GATE:Modern Warfare   作:ゼミル
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特戦群側の編成と装備はアニメ版準拠です。
アニメ資料集を読んで初めて知ったんですが特戦側の隊員も暗視装備使ってたんですね…


12:1st Wave/前哨戦

 

 

 

<21:30>

 伊丹耀司

 神奈川県箱根町・山海楼閣

 

 

 

 

 楽しい時間というものは得てして早く過ぎてしまうもので、温泉から上がり、見事な夕食を堪能し、食事も終わって食後の一服まで済ませる頃には日付が変わるまでほんの3時間足らずという時間を迎えていた。

 

 せっかくの温泉宿なんだから、もう少しゴロゴロしたり、2回目の温泉を堪能するなり、酒盛りの1つでもやったり……などという欲望が伊丹の脳裏を過ぎったが、温泉と料理は堪能していても伊丹らの役目はあくまで特地からの来賓の護衛なのだ。

 

 こと戦闘に関わる事柄に対して、伊丹耀司という男は意外なほどに誠実で勤勉、かつ必要ならば手段を択ばない性分であった。

 

 それは10年にも達しようかという自衛隊での勤続経験の賜物――ではなく。

 

 海外で活動していたTF141時代、より正確にはシェパード暗殺後、国際指名手配されながら国の支援もなく、傭兵稼業で経費を賄いながら独力でマカロフを追跡していたほんの数か月間の体験によって必要に迫られた結果培われたものであった。

 

 手を抜けば自分か、或いは仲間の命で代価を払う羽目になる。そのような状況が日常茶飯事、どころか毎日続いたともなれば、グータラの見本のような伊丹でも性根を入れ替えざるを得なかったのだ。

 

 そんなわけで、温泉にも入って栄養もたっぷり補給し終え、宿の仲居さんが敷いてくれたふかふかの布団も堪能して英気を十分養った伊丹は「よしっ」と起き上がると、

 

 

「富田ぁ、ちょっとこっち来い」

 

 

 大きくてずっしりと重量感のあるバッグを複数まとめて引っ張ってきてから富田を手招き。

 

 言われた通りに近づいた富田がバッグの中身を覗き込むと、案の定日本警察や自衛隊が採用していないタイプの銃器とその弾薬、戦闘ベストといった装備品がそれはもう大量に収められていた。参考人招致前後に伊丹が用意した装備よりも更に大型で火力も高い銃器が揃っている。中には対人榴弾などを発射できるグレネードランチャーまで含まれている始末だ。

 

 最早何も言うまい。銃器押収を主に担当する税関や警察の生活安全課が見たらひっくり返りそうな品々を前にして思考を放棄する富田である。

 

 

「今のうちにどの銃と装備を選んで何時でも身に着けられるようにしとけ。もし特戦群の護衛が破られるような事態になったら、俺達3人が特地から来た皆を守る最後の砦だぞ」

 

「伊丹隊長、宿の周囲を守ってくれているのはあの特戦群ですよ? もう少し同じ部隊にいた仲間の皆さんを信頼してもよろしいのでは」

 

「あのさぁ富田ちゃん。元居た部隊の仲間を信用するのと万が一に備えて警戒しておくってのは別の話でしょ? 俺だって一応同じ釜の飯食った仲間なんだからあいつら(特戦群)の強さは理解してるよ。それでも万が一の事態があって、敵がこの旅館まで辿り着いちゃう可能性だってあるわけだろ」

 

「万が一の事態とは、やはり何らかの要因で防衛網が突破された場合でしょうか」

 

「それもありえるし、それ以外の理由もあるかもしれない」

 

 

 伊丹の脳裏に蘇るは、TF141の総司令官本人が部下を裏切り、何も知らぬ隊員らを皆殺しにしようとした忌まわしき記憶。自然と眼光が異様な迫力を帯び、その目に射竦められた富田はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 嘉納の事は心から信頼している。だが彼の周囲はどうだろう。嘉納よりも上の地位に就いていて、嘉納の頭越しに特戦群へ強権を発動できる立場の人間は? 来賓らの身柄を日本から掻っ攫いたい超大国の権力者らが圧力を加えてきて、それに上の人間が屈したら? そうなれば特戦群による護衛は解かれ、伊丹らのみ取り残される展開もありえるであろう。

 

 超国家主義者ら、背景に政府を持たないならず者連中の事も決して見くびるわけにはいかない。何せ武と知を巧みに使い分け、世界の半分を実際に焦土へ変えてしまった連中だ。必要だからといって本当に核爆弾や化学兵器を持ち出し、躊躇いなく行使した実績もある。手段の選ばなさもあって最も出方が読めない連中であった。

 

 

「とにかく確実に安全って保障がない以上、何時でも対応できるよう装備は整えておけ」

 

 

 言いながら、旅館スタイルの代名詞である浴衣姿から一緒に用意されていたコンバットパンツに着替える伊丹。それから多数の弾薬を携行する為のチェストリグへと手際良く予備マガジンを詰め込んでいく。

 

 富田も言われた通りに浴衣から昼間に来ていたのと同じ私服姿に戻ると、自分用の装備を決める為にバッグの中を漁り始めた。

 

 最終的に富田がチョイスしたメインアームはDSA社製SA58・OSW。AK、M16、G3と肩を並べるベルギー産の名銃FALをアメリカの銃器会社が現代流にカスタマイズした代物である。

 

 元となったFALが全長1メートル越えだったのに対し、SA58は屋内戦でも対応可能なよう銃身を短縮化し折り畳み式ストックを採用。現代の主流である光学サイト類を装着可能なレールシステムも追加しており、実際富田が選んだ銃にも中~近距離向けの低倍率ドットサイトにフラッシュライト、フォアグリップが装着されていた。

 

 使用弾薬は7.62ミリNATO弾。大威力の弾薬に短銃身という組み合わせは反動制御が難しくなるという弱点があるものの、口径自体は特地でも使っていた64式と同じだし体格の良い富田であればまぁ使いこなせるであろう、伊丹はそう判断して口出しは控えておく。

 

 サイドアームは温泉に持ち込んだのと同じSIG社のP320自動拳銃だ。

 

 SA58を選んだ当の富田はストックを伸ばして肩付けの姿勢で構えてみたり、ドットサイトを覗いてみたり、マガジンを装填せずにボルトを前後させては(もちろん安全のため窓の方に銃口を向けた上で)引き金をゆっくりと絞ったりと、これから命を預けるかもしれない銃器の使用感を丹念に確かめていた。

 

 よくよく観察してみると、ほんのちょっぴり楽しそうにも見える。

 

 自衛隊は諸外国の軍隊と比較すると、採用・運用する銃器の幅がかなり狭い。そこら辺は実戦運用に足る良質な銃であれば外国産の製品でも吟味した上で大々的に採用する海外の軍隊とは違い、事情があるとはいえ国産品に拘るあまり、外国産よりも性能で劣る銃器を高値で購入せざるをえないシステムが原因である。

 

 最近は友好国との合同演習にかこつけて演習相手の国で採用されている銃器に触れる機会が増えているとはいえ、普通の自衛官が64式や89式に9ミリ拳銃といった国産メーカー以外の銃器を扱える機会は少ない。精々自腹を切って海外の射撃場へ撃ちに行くのが精一杯であろう。

 

 そんなわけで、勤勉誠実の手本のような富田も海外の最新銃器にじっくり触れる機会が期せず巡ってきたものだから、彼にしては珍しくはしゃいでしまっているのであった。

 

 

「自分、FALのカスタムモデルなんて触るの初めてですよ」

 

 

 そうしみじみと呟く富田である。感慨深げな部下の様子に苦笑しながら、伊丹は金属製の筒を投げ渡す。

 

 

「夜だし一応観光地なんだからサイレンサー付けとけ。専用の弾薬まではないから効果にも限界はあるけど、発砲炎は誤魔化せるからな」

 

 

 言って伊丹は自分の作業を再開。上官が手に取った携行用の弾薬を見た富田はある疑問を抱いた。

 

 

「隊長。どうして5.56ミリと7.62ミリ、2種類のマガジンをベストに?」

 

「そりゃもちろん、7.62ミリを使う銃と5.56ミリを使う銃、どっちも装備するからさ」

 

 

 普通の歩兵は、主力となるライフルを除けばサイドアームの拳銃に銃剣、手榴弾を何個か所持するだけである。実際、特地に派遣された自衛隊員らが偵察任務に赴く場合の装備も64式小銃に9ミリ拳銃、火力支援担当の隊員は64式の代わりにミニミ軽機関銃を所持、といったぐらいか。

 

 もっと軍事に力を入れている先進国の歩兵部隊ともなると、隊員2~3名に1人の割合でアサルトライフルの銃身下部に装着するタイプ、もしくは単体運用が可能なモデルのグレネードランチャーや、場合によっては装甲車両から敵が隠れる建築物ごと爆砕可能なロケットランチャーを追加で携行させる形になる。扉を破っての屋内戦が想定される場合は短銃身のショットガンの出番だ。

 

 とはいえこれらは使用タイミングが限定されており、通常はメインアームたりえない。性能と方向性が尖り過ぎているのだ。だからこそ射程・威力・装弾数その他諸々のバランスに優れたアサルトライフルが普段使いのメインアームとして扱われているのである。

 

 逆にメインアームとなるライフルを2種類も携行するというやり方も一般的なセオリー通りの装備とはいささか言いにくい。気になった富田は、思い切って伊丹に尋ねてみた。

 

 

「海外で活動してた時はとにかく少人数での作戦が当たり前でさ。普通の歩兵としての活動以外にもスナイパーの真似事までしょっちゅうやらされたもんで、必然的に狙撃用と突撃用、2種類のメインアームを抱えて戦うのが身に染み付いちゃってねぇ」

 

 

 似たような例としては単独、または観測手との2人編成で敵支配下の戦地にて狙撃や偵察を行う前哨狙撃兵(スカウトスナイパー)がある。

 

 彼らは狙撃用ライフル以外にも護身用としてアサルトライフルやサブマシンガンも携行して任務に就く。敵部隊に存在が発覚したり撤退時に追撃を受け敵兵に接近された場合、精度と威力の代わりに連射性能に劣る狙撃用ライフルでは対処しきれないからだ。

 

 

「それにさ、さっきも言ったけど特戦群の守りが抜かれたら残る自衛官は俺達3人だけなわけだ。実行できるかどうかはまた別としても、どんな状況にも対応できるよう使える手段は多い方が良いだろう?

 富田も余裕のある範囲で良いからもう1丁ぐらい他の武器を見繕っておいてくれ。出来れば支援射撃に向いたのが良いな」

 

「では装弾数の多い軽機関銃か火力の高いグレネードランチャーでもあれば良いんですけれど」

 

 

 富田は再びバッグの中の銃器を漁り始める。語り終えた伊丹はチェストリグのマグポーチに弾薬を収めていく作業を終えると、先程の富田と同じように今度は選んだ銃器の点検作業に移る。

 

 それはある意味において、特地で使っていた64式小銃以上に伊丹の手に馴染んだライフルだった。

 

 

「これも何かの縁か、それともわざとコイツを選んで持ってきたのかな、野本のヤツ」

 

 

 彼の手に握られているのはM14EBRライフル――海外時代の愛銃である。

 

 構えてみると、特地で使ってきた重量4キロ超の64式よりも更に重たく、厳めしい。

 

 にもかかわらず、伊丹にはこれ以上ないぐらい、手にしっくりと馴染むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 数分かけてM14EBRの点検を終えた所で、伊丹は手を止めるとおもむろに立ち上がった。

 

 ちなみに伊丹用のM14EBRは狙撃用スコープにフォアグリップ、サイレンサー、50連発用のドラムマガジンを装着。チェストリグに詰めた方のマガジンは20連の通常サイズだ。

 

 5.56ミリに関しては昨晩から引き続きM7A1・PDWを使う。サイドアームもグロック18が続投。ライフル用マガジンポーチ前面に付属したハンドガン用ポーチに通常マガジンを、左太腿に巻き付けるタイプのマガジンポーチにも33連ロングマガジンを数本差し込む。

 

 

「隊長、どちらへ行かれるんです?」

 

「クリボーにも自分の装備を整えさせにな。ちょっくら呼んでくるわ」

 

 

 もちろん護身用にグロック18をズボンに挿して隠し持っておくのは忘れない。

 

 女部屋を訪れてふすまをノックすると、すぐに「どうぞー」と返ってくる。許可も貰ったのでふすまを開けて中を覗いてみると、ちょうど女性陣が机の上に乗せられた伊丹の見覚えのないビニール袋を取り囲んでいる現場に出くわした。

 

 

「何してんのみんな」

 

「クリバヤシとリサがぁ、『ニホン』のお酒を買ってきてくれたから今から酒盛りを始めるところだったのよぉ」

 

 

 どうやら近くのコンビニかどこかから酒類を調達してきたらしい。

 

 元嫁についてはまだ良いとして、問題は栗林の方だ。

 

 

「栗林ぃ……お前さぁ、一応皆のエスコート役で通訳とかそれ以外にも仕事があるんだからさ、堂々と酒盛りの音頭取ってんじゃないよ」

 

「あ、あのグータラでサボり魔だった先輩が真面目に仕事してる!?」

 

「うっさいぞ梨紗ー、俺だって真面目な時は真面目だっつーの。ほらクリ、お前も酒片手に固まってないでさっさとこっちこい」

 

「あっ、ちょっ、引っ張らないで下さいよたいちょぉー!」

 

 

 そうしてポカーンとなったピニャらに見送られつつ、悪戯した猫を叱ろうとする飼い主よろしく首根っこを掴まれた栗林を連行しながら、伊丹はさっさと女部屋より退出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<23:30>

 剣崎 特殊作戦群・三等陸尉/コールサイン『セイバー』

 箱根山中

 

 

 

 

 

「俺達は冬の山の中で野宿、伊丹は異世界の美女と旅館で温泉に入ってご馳走に舌鼓……羨ましいもんだ」

 

『セイバー、私語は控えてください』

 

「おっとセイバー了解」

 

 

 サーヴァントシステムの弱点は指揮者にバッチリ独り言を聞かれちまう点だな、と剣崎は個人用の偽装監視陣地で息を潜めながら声に出さず呟く。

 

 そもそも戦闘要員(サーヴァント)と指揮者(マスター)が2人1組で密に情報をやり取りするこのサーヴァントシステム自体、先程剣崎が漏らしたボヤキに出てきた人物がきっかけで考案された指揮運用方法だったりする。それを思い出した剣崎の表情が複雑な感情が入り混じった時特有の曖昧なしかめっ面に歪んだ。

 

 今回山海楼閣の警備にあたる剣崎ら特殊作戦群のメンバーには、特例として世界大戦再発クラスの国際問題に発展しかねない部分を除き、伊丹のTF141時代の情報が知らされていた。

 

 即ち伊丹があのテロリスト業界の超有名人であったマカロフを追跡する為の極秘部隊にスカウトされ、部隊壊滅の憂き目に遭いながらも極少数の生き残りと共に独力でマカロフを仕留めるに至り、その上ロシア大統領救出作戦にも加わっていた事を、伊丹の元同僚であった剣崎らはこの時初めて知ったのだ。

 

 それらの情報を聞かされ終えた時……まず剣崎らが行ったのは、互いの頬をこれでもかと抓り合う事であった。日本唯一の特殊部隊に所属する精鋭中の精鋭とは思えぬ光景がしばし繰り広げられた後、真っ赤になった頬の痛みを代償に、彼らはさっきの説明が現実であるとようやく理解したのである。

 

 しかし現実だと理解しても納得できるかどうかはまた別の話なわけで、正直な感想としては、

 

 

「いやでも……あの伊丹だぞ?」

 

 

 の一言に尽きた。栗林が伊丹がレンジャー持ちで特戦群にも所属していた話を最初に耳にした時と同じく、剣崎らも自分達が知る伊丹の人物像と彼が打ち立てた功績とのギャップに混乱していた。

 

 しかしそこは多くの陸上自衛官の中から厳選された上で更なる過酷な訓練を重ねる事により、心身を極限まで磨き上げた特殊部隊の隊員である。一旦任務に就けば精神状態に左右される事なく、闇に潜み敵の命を屠る狩人としての能力を発揮できなければ特戦群失格だ。

 

 山海楼閣の警備、そして特地からの来賓の身柄を狙う不明勢力が出現した場合は、武力で以って排除を行う――それが今回の任務である。

 

 

 

 

 

 

 

 その報告が入ったのは日付を少しばかり越えた頃だった。

 

 

『セイバー、正体不明の武装集団の存在を確認しました』

 

「セイバー了解。とうとうお客さんが来たか」

 

 

 旅館上空に飛ばした無人偵察機や偽装飛行船のカメラや各種センサーによって発覚したのであろう。空からの目万歳だ。

 

 迎撃態勢を取るべく、剣崎は対赤外線処理が施された偽装シートを脱ぎ捨て、性能や拡張面に不満点が多い89式小銃ではなく特殊作戦群独自に導入したサイレンサーと暗視サイト付きのHK416アサルトライフルを手に素早く移動を開始。

 

 

「こちらセイバー。敵集団の戦力はどれぐらいだ」

 

『セイバー、現在確認されている武装集団の数は約30。10名前後の3部隊に分かれて3方向より防衛目標(旅館)への接近を試みている模様。セイバーはアーチャーと合流し、北北東より接近中の敵集団Aの迎撃をお願いします』

 

「了解、アーチャーと合流し敵集団Aの迎撃に移る」

 

 

 冬でも生い茂る草木の中を蛇のようにすり抜け、ほとんど音を立てずに深夜の山中を進む。

 

 移動を開始してから数分とかからず、アーチャーこと赤井三尉との合流を果たした。狙撃を得意とする赤井の持つHK417はHK416の大口径モデルであり、剣崎の銃よりも若干銃身が延長され、倍率の高いスコープに換装されている。

 

 マスターに仲間との合流を伝えてから移動を再開。不意を衝く為に数で勝る敵集団へ接近を行うので、流石の剣崎も黙々と歩き続ける事にした。

 

 箱根山は北西部に広がる日本アルプス程には及ばぬとはいえ、標高1000メートル越えの山々に囲まれた立派な山岳地帯である。相応に険しく、しかも月明かりがあるとはいえ冬の夜闇に覆われている山林を、隠密性重視のゆっくりとしたペースとはいえ音も気配もなくスムーズに移動する剣崎と赤井の姿は、特戦群という部隊の練度の凄まじさの一端を雄弁に語っていた。

 

 

『セイバー、アーチャー、敵集団Aまで約200メートルの距離まで接近。両者視認できますか?』

 

 

 言われてそれぞれの銃に取りつけた暗視サイトで敵影を探る。マスターからの報告が正しければ、立地的には剣崎らのいる地点より下の斜面に敵集団がいる筈である。

 

 空からの目は物体の放出する熱を視覚化して探知する赤外線タイプの暗視カメラを使用している一方、現場の特戦群隊員らが使用する暗視サイトはわずかな光を増幅して暗所を可視化するタイプを使っている。装置を覗くと視界が黒墨から濃緑がかった世界へと変貌した。同時に銃の安全装置をセミオートに合わせる。

 

 仲間と目標を探す場合、効率の問題上互いが見る場所はなるべく別々にしなければならない。今回先に敵影を見つけたのは、部隊でも特にこの手の洞察力に優れた赤井であった。

 

 

「こちらアーチャー、目標を視認。下の斜面11時の方角だ。分かるか?」

 

「――ああ見えたぜ。向こうはまだこっちに気付いてない」

 

 

 赤井の指示した方角へ銃口の向きを巡らせれば、斜面を登ってくる複数の動く人影が確かに存在した。奇矯な登山客の一団でない事は両手に抱えた小銃のシルエットが証明している。

 

 具体的なモデルは分からないが、かの名銃AKシリーズや剣崎らのHK416と同じ製造元のH&K社が開発したUMPサブマシンガン、中にはQBZ-95、またの名を95式自動歩槍なんて変わり種を持った者までいる。東西どころか中国軍現役採用の銃器まで混じるというカオスな編成であった。

 

 もちろん、現在接近中の武装集団が所属を誤魔化す為、わざと使用銃器に統一感を持たせていないとも考えられる。

 

 銃器の国籍はバラバラだが、全ての銃にサイレンサーにフラッシュライトが装着済み、予備マガジンで膨らんだタクティカルベストに頭部は目だし帽と、相手も最低限夜戦向け装備を整えている。また菱形の陣形を組んで移動中の敵兵の身のこなしから、特戦群クラスの練度には及ばなくとも最低限の軍事訓練は積んでいるのが見て取れた。油断は禁物だ。

 

 

『アーチャーは現在の地点を保持。セイバーはそこから敵集団より1時方向へ移動後、そちらの判断で対処03を実行して下さい』

 

 

 十字砲火を行える地点まで移動して現場の判断で攻撃を行え、という意味だ。

 

 言われるがまま移動した剣崎は隆起と斜面から生える木の幹によって下からは適度に死角となる場所を見つけると、改めてそこに身を潜めた。幹の直径もドラム缶より少し細いぐらいなのでライフル弾でも防いでくれるだろう。

 

 

「こちらセイバー、位置についた」

 

『アーチャー了解。いつ始める?』

 

「先頭との距離が100を切ってからでどうだ? 俺が先頭、アーチャーは最後尾をやってくれ」

 

 

 待ち伏せ(アンブッシュ)を仕掛ける場合に肝心なのは、如何に敵を殺傷地帯(キルゾーン)から逃さないようにするかである。故に集団の先頭と最後尾へ同時に攻撃を行う事で、前方への突破も後方への撤退もできない状態へと追い込む。

 

 戦力不足は奇襲と高所のアドバンテージ、そして夜の山林というシチュエーションが補ってくれるし、特に暗視装置の存在が大きい。敵側もライトを装備しているが、それを使えば山に潜む特戦群に自分らの存在を宣伝してしまうと相手も分かっているからこそ、敢えて月明りのみを頼りに山を登っているのだ。

 

 しばしの間、敵の方から近づいてくるまで特戦群の2人は待たねばならなかった。

 

 剣崎は殺しているつもりの息が勝手に荒くなっている気がした。胸の鼓動に至っては実際に速く大きく脈打ちつつある。箱根から何キロも離れた防衛省地下の指揮運用センターにいるマスターもそれに気付いているであろう。

 

 思考はいたって冷静だが、肉体の方は剣崎の意識を無視して勝手に緊張と興奮しつつあった。

 

 

(伊丹の野郎もずっとこんな感覚を味わってたのかね?)

 

 

 今や特戦群の誰よりも実戦経験豊富になってしまった元同僚の存在を意識から切り離す。

 

 緑色に彩られた照準装置越しの視界の中で、集団の先頭を進む敵兵がとうとう決めておいた距離に到達しようとしていた。

 

 

『こちらアーチャー、目標を捉えた』

 

「アーチャー、こっちの合図に合わせろ。3,2、1――」

 

 

 発砲。剣崎のHK416から抑制された銃声が立て続けに2度発せられた。

 

 同時に大口径独特の重量感を帯びた銃声、赤井のHK417による発砲音がこちらは1回だけ奏でられた。サイレンサーによって指向性を帯びずに拡散してしまうよう手を加えられた銃声は、冬でも生い茂る草木に大半が吸い取られ、遠方まで響き渡りはしなかった。

 

 彼が放った銃弾が狙い通りに先頭の敵兵の頭部へ命中したのは、人型シルエットの後頭部から飛沫が散ってからその場に崩れ落ちた事からも明らかであった。ライフル弾のダブルタップを頭部に食らったとなれば即死は確実である。

 

 赤井が撃った方はもっと分かりやすく、威力を表す単純な数値だけなら5.56ミリ弾の倍にも達する7.62ミリ弾が当たった瞬間、敵の後頭部が小さく爆ぜすらした。死んだかどうかは一目瞭然であった。

 

 もちろん指揮運用センターにいる人員も、無人偵察機からの中継により剣崎と赤井による同時狙撃の一部始終をリアルタイムで確認している。

 

 

『敵集団A、2名排除。攻撃を続行してください』

 

 

 敵集団は何が起きたのか理解していないようで、突然先頭を歩いていた崩れ落ちた仲間が倒れたのには気付いた様子だが、狙撃されているのだと悟って隠れたり伏せたりする段階にはまだ至っていない。

 

 ここぞとばかりに剣崎と赤井は狙撃を続行。更に2人の敵兵の頭部を射抜く。飛散した鮮血と脳の破片が背後にあった草木に音をたてて勢い良くへばりつく。

 

 ようやく相手も狙撃に気付くと、部隊の指揮官らしき人物が警告を発しながら地面に伏せたり、慌てて木の陰に飛び込んだりと、剣崎らの狙撃から逃れようと試み始める。

 

 

它狙击(狙撃だ)!』

 

 

 敵の誰かが上げたその叫びは剣崎と赤井の元にも届いた。

 

 

「こちらセイバー。アーチャー、今の聞こえたか」

 

『セイバー、こちらにも聞こえた。どうやら敵集団に中国人が含まれている模様』

 

妈的(チクショウ)打响(撃ちまくれ)!』

 

 

 敵も反撃を開始した。剣崎らと違いフルオートにセットしての一斉射撃だ。拳銃弾だの中国独特の5.8ミリ弾だのAK用の7.62ミリショート弾だのがそこら中にばら撒かれる。

 

 決して狙い澄ました射撃とは言えず、2人の正確な狙撃位置が分からないので手当たり次第に弾幕を張っているようだが、中には流れ弾か跳弾か、赤井のやや前方の地面がパシッと弾けたり、剣崎が身を預ける木の枝葉に銃弾が当たり木っ端や葉が彼の頭上に降ってきたりもした。

 

 特戦群側には奇襲と装備に利があっても頭数と火力はまだ敵の方が有利だ。

 

 

「こちらセイバー、更に敵の側面に回りこむ。援護してくれ」

 

『アーチャー了解』

 

 

 また大口径特有の重たさを含む銃声が鈍く山林に響く。今度は1発ごとに狙いを澄ました撃ち方ではなく、敵を制圧する為のセミオート連射であった。

 

 仲間が敵を抑えている間に剣崎は素早く、しかし移動音と動きは最小限に抑えた移動法で新たな隠れ場所に辿り着く。

 

 

「アーチャー、敵側面への移動完了」

 

『了解セイバー、こちらも移動を行う』

 

『セイバーはアーチャーが移動を完了するまで援護に当たってください』

 

 

 再度暗視サイトを覗くと立っている敵のシルエットが5人に減っていた。赤井の援護射撃で更に1人が撃ち殺されたのだ。側面へ回り込んだ事で、身を隠されてさっきまでの位置からは死角になっていた敵の姿を捉える事が出来た。

 

 すると剣崎の視界の中で、伏せていた敵が立ち上がったかと思うと一目散に剣崎の方目指して走り始めた。隊列の前後から順番に撃たれているのだと悟り、だったらと横方向へ逃げれば何とかなると考えたのかもしれない。

 

 敵の不運は既に移動した剣崎が行く手を塞いでいた事に気付いていなかった点であった。

 

 

「悪いがこっちは通行禁止だ」

 

 

 言いながら再びのダブルタップ。離脱に失敗した敵兵はもんどりうって倒れ込み斜面を転がり落ちていく。特戦群の隊員が発砲するたびに敵兵がまた1人か2人命を落とし、敵からの反撃もどんどん減っていく。

 

 伊丹がどれほど苛烈な戦場を経験してきたのかは知らないが、今この山は特戦群の戦場であり、これこそが特戦群の戦い方だ。

 

 静謐に、的確に、確実に、容赦なく国土と国民を侵す敵の命を狩る。その際に敵と激しい銃火を交わし合う必要性など決してないのだ。訓練通りのダブルタップで確実に敵の命を奪いながら、そう実感する剣崎であった。

 

 

『セイバー、私語は慎むように。これで2回目ですよ』

 

「おっとそりゃすまない」

 

 

 

 

 静かな戦いは始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『すばやく、静かに、徹底的に』 ―アメリカ海兵隊武装偵察部隊の標語

 

 

 




伊丹「俺だってねぇ、派手にドンパチせずに済ませられるんだったらそうしたかったよ!」

最初はステルスでも最後はやっぱりドンパチ祭り、それがCoD。


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