GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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お待たせしました。
ほぼ会話文オンリーなのに無駄に長くなってしまいました、申し訳ない。


Operation:Kingslayer
前章:Damage Assessment/戦後の戦場


 

 

 

 

 

 アルヌスを巡る戦いは終わった。

 

 たった24時間足らずで地球と特地を巡る情勢は一変した。

 

 互いの世界の2人の狂った指導者によって引き起こされた狂奔の騒乱は、互いが互いの存在や動向をまったく認識しないまま、屍と瓦礫の山を築いてようやく終わりを迎えた。

 

 だがえてして、どんなお祭り騒ぎも本番より後始末の方がずっと労力も時間も費やされるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<帝国軍アルヌス攻略部隊撤退直後>

 ファルマート大陸・アルヌスの丘/自衛隊駐屯地・司令部

 

 

 

 

 

 

 

「敵部隊の残存勢力が撤退していくのを確認した。統率されている様子は見られない。完全な壊走と判断して間違いあるまい。

 ……よくやった伊丹二尉」

 

 

(狭間陸将、伊丹との通信に用いていた無線機のマイクを戻す。何かを堪える様に、深く重い溜息を吐き出す)

 

 

「……オペレーター」

 

「はっ」

 

「地震発生以降に記録した無人機の映像記録を全て抹消しろ。今すぐだ」

 

「は、はあ? しかしそれは――」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()退()

 

「狭間陸将?」

 

「なおその瞬間の記録は同時刻に発生した電波障害により当方では受信出来ず現場で何が起きたのは不明。『門』崩壊による世界間の分断が電波干渉を引き起こす何らかの現象を招いたと思われるが詳細には調査が必要――

 記録にはそう残すように。分かったかね諸君。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『――――!!』

 

 

(司令部内の幕僚からオペレーターを含む全ての隊員、狭間の発言の真意を理解し息を呑む)

 

 

「了解しました陸将。すぐにかかります」

 

「現地のNBC偵察車より受信したデータも同様に処理されますか」

 

「発生直後の映像記録は消去しろ。汚染状況や成分表といった数字だけのデータに関しては残してかまわん。

 あくまでガスが人為的かつ意図的に敵へ対し使用されたという直接的な証拠となる記録だけ抹消するように。現場で目撃した隊員らへ緘口令も敷くんだ」

 

「了解しました。基地各所に設置した監視カメラの記録も同様の処理をしておきます」

 

「ああ頼む」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……私は指揮官として最悪だな。よりにもよって()に、部下にこのような最悪の汚れ仕事をさせてしまうなどとは」

 

「陸将の責任ではありませんよ。伊丹はただあの状況下で我々にとって最善の選択を行動に移したのです。アイツが動いていなければ敵の破壊活動による被害とは比較にならない犠牲を我々は受けていたのは間違いありません」

 

「それでも、だ――こればかりはたった1人の部下だけに背負わせるには余りにも重過ぎる。彼が現代の戦神に相応しい戦功を成し遂げた身だとしても、だ。

 私に出来るのはこうして『門』が再び開き、祖国へ無事帰還を果たした時、無関係で無責任な者達から彼が余計な責めを少しでも受けずに済むよう手を打つ事ぐらいだ」

 

 

(狭間の発言を受けた幕僚幹部、顔に悲痛な色を浮かべて眉根を寄せる)

 

 

「我々は『門』を失い、元の世界へ戻る手段を失いました。これは最早覆しようのない事実です。

 ……本当に我々は帰還できるのでしょうか?」

 

「私にも判らん。レレイ女史がハーディというこの世界の神の一柱から『門』を制御する力を授かったという情報も通信での口頭で伝えられたに過ぎないからな。

 まずは直接彼女から改めて話を聞き、研究と実証を重ねて『門』の再開通を目指す形になるだろう。1から手探りだ、相応の時間はかかるだろうがこうなってしまっては他に手段もなかろう」

 

「それも今日の戦闘による被害確認と事後処理が終わってからとなるでしょう。そもそも実験に使えそうな機材が無事かどうかすら不明ですからね」

 

 

(狭間、部屋の隅でパイプ椅子に腰かけ蹲るピニャの様子に気付く。顔色は蒼白で唇を戦慄かせ、瞳に絶望の念を浮かばせている)

 

 

「ピニャ殿下、大丈夫ですかな? 申し訳ございませんがここで見聞きした事は周囲には伝えないよう――」

 

「兄上の……」

 

「は? 今何と」

 

「あの……ゾルザル兄の大馬鹿者ぉ!」

 

 

(いきなり椅子を蹴倒す位の勢いで立ち上がるピニャ。驚く周囲を余所に目を血走らせ滂沱の涙を拭う事すら忘れ、ノヴァ6の犠牲者で埋め尽くされた大地を映すスクリーンを睨みつけながら喚き散らす)

 

 

「私がっ、私はこのような悪夢のような代物が帝国に向けられまいと願って! だからこそニホンと和平を結ぶべく奔走してきたのに!

 なのにこのような……兄者のせいで最早帝国は破滅だっ……おのれ兄上め……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<6時間後>

 

 

 

 

 

「狭間陸将、被害報告の集計が大まかながら纏まりましたので報告に参りました」

 

「分かった見せてくれ」

 

 

(書類の束を受け取った狭間、内容に目を通すあいだ次第に顔色が厳しいものに歪んでいく)

 

 

「分かってはいたが情勢は極めて厳しいな」

 

「基地内に残った中で無事な隊員は我々を含め現時点で2493名。発見時に死亡――殉職が確認された隊員は現時点で371名。負傷者は113名です」

 

「殉職者の数の割に負傷者が少ないな」

 

「ええ、発生した負傷者の殆どは片っ端から破壊前の『門』を使って銀座の方へ搬送させましたから。

 医療施設もお構いなしに敵の攻撃を受けていた都合上、特地に残しておくよりも奪還作戦が終結段階にあった銀座の方が生存率は高いと判断したのが今となっては功を奏しましたね。

 ただ当時施設警備に就いておりました警務科と普通科隊員以外にも医療施設、ならびに複数の対空陣と砲撃陣地が基地内に侵入した多数の擬態型怪異による襲撃を受け、それにより特に警務科と野戦・高射の両特科、そして医療施設所属の医官に多数の損耗が生じた……今後の運用を踏まえるとこの点は留意しておくべきでしょう。

 その他、基地外で任務中だった部隊の回収任務から帰還中竜騎兵部隊に遭遇してしまった輸送ヘリ隊、基地襲撃において迎撃に出たものの反撃を受けて撃墜された隊員など、ヘリ部隊所属の隊員にも殉職者が多数出ております」

 

「警務隊はまだ普通科から抽出すれば頭数は穴埋めしやすいし、特科も極端な話今回のような防衛戦以外を除けば出番が少ないがな……」

 

「設備もそうだが医官、特に専門医クラスの知識と技術を持つ腕の良い者の多くが配属していた医療施設が襲われ犠牲者が出たのはかなりマズい。

 大規模な手術の補助を務められる看護師も多数被害を受けている。人員の交代や補充ができなくなった以上、また大規模な戦闘で負傷者が多数出たらパンクするぞ」

 

「各偵察隊や資源探査班を一旦解散させ、そこから各隊所属の衛生要員を抽出してローテーションで医療施設勤務に回すというのはどうだ?」

 

「ヘリ部隊も今後は活動を縮小せざるをえない以上部隊再編は必須だな……」

 

 

(議論を交わし出す幕僚幹部らに狭間陸将、右手を掲げ彼らの口を閉じさせる)

 

 

「部隊再編についての相談はまた後日にしよう。報告を続けてくれ」

 

「はっ、次は戦闘に巻き込まれた現地住民の被害について報告いたします。

 雨雲が通過し雨も止みましたので基地外部の捜索がつい先程開始されたばかりですのでまだ初期段階の情報ではありますが、ハッキリ言って酷い有様です。

 居住区に存在していた住宅の内半分以上が放火により焼失。商業区画の施設も多数炎上し、全焼に至らなかった建造物も『門』崩壊時に発生した地震がとどめとなって崩壊の被害が続出していると現場に赴いた隊員から報告がありました。

 犠牲者につきましては居住区・商業区画・当駐屯地内外の各所に遺体が分散しており、天候悪化のせいもあって確認作業も難航しているのが現状です。

 また保護した生き残りの住民の取り扱いにも色々と問題が……」

 

「今回の戦闘開始前後に麓の街で破壊活動を行ったゾルザル派の工作員は、アルヌスでの経済活動活発化を聞きつけて訪れた商隊やその護衛の傭兵団に身分を偽装していた者――

 こちらは亜人としての特徴を持たない純粋なヒト種が大半を占めておりましたが、擬態型怪異を率いて駐屯地内部に侵入し部隊ならびに施設に対し破壊活動を実施、多数の隊員を殺傷した工作員で遺体が回収された者や監視カメラの記録から犯行の確認が取れた者、

 この者達全員が数ヶ月前からアルヌスに在住し地元施設で職に就いていた亜人で占められていた事が判明しております」

 

「帝国はヒト種至上主義で支配されていると聞いていたが、それが事実ならばゾルザルは亜人で構成された相応の規模を持つ何らかの工作機関と繋がりを持っていると考えられるな」

 

「問題なのはヒト種・亜人問わず住民の中に多くのゾルザル派工作員が浸透していた――この事実が既に隊員や生き残った住民達の間にも知れ渡ってしまっているという点です。住民への殺傷や居住区への放火を目撃した住民が多数存在しておりますのでこれについては仕方のない事ではありますが。

 現段階では個人同士の小競り合いに収まってはおりますが、保護した住民間での騒動が早くも複数現場から上がってきておりますし、避難民の世話を受け持つ隊員達も警戒と不信感からくるストレスで精神的な負担が増しています」

 

「便衣兵がまだ残っているかもしれない、それは隣人かもしれない――

 疑心暗鬼によって対立が先鋭化し、挙句の果てにそれが暴発して隣人同士で殺し合いなどしたくもないし、やらせたくもないものだが、これは対処が難しいぞ……」

 

「抑え込むにしても、もし規模が広がれば大きく頭数を減らしてしまった今の我々の戦力で上手く抑え込めるのか?」

 

「最悪、今度は助けた筈の住民に銃口を向けなきゃならなくなるかもしれんぞ」

 

 

(幕僚監部一同、今後の暗い展望に沈痛な表情で俯いたりウンザリとした顔で溜息を漏らす)

 

 

「こうなっては使えるものは何でも使うの精神で行くしかないな」

 

「と言いますと?」

 

「アルヌス傭兵団。彼らに住民達の折衝役を担当して貰えるよう頼もう。彼らに助けられた住民も、共同で敵の排除を行った隊員も数多いと聞いている。そして幸いな事に彼らの中から今回の襲撃に加わった者は出ていないそうだ」

 

「彼らであれば住民の不満や不安もある程度は押さえ込めそうですね。傭兵団には負担を押し付けてしまう形になってしまいますが……」

 

 

 

 

 

 

 

「我々や住民の人的被害については分かった。基地そのものや備蓄物資に対しての被害はどうなっている?」

 

「そちらに関しては施設科と需品科が。まず施設科からお願いします」

 

 

(施設科のトップである佐官が席から立ち上がり、書類を手に説明を始める)

 

 

「はい。現在残存する我が科の部隊には最優先で防壁の点検と補修、工作員の破壊工作が行われた防壁部の各ゲートの修理に当たらせております。

 具体的な修理状況としましては、外部との出入りに利用されていた防壁部のゲートに関しては幸いな事に破壊工作の対象が施設や開閉機構そのものではなく開け閉めを行う操作装置を目的とされていた事もあり、既に被害を受けた分を撤去し予備の操作装置と交換する作業がまもなく完了する見込みです」

 

「それは良い知らせだ。防壁の方はどのような状態だ?」

 

「車両爆弾や砲撃を受けた訳ではありませんので、一部を除き防壁に敵の攻撃による被害は見られておりません。

 ヘリの衝突を受けた破損した部分のみ若干の破損が発見されましたので応急処置で破損部の補修作業を行わせておりますが、情勢が安定次第詳細な検査を実施する予定です」

 

「人手は足りないだろうが可能な限り念入りにしてくれ、頼むぞ。最早何処が蟻の一穴となるのか分からないからな。基地内部についてはどうだ」

 

「は、基地内部の施設で現状最も被害が大きいのはやはり自爆攻撃を受けた防護ドーム内部と擬態型怪異の襲撃が集中した医療施設となります。

 多数の変異型怪異により医療機材及び配線設備等にも多数の被害が生じているのが確認されており、人手が不足している都合から完全復旧には時間がかかると判断し、現在は天幕及び食堂の飲食用スペースへ予備の医療器材を搬入し臨時の救護所として運用しております。

 衛生科の野外手術システムも複数設置し、衛生科からも人手不足を除けばしばらくは凌げると伝えられてはおりますが、医療施設の復旧もなるべく急がせます」

 

 

(施設科佐官、手元の報告書類をめくる)

 

 

「次に『門』が存在した防護ドームですが、こちらもかなりの被害が生じています。

 特に自爆攻撃によってドームの開閉機構そのものに中程度の破損が複数箇所発見され、また天頂部の保守点検用ハッチも爆発時に飛散した破片が直撃した結果ハッチ本体が脱落してしまうという被害も発生しました。それもあり、対NBCを想定した気密機構を損傷前のレベルまで復旧させるには医療施設の復旧以上の時間と労力がかかるとの推算が……」

 

「それならば防護ドームの復旧については後回しにしてくれて構わん。まず基地と隊員を護る防壁と医療施設の復旧が最優先だ。その他の優先順位もそちらに差配を一任する」

 

「心得ました。ではそのように」

 

 

(狭間の指示に力強く頷きを返す施設科佐官)

 

 

「良いニュースと言って良いのかは分かりませんが、武器弾薬庫・燃料施設・糧食等の備蓄施設等はほぼ無傷でした。

 これは個人的な分析に過ぎませんが、敵工作員は本隊がこの基地へ接近する邪魔となる砲撃陣地の排除と本隊の突入口となる各ゲートの確保が目的であってこれらの保管施設は重要視していなかったのかもしれません」

 

「じゃあ医療施設を大量の怪異が襲ったのはどうしてなんだ?」

 

「多分あれだ、襲撃の直前に講和交渉団の救出作戦を行った第4戦闘団が、彼らの到着前に発生した戦闘で負傷した交渉団の護衛に付いていたピニャ殿下の部下達に治療を受けさせたいと、基地に搬送させてただろ?」

 

「ああそうか、施設に運び込まれた怪我人の血の臭いを嗅ぎつけて集まってしまったのか……」

 

「ピニャ殿下の部下達には災難だったとしか言いようがないなこれは……」

 

 

 

 

 

 

(幕僚がやるせない表情を交わす中、メガネをかけた神経質そうな幹部自衛官が挙手する)

 

 

「備蓄物資について話題が出ましたのでこのまま需品科からも報告をさせて頂いても?」

 

「ああ頼む」

 

「施設科からの報告でもありましたが今回の戦闘では各備蓄施設に被害は出ておりません。

 しかし本国からの補給線が完全に寸断した事、また今回の戦闘における運用・損耗、現時点で把握しております基地の残存戦力から、今後も余裕を持って作戦活動に投入できる或いは制限が求められるであろう物資の段階付けを大まかながらまとめておきました。

 各科の指揮官につきましては今後これらのデータを前提に部隊運用を行って頂きます。特に戦闘団団長の方々、よろしいですね?」

 

「それはまぁ当然だな、うむ」

 

 

(需品科幹部の釘刺しに健軍ら大喰らいのヘリ部隊や装甲車両中心の戦闘団を指揮する幹部、口を濁しながらも同意を返す)

 

 

「細かい数字は省きますがまず基地の残存物資のうち余裕がある物から順に説明していきます。

 まず主に普通科等が運用する歩兵用小火器類及びその弾薬、戦闘装着セットを含む個人装備。これらにつきましては単純な理由ですが、現時点で特地に残留した隊員が特地派遣部隊の本来の規模から10分の1まで減少している事により本来運用していた人員分の余剰装備が多数発生した形となり、これにより歩兵限定ではありますが、現時点の物資だけで今回と同等規模の戦闘活動であっても数回程度ならば応戦可能でしょう」

 

「ありがたい。少なくとも隊員らが自己防衛を行うだけの弾には事欠かずに済む訳だ」

 

「運用者の減少による物資の余剰につきましては陸上機甲兵器用、特に74式戦車用の各種砲弾と整備部品も同様の状況です」

 

「あの時は加茂一佐ごと第1戦闘団の74式の多くが銀座側の奪還作戦に出撃していたからなぁ」

 

「今回発生した戦闘では陸上車両主体の装甲部隊が大規模な作戦活動を行わなかった事もあり、車両用の備蓄燃料もかなり余裕があります。特に大喰らいの戦車が数を減らしましたのでその分の割り当てを他車両部隊に回します。

 逆に消費が激しかったのは航空燃料、特にヘリ部隊用の航空ガソリンです。講和交渉団救出任務と各地方の調査任務に赴いていた資源探査班の回収任務で大規模活動に従事した事により、大量の燃料が消費されました」

 

「……残量はどれぐらいだ?」

 

「交渉団救出と同等規模の運用を行おうとすれば底を着く程度、でしょうか」

 

「そうか……」

 

 

(健軍、ガックリと項垂れる。陸上戦力中心の部隊長らは安堵に胸を撫で下ろす)

 

 

「燃料もそうですが交換用の予備部品も限りはある事もお忘れなく」

 

「了解だ……空自さんから燃料を融通してもらう訳にもいかんしな……」

 

「そりゃヘリ用の航空ガソリンと戦闘機用のジェット燃料は別物だから当然だろう」

 

「車両用とは別に発電用燃料もそれなりの余裕はあります。しかし数ヶ月ならともかく年単位、ともなれば話は別です。人員減少に伴う一部施設の活動縮小といった節電対策も早い段階で検討しておくべきかと」

 

「分かった。今後の方針に加えておこう。食料についてはどうだ?」

 

「そちらも食糧庫が無事でしたので、長期保存が可能な戦闘糧食(自衛隊レーション)や備蓄米も含めそれなりに余裕があります」

 

「では焼け出された住民達への炊き出しを手配してやってくれ。

 ただし少なくても構わん、念の為炊事班に護衛も付けるよう手配を頼む。温かい食事で腹が膨れれば住民の動揺と不安も少しは和らいでくれるだろう。改めて足場を再構築する必要もあるからな」

 

「了解しました。手配いたします」

 

「こうなってしまっては補給の目途が無い今の我々にとって時間が最大の敵、か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では最後に……敵陣営の分析結果と被害についてですが」

 

 

(狭間を含めその場の幕僚幹部全員、一斉に顔を強張らせる)

 

 

「まず基地内に侵入し隊員及びアルヌス傭兵団と交戦したゲリラ兵の死体は現時点で87名。ゲリラ兵を陽動とし偽装型怪異と共に潜入した工作員の死体31名が回収済みです。

 工作員の死体については回収後、2課(情報班)隊員とロゥリィ氏立会いのもと遺留品等の検査を行い、工作機関への手掛かりを探しています」

 

「ん? 彼女と工作員に何か関わりがあるのか?」

 

「少し前に彼女と行動を共にしていた伊丹二尉を標的とした暗殺未遂が発生したという報告は覚えていますか?」

 

「ああ。ハーディとかいう特地の神様がレレイ嬢に乗り移って『門』を制御する力を与えるついでにお告げやらなにやらで伊丹を狙っていた暗殺者をおびき寄せて、逆に一網打尽にしたという話だったか」

 

「ロゥリィ氏によれば工作員の人種的特徴が伊丹二尉の暗殺を試みたハリョという集団と一致するのだそうです。また一部の工作員が所持していた毒物らしき所持品をレレイ氏にも見て頂いたところ、やはり伊丹二尉が撃退した暗殺者の所持品と同一であるとの結果も出ています」

 

「それじゃあつまり何か、伊丹を狙った暗殺者はゾルザル派の工作員だったって事になるのか?」

 

「おそらくは。現在ロゥリィ氏からハリョについての更なる情報提供を引き出している最中です」

 

「まさかこういう形でもアイツ(伊丹)が関わってくるとは……」

 

「最早そういう運命に生まれた、いや、選ばれてしまった人間なのかもしれないな、彼は」

 

「間違いなく本人は嫌がっているでしょうけどね」

 

 

(何名かの幹部が首を振り、嘆息する)

 

 

「話を戻そう。工作員の所属がハリョという集団であるのは分かったが工作員が手引きした例の擬態型怪異について教えてくれ」

 

「変異型怪異につきましては回収された死体は合計117体、こちらは回収後に化学科と衛生科の専門家が解剖を行い現在調査結果待ちです。

 体長は平均して2メートルから3メートル、体重は平均250から300キロ。身体能力は容易に建造物の屋根上へ飛び移れる跳躍力に人の1人や2人は一撃で薙ぎ払ってしまえる程の腕力を有し、その性質は極めて狂暴と直接交戦した隊員や目撃した現地住民の証言、映像記録から判明しています」

 

「何らかのトリガーによって幼児からヒグマの成獣クラスまで一気に成長し手当たり次第に暴れ回る――使われる側からすれば最悪の生物兵器だな」

 

「工作員が何らかの薬品を散布した直後に複数の怪異が誘引されたとの証言もありますから、ハリョ何某が変異型怪異を制御する何らかの手段を有しているのはまず間違いないでしょう」

 

「魔法にエルフに神様、ドラゴンや巨人みたいなモンスターでいい加減ファンタジーには慣れていたつもりだったが……

 いや、慣れてしまっていたからこその油断と怠慢の代償だな、これは」

 

「幾ら非常事態が重なっていたとはいえ、地球でも子供を使ったテロは紛争地帯じゃ常套手段だと分かっていながら見落としてしまった事には変わりないからな。

 見抜けなかった現場の隊員のみの責任とは言えまい。想定を部下に徹底させられなかった我々にも責任があるだろう」

 

「続けます。次に基地外部の居住区・商業区画で発見された死体につきましては大規模な火災により損傷した死体が数多く、犠牲となった住民か彼らの抵抗を受けて討ち取られた敵のものなのかの判別が難しい状態です。

 市街地以外の基地周辺で発生した犠牲者に関してもこちらは該当範囲が広範囲に渡る事、また人員不足もあり、敵竜騎士部隊との遭遇により搭乗中のヘリが墜落する等により殉職した隊員らの死体は回収済みですが、彼らを除き具体的な犠牲者の数と身元を把握するには余裕が……」

 

「仕方あるまい、そちらに関しては調査を行えるだけの余裕が出来てからで構わん」

 

「はっ。そして伊丹――――失礼しました。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の被害についてですが」

 

 

(誰かが鳴らしたごくり、と唾を飲み込む音が妙にハッキリと幕僚らの間に広がる)

 

 

「上空を飛行中だった無人機からの偵察映像で捉えた各隊列の展開状況とユニット数の規模から当時接近中だった帝国軍部隊の規模は推定約2万以上。

 ……2次災害による犠牲者はその4分の3。最低でも1万5000を超えると思われます」

 

「1万5000、か」

 

「最初にアルヌスで戦った連合諸王国軍とやらに銀座での死者が合わせて12万だったか? それと比べれば少ないもんじゃないか?」

 

 

(健軍が妙に軽い口調で他の幕僚へと話を振る。汗が浮かんだ彼の顔には隠し切れない緊張と畏怖が滲んでいる)

 

 

「ああ、だが処理に困るには十分過ぎる数だ。前に戦った連合諸王国軍の遺体と違って、今度はただ穴を掘って埋めるで済ませる訳にはいかんだろう」

 

「NBC偵察車による調査で散布おっとゴホン発生したガスは直後に降った雨と反応し、大気中の成分に限れば既に人体に無害なレベルにまで分解が確認されたと確認はされてますがね……」

 

「政府から提供されたガスそのものの実験データでは土壌や死体を汚染した分の成分も同様に無害化するそうだが、念には念を入れて全て焼却処分すべきだと俺は思うがね」

 

「自分も同感だ――が、まずはその死体を集めて回らなきゃならんし、焼くなら焼くで貴重な燃料をどれだけ消費しなければならんのやら……」

 

「ガスのせいでどの死体も激しく損傷したところを雨で濡れた分、天候にもよるが腐敗も速くなってるだろう。やるならやるでさっさと始めるべきだろうが、まずは施設の復旧が最優先なのを考えるとやはりそちらに割く人手が……」

 

「いっそ現地住民を雇って余ってる防護装備を着せて始末を手伝ってもらえばどうだ」

 

「待て、例のガスにやられた死体がどういう惨状になるか聞いてるだろう。あんな死体の処理を家を焼かれたばかりの民間人にやらせるのは流石に酷過ぎるだろう?」

 

「……とりあえず処理に使う火炎放射器と焼却用の燃料の手配はしておくか」

 

「だな」

 

 

 

 

 

 

 

「諸君らは既に理解しているだろうが、今この場を借りて私の口からハッキリとさせておきたい」

 

 

(狭間、真剣な表情で集まった幕僚らを見据える)

 

 

「『門』を失い、祖国へと帰る為の手段を失った我々は最早寄る辺無き流浪の集団に過ぎない存在となってしまった。

 だがこの場の最高司令官である私は取り残されてしまった部下達を無事に祖国へと戻す義務がある。

 これからの戦いは国益の為でも主義の為でもない。今を生きる人としての根源、すなわち生還の為の戦いである」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「特地残留部隊の最高司令官として諸君らに命ずる。

 特地に取り残された全2606名の隊員、371名の殉職者の亡骸をこれ以上欠ける事無く祖国日本へ返す為に、()()()()()()()()()()でも生存権に確保に尽力せよ。

 繰り返すぞ、()()()()()()()使()()()()()だ。責任は全て部隊の総司令であるこの私が取る」

 

 

 

 

 

 

 

 

『交戦規定はただ1つ――生き残れ』 ――『ACE COMBAT ZERO』

 




原作より被害と人員的な意味で切羽詰まってれば自重もしてられないよね!
年内にもう1話本編か小ネタ更新したい所存。


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