GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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※今話からモダンウォーフェア(2019)ならびに別作品の要素が含まれます。


11.5:SOG/過去と兵士

 

 

 

 

<午餐会から数日後/06:30>

 ジョン・プライス 在特地・英国特別観戦武官

 ファルマート大陸・アルヌスの丘/自衛隊駐屯地

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵士の朝は走る事から始まる。

 

 まず隊舎に宛がわれた個室で目覚めたプライスは硬いベッドから目覚めると、すぐさま迷彩服のズボンにオリーブドラブのTシャツという組み合わせの訓練着に着替える。

 

 隊舎を出れば、地平線の彼方から顔を覗かせつつある特地の朝陽が老兵を出迎えた。産業革命と無縁の異世界を照らし出す陽光は格段に空気が澄んでいるせいだろう、ヘレフォード(SAS司令部)や日本で目にしてきたそれよりもより鮮烈で力強いエネルギーを帯びているように思える。

 

 首と肩を回し、足を数度軽く曲げ伸ばしして寝ている間に強張った筋肉を軽くほぐすと、急激に心肺機能や筋肉に負荷がかからない程度の速度で走り出す。向かう先は駐屯地を取り囲む防壁の門だ。

 

 

「おはようございますプライス大尉」

 

 

 小走りに駆けていると道すがらすれ違う自衛隊員らが敬礼と共に口々に挨拶をしてくる。プライスの方も「ああ」だの「おはよう」だの、時には声は出さず頷きだけを返すなど、端的にではあるが挨拶を返しつつ足は止めない。

 

 元SASの観戦武官(外部には非公表)が駐屯地の外周部へと向かう光景は、特地派遣部隊の隊員らにとって今や新たな風物詩として定着しつつあった。

 

 

「おはようございます。今日も精が出ますね」

 

「ああ。これをしないと1日が始まらん」

 

 

 防壁のゲートで検問を行う守衛とも既に顔見知りだ。フリーパスで検問を抜け外周部に出る。

 

 炎龍退治の為伊丹やユーリ共々脱走した直後は四六時中監視の目が光っていたものの、プライス含め直接・間接的な当事者間でスムーズに口裏合わせがされ、プライスとユーリがあっさりと炎龍殺しの功績を譲ったのもあって警戒対象扱いも既に解除済みだ。

 

 特地派遣部隊アルヌス駐屯地の防壁は主要施設が点在する敷地内を外の目から遮るヘスコ防壁と更にその外側を延々と取り囲む鉄条網の2層構造。ヘスコ防壁のすぐ外側は襲撃の際敵兵に取り付かれないよう空堀が掘られている。

 

 確か五稜郭といったか。日本滞在中に世話になった傭兵と大学生を掛け持ちしていた戦友から教えてもらった、150年ほど前に日本で起きた内戦で主要な戦場となった要塞の存在をプライスは思い出した。

 

 ただし北の地に建造されたあちらとは違い、異世界に作られた自衛隊の要塞は五芒星ではなく六芒星である。

 

 鉄条網と防壁の間はフットボール(サッカー)やラグビーの試合も楽勝で行えるだけの空間が設けられていて、丁寧に整地された地面も運動にはうってつけのコンディションだ。

 

 そんな空間ではプライス同様勤勉な自衛隊員達が集まり、運動前の準備体操を既に行い始めていた。

 

 プライスもたっぷり10分以上かけて準備運動。入念な準備運動は肉体の機能を高め怪我の予防にもつながる。余計な怪我を負わないのも優秀な兵士の条件だ。

 

 イギリス陸軍仕込みの準備体操で全身の筋肉をほぐし、心肺機能と脳のエンジンを万全の状態へ。

 

 体を温めながら周囲を見回してみれば、早朝ランニングに出てきた自衛隊員の多くは、当然ながらプライスよりも年若い年代の者が多い。

 

 特地派遣部隊は最低でも曹以上の下士官で統一しているとプライスは聞いていたが、アジア系特有の若く見られやすい外見もあり、中にはプライス視点ではティーンエイジャーにしか見えないような隊員も混じっているのが何ともおかしく感じられる。

 

 そしてもっとおかしいのは、単一人種で統一された自衛隊特地派遣部隊に混じって準備運動に加わる褐色肌の若者達の存在だ。

 

 

「いっち、にっ、さん、しっ」

 

『よっ、ほっ、はっ』

 

『ちょっとユマ、順番間違えてるよ』

 

 

 正確には彼らまたは彼女らは若者ではない。そもそも日本人どころか地球人でもない。

 

 周囲の隊員を真似ながら慣れない様子で自衛隊体操をどうにかこなそうと奮闘しているのは、地球の黒人やラテン系ともまた違う艶やかな褐色の肌に銀の地毛、そして種族最大の特徴である笹穂型の長い耳を持つ、常人の何倍もの寿命を持つダークエルフだ。

 

 おとぎ話でしかお目にかかれないような種族が、陸上自衛隊の迷彩服姿で自衛隊員達とトレーニングを行っているのである。

 

 今頃報告を受けた本国(イギリス)の情報部やホワイトホール(各省関係者)は自分の目がおかしくなったのかと目を擦っているのではないだろうか?

 

 だが軍事の歴史的観点からしてみればダークエルフの軍事訓練参加は決して驚くべき事ではない。

 

 半世紀前、インドシナ半島を舞台にした東西陣営の代理戦争、かの悪名高きベトナム戦争において民間不正規戦グループと命名された計画が存在した。

 

 通称内容はソ連の支援を受けた北ベトナム軍によるインドシナ半島の共産化を阻止するべく現地の少数民族へ物資の援助と軍事訓練を施し反共産勢力を編成するというもの。

 

 軍事顧問として派遣された米陸軍特殊部隊軍(グリーンベレー)と組んで活動した彼らは設立の経緯から軍事の世界でも有名な存在である。自衛隊も、異世界でその真似をしようという訳だ。

 

 特地の自衛隊が行おうとしているのは極々限定的な規模に過ぎないとプライスは知っている。訓練に加わっている現地住民は特地の辺境や資源を調査する資源探査班の協力者で、車両や無線機の操作を学んでいる光景も何度か目撃していた。

 

 

 

 

 

 体が十分に温まったのでランニングを開始する。

 

 陸空の機甲部隊を含め万単位の自衛隊員が生活する一大拠点であるアルヌス駐屯地の敷地は広大で、外周部を一周するだけで相当な距離である。

 

 それはプライスのような根っからの兵士にとってはうってつけの目覚まし代わりだった。

 

 走る。走る。走る。

 

 兵士に求められるのは短距離走の選手のような瞬発力ではなく安定した速度を維持する持久力だ。走れなければ敵に追いつかれる。

 

 その先に待っているのは捕虜の屈辱か死の代償か――またはどちらもか。

 

 走る。走る。走る。

 

 これがヘレフォードの基地ならまだ頭から殻が取れずにいる新米隊員のケツを蹴っ飛ばしながら、鶏の鳴き声代わりに高らかに掛け声(ケイデンス)と足音の合唱を響かせ、ご近所の住民の皆様方を叩き起こして回っている所である。

 

 異世界で非公式の観戦武官や、世界中から追われるお尋ね者や、タスクフォース141のメンバーや、あまつさえ囚人627号としてではなく、1人の第22SAS連隊としての指揮官だった頃が最近妙に懐かしく、同時に恋しく思うようになっていた。

 

 昔を恋しがるなんぞアンタも歳を取った証拠だと、今はもういないモヒカン頭の戦友の声が聞こえた気がした。

 

 走る。走る。走る。

 

 プライスだけでなく、老兵よりも年若い自衛隊員や、外見は若い男女だが実年齢はプライスよりも何倍も上のダークエルフも基地の周囲を一定の速度で駆け続ける。訓練で身体を苛めるのが仕事の隊員もさる事ながら、ダークエルフも然程息を切らさず余力を持ってランニングに追従していた。

 

 資源探査班に加わる現地協力者の多くを占めるダークエルフは、森林や溪谷地帯での過酷な生活を身一つで過ごしてきたバイタリティには目を見張るものがあり、地球流の戦術とテクノロジーを叩き込めば兵士として大成しそうな原石が揃っていた。

 

 しかも寿命と老加速度の種族的特徴から兵士としての活動可能期間は人間の数倍。こんな兵隊がいると知れ渡れば各国が目の色を変えて欲しがるに違いない。

 

 走る。走る。走る。

 

 これぞ兵士。これぞ兵隊稼業。

 

 走る。走る。走る。

 

 外周部の半分まで到達する頃、プライスの肉体は早くも悲鳴を上げ始めていた。足の重たさは増し、心臓がハードロックのドラム張りに激しい高速ビートを刻みつつある。

 

 苦しみを決しておくびに出さず、歯を食いしばり体と思考を動かし続けるのも兵士にとって不可欠な要素だ。少なくとも自衛隊員やダークエルフらが見ている前で年老いた犬よろしくぜぇぜぇと息を切らす姿を見せるつもりはさらさらない。

 

 大丈夫だ、俺はまだまだ走れる。ここからが本番だ。

 

 プライスが体内の悲鳴を決して表に出す事無く残りの半周を走り続けていると、やけに勢いが良い足音と気配がみるみる後方から近付いてくるのを感じた。

 

 2つの影がプライスを、自衛隊員とダークエルフの集団の横をあっという間に追い抜いていった。

 

 絵にかいたような見事なごぼう抜き。下手な短距離走の公式記録を上回る速度を維持したまま疾走を続ける。

 

 ダークエルフのように横へ長く伸びた笹穂耳ではなく、こめかみの辺りから上に向かって縦長の獣耳を生やし、迷彩服の胸元を大きく張り詰めさせた2人の女。

 

 内、片耳が欠損した女には見覚えが無かったが、もう1人の女はアルヌスの酒場で働いている筈のデリラだ。驚くべき事に2人には圧倒的ペースを維持したまま口論を交わす余裕すらあった。

 

 

『ぬくぬくと男に抱かれるだけの生活を送ってたせいで鈍ってるんじゃないかいパルナ!』

 

『言ったわねデリラ!』

 

 

 デッドヒートを繰り広げる2人の背中はあっという間に小さくなっていき、そのまま角を曲がって見えなくなった。

 

 そんなヴォーリアバニー2人に対抗心を燃……やす事無く、プライスは黙々とペースを維持してランニングを続ける。無駄な対抗意識を発揮してペースを崩せば負傷するのがオチだ。

 

 そうしてぐるりと外周部を一周し終え、負荷で少しばかり疲弊した肉体を再びのストレッチでほぐしてやってから駐屯地内に戻る。

 

 隊舎の自分の部屋でシャワーを浴び(今も一応お客様(駐在武官)扱いなので特別に専用のユニットバス付の個室を宛がわれていた)、汗を流したら朝食の時間だ。

 

 食堂で振舞われる料理は動き回る兵隊向けにガソリンであるカロリーと栄養に重点を置きつつ、フランス人やイタリア人に匹敵する食のこだわりを持つ日本人らしく風味豊かな献立ばかりだが、生粋のジョンブルであるプライスとしては山盛りのベーコンとスクランブルエッグにトースト、そして英国紳士必須の紅茶のセットが恋しい今日この頃である。

 

 大食堂にて日本人に混じって食事を受け取り待ちの行列に並ぶのも今や慣れたもの。最近は今朝のランニングと同様、ダークエルフも食事の列に並んでいるのを見かけるようになっていた。

 

 

「おう戦友、ここだ。ここなら空いてるぞぉ」

 

 

 迷彩服姿の男(時々女)がひしめき合うテーブルの一角で陽気な方のロシア人が手を振っていた。

 

 ニコライの下へ向かう。席に着いていたのは彼1人きりだった。

 

 

「ニコライ、お前もたまには報告書作りに籠っていないでひとっ走りして体からウォッカを抜いたらどうだ」

 

「ご忠告痛み入るよ兄弟。腕が鈍らない程度には体を動かす時間は確保しているから心配は無用さ」

 

「失礼しまーすプライス大尉殿。隣の席いいっすか?」

 

 

 平常時でも常人には近寄りがたい厳めしい風貌と雰囲気を漂わせるプライスへ気楽な声を投げかけてきたのは、伊丹の元部下である倉田であった。

 

 

「座りたければ勝手に座れ」

 

「んじゃ失礼しまーす」

 

 

 物怖じする様子も見せずあっさりとプライスの隣の席へ腰を下ろした倉田だが、ふとキョロキョロとイギリス人とロシア人の周囲に視線を行き来させたかと思うと、もう1人特地入りしている筈のロシア人の名前を口にした。

 

 

「あれ、最近ユーリさん見かけませんけどどうかしたんすか?」

 

「アイツなら今出張に……いや正確には里帰りだな」

 

「?」

 

 

 

 

 具体的に教えるに値する適格性(クリアランス)を持たない倉田には語る資格が無いと言わんばかりに、英国紳士はわざとらしい動作で味噌汁を口に運ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<同日/05:30>

 ユーリ スペツナズ《一時復帰》

 カストビア・ヴェルダンスク

 

 

 

 

 

 

 まさかこんな形で祖国の地へ舞い戻る事になるとは――

 

 

 

 

 特殊戦向けに改良されたMi-8・ヒップ輸送ヘリの機内で特徴的なフローラ・パターン(雲を重ねたような柄)迷彩のロシア軍空挺部隊の戦闘服に身を包んだユーリは、丸窓から見える夜明け前の森林風景をジッと見下ろした。

 

 カストビアはバルト海に面するロシアの属国だ。特に軍事面はロシア軍に支配されているも同然であった国であるが、WW3においてロシア軍が大幅に消耗した現在はカストビア国内で活動しているロシアの軍事施設と兵員の数は減少しつつある。

 

 そんな中、偵察衛星が兵員が撤退し活動停止となった筈の軍事施設が活動しているのを察知。衛星と無人偵察機による監視を継続した結果、武装した複数の兵士と車両の出入りも確認された。

 

 ロシア軍GRU(参謀本部情報総局)FSB(ロシア連邦保安庁)―悪名高きKGBの後継者―は各局から選抜したスペツナズ(特殊任務部隊)の派遣を決定。

 

 それだけならば、本来超が付くほど貴重な特地駐在武官であるユーリをわざわざ『門』の向こうから呼び戻す必要はない。

 

 ユーリが任務に加わらなければならないと上層部が決断した理由。

 

 それは施設を運営させている責任者があのマカロフの協力者と目される人物であったからだ。

 

 そしてユーリは長年ザカエフそしてマカロフが率いた超国家主義派に長年潜入してきた工作員―という事になっている(・・・・・・・・・・)―であり、そのような過去もあって急遽オブザーバーとして招集されたのである。

 

 今回ユーリはオブザーバー的立場だが任務に投入される小部隊の指揮権も臨時に与えられていた。

 

 

調教師(укротитель)より猟犬(охотничья)へ、応答せよ』

 

 

 会話が出来ないほどやかましいヘリのエンジン音の下でやり取りする為の無線機能を内蔵したヘッドセットに作戦本部からの通信が入った。

 

 

「こちら猟犬1(ユーリ)。レズノフ支局長どうぞ」

 

 

 受け答えをしていると自然と今作戦の責任者の記憶が脳裏に思い浮かぶ。

 

 ヴィクトル・レズノフは諜報機関の所属とは思えない炎と鉄血の空気を纏った男だ。プライスよりも更に年上なのは間違いなく、第2次大戦の赤軍兵士がそのまま転生かタイムスリップしてきたのではとしか思えない容貌と雰囲気を放っている。作戦前に周囲から仕入れた情報では最低でもアフガニスタン侵攻当時から現場でムジャヒディン(イスラム戦士)相手に戦ってきた本物の古強者だという。

 

 人心掌握と扇動を得手としているそうだが、モニターの前に陣取るよりも赤軍の軍服姿で拳銃を掲げ、先陣を切って兵士と突撃している姿の方がよっぽど似合ってそうな人物である。

 

 ……それにしてもニコライにそっくりな声だ。アフガン帰りの諜報員は皆似通った声になるんだろうか?

 

 

『申し訳ないが悪い知らせだ。未確認だがアメリカの部隊が作戦地域で活動しているとの情報が今入った。おそらく目的は我々と同じだろう』

 

 

 相変わらずアメリカは世界の警察を気取っているようだ。属国とはいえロシアの支配下にある土地へ部隊を送り込む辺り、アメリカ側も今回の標的を重要視しているのは間違いない。

 

 しかしWW3終結後も燻る遺恨と特地絡みの案件で外交関係が再び悪化しつつある中、アメリカ側の部隊ともし戦闘に陥った場合、最悪WW3再開のリスクすら存在していた。

 

 

「了解。もし我々とアメリカ側の部隊がぶつかった場合対応はどうすれば?」

 

『出来る限り我々側からの攻撃は控えろ。だがあちらから敵対してきた場合は遠慮は要らん、反撃をしてかまわんぞ。放棄したとはいえ元は我々の敷地であった土地に忍び込んだ賊はあちらなのだからな』

 

 

 スパイの元締めにしては中々血の気の多い方針に、ユーリは思わず首を振りながら通信を終えた。通信チャンネルを機内の共通回線に変更。

 

 

「作戦本部から新しい情報だ。米軍が我々と同じ目標を狙って動いている。攻撃を受けた場合に限り反撃を許可するが、こちらから先に撃たないようには注意してくれ」

 

 

 了解、と口々に返してくる臨時の部下として与えられた兵士達の顔を見回す。

 

 彼らの部隊のコールサインとは別に、各自の特徴から参考にしたと思われるコードネームを与えられている。

 

 フューズ(信管)グラズ()カプカン()タチャンカ(武装馬車)フィンカ(ナイフ)

 

 彼らを選抜した人事担当はウォッカ漬けの状態でスパイ映画を見ながら仕事をしていたのだろうか?

 

 特殊部隊に召集される程高度な専門的な個人技能を持つ精鋭の常として、ユーリの指揮下に配属されたメンバーは画一化された制式装備とは一線を画す特徴的な専用装備を各々が持ち込んでいた。

 

 例えばフューズはロシアの傑作アサルトライフルであるAK47の最新バージョンであるAK12の他に爆発物を多数携行。

 

 狙撃手のグラズはサーマルスコープ付きのOTs03・ブルパップ式スナイパーライフルを所持。

 

 カプカンは先陣を切るポイントマンとして接近戦向けのPP19-01・サブマシンガンとサイガ12・ショットガンを持ち歩く。どちらもAK47をベースとした銃であるので全長とマガジンのサイズ以外は非常に似通った外見だ。

 

 紅一点のフィンカは女だてらにプルパップ化したペチェネグ軽機関銃を軽々と扱っている。彼女は根っからの戦闘職である男性陣とは違い、正式な博士号を持つ専門家でもあった。

 

 分野は化学兵器――即ち今回の任務はそういう(・・・・)絡みの内容という訳だ。立場を誇示するかのように従来の戦闘用装備以外にも、対化学戦用装備を多く身に着けている。

 

 最も異彩を放つ存在はタチャンカで、溶接工か古いSF映画のロボットが被っていそうな鋼鉄の分厚いバイザー付きヘルメットを着用した火力支援担当はカプカンと同タイプのサブマシンガンとは別に、何とどうやって上を説き伏せたのかカスタマイズされたDP28軽機関銃なんてWW2の骨董品をわざわざ持ち込んですらいた。

 

 自分の父親か祖父の時代に使われた古い機関銃を、まるで赤ん坊のように大事に抱えて愛おしげにその銃身を撫でている。

 

 TF141時代の戦友らも癖のある面子が揃っていたが、この寄せ集め部隊はユーリの記憶の中でも飛びっきりに個性的だった。

 

 離れている間にスペツナズも随分変わったもんだと、年寄りじみた回顧につい浸る。

 

 まぁこのような任務に送り込まれるのだから、全員が優れた兵士であるのも間違いないのだろうが。むしろそうでなければ困る。

 

 

 

 

 

『降下地点まで30秒!』

 

 

 パイロットからの連絡がユーリの意識を引き戻した。物思いに耽っている間に目的地へ到着したようだ。

 

 

「降下準備をしろ!」

 

 

 ユーリの号令を合図に各隊員が各々の銃を最終点検。ボルトを引き、薬室に初弾が送り込まれたか確認

してからしっかりと安全装置を掛ける。直接ヘリが着陸するのではなくロープを使っての降下になるので、安全装置を忘れれば最悪宙吊りの状態から自分の足を撃ち抜きかねない。

 

 ユーリも支給されたAK12を念入りにチェックする。ロシア軍の歩兵装備が西側諸国の装備を参考にモダナイズ化されるようになって久しく、鋼鉄と木材で構成されたAK47の後継者であるAK12は新素材の合金やプラスチックがふんだんに使われ、米軍兵器廠により規格化されたレイルシステムも組み込まれ拡張性も飛躍的に向上している。

 

 彼のAK12にはドットサイトとサイレンサー、フラッシュライトの他に銃身下へGP34・グレネードランチャーを装着。

 

 隠密裏に敵兵を仕留める為、他の隊員のライフルやサブマシンガンの銃口にもサイレンサーが捻じ込んである。

 

 ホバリングに移行しながらヘリの後部ランプがゆっくりと開いていくと、ターボシャフトエンジンの排気ガスに塗り潰された外の空気が機内へ吹き込んできた。

 

 降下用ロープが開け放たれたランプから蹴り落とされ、次々と兵士達がファストロープ降下で地上へと舞い降りる。

 

 無論、個性的でも選び抜かれた精鋭である彼らは危なげなく安全具無しのロープ降下をこなし、素早く周辺警戒に移行。ここまでの短い身のこなしだけでユーリは与えられた部下が飛びきり優秀であると再認識する。

 

 最後にユーリの番だ。防刃耐火仕様のグローブを嵌めた両手でロープを握り締めると、機外に広がる虚空へと身を投げ出した。

 

 

 

 

 こうしてユーリは再び祖国の大地を踏みしめたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『隼は飛び方を見れば判る』 ――ロシアのことわざ

 

 

 

 




この時点でラスボス見抜けるMW経験者多そう()

R6SではLMG持ちフューズとSMGカプカン時々リージョン使いです。
即落ち&クソエイムでもアビリティがカバーしてくれるからねHAHAHA!(noob並感)

>本当のFPS主人公になってしまったんやなって
まさしくその通りで草生やしました(執筆中は気づいてなかった)


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