GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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予定より長くなりそう&投稿が遅れそうなので区切ります。


21:The Line/翡翠宮防衛戦(上)

 

 

 

 

 

 

 ――反撃が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<9時間前>

 ピニャ・コ・ラーダ 帝国第3皇女《身分剥奪》/薔薇騎士団・日本講和交渉団合同臨時防衛部隊指揮官

 帝都・翡翠宮

 

 

 

 

 

 

「防衛線の構築はどこまで進んでいるのだ?」

 

 

 ピニャは改めて臨時の指令所として設定された翡翠宮内の広間へ足を踏み入れるなり室内の者へ向けて尋ねた。

 

 元々薔薇騎士団は翡翠宮前に広がる庭園に天幕を幾つも設置しその中の1つを指揮所としていたのだが、この度日本側と共同戦線を張ってゾルザル側の帝国軍へ対抗するに伴い、日本側が会議室代わりに使っていた翡翠宮内の一室をピニャらも利用する運びとなったのである。

 

 要塞ほどではないが立派な石造りの建造物である翡翠宮は、分厚く頑丈な材質を選んでいるとはいえ布と木の骨組みだけの天幕よりも余程強固な掩蔽物であり、攻めてきた帝国軍が持つバリスタや投石器といった攻城兵器が射程圏内へ到達してもそれなりに耐えてくれるであろう。

 

 そもそも日本側が手配した脱出計画がアルヌスからやって来る第4戦闘団による庭園へのヘリボーン(強行着陸からの回収)なので、この度の計画においては薔薇騎士団の天幕は着陸の邪魔になるだけの障害物でしかなかった。

 

 このような事情から薔薇騎士団が持ち込んで前庭に整然と並んでいた天幕はとっくに解体済みだ。それらに使われていた各種資材は、騎士団の備品である荷車共々防衛用のバリケードの材料という新たな役割を与えられて再利用されている。

 

 他にも理由は幾つかある。

 

 交渉団の護衛である自衛隊員が持ち込んだ各種通信機器が設置されている。そのお陰で一々伝令を走らせずとも、最前線となるであろう庭園外縁にピニャの部下共々配置された自衛隊員からの無線報告のみならず、帝都に潜伏中の他の自衛隊部隊やアルヌスからの通信もこの部屋で傍受可能なのだ。

 

 交渉団は通信機器や電子端末の他にもそれらの機器を動かす為に必要な電源を複数、翡翠宮へと持ちこんでいた。

 

 それぞれの機器に対応した各種交換用バッテリー、大型の工具箱ほどあるポータブル電源、果てはそれらを使い果たした場合に備えガソリンタイプの発電機まで。

 

 備えあれば患いなし。地震雷火事親父、1年通して災害に事欠かない島国のDNAに刻まれたいざという時への備えが今この瞬間、その本領を発揮していた。

 

 ……当の恩恵に預かる側からしてみれば、『これの出番なんて来て欲しくなかった――!』が切実な本音なのだが。

 

 

 

 

 

 

「ピニャ殿下、こちらをご覧下さい」

 

 

 尉官の階級章を付けた日本側の護衛では最上位の隊員がA4ノート大のタブレット端末を差し出した。

 

 ピニャは差し出された異世界の精密技術の塊に一瞬戸惑ったが、

 

 

(二ホンを訪れた時にイタミ殿が使っているのを見かけた『すまほ』や図書館で利用した『ぱそこん』とやらのディスプレイ?に似ているな……)

 

 

 といった感じに記憶が蘇ってくれたお陰で、宮廷画家の作品よりも遥かに鮮明なフルカラーの画面に驚いたり、これがどういった代物なのかいちいち尋ねるといった恥ずかしくも無知を晒すといった展開からは免れたのだった。

 

 端末の画面に映し出されているのは翡翠宮周辺を鳥の視点で記録した画像であった。画像は高度別に数種類に分類されており、翡翠宮を取り囲む森の全容すら収める程の高度から撮影された画像もあった。

 

 地上に居ながらにして鳥や竜騎兵の視点でもって地上を俯瞰出来る――この技術だけでも帝国の軍事は一変するな、ピニャは日本との技術格差を改めて実感させられてしまう。

 

 

「防衛線は2段階に設定。森を通過して翡翠宮前の庭園へと通じる門をバリケード―臨時の防御壁―で封鎖し兵を配置。これが第1防衛線です」

 

 

 自衛隊側の指揮官が画面を指先で叩くと、第1防衛線を示すラインが勝手に俯瞰画像へ書き込まれた。次いで第1防衛線の内側に防衛側戦力、すなわち薔薇騎士団と自衛隊員を示す光点も追加で表示される。

 

 

「敵戦力の圧力に第1次防衛線が耐えられないと判断された場合、速やかに戦力を第2次防衛線まで後退させます。第1次防衛線を放棄した場合、ここが実質の最終防衛線となります」

 

 

 画面を操作。第1防衛線に張り付いていた戦力が後退、広大な庭園を真っ二つに区切る形で新たなラインが引かれ翡翠宮に近い側へ移動するアニメーションが端末上に流れた。

 

 

「妾達と交渉団をここから救出する為にアルヌスからやって来るという『へりこぷたー』とやらを着陸させるには、この第2防衛線を絶対に死守せねばならぬという事だったな?」

 

「その通りです殿下。迎えのヘリに全ての人員が乗り込むまでの間、着陸地点となる空間を確保し続けなければなりません。無防備な着陸の妨害を抑え込む為にも、可能な限り第2次防衛線へ敵戦力を接近させないようにする必要もあります」

 

「……出来るのか? 兄上が妾達を殺す為に送り込んだ戦力はかなりの規模だと聞いているぞ」

 

 

 具体的には歩兵は重装歩兵から軽歩兵のみならず重装騎兵、大型の怪異に攻城兵器を多数含み、最低でも2500に達する大部隊と聞いていた。

 

 翡翠宮側はピニャ配下の薔薇騎士団が総勢600程度。講和交渉団の護衛である陸上自衛隊に至っては薔薇騎士団のほんの20分の1、1個小隊30名にも満たない規模である。

 

 かつてイタリカで体験した防衛戦では攻めてくる600弱の盗賊団相手に散々辛酸を舐めさせられた経験を持つピニャとしては、今度は練度も装備も盗賊団より圧倒的に上回る正規の帝国軍が相手とあって、ただでさえゾルザルによるクーデターで消耗した心身を更なるプレッシャーが圧し掛かるのを感じた。

 

 心細さのあまり、弱音が勝手に口から飛び出してしまうぐらいにピニャの精神は追い詰められていた。

 

 

「我が方の戦力だけで足りるのか? アルヌスからの助けが来るまで妾達は持ち堪えられるのだろうか……っ、す、すまない!」

 

 

 すぐピニャは後悔した。よりにもよって危険と分かっていながら救援を送り出してくれた日本側の関係者が集まっている場で、帝国皇族である彼女がこのような弱音を吐いてしまうのは恥であると同時に日本への侮辱であると感じてしまったのだ。

 

 尉官はそんなピニャの動揺を少しでも和らげようと、意識的に堂々とした態度と口調を保ちながら言葉を返した。

 

 

「ご安心下さい。兵の頭数の違いが戦力の決定的差ではないというのを連中にお見せいたしますよ。幸いにも武器に関してはそれなりの物が揃っておりますので」

 

 

 ピニャは知る由もなかったが、翡翠宮には警備要員の数に対して些か過剰な規模の銃火器が自衛隊によって運び込んであった。

 

 原因は『門』開通以前の国際情勢にある。

 

 2012年、リビアで発生した現地武装勢力によるアメリカ領事館襲撃。

 

 その数年後に発生したロシア軍欧州侵攻の際発生した、当時和平交渉の為ドイツに赴いていた合衆国副大統領のロシア軍による拉致。

 

 遠く離れた異国に赴いたVIPには当然護衛が就いていたものの、襲撃者の物量に押し潰されて護衛対象に犠牲を出してしまった――

 

 講和交渉団を特地に送り込むにあたり、これら過去の悲劇が再現される事を当然日本政府と自衛隊は恐れていた。

 

 だが目に見えて過剰な兵力を帝国の中心地に送り込んでしまっては帝国側を不用意に刺激してしまう。

 

 ならばせめて人を置く代わりに物を多く融通しておこう――そんな訳で、定期的に食料品などの補給物資が帝都事務所経由で運び込まれる傍ら、警備要員は薔薇騎士団員の目に付かないようにせっせせっせと物資に紛れた武器弾薬を翡翠宮内に溜め込んでいたのが事の真相であった。

 

 表向きの補給品目録にもこの武器の存在は記載されていない。

 

 そもそも官給品ですらない。ぶっちゃけ伊丹の私物名目で特地に持ち込まれた品々を本人から許可を貰って各自の趣味に合わせて拝借した物が殆どだったり。

 

 まあそんな感じで、流石に重機関銃や無反動砲は目立ち過ぎるので無理だったが、軽機関銃やグレネードランチャーに狙撃用ライフル程度なら相応量の弾薬と併せて持ち込んであったので、持てる限りの火力を持たせた隊員達を各所に配置させて敵の襲来を待ち構えているという状況である。

 

 それでも数千人の敵兵を迎撃するに足りるかどうかは別の話。

 

 アルヌスで連合諸王国軍(コドゥ・リノ・グワバン)を迎撃した時のような重機を使って拵えた強固な防御陣地も無ければ、ドラゴンの鱗すら貫く大砲を積んだ機甲兵器もここには存在しない。

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()

 

 

 

 

 

 足りない尽くしの最前線で手元に有る物品を組み合わせて手段と対策を捻り出すスキルは優秀な兵士の誰もが持つ才能に他ならない。

 

 

「しかしそちらの頼みゆえ妾の騎士団が持ち込んだ備蓄のみならず団員に翡翠宮中を総ざらいして集めさせはしたが、あのような品々など何に使うというのだ?」

 

 

 ピニャは自衛隊に集めさせた物品のリストを思い出しながら疑問を口にした。

 

 燈火用の油やロープは騎士団も野営時に使うし、馬車や建物の修繕に使う木の板や釘も翡翠宮の物置に置いてあった。夜戦時の灯りやバリケードの構築に役立つであろうそれらはまだ分かるのだが……

 

 空のワイン瓶? 金属の食器類? おまけに壺? 挙句の果てに石鹸?

 

 ピニャからすれば、この非常時に「わけがわからないよ」と言いたくなるような、そんな品々も自衛隊からのリストに含まれていたのである。

 

 

「そこはまぁ、足らぬ足らぬは工夫が足らぬではありませんが、工夫すればどんな物でもそれなりの役に立つというわけでして」

 

 

 尉官は迫る帝国軍を退ける為のより具体的な計画をピニャへと説明する。

 

 

 

 

 

 その内容は自衛隊が持ち込んだ銃火器のみならず、翡翠宮に存在するあらゆる物を利用しての、まさに戦力差に創意工夫で対抗しようというものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<数十分後>

 

 

 

 

 

 

「なぁ二ホンの兵隊さんよ、さっき保護したシェリーとかいうお嬢さんはどうなったんだ?」

 

「ピニャ殿下や彼女と面識のあった外務省の職員から講和派貴族であるテュエリ家のご令嬢本人であると確認が取れました。彼女も貴方がたと一緒にアルヌスに保護されるそうですよ」

 

「そりゃあ良かった。ピニャ様や貴族の御令嬢方のみならず俺達のような老いぼれ兵士までまとめてこっから連れ出そうって言ってくれたアンタがた二ホンには感謝してるよ。

 もっとも、まず先に迎えが来るまで生き延びにゃならんわけだが……」

 

 

 つい先程翡翠宮へと逃げ込んできた所を騎士団員が発見した可憐な少女を話のタネに、親子ほど年の離れた騎士団の老兵と自衛隊員がバリケードの陰で言葉を交わしていると、隊員のヘッドセットに通信が入った。

 

 防衛線周辺は松明を殆ど配置していない代わりに、護衛の自衛隊員が持ち込んだケミカルライトを足元に転がして最低限の灯りを確保していた。

 

 陽光や星明りのような自然の光とも、燃料を用いての燃焼作用が生み出す熱量を伴う灯りからもかけ離れた、薬剤の化学発光を光源とした熱を全く感じさせない蛍光色の照明器具に、おっかなびっくりケミカルライトの容器を指先で突いてみる一部の好奇心旺盛な若き少女騎士達が出たのは余談である。

 

 

「上空のドローンが敵の接近を捉えました。部隊を3つに分け、うち本隊がこの道を通って現在800メート……えっと、約半リーグ(1リーグは1.6キロ)先からこの陣地へ向けて進軍中です」

 

 

 携帯端末を所持した別の隊員がドローンによるリアルタイム映像を老兵達に見せる。しげしげと画面を覗き込んだ老兵らの顔が、バックライトを受けてぼんやりと夜闇の中に浮かび上がった。

 

 暗視モードで撮影された映像は限りなく精緻に描いた水墨画を思わせた。

 

 人間の帝国兵に一回りから二回り大きいオークにトロールを含む接近中の部隊約1300は、盾を前面に構えた重装歩兵を先頭に密集陣形(ファランクス)を組みながら翡翠宮前の庭園へ通じる道を半ば過ぎまで進んだ所で、おもむろに進軍を停止した。 

 

 森の入り口から庭園正面入り口の門までを貫く道はまっすぐな直線だ。

 

 敵戦列との距離は300メートル前後。弓による曲射や攻城兵器ならバリケードに十分届く。

 

 進軍を停めた帝国軍部隊は密集陣形をそのままに、戦列の後方に配置された部隊が何やら動いている様子が見受けられた。

 

 画面の中に、隊列最後方に配置されていたバリスタや投石器の周囲を兵士が忙しなく動いているのが映っている。大型の射出兵器の他に歩兵の楯よりもふた回りさん回りは大きな板らしきものを乗せた荷車もあった。

 

 自衛隊員と騎士団員はトロールが人の頭部ほどありそうな砲弾のようなものをバリスタに装填したかと思うと、帝国兵が手にした松明を砲弾へと近づけて着火するのをドローンのカメラ越しに目撃した。

 

 

「あれは測距用の砲丸よ。こういう夜戦じゃまず火を点けた油壷なんかを敵陣に撃ち込んで砲丸の軌道で風の具合を読み取ったり、地面に落ちて飛び散った炎で敵陣を照らして弓兵や他のバリスタの目印にさせんだよ」

 

「照明弾を兼ねた射弾観測か」

 

 

 よく画面を観察すれば、攻城兵器だけでなく弓兵も発射準備を整えているのが見て取れた。

 

 一方で正門前の戦列から歩兵がそれぞれ100名程度、道から外れ森の中へと入っていく。

 

 帝国軍の指揮官は正面の部隊に目を惹きつけたところで森に潜ませた斬り込み隊を突撃させようという腹のようだ。森の中での取り回しを考えてか、そちらの歩兵は槍ではなく抜き身の片手剣を手にしている様子さえ判別出来るぐらいにドローンカメラの解像度は高い。

 

 その時、バリケードに配置された隊員らとドローンからの中継映像を翡翠宮殿内司令部にて共有しているであろう上官からの無線が入った。

 

 

『各隊員へ。攻撃態勢を取れ。敵部隊から我が方への攻撃が確認されるまでこちらからの発砲は禁じる』

 

「アルヌスの時みたいに待たずに撃っちまえばいいのに」

 

 

 誰かが愚痴る声。直後、小突くような音と「痛ぇ」という日本語の呟きが続く。

 

 

「馬鹿、自衛隊員なら交戦規定ってもん考えろ」

 

「そんなの今更だろうに……」

 

「ハッハッハ。まぁ最初の1発はまず誰にも当たらねぇし、向こうが突撃を開始してきてからが本番だからビビるにはまだ早いですぜ、ニホンの兵隊さん」

 

「その1発が直撃したらどうすんだっつーの」

 

 

 言いながら、血の気が多い方の隊員はドットサイトを搭載したミニミ軽機関銃を構えた。

 

 ヘルメットの上から相棒の頭を引っ叩いたもう1人の隊員はH&KのM27・IARを、バリケードの隙間を銃眼代わりに銃身を預けた。2人ともヘルメットに取り付けた暗視装置を目元へ当てると、それぞれの銃のボルトを前後させて初弾を送り込んだ。

 

 M27・IARはミニミ軽機関銃と同じくアサルトライフル以上の火力による制圧を目的とした分隊支援火器のカテゴリに分類されるが、その運用方法は真逆の銃だ。

 

 ミニミがベルトリンク式の豊富な装弾数を生かして弾幕をバラまく従来の機関銃であるのに対し、M416アサルトライフルの延長線上的構造のM27は装弾数に劣る代わりに優れた射撃精度を生かした、云わば狙撃手のそれに近いやり方でもって敵を制圧するのをコンセプトに開発されたのである。

 

 ベルトリンク式に劣り易い装弾数も、従来のアサルトライフル用マガジンをより分厚く縦にも長くしたような100連マガジンを装着して補っていた。隊員の足元にはそれぞれ5.56ミリNATO弾を装填したベルトリンクとマガジンを収めた弾薬箱が幾つも用意してある。

 

 軽機関銃以外にも、アサルトライフルとグレネードランチャーで武装した自衛隊員もいる。

 

 騎士団員の方は剣や槍を握る者よりも、弓矢に投石紐(スリング)といった飛び道具、敵側からの攻撃を防ぐ為の大盾を掲げて身構えている者の方が多く目立つ。年若い少女騎士の中には自衛隊員の補助として宛がわれ、予備の弾薬類を抱えて控える者もいた。

 

 騎士団と自衛隊員が立て籠もっているバリケード裏には予備の武器弾薬、手榴弾、グレネードランチャー、それからモバイル電源と電線までもがすぐに飛びつける位置に配置されていた。

 

 電線は今はモバイル電源からは抜いてある状態で、もし昼間であったならバリケードの下を這って帝国軍が近付きつつある道の先へと土や草を被せ偽装した上で延びているのが見れたであろう。そして他のバリケードでも同じような用意がされているのも分かった筈だ。

 

 

『こちら北側。こちらも接近中の帝国軍を視認した』

 

『南側、同じく帝国軍を発見』

 

 

 別の防御陣地からも敵発見の知らせが届く。

 

 それらの防御陣地に配置された自衛隊員と騎士団員も既に迎撃態勢を整えている。

 

 

『まだだ、まだ撃つなよぉ……』

 

 

 敵が目前に迫っていながら何もせずに待つ。

 

 ともすれば下手な実戦の真っ只中よりも神経をすり減らすシチュエーションに直面した隊員と騎士団員は、まるで1秒が数十倍にも数百倍にも引き延ばされているかのように感じられた。

 

 そしてその時は訪れる。

 

 オレンジ色の小さな球体が正門前方で打ち上がり、それは大きな放物線を描きながら正門目指して飛来し―-

 

 ……バリケードをあっさりと飛び越え、結局第1防衛線から数十メートルも後方の、人員も物資も配置していない地点へと着弾した。

 

 被害は直径数メートルに渡って芝生が焼けた程度。

 

 

 

 

 ――犠牲は出なくとも攻撃を受けた事に変わりはない。

 

 待ちに待った、だが決して望んではいなかった瞬間がついに訪れたのである。

 

 

 

 

 

『敵部隊から我が方に対する攻撃を確認! 全部隊へ反撃を許可する! 近付く敵は片っ端から撃ち倒せ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『彼を知り己を知れば百戦危うからず』 ――孫子

 

 

 

 

 

 




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