GATE:Modern Warfare   作:ゼミル
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5:A Hero Never Dies/皇居前攻防戦(終)

 

 

<2017年夏/13:08>

 目撃者たち

 皇居正門周辺

 

 

 

 

 文字通りの孤軍奮闘を続けていた存在がとうとう倒れた時、皇居の外側では歓声が上がり、皇居の内側では沈黙が広がった。

 

 異世界の軍勢は、散々抵抗の限りを尽くした謎の戦士を打倒した事につかの間歓喜した。警官隊や一般市民は、自分達が皇居内に逃げ込めるまでの時間を稼ぎ抜いた上で最後まで戦い続けた1人の兵士が倒されるまでの一部始終を見せ付けられ、その犠牲に目撃者は皆衝撃と悲しみを覚えていた。

 

 しかし、たった1人の自衛官と多数の警官隊の奮戦によって敵軍にもかなりの被害を与えたとはいっても、侵略側は万に達しようかという兵力を今も皇居前に集結させているのである。

 

 

「こちら皇居、援軍はまだ到着しないのか!」

 

『市ヶ谷から5機(第5機動隊)、練馬から陸自1連隊がまもなく到着予定の模様』

 

「おい、アレを見ろ!」

 

 

 と、さっきから退避せずにカメラを回し続けていたカメラマンが指差した先では、甲冑姿の騎士が長剣を手に、バリスタの矢で貫かれた伊丹の下へ近づいていく光景があった。

 

 頭から血を流しながら目も血走らせたその騎士は、機動車から飛び出した伊丹にガス銃の水平射撃をブチかまされて真っ先にKOされた人物である。

 

 人質を盾に意気揚々と降伏を促そうとしたはいいが不意を突かれてノックアウトされ、次に目覚めた時には人質を奪還された上に結構な損害まで与えられたという今の現状は、貴族階級である騎士のプライドを大いに傷つけるものであった。

 

 そこにガス弾をブチ込んでくれた張本人である伊丹がピクリとも動かず倒れているのを見つけたものだから、痛めつけられた自尊心を少しでも癒すべくせめて死体だけでも痛めつけ、ついでに首も晒して未だ城内に閉じこもり続ける蛮族に抵抗の末路を知らしめてやろうと、まだ危険過ぎると制止する従卒を振り切って歩兵の死体に囲まれた伊丹の下へ騎士は向かっていく。

 

 

『蛮族どもよ! 貴様らの戦士も我が帝国に討ち取られたぞ! 貴様らもこうなりたくなければ、大人しく城門を開き、我が帝国に下るが良い!』

 

 

 言い放ちながら伊丹の首を切断しようとする騎士。しかし対爆スーツという名の全身鎧は騎士にとって初めて見る代物であり、ヘルメットをスッポリと半分以上隠してしまうぐらい大きな防護プレート入りの襟が邪魔になって、中々長剣を刺し込めないでいる。

 

 ならばとヘルメットを外してやろうにも、これまた騎士が知る兜なんぞよりもよほど大きくツルツルとしていて滑ってしまう上に、両手で抱えて引っこ抜こうとガクガク揺さぶっても顎紐で固定されているものだからやはり外す事はできず、酷く手間取ってしまう。

 

 

『ええい蛮族め。何なのだこの兜は!?』

 

 

 四苦八苦する騎士の姿は後ろに控える多くの味方も籠城している敵も見られているわけで、微妙な空気を帯び始めた大量の視線に晒されている騎士は、流血以外の理由で顔を真っ赤にしながら必死になってヘルメットを外す手段を探した。

 

 

「隊長! 仲間の恩人の遺体があのまま辱められるのを見ていろと!?」

 

「気持ちは分かるが発砲は控えろ……!」

 

 

 機動隊長の制止がなければ石垣から撃たれていてもおかしくなかった事すら知る由もなく悪戦苦闘する騎士。

 

 そしてようやく、プレート入りの襟とヘルメットの間に突っ込んだ指先が顎紐を留める金具を見つけ出し、固定を解く事に成功したのであった。

 

 

『てこずらせおって!』

 

 

 忌々しげに吐き捨てながら、今度こそ首を切り取ってやるべくヘルメットを外そうとした、まさにその時であった。

 

 ――――顔面からバリスタで貫かれたと思われていた伊丹の体が突然動き出し、ヘルメットを外そうとしていた騎士の足を腕ですくい上げたのである。

 

 

 

 

 

 

 突然の事でいともあっさり転ばされ、転倒の衝撃で長剣まで手放してしまった騎士に、バイザー部分から短槍のような極太の矢を生やしたままの伊丹が馬乗りになった。まるで不死身の殺人鬼が暴れるホラー映画の1シーンのような光景は、『門』側の軍勢も皇居側の警官隊や目撃者も等しく驚愕させた。

 

 馬乗りになった伊丹は2度、3度と下敷きにした騎士の顔面に拳を叩きつけてから、身じろぎするたびにブラブラと刺さったまま揺れるバリスタの矢を掴むと、ゆっくりと引き抜いていく。

 

 殴られている騎士の従卒や大勢の歩兵はといえば、死んでいなければおかしくない筈なのにいまだ暴れる伊丹に恐れをなしているのか、それともいわゆる傍観者効果的な理由なのかは知らないが、彼らは助けに入ることなく凍りついたように固まり続けていた。

 

 ようやく伊丹の顔面にあたる部位から抜かれた矢の先端は、バイザーを貫いた代償に若干の変形を伴っていたが、何かに叩きつければ突き刺さりそうな程度には鋭さを残していた。

 

 そして馬乗りの姿勢で騎士を組み敷く伊丹が、杭のような矢の棒部分を両手で握り締めて頭上に掲げた時になって、ようやく他の騎士や歩兵は我に返って伊丹を止めようと動き出した。

 

 

『や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』

 

 

 断末魔が轟き、すぐに途切れ、死体が1つ増えた。

 

 騎士の喉笛に突き立った矢から手を離した伊丹は今度は転がっていた長剣を手にし、杖代わりにして体を支えながら、それでも自分の足で立ち上がった。

 

 またも立ち上がった伊丹を前にして、歩兵達の足が一斉に止まった。どんなに攻撃されても、打ちのめされても、何度も武器を手に立ち上がる伊丹の姿がこれまでの暴れぶりもあいまって、まるで得体の知れない怪物と戦っているような感覚を覚えたのである。

 

 

『まさかあれも亜神の同類だとでもいうのか……!?』

 

 

 そんな事を口走ったのは騎士の1人であった。

 

 『門』の向こう側には明確な存在としての『神』が複数実在し、超自然的存在である神の信託を受け、不老不死の肉体と驚異的な身体能力を与えられたヒトを『亜神』と呼ぶのである。

 

 人はえてして、己が理解できない異常な存在を自分が知る知識の中で近い存在へと勝手にカテゴリーし、本当は違うのにそのまま認識を固定化してしまう場合がままあるものである。

 

 誰かが口走った『伊丹=亜神』という認識は、伊丹のあまりの暴れぶりにショックを受けて空白が生じた『門』側の兵達のあいだで瞬く間に伝染していった。

 

 ……実際には、バリスタの矢は強化ポリカーボネート製のバイザーを貫通したはいいがそこで威力をほとんど使い切ってしまい、矢は伊丹の額の数ミリ手前で停止していたというのが真相なのだが、それが異世界の軍勢に知らされることはない。

 

 伊丹が倒れたのは、バリスタの一撃は中身まではギリギリ達しなかったものの、それでもコンクリートブロックを粉砕可能なほど強力なマグナム弾すら防ぐ強度のヘルメットを貫く威力だったわけで、命中による衝撃もかなりのものであり、それがピンポイントに頭部を揺さぶったものだから伊丹は脳震盪を起こして倒れたのであった。

 

 そのまま今日3度目の気絶をしてしまったのだが、首を獲ろうとした騎士が対爆スーツを脱がそうと四苦八苦して伊丹の体を揺さぶったお陰で、首を落とされる前に意識を取り戻した――これが真相であった。

 

 

「ええい邪魔だなぁ」

 

 

 亀裂が入って使い物にならないバイザーを上へスライドさせると伊丹の顔が露わになった。その顔は額から流れる出血で真っ赤であった。

 

 出血の原因はバリスタではなく、輸送車の事故に巻き込まれた時のものなのだが、そんな事など周囲は知る由もなく。

 

 出血はしていても目立った傷がない伊丹の顔を目撃した異世界の兵は、『矢に顔面を貫かれはしたが亜神の再生力で傷は治ってしまった』と勝手に連想し、伊丹に対しより畏怖の念を深めていった。

 

 

「次に死にたいやつはどいつだぁ! 俺の首が欲しけりゃお前らの命で御代を置いてってもらうぞコラァ!」

 

 

 奪った長剣を振り回しながら吼える伊丹。意識は取り戻したが、朦朧とした思考能力が誤作動を起こして性格が変貌しているようである。

 

 実のところ、伊丹の肉体はもうまともに動けるかも怪しいほど疲弊しているのだが、テンションが高揚しているせいで一時的に痛覚が麻痺していたのである。

 

 騎士の口上を伊丹達が理解できなかったのと同じく、異世界の兵士達も伊丹の言葉の意味は具体的には分からなかったが、それでも伊丹がまだまだ戦う気なのは理解できた。

 

 しかし動く事ができない。伊丹が不死身の戦士の類であるという誤った認識は、今や『門』側の軍勢全体に伝播し、数で圧倒的に勝るはずの彼らは戦意満々の伊丹1人に呑まれつつあったのである。

 

 

 

 

 そんな異世界の軍勢へのとどめは、まず空からやってきた。

 

 鋼鉄の羽音とひと繋がりになった砲声の高速連打によって突如、悠々と上空を飛びまわっていた竜騎士が飛竜ごと穴だらけに粉砕された。

 

 飛竜を撃墜したのは陸上自衛隊のAH-1S<コブラ>攻撃ヘリによる20ミリガトリング砲である。肉薄が必要なランスしか持たない竜騎兵が完全武装の攻撃ヘリに敵う筈もなく、一方的に遠距離から撃墜されていく。

 

 敵航空戦力を排除した攻撃ヘリ部隊が次の目標に選んだのは、皇居前広場に集結した敵歩兵部隊であった――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<2017年夏/13:12>

 陸上自衛隊所属・AH-1S攻撃ヘリ

 皇居正門周辺

 

 

 

 

 タンデム方式に配置されたAH-1Sコクピット内のパイロットとガンナーは、皇居正門石橋付近に横転した複数の警察車両を発見。

 

 敵の陣形が事故現場を包囲している事から、友軍の警官隊が事故で動けなくなり孤立しているのではないかと判断した彼らは地上に無線を繋ぐ。

 

 

「こちらアタッカー1。現場上空の敵航空戦力を無力化。機動隊の輸送車両が複数事故を起こし、皇居前に展開中の敵地上戦力が包囲しているようだが、下はどうなっている?」

 

『皇居上空の攻撃ヘリ部隊へ。地上の機動隊指揮官によれば現在友軍が1名、事故現場周辺で孤立している模様。孤立しているのは我々と同じ陸自隊員だそうだ。こちらが援護すれば皇居側から回収に向かうと言ってくれている。

 こちらが送った車両部隊と合流して友軍の救助、ならびに敵戦力を排除せよ。周辺施設への被害が及ばない場合に限り全兵装の使用を許可する』

 

「アタッカー1、全兵装使用(オールウェポンズ)許可(フリー)了解。ガンナー! 事故現場真上まで降下させるぞ!」

 

「せっかく皇居の上飛んでるんですから木に引っ掛けないでくださいよ」

 

「そんなヘマするか!」

 

 

 攻撃ヘリを急降下させて独特の浮遊感を短い間味わってから事故現場スレスレの高度でホバリングに移る。

 

 後部座席のパイロットと長年コンビを組んでいるガンナーの相性は抜群であり、ホバリングに移行した次の瞬間には、機首下からぶら下げた20ミリガトリング砲の照準は敵集団の最前列へピッタリ据えられていた。

 

 しかし現場から散々無線連絡で情報を受けていたのに加え、つい先程この手でファンタジーにしか存在していない筈のドラゴンを撃墜して回ったばかりだというのに、中世の物語からそっくりそのまま出てきたような鎧姿の歩兵の大軍をガンカメラ越しに目の当たりにしたガンナーは、思わず引き金を絞るのを躊躇ってしまう。

 

 

「なぁ信じられるか? 実戦で人を撃つ時はきっと半島か大陸かロシアの兵士が相手だとずっと思ってたのに、まさかよりにもよって初めての実戦の相手がドラゴンに騎士の大群なんだぜ、俺達」

 

「悩む前にさっさと撃て!」

 

 

 飛竜を蜂の巣にしたガトリング砲が歩兵の列を薙ぎ払う。20ミリ砲弾の雨ともなれば、直撃すれば文字通りの肉片と貸す威力である。警察車両を取り囲んでいた歩兵部隊は一掃射しただけで半壊状態に陥った。

 

 

「アタッカー2、後方の敵戦力の排除を頼む」

 

『了解したアタッカー1』

 

 

 アタッカー1と編隊を組む2機目のAH-1Sが地上へ掃射を開始。

 

 せっかくの全兵装使用許可である。ガトリング砲だけでは数が多過ぎると判断した戦闘ヘリのパイロットはロケット弾ポッドを選択。

 

 高性能爆薬がたっぷり詰まったロケット弾をしこたま敵部隊のど真ん中にブチ込むと、秒速8000メートル越えという、伊丹が起こしたガソリン爆発とは比べ物にならない強烈な衝撃波によって、敵歩兵は集団単位で叩き潰されていく。

 

 

『アタッカー2、引き続き敵部隊を攻撃せよ。アタッカー1、地上部隊が皇居前に進入して友軍の救援へ向かうので援護せよ』

 

「アタッカー1了解」

 

 

 見せ場は相方に任せ、引き続き事故現場上空で地上を睥睨するAH-1Sの眼下を、カブトムシを思わせる軽装甲機動車と平べったい車体が特徴な96式装輪装甲車が通過していく。

 

 装甲車で構成された車両部隊は、各車両の屋根に備えた銃架より上半身を覗かせた迷彩服姿の陸自隊員がM2キャリバー重機関銃や96式40ミリ自動てき弾銃をぶっ放して手当たり次第に敵兵をなぎ倒しつつ、遂に友軍が取り残された事故現場の確保に成功するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<2017年夏/13:16>

 警視庁/皇宮警察・混合皇居防衛部隊

 皇居正門

 

 

 

 

 陸上自衛隊の攻撃ヘリと装甲車両部隊、ならびに駆けつけた歩兵部隊の圧倒的な火力によって、敵の軍勢は一挙に崩壊しつつあった。

 

 

「自衛隊の攻撃で陣形が崩れた今がチャンスだ! あの男を助けに行くぞ!」

 

 

 そう言って機動隊の隊長は、部下に援護を任せるといの1番に正門から飛び出して伊丹の救援に向かった。階級相応に歳は経ているとはいえ、最前線で大量の敵兵相手に打ち合い殴り合いを繰り広げ続けた部下達よりも、後方で指揮に専念していた彼の方が体力に余裕があったからである。

 

 機動隊長の後に機動隊員の代名詞である紺色の乱闘服ではなく、街のお巡りさん的な格好の制服警官が続いた。最初に声をかけられてからこのかた、バリケードでの防衛戦から対爆スーツでの吶喊まで伊丹とずっと行動を共にしていたあの警官であった。

 

 拳銃やガス銃、良くてサブマシンガンがせいぜいの警官隊とは比べ物にならない、89式小銃やミニミ軽機関銃のみならず重機関銃やヘリのガトリング砲まで加わっての陸自の砲火の大合唱に、機動隊長と制服警官は気圧されそうになりながらも、陸自隊員達をかき分けて伊丹の下を目指す。

 

 分かってはいたが、事故現場周辺の状態は本当にもう凄まじい惨状である。

 

 射殺された死体はまだマシな方で、ナイフを使って殺された敵兵の死体はほとんどが重要な血管を切り裂かれた事により失血死したものばかりで、まぁつまり血の海としか言い様がないのであった。しかも夏の熱気で早くも濃密な異臭を放ち始めているのである。

 

 それでもどうにかこうにか怯む事無く機動隊長も制服警官も血の海に踏み込めたのは、この数時間の体験だけで嫌というほど死体やら負傷者やらを目にしたり、制服警官に至っては自分の手で敵兵を殺したりしたおかげで、無理やり精神が鍛えられてしまったためである。

 

 ようやく伊丹の下まで辿り着く。伊丹が横たわっているのが見えて、早合点した機動隊長と制服警官の顔色が青ざめた。メディキットを持った自衛隊員が伊丹の傍らで跪き、介抱の姿勢をとっている。

 

 

「彼の容体は?」

 

「彼が着ている対爆スーツが邪魔で脱がす必要があります。ここでは危険なので、皇居内に搬送しましょう」

 

 

 運ぶといっても、何十キロもある対爆スーツを着た大の男を運ぶのは中々難しい。分厚いコタツ布団で全身を包んだように着膨れているし、この場に担架も見当たらなかった。

 

 結局、伊丹の両腕をそれぞれ機動隊長と制服警官が抱え、メディック担当な自衛隊員が両膝裏を持ち上げる事で、援護射撃を受けながら正門前のスロープを駆け上る格好となった。

 

 自衛隊がようやく駆けつけて陸空から敵を蹂躙するさなか、制服姿の警官と乱闘服姿の機動隊長と迷彩服姿の自衛隊員が息を合わせてえっほえっほと英雄を安全な皇居内まで運ぶ光景もまた、デイビスのカメラによって一部始終収められていた。

 

 そう、今や伊丹は英雄と呼ばれても差し支えのない存在であった。

 

 事実、銀座を発生源として東京駅周辺、皇居前、官庁街にて勃発した戦闘が収束し今回の事態の詳細な情報が集められた時。

 

 事態発生当初から自衛隊が駆けつけるまでの間、多数の一般市民の避難誘導を行い、指揮系統から外れた警察官を指揮し、自ら銃を手に取って民間人の避難完了まで最前線で戦い続け、撤退中の事故によって孤立・敵武装集団の人質となった機動隊員達を救助すべくほぼ単身で引きつけ。

 

 挙句自己犠牲すら厭わずその場に残り、負傷者の収容完了までただ1人戦い続け――そして生き残ってみせた伊丹の冷静沈着、勇猛果敢、徒手空拳でも挫けぬ孤軍奮闘ぶりは、その場に居合わせて危うい所を伊丹に救われた海外メディアの取材班が記録した映像と共に、世間へ周知される事となる。

 

 されちゃうのである。

 

 その結果、下手すれば第3次世界大戦再開、いや勢力を入れ替えての第4次大戦すらも招きかねない、最高機密クラスの情報を知る人物が世間へ大々的に名前を知られてしまった事について、自衛隊や防衛省のお偉方が銀座事件の後始末共々頭を抱える事になるのであるが……

 

 それは先の話であり、今この現場で最善を尽くそうと奔走する公僕の人々にとっては、知ったこっちゃない話なのであった。

 

 

 

 

 とうとう正門石橋を渡りきって皇居内へと伊丹を運び終えると、すぐさま伊丹を運んだ面々は対爆スーツを脱がせにかかった。

 

 槍や剣に打ち据えられ、魔法の集中砲火を浴びた対爆スーツの表面は傷だらけである。

 

 ケブラーを中心とした分厚い防護材を貫通するほどの傷はないものの、だからといって中身が無事とは限らない。実際の戦場でも、仕掛け爆弾に曝された装甲車両の乗員が頑丈な装甲越しに伝播した衝撃波によって被害を受けたり、砲弾の中には装甲の貫通ではなく衝撃を伝播させて内部機構や車内の乗員へ被害を与えるよう設計された代物も開発されているほどである。

 

 かさばって重量もあるが、スーツ内側のベルクロによって留める仕組みなので意外と脱がせやすい対爆スーツの上半身を、なるべく刺激を与えないようゆっくりと脱がしていく。

 

 それから次に、機動隊の警備用ヘルメットを一回り大きくしたようなヘルメットも外す。至近距離での銃撃やある程度の爆発も防げる厚手のバイザーが貫通するほどの攻撃を食らっているため、脳にもダメージが及んでいるのを考慮し、細心の注意を払ってずっしりとしたヘルメットを伊丹の頭から抜いていった。

 

 全貌が露わになった伊丹の頭部は、顔面が血まみれであった。

 

 

「大丈夫か!? もう平気だ、救援も駆けつけてくれたからすぐに手当てしてもらえるぞ。頑張れ!」

 

 

 メディックな自衛隊員が怪我の様子や出血の状態、脈拍や呼吸の異常を手早く確認していくその横で、機動隊長が励ましの言葉を送る。

 

 その光景もまた、英雄の姿を間近で撮影すべく駆けつけたデイビスの手で、しっかりと記録されているのであった。

 

 

「……お……」

 

 

 運ばれて以降、ぐったりとしていた伊丹の口元から唐突に呻き声が漏れた。

 

 彼の手が何かを求めるように、プルプルと震えながら虚空へ伸ばされていく。その手を機動隊長がガッシリと掴んで更に励ましてやる。

 

 砲火をBGMに、致命傷を負った兵士が今わの際の言葉を遺そうとする、戦争映画の定番シーンそっくりな光景が、まさにこの場で再現されていた。

 

 

「しっかりしろ! せっかくここまできたんだ、死ぬんじゃないぞ!」

 

 限界を迎えて朦朧とし始めた意識の中、伊丹は涙すら浮かべながら、最後の気力を振り絞って言い残す。

 

 

「俺……俺……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……今年こそ、同人誌即売会に行きたかった……ガクリ」

 

 

 

 

 そして今度こそ伊丹は、「結局今年も行けずじまいかと」無念に思いつつ、ちょっとやそっとでは目覚めないほど深い眠りに向かって意識を手放すのであった。

 

 なお夏の同人誌即売会は中止になった。

 

 

 

 

 

 

 

『まだ死ぬ気はない。だが、もし死ぬとしたら、時と場所は自分で選ぶ』 ――鷲は舞いおりた

 

 

 




サブタイは某香港映画とGhostsのあるミッションを意識してチョイス。


数多くの感想ありがとうございます。
感想の中から気になったのをピックアップ返信したいと思います。


>救援が遅い~
原作でも自衛隊や市ヶ谷方面からの救援が駆けつけるまで数時間かかったとの記載があります。


>もしかしてこの世界だとユーリ生きてるのか?
そこらへんは追々という事でお待ちください。

>伊丹、怒りのジャガーノート。
気がついたらジャガノじゃなくて火炎放射器兵(byBF1)になってましたが後悔はしていない(何)

>CIAを含む中国やロシアの工作員部隊の襲撃難易度
そこらへんは勢力関係も原作よりも弄る予定ですが、伊丹にとっても襲撃側にとってもハードになるのは確定ですw

>プライスさんとかこの時空で今なにやってるのか
どういう扱いにするかは秘密ですが確実に登場はさせます。



次回は戦闘無しの幕間回予定です。


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