GATE:Modern Warfare   作:ゼミル
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中途半端に長くなってしまったので切り良い部分で投稿します。


3.5:Red Sparrow/女達の暗闘

 

 

 

 

 

<18日前/17:22>

 ハミルトン・ウノ・ロー 薔薇騎士団・準騎士

 帝都近郊

 

 

 

 

 

 最近、ハミルトンには気になっている事がある。

 

 それは彼女の所属する薔薇騎士団長であり栄えある帝国第三皇女であるピニャ・コ・ラーダの様子がおかしい点である。

 

 帝国はファルマート大陸の覇者であり幾多の属国を抱える超大国だ。歯向かう国や種族には悉く侵略し、粉砕し、隷属させその権力を確固たる物としてきた歴史を持つ。

 

 そして帝国という一大国家においてピニャは女性かつ第10位という低い立場ではあるものの、一応皇位継承権を有する立派な皇族の一員だ。皇族の権力は凄まじく、人の姿をした治外法権そのものと言っても過言ではない。

 

 同時に、皇族とはすなわち帝国の顔そのものである。

 

 やろうと思えば他国の国民が皇族の通り道を横切ったという理由だけで帝国への宣戦布告とみなし、大軍勢を率いて攻め込む事も許される……

 

 極端な例えに思えるが、似たり寄ったりな理由で帝国により国や民族が滅ぼされた例は実際に少なくなかった。

 

 最近では、ピニャの腹違いの兄で継承権第1位の皇子が亜人の性奴隷欲しさに、ヴォーリアバニーの国を滅ぼしたという。

 

 ヴォーリアバニーは女性ばかりなので同じ女としてハミルトンとしても思う所はあるものの、立場と地位がそれを許さない。

 

 そして同時にこう思うのだ。帝国に歯向かうものは等しく滅ぼされるのが当然であると。それはハミルトンのみならず支配階級である帝国貴族にとってもごく普通の認識であった。

 

 

 

 

 ――『門』が開き、自衛隊と戦争を始めるまでは。

 

 

 

 

 ピニャ殿下は変わってしまった。

 

 イタリカで自衛隊の力を目の当たりにした直後から前兆はあった。だが真に変わってしまったのは、極秘裏に日本との講和を結ぶべく独断で『門』の向こうへ向かってからである。

 

 日本で何を体験したのか、ピニャからは語ろうとしない。同行したボーゼスも口を噤んでいる。

 

 人生観が一変する何事かを経験したのは間違いない。でなければああも目を血走らせ、幽鬼の如き形相になってまで『門』の向こうから持ち帰った大量の紙束と毎晩睨めっこしつつ、元老院貴族らに積極的に日本との講和を説く筈が無かった。

 

 そして講和派議員を招いての日本側特使主催の園遊会を翌日に控えたその日。

 

 打ち合わせと必要な物資の運搬に現れた日本の自衛隊員、それも伊丹を筆頭にイタリカで見かけた覚えのある面子ばかりを乗せた馬車が離れていくのを、ピニャが何時までも見送っている様を目の当たりにしていたハミルトンは、とうとう我慢出来ずにピニャへ訪ねる事にした。

 

 

「殿下、1つお尋ねしてもよろしいでしょうか」

 

「何だハミルトン」

 

「私もピニャ様と共にイタリカにて戦い、二ホンの軍であるジエイタイのその強さはこの身を以って承知しているつもりです。

 ですが……今のピニャ様を見ておりますと、その、いささかジエイタイの肩を持ち過ぎではあられませんか? ピニャ様は帝国の皇女で在られるのです。こうも相手に遜っておられては帝国の、何よりピニャ様の立場が侮られてしまうのでは」

 

 

 支配階級であるハミルトンの中では、あくまで帝国こそが大陸の覇者であるという認識が彼女の芯の髄に深く刻まれている。

 

 だから自衛隊の武力は相手が遥かに上でも帝国の国力を以ってすれば……という思いから、ピニャの日本への対応に不満とまではいかなくとも思う所があるのは当然と言えた。

 

 ハミルトンがわざわざ意見を表に出したのはピニャの為という思いもある。

 

 戦争中の敵国に腰を低くしていると帝国内におけるピニャの立場が悪くなりかねない。特に彼女の兄ら、また彼らの派閥に属する貴族や日本との戦争を続けたい主戦派の元老院議員らがピニャの行動を知れば、彼女を帝国に相応しくない弱腰な振舞いであると責め立てるに決まっている。

 

 主の不評を買う事を覚悟してのハミルトンの忠言を、ピニャは物を知らない我が子を見る母親を思わせる儚げな笑みでもって受け止めた。

 

 

「妾は良い部下を持ったな。そなたの忠言、しかと聞いたぞ」

 

「はっ、出過ぎた真似をしてしまい――」

 

「よせ気にするでない。だがそうだな、話すには丁度良い機会だ」

 

「ピニャ様?」

 

「屋敷で明日の催しについて説明を行う。騎士団の中で恋人や許嫁といった存在を持たぬ者らを限定して妾の執務室へ集めよ」

 

「はっ、分かりました!」

 

「ああそれからさっきの条件に此度の二ホンとの戦争に身内が出兵していなかった事も追加だ。いいか、慎重に選ぶのだぞ」

 

「は、はぁ?」

 

 

 

 

 

 

 ピニャが居館へと戻り、ハミルトンが薔薇騎士団員の中からピニャが指定した条件に当て嵌まる者達を集める頃には完全に日が沈んでいた。

 

 

「ピニャ様。彼女らが薔薇騎士団に所属する中でピニャ様の指定した条件に完全に一致する者達です」

 

「うむ、多過ぎず少な過ぎず、これぐらいの数で丁度良いだろう」

 

「なー姫様。俺達を集めた理由は一体何なんだい?」

 

 

 白薔薇隊隊長を務めるヴィフィータ・エ・カティが集められた者達を代表して質問を投げかけた。

 

 今の発言でも分かる通り口調も性格も男らしく、人の地位や立場に関係なく接する人柄かつ、考えを包み隠さず表に出してしまう性分の持ち主である。

 

 またこの場にはハミルトンも同席していた。彼女には正式な許嫁が居るがピニャの秘書である為に同席を認められ、ピニャの斜め後ろに控えている。

 

 

「うむ、そなた達を集めたのは他でもない。今からそなた達に伝え命じる内容は、今後の帝国の行く末を左右する極めて重大な事柄である事をまずは理解しておいてくれ」

 

 

 ハミルトン、そしてヴィフィータら団員の表情が一斉に緊張で強張る。

 

 

「まずこれを見てくれ」

 

 

 そう言ってピニャが机の上に取り出したのは……

 

 

「…………」

 

 

 美青年同士が絡み合う絵が表紙のファイルであった。

 

 ハミルトンとヴィフィータは思わずズッコケそうになった。2人以外の団員達はにわかに色めき立ち、熱っぽい目で表紙の絵をうっとりと眺めだす。

 

 彼女らの意識が見当違いな方向へ飛んでしまった事に気付いたピニャは叫んだ。

 

 

「待て待て、妾が見ろと言ったのはこの中身だ!」

 

「な、何だそれならそうと言ってくれよ」

 

 

 一気に気が抜けてしまったとヴィフィータは頭を掻きながら机へ近付くとファイルの中身である紙束を取り出す。

 

 中身を認識した瞬間、ヴィフィータの目が大きく見開かれた。後ろから覗き込んだ他の団員達や、机を挟んで反対側から身を乗り出したハミルトンもまた同様の反応を見せた。

 

 それは絵であった。いや、絵にしてはあまりにも鮮明で、微細な色彩に溢れ、まるで当時の情景をそっくりそのまま切り取ったかと思わせる程に詳細な絵であった。皇族お抱えの宮廷画家もこうも細部に描画出来まい。

 

 絵の内容は、見た事も無い防具(ハミルトンらが知る鎧の範疇からかけ離れた、分厚い布を何枚も重ねて作ったような代物)で全身を覆った戦士が、長剣を手におそらく何千にも達する規模の帝国軍を前にたった1人対峙している様を描いている。

 

 最初に『門』が開き、帝国側の軍勢が銀座を蹂躙した『銀座事件』。

 

 そのクライマックスの記録を極秘会談の為来日した際、ネットで発見したピニャが当時エスコート役だった富田に頼んでプリントアウトしてもらった中の1枚だった。

 

 戦士の背後には深い堀を挟んで異国の現地住民と思しき多数の人々が。

 

 戦士と帝国軍の間には何十、いや3桁にも届くであろう死体の数々。血まみれの死体もあれば焼け死んだと思しき死体もある。

 

 ほぼ全てが帝国軍の死体だ。描かれた状況からこの異形の戦士が単騎でこれほどまでの被害を帝国軍に与えたとしか思えない。

 

 次の用紙へ。構図や地形からして現場は同じだが、1枚目とは状況が一変していた。武装した自衛隊員達、装甲車や戦闘ヘリによって帝国軍が蹂躙される瞬間がそこに写っていた。

 

 3枚目の画像は、自衛隊の救援によって窮地を脱した現場の警官隊が孤立奮闘した伊丹を保護した直後の物だ。防爆スーツのヘルメットを外された事で、血まみれになった伊丹の顔が露わになっている。

 

 ハッとなったハミルトンはピニャの顔を見た。静かな頷きが重々しくハミルトンへと返される。

 

 

「そう、イタミ殿こそ我が帝国の侵攻を防ぎ、大勢もの二ホン国の人民を救った英雄なのだ」

 

「あのイタミ殿が!?」

 

「『門』が開き、帝国軍が二ホンへと攻め込んだ直後から人民の避難誘導と有志による防衛部隊の編成、帝国軍の迎撃を同時に行い、避難が完了するまで10万を超える帝国軍を100分の1にも満たない戦力で押し止めたそうだ。

 イタミ殿本人の戦果も凄まじいぞ。トロールやオークを十数体、あのジャイアントオーガーを単独で1頭、帝国兵に至っては最低でも数百人をイタミ殿個人で撃破してみせたそうだ。

 挙句の果てに捕虜となった友軍を救うべく万の帝国兵と騎士達へと単騎で斬り込み、仲間を逃がした上で彼自身も見事生き残ってみせたのだ――これを英雄と呼ばずして何と呼ぶ?」

 

 

 呆然と立ち尽くす騎士団員らの中でヴィフィータがおずおずと挙手する。

 

 

「そのイタミ何某って二ホンの亜神か何かだったりするんですか?」

 

「本人は普通の人間だと言っていたが実の所妾も疑っているところだ……話を続けるぞ。イタミ殿の功績は他にもあるからな」

 

「まだあるんですか!?」

 

「むしろここからが重要なのだ。まず第一にこれは帝国が二ホンへ攻め込む以前の出来事となるのだが――」

 

 

 続けてピニャが語るのは『門』の向こうに存在する日本以外の国々が起こした戦争――すなわち第3次世界大戦、そこで用いられた数々の兵器と被害について。

 

『門』の向こうの世界には1発で万単位の人間を都市ごと滅ぼす『カクバクダン』や、あらゆる生物を土地ごと死に至らしめる『カガクヘイキ』が存在する事。

 

 日本以上の軍事力を持つ国同士が正面から激突し、それら大量破壊兵器も動員された結果、兵士民間人合わせ1億に達する犠牲者を出した事。

 

 世界規模の一大戦争がたった1人の狂犬と呼ばれる人間によって引き起こされた事。

 

 そして伊丹は首謀者を排除する為に編成された精鋭中の精鋭部隊の数少ない生き残りであり、幾多の苦難を乗り越え見事首級を挙げた張本人である事――

 

 

「つまりイタミ殿は二ホンのみならず『門』の向こうにある二ホン以外の国々にとっても紛れもない英雄であり、同時に向こうの世界有数の偉大なる戦士であるという訳だな」

 

 

 ハミルトンらは声もない。ピニャが語る異世界の戦争は彼女らの常識を遥かに逸脱しており、超兵器の存在や被害規模の凄まじさに現実味すら失う程であった。

 

 しかしそれはピニャが示した資料の数々―地球の芸術(腐向け同人誌)と並行しつつ翻訳したもの―に混じるWW3の記録写真を見せられては実在するのだと認めるしかない。

 

 帝都を遥かに超える規模の巨大な建物ばかりが並ぶ摩天楼。その多くは破壊され、人種は違うが自衛隊とよく似た武器と装備の兵士達が建物の根元で激しい戦闘を行う瞬間を捉えた写真。

 

 炎龍のブレスですらこうもいくまいと思わせる程に焼き尽くされた街並みを鳥の視点で空から撮影した写真。

 

 異様な色の煙に覆われた街の中で、明らかに兵士ではない人々が、大人も、子供も、男女も問わず苦悶の表情で大量に息絶えている写真もある。

 

 戦争の爪痕の写真を見せられた団員らの表情は最早完全に蒼白だ。中には口を手で押さえたり、瞳に涙すら浮かべた者も少ないない。

 

 

「分かるか? 『門』の向こうには我々の想像を絶する武器が幾らでも存在するのだ。

 ――もしジエイタイがそれらを持ち出し、帝国に向けられたらどうなると思う?」

 

 

 ピニャがそう告げた瞬間、執務室内は完全なる沈黙に包まれた。衝撃のあまり呼吸する事すら忘れてしまったのである。

 

 しかし第3次大戦に用いられた兵器や被害といった偏った内容ばかり調べてきたピニャは自衛隊が核もBC兵器も所持していない事実を知らない。

 

 だが彼女以上に具体的な自衛隊の情報を持たない薔薇騎士団員らは、誤解したピニャの言葉をそっくりそのまま信じてしまうのであった。

 

 

「妾が二ホンとの早期講和を目指すのはその為だ。もし二ホンが本気で帝国を滅ぼす道を選択し『カクヘイキ』や『カガクヘイキ』を使おうものなら、最悪帝国軍は帝都もろとも一瞬で滅ぼされるのは間違いあるまい」

 

 

 日本政府関係者や自衛隊員が聞こうものなら即座に首を横に振るであろう内容を、ピニャは確信を以って言い放つ。

 

 

「尤もそのような代物を動員しなくとも、ジエイタイの力ならば『ヘリ』や『ヒコウキ』を使って空から焼き払うのは容易だろう。

 しかし日本は決して問答無用で帝国を滅ぼそうとはせず、平和裏に講和を結ぼうと働きかけてきている。この機会を逃す訳にはいかないのだ」

 

 

 一旦言葉を区切り、

 

 

「二ホンとの講和、その鍵を握る人物こそイタミ殿であると妾は考えている」

 

 

 と強調した。ピニャは机に両手を突いて立ち上がると、集めた騎士団員を狂気すら垣間見える真剣な表情で見つめた。

 

 

「お前達を集めたのは他でもない、明日の園遊会の場でどんな手を使ってでも構わぬ、イタミ殿の名声でもって帝国が有利な条件で講和を結べるよう、何としてでも彼を篭絡するのだ」

 

 

 現時点で恋愛に無縁かつ『銀座事件』に親しい類縁が加わっていない者を選別させたのはこの為である。

 

 ボーゼスの時は失敗したが、伊丹に含むものを持たぬ彼女らならば……と考えての人選だ。

 

 皇族の務めとして、帝国が地獄に落とされない為ならピニャはあらゆる手段を行使する覚悟であった。

 

 それに何より伊丹を篭絡する事に見事成功すれば、梨紗→伊丹経由で地球の芸術品も幾らでも手に入るようになるのだし。

 

 

「妾も積極的にイタミ殿と接触を図っていくつもりではあるが、イタリカでの件で妾やボーゼスはイタミ殿に苦手意識を持たれていてな。お前達が頼りなのだ。帝国の為に、その身を捧げて貰えぬだろうか?」

 

 

 否、と言える筈もない。

 

 帝国が終焉を迎えるという事は、即ち支配階級である彼女らの破滅も意味しているのだから。

 

 

 

 

 こうして薔薇騎士団に所属する少女達は、彼女らにしか出来ない特別な役目を仰せつかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

『女の美しさは力であり、微笑はその剣である』 ――チャールズ・リード

 

 

 

 

 




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