GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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CoD4リマスター版にひゃっほいする
→MW2・3の時代設定が今年なのを思い出す
→TF141って西側の軍隊中心に各国からスカウトしてたんだから日本だって含まれるよね
→そういえばうってつけのキャラがいたなぁ
→オリジナルの書籍作業の気晴らしに書いてみっか
→今ここ


Gate:Modern Warfare
伊丹耀司戦場で斯く戦えり


 

 ――伊丹耀司3等陸尉(32歳)はオタクである。

 

 彼の本棚にはズラリと同人誌が並び、夏冬のコミケには欠かさず参加する。消費者としての筋金入りのオタクであった。

 

 そして「趣味に生きる為に仕事をしている」と嘯き、その言葉を証明するかのように自衛隊に入隊してからは熱意に欠けた仕事ぶりから、悪い意味で有名人であった。

 

 そもそも自衛隊を選んだのも、就職活動で会社訪問にしゃかりきになりたくなかったので近所の自衛隊地方連絡部の事務所を叩いたにすぎない。さもありなん。

 

 伊丹にとって誤算だったのは上官が彼の根性を鍛え直すべく必死になって対策を講じた事である。

 

 上官はまず伊丹を幹部レンジャーの訓練に放り込んだ。厳しい訓練と教官からの激しい叱咤に揉まれれば少しは改善されるだろう、との期待からであった。

 

 訓練課程開始早々から音を上げた伊丹だったが、上官から電話で「ここで止めたら年末の休暇はやらん」と告げられると、なんとレンジャー課程をやり遂げてしまった。

 

 ちなみに冬季のコミケの日程は毎年12月の29・30・31日の開催が通例である。

 

 上官の期待もむなしく伊丹の職務に対するやる気のなさとオタクっぷりにはまったく改善の様子が見られなかった。業を煮やした上官が呼び出して伊丹を呼び出すと、彼はこのような屁理屈をのたまった。

 

 

『働き蟻のうち1~2割は怠け者である。その2割を取り除くと今度はそれまで働き者だった蟻のうち2割が怠け者になってしまう。つまり優秀で働き者な蟻が優秀なままでいるには同じ集団の中で怠け者が存在することが必要である』

 

 

 伊丹の屁理屈が巡り巡ってどこぞの幕僚辺りに伝わった結果、伊丹は何故か自衛隊の特殊部隊――――特殊作戦群へ配属されることになった。

 

 なっちゃったのである。

 

 

 

 

 

 

《――――中東某国で核爆発。派兵中の米兵3万人以上が犠牲に……》

 

《――――ロシアで核ミサイル発射演習。各国から批判……》

 

 

 

 

 

 

 そんな伊丹耀司が特殊作戦群に配属され、やはり部隊の上官からやる気のなさで叱られたりフォックスハント(分かりやすくいえば人間狩り)の演習目標にされそうになっていち早く逃げ出したり、部隊仲間を2次元の世界に勧誘して着々と部隊に汚染を広めるようになってからしばらくした頃……

 

 伊丹は唐突に部隊長に呼び出しを受けた。いつものお説教かねぇ、と頭を掻きながら隊長室の扉をノックすると、特殊作戦群の隊長である出雲の『入れ!』という声が返ってきた。

 

 

「あれっ?」

 

 

 出雲の声を聞いて伊丹は疑問を覚えた。呼び出され慣れたせいで出雲の『入れ』という言葉を嫌というほど聴かされてきた伊丹には、今部隊長が発した声の調子が普段と違うことを敏感に感じ取ったのである。

 

 

「伊丹3尉、ただいま出頭いたしました」

 

『貴様がセカンド・ルーテナント・イタミか』

 

 

 入室していきなり目の前に立っていたアメリカ陸軍の迷彩服を着た偉そうな軍人に話しかけられた。

 

 

(って将軍様かよ!)

 

 

 けっして人造人間19号にそっくりで有名な北の独裁者のことではなく、立派な口髭を蓄えた米軍さんが着ている迷彩服の胸元に、黒い星が3つ並んだ階級章が縫い付けられているのを発見しての感想であった。中将の階級賞である。

 

 

『えっ! い、Yes Sir! そうでありますが……』

 

『Huuuuun……』

 

 

 とっさに特戦群の講義じこみの英語で伊丹は受け答えすると、将軍様は伊丹の顔をジロジロと眺め回してから出雲のデスクに置かれていた書類を手に取った。

 

 チラリと見えた書類には、何故か伊丹の顔写真が載っていた。

 

 

「伊丹3尉、こちらはアメリカ陸軍のシェパード中将だ」

 

『貴様の事は調べさせてもらった、セカンド・ルーテナント・イタミ。射撃、格闘、空抵技能、破壊工作……あらゆる技能に卓越したSFGp(特殊作戦群)屈指の優秀な兵士だそうじゃないか』

 

「は、はいぃ?」

 

 

 伊丹はあんぐりと口を全開にして呆けそうになってしまった。誰それ他の人と間違ってるんじゃないですか、ってな感想である。

 

 書類に目を落としている将軍様の背後では出雲が大汗をかいていた。嫌ーな脂汗である。

 

 そう、伊丹と出雲の反応から分かる通り、このシェパードが手にしている伊丹の資料の内容は全くの嘘っぱち、出鱈目なのであった。

 

 特殊部隊というのは、基本的に機密の塊である。部隊名や装備類はまだしも、特に部隊員の個人情報は国内の面倒な人々からの干渉やら、海外の工作員による引き抜き、果ては暗殺といった妨害工作から保護する為に厳重に保護されている。

 

 が、それでも漏れる時は漏れる。だったらそれを逆手に取ろうと、非合法な手段で情報を探った場合は偽装された情報が出てくるよう、対策を講じたのであった。

 

 それが伊丹の場合、怠け者の本性とは正反対の、中学生の痛い妄想ばりに盛りに盛った能力の持ち主であるというカバーストーリーを与えられた。

 

 わざわざ痛い要素盛りだくさんの内容にしたのは……ハッキリ言えば嫌味である。散々周囲を振り回しながらオタク趣味を伝染させようとする怠け者への、精一杯の嫌がらせのつもりだったのだ。

 

 

『我々は現在、各国から精鋭を集めた独立部隊を編成している』

 

 

 ……まさか欺瞞情報を真に受けた米軍の将軍様が遠路はるばるやってきて特殊作戦群1の問題児を呼び出してスカウトにかかるとは、これっぽっちも予想していなかったのである。

 

 

『それは凄いですね』

 

『ニホンの軍隊は実戦経験は皆無でも優秀な兵士が揃っている。集めた人員の多くは白人か黒人だが、世界各国で任務を行うとなれば黄色人種の作戦要員も必要だ』

 

『はぁ、確かにそうですね』

 

 

 適当に相槌を返す伊丹をシェパードは一瞥すると、反論を許さない口調で言い放った。更に大量の脂汗を流しだした上に、真っ青な顔で胃の辺りを押さえだしすらしている出雲の姿など全く目に入っていない。

 

 

『セカンド・ルーテナント・イタミ、これから貴様はワタシの指揮下に入ってもらう。既にそちらの上層部にも話は通してある。迎えをよこすから今すぐ荷物をまとめてこい。良いな?』

 

「は……はいぃ? いやいやちょっと待ってくださいよねぇってば」

 

「諦めろ伊丹……上官命令だ。逝ってこい」

 

 

 今にも血を吐き出しそうなぐらい苦しげに搾り出された出雲の死人のような形相に、さしもの伊丹も口を閉ざしてしまった。

 

 とりあえず伊丹は1つだけ確信できた。しばらくの間、同人誌即売会には行けないだろうな、と。

 

 こうして事情を知らぬ将軍様直々に引き抜かれた伊丹は各国の精鋭が集められた特殊部隊――――タスクフォース141に配属されることになった。

 

 なっちゃったのである(2回目)。

 

 ……全世界が戦争の炎に包まれるしばらく前の話である。

 

 

 

 

 

 

 

《――――ザカエフ国際空港でテロ。CIA工作員が直接関与か……》

 

《――――ロシア、アメリカに全面侵攻。米露戦争勃発……》

 

 

『ゴースト! ローチ! 誰か応答しろ、こちらプライス! シェパードの部隊に襲われている! シェパードを信用するな、奴は敵だ!』

 

 

《――――シャドー・カンパニーに極秘命令。タスクフォース141を殲滅せよ。命令者:シェパード中将……》

 

 

『シェパードならホテル・ブラボーにいる。貴様にはそれがどこなのか分かるな』

 

『充分だ』

 

『チクショウ、ロックがやられたぞ!』

 

『イタミ、ハンドルを握れ! このまま飛行機に乗り込むんだ!』

 

 

《――――最重要指名手配:ジョン・プライス、“ソープ”・マクダビッシュ、ヨウジ・イタミ》

 

 

『それで、これからたった3人でどうしようってんです?』

 

『決まっている。シェパードを殺すんだ、必ず』

 

 

 

 

 

 

 

 

<7日目/17:55>

 伊丹耀司

 アフガニスタン/サイト『ホテル・ブラボー』

 

 

 

 

「……イタミ、おい起きろイタミ! 無事か!?」

 

 

 悲鳴を上げる全身の痛みで伊丹は意識を取り戻した。目を開けて真っ先に飛び込んできたのが屈強なモヒカン男だったから、伊丹は兵士らしからぬマヌケな悲鳴をあげそうになった。

 

 

「あ、あれ、マクダビッシュ大尉?」

 

 

 モヒカン男の正体、今や文字通り数少ないタスクフォース141の生き残りであるジョン・“ソープ”・マクタビッシュ大尉の姿を見て、伊丹は直前までの記憶を取り戻した。

 

 

「そっか、シェパードを殺す為に秘密基地に突入したら基地が自爆して……」

 

「まだ戦えるな? シェパードまでもうすぐだ、追いかけるぞ!」

 

 

 爆発に巻き込まれた際に手放してしまった伊丹のアサルトライフルを回収したのだろう、ソープが差し出したM4A1カービンを伊丹は、

 

 

「……ああ」

 

 

 躊躇いもせず掴み取った。使いかけのマガジンを引き抜き、新しいマガジンを装填。

 

 本来は自衛隊員なのに、今となっては64式や89式よりもグレネードランチャーやドットサイトが付いた海外製の銃器の方が手に馴染んでしまっている。

 

 どうでもいい。きちんと作動して敵の命を奪ってさえくれば文句はない。目標であるシェパードまでもうすぐだ。

 

 不意に伊丹の脳裏に、のらりくらりとつらい訓練で適度に手を抜いたり口八丁手八丁で上官を言いくるめて面倒事から逃げ回っていた頃の記憶が蘇った。あの頃から自分は変わったのか変わってないのか、伊丹自身判断がつかないでいる。

 

 だが少なくともあの頃は予想だにしていなかっただろう。米軍のお偉いさん直々に引き抜かれて世界中の戦場を転々として、挙句裏切られて仲間の大半を殺された上、最後は復讐しにたった3人で大量の兵が待ち受ける基地に殴りこむという自殺行為を選ぶなど。

 

 日本に残した嫁の梨紗が聞いたら「ないわー」と笑って信じないだろうし、過去の自分にそう教えてやっても「いやぁないない」の一言で切って捨てていたに違いない。

 

 

(だけどこれだけは、こいつだけは)

 

 

 ローチも死んだ。ゴーストも死んだ。ロイス、ミート、ローク、戦友たちも次々に死んだ。上官・部下問わず、タスクフォースの仲間のほとんどはシェパードが企てた陰謀の犠牲者になった。

 

 残ったのは名高き英国陸軍第22SAS連隊から出向のソープと、彼の元上官で数日前までは囚人627として幽閉されていた老兵、ジョン・プライスのみ。

 

 アメリカとロシアの戦争の原因になったテロ事件にもシェパードが関わっているという。シェパードのせいで死ななくてもいい筈の人間がどれだけ死んだか、到底数え切れない。

 

 伊丹は嫌な事や危険な事からは口も手も総動員して避ける主義だが、この報復だけは逃げ出そうとは思えなかった。

 

 伊丹もまた自分達を裏切ったシェパードを恨んでいた。だがそれ以上にたった2人生き残った戦友が死地に向かうと知っていながら、自分だけ逃げる気にはなれなかったのだ。

 

 ふらつきながら闘志を震わせて体を持ち上げた時、立ち塞がるシェパードの私兵と銃撃戦を繰り広げていたプライスが唐突に血相を変えて伊丹の方へ駆け寄って、いや逃げ込んできた。

 

 

『ゴールデンイーグル"よりエクスカリバー、砲撃開始せよ。目標地点ロメオ――デンジャークロース』

 

『了解しました。砲撃支援――デンジャークロース!』

 

「下がれ、下がるんだ! ソープ、イタミ、伏せろ!」

 

 

 シェパードが下した砲撃命令により敵味方、はたまたほんの100メートル足らずの距離まで迫っていたシェパードの背中もろとも、砲撃が生み出す爆風と煙が呑みこんでいった。

 

 

 

 

 

 

《――――ロシア軍敗北。北米大陸より全面撤退……》

 

《――――和平会談のためハンブルグへ飛行中のロシア大統領専用機が消息不明に……》

 

《――――ヨーロッパ全土で化学兵器テロ続発。同時にロシア軍が電撃侵攻……》

 

《――――アメリカ軍、ヨーロッパ救援のため大規模派兵。第3次世界大戦勃発……》

 

《――――ロシア軍占領下のプラハにおいてレジスタンスによる反抗が活発化……》

 

《――――米軍を主体とした合同部隊により超国家主義派に拉致されていたロシア大統領の救出作戦が成功。和平協定が実現……》

 

《――――ホテル・オアシスで大規模テロ。超国家主義派指導者、ウラジミール・マカロフの殺害を確認。極秘部隊による暗殺作戦か……》

 

 

 

 

 

 

 

 

<2017年夏/11:50>

 伊丹耀司

 東京・新橋駅

 

 

 

 

「あのー大丈夫ですか?」

 

「……はっ!?」

 

 

 意識を取り戻すと、そこは砂塵の戦場ではなく、平和な日本だった。

 

 

「頭打って気絶してあの時の夢見てたのか……痛てて」

 

「本当に大丈夫なんですか、思いっきり柱に頭ぶつけて引っくり返ってましたよ?」

 

「ああ、心配してくれてありがとう。鍛えてるからこれぐらいへーきへーき」

 

 

 心配そうに助け起こそうと手を伸ばしてくる何の変哲もない一般人へ、伊丹は苦笑交じりの笑いを見せた。

 

 戦場でもしょっちゅう引っ張り起こされる事が多かったが、あの頃と違うのはこの場にいる誰もが武器も爆弾を持たない平和な一般市民だという点に尽きる。

 

 日本なら当たり前の光景――残念ながら、日本以外で現在平和な生活が維持されている国は数少ない――なのだがしかし、伊丹にはその風景が、まるで巨大な画面に映された遠い世界の様子のように感じるのであった。

 

 戦場を駆けずり回ったのは1年足らず。日本に帰国してもう半年近く経つというのに、伊丹の精神の一部は死んでいった仲間と共に戦場を未だ彷徨っている。

 

 

「いかんいかん! ランボーじゃないんだぞまったく、そんなの俺の性格じゃないだろ。そんな事よりも今日はとうとう外出禁止令が解かれてから初めての同人即売会なんだぞ! 集中しろー俺」

 

 

 激しく首を振って意識を切り替える。タスクフォース141に放り込まれてこの方、マカロフを追って世界中を転戦したせいでずっと参加できなかった上に、帰国してからも軍事機密の関係やら事情聴取やらで、伊丹は原隊の宿舎につい最近まで軟禁状態にあったのであった。

 

 そんなわけで意気揚々と駅構内を軽い足取りで進む伊丹。

 

 

(でもやっぱり、それなりにこの国も変わっちゃったみたいだな~)

 

 

 ふと通路から窓の外へ視線を向けた伊丹の目は、駅前の道路の路肩で駐車中の警察車両に自然と吸い寄せられた。しかもよくあるパトカーではなく、機動隊や警察の特殊部隊が利用する特型警備車と呼ばれる大型の装甲車である。

 

 

(ザカエフ空港襲撃事件とかヨーロッパの同時多発化学テロなんかを受けて日本の警察も重武装化が進んだんだっけ? 多分イベントで人が集まるから駆り出されてきたんだろうな。お巡りさんも大変だねぇ)

 

 

 などと考える伊丹であるが、それだけ伊丹やタスクフォース141が追っていた本来の標的――ウラジミール・マカロフが残した傷は大きいのである。シェパードの加担もあったとはいえ、この男の謀略によって米露間、そして第3次世界大戦までもが勃発したのである。

 

 副次的な影響を含め、どれだけ膨大な死者や経済的損失が発生したのかは未だ定かになっていない。

 

 日本が第3次大戦の当事者の一員にならずに済んだ理由も不明だ。全ての絵図を描いたマカロフは既に死んだのだから。

 

 直接的な被害を受けなかった日本だが、その代わりに第3次大戦で大被害を受けた各国からの嫉妬を向けられるという形で悪影響を受けつつある。

 

 アメリカやロシアからの枷が緩んだ中国やら半島はここぞとばかりにあの手この手の嫌がらせを一層過激に行い始めているし、アメリカは大被害を受けた国民の声を受けてゴリゴリの右翼思想な大統領が誕生して鼻息を荒くし、ロシアはロシアで大暴れした反動で大人しくしているものの、マカロフが率いていた勢力であるインナーサークルの残党が依然暗躍している始末。

 

 日本も例外ではなく、まだまだ燻る近隣諸国の火種が再拡大した場合に備えて自衛隊の軍備を大幅拡大する法案が急遽国会に提出されたばかりである。

 

 もちろん、自国の足を引っ張るのに定評のある一部の野党や市民団体が金切り声を上げているが、おそらくそのまま可決されるだろう。

 

 

「って、だーからそんなガラじゃないだろう俺!」

 

 

 早く行かなくては御目当ての同人誌が売り切れてしまう。伊丹は止めてしまっていた足を再び動かそうとした。

 

 にもかかわらず、前に出した足がおもむろにまた止まる。

 

 ピタリ、と。

 

 

「………………」

 

 

 それは何というか、どこかの路地裏近くを通り過ぎた時にガスの臭いだとか何かが燃える焦げ臭さを感じ取ってしまった時に似た感覚だった。

 

 部隊の訓練、そして幾つもの戦場で嗅いだ臭い。

 

 危険の臭いである。

 

 しかしそれは、インナーサークル残党のテロでもなければ、とうとう本気になった近隣諸国による電撃侵攻によるものでもなかったのである。

 

 

 

 

 後に『銀座事件』と呼ばれる、巨大な『門』から溢れ出した異世界の軍勢による大虐殺。

 

 逃げ惑う大量の民間人。突然の事態に指揮系統が断絶され右往左往する警察。命令が下されず駐屯地で待機する事しかできない自衛隊。

 

 

 

 

 そんな中で伊丹だけは、二重の意味で正しく行動した。

 

 オタクとしての知識は、出現した軍勢が異世界からの侵略者であると答えを導き出した。

 

 兵士としての本能が、今行動に移らなければ民間人に大量の犠牲者が出ると叫んで――半ば渋々ながら――阻止に動いた。

 

 

「ぐあっ!」

 

 

 駅構内を出た時、悲鳴が聞こえた。特型警備車から降車して事態を治めようとした警官が、飛竜に乗って飛び回る騎兵の馬上槍に顔面を貫かれて死んだ際の断末魔であった。

 

 周辺からも乾いた銃声が何度も聞こえてきたが、あっという間に数を減じつつある。警備車の周囲にも警官の死体がいくつも転がっている。

 

 

「クソッ、警官もパニくってやがるな!」

 

 

 悪態を吐きながら警官の死体に駆け寄った。普通の警官の制服ではなく、機動隊用の紺色の出動服にヘルメット、弾薬類を収納するタクティカルベストにボディアーマー、極めつけにMP5サブマシンガンにベレッタ90-Twoという、警官らしからぬ重武装であった。

 

 伊丹の予想通り彼らは普通のお巡りさんではなく、装備からしてSAT(日本警察の特殊部隊)と同じくハイジャックやテロ事件に対応する為に設立された銃器対策部隊の一員だったに違いない。

 

 だがハイジャック犯ともテロリストとも違う、全く想定外の敵の登場に意表を突かれ、あえなく全滅の憂き目と相成ったのだった。如何に重装備でも不意を突かれた上、防御の薄い顔面や首元を正確に攻撃されては相手が刃物しか持っていなくてもあっけなく殺されてしまう。

 

 

「すまない、アンタらの装備を借りるよ」

 

 

 侘びの言葉を告げながら手早く警官の死体から装備を拝借し身に着けていく。幸いというには不謹慎だが、ほとんど交戦する間もなく殺されたため、装備も弾薬もほぼ一杯だった。

 

 近くでまた銃声が聞こえた。

 

 

「あっちか!」

 

 

 駆けつけてみれば、倒れた中世風の兵士を前に呆然としている制服警官の姿が。初めて人を撃ったショックで呆然としているらしい。

 

 と、中世風の兵士が突然立ち上がると、短剣を抜いて制服警官に突撃。虚脱状態の警官では反応が間に合いそうにない。

 

 

「やらせるかっ!」

 

 

 数歩進んで、MP5を構えた。安全装置は解除済み。訓練を重ねて染み込ませ、実戦を積んで研ぎ澄まさせた動作で兵士に照準を合わせる。

 

 伊丹は引き金を絞りながら、魂が叫ぶがままに吼えた。

 

 

 

 

 

「夏の同人誌即売会を中止にはさせん! やらせはせん、やらせはせんぞおおっ!!」

 

 

 

 

 

 

 ――――再び戦争が始まる――――

 

 ――――今度の舞台は『門』の向こうの異世界――――

 

 ――――世界を跨いでも、人は殺し合いを繰り返す――――

 

 

 

 

 

 

 

 GATE:Modern Warfare

 

 

 

 

 




仕事や原稿作業の合間に気晴らしで書いてみた。

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