幕間「英雄」
青いような、緑のような淡い光の粒子が流れている。
すべてが揺らめき実体さえも歪むとらえどころの無い空間。
その中で、時折現れるネオンの様に鮮やかな色が神経に触る。
川の流れを思わせる発光粒子の流れが一瞬にして途切れたかと思ったら、
人間には格子状の空間の様に知覚できる多重次元の鱗片が現れる。
ぼんやりその光景を見ていた“提督”はなんて落ち着かない宇宙だろう、と宙を見上げる。旗艦の司令席から見える宇宙は自分の知る宇宙とは違う奇妙な物で、自分の存在さえあやふやになってしまう気がする。
彼の艦隊は今、キースン大将率いる太陽系解放同盟主力を討伐するための任務に当たっている。
落ち着かない光景
緊急増設の地球連合グランゼーラ混成艦隊
慣れないワープ空間戦闘とワープ酔い
戦死特進の先払いとしか思えない中将という階級
ため息や疲れた顔を表に出さない様にするのにかなりの努力が必要なのだが、
艦橋や自室の窓から見える風景は決して心を癒してはくれない。
彼は地球連合軍の軍人であるが、第三次グリトニル戦役で挙げた殊勲のため、あれよあれよという間に両軍を股にかけた英雄に祭り上げられてしまった。しかも政治的理由によって、ついこの間まで敵同士だったグランゼーラの軍人達も指揮する立場になった。今では20代の若さにして最大戦力を担った提督である。そこに来て、このワープ空間に入って単調な航海をしているとどうしても内に気が向く。提督は頭を振って、ネガティブに傾き切った思考を追い出そうとする。
副官達や司令部は良くやってくれているが、人間の心というのはあまり理性的に出来ていないのも知っている。制帽を目深に被り階級章を見えないようにして身分を隠して艦内を歩くと、隊員達の戸惑いやちょっとした不和が聞こえてくる。訓練された軍人達は理性的・友好的に振舞っているが、極限状態ではどうなるか。来たるべき太陽系解放同盟との決戦までに、主義主張の違う皆を纏め上げられるだろうか? 提督は心の中でため息をつかずに居られない。
そんな憂鬱な気分の中、また宙を眺めていた。
「……とく、提督! 敵襲です!」
「! 何が起きた?」
「前方に太陽系解放同盟らしき艦影を発見、現状だと接触まで10分程度です」
「総員戦闘配備。各艦巡航隊形から戦闘隊形へ。中尉らは情報をまとめてくれ」
ぼんやりとしていたことを隠すように、彼はすぐに命令を下す。
俄かに活気付く周囲。各自が職務に打ち込み戦闘の準備を整えていく。
やがて、直ぐにでもR機全機が発進できる状態になったころ、
副官の一人が緊急連絡を携えて走りこんできた。敵情報の続報が入ったようだ。
「前方の敵陣なのですが、小型バイドと太陽系解放同盟の機体が混じっているようです」
「バイドに取り込まれたのか?」
「しかし、戦上手のキースンが、そんなミスをするとは思えん」
「本当に太陽系解放同盟なのか?」
口々に疑問の声を上げる司令部の中、グランゼーラ革命軍から出向している副官の一人が顔を顰めていた。バイドへの嫌悪感か、それとも……
彼は考えながら、出撃準備を命じる。
部下達の不安も、明確な命令を下されたことで霧散していく。
余計なことを考えるのは後だ。
理由はどうあっても、司令官になった以上やる事はひとつだ。
どこまでいっても手探りの任務だが、太陽系で最精鋭ともいえる部隊を率いているのだ。難攻不落の要塞ゲイルロズや、巨大基地グリトニルだって攻略してきたし、
悪魔ドプケラトプスだって、緑の地獄グリーンインフェルノだって撃破した。
各々が自分の本分を果たせば、打ち破れない敵なんてない。
出来ないことなんてない。
そう彼は自分を叱咤激励し、そして一度目を瞑ってからいつもの様に余裕のある表情を作る。そして、ゆっくり周囲を見渡してから言う。
「さあ、行こうか」
我慢しきれなくて結局幕間に突っ込んだ話