GATE:Modern Warfare   作:ゼミル
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説明ばっかりで話が進んでませんorz

あとがきに参考資料としてちょっとした統計データを掲載してみました。



10.75:True Grit/告白

 

 

<00:17>

 伊丹耀司

 都内某所

 

 

 

 

 

 

「――とまぁ、そんなわけでここに辿り着いたわけだ」

 

「ふーん、へー、ほー?」

 

 

 参考人招致のせいで『門』の向こう側から呼び戻されてから梨紗宅へ転がり込んでくるまでの経緯をそれなりの時間を費やして説明し終えた伊丹に対し、元妻から帰ってきた反応はあからさまに不信感が滲む胡乱げな視線だった。

 

 伊丹としてはこれっぽっちも嘘は言っていない(ただし『嘘は』言ってないのであって『全て』話したわけではないのがミソである)ので、梨紗のこの反応は非常に心外であった。負けじとばかりに周囲に同意を求めようとする。

 

 

「おいおい、言っとくけど今言ったのは全部本当の事だからな? なぁみんな、そうだろ?」

 

「はぁ、確かに今隊長が説明したのは全て事実ではありますが……」

 

「説明してない事もいっぱいあるわよねぇ~? 例えばイタミが用意した武器の数々とかぁ、元老院であの現実が見えてないお馬鹿さぁんが見せた絵? についてとかぁ」

 

「そうですよ! あの写真が撮られる原因になったっていう例の合同部隊についての説明も、邪魔が入ったせいで途中までしか聞けてませんし!」

 

 

 伊丹の救援要請は援軍は援軍でも(梨紗)の援軍を招いてしまったようだ。

 

 栗林の言う邪魔の首謀者であるピニャ殿下はというと、手近な所に山と積まれて鎮座していた同人誌―大半が男同士の同性愛物―に興味を惹かれ、今はボーゼス共々薄い本を食い入るように読み耽っていた。

 

 文字は読めなくても、絵で大体の内容が理解できる利点こそ漫画の最も偉大な点である。なにせ超大国であっても字が読めず書けないという層が一定数存在し、その対策としてわざわざイラストを多用した軍の教本や兵器説明書を作成しているのだから。

 

 そんなわけで、同人誌に夢中になっているピニャとボーゼスの様子に(日本の漫画も異世界の人に通用するんだなぁ)と嬉しくなってしまうオタク代表の伊丹である。ただこの分だと大いに腐った嗜好になってしまいそうな点には思うところがあったが……

 

 

「合同部隊? 何それ初耳なんだけど。それに先輩達が持ってるその物騒な品々についても説明を求めます。つか吐け。洗いざらい全部話してもらうまで寝かしませんから!」

 

「梨紗、その言い方だと別の意味に聞こえるぞ」

 

「先輩セクハラです」

 

「隊長、それセクハラ」

 

 

 前から梨紗、後ろから栗林に同時に突っ込まれる伊丹である。特に梨紗なんぞは瓶底メガネの奥の目が完全に据わっていた。周囲からも「さっさと説明しろとコラ」という感じの視線が向けられているのを知覚した。

 

 

「先程も言ったが、私も伊丹の過去を教えて欲しいと思っている」

 

「わ、私も、ここまできたら一緒に教えてもらえたらなぁとは思うけど……」

 

 

 ロゥリィは無言で微笑むのみだったが笑顔の意味は明白であった。

 

 勝手に溜息が漏れる。市ヶ谷会館では説明途中で邪魔が入ってしまったが、そもそもあの時は栗林と富田、途中離脱した(正確には伊丹がそうさせた)駒門という日本政府側の人員だけだったからこそ伊丹は説明を決断したのである。

 

 だが今は、民間人である梨紗のみならずロゥリィら特地側の住民もこの場に混じっている。それどころか日本と戦争状態にある帝国側、その重要人物であるピニャまで加わっているとなると、伊丹の口が重くなるのも当然だった。当のピニャもいつの間にか同人誌を読むのを止めて視線を浴びせるのに加わっていた。

 

 

(どうせネットやマスコミに情報が流された以上、この分だと遅かれ早かれ政府の方もある程度の情報は公開するかな。どうせアメさんが口出ししてくるんだろうけどそれはあくまで政府レベルだろうし)

 

 

 レレイやテュカにロゥリィといった『門』の向こう側の現地住民と比較的良好な友好関係を結べている現状、隠し事の存在を知られている状況でそれでも口を噤み続ける選択は彼女ら、そして部下である富田と栗林らからも不評と不信感を買いかねない悪手である……伊丹はそう判断を下し、そして決断した。

 

 こうなったからには彼女らのお望み通り洗いざらい白状してやるのだ。ただし厄ネタ中の厄ネタ……合同部隊の総指揮官だったシェパードの裏切りに関しては決して教えてはならない。

 

 他に秘密にすべきは、ロシア軍が北米に侵攻した真っ只中、アメリカ東海岸に撃ち込まれた謎の核ミサイルを発射したのが戦友である事と、もう1人の戦友が実はあのマカロフの元同志という経歴の持ち主である点、この3つぐらいか。

 

 

「確か栗林と富田には、俺が特戦群から各国合同で編成された特殊部隊にスカウトされたって辺りまでは説明したっけ」

 

「えっ、先輩が所属してた部隊って特戦群だったんですか! あの先輩が特殊部隊!? それマジ!?」

 

「あー、そういや梨紗には言ってなかったな。スマン」

 

 

 夫だった男が特戦群所属と聞いた梨紗が驚きの声を上げた。一部極端な偏りがあるとはいえ、オタクらしい広い知識量を持つ梨紗は、特殊作戦群が陸上自衛隊唯一の特殊部隊であると知ってはいたが、まさか一見見た目も雰囲気も冴えない伊丹が、自衛隊員は自衛隊員でも特殊部隊の一員であった事までは知らされていなかったのだ。

 

 伊丹が妻であった梨紗に具体的な原隊を教えていなかったのは例によって機密保持の為である。

 

 

「イタミ、その『とくしゅさくせんぐん』とはジエイタイとは違う組織? 一体どういう位置づけにある組織なのか教えて欲しい」

 

 

 レレイが口を挟み、ちょっと考えてから伊丹は返答する。

 

 

「あのさ、魔導師にも他の人より強力な威力の魔法が使える人とか、複数の魔法を同時に精密に操作できる人とか、そういう特に優秀な魔法の使い手とかいるわけだろう」

 

「その通り。身近な例では私の師であるカトー・エル・アルテスタンも著名な賢者であると同時に、極めて攻撃魔法に長けた凄腕の魔導師でもある」

 

「へぇ、あのお爺さんがねぇ。要はまぁ自衛隊の中からそういう優れた兵士ばかりを集めて、普通の兵士がこなせないような特殊な任務ばかりを専門にした部隊の名称が特殊作戦群なんだよ」

 

「密偵と騎士団が一緒になったようなものか……ちょっと待った、つまりそのような部隊に所属していたイタミ殿もまた選び抜かれた精兵の一員だったという事か?」

 

「いや、まぁ、一応そういう扱いにはなるのかな」

 

 

 歯切れが悪いのは伊丹自身、は当時は優れた兵士であるという自負なんぞこれっぽっちも抱いていなかったからだ。

 

 

「話を進めるぞ。ある日俺は上官から呼び出しを受けて部屋に向かうと、そこには日本と同盟関係にある別の国の軍隊のお偉いさんがいて――」

 

 

 市ヶ谷会館のスイートルームで富田と栗林に行った説明を伊丹は繰り返す。

 

 

「ここからが本題だ。俺が放り込まれた合同部隊、タスクフォース141の任務はある男を追跡する事だった」

 

「待ってくれ、たった1人の人間を追う為だけに幾つもの国々が手を結んだというのか!?」

 

「それだけ厄介な相手だったんですよ」

 

「幾つもの国々から追われるような事など、その者は一体どのような大逆を犯したというのです?」

 

 

 ピニャとボーゼスが次々と疑問を投げかけた。説明する間にかの男が行った所業を思い出した伊丹の眼光が、冴えない男から地獄の戦場を腐るほど潜り抜けてきた兵士のそれへと変わっていく。

 

 

「そうだな、まず1発の爆弾で3万人の兵士を消滅させて、それから大国同士の戦争を起こす為に何の罪もない民間人を大勢虐殺して偽の証拠を残していった。

 戦争が終わりそうになったら一方の国の指導者を拉致して自分の息のかかった強硬派を使って、戦争に加わってなかった他の国々にも一気に攻め込ませた。配下の連中を使って攻め込む予定の国々の中心に毒をばらまいて、そこに住む一般市民ごと国の中枢を皆殺しにするって手段を取った上でね。つい最近、ほんの去年の話さ」

 

 

 伊丹の口から語られた内容に、聞いていた者達は全員絶句した。

 

 特地組はその内容のあまりの凄惨さに対し、日本組はそれらを行った人物に心当たりがあったが為に。

 

 

「……一体どれだけの人が死んだっていうの?」

 

 

 と、呆然と口にしたのはテュカである。

 

 伊丹は「そうだな」とちょっと考え込み、やがて頭を掻き毟りながら答えた。

 

 

「そうだなぁ、全部合わせて最低でも数千万。流石に1億人には届かないと思うけど」

 

「い、いちおくにん?」

 

「1億人だと……何だその数字は。こちら側の世界の戦ではそのような膨大の数の犠牲が出るほどのものなのか!?」

 

 

 文字通り頭を抱えたピニャが発した反応はまさに悲鳴そのものだった。深夜に若い女の悲鳴という組み合わせは何も知らない人間が聞きつけたら最悪110番ものなので、慌てて伊丹はピニャの口を塞ぎにかかる。

 

 ピニャ以外の特地組の反応は静かなものである。

 

 だがそれは内容を冷静に受け止めての反応ではない。度肝を抜かれ過ぎて思考が停止してしまっていたのだ。むしろ特地における戦乱の犠牲者数と比較した上で、その桁の違いに絶叫したピニャの方がまだ思考能力が働いていたと言えた。

 

 

「クリバヤシ、トミタ。今のイタミの説明は事実?」

 

「う、うん確かそうだった筈。だよね富田ちゃん」

 

「ええ、大体は。実のところは使用された化学兵器――毒によって汚染された大都市の爆心地周辺では、1年が経過した現在でも未だに汚染除去と復興や遺体の身元確認が完了していないところも存在しているので、下手をすれば今後も犠牲者の数が増える可能性もあると言われています」

 

「イタミは1発の兵器で3万人の兵が消滅したとも言っていた。それも本当なのか教えて欲しい」

 

「……それも事実です。我々の世界で核兵器が使用されたのは今までで4回。核兵器が1回使われるごとに死者だけでも最低数万、死者以外にも周辺地域に甚大な被害と汚染をもたらしました」

 

「ちなみに最初の2回は日本に落とされちゃったんだけどねー」

 

「ちょ、ちょっと梨紗さん」

 

 

 レレイもまた目を見開いたまま凍り付いた。元々が人形じみた無機質な美しさの持ち主なだけあって、微動だにしなくなったレレイは等身大の最高級フィギュアのようにも感じられた。

 

 テュカもテュカで、栗林と富田から核兵器の被害についての説明を聞かされてフリーズ状態が続行中だ。ボーゼスも同様であった。

 

 

 

 

 

 

 

「くふっ、うふ、ふふふふふふふふふふふふふ」

 

「ひぃっ!?」

 

 

 突如として室内に妖しい感じの笑い声が広がった。

 

 一同の視線が笑い声の出所へ向かうと、ロゥリィがそれはそれは愉快そうに、口元を笑みの形へと大きく歪めていた。

 

 見惚れそうなほど蠱惑的であると同時に、背筋に寒気が走って冷汗が浮かんでしまうぐらい恐ろしい、まさに死神ロゥリィの面目躍如なド迫力の笑顔である。ロゥリィの本性や逸話を知らない梨紗など引き攣った悲鳴を上げて彼女から逃げ出してしまったぐらいだった。

 

 

「何それ。なぁにぃそれぇ! これまで永い間エムロイの使徒として色んな暴君を見てきたけれどぉ、それほどの虐殺者は初めてよぉ!」

 

「だろうねぇ。こっちの世界の歴史に出てくる有名な暴君でも、アイツ並みに人を殺したヤツは滅多にいないだろうさ……いや、そもそもヤツは、暴君なんて大層なもんでもなかった」

 

「それじゃあ何だというのかしらぁ?」

 

「狂犬さ。ヤツには国境なんて関係なかった。権力と己の主義思想の為ならあらゆる危険な連中とも手を組んだし、敵を陥れる為なら自国民の虐殺すら厭わなかった。ヤツがどこかの土地に出没するたびに死体の山が積みあがったもんさ」

 

 

 そう吐き捨てた伊丹の顔に浮かぶ感情は、十年来の付き合いである梨紗ですら初めて見るほど冷たく険しいものだった。

 

 

「ふぅん、イタミはその人の皮を被った狂った獣の事をよく知ってるのねぇ」

 

「言っただろう、そもそも俺はそいつを追いかける為だけに編成された部隊にいたんだぜ? そいつが戦争を仕組んだ手掛かりを掴む為にまずブラジルから始まって次にロシアはカムチャッカ、アフガニスタン、インドから一気に飛んでアフリカ、それもシエラレオネからソマリアまで大陸横断して、そっから更に当時ロシア軍の占領真っ只中だったチェコに潜入して――

 そこで現地のレジスタンスと手を組んでようやく仕留められるかと思ったら罠に嵌まって仲間をまた失って、シベリアまで追いかけたけどそこでも取り逃がして、ようやくアラビア半島に隠れてたところを暗殺するのに成功したは良いけど集中砲火浴びて傷だらけになるわマグナムで撃たれるわで死の淵を彷徨う羽目になったし……

 ようやく日本に帰ってきてようやく同人誌即売会に参加できると思ったら『銀座事件』にも巻き込まれるし、よく死ななかったよなぁ俺。本気で1度御祓いしてもらうべきか……あ、あれ? 何だか涙が……」

 

 

 部屋の風景が妙に歪んで見えた。秘密を吐き出しているうちに悪戦苦闘の日々が脳裏に蘇ってついつい感極まってしまったらしい。

 

 思わぬ秘密を抱えてしまうとその重みに耐え切れず、時折他人に打ち明けてしまいたくなる衝動に駆られてしまうのが人が持つ性というものである。

 

 だからこそ神職者の職務には神や仏に縋るべくやってきた悩める信徒からの告白を聞いてアドバイスを説いてやるという仕事が含まれるのであり―その為、特に巨大な宗教組織は同時に世界有数の優秀な諜報機関であるとも言われている―また匿名掲示板の登場により、口の軽い掲示板住民が個人のくだらない秘密から最重要国家機密に至るまでポロッと溢してしまい、結果世間に知れ渡ってしまうという事例も後を絶たないのだ。

 

 どうやら伊丹も秘密を抱えた人間の一員としては例外ではなく、傍目には飄々と面倒事を上手く捌いているように見えても、心の奥底ではかなり鬱屈していたようである。

 

 ……いや、むしろあれほどの経験をし、かつ奥底に最重要国家機密クラスの秘密を抱えながら、それでも一般隊員としてあっさり社会復帰できている時点で、伊丹耀司という男は。

 

 たとえ巨大な圧力に押し潰されようが袋叩きにされようが劫火に炙られようが、時間さえ置けば元の形状に戻る事が可能なぐらい極めて頑丈かつ柔軟な、形状記憶ミスリル合金製メンタルの持ち主であると、そういう見方もできるのではないであろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「多分地名だったんだと思うけど、少なくともこの人がたくさんの土地と距離をずっと旅して追いかけ続けてきたんだって事は理解できたわ」

 

「私も同意見」

 

「イタリカでの戦いぶりからイタミ殿がかなりの猛者である事は分かっていたつもりだがまさかここまでとは……ボーゼス、改めてイタミ殿に感謝するのだぞ。もしイタミ殿が捕虜になった時にその気になっていようものなら、それこそ貴様らは皆殺しにされていてもおかしくなかったのだからな」

 

「き、肝に命じておきます」

 

「……そりゃそれだけの場数踏めばどんなオタクでも凄腕の兵士になれるし、あんな肉体にもなるわよね」

 

「そもそもただのオタクなら合同部隊に引き抜かれたりしてないんじゃないか?」

 

「あははー。嘘よー、これは夢なんだわー。私の知ってる先輩がそんなラ〇ボーや〇ガールみたいな腕っぷしなわけないものー……ガクリ」

 

 

 途中から愚痴混じりだった伊丹の告白を聞いた周囲の反応は千差万別だった。

 

 まるで下手に刺激したら襲ってきかねない獣みたいな扱いなピニャの感想もさることながら、特に梨紗の反応が酷いものであった。

 

 話の半ばからブツブツ呟き始めたかと思うと、最終的に白目を剥いてそのまま倒れてしまったのだ。彼女が知る普段の伊丹とのギャップも相まって心の許容範囲を大幅超過してしまい、思考と処理能力がオーバーフローを起こしてしまったようだ。

 

 

「おーいそんな格好で寝たら風邪ひくぞー」

 

 

 頬を軽く叩くが意識を取り戻さない元妻へ、溜息混じりにアニメキャラが描かれた毛布を引っ張り出して体にかけてやる伊丹である。

 

 

「とまあ俺個人の事情としてはそんな感じかな。当時の任務に直接関与した関係者はほんのちょっとしか残ってないけど、それでも全員が死んじゃったって訳でもないから、いざという時に備えて戦友同士の連絡手段は確保してあるんだけどね」

 

「隊長が用意していた銃と装備もその関係で調達したんですか?」

 

「そっ。と言ってもさ、出来る事なら近況報告とか思い出話する以外の理由で使いたくはなかったんだけどねぇ。ほら、分かるでしょ?」

 

「何となくは……」

 

 

 友誼を深める以外の理由で連絡を取り合う時は、即ち独力での対処が難しいトラブルが発生した時である。

 

 そして最重要国家機密クラスの秘密を抱える伊丹らがトラブルに巻き込まれたとなれば、必然的に極めて繊細な対処が求められる深刻な事態となってしまうのは避けられない。その点では参考人招致における野党議員による画像公開、そして複数の海外機関による情報流出は、とびっきり面倒としか言いようがない事態である。

 

 指導者を殺害された超国家主義派残党はもちろん伊丹らを激しく恨んでいるし、各国の諜報機関にとっても第3次大戦の裏側でマカロフと激しい暗闘を繰り広げたタスクフォース141、その貴重な生存者は注目の的だ。そんな有名人が現在超ホットな特地からの来賓、その護衛に就いているともなれば、一石二鳥を狙って目の色を変えるのも当然である。

 

 そして市ヶ谷会館近辺で襲い掛かってきた工作員集団を皆殺しという形で撃退した行為は、彼ら影で蠢く危険集団への宣戦布告に等しい。

 

 伊丹らからの予想外に激しい反撃に加え、工作員に多数の損害を出してしまった以上、彼らを狙う諜報機関のやり口はこれから更に直接的かつ過激な行動へシフトしていくに違いないであろう。伊丹とロゥリィが皆殺しにしてしまわなければまた違ったのかもしれないが、それは結果論でしかない。

 

 伊丹らもこれまで以上に警戒と対策を取っていかねばならない。しかし日本政府の助力を期待したくても、生憎市ヶ谷会館までの妨害工作の数々を踏まえると諸外国のスパイ網がかなり深い部分まで及んでいるのは明らかであり、そのような相手に頼るのはいささかリスクが大き過ぎた。

 

 こうなってしまっては伊丹独自のコネも活用すべきだが、物資調達以上の働きと危険を戦友らに求めなければならないとあって、流石の伊丹も非常に心苦しく思うのであった。

 

 今後の展望に肩を落とす伊丹に再びロゥリィが声をかけた。

 

 

「ところでぇ、重要な事をまだ教えてもらってないんだけどぉ?」

 

「ん、何かあったっけ?」

 

「名前よぉ。イタミが殺したっていう狂犬の名前。私達の世界にも存在しえなかった程の稀代の虐殺者ともなれば、死と断罪、そして狂気と戦いを司るエムロイの使徒として、名前ぐらいは知っておきたいわぁ」

 

「まぁそれぐらいなら構わないさ」

 

 

 軽い口調とは裏腹に、苦難と犠牲の果てにその手で殺した男の事を思い出す伊丹の眼光は、900年以上の生涯で幾多の益荒男を見てきたロゥリィですらも背筋がゾクリと震えるぐらいに、酷く冷え冷えとしていた。

 

 

 

 

 

「――マカロフ。ウラジミール・R・マカロフ。それがこの世界を焦土に変えようとして、それを7割がた実現させて、そして最後は俺達に殺された男の名前さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『私は不幸にも知っている。 時には嘘によるほかは語られぬ真実もある事を』 ――芥川 龍之介

 

 

 

 




MW3時に化学攻撃を受けた首都の人口(Wiki参考)
ロンドン:9,787,426人
パリ:2,249,975人
プラハ:127万人
ベルリン:3,520,031人
マドリード:3,165,235 人
ベルン:140,567人
ローマ:2,863,322
ブダペスト:1,737,000人
ワルシャワ:1,726,581人
コペンハーゲン:557,920人
ブリュッセル:1,163,486人

MW2・3で戦場になったアメリカの都市・地方の人口
ヴァージニア州:8,001,024人
ワシントンDC:601,723人
ニューヨーク:8,175,133人

以上の総合計:約44,952,000人


舞台になった都市の純粋人口だけでこれです。
これに軍人の被害に加え就業者が働きに集まる都市圏人口の場合なら更に倍へと跳ね上がるでしょう。

WW2の連合国・枢軸国双方の合計被害が約6200万人ですが、これらの被害は約6年間かけて出したのに対し、
MW時空のWW3が行われていた期間は8月14日前後(MW3の日付表記から逆算)~同年10月中旬(ロシア大統領親子救出直後)の2ヶ月間のみと考えると被害のとんでもなさが分かります。
具体的な被害総数はMWでは描写されずじまいでしたが、ヨーロッパなんかは首都圏だけでこれなので原作中では舞台や名前が挙がらなかった人口密集地も戦場になっていた場合、今話で伊丹に言わせたように被害者の数は1億人に到達している可能性も…

統計やら推測やらやってなければもう少し早く投下できたかも…(オイ)


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