「――状況は?」
「最悪です。こちらが取る筈だった対抗手段を完全に封じ込められました」
「『門』から出現した敵戦力は
「顔認証を行いましたがやはり各国からの視察団のメンバーであると確認が取れました。全員が自爆用ジャケットを着用させられており、ドーム内で一斉に爆発すれば『門』が崩壊してもおかしくない相当量の爆薬が仕込んであります」
「それらが爆発すれば当然――」
「ええ、
「ドームは対爆機構のみならず地球と特地、双方特有の有毒性分や病原体のもう一方への流出を防止する為、ドームの扉を封鎖すれば機密が保たれる構造となっておりますから化学兵器が散布されてもドーム外への流出阻止そのものは容易です」
「だがそれでは『門』が使えないだろう!」
「敵に『門』の前に陣取る事を許した時点で今更だろうが!」
「落ち着け諸君!
……既に作戦は始まってしまっているのだ。敵に唯一の通信回線を握られている以上我々の方から攻撃中止を進言する事も最早出来ない状況にある。我々が今考えるべきは、如何にして人質を無事確保しつつ敵に化学兵器の使用を許す事無く『門』を塞ぐ敵部隊を排除するかどうかだ。違うかね!」
「厄介なのは化学兵器以上に敵戦車の存在です。あれはT-90MS、T-90主力戦車に最新の
型落ちの74式に搭載されてる105ミリ砲じゃまず歯が立ちません。当然NBC対策もされていますから催涙弾や無力化ガスの散布で歩兵は無力化出来ても装甲車両の乗員には通用しないでしょう」
「歩兵のパンツァーファウストを集中して叩き込めばどうだ?」
「あれでも撃破までに何発かかるか見当がつきませんよ。そもそも敵車両と人質の距離が近過ぎます。爆風で発生した衝撃波や飛散した破片に巻き込まれる可能性は極めて高いでしょうね」
「敵の位置も悪過ぎる。1発でも外せば流れ弾が敵の背後にある『門』に当りかねないぞこれは」
「そもそも仮に撃破に成功しても戦車に積まれた砲弾が誘爆しただけでも『門』に被害が出かねないのでは……?」
「つまり何か、本国側の攻撃が開始されるまでに俺達は敵車両を吹き飛ばさず、人質や化学兵器にも被害が及ばないやり方を考えだして実行しなければならない、と?」
「そういう事になります」
「…………………」
「…………………」
「……一体どうすればいいのだ」
「――だったら
「プライス大尉? それはどういう……」
「今から指定する連中をここに連れてこい、
<1時間前>
アレックス 日米露合同銀座奪還作戦部隊
東京・銀座/地下鉄日比谷線・銀座駅方面線路上
緑の濃淡で描写された世界に無機質な鉄とコンクリと油の臭いがうっすらと漂っていた。
JGVS-V8―米軍ではPVS-14と呼ばれる代物を日本でライセンス生産―単眼式暗視装置の機能は良好だ。
所属偽装の為着替えた
あの頃はまさかロシア人と一緒になって極東の同盟国、その世界有数の大都市の地下を這いずり回る事になるなんてこれっぽっちも想像していなかったけれど。
陸上自衛隊特殊作戦群・CIAオペレーター・スペツナズの合同部隊は銀座の地下を走る地下鉄の線路を徒歩で進んでいた。
銀座占拠という非常事態により当然ながら地下鉄は運行を停止しているので各国選り抜きの特殊部隊が走行中の車両に轢かれて全滅という間抜けな展開は心配しなくていい。
電気もシャットダウンされているので迂闊に第三軌条に触れての感電もせずに済むが、弱弱しい非常用照明のみとなったトンネル内は光源から少し距離を取ると容易に姿が見えなくなってしまう。
だからこその暗視装置だ。足音を響かせてしまわないよう細心の注意を払わなければならない。
おもむろに先頭を進む特殊作戦群の
「進路上にトラップを発見。処理します」
単純なブービートラップだ。しかし暗視装置の助けもあるとはいえ暗闇同然のトンネルとなれば、細いワイヤーが張られていても簡単には気付けまい。処理が終わり移動再開。
同じ兵隊といえど身のこなし1つ取ってもお国柄が出るものだ。アレックス達米兵が俊敏に獲物へ食らいつく猟犬ならば、ロシア兵は一見大柄でのっそりとしている様で実は意外と素早く足音も消して襲いかかる熊といったところか。
ちなみに特戦群は当然NINJAである。流石WW3を終わらせた英雄を輩出した部隊なだけはあると、同盟国の兵士達に感心を覚えるアレックスである。
警戒しながら進むと非常灯とは別物の強い光が線路上に見えた。
右へ左へ動いている。浮かび上がる緑色のシルエットから、それがライトを手にした敵の歩哨だとすぐに分かった。
数は2つ、ライトを使っている事からして向こうも地下鉄を使っての敵襲を警戒してはいても、補給か装備調達の問題で暗視装置までは行き渡っていないのだろう。
ライトでトンネルを照らしていてもブービートラップを抜けて侵入してきたアレックス達の存在までは気付いていない様子。歩哨の後方には目的地の通過点である銀座駅のホームが見えていた。
「アサシン、
特殊作戦群の指揮官である
肉眼では見えないが暗視装置を通せば認識出来る波長の赤外線レーザーが敵歩哨へと照準される。暗視装置を装着していると従来の照準器では狙いが付けられないので、レーザーサイトを活用しての運用となる。
隠密作戦につき当然ながら全員のHK416がサイレンサー付きだ。
銃声を消すのではなく、可能な限り音を拡散させて遠方まで響き渡らないかを重視した結果の発砲音が数度鳴った。2人の歩哨が同時に崩れ落ちる。
「2名排除」
「進むぞ」
ホーム近くまで接近するにつれて次第に視界が明るくなっていった。出雲の判断により暗視装置の使用を止める。
銀座駅のホームは平常時よりかは劣るが、地下線路内と比べると暗視装置が必要ない程度には明るかった。
敵の姿が無いか確認してからホームに上がる。静寂拡がるそこは改装工事途中らしく、仮設の防護壁があちこちに立っていて隠れ場所が多いので奇襲が怖い。
予定では先に潜入済みのユーリ達と現地の民間協力者とここで合流する手筈だが――
「スター」
どこかから声。一瞬で全員が銃と殺気を四方へ向けて最警戒モードに移行する。
「スター」
しかしすぐに囁き声の正体と意図――敵味方識別の為の合言葉に気付いたアレックスは警戒は緩めぬまま殺気を四散させた。
「テキサス。ユーリか?」
「ああそうだ。出て行くから撃たないでくれ。最後に別れた時と服装が変わってるんでな」
すると防護壁の陰から人影が現れた。武装はしているが銃口はアレックス達へと向いていない。
向こうから予め釘を刺されていたにもにもかかわらず、アレックスは反射的に再び銃口を持ち上げそうになった。
「戦場へようこそアレックス。その格好はどうしたんだ?」
「事情があってな。そっちこそその服はどこで手に入れたんだ」
「俺が来るよりも前に野本が捕らえた捕虜から借りてきたのさ。後は友釣りで残りの分も
飛行機の貨物室で別れた時に着用していたジャンプスーツから一転、ついさっき線路にて排除した敵兵に似た……
というか全く同じフローラ迷彩の戦闘服にタクティカルベストという格好のユーリは
一見空挺降下前と共通している装備は特殊作戦仕様のAK-12にHK45拳銃と武器だけである。肩には別れた時には所持していなかった、現地調達品らしいポンプアクション式グレネードランチャーすら背負っていた。
もう1人、やはりバルコフ配下の敵兵に変装した人物もバラクラバを額まで引っ張り上げる。その下から現れたのは自衛隊員達と同じ日本人のそれであった。
「彼が例の民間協力者か」
「野本さんですね? 陸上自衛隊の出雲二等陸佐です。この度は日本政府を代表して協力に感謝の意を述べさせていただきたい」
「こちらこそ。
出雲が差し出した手を野本が握り返した。出雲の方は立場をぼかしての自己紹介だったが、野本は野本であっさりと出雲の所属を見抜いた上での返答である。
まぁ出雲も野本がマカロフを追っていた頃の
「フロストはどこだ?」
「別の地点でもう1人の民間協力者と一緒だ。攻撃が開始されたら地上から突入してくるジエイタイの援護と逃げ遅れた民間人の保護と避難誘導をしてもらう予定だ」
「彼の事は俺が保証しよう。現地の警官だがガッツがある。ここの地理にも詳しいから足手まといにはならない筈だ」
ユーリの言葉に続いて野本は断言した。対戦車兵器も持っているから不意を突けば装甲車両とだって勝負できると請け負った。
「俺とノモトが先導しよう。駅構内に配置されている敵の数は少ないが、上への出口に通じる要所ではそれなりの防御体制が敷かれているから気を付けろ」
<同時刻>
ユーリ
バラクラバで顔を隠し直したユーリと野本が先頭に立ち、改札がある上層階へ通じるエスカレーターを登る。エスカレーターは停止していて急角度に延びるただの階段と化していた。
主要な電気供給が絶たれた銀座駅構内はやはり薄暗い。一部の出口へ通じる地下通路など非常灯すら転倒しておらず、暗闇が広がる場所すら在った。
「予定通りここで分かれよう。ヒットマンチーム、俺達は人質の救出に向かうぞ」
「アサシン、ランサー、ライダー、フォーリナー。彼らに付いて行け」
アレックスの部下、
ちなみに特殊作戦群側の編成は
米軍側の戦力が人質救出へ向かった為にノヴァ6無力化は必然ロシア側の投入戦力が固まる結果となった。そもそも
そのスペツナズも特戦群への偽装に伴いやはり自衛隊の迷彩服に防弾チョッキ3型とHK416装備なのは共通していたが、約数名それとは別に自前の装備を持ち込んで作戦に参加していた。
人種がバレないよう顔も隠しているとはいえ、ユーリにとっては見覚えのある特徴的な代物なので中身が誰かは一目瞭然である。
「タチャンカ、そんな物をよくもまぁここまで持ち込めたな」
「数を相手にするならコイツ以上に頼りになる物はないさ。この日の為に改良もしてある」
持ち運びしやすく改造した骨董品の軽機関銃を背負った重火器の専門家は自慢げに銃身を叩いてみせた。
軽機関銃以外にも、これまたレトロチックな手製らしき
彼以外にはサーマルスコープ付きOTs03を背負ったグラズ、カプカンが接近戦向けのサイガ12ショットガンをHK416と一緒に携行しているといった塩梅だ。
「目標の建物に通じる通路はこの先だ」
示す先は暗闇に覆われた一画であった。この先にノヴァ6が設置された銀座シックスへの直通通路へと通じている。
「この先は照明以外の電子系統も全て死んでいる。目標の建物もだ。最初の奇襲で使われたEMPに巻き込まれたんだろう」
敵兵に変装しての偵察でその辺りも確認済みだ。ユーリと野本から一定の距離を置いて奇襲部隊が進行を再開。
「敵は地下通路に防衛線を敷いているぞ。地上から照明と発電機を持ってきて警戒しているから迂闊に通路に顔を出すなよ」
見回り中の警備兵を装った歩き方を意識しつつ、後ろに続く味方へと無線で警戒を促す。直通通路へ近づくと曲がり角の先から光が漏れていた。
こっそりと覗き込む。まっすぐ100メートルはあるだろう地下通路の奥に機銃陣地が見えた。
持ち運び式の投光器も設置され駅方向へと向けられている。敵兵も10名前後、地下道を利用しての攻撃に備え機銃陣地の後ろで待ち構えていた。
地下通路そのものの構造としては駅構内にあったような柱や自動販売機といった遮蔽物の類が全く存在していなかった。
のこのこと出て行けば投光器に照らされた次の瞬間にはあっさりと機銃掃射に薙ぎ倒されてしまうだろう。強行突破そのものは可能だろうがまだ攻撃部隊の存在が敵に露見される訳にはいかない。
「どうやって突破する?」
「俺達が行く。ノモト、やるぞ」
「どちらが前に出る?」
「俺が先頭に立とう」
この為の変装だった。
特戦群とスペツナズは合図するまで通路に出てこないよう告げると、1度だけ大きく深呼吸をしてからユーリは地下通路へと姿を曝した。
途端に投光器の光がユーリと彼に続いて通路に出てきた野本の姿を照らした。口の中が乾いて顔が緊張に引き攣りかけるのが分かった。
視線が集まるのも感じた。緊張を押し殺し、銃口を持ち上げたくなる衝動もグッと堪え、何時でも構えられるようグリップと銃身に手を添えてはいるが銃自体は胸の前に提げたまま、堂々と廊下を進む。
そ知らぬ顔で堂々とお仲間のフリをすればいい。わざわざ敵兵の制服を手に入れたのもこの為だし顔だって隠している。武器については隠密処理の為にサイレンサーを装着している点がネックだが、銃のモデル自体はバルコフの部下も多数使用しているAK-12なので余程注意して観察されなければすぐには違和感を持たれない筈――
動揺を見せるな。今の俺はパトロールをする
野本の方も堂々としたものですぐ隣をぶらぶらと足を動かしつつ、目つきだけは鋭く機銃陣地を守る敵兵の一挙一動を観察していた。
『異世界に行ったらお前は何か楽しみにしてるものはあるのか?』
あえて機銃陣地の連中にも聞こえるようにユーリはロシア語で野本に話しかけた。
『ふむそうだな……まずはどのような人々が現地に住んでいるのか見てまわりたいと思ってるよ』
ユーリの意を汲んだ野本も流暢なロシア語で返した。ネイティブと大差ないコーカサス訛り。
『テレビに出ていたエルフや神様以外にも様々な種族の獣人もいるそうじゃないか。そういえば仲間の中に猫のケモ耳好きがいたな。お前も知ってるだろう、コックの資格を持ってるアイツだよ』
『
固有名詞は省きつつ雑談を交わしながら足を動かす。機銃陣地との距離が詰まる。
敵は通路の奥への監視の目を緩めてはいないが、近付いてくるユーリと野本を警戒する様子も見せなかった。機銃の銃口も2人に向けられてはいないし、敵兵の中にはタバコを咥えて一服し合う者すらいた。
機銃陣地を通り過ぎて敵兵達の背後に回ろうとした時だった。
『交代の時間には早いぞ』
機銃陣地の指揮官だろう、下士官らしき敵兵が声をかけてきた。
ユーリは緊張と動揺で勝手に震えそうな声を必死に制御し、制服と同じく拝借した無線機を指先で叩いて示す。
『無線機の調子が悪くて。バッテリーを取り替えれば直ると思うので予備の物と交換しにきたんですが』
『……交換したらすぐ見張りに戻れ』
『了解しました』
下士官はそれ以上問い詰めようとはせずユーリからすぐ視線を外した。
そのまま敵兵の間をかき分け、心臓の鼓動が聞こえてしまうのではと思える程近くを通り過ぎ、遂に敵集団の後方へと回りこむ事に成功する。
機銃陣地から先の通路はT字路になっており、見回して見る限り他に敵の姿は無かった。
「やるぞノモト」
小声で呼びかけ。小さくもしっかりと頷きが返ってきたのを確認。
ユーリはAK-12の安全装置を外しながら振り返る。
数秒間に渡ってスプレーから中身が噴き出す瞬間に似た銃声が連続し、そして途切れた時、射撃陣地に立っていたのはユーリと野本だけであった。
硝煙の残り香がしばらくの間、濃密にその場に漂った。
「射撃陣地を無力化した。もう大丈夫だ」
兵士達は進む。
敵対者に等しく死を振りまきながら。
『敵が射程に入ったなら、君も敵の射程に入っている』 ――インファントリー・ジャーナル誌
とりあえず年内に完結は無理そうなので新しいアメリカ大統領が決まるまでを目標に頑張ります(フラグ)
…割とアレで巻き起こってる事態だけでもCoDの新作シナリオ1本作れるのでは?
ドイツで証拠のサーバー確保に部隊派遣とか選挙に噛んだ海外勢力排除とか脅迫受けた共和党派の救出作戦とk(それ以上いけない)
年内にシビルウォー2勃発しても驚かないぜHAHAHA!
リアルパイセンもうお腹いっぱいですから勘弁してorz
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