GATE:Modern Warfare   作:ゼミル
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大雨で危うく職場が物理的に消滅寸前でしたが何とか生きてます。
今回は幕間回


6.5:A Jewel in a Dunghill/事後処理

 

 

 

<特地現地住民に対する審問の記録映像より一部抜粋>

 

 

 

 

 

(診察室に第3偵察隊の黒川2等陸曹が入ってくる)

 

 

『初めまして、私は黒川と言います。よろしくお願いしますね』

 

『……』

 

 

(ヴォーリアバニーの女性、しばらく無言を通す)

 

 

『まずは貴女のお名前を教えて頂けますか?』

 

『……パルナよ』

 

『苗字、姓は何ですか?』

 

『貴族様じゃあるまいし、悪所なんて掃き溜めに流れてきたような女に、姓なんて上等なのがあるわけないに決まってるじゃない』

 

『そ、そうですか』

 

『いやゴメン、今の言い過ぎたわ。自分からアンタ達ジエイタイ? に身柄を預けておいてなんだけど、こうも丁寧に扱われるのは少し予想外だったから』

 

『丁寧、ですか?』

 

『手足が痺れるぐらいに縛られてから身包みを剥がされて検査と称して男どもにかわるがわる、って事よ。

 ベッサーラを襲った兵隊は紳士的だったけど、他のジエイタイの兵隊も紳士的とは限らないから。アタシもそれぐらいの扱いは仕方ないと思って覚悟してたんだけど、連れてこられてからも何も無くて、むしろ拍子抜けしちゃった位よ』

 

 

(女性の発言に満面の笑みを浮かべる黒川二曹)

 

 

『そういった野蛮な行為を行った隊員には厳しい罰が与えられますから。もしそのような卑劣漢が現れた暁には、私自身の手で二度と不埒な真似が出来ないよう処置する所存ですので、安心して寛いで頂いても構いませんよ』

 

 

(黒川二曹の発言を聞いた女性、小さく口元を歪める。笑みを浮かべたと思われる)

 

 

『……故郷を滅ぼして奴隷にした帝国軍やアタシ達と寝た男達は、アタシらヴォーリアバニーを『残忍で淫乱で野蛮な亜人風情』なんて言ってたけどさ』

 

『……』

 

『アンタ達ジエイタイと比べれば、帝国の連中の方がよっぽど野蛮人に思えてくるわ』

 

『そう仰って頂きとても光栄ですわ』

 

 

(しばし簡単な質問が続く)

 

 

『ひとつ重要な質問をします。何故貴女の主であったベッサーラ氏を襲撃した我々に対し、パルナさんは自ら保護を求めたのですか?』

 

『その方が良いと思ったからよ』

 

『どうしてでしょうか』

 

『この悪所街でも飛び切り性質が悪い事で有名だったベッサーラに一泡吹かせるどころか、アイツの根城まで殴り込んでとっ捕まえてあれだけ怯えさせるほどの力を持ってるのに、裸の女を前にして嬲るどころかわざわざ服をかけてやった挙句に、亜人の愛人風情に過ぎなかったアタシに謝罪の言葉までかけてくれる位に礼儀正しいお人好しだったから』

 

『……』

 

『ベッサーラがあちこちから大層な恨みを買ってたのは何となくアタシにも分かった。あのままベッサーラに付いて行っても、派手にやられたのが広まれば遅かれ早かれそのツケを払わされてたと思う。

 それに巻き込まれるのはアタシは御免だった。色々と辛い目に離れてるつもりだけど、やっぱりまだ死にたくはなかったから』

 

『だったらいっそ、とそういう訳ですか』

 

『そういう事よ。帝国や悪所の連中よりよっぽど紳士的で、ベッサーラなんて目じゃない位に強い、まるでおとぎ話の騎士みたいな戦士が居るジエイタイならもしかして――そう思ったのよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<16日前/11:42>

 伊丹耀司 第3偵察隊・二等陸尉

 帝都悪所街・自衛隊事務所

 

 

 

 

 

 悪所街の事務所へ帰還し、新田原三佐に報告と戦果をしてから銃と装具の点検を行い、今夜の出来事についての報告書も途中まで作成してからようやく仮眠を取り……

 

 伊丹が2階に設けられた特戦群用の休憩室で目を覚ました頃には昼近くになろうとしていた。

 

 同じ空間で思い思いにくつろいでいた剣崎ら特戦群メンバーの視線が一生に伊丹へと集まる。

 

 

「おう、起きたか伊丹」

 

「おー、おはよう。腹減ったぁ……」

 

「もう昼になるぜ。下で飯貰って来いよ」

 

「おおそうする……」

 

 

 欠伸を一発、腹やら頭やらをボリボリ掻きつつ、Tシャツに迷彩ズボン姿で休憩室を出る伊丹。

 

 ただしTシャツで隠すように腰の後ろにグロックをベルトに挟んだ上でだ。地元のチンピラどもに襲撃されてそれこそ半日しか経っていないのだから念の為である。

 

 1階は元々仕切りのない広間だった空間を、自衛隊が持ち込んだパーティションやカーテンなどで幾つかの空間に小分けした状態で利用している。

 

 その中で最も広い空間には文字通り事務所らしく幾つかのデスクが置かれ、その上に広げられた書類を吟味したり、据え付けられた無線機を使い他部隊と交信を行う隊員らが各々の仕事をこなしていた。

 

 

「ああ起きたか伊丹二尉。ちょいとこっちへ来てくれないか」 

 

 

 伊丹が下りてきた事に気付いた新田原が手招きする。

 

 

「昨晩はご苦労だった。色々と働いて貰った分疲れただろう、起こすのは忍びないから自分から目覚めるまで待つ事にしたんだが、よく眠れたかな?」

 

「ええぐっすりと」

 

 

 とはいえ、寝起きなせいでちょっと瞼が落ち気味な伊丹である。昨晩のごたごたもあって半日以上まともに食事をしていない為に脳もエネルギー不足だ。

 

 

「そうか……いや、あれだけの戦闘があった直後にぐっすり眠れるとは、流石経験豊富なだけあるな」

 

「慣れればこんなもんですよ」

 

「慣れ、か……すまない余計な事を言ってしまったか。本題に入ろう。まずは昨晩君がベッサーラ邸から入手した書類に関してだが」

 

 

 部下の隊員に翻訳させた報告書の内容に目を通しながら新田原は語り始めた。

 

 

「こちらの想定していた以上の情報の数々ばかりだったよ。どうやらベッサーラとやらは元老院議員をはじめとした帝国内の有力貴族のみならず、帝都で活動している大手商人に関しても色々な弱みを握っていたらしいな」

 

「そりゃあんな豪勢な屋敷を建てるだけでも方々から金やら資材やら集めなきゃいけなかったでしょうからねぇ」

 

 

 その屋敷を跡形もなく瓦礫の山に変えた張本人はのんびりとしたものであった。

 

 とぼけた態度の伊丹に、目の前の男が本当に銀座で万の帝国軍に立ち向かい、おまけに核戦争を阻止したWW3の英雄なのか、ちょっと疑わしくなってきちゃったりしてくる新田原である。

 

 

「まぁなんだ。当初の予定通り悪所街で活動している他の顔役達に接触し情報を仕入れる方針は特に変わらないだろうが、ベッサーラが集めていた情報や権力者の弱みを丸ごとこちらで握れたのは大きな成果だ。

 これらの情報が講和派議員への働きかけや帝国内部の情報収集に大いに活用できるのは間違いないだろう。よくやってくれた、伊丹二尉」

 

「そりゃあ何よりで。いやあヤマが当たって良かったぁ~」

 

 

 ベッサーラ邸襲撃は何気に伊丹にとっては賭けであった。

 

 考えている以上に特地の悪党が脳きn……もとい暴力一辺倒であった場合、弱みを記した書類や物的証拠を残していなかった可能性だって考えられたわけで。

 

 明確な証拠がなければ「悪事を知っているぞ」と帝国の有力者に脅そうにも容易に突っぱねられ、周囲に言い触らしても信じるに値する保証がなければ、例え訴えが真実であっても無かった事にされてしまうのがオチであるからだ。

 

 胸を撫で下ろす伊丹。だが新田原の話はまだ終わらない。

 

 

「ところでベッサーラ邸でそちらが保護した現地住民である女性についてだが」

 

 

 パルナの事である。最初は戸惑ったものの、結局指揮官である伊丹の独断でそのまま事務所に連れ帰ったのだ。

 

 そこらへん、既にレレイやテュカといった炎龍からの避難民を勝手に保護してアルヌスまで送り届けた経験がある伊丹は強かった。1度やってしまったのだから2度やっても同じだという理屈である。

 

 単に開き直っただけとも言う。

 

 パルナの場合は完全な善意だけでなく、別の考えもあっての選択であったが。

 

 

「君の部下の黒川二曹と話をさせたところ、色々と興味深い話を聞き出せた。これが記録だ」

 

「どれどれ、えーっと名前はパルナ、姓はなし。種族はヴォーリアバニー……へぇ、元々は大陸の東北の出身かぁ」

 

「話を聞いた限りでは帝都からかなり離れた土地の出身だそうだ。国は既に帝国に滅ぼされて亡くなったしまったそうだがな。それでもほんの3年前まではそこで過ごしていたそうだから、今後深部情報偵察隊が更に活動範囲を広げた場合には現地ガイドとして利用出来る、というのが幕僚の判断だ」

 

「となると彼女はアルヌス行きですかね。現地を案内させるにはやっぱ現地を知ってる人にやらせるのが手っ取り早いですから」

 

君が(・・)責任を以って彼女を送り届けるんだ。独断で連れてきたのはそちらなんだ、キッチリ最後まで面倒を見てやってくれ」

 

「分かってますって。今の彼女の様子は?」

 

「そこの診察室で黒川二曹に面倒を見てもらっているよ。もっと詳細を聞きたいのならパルナ氏の事情聴取を担当した彼女と話をすれば良い」

 

 

 新田原の提案に従い伊丹は医務室へ向かった。

 

 

「黒川、入るぞー」

 

 

 事務用の空間との仕切りをノックしてから……というのは布製のカーテン相手では無理なので、伊丹は声をかけると返事が返される前にさっさとカーテンを潜ってしまった。

 

 もし中にいる黒川が「まだ入らないで少しだけ待って下さい」と返事を返すまで待つだけの理性が働いていれば、これから伊丹を襲うトラブルはまず起きなかった筈だ。

 

 この時の行動に対し仮に弁解を行うとしたら、寝起きな上に空腹も重なって頭が若干回っていなかったが為に、気遣いやデリカシーといった諸々が伊丹の頭から抜け落ちてしまっていた事に尽きる。

 

 さて、伊丹は一体何をしでかしたというのかといえば、

 

 

「すいませんが我々で保護するに辺り、パルナさんの体を少々調べさせて頂けますか」

 

 

 高レベルな医療設備が置かれたアルヌス駐屯地から遠く離れた悪所街にて活動する中、自衛隊がパルナを正式に保護するには特地特有の感染症や病原体を警戒しての検査が不可欠であった。

 

 悪所街という場所は最早スラムという表現では言い表せない程に治安が働いていない。

 

 路上で堂々と娼婦が客引きをしていたり、地球では明らかに違法な類の薬物を使ってトンでいるのはまだ可愛いもの。店先で堂々と奴隷を売っているどころか道端や水路に明らかな他殺体が転がっているのすら当然なのが悪所街なのである。

 

 パルナには言えないが、黒川が特に疑っていたのは性病の有無についてだ。

 

 パルナ曰くヴォーリアバニー自慢の肉感的な肢体を買われて奴隷からベッサーラの愛人になり上がったらしいので、発症はしていなくても潜在的な性病キャリアである可能性は警戒して然るべきだ。

 

 悪所街では避妊具どころか性病対策すらまともに取られていないのは事前の情報収集で既に確認済みだった。

 

 もし自衛隊経由で地球に特地特有の性病が持ち込まれてしまおうものなら……と日本政府も大変危惧している。

 

 ちなみに特地に於いては出産に関わるあらゆる病から守るミリッタと呼ばれる出産と子育てを司る神の加護が存在するが、それはあくまでミリッタに仕える神官が居る場合に過ぎない。

 

 そのような事情からの検査であった訳だが……

 

 

「肺の音を聞きたいので服をめくって下さい」

 

 

 と聴診器を取り出した黒川に言われ、彼女に従うがまま胸が完全に露わになるぐらい大きく服を開けるパルナ。

 

 下着の類は上も下も着けていない。前の主に命じられたらすぐに裸になれるようにしていたからだ。

 

 伊丹が診療室に乱入したのはよりにもよってそんなタイミングだった。

 

 でもってその時のパルナは聴診器を手にした黒川の指示により、背中側から音を聞こうと椅子の上で振り返った瞬間だった。丁度事務室と診察室を区切るカーテンへ向いた形になる。

 

 伊丹の視界に真っ先に飛び込んできたのは、ほぼ上半身裸で丸椅子に座るパルナの姿。

 

 

 

 

 

 ――それは胸部というにはあまりにも大き過ぎた。

 

 ――大きく、分厚く、重く、そして豊満過ぎた。

 

 ――それは正に超乳だった。

 

 

 

 

 

 ……思わず伊丹の脳裏でそんなモノローグが浮かぶほどにパルナの乳は見事であった。

 

 モノローグの元ネタ的に呼ぶならば、ドラゴン殺しならぬ男殺しと呼ぶべきだろう代物だ。

 

 比較対象で真っ先に思い浮かんだのは第3偵察隊きっての爆乳脳筋こと栗林だが、パルナの胸はそんな栗林をも上回るサイズだった。

 

 形状的には栗林がロケットならパルナは丸餅。それも特大のだ。肌の張りは栗林が上だが、柔らかさの方は使い込まれたパルナの方に軍配が上がるだろう。

 

 どちらにせよベッサーラが愛人に選んだのも納得してしまう程には魅力的な双丘、いや大山脈である。

 

 それが余すところなく伊丹の眼目に晒されていた訳で。

 

 

「おわぁゴメンなさい!」

 

 

 伊丹は即座に反転して診療室からの退却を選択。

 

 あられもない姿を見られたパルナの方はといえば、見られた事への羞恥や怒りを覚えた様子もなく、どちらかと言うと呆けたような表情を浮かべている。

 

 今更胸の1つや2つ見られた程度で動揺するだけの恥じらいなど持ち合わせていない。悪所街の女、特に商売女に至っては裸同然の格好が当たり前ですらある。

 

 胸を見られた事そのものよりも、むしろ伊丹が好色な視線を向けるどころか謝罪の言葉を残して逃げ出してしまった事の方こそ、悪所街暮らしで擦り切れたパルナには驚きであった。

 

 

「戦士としては立派だけど男としては初心だね」

 

 

 なんて感想が口から漏れてしまうぐらいに。

 

 

「クリが毒牙にかかってしまう前に伊丹隊長を処置すべきかしら」

 

 

 そして黒川が笑っていない笑顔でそう呟いたのを、伊丹は知る由もないのであった。

 

 

 

 

 

 

「あーやっちまったなぁ」

 

 

 診療室を飛び出して事務所の外まで逃げてしまった伊丹は、建物の入り口前で大きな溜息を吐いた。

 

 当のパルナからは怒りを買うどころか三十路を過ぎて初心扱いされているなど露知らない彼は、脳裏に焼きついたパルナの裸身を振り払うのも兼ねた気分転換をしようと、迷彩ズボンのポケットから葉巻と傷だらけのライターを取り出した。

 

 慣れた手つきで葉巻に火を着け、タバコとは一味違う紫煙を味わうと同時、伊丹の眼球が周囲の様子を素早く捉えてまわる。

 

 現在の自衛隊事務所の正面入り口周辺は空白地帯と化していた。

 

 理由は明白、事務所を襲おうとしたベッサーラの手勢が悉く屍を晒したという情報が悪所中に出回ったからだ。

 

 死体に関してはベッサーラ邸襲撃に出向いた伊丹と特戦群を除く自衛隊員らによって処理済である。

 

 それでも近隣の建物には今も血痕が生々しく残っているどころか、建物や路地の一部に至っては爆発物による小さなクレーター、そして殺戮の痕跡が刻まれたままだ。新田原らが避難させた建物の住民もまだ帰ってきていない。

 

 自衛隊の圧倒的な武力は昨晩の襲撃で悪所街の住民にも知れ渡った。

 

 住民らはそれが自分達にも向けられる事を恐れて事務所に近付こうとしないのだろう。たまたま姿が目に付いただけの理由で理不尽な扱いを受ける、なんて話はこの手のスラムでなくてもよくある話なのだから。

 

 そこら辺は今後の自衛隊の対応で改善されるであろうが、流石に昨日の今日で殺戮現場であった事務所に近付こうという恐れ知らずは早々居まい。

 

 

(近付きはしないけど、遠くから見張ってる連中は居るみたいだけどね)

 

 

 何軒か離れた建物の窓に備えられた窓の戸板の隙間、あるいは細い路地の辺りといった数ヶ所から伊丹は視線を感じ取っていた。もちろん視線の出所をあからさまに注視するなんてヘマはしない。

 

 おそらく潰したベッサーラ以外の悪所街を牛耳る顔役連中が自衛隊の動向を見張るべく送り込んだ監視か。

 

 視線に構わず伊丹は堂々と葉巻を吹かす。ベッサーラの二の舞を恐れて残りの顔役はちょっかいをかけてこないと踏んだからだ。

 

 とはいえ、一見人気のない場所で独り寂しくぼんやりとしているのもやるせない。

 

 足音が近付いてきたのは、そろそろ中に戻ろうかと伊丹が考え始めた時だった。

 

 

「見かけない顔だね。その格好、アンタもジエイタイの人間かい?」

 

 

 声をかけてきた人物は緩やかな金の長髪と白い翼が眩しい亜人の女性だった。手には火の着いていないキセル。

 

 翼人種であるその女性は紛れもない美人であったが、艶やかな美貌の下から滲む擦れた気配、胸の突起や下腹部の叢まで透けて見えるほど薄く肌も露わな衣装を纏っていても平然としているその態度は、彼女が商売女である事を明白に示していた。

 

 なるべく内心を顔に出さないよう大いに気をつけながら応対する伊丹。さりげなく葉巻を持っていない方の手を腰の後ろに挿した拳銃へ近付ける。

 

 翼を持った美女は寸鉄すら隠し持てないぐらい露出の激しい格好だが、そういう格好で気を逸らしておいての奇襲というのもよくある手なので、一応警戒はしておく。

 

 

「はぁ、そうですけど。我々に何か御用事ですか」

 

「警戒しないでくれていいよ。あたしは仕事に使う道具が切れたから、今夜の仕事の前に貰いに来ただけさ」

 

 

 女性の格好に、彼女の言う仕事に使う道具。

 

 悪所街における自衛隊の活動内容を思い出した伊丹は「あ、あれか」と納得の声を漏らすと、視線は女性から外さぬまま入り口の扉を叩いて事務所内の隊員に来客を告げた。

 

 一方翼人の娼婦は伊丹の葉巻に意識を向けていた。

 

 

「見慣れない煙草だねぇ」

 

「我々の国独自の煙草ですよ」

 

 

 正確には国どころか世界単位で生産地が違うのだがそこまで指摘するのは野暮でしかない。

 

 

「火、借りるよ」

 

 

 伊丹が答えるよりも早く、女性はキセルの先端を伊丹の葉巻へと近付けた。燃焼温度の高い葉巻の火によってキセルからも煙が漂い始める。

 

 嗅ぎ慣れた葉巻の紫煙に混じって鼻を突いた違和感を覚えさせる甘い臭いに、伊丹は女性の刻み煙草に麻薬の類が混ぜられている事に気付いた。

 

 麻薬の存在もこの手のスラムでは御約束だ。伊丹もアフリカでは民兵が麻薬成分を含んだ植物の葉を噛みながらボロボロのAKを振り回す光景を何度も見てきた。

 

 それでも目の前で使用されてしまうと思う所もある訳で。

 

 指摘すべきか否か伊丹が迷う間に内側から扉が開かれ、入る事を許可された女性はさっさと事務所内へと消えてしまった。

 

 

「やれやれ」

 

 

 何に対しての呟きか伊丹自身分からぬまま、吸いさしの葉巻を靴底で揉み消すと、彼も事務所内へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 最終的に伊丹がピニャの邸宅へと戻れたのは日がとっぷりと暮れた頃合いだった。

 

 

「お疲れさまでした隊長。向こうでの話は聞いてます。保護されたという女性はどうされたんですか」

 

「向こうの事務所に残してきた。流石にスラムの住人を皇族の屋敷に連れ込むのは不味いだろうからな。それに彼女は亜人だし」

 

「ヒト種じゃないと五月蠅いみたいですからねぇ。イタリカの方が例外なんですっけ?」

 

「伊丹二尉、悪所街でのお話を是非私にも聞かせて頂けませんか。帝国との交渉において少しでも参考にしておきたいのです」

 

 

 不在の間に溜まった伝達事項を富田と栗林、菅原と交わし終えた伊丹は宛がわれた部屋へと戻る。

 

 夕食を終え身も清め終えると、事務所で過ごしていた時と同じように迷彩ズボンとTシャツというラフな服装で、伊丹は幕僚本部に提出する報告書の清書を行う。

 

 異世界の皇女の屋敷に来てまで書類仕事……面倒だが、アルヌスの隊舎ではないので同人誌を読み漁る事も出来ない。暇潰しだと割り切って仕方なく軍用ノートパソコンのキーボードを叩き続ける。

 

 

「よーし完成! そんじゃ寝るかぁ」

 

 

 ベッドのすぐ傍らにライフルと拳銃、コンバットベスト、予備の武器弾薬その他装備類を収めた背嚢を置いておく。海外時代に身に付いた習慣が異世界に来てからも生かされていた。

 

 緊急時でもすぐさま戦闘準備を取れるよう備えた上で、伊丹が寝床に入ろうとする。

 

 その直後、突然激しく扉が叩かれ、緊迫した富田の声が伊丹の耳朶を打った。

 

 

「伊丹二尉! まだ起きてますか! 悪所街事務所から緊急の無線が入りました!」

 

「今度は何だってんだ!」

 

 

 愚痴りながらも伊丹はベッドから飛び起きるのであった。

 

 

 

 

 

 ――衝撃が迫りつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

『お次は何だ?』 ――『ザ・グリード』

 

 

 

 




A jewel in a dunghill →日本でいう『掃き溜めに鶴』
ラッキースケベ書きたい病の発作が起きたのでつい…

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