今回独自設定を含みます。
(記録開始。くぐもった呼吸音。NBC偵察者の後部ドアが開き、車内から化学防護衣で全身を覆った隊員が降車する)
『……本部へ。こちらイザナギ01。これより下車し市ヶ谷施設内の調査、ならびに生存者の探索に入る。送れ』
『本部了解。現場の生存者よりこれまでに送られてきた情報によれば生存者は全員対NBC攻撃用の気密機構が正常に作動している地下施設に集中している。
地上部の施設において作動中の警備カメラ等で発見出来た生存者は確認出来ていない』
『…………』
『聞こえているかイザナギ01? 送れ』
『……イザナギ01、了解した』
『――なお採取したサンプルならびに大気中の観測データを現在こちらの分析班が解析中であるが、攻撃に使用された兵器は新型の化学兵器である可能性が考えられる。防護装備に何らかの異常が見られた場合は即時に車両まで退却し洗浄処置を受けるように留意する事』
『了解。今の所こちらの装備に異常は見られない。敷地内へ向かう』
(検知器を所持した隊員、攻撃により崩壊した正門跡地に到達。枯草色の煙が充満する中、散乱する死体にカメラがズームアップ)
『見えているか本部? 友軍とみられる遺体を発見した。いずれも複数の銃創および重度の火傷が見受けられる』
『イザナギ01、そこに並んでいる遺体はおそらく武装した襲撃犯の迎撃にあたった警備部隊のものだ。そのまま中心部へ向かえ。遺体の回収は貴官の調査完了後別の部隊に行わせる』
『了解、このまま敷地内へ入る』
(撮影者の動きに合わせしばし画像が揺れ続ける。枯草色の煙が少しずつ濃度を増す中、砲撃を受けた各庁舎が順番に映る)
『これはひどいな……イザナギ01から本部へ。市ヶ谷庁舎施設への砲撃痕を目視。いずれも複数発の砲撃が直撃したものと思われる』
『イザナギ01へ。正門前の道路上に放棄された車載連装ロケット砲による砲撃が行われたとの目撃証言が複数有る。崩落の危険性がある為、庁舎へ接近する際は万全の注意を払え』
『了解、警戒する』
(庁舎前で路肩に突っ込んだ状態で停車した73式小型トラックを発見。隊員、ゆっくりと接近を試みる)
『あの車両を調べてみる……うっ、なんてこった』
(車内に歩兵装備の隊員の死体を複数発見する。調査中の隊員が喉元まで込み上げてきた胃の中身を無理矢理飲み下す音をマイクが拾う)
『本部へ……散布された兵器によるものと思われる遺体を発見した……遺体の調査を行う』
(隊員、検知器を下ろし遺体の見分を実施。遺体はどれも露出した皮膚が激しく爛れ、顔面への被害が強く診られるのを確認。眼球の毛細血管の大部分が破裂しドロドロに具材が溶けたビーフシチュー状と化した眼窩部が大写しになる)
『なんて有様だ……遺体の状況から判断するに散布されたのは極めて強力なびらん性のガスと推測。即効性もかなり高い。ここまで強力な兵器は今まで見た事が無いぞ』
(カメラ、特に濃く枯草色の空気が立ち込める庁舎内へ突入。カメラと同じく身に着けていたライトが庁舎1階ロビーを照らす。
次の瞬間撮影者の呼吸音が突如途切れ、手にしていた検知器が床にぶつかって転がる音が妙に大きく音声に記録される)
『ああっクソッ、まさかここまでなんて……!』
(顔面が眼球ごとドロドロに爛れた防衛省職員の死体で埋め尽くされたロビーが画面いっぱいに映し出される。ロビーの床もまた溶かされた肌からの滲出物や融けかかった内臓の一部が混じった吐瀉物で大部分が塗り潰されている)
『――ここは地獄だ……!』
(堪え切れずに防護服内で隊員が嘔吐してしまう音を最後に映像が途切れる)
(映像が切り替わる。高高度からの光学機器による空撮映像が映し出される)
『レイヴン01、作戦空域へ到達。偵察任務を開始する』
『横田
現時点で現場上空に飛ばす事が出来た我が方の航空機はこの機体だけだ。貴重な情報源になる。撃ち落とされぬよう厳に注意して欲しい』
『了解コントロール。ちゃんと心得ているとも』
『未確認の情報だが各方面から銀座中心部へ通じる主要道路に複数の敵車両が配置されていると現地の民間人からの通報を複数受信している。現状の高度を維持しつつそちらで確認してみてくれ』
『了解。そちらにカメラを合わせてみる――』
(映像がズームイン。『門』があるドームへ繋がる主要道路の様子が映し出される)
『発見した。通報の内容通り武装した複数の装甲車両が道路にバリケードを敷いている。対戦車装備を搭載した歩兵戦闘車と防空システム搭載車両も確認』
『こちらコントロール、現在捕捉中の敵車両部隊はこれより
(画像認識システムにより登録された敵車両がIFFによって赤い四角形のマーカーを付与される)
『マーク完了。他のタンゴを探すとしよう。敵の防空レーダーに気を付けろよ』
(ズームアウト。カメラが地上の敵部隊を求めて細かく視点の移動と拡大・縮小を繰り返す)
『……? レイヴン01へ。カメラを首都高上へ向けてもらえるか』
(カメラ、主要道路上を横切る首都高上で作業を行う歩兵の小部隊を捕捉)
『何をしているんだこいつら』
(何かの作業を終えた歩兵、ラペリングにより高速道路上より離脱。早足にその場から離れていく)
『なっ!?』
(直後、地上で閃光。灰色のきのこ雲を立ち上らせながら高速道路が崩落する。真下の道路が崩落した首都高の残骸によって完全に塞がる)
『えーコントロール、こちらレイヴン01。首都高と都道316号線の交差地点で爆発を確認。敵部隊による破壊活動と思われる。上空から見た限り316号線は崩落した道路の瓦礫により通行不能……』
(地上の別の場所でも爆発が起きる。カメラが新たな爆発現場へと向けられる。立て続けに銀座へ通じる主要道路と首都高の交差地点が爆破されていく様子が上空からの遠望で捉えられる)
『無茶苦茶だ。首都高を爆破してその瓦礫で手当たり次第に奪還部隊が進軍出来そうなルートを潰しているのか!?』
(偵察機操縦者の呻き声。横田基地管制オペレーター、声を若干強張らせながらも新たな指示を下す)
『落ち着けレイヴン01。偵察すべき目標はまだ存在している。攻撃を受けた『門』周辺、銀座駐屯地の現在の様子を確認せよ』
『っ……了解だコントロール』
(カメラ、『門』のある銀座駐屯地へパン。敵主力機甲部隊が銀座駐屯地内に防衛陣地を構築している様子が流れる)
『銀座駐屯地周辺を視認した。正面ゲート前に装甲車両――嘘だろ、戦車まで持ち込んでやがるぞアイツら。主力戦車と思われる敵車両が2、いや3両、ほか敵歩兵30から40』
『レイヴン01、ドーム前に停車している車両をズームしろ。事前の情報では視察団がその車に乗っていた筈だ』
『中の様子が見えないか機体を調整してみる……よし、車両の窓に人の姿が見えた。これで宜しいか』
『よくやったレイヴン01。車内に視察団が乗っていると確認出来た。周辺施設の偵察に戻ってくれ』
『えー、地上では装甲車両以外にも大型のヘリが駐屯地近くでホバリング中……近隣の建物の屋上に兵と荷物を下ろしている模様。角度の問題で敵機体に遮られ詳細は把握出来ない。旋回して別角度からの偵察を試みる』
(旋回機動に入った偵察機の傾きに併せてカメラの視点も傾ぐ。ヘリがホバリングしていたビルを中心に機体ごと回り込んだカメラがより詳細な屋上の様子を捉える)
『よし見えた。商業施設らしき建物の屋上に敵歩兵を確認。あれは屋上庭園か? ヘリから降ろしている荷物の様子から対空陣地を建物屋上の庭園に設置しているものと予想される』
『レイヴン01、ヘリから展開している部隊が占拠した建物を割り出した。銀座シックスと呼ばれる商業施設だ。中心部が吹き抜けのガラス屋根になっている。そこから内部に民間人が取り残されていないか確認は可能か?』
『試してみよう。センサーを
(映像が温度分布を可視化する赤外線カメラに切り替わる。天窓にズームインすると、ガラス屋根越しに建物内部に集まる非武装の人影を多数認識する)
『レイヴン01からコントロールへ。施設内に非武装の人影を複数捉えた。施設内部に複数名の市民が取り残されている模様』
『これで施設ごと陣地を破壊するって手は使えませんね』
(マイクが同席していた偵察機パイロットの同僚の発言を拾う)
『今のは誰だ? 私語は慎め』
『げ、失礼しました!』
『まったく一大事だというのにブツブツ……む。レイヴン01、屋上庭園に展開している敵部隊をもう1度拡大してみてくれ』
(
『
(横田基地管制担当官の訝し気な呟き。直後、甲高い電子的な警告音が鳴り響く)
『何の警告音だ報告しろ!』
『コントロール! コントロール! こちらレイヴン01、レーダー照射を受けている!』
『了解レイヴン01、現空域からの離脱を許可する。敵対空砲火を受ける前に早急に離脱するんだ』
『――ダメだ間に合わない!
(甲高いロックオンアラート。カメラが急旋回し、上下左右が一気に引っ繰り返った風景を最後に映像が途切れる)
<16時間前>
嘉納太郎
総理大臣官邸地下・危機管理センター
(大型スクリーンに流れていた映像が終了する。説明役の制服自衛官が書類を手にスクリーンの前に立つと、農林水産大臣を除き嘉納を筆頭に室内へと集められた現政権閣僚が自衛官へと視線を向ける)
「――今ご覧になって頂いた映像が攻撃を受けた現在の市ヶ谷ならびに銀座の様子となります」
(閣僚らの表情は揃って沈鬱あるいは焦燥に染まっている。中には顔を青ざめさせ口元を抑えている者もいる。彼らを代表して嘉納が重々しく口を開く)
「まず根本的な質問からさせてもらうぞ……どうしてここまでしてやられたんだ!!? 公安なり情報本部なり、ここまで大規模な攻撃を事前に何一つ対策どころか察知もできなかったってぇのか? ええ!?」
(嘉納総理、凄まじい剣幕で閣僚が取り囲む備え付けの長机に拳を叩きつける。日本の現最高指導者からの叱責に、制服自衛官と国家公安委員会委員長、危機管理監などが目を伏せる)
「落ち着いて下さい嘉納さん。今彼らを責めても何も問題は解決しませんよ。それにもし仮にこの現状への責任を追及したいのであれば、それは下手人である脱走兵の集団と彼らに手を貸した中国へと向けるべきです。それも今起きている事態を解決に導いてからにすべきでしょう」
「ふーっ、はぁぁぁぁぁぁっ……すまない夏目さん。今は青筋立てて怒鳴りつけてる場合じゃなかったな。悪かった」
(深呼吸で気分を落ち着かせた総理、席に座り直す)
「正直に答えてくれ。これまでの攻撃で出た犠牲者はどれぐらいになる? 無事な生存者は残っているのか?」
「まず市ヶ谷についてですが当時庁舎地下の中央指揮所及び広域指揮運用センター内に居た自衛官ならびに職員に生存確認が取れております。その中には中央指揮所内にて特地入りする各国視察団の動向を把握しに集まられておりました陸海空の各幕僚長も含まれているとの事です」
「そうか、彼らが無事なら少なくとも指揮権の引継ぎだの何だので余計な手間を取らずに済むぜ」
「敵の化学兵器による汚染は地上部のみに留まっておりますので、生存者に関しては現在市ヶ谷地下に設けられた部隊緊急展開用トンネルを通じての避難計画が間もなく実施される予定です。一方で地上の被害についてですが……」
(制服自衛官、口を濁す。やがて忸怩たる思いを押し殺した重く暗い声で告げる)
「汚染状況の確認と攻撃により指揮通信機能へ多大な損傷をきたしており、詳細な規模の把握はまだ出来ておりませんが……
当時各庁舎の地上部分で勤務を行っていた自衛官、一般職員、民間警備会社社員を含む施設警備を担当していた警務隊と第1高射隊分遣班、その他周辺地域の民間人等を踏まえますと、現時点で予想される死傷者は4桁に達するものと推測されます。
先程首相らがご覧になった映像は大宮駐屯地より急遽派遣した中央特殊武器防護隊の隊員による記録映像ですが、同部隊による調査の結果、今までに発見・回収された犠牲者の大部分は敵部隊が使用した
(センター内に閣僚らが放った呻き声による唱和が広がる。大臣の一人が遣る瀬無さそうに嘆く)
「第2次大戦では世界で初めて核を落とされ、四半世紀前に世界で最初に化学兵器によるテロ攻撃を受けた国という汚名を
先の第3次大戦で我が国は新たに核も毒ガスもロシア軍による侵攻からも奇跡的に免れたお陰で平和国家としての地位を保つ事が出来たと思った矢先に今度は『門』から出現した軍勢に危うく首都を焼かれかけ、挙句の果てに1年遅れでロシア軍の脱走兵に攻め込まれる羽目になるとは……」
「これも全て腐りきった中国の連中がイカれた将軍とその手下に手を貸したせいだ!」
(木暮官房長官が拳を振り上げる。叩き付けた拳によって参列する出席者へと最初に配られた『赤い夜明け計画についての概要』という表題のレポートがぐしゃりと歪む)
「中国政府側は『責任はロシアから逃亡した反乱部隊と個人的に密通した軍高官個人のものであり、共産党及び中国政府はあくまで無関係である』と必死になって弁明しておりますがね。ああそうそう、『この度の事件の早期解決の為なら日本政府が望む限りあらゆる助力も行う用意がある』とも言ってましたよ」
(外務大臣、胡乱気に発言。誰かが鼻を鳴らす)
「そりゃ向こうも必死だろうさ。
「……アメリカとロシアの情報機関はよくこの情報を惜しげもなく我々に提供してくれましたね」
「それだけあちらもなりふり構っていられなかったんだろう。事は日本国内のみならず自国の外交官、果ては『門』の安否に関わる緊急事態だ」
「だがせめて3時間、いや2時間半この情報が届くのが早ければ……」
「言うな。そいつはこの場に居る皆が思っている事だ。むしろホワイトハウスやクレムリンの頭越しに直接我々に
(しばらくの間参加者の発言が途切れ、溜息と沈黙だけがその場を支配する)
「過ぎちまった事はもう変えられん。話を進めよう。銀座の方の被害状況や現況はどうなってる」
「はっ。ではまず『門』が設置されている銀座駐屯地の被害と状況から説明させて頂きます」
(制服自衛官、無人偵察機による記録映像の分析から判明した情報の説明を行う。敵部隊によって銀座が封鎖される前に脱出した避難民からの目撃証言からドローン等の輸送手段を用いたEMP攻撃が最初に行われたとの分析結果が述べられる)
「銀座駐屯地内に配備されていた車両および遺体の損傷度合いから、おそらくサーモバリックを使用した兵器を上空から立て続けに撃ち込まれた結果、隊員達はまともな迎撃態勢を構築する間もなく殲滅されたものと推測されます」
「駐屯地の隊員に生存者は――」
「分かりません。仮に生存者がいたとしても駐屯地を占拠した敵部隊に捕らえられているものと前提に考考えるべきでしょう。
『門』があるドーム前にT-90戦車が最低3両。BTR-80装甲兵員輸送車3両。歩兵戦力も2個小隊程の数を確認済みです。また近隣のビルでヘリポートもしくはヘリが着陸可能な屋上を持つ建物に複数の軍用クラスのヘリが待機状態で配備されております」
(上空からの偵察画像がズームアウト)
「敵集団は上陸地点である大井コンテナ埠頭方面と304号線道路を除く銀座方面へ通じる主要道路と首都高の交差部を爆破工作により破壊。これにより敵の機甲戦力に対抗可能な我が方の戦車部隊が利用可能な進撃ルートは制限されました。
なお上陸地点であるコンテナ埠頭には上陸に利用された偽装貨物船が未だ停泊中の他、数個小隊規模の敵戦力によって臨時の橋頭堡が構築中であるのが確認済みです」
「これだけ破壊されたとなると一帯の首都高は一から掛け直さんとならんな」
「予算が……株価が……」
(国土交通大臣と財務大臣が独り言を漏らす)
「また敵は装甲車両・兵員輸送車・対戦車並びに対空装備搭載の武装車両各1両から2両ずつで編成された小部隊が主要な交差点に配置、銀座内外を出入りしようと試みる者を発見次第排除しています。これら各所に配置された敵部隊の銃撃により、銀座内に取り残され逃亡を試みた避難民に既に多数の犠牲者が出ております」
「銀座内に取り残された民間人の数は?」
「視察団の特地入りに伴い一部の道路や店舗に使用制限が行われていたとはいえ都心の中心部、それも人が最も多く集まる時間帯でしたので……最低でも5万人近くの民間人が占拠された区画内に取り残されているとの予想です」
「それに加えて各国からの視察団も人質にされてる。そうだな?」
「その通りです総理。視察団は送迎用の車両をそのまま牢屋代わりに利用され監禁状態にある事も偵察機で判明済みです」
「おそらく連中の人質としての本命は視察団の方だろうな。銀座に取り残された民間人はついでか、それとも見せしめか……」
「どちらにせよ海外からの視察団も人質にされているとなれば各国も黙ってはいないだろう。一刻も早く救出しろとせっついてくるか、自前の救出部隊を送り込んでくるか、何かしらの干渉は覚悟しなくては」
「人質なら他にもいますよ嘉納さん――特地に派遣されている自衛隊の事をお忘れですか?」
「特地に派遣している自衛隊員はどれぐらいだったっけ?」
「陸上自衛隊を中心に各方面から抽出した隊員のべ2万5000人前後が現在も現地で活動中です」
(再びあちこちで嘆息。嘉納総理と夏目防衛大臣が目配せを交わす)
「向こうとの通信は?」
「敵のEMP攻撃により銀座駐屯地の通信設備が破壊されました為、現在も特地との連絡は途絶えています」
「クソッ! 何が起きているのか向こうには知らせる事も出来ないのか!」
「確か特地派遣部隊のマニュアルでは、『門』の異常や日本との連絡が途絶えた場合は不測の事態に備えて隊員達に引き上げの準備命令が出される事になっていましたね」
(閣僚達にざわめきが走る。外務大臣が慌てた様子で立ち上がる)
「じ、自衛隊だけではありません! 特地との講和交渉に出向いた白百合副大臣や外務省の職員もあちらに取り残されているんですよ!」
「そもそも連中は何が目的で『門』と銀座を占拠したんだ? 要求は届いていないのか?」
「武装集団の声明が届いておりますので読み上げます」
(制服自衛官、別の用紙を取り上げ、呼吸を整えると滔々と声明文の内容を読み上げる)
「『我々はフォー・フォースメン。我々は二ホン軍の特地からの即時撤退を要求する。48時間以内に
要求が叶えられない場合、市ヶ谷の防衛省施設へ撃ち込んだものと同種の化学兵器を搭載したロケット弾でもって無差別に砲撃を行う。また品川の埠頭に停泊中の我が方の船に手出しをしても同様の報復を行う――』
要求文は以上です。現地ではこれと同様の内容を記録した音声を道路封鎖している部隊が大音量で流しているとも報告が入っております。次に市ヶ谷の化学攻撃に使われた投射手段ですが――」
(スクリーンに複数の画像が出現する。市ヶ谷での記録映像と銀座上空の偵察画像の1コマがそれぞれ並べられ、そこには幾つもの鉄の筒が規則的に並べられ可動式アームに乗せられているという物体が別々の角度でもって映されている)
「BM-21。旧ソ連製の多連装ロケット砲です。本来はトラックなどの車両に搭載しての運用が基本ですが発射機の本数を減らす事で小型車両や歩兵が携行しての運用も可能です。銀座シックスの屋上庭園に設置されたBM-21は車載用からの流用との分析結果が出ております」
(BM-21の基礎データと共に巨人向けのボールペンを思わせる長大なロケット弾の画像が追加される)
「使用されるのは122ミリロケット弾。無誘導の旧式兵器ですので1発の精度は低いですが短時間の投射量に優れております。構造自体も極めて簡素である点から先端部に搭載する弾頭を付け替える事で通常榴弾のみならず煙幕弾、焼夷弾、いわゆるクラスター爆弾を内蔵した弾頭……
……そして市ヶ谷での攻撃に用いられたノヴァ6と呼ばれる化学兵器を搭載した弾頭など、多種多様な弾種を使用可能であるのが特徴です」
(グー○ルマップを思わせる航空写真にBM-21の設置地点を中心とした円を書き加えた画像が大写しにされる)
「BM-21が発射する122ミリロケット弾の最大射程は通常弾頭で15キロ前後。今回使用されたノヴァ6搭載弾頭が同程度と換算した場合、銀座からの発射でも人口密集地帯である目黒区・杉並区・北区・足立区、江戸川区・葛飾区のほぼ全域が射程圏内に入ります。その中には当然ながらこの首相官邸、そして皇居も含まれます」
(予想射程圏内の人口数が円の隣に新たに出現し、数百万という数字が並ぶ)
「こちらは市ヶ谷で入手したノヴァ6のサンプルデータと判明している被害状況から作成したシミュレーションとなります。これは現地の風向きや風速、ノヴァ6搭載弾頭の予想される性能といった数値をあくまで最大の被害が出る値に設定した上での被害予測ですが――」
(発射された数十発のロケット弾が赤い線を描きながら銀座上空を通過し、人口密集地へ次々と着弾する。散布された毒ガスの効果範囲を示す円がひしめき合う住宅を呑み込み、猛毒の煙は風によってその範囲を更に広げていく)
(推定合計死者数――100,000)
(人口数の下に表示された数字が規模を強調するかのように点滅を繰り返す)
「……………………」
(閣僚全員、沈黙。ある者は唾を飲み込み、ある者は額に浮かんだ冷や汗を拭い、ある者は陰鬱な顔で額に手を置き天井を仰ぐ)
「『門』は銀座ごと占拠されて、特地とは2万5000人の自衛官を残したまま連絡は取れない上に、数百万人の国民の喉元に毒ガスを突きつけられてる。俺達はこの事態を一体どうすりゃいいってんだ?」
「現在指揮システムの復旧を急ぐと共に、対応の為の戦力確保と人質救出及び敵戦力の無力化に向けた作戦計画を立案中であります」
(嘉納の嘆きと制服自衛官の言葉が空しく響く)
『今が最悪の状態と言える間は、 まだ最悪の状態ではない』 ――シェイクスピア
MW3で使われた毒ガスの輸送ルートがどうしてアフリカだったのか? を突き詰めた結果こうなりました。
当初化学兵器禁止条約に参加してない南スーダンの予定でしたがBack On The Gridのシエラレオネとはほぼ反対側だったのでこんな形に…
ミッション開始前のブリーフィングっぽく短くまとめるつもりで書き始めたのにどうしてこうなった(遠い目)
執筆の励みとなる感想よろしくお願いします。