GATE:Modern Warfare   作:ゼミル
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多くの感想ありがとうございます。
やはり読んでくれた読者の皆様から感想をいただけるとモチベーションが段違いに変わるのを実感いたしました。
また今回はいくつかの感想にありました伊丹の愛用(?)銃についてネタにさせていただきましたので、この場を借りて謝辞を申し上げます。

このような作者ですが、今後も話が完結するまで付き合っていただければ幸いです。


そしてナンバリングが更にカオスになってきたぞぉ(汗)



-0.5/8.75:Tactical Logistic/転ばぬ先の…

 

 

<2016年9月>

 伊丹耀司 タスクフォース141《権限剥奪済み》

 アフリカ某国

 

 

 

 

 

 

 最初はコンコンと控えめな音がして、ノック音はすぐに強く拳を叩きつけるドンドンという音へ変わった。

 

 兵器の闇市場―アフリカでは珍しくもない―で購入した中古の軍用トラックの座席で寝息を立てていた伊丹が目を覚ますと、薄汚れた窓ガラス越しに坊主頭のロシア人が伊丹の顔を覗きこんでいた。

 

 

「んあ?」

 

「起きろよ伊丹。お客さんが来たみたいだ」

 

「あいよぉ。いてててて」

 

 

 軍用車両の常とはいえトラックのシートは御世辞にも快適な代物とは呼べず、伊丹がちょっと背筋を伸ばしただけで体中が軋みを上げた。

 

 その上ゴテゴテと予備の弾薬と手榴弾でパンパンになったポーチや、硬く重たい防弾プレートを追加したコンバットベストを着用した状態での居眠りともなれば、十分に体が休まる筈もない。伊丹を起こしたロシア人も同様のスタイルであった。

 

 車外に出るなり伊丹の肉体を強烈な日光が炙る。ちょっと風が吹いただけで土埃が舞い上がり、汗の滲む肌があっという間にザラザラになっていくのが感じられた。早くも冷房が利いていたトラックに戻りたくなる伊丹である。

 

 

「思えばえらい遠くまで来ちゃったなぁ」

 

 

 アフリカの荒野のど真ん中に設けられた小さな空港……という名の蒲鉾型の倉庫と管制塔以外に建物らしい建物が存在しない場所(なにせ侵入者避けのフェンスすらないのだ)で、憎たらしいばかりに輝く青空を見上げてから、伊丹は意識を切り替えると車から降りる時に持ってきたM14EBRライフルの薬室へ初弾を装填した。

 

 このM14EBRという銃は伊丹の中では割りとお気に入りの銃である。伊丹のみならず元SASのプライス(トレードマークのブッシュハットに葉巻をくわえて滑走路代わりの平地に仁王立ちしている)やソープ(面倒が起きた場合の狙撃担当として管制塔に潜伏中)、そして伊丹を起こしに来た元スペツナズのユーリもM14のカスタムモデルを使う場合が多かった。

 

 まずM14が使用する7.62ミリ×51弾は、89式小銃やM4カービンに使われる5.56弾よりも威力が高く射程も優れている。交戦距離が長い屋外での戦闘や長距離狙撃といった運用に向いており、また遮蔽物や防弾装備も貫いてなお敵の息の根を一弾で仕留めるのに十分な威力は、火力と頭数が限られる現在のTF141―の成れの果て―に必要不可欠な要素でもあった。

 

 もちろん状況に応じて武器は各自厳選して使い分けなければならない。特殊作戦群時代に使った事もあるM4カービンや紛争地帯ではお約束のAK47、時には軽機関銃やRPG(対戦車ロケット砲)のような重火器まで使ってきたが、状況が許せば伊丹はM14EBRをチョイスする事が多い。

 

 オリジナルのM14が開発された直後はベトナム戦争勃発という不運によって(当時のM14はストックなどが木製であり、高温多湿のベトナムでの運用中湿気を吸って変形を起こしたり、長い銃身がジャングル戦では不向きであった)冷遇された。

 

 それでも当時から性能は優れていたので古参兵や特殊部隊は当時採用されたばかりのM16よりもこちらを愛用した、という逸話がある。大口径弾特有の反動の大きさと装弾数を除けば操作性能も悪くない。

 

 現在に至るまで度重なる改修を受けたM14は、M4よりも重く反動も大きいが、それを差し引いても中~長距離戦向けの中々優秀な銃であった。

 

 そして伊丹はM14を使うたびにこう思うのである。

 

 

(自衛隊も64式じゃなくてこのM14をライセンス生産すれば良かったんじゃないかな)

 

 

 開発当時の関係者の努力と苦労なんぞお構いなしの、身も蓋もない感想であった。

 

 尤も64式小銃を実際に運用する側であった伊丹からしてみれば、解除や変更にいちいち細かい操作が必要な安全装置だの、撃った反動で倒れてしまう照門だの、普通に扱うだけで脱落しかねないのでわざわざビニールテープを巻いて防止処置せねばならないハンドガードだの、悉く実戦では命取りになりかねない仕様まみれの銃を持たされる身にもなれと言ってやりたかった。

 

 しかし自衛隊では64式以上に使用者の使い心地なんぞこれっぽっちも考えていない、『ない方がマシンガン』と称される悪名高き62式機関銃も開発採用している(そして未だに現役)あたり、当時の自衛隊関係の銃器製造業者はロクなのが――ゲフンゲフン。

 

 ともかく銃に求められるのは、戦場で確実に作動し、狙った所へ正確に弾丸を飛ばしてくれるかどうかという点に尽きる。その点においてこのM14EBRは優秀な銃であった。

 

 古今東西、ライセンスコピー品からガンスミスによるカスタムモデルまで膨大な種類の銃器が生み出されていても、過酷な実戦を耐え抜ける存在はほんの一握りに過ぎないのだと、この1年足らずで身に染みて実感させられている伊丹である。

 

 

 

 

 

 

 ユーリと共にプライスの下へ近づくと老兵の視線を追いかける。輸送機がこちらへ向かって着陸態勢に入りつつあり、機影とエンジン音が近づいていた。

 

 

「あの飛行機にニコライも乗ってきてるんだっけ?」

 

「ああそうだ。そもそもあの飛行機と載っている積み荷もニコライが新しく調達してきた装備だがな」

 

 

 誰に対して向けたわけでもなく口から漏れた伊丹の言葉に老兵プライスが応じた。すると携帯無線機に繋いだヘッドセットからソープの声も聞こえてきた。

 

 

『載せているのはそれだけじゃないんだろう? ニコライがスカウトしてきた傭兵も載ってるそうだが、信用できる連中なのか?』

 

 

 現在TF141を取り巻く立場は複雑だ。シェパードの裏切りと偽装工作によってTF141はアメリカを筆頭に各国から指名手配されており―現役の米軍将官を暗殺した時点で本物の犯罪者になってしまったが―国のバックアップが全く当てにできない状態にある。

 

 シェパードを暗殺後、まず協力を求めたのは意外にもロシアであった。正確にはロシアの中でも超国家主義派が主流となる以前の体制を支持する旧体制支持派(ロイヤリスト)だ。彼らは意思を同じくする別の組織やPMCの支援を受けて第3次大戦の引き金を引いたマカロフら超国家主義派の打倒を目指す集団である。

 

 そんな彼らと繋ぎを取った人物こそニコライである。

 

 彼は旧ソのアフガン侵攻に加わった経験を持つプライスに負けず劣らずのベテランでありながら、荒事家業に役立つ様々なスキルを習得した元工作員、つまりスパイでもあった。戦力調達からハッキングまでこなすしヘリに飛行機だって飛ばせる。彼には伊丹も何度も窮地を救われた身である。

 

 1部隊に1人ニコラえもん、なんて冗談が思い浮かんでしまうぐらい、そりゃあもう頼りになる人物なのである。もちろん戦場でも頼りになるし、マカロフを追跡する為の情報網や資金調達もニコライが構築したものだ。このロシア人はまさに今のTF141を足元から支える縁の下の力持ちであった。

 

 そのニコライ、ここ数日は伊丹らと別行動を取っていた。輸送機を含めた新しい装備、追加の援軍をリクルートする為であったのはプライスとソープが述べた通りである。

 

 

「事前に聞いた話じゃ、旧体制支持派側のPMCに所属してるオペレーターじゃなくてフリーの傭兵なんだよね? 珍しいねぇ今時」

 

「直接面識があるわけじゃないが以前耳にした事がある。同じフリーの連中と一緒に一時期コーカサスや東ヨーロッパで名を売っていたそうだ。ニコライともその縁で知り合った、と俺は聞いている。アフリカでの活動経験もあるって話だ。あああと、イタミとは同朋らしい」

 

「へ? 俺?」

 

「日本人の傭兵。他もかなり多国籍な連中だった筈だ」

 

『ジャパニーズの傭兵(マーセナリー)か。そいつもイタミみたいに暇があればコミックブックを読むようなヤツなのかね』

 

「今更国籍なんぞは問わん。肝心なのはマカロフの主義主張や汚れた金に見向きもしない優秀な兵士かどうかだ」

 

 

 マカロフはTF141の生き残りの首に大金を懸けた。もちろん伊丹の首にもである。

 

 輸送機は伊丹らよりも大分手前でタッチダウンすると、ゆっくりと速度を減じながら彼らの下までタキシングしてきた。

 

 この手の紛争地帯で運用されている輸送機の例に漏れず、ニコライの機体もプロペラ推進であり、開店する巨大なプロペラが乾いた地面から大量の土埃を巻き上げるものだから、伊丹らは目元と口を手で庇わなければならなくなった。砂まみれになった葉巻をプライスは舌打ちと共に捨てる。

 

 やがて輸送機は3人の前でゆっくりと停止した。翼下のプロペラが完全に停止してから待つ事しばし、機体側面の扉が内側から開く。まず姿を現したのはガッシリとした体格の中年のロシア人だった。

 

 

「待たせたな、戦友(カメラード)達! 騎兵隊の到着だぞぉ!」

 

「使い物になる騎兵隊ならいいがな。ニコライ、収穫はどうだ」

 

「喜べ友よ。知り合いの武器商人が程度の良いハインドを割安で売ってくれるそうだ。どうやらマカロフは裏の武器卸売業界からも恨みを買っているみたいだぞ」

 

「フン、大方マカロフの息がかかった武器業者に客を奪われたのが気に食わんだけだろうよ」

 

「まぁまぁ、向こうはサービスしてくれてるんだしそれはそれこれはこれって事で良いんでないの」

 

 

 ハインドとは旧ソ連時代に開発された重武装ヘリコプターの名称である。

 

 攻撃ヘリでありながら人員輸送ヘリとしての機能も有しているという珍しい設計のヘリだが、現在も主に東側陣営やアフリカ各国で多数運用されている、傑作ヘリコプターの1つだ。

 

 もちろん兵器産業やブラックマーケットが盛んなアフリカであっても簡単に入手できるような代物ではない。スキルのみならず人脈も豊富なのがニコライの頼もしい所である。

 

 

「それで協力してくれる傭兵はどうしたんだ?」

 

「今降りてくる所だとも。彼らは皆信頼できる兵士ばかりだ。我々がマカロフを追っている事を教えたら、快く手を貸すと言ってくれたよ」

 

「俺達の素性を話したのか? 俺達の首に懸けられた賞金に目が眩むかもしれんぞ」

 

「彼らに限ってそれは無いさ。何せ以前アフリカにいた時にはあらゆる陣営に武器を売りつけ、紛争を悪化させていた武器商人をわざわざボランティアで潰したぐらいだからな。彼らは我々と同じく、金ではなく信念で戦う兵士だ」

 

『我々と同じ、か。ハッ、マカロフを追いかける資金稼ぎに傭兵家業に精を出してる身としちゃあ俺達も大層な事は言えないんじゃないか。なぁジイさんよ』

 

「お喋りが多いぞソープ。お前はしっかり警戒していろ」

 

『へいへい』

 

 

 遂にニコライに続いて例の傭兵集団も飛行機から姿を現した。

 

 まずガタイが良く、頭にバンダナを巻いた白人がタラップを降り、次に線が細く、ベレー帽を被った中年の同じく白人男性が続く。そしてとうとうユーリが話題にした東洋人――すなわち日本人の傭兵も姿を見せた。

 

 その日本人傭兵は外見年齢は伊丹より若いが、しかし目元から発する眼光は年上の伊丹よりも強く逞しい生気を帯びていた。顔立ちそのものも悪い方ではなく、それに比べると伊丹の方はといえば、ライフルと戦闘ベストを取り除けばしょぼくれたサラリーマンと言われても納得してしまいそうな外見と雰囲気である。現実はかくも不平等であった。

 

 バンダナを巻いた傭兵にベレー帽の傭兵、そして日本人傭兵が着用しているブッシュハットには、共通してスマイリーマークをもっとシンプルにしたような絵柄のワッペンが付いていた。これらが彼らのトレードマークのようである。

 

 

「では諸君、紹介しよう。降りてきた順からエンリケ、モンゴメリ、それから――」

 

「野本だ。傭兵界隈でも有名人の貴方達と出会えて光栄だ。是非とも我々にもウラジミール・マカロフを追いかける手伝いをさせて欲しい」

 

 

 そう言って野本は眼光に相応しい力強い握手をプライス、ユーリ、そして伊丹と交わしたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<2017年冬>

 伊丹耀司 第3偵察隊・二等陸尉

 ファルマート大陸・アルヌスの丘/自衛隊駐屯地

 

 

 

 

 

 意識を取り戻すとそこは駐屯地施設内の空き部屋であった。

 

 顔を上げてみるとすぐ目の前に白い肌、白髪に見えるほど滑らかな銀髪ショートカット美少女の寝顔。それから伊丹は魔導少女レレイのお腹を枕代わりに熟睡してしまっていた事にようやく思い至ったのである。

 

 どうやらイタリカに続いてまた昔の夢を見ていたようだ。

 

 

(昨日久しぶりに電話したせいかねぇ)

 

 

 時計を見てみると起床ラッパが鳴る直前の時刻であった。今日はこれから『門』の向こう側に戻り、数百人の国会議員とカメラの砲列の前で参考人招致を受ける。その為のの身支度を整えなければならないのである。

 

 変な姿勢で寝たせいで強張った肉体をほぐしながら、伊丹はレレイを起こしにかかるのであった。

 

 

 

 

 

 結局『門』の向こう側へ行く人員は伊丹・富田・栗林の自衛隊組に現地人代表としてロゥリィ・テュカ・レレイ、そこに加え何故かピニャとボーゼスまで加わる事になった。

 

『門』の前まで送迎に来た柳田曰く、バリバリの帝国関係者である2人は日本の外務省関係者と極秘裏の会談を行うという。帝国との交渉の仲介役として、日本という国そのものをもっと知って貰おうという算段でもあるらしい。

 

 

「だからいいな、この2人も絶対無事にこっちまで連れて帰ってこいよ!?」

 

 

 そう念押しする柳田の目は妙に血走っていた。さりげなく胃の辺りも押さえていたが、伊丹に出来たのは苦笑を浮かべながら「努力はするよ」と返すぐらいであった。

 

 

「富田はともかくクリボーも特地組の護衛って大丈夫なのか。ってかちゃんとカウンセリング受けてきたんだろうな?」

 

「言われた通り受けてきましたよ! ちゃんと医者と上の許可は貰ってきました」

 

 

 胸を張る栗林。その動きに合わせて彼女の巨大な胸部装甲も見事に揺れた。眼福ではあるが人前だし相手は部下だ。素早く目線を外す伊丹であった。

 

 そうしてようやく面子が揃ったので、伊丹達は『門』の向こう側へ向けて出発したのである。

 

 

 

 

 

 

 

<十数分後>

 日本・銀座駐屯地/『門』付近

 

 

 

 

 伊丹ら自衛隊組は日本の大地を数ヶ月ぶりに踏みしめた。

 

 補給部隊など兵站関係者は地球側でしか調達できない存在―現代技術の産物である兵器・燃料・食料品・生活必需品etc―を特地側の自衛隊へ過不足なく送るべく頻繁に『門』を行き来している。逆に伊丹らの場合は基地の外を調査して回るのが仕事なだけに、長期休暇を与えられない限り『門』を越えて日本へ帰還する機会は滅多に与えられな立場であった。

 

 日本側の『門』は首都東京は銀座のど真ん中に存在する。自衛隊駐屯地とはまた別種の、金属やコンクリートで建てられ外壁が一面ガラス張りになっているオフィスビルが乱立する光景に、特地からやってきた女性陣は揃って驚嘆に打ちのめされていた。

 

 

「に、ニホンとは武器の技術力だけでなく、よもやこのような摩天楼を作り上げるほどの大国でもあったというのか……!」

 

 

 ピニャが漏らした驚きの言葉に伊丹は苦笑してしまう。摩天楼というのはニューヨークみたいなもっと大きな高層ビルが立ち並ぶ土地の方が相応しいと思う伊丹であったが、現在のニューヨークはロシアとの戦争でウォール街を中心に焦土と化してしまって現在も復興の真っ只中だ。

 

 特地組が初めての異世界に見とれている間に自衛隊組はさっさと営外へ出る手続きを済ませてしまう。すると手続きが済むのを見計らっていたかのように、黒服の集団が伊丹らへ近づいてきて声をかけてきた。

 

 一目見るなり、伊丹は彼らが情報機関に所属する人間であると気付いた。

 

 海外にいた頃は職業柄嫌でもその手の職業と関わる必要があったし、追われる立場になってからもニコライという万能工作員とずっと共闘していた身である。そんなわけでその手の人物を見分ける感覚も自然と身に付いていた。

 

 

「情報本部から参りました駒門です。今回皆さんの案内役とエスコートを仰せつかっています」

 

 

 駒門、と名乗った人物を無言で観察する。最前線でのドンパチも楽勝でこなしていたニコライと比べると、荒事には向いていなさそうな分、隠し持ったナイフのような冷徹を秘めているような雰囲気を、伊丹は目の前の人物から敏感に嗅ぎとっていた。

 

 

「おたくって本当に自衛官? むしろそうだねぇ、『警察の公安の方から来ました』って言われた方がしっくりくるんだけど」

 

 

 伊丹のカマかけに、駒門は顔は笑ってても目は全く笑っていない矛盾した笑顔をピクリとも変えない。代わりに駒門の後ろに控える他の黒服集団の気配がにわかに張り詰めた事が答えであった。

 

 

「おや分かりますか? 流石有名人なだけありますなぁ」

 

「その手の観察眼は否応無しに鍛えられちゃったもんでねぇ……で、どこまで教えられてるの?」

 

「肝心の部分は教えちゃ貰えませんでしたが大体はね。平凡な大学を平凡な成績で卒業後、入隊。一般幹部候補生過程をビリから2番目の成績で三尉に任官、だが勤務成績があんまりなせいで上官に幹部レンジャーへ放り込まれたがそれもギリギリで突破。そっから更にどういう理由か『S』へと編入される……」

 

 

『S』とは特殊作戦群を指す通称である。

 

 オタクでグータラな上官が精鋭中の精鋭揃いである特殊部隊出身と聞かされた栗林と富田の反応は……意外なほど大人しかった。むしろ「ああやっぱり」みたいな感じで納得すらしている様子である。むしろ驚きを見せない部下達に伊丹の方がちょっと意外に思ったぐらいであった。

 

 すると、長々と語りつつも笑みを崩さずにいた駒門の表情が、急に真面目なものへと一変した。

 

 

「だが今から約1年半前、ちょうどロシアがアメさんに戦争を吹っ掛ける少し前から、アンタの名前は特殊作戦群の隊員名簿から突然消えた。で、『銀座事件』が発生する数週間前にまた急にアンタの名前が隊員名簿に載るようになった。

 ――ただし特殊作戦群とは全く関係ない、別の一般部隊の隊員として」

 

「…………」

 

「何故急に特殊作戦群から名前が消えたのか。次に復活した時どうして別の部隊に転属していたのか。世界がひっくり返って自衛隊のあらゆる部隊も最大警戒態勢を敷いていた間、姿を消して一体どこで何をしていたのか――その間の事だけは、どれだけ調べてもどれだけ上にお伺いを立てても調べる事ができなかったんですよ」

 

「上が言いたがらないんだったら、別に無理矢理穿り返そうとしなくても良いんじゃないですか?」

 

「でしょうな。ま、仕事柄必要なら寝床から墓の中まで一通り調べないと気が済まない性質でしてねぇ。いわば職業病みたいなもんですよ」

 

「……調べるつもりで掘った墓穴が、そのまま自分のお墓になっちゃわないように気を付けた方が良いですよ。俺から言えるのはそれぐらいです」

 

 

 それを聞いて駒門は面白そうに片眉を上げて伊丹を見つめた。

 

 

「それは脅し、ですかな?」

 

「いんや、ごく身近な実体験からです」

 

 

 至極真面目腐った表情で断言する伊丹であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのようなやり取りを経て、一行は用意されたマイクロバスに乗って国会議事堂へ向かう事と相成った。

 

 だがこのまま一直線に国会へは向かわず、まずは参考人招致用の服を調達する為に銀座のデパート街へ足を向ける。

 

 レレイはローブ姿、ロゥリィは神官服(ただしフリフリのゴスロリ衣装)である。この2人は特地の民族衣装として押し通せなくもない格好であったが、テュカだけはジーンズにセーターと国の代表者達の前へ出ていくにはいささかラフ過ぎる服装なのであった。

 

 

「たいちょー、テュカの服どうします?」

 

「確か少し先にスーツとか売ってる店がある筈だから、そこで調達しよう」

 

 

 という感じでテュカの服装問題はこれで解決である。会計の時はもちろん自衛隊宛の領収書を切ってもらう伊丹である。

 

 なお女性用のリクルートスーツを着たテュカは、エルフ特有の笹穂耳を除いてしまえば童顔の外国人ビジネスウーマンと言われても違和感が無いぐらいよく似合っていた事をここに追記しておく。

 

 

「二尉、次の予定は?」

 

「国会行く前に腹ごしらえしときましょう。こっちも個人的に寄っておきたい所があるんで、新橋の駅の方に向かってもらえます?」

 

「個人的な用事、ですか?」

 

「そうそう、個人的な用事」

 

 

 伊丹の指示通りマイクロバスは新橋駅へ。駅前で下車した伊丹らが次に向かったのは、

 

 

「何故に牛丼なんです?」

 

「今回の参考人招致は出張扱いで食費は1食500円までしか出してくれないんだよねぇ……」

 

「うわぁ……こういう時って宮仕えって悲しいですよねぇー」

 

 

 世知辛い現実を安物の肉と共に噛み締めながら、某有名牛丼チェーン店のカウンターに並んで丼をかっこむ伊丹らである。

 

 久しぶりに食べた牛丼は幾分しょっぱめだったという……

 

 

「ごっそさーん。ちょーっと悪いけど皆の事は任せたから」

 

「隊長早っ! ってどこ行くんですかー!?」

 

「すぐに戻るから食事が終わったら先にバスで待っといてくれー」

 

 

 部下と特地勢を置いて牛丼屋から出た伊丹が向かったのは目と鼻の先にある新橋駅である。

 

 ある程度の規模がある駅構内ではコインロッカーの存在が定番だ。近年ではコインロッカーも電子化が進み、金属製と番号札付きの鍵ではなく、暗証番号をロッカーと一体化したセキュリティ端末へ打ち込む方式へと変わりつつある。新橋駅のコインロッカーは後者であった。

 

 伊丹はスマホを取り出すと受信したメールを開く。表示された6桁の数列――コインロッカーの暗証番号を端末へ打ち込むと、ロックが外れる作動音が内部から聞こえた。

 

 内部に入れてあったのは子供ぐらいならすっぽり収まりそうなぐらい大きなダッフルバッグであった。少し持ってみるとかなりズシリとした重みが感じられた。周囲から注目されていないか確かめてからバッグの中身を覗く。

 

 

「うわぁ……」

 

 

 中を見るなり口元を引きつらせる伊丹である。いやまぁ、コインロッカーに依頼の物を入れておくようお願いしたのは伊丹であるが、用意してくれた品物は頼んだ方の伊丹が気圧されてしまうぐらいの質と量であったのだ。

 

 

「せっかく用意してくれたのはありがたいけどさ、この平和な日本に一体どうやってこんなに持ち込めてるのか、本当不思議だよなぁ」

 

 

 今度会ったら入手ルートでも尋ねておこうか、などと考えながら、伊丹はダッフルバッグを肩に提げて来た道を戻る。

 

 

 

 

 バッグの中身が必要になる事態がこの先起きるのかどうか、未だ予想はつかない――――

 

 

 

 

 

 

 

『最善のものを希望せよ。しかし最悪のものに備えよ』 ――西洋のことわざ

 

 




64式小銃については公式が既にフルボッコに書いてたんだしこれぐらい勘弁して下さい(土下座)
新式小銃はどうなる事やら楽しみです。

・5/14:指摘された誤字を修正


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