GATE:Modern Warfare   作:ゼミル
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どうしてこうなった回。


11.5:Change About/残された者たち

 

 

 

 

 

<13日前/10:17>

 柳田明 特地方面派遣部隊幕僚・二等陸尉

 ファルマート大陸・アルヌスの丘/自衛隊駐屯地本部

 

 

 

 

 

 

 翌朝、柳田は早朝から旅立った伊丹達の後始末に奔走――する筈だった。

 

 しかし『緊急的な重要資源探査の実施が必要との考えにより極少数の部下と現地住民を引き連れて調査に赴いた』という名目で書類を作成しようとし……すぐに頭を抱えた。

 

 

お客さん(プライスとユーリ)の事を一体どうやって誤魔化せってんだ、クソッ」

 

 

 明らかに立派な国際問題である。2人を送り込んだ本国、すなわちイギリスとロシアにどう誤魔化せばいいのやらというのが柳田の頭痛の種であった。

 

 そもそも国際関係が絡む問題を(それも今最も世界の注目が集まる異世界が舞台)いち尉官の職務の範疇で掌握し、秘密裏に収拾するなど不可能だ。もちろん馬鹿正直に両国へプライスとユーリの脱走を報告する訳にもいかない。

 

 結局、柳田は四苦八苦しながら書類を作成し終えると、伊丹の直属の上官である檜垣三佐に書類を提出すると共に伊丹達が昨晩出立した旨を報告する事から手をつけた。

 

 軍事組織の佐官よりも企業の中間管理職の方がしっくりくる風体の指揮官は、報告を受けるとひどく苦々しげに表情を歪め、柳田同様頭を抱えた。

 

 

「……目的については良しとしよう。派遣任務からの帰還直後で、次の派遣が正式に決まっていない段階での事だから部隊間の調製も最小限の混乱で済むからまだ良い。

 だがよりにもよって他国からの観戦武官、それも複数が独断で同行に関しては、その……俺個人で処理出来る範疇を明らかに超えている」

 

 

 朝っぱらから重く沈鬱な溜息が、檜垣の口から長々と吐き出される。

 

 書類に記載した報告内容はプライスとユーリの存在をあやふやにしてある。

 

 どうとでも読み取れる言い回しにする事で作成者である柳田自身や報告内容を認可する檜垣のみならず、当のプライスとユーリの立場を少しでも保護しようという、彼なりのせめてもの悪足掻きであった。

 

 

「教えてくれ柳田二尉。伊丹は、彼の仲間達は一体何を考えているんだ? 自らの立場や状況は彼らだって重々理解している筈だ。

 ここは地球じゃない。完全な異世界だ。いくら戦争の英雄でも彼らがこれまで相手にしてきたのは人間だけだ。彼らがこれから挑もうとしているのは人間ではなくドラゴン、それも仕留めるのに大規模な機甲部隊の動員が必要と称されるレベルで危険な存在なんだぞ。

 たとえ生きて帰れても、間違いなく重大な国際問題に発展するのは彼らも理解出来ているだろう……その筈だろうに」

 

「奴も、奴の仲間も覚悟の上でしょう」

 

「そうか、覚悟の上か」

 

 

 檜垣は天井を仰いだ。三佐の中で昨晩までの己と同じ疑問が渦巻いているのだろうと、柳田は見抜いた。

 

 故に柳田は上官に答えを教えてやる事にした。自ら導き出した答えではなく、赤の他人から教えられた答えであるという点にプライドが高い柳田としては忸怩たるものがあるが、それはそれこれはこれだ。

 

 

「受け売りですが、ああいう直接命のやり取りがされる戦場で過ごした者にだけ分かる理屈で連中は動いているのでしょう」

 

「彼らなりの理屈とは何なんだ」

 

「同じ戦場で同じように泥に塗れ、血を流し、互いの背中を守りながら戦い続けた者同士だからこそ、時には血縁よりも深い絆で結ばれる。そんな戦友を見殺しにしてしまったら己の魂も死んでしまう。そうならない為に、伊丹の仲間も動いたのでしょう」

 

「命も立場も投げ捨ててか?」

 

「ええ、命も立場も投げ捨てて。1度は法も国家の庇護も失いながら、それでも己の意志で目的の為に死線に身を置き続けた彼らからしてみれば、世間体や肉体の死なんてのは、とても軽い存在なのかもしれませんね」

 

「二尉、俺は伊丹達が英雄になれた理由が分かった気がするよ。世間体よりも己の魂と意志か……」

 

 

 檜垣は窓を見やり、更に遠く広がる虚空へと視線を投げかけながら呟く。

 

 

「……俺には養うべき家族が居る。部下にだって家族が居る。勝手が出来る立場じゃない。

 それがたとえ自分の故郷を、一族を救ってくれと足に縋って泣きながら助けを求められたとしてもだ」

 

「三佐、それが普通です」

 

「その普通を捨てきれなかったせいで、俺は自衛官としての魂の一部を失ってしまったんだ。助けを求める人を救うのが自衛隊員の役目の筈だというのに、俺は縋りつくその手を振り払ったんだ」

 

 

 項垂れながら、檜垣はもう1度大きく嘆息した。

 

 それは懺悔であった。柳田はこう返した。

 

 

「ですが三佐、失った魂の一部を取り戻すにはまだ間に合うかもしれませんよ」

 

「そう思うか、柳田二尉」

 

「ええ。その為には三佐御自身の意志と行動が必要となりますが」

 

「……間に合う事を祈ってるよ」

 

 

 そう言って檜垣は判子に手を伸ばした。

 

 卓上の電話機が鳴ったのは判を押された書類を手に柳田が回れ右をしたちょうどその時である。

 

 

「こちら檜垣……失礼しました狭間陸将。え? はい、はい、ちょうど今目の前に……分かりました、今すぐ向かわせます」

 

 

 興味を惹かれた柳田が振り返ってみれば、困惑の表情で見やる檜垣と視線がぶつかる。

 

 

「檜垣陸将からだ。何やら君と話したいらしい。すぐに陸将の所へ向かってくれ。ああ今判を押した書類も忘れるなよ」

 

 

 そう命じられたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 言われたとおり陸将室へと足を踏み入れた柳田であるが、入るなりすぐさま反転して逃げ出したい衝動に襲われる羽目になった。

 

 何故なら室内には部屋の主である狭間だけでなく、陸自のみならず空自を含む特地派遣部隊の戦闘要員を指揮する各部隊長が一堂に会していたからだ。当然ながら全員が佐官クラスである。

 

 空自組はまだしも、第1戦闘団を指揮する加茂一佐や第4戦闘団担当の健軍一佐ら陸自組は鉄火場がメシの種な部隊を仕切っているだけに、その威圧感は鋭く大きい。

 

 それでも柳田は現状に若干の混乱を覚えつつも、額に冷や汗を2~3滴浮かばせる程度にまで動揺を抑える事に成功していた。伊丹という、制御されている分濃密に圧縮された怒気と殺意の塊を先に経験していたのが主な理由である。

 

 最後に、自衛隊員どころか日本人ですらない人物が1人。

 

 

「どうもどうも、私の事はニコライと呼んでくれ。一応、ロシアからの駐在武官という事になっているがまぁ気にせず気軽に接してくれて構わないぞ」

 

 

 と、そのロシア人は名乗った。

 

 特地駐屯地に滞在している地球側の外国人は全員伊丹の戦友だから、彼もそうなのだろうと柳田は検討をつけた。

 

 狭間はまず柳田が持ってきた書類を見せるよう告げてきた。しばしの間陸将室には書類がめくられる音だけが響く。

 

 柳田を取り囲む佐官連中プラスαから放たれる無言の重圧に、柳田の額に浮かぶ汗が更に数滴増えた頃、書類に目を通し終えた狭間が顔を上げた。

 

 

「つまりこの書類の通りによれば、原油埋蔵の可能性を示唆する情報を得た伊丹二等陸尉はエルベ藩王国方面の国境地帯に、現地人協力者数名の案内の下、指揮下の部下1名を伴い資源探査に赴いた、と言う事なんだな」

 

「はっ、その通りでありますっ!」

 

「奴は何を考えている?」

 

「その件につきましては本省訓令5-304号、『特地における戦略資源探査について』が、今回の伊丹の行動の根拠となります!」

 

「それは表向きの話だろう。それにこの報告書には、英国ならびにロシアより秘密裏に派遣された駐在武官2名が日本政府との協定を破り、基地内から相当数の火器類を持ち出した上で独断で同行しているという情報が記載されていないようだが」

 

 

 プライスとユーリの存在を突かれた瞬間、未だ腫れの残る柳田の頬がちくりと疼きを発した。

 

 それはまるでこの場には居ない誰かさんからの無言の警告のようであった。

 

 

「――それらに関しましてはこちらでは確認が取れていない情報である為、不要な混乱を招く可能性を鑑みて記載を控えました」

 

 

 気が付くと柳田の口からそんな言い訳が口を突いて出た。

 

 下手な誤魔化しにも程がある。何て事言っちまったんだ、柳田の全身が脂汗に濡れる。

 

 ええいままよ、とやけっぱち気味に締めくくりの一言を放つ。

 

 

「ともかく、伊丹は資源探査に出かけただけであります。その事に裏も表もありません」

 

「…………………………………」

 

 

 かつてなく長い沈黙が陸将室を覆った。

 

 柳田は逃げ出したい衝動に襲われたが、しかし上官の群れからは逃げ出せない。

 

 やがて本来の部屋の主が沈黙を破った。柳田の肩が微かに震えるも、声をかけられたのは彼ではなく、室内にただ1人のロシア人であった。

 

 

「との事ですが、駐在武官殿は何かご意見はありますかな?」

 

 

 水を向けられたロシア人の顔に浮かんだのは、いたずらっ子のような愛嬌ある笑み。

 

 

「いやぁこの度は客人でありながら我が同志達が自衛隊の皆様方にご迷惑をお掛けしてしまい、大変申し訳なく思う所存であります」

 

「そうですか。無論、この事態も本国へと報告されるのでしょうな?」

 

「それも我々の仕事ですから。しかし報告書を作ろうにもどうも今朝から持参しましたパソコンの調子がイマイチでしてねぇ。異世界なだけに地球とはまた別の電磁波か何かが作用しているのかもしれませんな!

 かといって自衛隊の皆さんのをお借りするのも、やれ手続きだの機密保持だと面倒が多いですし、地球から新しいパソコンを取り寄せようにも……どれぐらいかかるものですかねぇ?」

 

「やはり『門』、異世界を跨いで行き来する都合上厳重な検査が必要となりますからな。

 特に箱根と大島での事件以降、『門』ならびに特地に関係する部隊のセキュリティは極めて厳重となっておりますから、最低でも数日、場合によっては数週間は荷留される可能性も考慮するべきでしょう」

 

「何と、それは困りましたな! それでは報告書を纏めて本国に(・・・・・・・・・・)送るよりも彼らが戻っ(・・・・・・・・・・)てきてしまう方が早い(・・・・・・・・・・)かもしれませんなぁ(・・・・・・・・・)

 いやぁそれなら仕方ない! こちらはのんびり荷物が届くのを待つとしましょう!」

 

「客人に御不便をお掛けしますが、その寛大な配慮に大いに感謝いたします……私個人としてもね」

 

「いえいえ、世話になっている身で迷惑をかけているのはこちらが先ですからなぁ」

 

 

 目の前で繰り広げられる狸親父2人のやり取りに柳田は呆然とするばかりである。

 

 狭間の視線が直立不動で待機する佐官らへと向いた。

 

 

「諸君、現在の各部隊の稼働状況はどうなっている」

 

「何時でも何処でも、ご命令とあればどこでも出撃出来る態勢は整っております」

 

「我々も何時でも行けます」

 

 

 健軍一佐と空自の神子田二佐が代表しての答えに、狭間が満足げに頷く。

 

 

「よろしい。では第1戦闘団に待機を命じる。適切な戦力を抽出し準備をせよ!

 神子田2佐、航空支援を要請する。あらかじめ予想する事の出来ない万が一の不測の事態、例えば特地甲種害獣との遭遇に備えて頂きたい。

 今回の作戦目的は危険地帯に孤立した友(・・・・・・・・・・)軍ならびに在特地外国(・・・・・・・・・・)人の救援任務(・・・・・・)である! 世界を救った勇気ある英雄達を今度は我々が助けに駆けつける番だ! 各自奮闘を祈る!」

 

「「「「了解しましたっ!」」」」

 

 

 唖然とした柳田を余所に、隊長達はそれは見事な敬礼を残して次々と隊長室から出て行ってしまった。

 

 固まる柳田とは対照的に悠然と見守っていたニコライがしみじみと発した声を聞いて、遅ればせながら再起動に成功する。

 

 

「良い指揮官に恵まれて、伊丹やここの兵士達は幸せ者ですなぁ」

 

「――はっ!? 待って下さい狭間陸将。エルベ藩王国との国境を越えられないからこそ、我々は手をこまねいて見ているしかなかったのっをお忘れでは――」

 

「事情が変わったのだ、柳田二尉。いや正確には君が変えたのだよ。君自身は気付いていないようだがな」

 

「自分が、ですか?」

 

「そうだ。これから診療施設に行って来てくれ。お前に会って貰いたい人物がいる」

 

 

 そうして今度は狭間の指示に送り出された向かった先は診療施設。

 

 待ち受けていたのは、昨晩中庭のベンチで月光の下言葉を交わした隻眼の老人。

 

 

 

 

 武人の心理を説いた老人が自衛隊が炎龍退治に出発出来ない最大の理由――エルベ藩王国の国王であるという事実を遅ればせながら知らされた柳田は、滑稽なまでに皮肉な運命の悪戯に何とも言えない複雑な感情を抱かされるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<同時刻>

 ゾルザル・エル・カエサル

 帝都・皇宮

 

 

 

 

 

 

 ――自分が死ぬ夢で毎朝目覚めるようになった。

 

 果てしなく冷酷な眼光の男に打擲され、拷問され、縊り殺され、最後は火を噴く謎の武器によって射殺される、そんな悪夢だ。

 

 

「――――ハッ!?」

 

 

 汗だくの状態で寝台から飛び起きる。息を荒げながら全身をまさぐり、未だ痛みを発し腫れも引いていないが血が流れていない事を確認し、殺されたのが夢幻の出来事であったと理解すると、

 

 

「クソッ」

 

 

 そう吐き捨てるまでが、帝都を襲った地揺れの日以降のゾルザルが起床の度に行う定番となりつつあった。

 

 

「目覚められたのですねゾルザル様。またうなされて、ああっこんなにも汗もお掻きになられて」

 

 

 思い出すのも忌々しいあの日から毎晩寝所を共にしてくれているテューレが、汗だくになったゾルザルの肉体を甲斐甲斐しく拭い取ってやる。部屋の外で控えていた従者や奴隷娘達も現れ、じっとりと湿った体を清めた後、乾いた平服に着替えさせていく。

 

 喉もカラカラで従者に持ってこさせた水を陶器で2杯、3杯と呷り、ひと心地ついたゾルザルは誰ともなしに問いを投げかけた。

 

 

「父上は、元老院はどうしている。既に帝国中から兵を集め、二ホンへ攻め込む準備を始めているのか」

 

 

 テューレがその問いに答えた。

 

 

「残念ながら兵の動員にはまだ至っておりません」

 

「何故だ! 皇宮の、それも大陸の覇者たる帝国の皇帝である父上の前で、次期皇帝である俺が打擲されたというのだぞ!?

 万死に値する極刑、一族郎党どころかごと焼き尽くしてもまだ足りぬ大罪を犯した相手でありながら、一体父上は何をしているというのだ!」

 

「現在、元老院内に於いて日本との講和派が急速に大多数を占めつつあり、皇帝陛下も彼らの意見を無視できず推移を見守られている……というのが現状です。

 やはり主な原因は先日ピニャ様が臨時の元老院会議に手公開された二ホン、そして英雄イタミの情報を受け、特に親族が二ホン内にて捕虜となっております元老院議員がたの動揺は激しく……」

 

「ピニャ、あの愚妹め……!」

 

 

 許される筈がない。

 

 次期皇帝をここまで痛めつけ、苦しめ、挙句殺そうとした狼藉者に裁きを下さねばならない。その為に帝国中から兵を集め、此の身が回復次第自ら大軍勢を率いて二ホンの全てを奪い、犯し、最後にはあのイタミとかいう狼藉者をこの手で、この手で――

 

 

 

 

『武器もまともに抜けない軟弱野郎が。それとも無力な女にしか相手に出来ない卑怯者ですか? ねえ皇子殿下』

 

 

 

 

 

 フラッシュバック。屈辱の記憶でも飛び切り強烈に脳裏へこびりついた暴言。

 

 周囲に狂態を見せまいと堪えたゾルザルは反射的に、歯の根が軋むほどにきつく口を食いしばっていた。

 

 結果伊丹の拳によってガタガタになった歯や顎はゾルザル自身の力によって更に痛めつけられ、口元を抑えて悶絶する羽目に。慌ててテューレや取り巻きが必死に宥めようとする。

 

 

「おのれ、おのれ、おのれぇ、おのれオノレおのれぇぇぇ……!」

 

 

 それは誰に向けての呪詛なのか、ゾルザル自身理解出来なかった。

 

 奴隷娘から無理矢理取り上げるようにして手にした氷嚢を口元に当てていたゾルザルは、痛みに併せて冷えていく意識のまま、おもむろに言い放つ。

 

 

「全員出て行け。テューレ、お前もだ」

 

「ゾルザル様、しかし」

 

「いいから! 俺の言う事がきけないのか! 全員俺の部屋から出て行けと言ったんだ!」

 

「……分かりました。何時でもお呼び下さいませ」

 

 

 白のウサ耳女が先頭となり、従者や取り巻きは次々と寝室の外へと出て行った。

 

 やがて室内にはゾルザルだけが残される。1人だけになったゾルザルは寝台から降りるそれだけの動きで、殴られた部分が耐えがたい苦痛を発した。

 

 呻き声を漏らしながらも、自分の足で部屋を横断する。足を前に出す度に股ぐらも悲鳴を上げた。無傷と呼べるのは拳ぐらいである。

 

 向かう先には巨大な青銅製の姿見が半ば壁に埋め込まれる形で鎮座していた。

 

 鏡に映った己の姿を上から下まで眺め回す。

 

 顔面全体が腫れ上がり、砕かれた鼻を覆う当て布には血がうっすらと滲み、腫れによってまくれ上がった口元から覗く歯並びは幾つもの欠けが見られる。おまけに喉元には鎖状の痣がクッキリと刻まれていて、遠目から見るとまるで奴隷の首輪のようではないか。

 

 やがては帝国を支配する次期皇帝である自分が。

 

 抵抗する国や部族は悉く滅ぼし、種族諸共奴隷としてきたこの自分が。

 

 たった1人の男に為す術もなく痛めつけられ、挙句勝利の下に己が生み出してきた哀れな敗者の如き有様にされるなど。

 

 

「お」

 

 

 負けを知らず、飢えも知らず、苦痛に耐える事など到底知らず、自分の思い通りにならない事など無いのだと疑わず。

 

 

「おおお」

 

 

 生まれ持った権力が絶大過ぎたばかりに、己が身と才覚のみで成し遂げた功績を何一つ持たぬ支配者の子にとって、その身一つで世界戦争すら阻止し皇太子である自分ですら殴り殺そうとしてみせた異界の英雄という存在は。

 

 あまりにも――あまりにも。

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!」

 

 

 ゾルザルは、殴った。

 

 自らの顔を。鏡像に映った自身の顔面を、渾身の力で殴りつけた。

 

 無論青銅の塊は壊れるどころか身動ぎ一つしない。逆にゾルザルの拳はと言うと、今の一撃だけで指の付け根部分の皮膚がずる剥けており、ゾルザルが手加減抜きに姿見を殴りつけた事実を示していた。

 

 己の拳が痛む事など構わずゾルザルは何度も姿見を叩く。殴る。打ち抜く。

 

 ゾルザルは聞いた事があった。兵士、特に素手での殴り合いを得意とする者の中には、砂を詰めて固めた布袋に対し拳を打ち込む事で岩石やレンガも砕く頑丈な拳を作る訓練を積むのだという。

 

 

「俺は! 俺はぁ!!」

 

 

 女しか殴れぬ軟弱者ではない。

 

 誰にもそんな事は言わせない。許さない。言わせてたまるものか。

 

 

 

 

 

 その日、暗愚以外の存在に成れない筈の男の中で、何かが変わった。

 

 

 

 

 

 

 

『真実は変化する』 ――マーフィーの法則

 

 




ゾルザルこんなキャラにするつもりはなかったんだが…あるぇー?(・3・)

以前書きましたがニコライ達は電子メールではなくをデータ入りUSBを『門』経由の郵送で本国に送ってます。
特地で使える回線全部自衛隊が管理してるから覗き放題だしね仕方ないね。

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