書いていたらキャラは動かしにくいわ結局ゲイルロズはほとんど出てこないので、
章の名前を変更しました。
ホットライン
「ホットライン」
要塞ゲイルロズは、木星-土星圏にある軍事要塞である。
単純な大きさでは長距ワープ離施設を兼ねるグリトニルに劣るが、純軍事的な面から見ると、ゲイルロズは破格の規模を誇る拠点だ。ギャルプⅡをはじめとする研究施設群など、第二の太陽系軍事中心地だ。
難攻不落とは、要塞ゲイルロズを形容する場合に用いられていた言葉である。が、此度の大戦初期でグランゼ-ラ解放軍の指導者ハルバー司令が、地球連合を打ち破ってグランゼーラの本拠地としたことで、実際には難攻不落とは言いがたくなってしまった。また、休戦前には地球連合の特別任務艦隊によって占拠されているが、プルトイド休戦協定時に再びグランゼーラ革命軍の領となっている。それでも、本来の敵であるバイド相手には、一歩も引かずに守り通している。防衛ラインを抜かれ篭城状態にされることはあったが、バイドに占拠されることは無かった。
そのゲイルロズ司令の執務室はこの要塞の来歴を思わせる通り、質素だった。その席で香りも何もないカフェイン飲料を飲み、部下から上がってきた報告書に目を通すのは、グランゼーラ革命軍ゲイルロズ副司令兼、外縁方面艦隊司令のアレクセイ・ジャジール中将だった。基地司令は同格先任のワン中将であるが、現在基地を留守にしているため、ジャジールが色々な処理を行っている。ジャジールが難しい顔をして睨んでいるのは一通の報告書だった。
「地球連合か? そうならば、この期に及んでバイド兵器に恃むとは」
ゲイルロズの周囲にとり残されたギャルプⅡ跡地に、何者かが侵入した形跡があったのだ。高濃度のバイドが取り残されていた区画のため、その一帯を封印したはずなのだが、デブリが濃くゲイルロズから影になっている部分に侵入口が開けられていた。原因については目下、調査中。反バイドを標榜するグランゼーラとしては、軽くは済ませられない問題だ。
重苦しい声が響く。
もみ上げから繋がった顎髭がトレードマークの大柄な男は、いかにも闘将といった雰囲気だ。すでに壮年から老齢に片足踏み込む年齢だが、鍛え上げた肉体は40代後半にも見える。そのライオンの鬣の様な髪髭で縁取られた強面に、ドスの利いた低い声で命令されれば、新米士官など直ぐに背筋を伸ばして、命令を聞くと噂されている。が、残念なことにグランゼーラの小豆色の軍服が全く似合っていない。それもそのはず、元は地球連合の士官だったのだから仕方ない。
ジャジールが静かに書類決済をしていると、通信機が電子音を発する。
「副指令ジャジールだ。どうした?」
『閣下、連合軍のグリトニル基地司令デンバー中将より通信です』
見知った通信士官が、外部より基地宛に通信があったことを伝えた。
そして、基地指令のワン中将が不在なので、ジャジールに回したいと告げられた。
ジャジールは敵軍からの通信を訝しげに思いながらも了解すると、
一瞬間が空いてから、白い詰襟に白髪交じりの老将官が映る。
『こちら地球連合軍グリトニル司令デンバー中将です』
「グランゼーラ革命軍ゲイルロズ副司令、ジャジール中将です。……して、デンバー閣下、グリトニルから直通通信とは何かありましたかな?」
『ああ、少々厄介な問題が起こってしまって。それより貴官が壮健そうで何よりだ』
「デンバー閣下、休戦中とはいえ、あまり……」
『これは失礼。しかし、知らない仲でもないですし、不必要にいがみ合うより、穏やかに話した方が良いに決まっているでしょう?』
デンバー中将は笑いかけながら、ジャジールに話しかけてくる。通信窓の向こうにいるデンバー中将とは、顔見知りだ。年はデンバーが5歳程度年上だが。かつて地球連合軍で補給士官をしていたデンバーと、同じく連合軍の前線士官であったジャジールとは、特別仲が良いわけではなかったが、まあ、顔を合わせれば話くらいはするくらいの間柄だった。デンバーという男は、特に出来る印象はないが、ともかく堅実で人当たりが良い。戦場で指揮するより、事務処理をしているほうが似合っているといったイメージだ。事実、走り回るよりよりケツで椅子を磨く仕事の方が長かったはず。知っているのはこれ位、要はその程度の関係だ。
ジャジールは取りあえず、どうでも良い挨拶を終えて本題に入ることにした。
「確かにここでそんな事を言っておっては話が進みませんな。それで、グリトニルからホットラインを経由したからには、どうやら重い話題のようです」
『実はうちの駐留艦隊がゲイルロズの停戦ライン付近で妙な物をみつけてね。これを』
「そのマークは……」
停戦ラインに踏み込んでいるのは双方ともだが、こうもあからさまに示されるのは良い気分ではない。が、その問題など軽く吹き飛ぶような物がそこにあった。デンバーによって画面に大きく映し出されたのは、R機に使われる装甲、その破片だ。そして、どうみてもその塗装は太陽系解放同盟のエンブレムが書いてあるのだ。ジャジールは動揺を押し殺して、相手に尋ねる。
「解放同盟残党は活動を控えていると思っていましたが。どういう状況だったか、お聞きしたいのですが?」
『停戦ライン付近で我が駐留艦隊の哨戒部隊が、ゲイルロズ方面から接近してくる部隊を発見。連合領域に入った時点で警告、応答がないので交戦し、数機を残して壊滅させた。交戦部隊はグランゼーラの機体だったが、戦闘後調査するとこれを見つけた。というわけです』
「太陽系解放同盟が動き出した。だからプルトイド休戦協定の通り連絡を頂けたという訳ですな。ふむ、単純に考えるなら太陽系解放同盟の偵察ですが、そんな問題ではないでしょう」
グリトニルとのホットラインがこんな単純な事を報告するために使われるなんてありえない。ちなみに、本当に停戦ラインの連合側だったのか、撃墜に際して警告なんてしたのか。限りなく黒に近いグレーであるように思うが、そこは口にはださない。この辺はお互い様だし確認が取れない。反対の立場でも自分は同様のことを言っただろうから。後で釘は刺しておくが。
『潜んでいた工作機とエクリプスを逃がしてしまったのだが、様子がおかしかった様だ。味方の機体がやられるのも目もくれずに潜み、隙を見て離脱していった』
「工作機ですか。偵察隊にしては可笑しい。何らかの秘密工作をしていたか、それとも」
『資源奪取』
「……」
デンバーが何か端末を操作すると、ジャジールの手元に画像データが送信されてきた。それを開封し通信窓とは別に開くと、どうやら交戦部隊のガンカメラ映像の様だ。確かに、この動画に映っている工作機は挙動が可笑しい。そして、最後の場面では工作機は重そうにタンクを振りながら去っていく。グランゼーラ軍と地球連合軍が哨戒合戦しているさなか、ゲイルロズで近辺で秘密作戦を決行するだけの価値がある物。機密情報奪取ならば荷物はデータだけで済む。質量を持ったもので、尚且つ怪しいのはこれしかない。
「バイド種子」
『ええ、我々もそれを危惧しているのですよ。何しろ太陽系解放同盟はフォース開発技術も持っているでしょうし』
「まだ、調査中の情報ですが、封印されていたギャルプⅡに何者かが立ち入った形跡があると報告があった」
『当たりですな。我々は協力し合える』
対太陽系解放同盟戦線。
未だに主義主張のかみ合わない地球連合とグランゼーラが、双方ともの希望で手を組むことを了承した項目である。現場でも対バイド、対解放同盟については妨害をしないという暗黙の了解がある。
「ふむ、太陽系解放同盟の残党が何かを企んでいるなら、確かに無視できない問題だ。それでは、当方でも残党の同行や付近宙域の精密探査を行ってみましょう。地球連合軍の適切なご忠告に感謝します。それでは」
『いや、今までの話は貴官に対する情報提供であって、本論ではないのだがね』
ディスプレイには笑顔をたたえたデンバー中将。
これ以上に必要な話などあっただろうか、地球連合の司令官と茶飲み話をするつもりはない。そんなジャジールの内心を知ってか知らずか、画面の中の老中将はにこやかな顔のまま告げる。ジャジールはデンバーがどんな話しをするときも穏やかであった事を思い出した。
『共同作戦。というのはどうだろか?』
地球連合政府は、バイド来襲以来、中央集権体制が色濃く反映され、強権を用いて、人類をまとめる唯一の統合政府を自認している。その、地球連合政府の尖兵たる軍が共同作戦とは随分と奇異に感じる。
彼はどういうつもりだろうか?
謀略の類だろうか?
ジャジールは暫くの間押し黙っていたが、口を開く。
「共同作戦ですか。それは太陽系解放同盟残党を地球連合軍とグランゼーラ解放軍が、同盟を組んで討伐すると?」
『私はそうなれば良いとは信じているが、流石に一司令官が勝手に同盟は組めませんので、共同作戦という訳ですな』
「……そうですな。協定にもあるし、対解放同盟なら協力して事に当たったほうが良いでしょう。当方、基地司令のワン中将はこちらで説明をしておきますが、貴軍は」
『実働は駐留艦隊司令のヘイズ少将になるでしょう。若いが少なくとも道理が分らない男ではない』
その後別れの挨拶と敬礼をして通信を切ると、ジャジールはこの話の進め方を考えた。
グランゼーラ革命軍の最高意思決定機関である議会は、上層部で多数の離反者を出し、太陽系解放同盟に転向したことから、プルトイド協定以後空転を続けている。しかし、軍部の作戦止まりなら大丈夫だろうか。
問題は、この要塞ゲイルロズにおいて、自分の上司に当たるワン中将だ。彼は階級こそジャジールと一緒だが、先任である。彼は原理主義的な反地球連合を信奉する、所謂革命の闘士で、清濁併せ呑むことを酷く嫌う。もっとも、その潔癖ともいえる主義主張のおかげで、ワン基地司令や自分、部下達が太陽系解放同盟に取り込まれずに済んだのであるが。
説明方法を考える必要がありそうだと、説得法を考えた。