GATE:Modern Warfare   作:ゼミル
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年末中に炎龍撃破まで進めたい…


14:Night Raid/荒野の7人(下)

 

 

 

 

<7日前深夜>

 栗林志乃

 ファルマート大陸・エルベ藩王国辺境/名も知らぬ村

 

 

 

 

 

 

 一方、伊丹達とは反対側の方角の栗林らである。

 

 自衛隊員の栗林はともかく、魔法は使えるがフィジカル面はそこいらの少女と大差ないレレイ、村の案内と人質の説得ぐらいにしか役に立ちそうにない農民という戦力面では伊丹側に劣る編成の小部隊はしかし、実際には伊丹側よりも早いペースで建物群のクリアリングを進めつつあった。

 

 まず理由の1つは栗林達がアプローチを行った村の一画は伊丹側よりも建物自体が少なかった事。

 

 次に、点在した建物も1階建ての平屋ばかりで一軒辺りの探索時間が少なく済んだ事。

 

 3つ目に、レレイがこの手の隠密作戦に意外な適正を見せた事だ。

 

 まず小柄ですばしっこく、屋内外での戦闘訓練を積んだ栗林が先行して警戒と索敵を行う。外をうろつく敵は栗林が銃で素早く処理。

 

 安全が確認されたらハンドサインで合図。勿論栗林とレレイ(ついでに農民も)暗視装置を装着しての行動だ。

 

 今回栗林が使うのはシグザウエル・MCXアサルトライフル、そのコンパクトモデルであるMCXラトラーである。

 

 銃本体はサブマシンガン並みに小型化されていながら、.300ブラックアウトという、低反動・高威力の両立を5.56ミリ弾の薬莢に7.62ミリ弾頭を捻じ込むという発想で実現した新型弾薬を使う。サイレンサーとの相性も高い。

 

 小さくとも優れた性能の本体にこれまた高性能の弾薬というこの銃は、小兵の女でありながら並みいる男を薙ぎ倒せる格闘徽章持ちである栗林に相応しい銃と言えるのかもしれなかった。

 

 そして背中にも12ゲージの散弾をフルオートで連射可能なAA12ショットガンなんて危険な代物を背負っている。

 

 

 

 

 

 

 屋内に居る敵、村ごと乗っ取った盗賊の多くは酒池肉林に溺れた後とあって殆どが酔い潰れ、寝息を発していたが、中には完全に意識を落としていない者も居る。

 

 1人で反応されるよりも早く全員を射殺するのは、栗林の腕でも不可能ではないが不安が残る。

 

 その場合はレレイの出番だ。

 

 

「レレイお願い」

 

「分かった」

 

 

 栗林はレレイを呼び寄せる。少女はこっそりと愛用の杖を戸板の隙間に突っ込むと、傍らの栗林ですら聞き取れるかどうかという音量で独特の発音を交えての詠唱を囁いた。

 

 すると盗賊達の寝息が盛大ないびきと化し、チラリと覗き見れば室内の全員が突っ伏して熟睡しているのである。

 

 テュカの錯乱を抑える為の睡眠魔法、その応用であった。レレイ曰く、

 

 

「精霊種のハイエルフであるテュカの精霊魔法には及ばないが、一定以下の空間でこれだけの距離まで近付く事さえ出来れば私の魔法でもこのような事は可能」

 

 

 との事。

 

 レレイの協力の下、盗賊を完全な眠りへ落としてから排除していくという確実な方法により、栗林達はこうして次々と家屋の捜索・掃討を果たしていったのである。

 

 むしろあまりに順調過ぎて、逆に栗林は心配そうにレレイへ声をかけた。

 

 

「大丈夫レレイ? きついなら無理しなくてもいいからね?」

 

 

 栗林の質問は二重の意味を含んでいた。

 

 短時間に複数回の魔法行使による魔力の消費(オタク文化を毛嫌いする栗林でもRPGでおなじみのMPという概念ぐらいは知っていた)、そして機械的すらあるほど淡々と一方的に行われる盗賊の処理に対するレレイへの精神的負荷が、栗林には心配だった。

 

 延々と人の死を見続けたあまり心を壊してしまう事態は、兵隊のみならず医療関係者や救急隊などでも珍しくない。人殺しの片棒を担がせているとなれば尚更である。

 

 特に栗林の場合は、仲の良い黒川が一時的にシェルショック(戦闘ストレス反応)を起こして一時的に錯乱する様を実際に見ているだけあり、余計に不安に駆られてしまったのだ。

 

 レレイは暗視装置で顔の上半分を隠したままふるふると首を横に振った。

 

 

「心配は無用。魔力にはまだ余裕がある。それよりも次の建物には注意が必要。気を付けた方が良い」

 

 

 指差した先にはこれまで掃討してきた家屋よりも二回りは大きい、村で最も大きな面積の2階建ての建築物。

 

 農民曰く、時折やってくる旅商人や税の取り立てに派遣されてくる国からの徴税人一行向けの宿屋だという。

 

 客室は2階、1階部分は集会場を兼ねた酒場という構造。

 

 事前の偵察ではこの酒場に人質となった村人のうち女達が集められていると推測されていた。作戦開始前にもう1度ドローンを飛ばして監視したが、酒場に入った盗賊の多くはそのまま出てきていない。

 

 中でナニが行われているのか大体の見当はついているのだが、中にいる敵ならびに人質の数、人質がいる場合動ける状態にあるか否かといった確認は必要なので、レレイと農民を物陰に残して栗林は偵察に向かう。

 

 窓の戸板はどこも閉まっていたので裏口からの侵入を試みる。1丁が数キロある銃器や予備弾薬と各種手榴弾をポーチに詰め込まれズシリと重いチェストリグを装備しているとは思えない猫のような身のこなしで、するりと建物内へ。

 

 

「うえぇ……最悪」

 

 

 思わず呻いてしまう程に濃密な、様々な体液と分泌物のごった煮な異臭が酒場内に漂っていた。

 

 女が20名前後、全員が裸かそれに近い、衣服の大部分を剥ぎ取られた姿で縛られている。

 

 立ち込める異臭と女性らの惨状から全員犯されたのは間違いない。一応皆生きてはいるようだが、呼吸活動を示す胸元の動きが心配になるほど小さくなっている女性もいる。中には日本なら義務教育を終えていないであろう年頃の犠牲者もいた。

 

 犯し疲れて雑魚寝している盗賊の数はもっと多かった。無精なあまり履き直すのも面倒だったらしく、下半身丸出しなまま爆睡している者までいるという有様だ。

 

 今すぐこの場で全員射殺してやりたい衝動に駆られる栗林であったが、2階の客室から聞こえてくる物音を聞き逃さないだけの冷静さが残っていたのは彼女にとっても幸いであった。

 

 男の罵声と女の苦悶の声。

 

 ギシギシと1回まで伝わってくる軋み音はベッドと床があげる悲鳴か。それも複数聞こえる。怒りに任せて撃たなかったのは正解であった。

 

 一旦栗林は外へ戻る。無線機の送信ボタンを押さえると喉元のマイクへ囁いた。

 

 

「隊長、栗林です。村の酒場1階部分で人質になっていた女性の村人約20名を発見しました」

 

『了解だ。こちらは酒場の向かい側にある村長の家を確保する所だ。酒場内の敵の規模、それから人質は自力で移動できそうな状態か把握出来てるか、どうぞ』

 

「敵の数は1階で寝ているのが20人から30人程度だと思います。それから直接確認は出来ていませんが2階の客室にも何人かまだ起きている盗賊が人質の女性を連れ込んでいるみたいなので、見られないように念の為注意してください」

 

『分かった。あとそちらがこれまでに処理した敵の数はどれ位だ?』

 

「えーっと建物の外で3人に3軒目と5軒目の家でひのふのみと……15名前後でしょうか」

 

『こっちも20人は片付けたから酒場に集まってる連中を加えれば大体の帳尻は合うな。

 こちらは今から村長宅の確保に回る。事が始まるまで栗林達は待機。騒がしくなったら人質の安全確保に尽くしてくれ』

 

「任せて下さい」

 

『村長宅が確保出来次第また連絡するからそれまで待機しろ、以上』

 

 

 

 

 

 

 

<同時刻>

 伊丹耀司

 

 

 

 

 

 栗林達が辿り着いた酒場から広場を挟んで向かい側に位置する村長の屋敷は村で2番目に大きな建物だ。面積は酒場に劣るが、3階建てで高さは勝っている。

 

 広場の大部分を一望出来る点からこの家屋の3階に伊丹らは射撃陣地を構築するというプランを建てた。ここからなら広場に集められた人質確保時の援護や、事が始まった際に酒場から飛び出してくるであろう盗賊を排除する為の殺傷地帯(キルゾーン)構築にうってつけであるという判断からである。

 

 裏口の見張りにヤオを残し村長宅へ伊丹とユーリが忍び込む。1階には誰も居ない。続けて2階と3階のクリアリングに移る。

 

 2階部分から下卑た男達の声。警戒を強めながら階段を上れば、部屋の内側から電気が生み出す文明の光ほど眩くはないものの、侵入者を照らすには十分な光量の灯りが廊下へ漏れていた。

 

 灯りの下に浮かび上がらないよう室内を覗き込むと、ランプを載せた丸いテーブルを囲んで特地固有のカード遊びにふける如何にもな風体の盗賊が5人。

 

 足元に転がる酒瓶の数からかなり酔っ払っているな、と侵入者2人が様子を伺っていると、酒瓶を持ち上げた盗賊の1人が呂律の怪しい口調で音量過剰な声を発した。

 

 

「おぉいんだよ、酒が切れやがった」

 

「こっちにもう残ってねぇよぉ。おめぇ下から取ってこいよ」

 

「らんで俺が行かなきゃなんねぇんら!」

 

「さっきカードでお前がドベらったろぉ! 負けた奴は勝った奴の言う事を聞くもんらろうが」

 

 

 カードで負けた男がブツブツ愚痴りながらおぼつかない足取りで階段へと近付いてくる。

 

 すなわち伊丹とユーリが居る方へだ。

 

 ただしヤオのヘマにより危うく存在が露呈しかけた時と違い、今回のユーリと伊丹は対応出来るよう身構えるだけの猶予が存在したのが大きな違いである。

 

 

「俺がやる」

 

 

 そう言いながらACRを下ろしたユーリがナイフを抜き放つ。

 

 部屋の入り口の脇で姿勢を低くし、ナイフを順手に握り気配を消す。死神の待ち伏せなどこれっぽっちも気付いていない様子で足音が近付いてきた。

 

 廊下へ出てきた盗賊は、その瞬間まで入り口脇の暗がりに潜むユーリの存在を認識出来なかった筈だ。

 

 瞬間、身を起こしたユーリの左手が盗賊の後頭部へ当てられ、そのまま無理矢理引き寄せる。

 

 同時に斜め上へと突き出された右手のナイフは喉仏-胸骨間の隙間を通り、筋肉と気管諸共頸部を深々と貫いた。流れるような動きで室外へと引きずり倒して部屋側からは見えない死角へ運ぶのも忘れない。

 

 このように、声も物音も漏らす事無く敵を致死たらしめられるからこそ決してナイフは廃れないのである。

 

 目と鼻の先で仲間が死んだ事にも気付かない残りの盗賊も後を追わせ終え3階へ。敵の姿は無し。

 

 窓をから外を覗けば、予想通り広場の大部分と酒場の正面部分が部屋から一望出来た。

 

 ジャイアントオーガーも伊丹らの侵入に気付いた様子はない。ジャイアントオーガーの頭は、今伊丹達がいる3階よりも更に高くに存在していた。

 

 最初の偵察時の食事風景(・・・・)以降は妙に大人しく佇んでいる。

 

 ジャイアントオーガーやオークといった怪異は、自分達の暴力がヒトより上と知れば容易に反逆を起こす生物であると、地球勢はレレイやロゥリィから事前にレクチャーを受けていた。この様子を見るに、今の所は完全に怪異使いの支配下にあるらしい。本当に今の所は、だが。

 

 伊丹達はジャイアントオーガーの存在を戦車や装甲車両といった陸戦兵器として位置付ける事にした。

 

 一旦動き出せば非常に厄介だが、だったら操縦者が乗る前か、或いはエンジンやFCS(射撃管制装置)が起動する前に何かしらの手段で破壊してしまえば良い。そういう事である。

 

 

「よし、じゃあユーリはここから軽機で支援射撃を頼む。デカブツに気付かれないように気を付けてくれよ」

 

 

 ユーリは背負っていたMk46軽機関銃を足元に置き、入れ替わりにACRを背中に回しながら応えた。

 

 

「勿論さ。アレの相手はイタミとプライスに任せた。そういえばああいうバケモノをニホンじゃカイジュウって呼ぶんだろ」

 

「いやぁアレは怪獣とは別物だから。怪獣ってのはゴ○ラとかガ○ラとか、それこそドラゴンみたいなああいう種類の存在の事を指すのさ」

 

「そういうもんなのか……」

 

 

 その手のカルチャーに弱いロシア人は伊丹からの回答によく分からないと首を傾げるのであった。

 

 ユーリを3階に残しヤオと合流する。男の村人の安全を確保すれば、後は残存する盗賊を殲滅するのみである。 

 

 流石に男の村人らの周囲には反撃や逃亡を警戒してか見張りが数名置かれており、また夜闇に乗じて細工をされないよう配置された篝火によって、常時人質の姿は照らされた状態だ。

 

 

「どうするのだ御身よ、見張りを排除してもああして姿を照らされていては我々が村人を解放しようと近付いても、他の盗人からは丸見えではないか?」

 

「なら明かりを消すまでさ」

 

 

 村長宅と人質の間には木製の檻が載せられた荷馬車が数台置かれている。

 

 ヤオにその場に残るよう命じると、伊丹は荷馬車の下へと滑り込んだ。そのまま腹這いになる。荷台と地面の間には武装した伊丹が潜り込むのに十分なスペースが存在した。

 

 アサルトライフルの照準を合わせる。狙いは見張りではなく、広場を照らす篝火だ。

 

 続けざまに1つ、2つ、3つ。

 

 台座が勝手に弾け、火種が地面に散らばり、光源が一気に失われる。篝火の明るさに目が慣れていた見張りだけでなく、人質の間にも困惑と混乱が俄かに広がった。

 

 すぐさま見張りの始末に移る。緑色の視界の中で胴体の急所を的確に撃ち抜かれた見張りが崩れ落ちる。

 

 

「これでよし。他の連中に気付かれちまう前にさっさと村人をこの場から逃がすぞ」

 

 

 荷馬車の下から這い出すと、伊丹はヤオに人質の下へ向かうようハンドサインで合図を送った。

 

 そのまま彼も人質集団の下へと駆け寄る。これがハイジャックなどの突入であれば救援である事を大声でアピールするところだが、少人数の隠密作戦故に今回はご法度だ。

 

 

「救助の者です。貴方がたを助けに来ました」

 

「ひぃっ!?」

 

「しーっ静かに!」

 

 

 最も近い位置の人質に声をかけると、その村人は掠れた悲鳴を漏らしながら飛び上がった。

 

 闇の中で突然声をかけられてビックリする気持ちも分かるが、下手に騒がれて自体が露呈されたら元も子もない。慌てて静かにさせる。まず事態を把握し切れていない村人を落ち着かせねばならない。

 

 伊丹は暗視装置を額まで上げ、赤色のフィルターを被せた小型の懐中電灯(赤い光は光が遠くまで届きにくい)で己とヤオの顔を照らした。

 

 

「ほ、本当に助けに来てくれたのか? アンタは一体どこの誰なんだ?」

 

「あー、この辺りじゃ緑の人って呼ばれてますね」

 

「緑の人だって?」

 

「アルヌス一帯で炎龍や盗賊を撃退したっていうあの緑の人か? 何でエルフも一緒なんだ?」

 

 

 夜闇の中で赤い光に照らされた結果、肌の色が隠れてしまったヤオがエルフと共通の笹穂耳だけ認識され種族を勘違いされてしまったのは些末事なので無視する。

 

 

「詳しい説明はまた後でしますが、現在この村を奪還する為に動いています。皆さんは戦闘に巻き込まれないよう安全な村の外へ一時的に避難して下さい」

 

「捕まってたのは俺達だけじゃないんだ! 女達が別々の場所に連れてかれちまった!」

 

「それも把握済みです。とにかく残ってる盗賊に気付かれる前に今すぐ移動を! 動けない怪我人が居れば大丈夫な人が運んであげて下さい」

 

「動けなくなるだけの傷を負わされたヤツは売り物になりそうにないからって殺されちまったよ」

 

 

 言いながら数人の拘束をナイフで断つ。それから赤い光を放つ懐中電灯をヤオに渡した。

 

 

「ヤオ、彼らを村の外へ誘導してくれ」

 

「心得たが、御身独りを残しても大丈夫なのか?」

 

「独りじゃないさ。ああそうだ、背中のそれ(LAM)は使うかもしれないから馬車の陰にでも置いてから離れてくれ」

 

 

 最初に解放された数人が他の人質の拘束を解き、それを何度か繰り返されしあっという間に縄の縛りから全員が解放された村人達は、大荷物から解放されたヤオが持つ目印を手に広場から離れていく。

 

 これで目標の半分は達成だ。無線機のボタンを押す。

 

 

「こちら伊丹。広場の人質の解放に成功。ヤオが村の外に誘導してるが爺さん、そちらでは確認出来るか」

 

『見えてる。そろそろ頃合いだぞ』

 

『こちらユーリ、準備は出来てる』

 

『栗林です。何時でも行けます!』

 

 

 仲間達からの頼もしい返事に後押しされた伊丹は、1度だけ深呼吸をし――

 

 佇むジャイアントオーガーを視界に捉えると、遂に決定的な言葉を発した。

 

 

「爺さん、今だ(・・)

 

 

 合図の直後、ジャイアントオーガーの頭部で着弾……

 

 否、爆発が起きた。

 

 文字通りの爆発である。僅かに遅れて銃声も伊丹の下まで届く。

 

 まず先端部の焼夷剤が内部の高性能爆薬を炸裂させ目標の装甲を破壊、同時にタングステン製の弾芯が突き刺さる事で装甲を貫通し、加えて弾芯周囲に配置された第2の焼夷剤により、戦闘車両などの装甲目標内部を高熱で侵しながら蹂躙する。

 

 そう、装甲目標(・・・・)である。徹甲弾、榴弾、焼夷弾と3種類分の機能をたった1発の弾頭に収めたHEIAPは、生半可な銃弾の貫通を許さない装甲を持つ目標を前提に開発された銃弾であった。

 

 盗賊が率いるジャイアントオーガーは防具の類を与えられていなかった。3階建ての建造物すら上回る身の丈の防具など人間用のそれとは手間も予算も比べ物にならないし、そもそも歩兵の武器程度では掠り傷しか与えられないのだから、驕った盗賊らは必要ないと考えたのである。

 

 射手の技量も、この後起きた事態の一因であった。狙撃地点から見たジャイアントオーガーの頭部はほぼ真横、側頭部全体を晒す格好でスコープに捉えられていた。

 

 高性能の熱探知型暗視装置(サーマルスコープ)は大まかながら顔の形状や目鼻の位置まで区別出来る。

 

 あそこまでの図体ならば頭蓋骨も相応に分厚い、そう判断したプライスは万が一弾かれるリスクを嫌い、スコープの十字線を耳の穴がある部分へと据えた上で、対物ライフルを発砲した。

 

 弾頭は狙い違わず耳孔へ飛び込む。その奥で突き刺さり、設計通りその破壊力をジャイアントオーガーの頭の中で炸裂させたのである。

 

 高性能爆薬が生み出した秒速数千メートル規模の衝撃波が頭蓋内のあらゆる器官を蹂躙し、焼夷剤が細胞を焼き、脳を外部から隔てる頭蓋骨を容易く砕いた弾芯が脳をグチャグチャに掻き回す。

 

 脳を完全に破壊されて死なない生物などまず存在しない。いや、亜神なら頭部ごと完全に破壊されても元通り再生されてしまうのだが、それは例外中の例外である。

 

 ジャイアントオーガーの両目が内側から破裂し、空洞と化した眼窩に鼻孔と銃弾が飛び込んだのとは反対側の耳の穴から鮮血が噴き出した。

 

 更に2発の弾丸がジャイアントオーガーの頭部へと叩き込まれる。念を期して放たれた弾丸は側頭部に新たな穴を穿ち、弾頭の炸裂を示す閃光が頭蓋骨の一部ごと激しく鮮血が散る様を浮かび上がらせた。

 

 その巨体がガクリと斜め前へ崩れ落ちていく。広場周辺の建物の戸板がガタガタと震える程の衝撃を最後に、ジャイアントオーガーはピクリとも動かなくなった。

 

 

あばよ(Good night)巨人(big foot)野郎( bastard)

 

 

 そんなイングランド訛りの呟きが、ヘッドセットから聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「お見事。流石は爺さん。さあ今のに驚いた残りの盗賊どもが飛び出してくるぞ」

 

 

 伊丹が賞賛混じりの予言をマイクに囁いた。酒場やクリアリングを終えていない家屋から伊丹の言葉を実証付けるかのように荒っぽい混乱の怒号がにわかに聞こえてくる。

 

 

『酒場の盗賊達が武器を手に飛び起きてます!』

 

「ユーリ、俺の合図で撃て!」

 

Да(了解)!』

 

 

 次々と武器を手にした男達を吐き出す酒場の正面入り口へ、伊丹もM4の照準を合わせるがすぐには撃たない。もう少し建物から離れてからでなければすぐに逃げ込まれてしまう。

 

 寝入っていたりお楽しみの最中を邪魔された盗賊らは、半壊した頭部を晒して倒れるジャイアントオーガーの死骸を認識するなり、少なからず恐慌状態に陥っていた。生半可な兵隊ではまず太刀打ち出来ない巨人が、気が付けば無残な姿と化していたのだから当然である。

 

 

「じゃ、ジャイアントオーガーがやられてやがる!?」

 

「敵襲か! ジャイアントオーガーを倒しちまうのが相手なんて冗談じゃないぞ!?」

 

 

 混乱も広がり頃合いだ。「撃ってよし」と囁くと同時に、伊丹もセレクターをフルオートにしたM4の引き金を絞った。

 

 サイレンサーを装着したライフル特有の銃声を、斜め上から響く轟音の連打が掻き消す。

 

 ユーリの軽機関銃から絶え間なく吐き出される銃弾の豪雨が盗賊どもを瞬く間に薙ぎ倒していた。酒場方面はユーリに任せ、ジャイアントオーガーの撃破音に釣られて他の家屋から出現した盗賊を短連射で射貫いていく。

 

 広場周辺は瞬く間に30人以上の山賊の死体が転がる虐殺の現場と化した。

 

 弾雨から運良く逃げ延びて酒場内に引き返した生き残りもいたが、そちらはAA12に持ち替えた栗林が処理した。人質を巻き込まない射線をしっかり確保した上で放たれた散弾の嵐に、逃げ場を失った盗賊らに逃げ場はない。

 

 

『出てきた敵は全て掃討完了しました! これから2階の掃討に移ります』

 

「待て、1人だけじゃ危険だから俺も掃討も向かう。移動するからユーリは間違えて撃たないでくれよ?」

 

『勿論だとも』

 

 

 大半を消費した100連マガジンをM4から抜き、通常の30連マガジンへ交換してから伊丹は広場の中心を横切って酒場へと近付いていく。エンジン音が村へと接近しつつあった。

 

 頭上で突然破砕音が聞こえたのは、伊丹があと十数歩で酒場の入り口に到達しようかという時だ。

 

 反射的に視線と銃口を持ち上げた伊丹の目に異様な人型のシルエットが飛び込んできた。文字通り、伊丹に直撃するコースで落下してきていたのである。

 

 空中で剣を抜き放ちながら。

 

 

「どぉおうっ!!?」

 

 

 奇声を発しながら咄嗟に斜め前へ前転。体を起こすなり片膝を突いたまま反転、M4を向ける。

 

 何とその盗賊は尻尾と獣耳を生やしていた。伊丹は相手が盗賊に加わっていた亜人の1人、ワーウルフである事に気付いた。パンツ一丁で全身を覆う毛皮も露わである。

 

 

「せめてテメェだけでも!」

 

 

 伊丹の予想以上に落ちてきた盗賊の反応と動きが早い。そもそも獣系の亜人は先天的に身体能力が優れた種族ばかりだ。

 

 まさしく運動量の多い四足歩行の肉食獣そっくりな身のこなしでワーウルフが襲いかかる。逆袈裟の軌道を描く斬撃。

 

 踏み込みが速過ぎて避け切れない――斬撃の軌道上にM4を捻じ込んで防御。

 

 踏み込みだけでなく腕力も並ではなかった。ガードごと吹っ飛ばされ、腕ごとかち上げられたアサルトライフルが持ち主の顔面を襲う。直撃は免れたものの、暗視装置が引っ掛かり銃諸共あらぬ方向へもぎ取られてしまった。

 

 直接肉眼でワーウルフを視認した伊丹は、ワーウルフの口元から覗く凶悪な犬歯がギラリと輝いたのを確かに見た。

 

 

「死ぃねやぁ!」

 

「死ぃぬかよぉ!」

 

 

 斬り返しの振り下ろしを今度は後転で逃れる。同時に背にたすき掛けしていたSTF12ショットガンへ手を伸ばせば、魔法のような手際で腰溜めの射撃体勢でワーウルフを狙う。

 

 発砲。

 

 肉片混じりの体毛が飛び散る。伊丹が放った散弾はしかしワーウルフの急所には直撃せず、獣耳を含む頭部の表面を抉り取るのみにとどまった。

 

 それでも12ゲージ弾独特の腹まで震わせる轟音と肉体の一部を削られた激痛は戦意を挫くには十分であった。

 

 

「があああああっ!?」

 

 

 獣耳の片方が失われたワーウルフが、顔の半分が血まみれになった頭を手で押さえながら絶叫する。伊丹に背を向け、狼男は逃亡を図った。

 

 伊丹もポンプアクション独特のフォアグリップを前後に動かしての装填をこなして撃とうとするも、暗視装置を失ったせいでワーウルフの姿はあっという間に闇へ溶け込んでしまい、そのまま見失ってしまう。

 

 

「クソッ。ユーリ盗賊が1人そっちへ逃げた!」

 

『何だありゃ狼男か!?』

 

 

 村長宅の窓でマズルフラッシュが閃き連射音が轟く。銃声が途切れた直後に漏れ聞こえたロシア語の悪態が正確な報告よりも先んじて結果を伊丹へと伝えた。

 

 

『ダメだ動きが速過ぎて死角に入られた! 仕留め損ねた!』

 

「あっちは逃がした村人とヤオが居る方角だ! 見つかって人質に取られでもしたらヤバいぞ!」

 

 

 ヤオに警告を送ろうとする伊丹の行動を、割り込んできたイギリス訛りの通信が遮った。

 

 

『そうはさせんさ』

 

 

 広場を過ぎてユーリが陣取る村長宅の更に裏手に広がる空間が突如光に照らされ、手負いのワーウルフの姿もまた暗闇から浮かび上がった。

 

 そして突然強烈な光を照射された驚きに思わず動きを止めたワーウルフを、高機動車がかなりの速度を維持したままノーブレーキで撥ね飛ばす瞬間を伊丹はばっちり目撃したのである。

 

 ワーウルフを轢いた高機動車は見事な180度ターンを決めて急停車。荷台からロゥリィが、運転席からプライスが下りてくると、老兵はホルスターからマグナム弾を使用する大型拳銃、デザートイーグルを引き抜いてワーウルフの下へ向かう。

 

 流石の狼男も2.5トンを超える鋼鉄製の車両に轢かれてはひとたまりもない。全ての手足が異様な方向に曲がり血の泡を吹いて痙攣している。完全に虫の息だ。

 

 

「おすわり」

 

 

 とどめの銃声。

 

 その後残りの建物の掃討を経て、このワーウルフが盗賊側の最後の生き残りであった事が判明した。

 

 こうして伊丹達は村の奪還に無事成功したのである。

 

 

 

 

 

「ちょっとぉ、これで終わりぃ? 私今回ちぃっとも出番なかったじゃないのぉ!!」

 

 

 なお、亜神の欲求不満な叫びが響いたのは完全な余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

『死は闇で待つ』 ―米陸軍第160特殊作戦航空連隊の標語

 

 




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