GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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3:Thing of the Past/ソルジャー・ストレンジャー・オールドマン

 

 

 

<19日前/13:09>

 伊丹耀司 第3偵察隊・二等陸尉

 ファルマート大陸・アルヌスの丘/自衛隊駐屯地

 

 

 

 

 

 

「園遊会、ですか」

 

 

 昼食を取り終えてから昨日より引き続き書類仕事に精を出そうとしていた伊丹を上官の檜垣三佐が呼び出した。

 

 そこで告げられた内容を、伊丹は曖昧な表情でもってオウム返しに口ずさむ。

 

 

「そうだ。ピニャ殿下を窓口に現在外務省が帝国との講和を結ぶべく動いているのは君の耳にも入っているだろう」

 

「はぁ、一応は」

 

「この度帝都にて活動中の外務省特使の提案により、帝国元老院の議員の中でも講和に賛成するであろう方々を招いての園遊会を催す事になった」

 

「成程。んじゃあ自分が呼ばれたのはうちの連中にその園遊会の護りに就けって事ですかね?」

 

「無論それも含まれるだろう。だが実際に会場の護衛を担当するのは先日特地入りした特殊作戦群が行うそうだ。つまり形式としては特戦群との合同作戦という形になる。

 また立案者である特使は招いた講和派議員に日本の実力を示す為のデモンストレーションを含めた催しを現地で行いたいと言ってきている。

 第3偵察隊には会場内部の警護を担当してもらうと同時にデモンストレーターをしてもらう形となるだろう。第3偵察隊は君も含め個性的な経歴の持ち主が多いからうってつけではないかな?」

 

 

 例えば伊丹の部下である古田陸士長は元一流料亭の板前という、文字通りプロの料理人である。

 

 また部隊に2人いる女性自衛官の大きい方こと黒川は元看護士だし、小さい方の栗林はバリバリの武闘派だが見た目は小柄で愛嬌のある可愛い系女子…女子? なので威圧感を与えにくく、現地住民の相手をさせるにはうってつけだ。

 

 他にも伊丹と同類のオタクだが、明るく言語の違う現地住民相手にそつなく友好関係を結べる程コミュニケーション力に優れた倉田もいる。

 

 戦闘面に関しても、格闘徽章持ちの栗林とレンジャー&空挺の徽章をダブルで所有する富田は、銀座-箱根-大島空港で巻き起こった大激戦を見事戦い抜き、優れた兵士としての素質を発揮したのは記憶は新しい。

 

 伊丹に関しては最早言わずもがなである。

 

 

「それから、その、なんだ……」

 

 

 檜垣三佐は不意に言い澱む。どうしたのやらと伊丹が心中で首を傾げていると、上官は一つ大きな溜息を吐き出してから再び口を開く。

 

 

「今回の園遊会について先方から希望があってな」

 

「先方というとピニャ殿下ですか?」

 

「ああ。この度の園遊会には伊丹二尉には日本側の主賓として参加してもらいたい、というのがピニャ殿下の希望なんだ」

 

「……はい?」

 

 

 会場や外務省職員の警護役でも、デモンストレーション担当でもなく、園遊会の主賓として?

 

 何故に。解せぬ。ポカンと呆けたその表情が、伊丹が抱いた感想を饒舌に語っていた。

 

 すると伊丹の反応を見た檜垣は両の手の平をデスクに叩きつけながら勢い良く立ち上がった。部屋中に鳴り響いた物音に、他のデスクで仕事中だった他の幹部自衛官らが驚きの表情を伊丹と檜垣に向ける事となった。

 

 檜垣三佐は伊丹が直属の部下に就いたその日から苦労の日々に苛まれてきた人物だった。

 

 伊丹の怠惰な仕事ぶりに頭を悩ませ、遠征任務だの参考人招致だのに送り出されたかと思えばその度にトンデモない面倒事を持って帰ってくる彼のトラブルメーカーぶりに頭と胃を痛めつけられてきた身である。

 

 そんな伊丹が現在戦争中の敵対国家の権力者、それも講和のキーパーソン直々から園遊会の主賓として招かれる――

 

 檜垣が心穏やかでいられる筈もなかった。『銀座事件』の英雄かつ第3次世界大戦終結の立役者であっても、檜垣からしてみれば伊丹という男は仕事には怠惰でしかも目を離すとすぐ厄介事を持ってくる面倒な部下である事に変わりはないのだから。

 

 その認識は妙に物騒な気配漂う伊丹宛ての荷物が大量に銀座側から送りつけられ、案の定非合法な兵器が大量に詰まっていたという武器庫係の目撃談を耳にした事で改めて実感済みである。

 

 

「頼むから向こうの機嫌を決して損ねたりするんじゃないぞ……!」

 

「ど、努力はします」

 

 

 血を吐くように発せられた上官の懇願に、流石の伊丹も少しばかり罪悪感を抱いたのであった……あくまで少しばかりは、だが。

 

 その後、外務省からの追加の人員と元老院議員にばらまく贈呈品と共に翌朝ヘリで出発するようにという辞令を受け取った伊丹が自分のデスクへ戻ると、そこには休めの姿勢で伊丹の帰りを待っていた黒川の姿があった。

 

 

「隊長、後でご相談があるのですが」

 

 

 長身の部下は深刻味を帯びた真剣な表情で伊丹にそう告げたのである。

 

 

 

 

 

 その日の業務を終えた伊丹が黒川に連れられて向かったのはアルヌス難民キャンプ……改めアルヌスの街であった。

 

 意外かもしれないが伊丹がアルヌスの街を訪れるのは今回が初めてだ。日本から戻って以降は昨日まで入院生活を送っていたのだから当然である。

 

 入院中に見舞いに訪れた栗林やら、ロゥリィやら、テュカやレレイや倉田などから、『門』経由で特地に持ち込まれる食品や日用雑貨を筆頭とした地球製品を販売したりしている内に彼方此方から金儲けの臭いを嗅ぎつけた人々が集まったせいで店や建造物が増えたという話は、伊丹も耳にしてはいた。

 

 しかし実際に盛況ぶりを見せつけられると、やはり驚きを隠せない。よくもまぁ自衛隊が提供したプレハブの寝床とテントしかなかった難民キャンプがこうも短期間で進歩したもんだと感心しきりの伊丹である。

 

 

「うおーっスッゲェ!? 本当にファンタジーの街そのまんまになってやんの!」

 

 

 猫耳犬耳ウサ耳の女性達やドワーフ、羽まで生やしたファンタジー丸出しの種族もいれば、普通の人間も大勢いる。

 

 その人間も性別に体格、格好も千差万別のみならず肌の色すら様々であり、今のアルヌスはまさに人種のサラダボウル、その異世界版と例えても過言ではない様相に変貌していた。

 

 無論、ファンタジー感全開の光景に伊丹のテンションは急上昇である。

 

 取り出したスマホのカメラを起動してあっちこっちに向けては撮影を繰り返す。その姿は世界トップの戦功を打ち立てた英雄からは程遠い。伊丹がこんな性格なのは今更な話だ。

 

 黒川は呆れ、途中で合流したロゥリィははしゃぐイタミの姿を面白そうに眺めていた。

 

 アルヌスの街には現地住民だけでなく、自衛官達も食ったり遊んだりしにやって来ている。

 

 そんな森林迷彩姿な集団の中に見慣れた顔を見つけた伊丹は反射的に声をかけた。

 

 

「プライス! ユーリ! ニコライ! 何だお前達もここに遊びに来たのか?」

 

 

 自衛隊の迷彩服を着ている人間は当然ながら黄色人種ばかりなので、そこに白人が混じると非常に浮いて見えた。

 

 海外時代の戦友達は道行く自衛官らの中でも特に筋骨隆々な隊員の集団に取り囲まれるようにして特地流の食堂へと入っていくところだった。本来ならば3人は基地の外に出られない筈なのだが。

 

 

「それがだな同志イタミ、大変喜ばしい事に非日本人である我々も、遂にこのアルヌスの街限定で基地の外に出ても良いという許可がようやく下りたのだ!」

 

「で、昨日今日と俺とプライスが彼らに教導を行ったそのお礼に、アルヌスの街を案内ついでに店で奢ってくれるという話になったんだ」

 

 

 ロシア人組が事情を説明する。彼らもファンタジー全開なアルヌスの街の光景には流石に浮足立った様子だ。

 

 火の点いていない葉巻を銜え、オフの時でもトレードマークのブッシュハットを被ったままのプライスは口を閉じたままだったが、彼も心なしか眉間の皴や張りつめた気配が緩んでいるように感じられる。

 

 生死を幾度も共にしてきた戦友らがこうして明るい様子を見せているのは、伊丹にとっても非常に喜ばしい事だ。伊丹の口元も思わず綻ぶ。

 

 

「へぇ、良かったねぇ。まぁ皆が他の隊員達とも仲良くやれてるのは良い事だようん」

 

「丁度良いですわ。我々もこの店に入りましょう」

 

 

 プライス達は店内へ。伊丹と黒川とロゥリィは食堂の外のテーブルを選ぶ。

 

 

「デリラ! とりあえず生、大ジョッキで全員分頼むわ!」

 

「はいよっちょっと待ってくんな!」

 

「この店にはスタウトはあるか?」

 

「スタウトもエールもないけどビールならあるよっ!」

 

「……」

 

 

 イギリス人らしい注文をウサ耳のウェイトレスにするプライスの声を遠くに聞きつつ、伊丹と黒川はテーブルに着き、ロゥリィも当然とばかりに伊丹の隣へ腰を下ろすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

<19日前/18:53>

 ジョン・プライス タスクフォース141・サバイバー/在特地・英国特別観戦武官

 アルヌスの街

 

 

 

 

 少なくともあの闖入者が現れるまで、プライスは彼にしては上機嫌に美味い酒を飲んでいた。

 

 異世界の酒場は賑やか過ぎ、客層もいささかバリエーション豊富で―身なり的にも、種族的にも―アルヌスの街に繰り出した当初は人外の特徴が色濃い者の姿を発見する度に面食らい、果たして落ち着いて酒を飲めるのかプライスにしては珍しく困惑してしまったぐらいだ。

 

 それもウェイトレスからきめ細かい泡が溢れそうなビールが注がれた人数分のジョッキを受け取り、ユーリとニコライ、そしてプライスらをここに連れてきた隊員らとぶつけ合うまでの話で。

 

 

「世界を救った英雄達に……カンパーイ!!」

 

『カンパーイ!!』

 

Cheers(乾杯)

 

「「Тост(乾杯)! 」」

 

 

 わざわざ電力も供給して冷蔵庫を置いているようで注がれたビールはキンキンに冷えていた。

 

 ジョンブルとしては日本流のラガーよりも生温いスタウトでこそ乾杯したい所だ。ロシア人のユーリとニコライはキンキンに冷えたウォッカ辺りか。

 

 だが『門』があるのは日本なのだから、地球側から持ち込まれる商品も文化も日本流に限定されるのは仕方あるまい。異世界でまで本場のスタウトを求めるのは流石に贅沢が過ぎる。

 

 スタウトと比べると淡白だが滑らかでキレの良い黄金色の液体を一気に飲み干す。以前日本潜伏中、野本とその友人らに何故か連れて行かれた居酒屋で教えられた飲み方である。

 

 

「流石英雄、良い飲みっぷりで! おーい生もう1杯追加!」

 

 

 こうして日本の酒を飲んでいると、ウォッカが燃料代わりなロシア人に負けず劣らずの酒豪だった野本の恋人を思い出す。

 

 日本人にしてはやたらと胸が大きいのと、ヘレフォードのパブに集まる飲兵衛自慢の兵隊連中も彼女には敵うまい、そう思わせる程の飲みっぷりだったのが印象的だった。

 

 ふと、ユーリとニコライが妙に愉快気な顔でこちらを見ているのに気付く。こちらも空になったグラスをテーブルに起き、伸ばした人差し指で何やら口の周りを示してみせる。

 

 

「プライス、髭の周りに泡が付いてまるでサンタクロースだぞ」

 

「…………」

 

 

 無言でカウンターにグラスを置き―パブに慣れ親しんだ身としてはカウンターでの立ち飲みが性に合った―泡を拭う。

 

 すぐさま次のジョッキを渡されたので今度はゆっくりと一口だけ味わう。本来のイギリス流の酒の楽しみ方はこうしたものだ。

 

 温いスタウトをちびちび味わいながら新聞を読み、テレビで競馬やスポーツを観戦し、飲み仲間と他愛無い世間話に戯れてこそ英国紳士というものだ。

 

 ……もう何年も祖国のパブに行っていない。SASの本拠地であるヘレフォードの土を最後に踏んでから幾年もの月日が過ぎた。

 

 愛用の葉巻を取り出す。酒を呷っては紫煙を燻らせる。

 

 歳を取ると何かにつけて昔の事を思い出しがちだ。特に酒が入り、アルコールによって思考のタガが緩むと特に。

 

 

「友よ、楽しい酒を飲む場だというのにやけに表情が暗いぞ。悩み事ならこのニコライに相談してみたまえ」

 

「大した事じゃない。昔の事を思い出していただけだ」

 

 

 基本プライスという男の口は軽くない。少しでも滑らかに喋れるよう更に酒を一口。

 

 

「ソープや死んだ連中がこの光景を見たらどう思っただろうな、などと考えてな」

 

 

 見覚えのあるエルフの小娘が外のテーブルで飲んでいた伊丹らから離れていき、ウサギの耳を生やしたウェイトレスがテーブルの間を行き来しては注文を取り、別のカウンターではドワーフと猫の獣人(キャットピープル)が肩を並べて酒を飲む。

 

 他にも現地の傭兵集団だろう、屈強だが粗野な雰囲気の男達に混じり、狼男以外の表現が見当たらない存在が毛むくじゃらの手で仲間の背中を叩きながら共に笑い合っていた。

 

 SAS、タスクフォース141、傭兵、スペツナズ、デルタ――共闘し、そして今はこの世から消えた男達。

 

 彼らが『門』の向こうに異世界が存在した事を知ったらどんな反応を見せただろう。

 

 特にソープだ。そう、モヒカンなんてパンク連中でも今や滅多にお目にかからない髪形をしておきながら妙に絵が達者だったアイツなら、楽しそうに愛用していた手帳に異種族入り乱れる酒場の風景をスケッチしていたに違いない。そうに決まっている――

 

 それは結局プライスの妄想でしかない。

 

 ソープは死んだ。プライスに看取られて。マカロフの罠によって。

 

 葉巻の味が妙に苦い。ビールで無理矢理洗い流す。

 

 酔いが回った者特有の上ずって音量大き目の若い声がプライスの意識を過去から現在へ引き戻した。

 

 

「プライス大尉! 我々若輩者どもに是非プライス大尉達が経験された過去の雄姿を語って頂けませんでしょうか!」

 

『お願いします!』

 

 

 プライスらの教導を受けた戦闘団の若い隊員らが声を合わせて囃し立てる。

 

 エネルギーに溢れ、厳しい訓練を日々こなす優秀な兵士特有の自負と自信を漂わせる彼ら。

 

 それはやはり過酷な選抜試験を突破し、拷問紛いの尋問訓練も耐え抜いてやっとSASに入隊したばかりのFNG(クソ新人)達とそっくりな雰囲気だった。

 

 昔はそんな若造達を目の当たりにすると、真っ先に使い物になるのかどうかという疑心をまず覚えたものだ。こうして昔話をせがまれても鼻で笑って適当にあしらっただろう。

 

 今日の酒の代金は戦闘団の若者持ちだ。異世界らしい光景も見せてもらったのだ、少しは報いてやるべきだろう。

 

 やはり自分は歳を取った。プライスは改めて思う。

 

 

「どこから話をしたものか。そう、まずは俺がお前らのように若かった時代、1995年のプリピャチが全ての始まりだった――」

 

 

 また酒で口を湿らせ、第3次大戦を招いたマカロフとの因縁、その数奇な起源を語り始めようとしたその瞬間。

 

 良く通るハスキーボイスが建物の外で発せられ、それに注意を惹かれたプライスは語りを中断すると体ごと視線を声の出所へと向ける。

 

 老兵の目に飛び込んできたのは、伊丹に対し何時でも腰の鞘から抜き放てるよう剣の柄を握って威圧する、ターバンにマント姿の剣呑な女であった。

 

 それを見たプライスは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<19日前/20:07>

 柳田明 特地方面派遣部隊幕僚・二等陸尉

 アルヌスの街

 

 

 

 

「で、何がどうしてこんな事になりやがったんだ? ああ?」

 

 

 よりにもよって伊丹と海外からのお客様が現地住民に暴力沙汰を起こしたという知らせを警務隊から受けた柳田は、ちょうど取っていた食事をうっちゃってアルヌスの街に建てられた警務隊の詰め所へ猛ダッシュで駆け付ける羽目になった。

 

 でもって当事者として取調室に入れられた伊丹とプライスと顔を合わせるや、こめかみに汗と青筋を浮かべて主に伊丹へ向けて言い放ったのが冒頭の言葉である。

 

 

「訳の分からん事を捲くし立てて武器を抜いたから被害が出る前に鎮圧した。それだけの話だ」

 

 

 伊丹が説明するよりも先に仏頂面で腕を組んだプライスが端的に語った。外国人勢は特地の言語を習得していないので、正確には『言っている言葉の意味が理解出来なかった』が正しい。

 

 こっちは一応政府公認のお客様である。立場上、伊丹相手の時のように嫌味や叱責を飛ばす訳にはいかない柳田は頭痛を堪えるように眉間を指で押さえる。というか実際早くも頭痛がし始めていたりする。

 

 

「警務隊が目撃した連中から聴取した内容とも一致はしているが、現場には当時ロゥリィ閣下もいたと……」

 

「あー、ところで柳田さん。爺さんが叩きのめしちゃった例のダークエルフ、容体は大丈夫そう?」

 

 

 つまりはそういう事であった。

 

 とうとう剣を抜いて伊丹に詰め寄っていたダークエルフの女を、プライスが物理的に鎮圧してしまったのである。

 

 幾多もの敵兵の喉笛へナイフを突き立ててきたその隠密能力でもって気配を消してダークエルフの背後を取るや、

 

 

『Oi, Suzy!』

 

『ぬおっ!?』

 

 

 驚いて振り返ろうとしたダークエルフの足を後ろから払いつつ、マントの襟首も掴んで下方向に引き落としたのだ。

 

 結果、呆気なく転倒させられたダークエルフは後頭部を強打。

 

 脳震盪を起こして気絶した彼女は駆け付けた警務隊によってそのまま治療施設に直行、絡まれていた伊丹は重要参考人、そしてプライスは暴行の現行犯として連行される羽目になった――という顛末である。

 

 昏倒するレベルの頭部への衝撃だ。見た目には分からなくても脳への障害や最悪命に関わる場合も珍しくない。

 

 そんな伊丹にプライスは鼻を鳴らす。後遺症が残らない程度の手加減はしてやったと老兵はあっさり告げた。

 

 

「いやぁ爺さん基本的に容赦ないじゃん。酒だって入ってたしさ」

 

「この程度で酔うほど歳を取っちゃおらん」

 

「酒飲んだうえで暴力沙汰自体大問題ですっての!」

 

 

 抜け抜けと言い放ったプライスに堪らず柳田は叫んだ。

 

 一瞬、狭間陸将に掛け合って基地外への外出許可を取り消しにしてやろうか、という考えが思い浮かぶも、その事が『門』の外の日本政府やイギリス政府に伝わったら余計に面倒になると思い直す。

 

 そもそもプライスの言った通り、相手のダークエルフは剣を抜いて伊丹に向けた事は周囲の証言とも一致している。最低でも脅迫、殺人未遂での処罰が下されるのはむしろダークエルフの方だ。

 

 

「とりあえず伊丹は今回の件の報告書と始末書をさっさと書いて明日の出発までに提出しろ。

 プライス特別武官、貴方については正当防衛として処理しますが、今後このような自発的行動はなるべく控え、現場の警務官に任せて頂くようにして頂きたい!」

 

 

 

 

 一息で捲くし立て終えると柳田はやってられっかと言わんばかりにガシガシと頭を掻くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

『酒は人間を映し出す鏡である』 ――アルカイオス

 

 

 

 




ヤオよ、君の登場の仕方が悪いのだよ…
BOキャンペーン冒頭のウッズよりは有情だから(震え声)

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