受け入れぬ場合、我々は鉄の意志で以って()()を払わせるであろう。その犠牲は貴様らの愚かな政府によって齎されるのだ。

 ……我々はフォー・ホースメン。我々は二ホン軍(自衛隊)の特地からの即時撤退を要求する――』

 

 

 

 

 

 

 

 

『蒼ざめた馬を見よ。その馬を駆る者の名は死。その後ろに地獄が従う』 ――ヨハネ黙示録

 




予め言っておきますが市ヶ谷に撃ち込まれたのはBOの例のアレです。

こういう話を書く時グー〇ルアースはスゴイベンリ。
あとパトレイバーMovie2。

次回は特地サイド予定。


執筆の原動力となりますので感想お待ちしております。

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