GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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大阪民ですが幸運にもほぼ被害なく家族も無事で済みました<地震
この度の震災で被害に遭われた方に心からお見舞い申し上げます。

今後も落ち着いてくれればいいのですが…


5:Night Moves/予期せぬ延長戦

 

 

 

 

<17日前/18:21>

 伊丹耀司 第3偵察隊・二等陸尉

 帝都近郊・ピニャ邸宅

 

 

 

 

 

 園遊会はつつがなく終了した。

 

 正確には正体不明の騎馬集団(後にピニャの兄であるゾルザル皇太子と判明)の訪問を受けたものの、自衛隊員が迅速に講和派議員らを現場から退去させた事で事無きを得た。被害と呼べるのはゾルザル達に根こそぎ食い荒らされた食料程度である。

 

 会場であった庭園から引き上げた伊丹や菅原ら日本勢は二手に分かれて滞在する手筈となっていた。

 

 外務省の代表である菅原と第3偵察隊の一部はピニャの邸宅に。

 

 残りの偵察隊メンバーは帝都南東門周辺に存在する悪所街――要はスラムに設置された自衛隊の活動拠点に配置される。園遊会周辺の監視任務に配備されていた特殊作戦群もこちらに含まれている。

 

 伊丹は前者である。いくら戦場や紛争地帯などまともな治安が機能していない土地で過ごす事に慣れてしまったとはいえ、好き好んで行きたいかはまた別の話な訳で。

 

 園遊会でのあれこれで主に精神が疲弊した伊丹としては、「今日はゆっくり休んでくれ」と告げて邸宅へ入っていったピニャの言葉に甘えてさっさとベッドでゴロ寝したいのが正直な気持ちであったり。

 

 

「園遊会は大変だったであろう。二ホンの料理を馳走になったお返しといっては何だが、我が家お抱えの料理人達の料理を是非ご馳走させて頂きたい」

 

「おおっ、そいつは楽しみだ。倉田、黒川、おやっさん、むこう(悪所)の責任者の人には俺の代わりによろしく伝えといてくれ」

 

 

 悪所に向かう部下達に告げてさっさとピニャの後を追おうとする伊丹だが、遠ざかろうとした背中を倉田の声が引き止めた。

 

 

「隊長、その件なんですけどさっき幕僚本部の方から連絡があって、隊長も悪所街へ同行せよとの命令が来てましたよ」

 

「は、はぁ?」

 

 

 寝耳に水とばかりに伊丹は素っ頓狂な悲鳴を上げた。倉田は続ける。

 

 

「柳田二尉からの伝言では『お前ならそういう場所にも慣れてるだろうから、見物がてら他の連中にアドバイスのひとつでもしてやってこい』って事らしいっすけど……」

 

「や~な~ぎ~だ~ぁ~!」

 

 

 絶対に嘘だ。多分こないだのダークエルフ絡みのトラブルにプライス(秘密のお客様)を巻き込んだ件の意趣返しに違いない。きっとそうに決まっている。

 

 

「基地に戻ったらフラッギングしてやろうかあの野郎……」

 

 

 気に入らない仲間に対する故意の誤爆を意味するスラングを吐き捨てる伊丹。

 

 無論これは言ってみただけであり、本気で実行するつもりはさらさらない。

 

 報復するとしても、せいぜい寝ている間に柳田の部屋に忍び込んで脱毛剤を頭部に垂らしてやる程度で済ます事になるだろう。いや整髪料に脱毛剤を仕込むだけでも十分か。

 

 ピニャが用意してくれた筈の豪華な料理やふかふかのベッドはお預けだ。

 

 出発は人目を避け夜間に出発予定だ。既に日も暮れて時間の余裕はなさそうなのでさっさと悪所外での活動の準備に移る。

 

 園遊会用に来ていた制服をさっさと脱ぐと、特地に来てから最早普段着と化した特地派遣部隊向けの迷彩服4型を纏う。

 

 その上から剣道の胴当てじみた形状の防弾チョッキ3型を……ではなく細かい傷や汚れの目立つコンバットベストを着た。

 

 これは伊丹の私物、もっと正確には海外時代に使っていた装備を持ち込んだ物である。

 

 公言はされていないが第3偵察隊を含む深部偵察部隊は異世界の土地という未知の最前線での活動が主体となる都合上、上官の許可が出せる範囲に限り個人単位の装備に関してはそれなりに融通が利く。

 

 そしてその傾向は粗探しにしつこい野党やマスコミといった連中が、TF141の情報公開に関係する大粛清で一気に勢いを失った事でより顕著になっていた。

 

 例えば栗林などは隊の支給品でないコンバットシャツにグローブ、チェストリグといった被覆装備を自前で用意して今回の任務にも持ち込んでいる。

 

 伊丹に至っては個人の私物という扱いながら、防衛省や政府公認で大量の員数外の銃火器を特地へ持ち込ませた張本人だ。

 

 第3次大戦の英雄という肩書きが周知されたのもあり、今の伊丹は防弾チョッキやホルスターといった被覆装備のみならず、火器類まで官給品ではない自前の銃の運用すら黙認されていた。彼の功績はそれ程であった。

 

 そんな訳で伊丹は持ち込んだ海外時代からの愛用品であるM14EBRライフルをチェックし、予備マガジンや、各種手榴弾や、無線機や、医療キットをベストのポーチへ押し込んでいく。

 

 伊丹は特地へこの銃を持ち込んだ際に特戦群武器係の礼文に頼んで簡単な改良を施してもらった。銃口周辺を弄ってもらい、06式小銃てき弾を発射可能なようにして貰ったのだ。

 

 ベスト内部にセラミックプレートを仕込むのも忘れない。64式銃剣は腰のベルトから吊り下げる。

 

 サイドアームは箱根でのドタバタでも使ったグロック18。拳銃ながらフルオート連射可能で、通常の18連マガジン以外にも33連ロングマガジンを装着可能。

 

 グロック18は右太腿のレッグホルスターへ。通常型の18連マガジンは銃剣と同じくベルトのマグポーチに。

 

 更に33連マガジンも数本、左太腿に巻き付けたマガジンポーチへ差し込む。

 

 M14は7.62NATO弾、グロック18は9ミリパラベラム弾と、それぞれ派遣部隊が使う64式小銃と9ミリ拳銃と弾薬が共有出来るので補給が容易だ。

 

 今回は比較的短距離の移動でありキャンプを張る必要も無い。背嚢は中型の物に予備弾薬と水筒に無線機のバッテリー諸々を収めるに留める。

 

 これで装備は整った。用意を終えた伊丹は最後にやはり官給品の鉄帽ではなく、使い古しのブッシュハットを頭に乗せる。

 

 武器と予備弾薬がぶつかり擦れ合う音を鳴らしながら部屋を出て行く。

 

 高機動車への荷物と人員の積み込みは、あまりに堂々と自衛隊の車両が第3皇女の邸宅前に停まっていては不味いという事で、一応人目を忍び邸宅の裏手で行われていた。

 

 その裏手にて第3偵察隊ならびに特戦群の隊員らは、共同で荷物を抱えて高機動車と邸宅を往復している最中であった。

 

 荷物の中身は日用品に事務所に持ち込んだ発電機用の燃料、予備の食料や武器弾薬といった悪所の自衛隊事務所への補給物資である。

 

 そこへ遅ればせながら伊丹が姿を見せた。近くを通りかかった倉田に声をかける。

 

 

「おう、どうだ調子は。積み込み終わるまで後どれぐらいかかりそう?」

 

「悪所向けの補給物資ならもうすぐ積み終わりますんであと数分で出発出来ますよ」

 

 

 告げる倉田の声は妙に弾んでいた。

 

 

「いやーそれにしても楽しみっすよねぇ」

 

「何がさ?」

 

「帝都ですよ帝都! イタリカ以上に色んな獣耳が集まる楽園、これは期待するしかないっす!」

 

「あのなぁ倉田、言っとくがこれから行くのは要はスラムなんだぞ。 間違いなくお前が期待してるようなのは見られないと思うぞ」

 

 

 あまりにも楽観的な部下の思考に流石の伊丹も呆れながら忠告する。すると同類と思っていた筈の上官の反応が意外だったのか倉田も反論してきた。

 

 

「あれ、伊丹隊長もケモミミパラダイスに期待してたと思ってたんすけど。あ、そういえば隊長はゴスロリ派でしたっけ。ジャンル違いなら仕方ないっすね」

 

「俺は真面目に言ってるの!」

 

 

 伊丹の叫び声が夕焼け空に響いた……

 

 

 

 

 

 

 

「な? 俺の言った通りだったろう」

 

「ケモノ娘の楽園、期待してたんだけどなぁ……」

 

 

 落胆の声が高機動車内の空気を空しく震わせた。

 

 場所は変わって帝都南東部。ピニャの邸宅を出発した伊丹達を乗せた高機動車の一団は、夜間にもかかわらず無灯火運転にて悪所街への進入を果たしていた。

 

 

「ケモミミの女の子は中々見かけないし」

 

「そりゃ向こうからしてみれば馬も無い鉄の塊が勝手に動いてるんだから怯えて引っ込んじゃうだろうしねぇ」

 

「逃げ出さずにいる子が居ると思ったら妙にぼんやりしててガリガリだったり目が死んでたり」

 

「栄養失調か麻薬の類で意識が飛んでたんだろうなぁ」

 

「ケモミミ天国どころか何たるマッポーとかそんな感じっすよねこれ」

 

 

 完全に日が落ち、帝国のお膝元でありながら御上の手が届かぬ治外法権も同然の貧民街なだけに街灯代わりの篝火など焚かれている筈もなく。

 

 

「水路があるぞ。暗視装置は視野が狭くなるから踏み外して落っこちないようにしろよ」

 

 

 ドライバーの倉田は肉眼では認識できない程の光量を増幅して闇を見通す暗視装置を装着した上でハンドルを操っていた。助手席では同じく暗視装置越しに手元の地図へ視線を落とした伊丹がナビゲートをしている。

 

 車両のライトを使わないのは、まともな灯りが無いこんな土地で自衛隊の車両が煌々とライトを灯して走っていては幾らなんでも目立ち過ぎるという判断からである。

 

 実際の光量としては排ガスで汚れた日本の都会とは違い、澄み渡った特地の夜空から差し込む月や星々の光は意外と明るい。

 

 それでも建物が密集した市街地とあって道が暗闇に隠れてしまう事も珍しくなく、かのような理由から暗視装置の出番と相成ったのである。

 

 

「こんな所の川に落っこちたら雑菌であっという間に病気になるんじゃないっすか?」

 

「先程の水路、ほんのチラリとですが死体が浮かんだまま放置されているのが確認できました。輪郭の膨らみ具合からして何日もああして放置されているのは間違いないでしょう」

 

 

 と、黒川と共に後部座席に座る桑原が目撃した光景を報告した。

 

 

「ピニャ殿下やロゥリィさん達からのお話で帝国では遺体を水葬に風習が存在しない事は既に判明済みです。この水路の水がどれほどの雑菌に汚染されているか、想像すらしたくありませんわね」

 

「土左衛門が何日もほったらかしって世紀末過ぎでしょ……」

 

「御上の目が届かないこの手の場所なんかどこもそんなもんさ。地球にだって似たような、いやもっと酷い場所も腐る程あるからな」

 

 

 身ぐるみを何もかも剥がされた死体と、そのすぐ傍でキセル片手に茫洋と虚空を眺めたまま動かない痩せぎすの女という異様な組み合わせを平然と見送りながら呟くと、背後の席に座る黒川がジロリと睨んできたのを伊丹は気配で感じた。

 

 

「あら、ではこのような暴力と犯罪の巣よりも酷い場所とはどのようなものなのかご教授頂けませんか、伊丹隊長殿」

 

「そうだなぁ……ナイフや拳銃どころかアサルトライフルにRPGまで装備したゴロツキどもが平然と重機関銃積んだテクニカルを乗り回してて、拉致した人間をガソリンで丸焼きにしようとしたり、地元の住民なんてお構いなしに重機関銃や迫撃砲を撃ち込んでくるような場所かなぁ」

 

 

 あの時はマジで死ぬかと思った。蘇る記憶にしみじみと独り頷く伊丹。

 

 一方で上官の回答を聞いた部下達は揃って口元を引き攣らせた。

 

 

「よしここが目的地だ。後続へ、ここで停車するぞ。周辺を警戒」

 

 

 地図に示された目的地、自衛隊事務所の建物の裏手へと到着する。

 

 車列が停車するや、建物の裏口がすぐに開いたかと思うと迷彩服姿の年嵩の男性が姿を現した。

 

 建物内に設置された照明の光がにわかに車列を照らす。すると暗視装置のフィルターがすぐさま作動したが、瞬間的に増幅された膨大な光量が目に焼き付いた伊丹は目を細めながら暗視装置を外す。

 

 

「どうも。第3偵察隊ならびに特殊作戦群派遣分隊、ただいま到着しました」

 

「待っていたぞ。この事務所の所長を務める新田原だ。こうして第3次大戦の英雄殿に挨拶出来て光栄に思うよ」

 

「いやぁ英雄なんて大層な」

 

「本当に心強いよ。事務所にいる人員だけで対処できるか分からないし間に合ってくれるかどうかも不安だったが、実戦慣れした第3偵察隊や特戦群が居れば100人力だ」

 

「んんん?」

 

 

 伊丹の頭上に疑問符が浮かぶ。新田原の言い方はまるでごく近い内に敵襲がありそうな口振りだったからだ。

 

 

「あのー、その言い様だともしかしてこれから一波乱あったりします?」

 

「その通りだ伊丹二尉。現在我が自衛隊事務所悪所支部は喫緊の問題に直面している状況下にある」

 

 

 新田原の言葉に、ね伊丹と第3偵察隊の面々は顔を見合わせるのであった。

 

 

 

 

 

 

「雇った情報屋からタレコミがあった。内容は悪所を仕切るマフィア連中の1つであるベッサーラ一家が配下を集めて事務所の襲撃を目論んでいるというものだ」

 

 

 と、新田原から事情を聞かされたのが数十分前。

 

 

『アベンジャー、こちらアーチャー。事務所正面より武装した集団の接近を確認』

 

 

 監視役兼狙撃担当の特戦群隊員である赤井から報告が入る。

 

 

「了解アーチャー。ルーラー(新田原)、そちらで分遣隊などは確認出来ますか」

 

『こちらルーラー、周辺建物の屋根に複数の人影あり。弓矢を装備している事から敵の狙撃手と思われる。陸路に関しては正面以外に不審な集団は見られない』

 

 

 事務所周辺に密かに設置した暗視機能付き監視カメラのチェックを担当する新田原が無線で答えた。

 

 何でこうなったのやら、と接近中の敵から見えないよう事務所の屋根に伏せながら伊丹は頭の片隅で愚痴る。

 

 何に対してのボヤキかというと、ベッサーラ一家襲撃に対する迎撃作戦の指揮をどういう訳か伊丹が任されてしまった事に対してだ。

 

 理由は単純、事務所に集まった自衛隊員の中で伊丹以上に経験豊富な兵士など居ないからである。

 

 言い出しっぺの新田原のみならず、セイバーのコードネームを持つ剣崎を筆頭に同じ釜の飯を食った特戦群の連中までもその案に乗ってしまい――

 

 こうして伊丹は半ば強制的にドンパチの指揮を執る羽目になったのである。

 

 

『正面敵集団、距離200まで接近』

 

「ライダー、結界(・・)の安全装置を外せ。こちらの合図で作動させろ」

 

『ライダー了解』

 

 

 喉元のマイクに囁かれる伊丹の声は平静そのものだ。

 

 敵が迫っていると分かっていながら恐怖も興奮も焦燥感を滲ませない伊丹の冷静な態度は、彼が紛れもない歴戦の英傑であるのだと事務所内の奥で待機しながら無線のやり取りに耳を傾けている倉田や黒川、新田原らに再認識させるには十分だった。

 

 

「もうすぐ歓迎の時間だ。先走って撃つなよ、もっと引き付けるんだ」

 

 

 タレコミが入ってすぐに新田原らが周辺の住民を説得、避難させたので事務所周囲の建物は無人である。

 

 お陰である程度派手にやっても大丈夫と判断した伊丹は、遠慮なく爆発物の使用を決定した。

 

 

「ステンバーイ……ステンバーイ……」

 

 

 自然と戦友である老兵の口癖を口ずさむ。

 

 やがてゴロツキどもが肉眼でも目視出来るほどの距離まで近付いてきた。

 

 普通の人間もいれば頭から角が生えている者もいるし、人間ではなく獣の頭の持ち主も混じっている。共通しているのは揃って荒んだ顔つきをしている点だった。

 

 

『こちらアーチャー。事前情報にあった特徴と一致する人物を確認。おそらくベッサーラだ。親玉直々に殴りこみに立会いとは良い度胸だ。どうするアベンジャー、撃つか?』

 

「あーそうだな。今は撃たないでおいてくれ。ちょいと考えがある」

 

 

 ゴロツキの集団が足を止める。そこは伊丹らの狙い通り、予め設定しておいた『結界』のど真ん中であった。

 

 特に体格の良い、六肢族の男が進み出た。その名の通り両足に腕が4本という特徴のゴロツキの手には大振りなメイス。あれで事務所の扉をブチ破ろうというのだろう。

 

 いい加減頃合だ。

 

 

「ライダー、やれ(・・)

 

 

 無線に合図。

 

 合図を受けた特戦群隊員がゴロツキの進行ルート上に設置された『結界』――指向性散弾地雷による対人障害システムを遠隔作動させた。

 

 次の瞬間、ゴロツキの集団の左右で爆発が起きた。

 

 単なる爆発ではない。数百発の鉄球の嵐が左右から襲い掛かったのである。殺傷範囲(キルゾーン)のど真ん中にいたゴロツキどもは一瞬にして原形を留めぬ肉の残骸と化した。

 

 これに驚いたのは屋根の上に布陣していた弓兵達である。

 

 慌てて陸路から移動していた筈の本隊を確認する。煙が晴れるとそこにあったのは、腰を抜かして慌てふためく散弾地雷の効果範囲を逃れた幸運な生き残りと、道いっぱいにブチ撒けられたヒトの残骸。

 

 

「なっ、何が起きやがった!?」

 

 

 彼らのそんな疑問は続けて轟いた銃声が文字通り撃ち砕いた。

 

 

「各自自由に撃ってよし!」

 

 

 ショットガン、サブマシンガン、アサルトライフルに軽機関銃、狙撃銃も加えた大量の火線が残りのゴロツキへ襲いかかる。

 

 その大半は野本→伊丹と経由して分配された銃火器だ。特に中々触れる機会のない自衛隊非採用な最新銃器を心置きなくぶっ放せるとあってか、特戦群の隊員らなど嬉々として(だが訓練通りの見事な戦闘技術を駆使しながら)暴れ回っている。

 

 六肢族の男は扉の隙間から突き出されたショットガンから放たれた散弾を至近距離から喰らい、頭部の大半を失いながら吹き飛ばされた。

 

 散弾地雷を生き残ったゴロツキにサブマシンガンと軽機関銃の弾雨が降り注ぐ。屋根の弓兵らは伊丹やアーチャーといった狙撃ライフルの射手に頭部や胸部といった急所を的確に撃ち抜かれ、一方的に狩られていった。

 

 中には建物の一室に布陣したまま息を潜めて頭を低くし、銃弾の雨を凌ぐ者もいた。

 

 それを目敏く見つけた伊丹がもちろん見逃す筈がない。06式小銃てき弾をM14の銃口にねじ込み、敵が隠れる部屋の窓へと撃ち込むと、手足を爆風に千切られた死体が路上に落下した。

 

 こうして極短時間の間に自衛隊事務所悪所支部を襲撃しようとしたベッサーラの手の者は等しく屍に変わったのである。

 

 

『終わったのか?』

 

 

 おそらく新田原の部下であろう聞き覚えのない隊員の声が無線を介して伊丹の耳にも届いた。

 

 

「みたいだね。だが警戒は怠らない方が良いよ。最後っ屁で痛い目見たくなかったらちゃんと死んだかどうか確認するように」

 

 

 注意を促すと続いて赤井からの報告。

 

 

『アベンジャー、作戦地域より離脱する人物を発見した。ありゃ親玉だぞ。どうする、仕留めるか?』

 

 

 よりにもよって首謀者のベッサーラだけちゃっかり散弾地雷起爆からの集中砲火を生き延びていた。

 

 悪党の親玉というのはその地位に比例して悪運も強いのかもしれない。乗っていたヘリが撃墜されてもしぶとく生き残ったどこぞの狂犬やら陸軍中将を思い出し、そんな感想を抱く伊丹である。

 

 ただまあこれから伊丹がやろうとしている事を考えると都合が良い。屋根から建物内へと戻り階段を下りながら、彼は無線機の送信ボタンを押し込んだ。

 

 

「新田原三佐、ちょいと車と装備を借してもらえませんか。剣崎、的井、槍田、忍野、今から言う装備を用意して俺と付き合ってくれ」

 

「伊丹二尉、一体何をする気だね?」

 

 

 事務所前に広がる屍の山を前に佇んでいた新田原の下へと辿り着いた伊丹は「んー」と一瞬考え込み、それから責任者にこう答えを返した。

 

 

 

 

「特殊部隊流サービス残業、ってヤツですかね」

 

 

 

 

 

 

 

『最初の一撃が戦闘の半分だ』 ――ゴールドスミス

 

 

 




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