GATE:Modern Warfare   作:ゼミル
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今回はいつもより短めです。
あと今回の話は政治に対する個人的なスタンスが色濃い内容なので、苦手な方は後半まですっ飛ばして下さい。


9: Paper Bomb/謀略質疑

 

 

 

<参考人招致開始数時間前>

 某国某所

 

 

 

 

 

「例の爆弾(・・)はどうなっている?」

 

「ご指示通り、国会内へ持ち込ませる手筈は既に完了しております」

 

「分かっているとは思うが、この手の代物はタイミングというものが最も重要だ。確実に、間違いなく、1番効果的な瞬間に野党の手へと渡るようしっかりと機会を見計らうようにするのだ」

 

「もちろん心得ております。日本にはせいぜい自らが標榜する民主主義の愚かさに苦しんでもらうとしましょう」

 

「……だが愚か過ぎるのも考え物だな。情報1つ流すのにいちいちこちらが時間調整まで行う必要があるとは」

 

「主席閣下。失礼ながら日本の政治家、それも粗探ししか能のない負け犬しか集まらぬ野党にそのような才覚は期待しない方が宜しいかと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<2017年冬/15:00>

 伊丹耀司 第3偵察隊・二等陸尉

 東京都千代田区永田町・国会議事堂

 

 

 

 

 

 

 議場に足を踏み入れるなり大量のフラッシュと数百対の眼光による集中砲火を浴びた伊丹は、

 

 

「帰りてぇ……」

 

 

 と、それはそれは嫌そうなうめき声と共に溜息を漏らしそうになり、危ういところでどうにか飲み込む事に成功した。

 

 顔はなるべくキリッとした表情で前方への固定を心掛けつつも、眼球は前後左右を素早く見回して議場の構造や席の配置、そこに座る議員や傍聴者やマスコミ関係者の様子をチェックしていく。屋内外の構造把握は優秀な歩兵にとっての必須スキルである。

 

 与党・野党問わず集まった議員の多くは興味津々な感情を隠す事無く伊丹の後に続いて現れたレレイ(魔法使い)、テュカ(エルフ)、ロゥリィ(神官?)といった異世界人へ注目を向けていた。

 

 少数の例外として、まず今回の参考人招致において質問役の中心人物である野党の女性議員が強気な視線を伊丹へ浴びせている。これが美少女ならともかく、相手は如何にもヒステリックそうなオバサンである。伊丹の中でこの場から逃げ出したいメーターが1段階上昇した。

 

 でもって与党の中にも異世界組ではなく伊丹に注目している議員が何名か存在していた。彼らの場合、どういうわけか揃って妙に顔色が悪い。

 

 彼らはいわゆる国防族と称される一派である。防衛省に強い繋がりを持つ彼らは伊丹のTF141時代の経歴を部分的ながら把握してるという共通点があった。それどころか何と彼らの中には伊丹のTF141入りを政治的に承認・後援した当事者すら含んでいるのである。

 

 自衛隊員を極秘裏に実戦へ放り込んだだけでも立場が危ういというのに、第3次大戦の根幹に関わる最重要機密すら手にして帰ってきた伊丹の存在は全世界規模に影響を与えるほどの超特大政治的爆弾である。そんな人物がよりにもよって参考人招致という表舞台に引きずり出され全国ネットで放映されるというこの展開、事情を知る国防議員が今味わっている心労の凄まじさは、彼ら全員が顔から血の気を引かせ胃の辺りを手で押さえているという姿が、それはもう雄弁に語っているのであった。

 

 今にも病院に緊急搬送されそうな国防族議員の中で唯一(表面上とはいえ)平静な姿を保っているのは、現内閣防衛大臣を務める嘉納太郎である。

 

 主にネット界隈では『閣下』と呼ばれ政治家にしては比較的国民に親しまれている彼と伊丹の視線がぶつかる。すると嘉納は表情を緩め、力の篭った眼差しで伊丹を射抜く。無言の労わりに伊丹も目礼で返す。

 

 短くも体感的に何倍も長く感じた道のりを経て、伊丹らも参考人用の席に座る。

 

 

「これより参考人に対する質疑に入ります」

 

 

 そして進行役の委員長による宣言を合図に、参考人に対する答弁が開始されたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 最初に質問してきたのは幸原みずき野党議員だった。野党内に複数存在する少数政党の1つの代表者であり、同時に伊丹を思いきり睨んでいた例のオバサン議員である。

 

 幸原は『民間人犠牲者150人!』と犠牲者のみ妙に強調したボードを手にこう質問する。

 

 

「参考人に単刀直入にお尋ねします。特地甲種害獣、通称ドラゴンによって避難民約150名が犠牲になったのは何故でしょうか!?」

 

 

 言い方がまた『どうせ自衛隊が失敗したんだろう』とあからさまに見下すような言い方だったものだから、伊丹の逃げ出したいメーターは更に1段階上昇した。

 

 明らかにこの野党議員は気に入らない人物に対しては相手がちょっと失敗しただけでここぞとばかりに責め立て、辱め、とことん自分を相手より上に置かなければ気が済まないタイプである。逆に自分が失態を犯した側になってもこの手の人間は決してミスを認めようとはせず、逆に自分を責め立てる周囲の声以上の大音量で別の人物を叩く事で誤魔化そうとするのがお約束なのだ。

 

 でもってこの手の人物は下手に真面目に受け答えすると更に喧しく噛みついてくるものである。最良の手段は耳を貸さず無視してしまう事である。しかし公衆の面前にて名指しで回答を求められている以上、黙り続けるわけにもいかない。

 

 一番手っ取り早いのは物理的に黙らせてしまうやり方だろうが、犯行の一部始終を全国放送で流す羽目になるのでもちろん却下である。

 

 なので仕方なく、本当に仕方なく伊丹はマイクの前に立つと、ゆっくりと口を開いたのだった。

 

 

「えー、それにつきましては……ぶっちゃけドラゴンが強かったからじゃないですかねぇ」

 

「は、はぁ? そ、それはどういう意味でしょうか? 150名もの方が亡くなられているのに、それについて責任は感じないのですか!?」

 

「責任を感じるとしたら、手持ちの銃の威力が明らかに不足していた事に対してですね。7.62ミリどころか50口径でも豆鉄砲でしたし。パンツァーファウストでも片腕吹き飛ばすのが精一杯で、しかも向こうは直撃を食らってもピンピンして飛んで逃げてく始末でしたからねぇ。いっその事米軍さんみたいにTOWとか重MATみたいな誘導弾を軽装甲機動車(ライトアーマー)にも搭載して運用できるよう改良してくれればまだマシかもしれませんが」

 

 

 TOWならびに重MATはどちらも自衛隊で運用している対戦車用誘導弾の通称である。

 

 後者は数名の歩兵、前者は攻撃ヘリに搭載しての運用が主だが、TOWの方は伊丹が語った通り米軍を筆頭に各国の軍隊では装甲車両の銃座に搭載しての運用も当然のように行われている。どちらも命中まで射手による誘導が必要であるが、無誘導のロケット砲と比べれば命中精度が雲泥の差なのは言うまでもない。

 

 軍事に関するある程度の知識があれば相応に納得できる意見、というか愚痴を漏らす伊丹。

 

 だが伊丹の言葉を理解できるだけの軍事知識を持たない―正確には持とうとしない。知識を持てば的確かつ的を得た議論を吹っかけられるようになり政治家としての評価を高められるというのに、その考えに至らないほど愚かな―幸原は、伊丹があえて専門的な用語を捲し立てる事で己の力量不足を誤魔化そうとしているのだと認識したのである。

 

 

「それは貴方が力量不足を転嫁しているだけなのではないでしょうか!」

 

「戦場じゃ力量不足よりも火力不足のせいで友軍に被害が出る事の方が多いもんですよ」

 

 

 ワンショットワンキルを鼻歌交じりにこなす凄腕の狙撃手も、機関銃やRPG(対戦車ロケット砲)で武装した100人の兵士による一斉射撃に追い立てられればひとたまりもないのだ。

 

 実体験である事にはもちろん触れず幸原からの指摘に混ぜっ返して答えた伊丹の態度が気に入らなかったのか、とうとう「不謹慎だぞ!」と別の野党議員から野次が飛ぶ。

 

 すると伊丹の方も眉根を寄せて表情を僅かに険しくすると、野次を飛ばした議員をその歴戦の精兵にしか出せない鋭利な眼光で正確に射貫いたのである。

 

 

「あとこれは個人的な意見ですが、大勢の人が亡くなられたのは非常に残念に思っていますが、亡くなられた犠牲者をこのような場で政治的な袋叩きの材料に利用するアンタらこそ不謹慎なんじゃないですかねぇ」

 

 

 幸原も野次を飛ばした議員も、結局は自衛隊や与党を糾弾するネタにできれば何でもいいのである。彼らの言葉や行動に、実際に命や財産を失った犠牲者に対しての憐れむ気持ちなどこれっぽっちも介在していないのは明らかであった。

 

 よくあるやり方とはいえ、直接炎龍と相対し村人が犠牲になっていく光景を目撃してきた伊丹には、それが気に入らなかったのである。

 

 その後防衛省の担当者から炎龍の鱗がタングステン並みの強度と下手な合成素材よりも優れた軽量性を持つ、いわば空飛ぶ戦車とでも称する他ない強力な生態を有しているという報告という名の援護射撃を受け、遂に伊丹に対する質問は打ち切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伊丹の出番は終わったが質疑はまだまだ続く。

 

 幸原は粗探しの矛先をレレイ・テュカ・ロゥリィら現地人組に移し、あの手この手で与党と自衛隊へイチャモンをつけるための材料にできそうな回答を引き出そうと試みている。

 

 そんなオバサン議員の悪戦苦闘ぶりを見せられ続けている伊丹はというと、もういっその事大欠伸の一つでも盛大にぶちかましてやりたい衝動に駆られるぐらい、中々終わらない質疑応答にうんざりしていた。

 

 幸原がレレイらに向けた質問の内容は難民キャンプでの生活に不具合は無いか、自衛隊の対応に不満は無いのか、といった感じである。

 

 それらを聞いた伊丹は、この分だと幸原ら野党が望む答えをレレイらが発する機会は決して巡ってこないであろう、そう確信した。幸原らの質問は特地の文明レベルを正確に理解していないと理解できたからである。

 

 

「一応特地の大まかな資料って野党にも渡ってる筈だよな? この分じゃあネットの匿名掲示板の住人の方がまだまともな質問してくるんじゃないか?」

 

 

 なんて考えまで浮かぶ始末である。

 

 最早茶番に耐え切れず、伊丹が欠伸をしようと口を開いた次の瞬間、ロゥリィが発した「貴女お馬鹿ぁ?」という言葉がマイクによって何倍にも増幅され、議場中を震わせた。

 

 

「さっきから黙って聞いてると、まるでイタミ達が頑張らなかったと責めたいみたい。むしろ炎龍相手に戦って生き残ったことを誉めるべきでしょうにぃ。

 4分の1が亡くなった? 違うわぁ、むしろイタミ達は4分の3を救ったのよぉ。それが解らないなんて、それでも元老院議員? ここにいるのが皆そんななら、この国の兵士もさぞかし苦労してるでしょうねぇ」

 

「そうそう、苦労してるんだよ」

 

 

 ロゥリィの発言に思わず同意してしまった伊丹であった。

 

 度重なる海外でのテロや仮想敵国である中共と半島の強硬路線化、極めつけがWW3の勃発により世論が国防重視へと傾いているとはいえ、自衛隊をむやみやたらに敵視する平和団体……の皮を被った仮想敵国のヒモ付きや、国会議員のくせに自国よりも他国の肩ばかり持つ売国議員が未だ根強く蔓延っているのがこの日本という国の汚て……奇妙な部分である。

 

 公の場でその事を指摘するわけにもいかないのが公人の辛いところでもある。しかし異世界人どころか人の範疇からも逸脱した亜神であるロゥリィは、知った事かとばかりに盛大かつ直球に幸原のような存在は間違っていると断言したのである。

 

 

「この……! まったくなんて娘かしら、年長者に対する礼儀がなっていませんね!」

 

「えー幸原議員。言うのを忘れていましたが、このロゥリィ・マーキュリーさんは実を言いますと、ここにいる誰よりも年長でありまして……」

 

「へ? ……あの、おいくつですか?」

 

「961歳になるわぁ」

 

 

 ちなみにエルフのテュカは165歳である。

 

 地球側の常識を超えた不老(ロゥリィの場合は不死も加わる)の存在に、とうとう幸原も根を上げた様子で自分の席へ戻っていってしまった。

 

 意気揚々とロゥリィも伊丹の方へ引き返してくる。するとロゥリィは伊丹に向けて愛嬌たっぷりにウインクを送ってきた。伊丹は苦笑を返すに留めた。

 

 幸原の後も他の与野党議員による質問がしばらく続いたが、最初の幸原とのやり取りが色々と衆目を集める内容と展開であった分、残りの質問はどれも印象が薄い内容、門の向こうの生活やそれぞれの文化についてといった当たり障りのない内容であった。

 

 それらの質問に対し現地組が答え、ニュアンスの問題から分かりづらい部分は地球側と特地側双方の知識に詳しい伊丹が補足する、といった塩梅でその後の質疑は進み、この日の国会中継もそろそろ終わりの時を迎えつつあった。

 

 

「ふーやれやれ、こんな場はもう2度と来たくないなぁ」

 

 

 このままのペースで無事参考人招致が終わってくれるのを伊丹が期待した時である。

 

 ロゥリィの衝撃発言以降、自分の席で真っ白に燃え尽きたとばかりに意気消沈していた幸原の下へと彼女の秘書が何やら非常に慌てた様子で駆け寄ると、手にしていた封筒を渡すのが見えた。手渡すというよりはもはや無理矢理押し付けんばかりの慌てぶりであった。

 

 憔悴した様子の幸原議員が封筒の中身を取り出す。中身は何枚かの書類であった。するとそれに目を向けるなり幸原の両目がカッと見開かれ、次に彼女の目が伊丹へと向けられたのである。

 

 幸原の視線が、彼女の手元と席に座る伊丹の間を忙しなく行ったり来たりする。

 

 

 

 

 ……とてつもなく、嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

「それではこれにて全ての質疑応答を終了いたし――」

 

「お待ち下さい!」

 

 

 突然席から飛び出したかと思うと、幸原は委員長から名を呼ばれていないにも関わらず書類を手にしたまま、質問用のマイクの前へと立つ。

 

 本来、国会において今回のような参考人招致もしくは証人喚問を行う場合―両者の違いとして前者は出頭が任意かつ質問に対し嘘の回答を行っても構わないが、後者は強制出頭で一切の虚偽も認められない―質問内容が重複しないよう、事前調整が行われる場合が多い。

 

 つまりどの議員がどの質問を何番目に行うのか、という分担も議場が開く前にあらかじめ決められているものであり、今の幸原のように自分の順番を終えた筈の議員が突如としてマイクの前に向かうというのは、早々お目にかかれない展開であった。

 

 自然、議員も傍聴者もマスコミのカメラもイレギュラーな行動を起こした幸原へと一斉に注目した。レレイにテュカにロゥリィ、そして伊丹も同様である。

 

 それ故、幸原がちりめん問屋に扮したご隠居様が主役の某有名時代劇における切り札の代名詞である葵紋の印籠よろしく見せびらかすように突き出された書類の内容は、集まった議員らに目撃されたのみならず、マスコミのカメラによって全国波で流される運びとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 幸原が見せた書類の内容は用紙の面積いっぱいに拡大された画像であった。

 

 それは兵士姿の伊丹を映したものだった。自衛隊の作業服ではなく、ラフなジーンズやTシャツの上に明らかに自衛隊の正式装備ではない使い込まれた戦闘ベストや海外製の銃器で完全武装し、どう見ても日本国内とは思えない土地で武装した車両を背に立っているという構図の画像だ。

 

 幸原がもう1枚の書類を見せる。次の拡大画像にも同じく武装した髭面の老兵に強面のモヒカン、坊主頭といった外国人の兵士と共に周辺を警戒している伊丹の顔がバッチリと映っている。更に次の写真では戦場のど真ん中としか思えない、破壊された戦闘車両や廃墟、そして死体に囲まれた伊丹が銃を構えている姿が。

 

 それらの写真は全て遠方から隠し撮りしたに違いないアングルばかりであったが、どれも映っているのが伊丹本人であると、そして実際に破壊された建造物や本物の死体であると判別するには十分過ぎるほど鮮明な画質であった。

 

 

「これは明らかに伊丹参考人本人を映したものです。なぜ日本の自衛官である伊丹参考人がこのように海外において戦闘行為に加担していたのか、詳細な説明を伊丹参考人に要求します!」

 

「か、会議を一時中断します!」

 

 

 

 

 

 委員長が突然の中断を下した瞬間、議場中が怒号と狂乱の坩堝と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『最大の愚者は、最大の賢者が答えうる以上の質問をする』 ――コルトン

 

 

 




前回の更新に対する皆の感想が64式の話題ばっかりで笑いました。
やっぱり64式は人気ありますね!(なお実態)

M14は好きですがこれまで撃った7.62ミリ系統の中ではFALのスポーターが意外と撃ち易かった記憶があります。
そしてドットサイトは偉大。長物系のアイアンサイトはどうにも自分には合いませぬ…

手は右利きだけど利き目は左なせいで長物を構える時は右よりも左で構えた方が当てやすい人種だったりします。



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