GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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前話の反響の大きさにビックリ仰天しております。
幸原議員は人気者ですね(棒)

今回は話の進展が遅めです。


9.5:Fragmentary Report/情報的包囲網

 

 

 

 

<同時刻>

 栗林 志乃 第3偵察隊・二等陸曹

 東京都内某所

 

 

 

 

 

 

 

 

「トミタ殿、クリバヤシ殿。イタミ殿が映し出されていたこの『てれび』の中では今何が起きているというのだ?」

 

「さ、さぁ」

 

 

 ピニャが指差した薄型プラズマテレビの画面では、国の中枢に集まった老若男女の国会議員が喧々諤々に大騒ぎを繰り広げていた。

 

 都内の某高級ホテル。帝国側の仲介役に立候補したピニャと日本の外務省関係者による極秘裏の会談に、栗林と富田は通訳として同行。異世界を跨いで継続中の戦争を終わらせる為の第1歩を踏み出す事に成功した彼女らは、会談終了後の暇潰しとピニャらに日本をより知ってもらう為の勉強を兼ね、ホテルの空き部屋にて国営放送で生放送中の参考人招致を通訳組の説明を受けつつ観ていたところであった。

 

 今や国会内は乱闘の舞台と化しつつあった。それなりに良い服を着ているいい歳した大人達が与野党入り乱れての取っ組み合いすら始めている。だがそこに栗林の上官や賢者見習いやエルフや亜神の姿はない。怒号の応酬が始まった直後に参考人一行はさっさと議場から退場していたのである。

 

 異世界からの代表者に日本の国政の代表者達が騒乱しているさまを見られている事よりも、議場が紛糾する原因となった伊丹の写真の方が栗林の精神を動揺させていた。富田も栗林と同じだ。

 

 すると栗林と富田の胸元で同時に携帯が振動した。現在起きている大騒ぎの元凶である伊丹からのメールであった。

 

 メールの内容は『大至急ピニャらを連れて会談会場を離れ、地下鉄丸の内線から国会議事堂方面の電車に乗れ』であった。時刻まで指定されているのは車内で直接合流するからであろう。

 

 

「すみませんがピニャ殿下にボーゼスさん、今すぐここを離れて我々に付いてきて下さい」

 

 

 非公式とはいえ重要な会談に混じるとあって現在の栗田と富田は自衛隊の制服姿である。

 

 慌てて用意しておいた私服に着替えた自衛隊組は、メールの指示通り戸惑うピニャとボーゼスを連れて地下鉄丸の内線を目指す。

 

 会談組が最寄りの地下鉄駅に到着した時、指定された電車がやってくるまでにはまだ幾分の猶予があった。

 

 お上りさん丸出しで初めての駅構内を眺め回すピニャとボーゼスを横目に見張りつつ、横に並んで電車を待っていた栗林と富田は自然と先程見ていた国会中継について会話を交わし始めていた。

 

 

「なぁクリ、さっきテレビで見た隊長の写真、あれどう思う? まさか合成写真だったりするんじゃないか」

 

「いやぁー多分あれ本物だと思うかなぁ、私は」

 

 

 腕組みをして栗林は応える。下から持ち上げるように組まれた両腕によって、ただでさえハッキリと冬服を押し上げている爆乳がより強調される格好になっているのに彼女は気付かない。

 

 少し考え込んだ素振りを見せた後、栗林はポツリと呟いた。

 

 

「富田ちゃんはさ、ボーゼスさん達に連行された伊丹隊長を救出しに行った時の事覚えてる? 私らがフォルマル家のメイドさんらに案内されて伊丹隊長と再会した時、隊長服を脱いでたでしょ」

 

 

 伊丹隊長、と名を呼ぶ栗林の声に、これまでの彼女の発声には含まれていなかった敬意の念が帯びている事に富田は気付いた。

 

 オタク死すべし慈悲は無いと相手が上官だろうが嫌悪の感情を見せていた脳筋爆乳娘の突然の変化に、「栗林が伊丹隊長を敬う日なんて果たして来るんだろうか?」と密かに思っていた富田は、驚きに目を見開くばかりである。

 

 

「その時見えた伊丹隊長の体、凄い傷だらけだった。右胸に残ってた傷跡なんか明らかに銃創だったし、特地や『銀座事件』以前に隊長が実戦を経験してるのは間違いないと、私は思ってる」

 

 

 だが富田は、伊丹の傷跡について語る栗林の目が思春期の女子学生が、密かに思いを寄せるクラスメイトの男子を陰から見つめている時のような熱を帯びたまなざしをしているのについては見落としてしまった。

 

 

 

 

 

 日本には『百聞は一見にしかず』ということわざが存在する。

 

 読んで字のごとく、直接目の当たりにして得た情報の方が、人伝に聞く以上に物事を正確に理解できるという意味することわざである。

 

 栗林の原隊は自衛隊体育学校である。プロスポーツ選手やオリンピックメダリストを多数輩出しているこの部署には伊丹よりも屈強な肉体の持ち主は腐るほど存在するだろう。

 

 だが伊丹の肉体は銃創を含んだ数え切れないほどの傷に覆われている。彼のように戦場の古傷を肉体に刻んでいる者はまず存在しまい。なぜなら自衛隊は公式には実戦を経験していない組織だからだ。傷跡を持つとしても、訓練中の怪我か被災といったアクシデントによって受けたものが精々であろう。

 

 誰が最初に言ったのかは知らないが、傷は男の勲章だとされる。その認識でいえば、明らかに生半可ではない戦場を生き延びた引き換えに傷だらけになった伊丹は男の中の男……と形容しても良いのかもしれない。

 

 話は変わるが、軍隊という組織は基本男所帯である。栗林も男性自衛官の下着姿程度であれば、唐突に出くわしたのでも限り動揺しないぐらいの耐性は身に付けていた。

 

 だが栗林が見慣れた男どもの姿は、どれも厳しい鍛錬で鍛え上げられた屈強な肉体ではあるが、過酷な経験を物語る古傷などはほとんどない、いわば高性能だが実際に使うにはもったいなくて使われぬまま仕舞い込まれてしまっている高級ライフルのような連中ばかりであった。

 

 そんな折、栗林はフォルマル家の邸宅で素肌をさらけ出した伊丹の肉体を目撃した。体育学校の男どもが実戦未使用の高級ライフルなら、伊丹は一見不格好だが数多の実戦でその信頼性と実績を積み重ねてきたガバメントやAK47の如き歴戦の名銃である。

 

 伊丹に刻まれた幾重もの傷跡、それは普段は冴えないオタクである筈の上官が、実は自衛隊では極めて稀有な実戦経験豊富な精兵であるという認識を野盗集団相手の戦いぶりを目撃した時以上の衝撃でもって栗林の脳髄へ叩き込んだと同時に、奇妙な胸の高鳴りを彼女の豊かな胸の奥で生じさせていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……という事は、あの写真は本物という事になるのか? 伊丹隊長が特戦群の一員だったのは本当の事らしかったが、まさか海外で実戦も経験していたとはな。そりゃ『銀座事件』やイタリカでもあれだけ暴れられるわけだ」

 

「あの写真の場所ってどの辺りなんだろ。白人の兵隊と一緒に映ってたのを踏まえるとやっぱりアメリカさん辺りとの合同っぽいし、やっぱアフガンとか中東?」

 

「いや、一緒に写真に写っていた死体は黒人のものだったから、アフリカで撮られたものの可能性が高いんじゃ――」

 

「トミタ殿、クリバヤシ殿。何やら先程からイタミ殿の事について話しておられるようだが、兵士であるのならば戦場で武勲を積むのはごく当然の事ではないのか?」

 

 

 駅の見物よりも2人の会話の方に興味が移ったピニャからの質問に、富田はちょっと躊躇ってから正直に教えてやる事にした。

 

 

「ピニャ殿下、我々自衛隊は幾度か海外の紛争地帯に派遣されて現地の治安維持やインフラ構築といった活動を経験しておりますが、実は表立って戦闘に参加した経験は『門』が開く直前まで1度もなかったのです。その分、訓練に訓練を重ねて技術は磨いているのですが」

 

「そ、そうだったのか!?」

 

 

 自衛隊の実力をその目でまざまざと見せつけられたピニャは富田からの返答に目を剥いた。あまりに常識外れな火力と戦闘力を有する自衛隊が、実は帝国と開戦するまで実戦らしい実戦を積んでいなかったと聞かされてもピンと来なかったのである。

 

 話をしてい間にとうとう指定された便の電車がホームに入ってきた。特地で自衛隊が運用していた高機動車や輸送防護車のようなゴムタイヤを履いた車両とはまた別種の、長方形の鋼鉄製車体が何両も連なった乗り物の登場にピニャとボーゼスは目を白黒させていた。

 

 

「それではお2人もこれに乗って下さい」

 

 

 促された第3皇女と部下の金髪縦ロールはおっかなびっくり電車の先頭車両に乗り込んだ。圧縮空気が放出される音と共に電車のドアが勝手に閉まったのを見た2人は今日でかれこれ十数回目の驚きに襲われた。

 

 4人を乗せた電車は電気駆動特有の甲高い駆動音を伴いながら滑るように出発。途中から電車が地下を走るようになるとピニャとボーゼスが動揺し始めたので、富田と栗林は大きな騒ぎにならないよう特地組の2人を宥めすかさなくてはならなくなった。その結果……

 

 

「ううう……」

 

「……(じと~~~)」

 

「そんな目で見るなよクリ、仕方ないだろう……」

 

 

 ボーゼスによって腕をしがみつかれた富田を栗林が白い目で見つめる、といった光景が繰り広げられたのは余談である。

 

 そのまま電車は国会議事堂前駅に到着。連絡があった通り、議場を抜け出してきた伊丹とレレイとテュカ、それにロゥリィも電車に乗り込み合流を果たす。

 

 

「よう、お疲れさん。無事合流はできたな」

 

 

 軽く手を挙げて声をかけてきた伊丹の服装は、国会中継の時に着ていた制服ではなくグレーのスーツにコートという組み合わせへと変わっていた。

 

 それだけならば、都心の地下鉄でもよく見かけるくたびれたサラリーマンと言われてもこれっぽっちも違和感は感じまい。ただし妙に膨らんだスーツの下と背負った大型のダッフルパックの存在が違和感を放っていた。

 

 そもそもこのダッフルバッグ、『門』を通過した時点では全く見かけなかった存在である。一旦分かれる前に牛丼屋で食事を取った際、突然姿を消したかと思ったらどこからともなくこの大きなバッグを持って戻ってきたのである。栗林も富田もバッグの中身については教えられていない。

 

 

「最初はバスで移動って聞いていたのに、急に地下鉄に乗れって言われてびっくりしましたよ。大体伊丹隊長も、参考人招致はまだ正式に終了していなかったのに抜け出してきて大丈夫なんですか?」

 

「あの状況であそこ(国会)に留まり続けたって面倒事が増えるだけだからねぇ。待合室に籠城するわけにもいかないし、かといってまた質問に付き合わされても多分ロクな事にならなかったと思うよ」

 

 

 そう言って伊丹は肩をすくめた。その拍子にコートの前が開いて上着の下の様相が垣間見える。

 

 そして栗林と富田は、初めて銀座を目の当たりにした時のレレイやピニャらのように大きく目を見開く事となった。

 

 伊丹はスーツの下にソフトタイプのボディアーマー(その名の通り硬く重い防弾プレートを使わずアラミド繊維といった比較的柔らかい防弾素材を使用した防弾チョッキを指す)を兼ねたタクティカルベストを着込んでいた。もちろん付属のポーチには弾薬が押し込んである。そして腰にもホルスターと拳銃用のマガジンポーチが並んだベルトを巻いており、何よりスーツの裾からはグリップやら銃身やらがチラチラ覗いていた。

 

 そう、今の伊丹は明らかに複数の銃器で武装していたのである。

 

 

「ちょっ、伊丹隊長何ですかそれ!?」

 

「しーっ! 声が大きいって!」

 

 

 伊丹は血相を変えて問い詰めてきた栗林を慌てて黙らせると、彼女を富田共々ドアの方へ引き寄せ、それから他に乗り合わせた乗客らの目から隠れるように、レレイらを周囲に取り囲むように配置させた。ロゥリィが日本にやって来てからも布でグルグル巻きにした上で持ち歩いているハルバードが、丁度良く周囲の目を遮ってくれた。

 

 背負っていたダッフルバックを伊丹が下ろすと、いかにも重たげなバッグの中からガシャリと小さく金属音が聞こえた。伊丹がバッグの口を開けて中に手を突っ込む。

 

 

「富田、栗林。お前らも念の為にこれ持っとけ」

 

 

 そう言って伊丹が取り出したのは銃であった。しかもそれらは栗林と富田には馴染み深い9ミリ拳銃といった生易しい物ではなく、携帯性に優れているがフルオート射撃可能なサブマシンガンやPDWといった、日本国内どころか海外でも簡単には入手できない高性能な銃器だったのである。

 

 栗林には4.6ミリ弾という小口径だが貫通力に優れた弾薬を使用する、拳銃よりも一回り大きい程度のH&K・MP7・PDWを。

 

 富田にはAK系統の機構とパーツをベースにヘリカルマガジンという大容量マガジンを採用したイズマシュ・PP19、通称ビゾン・サブマシンガンが手渡された。

 

 渡された2人はこれまた目を白黒させながら戸惑いつつも受け取ると、すぐさまコートやジャンバーといった外衣の下に隠す。予備弾薬は私物のバッグへ仕舞い込む。

 

 銃を受け取ったところで改めて参考人招致での写真の件やら物騒な品々の調達先やらを栗林が訪ねようとした瞬間、電車が霞が関駅へ到着のアナウンスが流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<2017年冬/18:20>

 伊丹耀司

 地下鉄丸の内線・池袋方面行き電車内

 

 

 

 

 

 

 霞ヶ関駅からは駒門が乗り込んできた。最初に顔合わせした時は感情の読めない薄笑いを浮かべていた公安部所属のスパイであったが、たった今電車に乗ってきた彼はうって変わって隠しきれない焦燥と緊張による険しい表情を張り付けていた。

 

 駒門の細い目は今や剥き出しの刃と化して鋭く伊丹を貫いている。誤魔化しは許さないと目が饒舌に語っていた。

 

 

「伊丹さんよ、アンタ本当に一体何者なんだ?」

 

 

 挨拶も前置きも抜きに駒門は直球で伊丹に詰問する。栗林の上官は駒門の視線を真っ向から受け止めた上で、それでも軽く肩を竦めてみせた。

 

 

「知ってるでしょ? 俺は上からの受けが悪いただの自衛官で――」

 

「伊丹さんよ、アンタはもう、そういう誤魔化しはもう通用しなくなってる立場に追い込まれてるんですよ」

 

「……どういう意味かな。国会で野党のオバサンが持ち出してきた写真の件について、そっちでも何かあったんで?」

 

「あの議員が例の写真を公開して参考人招致が急遽中断された直後、ネット上にアンタの新しい写真と情報がリークされたんですよ」

 

 

 創作の世界では陰謀の黒幕の代名詞として有名な諜報機関の元職員で大国による情報収集活動についての暴露で一躍有名となった人物も関与している某大手機密情報公開サイトを中心に、一部の海外マスコミも日本の自衛隊員が海外での非合法軍事活動に関与していたという情報を断片的ながら公開したのだという。

 

 

「伊丹さん、アンタアフリカ以外にブラジルのリオデジャネイロに行った経験はおありで?」

 

「あー、ほんの数時間ばかりだけど実は」

 

「リオデジャネイロのスラムで発生した現地の民兵と外国人ばかりで構成された謎の武装集団との大規模戦闘、その記録にアンタや例の写真に一緒に映ってたお仲間も含まれていたそうだ。これまでは同時期に発生したロシアでの空港テロや、そこから起因する第3次大戦の勃発に覆い隠されてあまり世界には知られていなかったそうだがね」

 

「あそこは民間人も複数入り乱れてたから、どっかで撮影されてたっておかしくないわなそりゃ……」

 

 

 ビデオカメラと言わず今時はスマホ1つあれば誰だって素人カメラマンになれるご時世である。『銀座事件』でも命からがら異世界の軍勢による殺戮から逃れた生存者が記録した画像や動画が腐るほどネット上に公開されていた。

 

 

「どれも本物じゃなくて合成でしたー、で押し切れません?」

 

「そうしらばっくれようにももう手遅れですよ。これが汚名返上に焦った一個人のみが騒いだのならともかくこうも同時多発的に、しかも国外からも大々的に情報が公開されたとあっちゃ、火消しは困難を極めますよ」

 

「ですよねー」

 

 

 第3次大戦の引き金となった空港テロ事件が良い例である。マカロフの謀略によって(加えて表沙汰にはなっていないシェパードによる情報操作)CIAの工作員がロシア人虐殺に直接加担させられ、報道機関と政府もアメリカの関与ばかり強調し、ロシア国内の世論も悪意ある誘導に流された結果、アメリカ東海岸と欧州全土は地獄の戦場と化したのである。

 

 現在の伊丹の立場は空港テロ事件におけるアメリカ側によく似ている。つまり疑惑の張本人としてあらゆる存在から追及される身に追いやられてしまったのであった。

 

 厄介なのは、疑惑の内容がまさに事実そのものである点だ。

 

 公開された情報は内容が重複しているものもあれば、公開した機関によっては全く別の内容だったりもする。だがそれらの情報はいずれも『自衛隊員である伊丹が世界各国で非合法な実戦に参加していた』という結論へ誘導するよう、明らかに内容に手が加えられていた。

 

 つまり『事実』ではあるが『真実』ではない。

 

 

「『戦争の最初の犠牲者は真実である』――誰の言葉だったかな? 」

 

 

 ただし伊丹らがブラジル、そしてアフリカの戦場に至るまでの経緯と事情まではまだ明らかにされていない。

 

 この手の騒動でまず大衆が注目するのは誰が何をやらかしたかについての内容、そこから数段下がって事の経緯となる。それら以上に良くも悪くも無視されがちなのは、各当事者の重要なバックボーンとなる事情、行動実行に繋がる動機といった心理的要素だ。情報が公表されたばかりの段階では尚更である。事情が追及されるようになるのは後世になって物好きな歴史家かジャーナリストが当時の関係者にインタビューしに回るようになってようやく、といったところか。

 

 だがしかし、こと今回に限ってはその事情こそが何よりも隠さねばならぬ最上級の機密であるのは、いっそ皮肉ですらあると、そんな感想を抱いてしまう伊丹である。

 

 

「おまけにあらゆる関係各所が事態の収拾と情報の出所の調査に駆り出されて、本来アンタらを警護する為の人員まで今や大幅に減らされてる有様ですよ」

 

「そいつぁまた何と言いますか、本末転倒な気が……いや仕方ないのは分かりますけど」

 

 

 溜息を吐いて後頭部を掻き毟る伊丹。駒門の視線が腕を持ち上げた際に覗いた伊丹の胸元に移り、コートの下に隠した大量の武装が公安警察官の視界に入った。

 

 

「こちらとしても今アンタが持ってる物騒な品々の入手ルートについてお尋ねしてやりたくもありますが、今は見なかった事にしてきますよ。ただ民間人の前で使うのはできる限り避けて下さいよ」

 

「それは相手の出方にもよりますんで保証はできかねるかなぁ」

 

「……せめて民間人の誤射だけは絶対にしないでくれ」

 

 

 その時伊丹の左腕に誰かが抱きついてきた。見下ろしてみると相手はロゥリィである。野盗相手に大立ち回りを行った人物とは思えないぐらい怯えていた。

 

 付近を見回してみると、他の特地組もロゥリィほどではないが、それでもかなり挙動不審気味だ。聞いてみると地下を移動中という現在の状況が、特地側からしてみれば地下墓地か邪神の住処にでも連れていかれているような不気味な感覚を抱かせている様子である。

 

 このままの状態を放置すると万が一の事態が発生した場合の対応に支障をきたしかねない、伊丹はそう判断した。それほどまでに彼女ら、特にロゥリィの動揺は酷かったのである。

 

 1度判断を下してからの伊丹の行動は迅速であった。

 

 

「悪い駒門さん。俺らここで降りるわ」

 

 

 丁度銀座駅に到着したタイミングだったのもあって、伊丹はロゥリィを左腕にぶら下げたままさっさと車内から出て行ってしまった。続いて遅れてたまるかとばかりに特地組、少し遅れて栗林と富田も後を追う。

 

 

「ちょ、ちょっと待て! ただでさえアンタのせいでてんやわんやだってのに、これ以上勝手な事は――」

 

 

 最後に我に返った駒門が、乗車しようとする人波を掻き分けどうにか列車から降りる事に成功する。

 

 

 

 

 直後、伊丹らが下りたばかりの電車が架線事故によって線路上で緊急停止したというアナウンスが構内中に流されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『偽りを言うのは容易い。だが真実を明らかにするには、しばしば多くの時間を費やさねばならない』 ――レーニン

 

 




国会での反撃を期待された読者の方も多かったですがそうは問屋が卸してくれない模様。

登場銃器は各メディア版GATE&MWシリーズに登場した物のみ使用する縛りを行ってましたがそろそろ作者の趣味に走ろうか考え中です。

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