GATE:Modern Warfare   作:ゼミル
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遅くなった上にまた短いです。


4:Hunting Party/華麗なるギャツビー

 

 

 

 

<17日前/11:49>

 ヴィフィータ・エ・カティ 薔薇騎士団・白薔薇隊隊長

 帝都近郊・皇室庭園

 

 

 

 

 

 

 ヴィフィータ・エ・カティという人物は、一言で表するなら男らしい女性であった。

 

 一見矛盾するように聞こえるが、実際その通りであるのだから仕方ない。

 

 薔薇騎士団に在籍する騎士の大半が将来年若い青年貴族を結婚相手として確保すべく幼い頃より淑女としての教育を施されてきた貴族子女を占める中、そこいらの男に負けない体力と腕っぷし、淑女らしからぬあけすけな性格。

 

 果ては一人称が俺というリアル俺っ娘なヴィフィータという人物は、薔薇騎士団のみならず貴族子女という括りから見ても異質な存在と言えた。

 

 だからと言って性同一性障害や女だけど同性の女を性的欲求の対象として見るといった性癖の持ち主でもない。出来れば政略結婚よりは好みの男と恋愛結婚で結ばれたいなぁ程度の願望もちゃんと持ち合わせている。

 

 今は剣を振って暴れている方が好きだが、いつかは自分も普通の子女らしく結婚し、子を産み育てなければいけない。それが一般的な帝国貴族の子女としての役目だ。

 

 男らしく振舞っているヴィフィータであるが、同時に貴族子女としての役割を理解し、その将来を受け入れていた。故に冒頭の一見矛盾した人物評なのである。

 

 そんな彼女だが、薔薇騎士団における評判は決して悪くはない。むしろ前職者の跡を継いで白薔薇隊のトップに命じられる程度には能力も人望も秀でている。

 

 相手の地位に臆する事無く適度に平等に接し、かつ事態の本質を見抜く眼力も持ち合わせている。それらにあけすけな性格が加わる事で物事の本丸へと切り込んでいく、その快刀乱麻な性質こそがヴィフィータの最大の特徴であった。

 

 

 

 

 

 さて、ピニャ肝入りの園遊会である。

 

 帝国皇族自慢の広大な庭園の一角に天幕が張られ、料理人達が様々な食材を大盤振る舞いしての創作料理を参加者達に提供していた。

 

 天幕を中心として賑わう参加者らの間をピニャと菅原という日本側交渉団の使節、そしてヴィフィータ達薔薇騎士団の中から選ばれた色仕掛け要員の標的である伊丹が行ったり来たりしているのを、ヴィフィータはやや距離を置いて目で追いかけていた。

 

 立場を区別する為であろう、文官の菅原は帝国流の服装を纏う一方で、軍人たる伊丹は自衛隊の制服で出席している。

 

 普段やピニャやボーゼスが日本側との接触に動いていたのでヴィフィータが伊丹という人物を直接目の当たりにしたのはこれが初めての機会である。

 

 

「イタミ様、イタリカでの勇ましい活躍ぶりは薔薇騎士団の間でも語り草にされておりますの。ぜひ詳しくお聞かせ頂けませんか」

 

「いやあの一応規則だから外で話す訳にもいかないんですよアハハ」

 

 

 ……死山血河を潜り抜けてきた歴戦の英雄というピニャから聞かされた評価らしからぬ冴えない風体、というのが一見した印象である。

 

 今もこうして薔薇騎士団の色仕掛け要員である女性に迫られ、腰の引けた苦笑いを浮かべてしどろもどろになっている姿からは、彼が単騎で万の帝国軍に立ち塞がった戦士と同一人物だとちっとも思えないのが正直な感想であった。

 

 が、それはあくまで第一印象に過ぎない。伊丹が見た目通りの人物でない事はすぐに明らかになった。

 

 伊丹の動きをよく見ていると、色仕掛け要員が逃げ場を塞ぐのに先んじて彼は言葉を選んではぐらかしつつも、さりげなく包囲網の穴から抜け出してみせているのだ。

 

 1回だけならともかく2回、3回と何度も繰り返されれば偶然でない事はすぐに分かる。

 

 口を動かしながら周囲の流れを読み、悟られる事無く安全な逃げ道に身を置き続けるというのは、好悪はともかく単なる冴えない人物がこなせる芸当ではない。実践派のヴィフィータは特にその辺りを読み取るのに敏感だった。

 

 手を伸ばしてはするりと獲物に逃げられる、そんな様子を一歩引いた位置でしばらく見物していたヴィフィータはやがて悟る。

 

 

「こりゃダメだぜ姫様、イタミ殿に色仕掛けは効かねーわ」

 

 

 露骨な女嫌い、という訳でもないのだろう。

 

 だが若さ溢れる青年貴族相手にするようなやり口は、どうやら異世界の戦士はお気に召さない様子である。

 

 上手くいかない色仕掛け作戦にホスト役を務めるピニャも、表面上にはにこやかな笑顔を貼り付けつつも口元を焦りで引き攣らせていた。

 

 

「すまねぇ姫様。俺は即興でやらせてもらうぜ」

 

 

 自分同様、一歩引いた位置で出番待ちをしていた騎士団の仲間へとヴィフィータは耳打ちすると、そのまま伊丹の下へ向かうのではなく料理を提供する天幕へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

<同時刻>

 伊丹耀司

 

 

 

 

(逃げたい)

 

 

 それが今の伊丹の偽らざる心境である。

 

 やはり俺にはこういうのは向いちゃいないんだ、ともしみじみ思う。

 

 お堅い格好で似合わない愛想笑いをずっとしていたせいか、主に肩を中心に背中と顔面の表情筋が早くも悲鳴を上げつつあった。

 

 しかも、

 

 

「イタミ殿、我が薔薇騎士団の者達がそなたの武勲について聞きたがっておってな」

 

 

 これである。先程からピニャが若い女性を宛がおうとしてくるのもまた伊丹としては辛かった。

 

 揃いも揃って中々の美女美少女ばかり。そんな女性達が可憐に微笑みながら熱の篭もった声で次々と話しかけてくる。

 

 また帝国側の参加者が着ている地球でいう古代ローマ風、その特地版というべき衣装は胸元を開きやすい構造であり、ピニャが紹介する女性達は他の参加者と比較して谷間からなだらかな平原まで、大中小取り揃えた胸元を中々大胆に開放して伊丹へと見せつけてくる。

 

 これがエロゲーのワンシーンだとか、薄い本の見開きカットに描かれた光景、あるいはグラビア写真であれば伊丹も心置きなく目で楽しんでいたであろう。

 

 が、

 

 

(明らかにハニートラップなのがなぁ)

 

 

 寄ってくる彼女らの真意を察知しているとなれば話は別である。

 

 要はお水関係のお姉ちゃん達と同じだ。伊丹耀司という人間に惹かれてきたのではなく、彼の背後にある金に権力、肩書きその他俗っぽいアレコレ目当てですり寄ってきている訳である。

 

 だからといって伊丹はその手の業界で働く女性達や、現在進行形ですり寄ってくる薔薇騎士団の少女らを責めるつもりは毛頭無い。それが与えられた役目であり、彼女達の仕事であると理解しているからだ。

 

 客の男が風俗嬢に貢いで破産や家庭崩壊なんて話はよく聞くが、それは風俗嬢が客を褒めそやすのはあくまで仕事の一環であるというのに、それを勝手に本気にしてしまう方が悪いのではないか……というのが伊丹の考えだ。

 

 駄菓子菓子、ではなくだがしかし。

 

 偏見はないが、その手の商売女や色仕掛けの類を伊丹は苦手としていた。

 

 別に女が嫌いでも同性愛趣味の持ち主でもない。もしそうなら離婚済みとはいえ根っからの腐女子な梨紗を嫁に迎えてはいまい。

 

 ハッキリ言ってしまえば、伊丹は女性関係に関して不器用な男なのだ。

 

 遊びと割り切って女をとっかえひっかえ楽しむなんてプレイボーイ気取りの真似は出来ないし、彼自身する気もない。女相手に遊ぶ事が出来ない性分なのである。

 

 また女と色っぽい雰囲気になっても、よほどの事がない限り伊丹の方から逃げてしまう。むしろこちらの方が致命的な弱点と言えるであろう。

 

 それこそ男女の関係を結んだ相手といえば梨紗ぐらいだ。その梨紗とも、やむ得ぬ事情と彼女の女心を伊丹が理解出来ていなかった事が原因で離婚してしまっている。

 

 それ故、女の方から迫られた際に女の色香を堪能しつつ軽く受け流す、あるいは逆に口説き返し、一夜限りの後腐れない関係に持ち込むといったジゴロめいたスキルを伊丹は不得手としていた。

 

 

 栗林や黒川、レレイ・テュカ・ロゥリィの3人娘などは任務上の関わりもあり、普段から顔を会わせる時間が長い分の慣れもあって平常心で対応出来ている。

 

 だが今日の園遊会はピニャと外務省の共催で帝都近郊の皇室庭園を借り切ってのイベントであり、3人娘はアルヌスで留守番。 栗林と黒川はそれぞれ離れた所で招待客の家族相手に応対中なので援護は期待出来まい。

 

 そしてこの色仕掛け攻勢である。考案者は間違いなくピニャに決まっている。

 

 包囲してくる薔薇騎士団員らを口説き返して逆に彼女達から情報を引き出すという、どっかの英国スパイの真似事なんぞこれっぽっちも無理だと自覚している伊丹に出来る事といえば、愛想笑いで誤魔化しつつ彼女らの包囲から離脱する事ぐらいだ。

 

 とはいえ、帝国の有力者が多数集まるこの庭園で駐屯地よろしくなりふり構わぬ逃亡を図る訳にもいかず。

 

 同行の菅原は彼も彼でシェリーという少女に妙に懐かれてしまい、彼女の相手やピニャが紹介する元老院議員の招待客との挨拶回りに今は忙しく。

 

 伊丹はその物量差に押されるがまま、隙を見ては包囲網の穴から離脱を図るも完全には逃げ切れず、色仕掛け要員の少女らと表向きは静かだが白熱した追いかけっこを繰り広げる他無かった。

 

 その辛さは伊丹的には幹部レンジャー課程で体験した地獄の訓練とどっこいどっこいなレベルだった。

 

 肉体的にではなく、精神的な負担という意味で。これをやり遂げても年末の休暇は貰えないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな苦境の伊丹を救ったのは意外な人物であった。

 

 順番待ちなのか、包囲網に加わらず遠巻きに待機していた薔薇騎士団の1人がおもむろにピニャに耳打ちした。

 

 ピニャの顔に一瞬困惑が浮かぶが、更に一言二言団員から告げられると彼女は頷いた。合図らしき素振りを送ると、周囲の注目を引かない程度のさりげなさでもって伊丹を包囲していた団員達が退却していく。

 

 入れ替わりに別の女性が伊丹へと近づいてきた。髪形も雰囲気もボーイッシュなショートカットの女性である。

 

 伊丹が元来持ち合わせ、自衛隊員としての訓練から海外での数々の実戦を経て鍛えられた第六感的な意味での嗅覚は、このショートカットの美女もピニャの手の者であると敏感に見抜いていた。

 

 だが同時に、彼女がこれまで伊丹を包囲していた色仕掛け要員とは微妙に違うとも、伊丹は話す前から感じていた。

 

 具体的な言語化は難しい。敢えて言うなら『自分の色気でメロメロにしてやるぜ』的な分かり易い気配がこの女性からはしないのである。

 

 

「こうして言葉を交わすのは初めまして、だな。俺はヴィフィータ・エ・カティっていうんだ。よろしくなイタミ殿」

 

 

 雰囲気も男らしければ口調も男らしい女性であった。

 

 何せ一人称が俺である。「リアル俺っ子キター!」と伊丹は思わず歓喜の叫びを上げたくなった。伊丹より口もノリも軽い倉田辺りなら実際に叫んでいたであろう。

 

 しかしここは一応帝国講和派と関係を強める為の外交の場。グッと叫びたいのを堪えて伊丹はペコリと一礼を返すにとどめる。

 

 ヴィフィータは勝気な猫を思わせる美貌をこれまた男らしい笑みに歪めると、両手に1枚ずつ持っていた皿を伊丹へと差し出した。

 

 

「挨拶回りでばかりで中々食い物にありつけてなかったみたいなんでな。ほら、食いなよ」

 

「これはご親切にどうもすいませんね」

 

 

 確かに彼女の言う通りで、菅原共々招待客の議員の挨拶回りに奔走していたのに加え、色仕掛け要員の包囲網から抜け出せなかったせいで食べ物のテーブルに中々近づけず、園遊会が始まってから口にしたのは喉を潤す為のワイン位だった。

 

 指摘によって空腹感を本格的に自覚させられた伊丹は、遠慮なくヴィフィータから食べ物が盛られた皿を受け取った。

 

 料理を口に運ぶ。空腹というスパイスを抜きにしても十分以上に美味い料理ばかりだ。

 

 

「今日の料理はそっちが連れてきた二ホンの料理人も一緒に作ったって聞いたんだがどれも美味いな」

 

「今日ここの料理を作ってるのは俺の部下の古田っていうんですけどね、アイツは元々日本でも一流の料亭で働いてた板前、っと料理人なんですよ」

 

「イタミ殿の部下なのか! へぇ、それじゃあイタミ殿は毎日こんな美味いメシを作ってもらえるんだな。羨ましいぜ」

 

「いやいや、古田はあくまで部隊の仲間であって専属の料理人とかじゃないんで、別に毎日食事を作らせたりはしてませんよ」

 

「『あいすくりーむ』っていうんだっけ? あの冷たくて甘い食べ物も二ホンから持ってきたんだろ。あんな冷たくて美味しい乳菓子を一体どうやって作るのか教えてくれよ」

 

「えーっと確か卵と牛乳と砂糖を氷で冷やしながら固まるまでかき混ぜれば良かったんだったかな?」

 

「氷かぁ。冬ならともかく今の時期じゃ氷雪山脈でもなきゃ無理……いや魔導師なら何もない所から氷を生み出せるって聞いたような……」

 

 

 近過ぎず遠過ぎない距離を維持しつつ、他愛無い会話をしながら食べているとあっという間に皿が空になった。

 

 するとヴィフィータは今度はメイドにワインが注がれた杯を持ってこさせ、2つ受け取ると片方を差し出してきた。これまた伊丹も受け取ると口の中に残った味を酒で洗い流す。

 

 その間も彼女は必要以上に近付こうとはせず伊丹のそばに佇んでいた。

 

 ワインを飲み干してひと心地ついた伊丹は改めてヴィフィータを見据えた。

 

 

「……どうやら君は他の子達とは違うみたいだねぇ」

 

「イタミ殿はああいうのは苦手なようだったからな。違うかい?」

 

「いいや、ヴィフィータさんの言う通りだよ。どーにもああいう分かり易いのは苦手でね」

 

「名を轟かせる英雄ってのは色を好むってよく聞くんだがなぁ。でもよ、かく言うイタミ殿だってイタリカじゃハイエルフの娘に賢者の弟子の少女、果てはあのエムロイの使徒であるロゥリィ聖下とも親しいって俺らの間じゃ有名なんだが」

 

「あの3人は……親しい仕事仲間ってところかなぁ、今のところは」

 

「今のところは、か?」

 

「そう。今のところは、ね」

 

 

 小さく口元を緩め、意味ありげに曖昧な笑みを浮かべる伊丹。

 

 ヴィフィータも、女性的とは少しばかり言い辛いが見惚れてしまいそうなニヒルな微笑みを返す。

 

 このボーイッシュな美女と会話するにつれて園遊会ならびに色仕掛け責めに抱いていた居心地の悪さが解れつつある事に伊丹は気付いた。

 

 それは女性らしい母性的な雰囲気に包まれて……とはまた違う。

 

 言うなれば倉田や梨紗といったオタク仲間、彼らのような気の置けない悪友とバカ話に花を咲かせた時のそれに近い気分であった。

 

 ピニャら女性陣の露骨な攻勢に辟易しつつあった今の伊丹には、お嬢様オーラよりも男前さが際立つヴィフィータの存在が何とも心地良い。

 

 

 

 

 それこそがヴィフィータの狙いであった。

 

 そもそも無理矢理男女の関係へとピニャらの方から持ち込もうとしていたせいで、逆に伊丹から敬遠されてしまっていたのは一目瞭然であった。

 

 だからヴィフィータは最初から伊丹を色気で誘惑しようとは考えなかった。そもそも彼女の好みはもう少し年上でもっと逞しい男である。

 

 女としての魅力で堕とすのではなく、男らしい気さくさで接する事により伊丹との友誼を結ぼうというのが彼女の計画である。その狙いは見事成功しようとしていた。

 

 伊丹の方もヴィフィータの魂胆を見抜いた上で胸襟を開きつつあった。

 

 彼女のある意味開き直った態度はむしろ好ましく、距離感も適切で何より邪まさを感じさせないカラッとした態度は話していて気持ちが良い。

 

 職務の都合上、必要以上に親しくなる訳にもいかないが、男女の仲云々は抜きでヴィフィータと気兼ねなく談笑するぐらいは許されるであろう。

 

 色仕掛け要員相手に見せていた誤魔化す為の笑みとは違う、本心からの笑顔と共に伊丹はヴィフィータと談笑を続ける。

 

 

 

 

 そしてヴィフィータのお陰で伊丹の機嫌がようやく上昇傾向に向かいつつあるのを距離を置いて見守っていたピニャは、現白薔薇騎士団長に大いなる感謝を捧げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

『女は深く見る。男は遠くを見る』 ――グラッベ

 

 

 




少々燃え尽き気味です…

栗林無双よりも先に園遊会に駆けつけたバカ皇子と伊丹が遭遇する展開も考えましたが、展開の進行速度優先でカットしました。


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