グリトニル戦記   作:ヒナヒナ

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鼠狩り

「鼠狩り」

 

 

 

 

「閣下、あと15分ほどで合流ポイントに到着予定です」

「わかった」

 

 

ジャジールはそう連絡を受けて光学カメラが捕らえた景色を見た。ガルム級巡航艦の艦橋ディスプレイには前方の暗い宇宙が映っている。もっとも普段彼が座乗する空母アングルボダ級に比べて、巡航艦の電子の目は半分以下の機能しかないが、今回は空母を持ってくることはできない。

 

 

本来ならジャジールは空母に爆撃機ステイヤーを満載しての、奇襲戦、機動戦が得意なのだが、今回は暗礁宙域での作戦が見込まれたのと、上司のワン司令が現状の戦力を地球連合軍に解析されることに難色を示したので、巡航艦を出したのだ。空母艦橋で発艦指揮を取る方が性にあっているのだが仕方がない。作戦立案、すり合わせ、実務協議など色々と面倒な作業をやってきたのだ。この作戦で是非とも裏切り者太陽系解放同盟の残党を叩き潰しておきたい。

 

 

ジャジールは艦橋に入って暫くすると、はじめはレーダーに、暫くして光学カメラにもその姿が映った。巡航艦を旗艦として、フォース付きのR機を従える艦隊。あれが待ち人のグリトニル駐留艦隊だろう。

 

 

通信を繋ぎ、名乗ると相手も名乗り返してきた。地球連合の若手司令官ヘイズ少将だ。デンバー中将の様に無用に微笑みかける性質ではなさそうだ。言葉遣いは丁寧だが、事務的で、冷たさを感じさせる視線だ。不満を表に出さないのは及第点であるが、友好的ではなさそうだ。

 

 

「さて、ヘイズ少将。特に問題がないようなら打ち合わせに入りたいのだが」

『今回の航海ではバイドの群れにも接触しませんでしたし、問題ありません』

「我々も接触は無かった。最近の外惑星圏のバイドの脅威度はフォースを除いて下がりつつあるようだ」

『それは良いことです』

 

 

バイド兵器フォースを扱う地球連合軍に対する皮肉にも、しれっと答えて乗ってこないところを見ると、ヘイズ少将は比較的冷静な司令官らしい。流石にこの程度で逆上するような馬鹿は派遣されないようだ。最低限の社交辞令として差しさわりの無い会話をした後、要件を切り出す。今回の作戦のすり合わせだ。事前に協議が持たれ、想定される状況についての作戦案は共有しているが、トップ同士意識のずれがあってはならない。

 

 

作戦の骨子に変更無く、すでにまとまっていることなので両者の話し合いは非常に淡々としている。ジャジールも特段気を回す人間ではないし、相手のヘイズ少将も効率主義者のようだ。ジャジールのヘイズ少将に対する感触としては、少なくとも無能ではなさそうだし、態々此方を陥れるようなことはしないだろうが、今回の作戦で「友軍」にフォローなどは期待しないほうが良さそうだ。といった評だった。

 

 

「では、オペレーション“ジェリーハント”は当初の作戦通りに進むわけだが、すでに探索は済んでいるとの事でしたな?」

『ええ、すでに当方の偵察機がCB677ポイントにおいて革命軍の小艦隊を発見しております。輸送艦を母艦と擦る小規模なもので、カイパーベルト内に潜んでいました。これから仕掛けます』

「作戦通り、貴軍が仕掛けて追い散らしたところを、我々ジャミング機を含む部隊で追跡。

解放同盟残党のネグラを掘り当て、両艦隊の集結を待って攻撃でよろしいかな」

『了解です。では我々はあぶり出しのために攻撃を仕掛けます』

 

 

その後、連絡員を交換して集結地点から離れる両艦隊。ジャジールも息を潜め配置につき、ジャミング機と追跡部隊を派遣する。後は太陽系解放同盟の小鼠が罠にかかって、自分の巣穴まで案内してくれるのを待つだけだ。

 

 

***

 

 

暫くすると、発光から戦闘が開始されたことが確認できた。

連合軍の報告では、輸送艦が2隻程度。対してグリトニル駐留艦隊は巡航艦。

巡航艦には艦首砲や主砲が備えられ、艦自体の攻撃力が全く違う。

 

 

先ほど見えた光の筋は波動砲による先制攻撃と検討をつける。波動砲による一斉砲撃とその後に続くフォースシュートによる強襲が連合軍のお家芸である。ジャジールも覚えがあるが、オレンジ色の光球が迫ってくる様子は中々に恐ろしいものだ。特に捻りを入れる様な戦場ではない。ヘイズ少将は純粋に数の暴力として押し潰すのだろう。

 

 

ジャジールが出番待ちのため司令席で戦場を眺めていると、比較的大きい爆発が見えた。

そして輸送船のレーダー反応が消えたのを確認する。あとは解放軍のR機を剥ぎ取るだけ。時間の問題だ。連合の連絡員も、もうじき戦闘の終了であると知らせてくる。すでに、ジャジールもパワードサイレンスと実戦配備型エクリプスの追跡部隊は配置済みだ。

 

 

10分と経たずに戦闘が終了したらしく、岩礁帯に平穏が戻ってくる。ジャジールが艦隊を動かすかと考えていると、通信が係って来る。グリトニル駐留艦隊のヘイズ司令だ。

 

 

「無事で何よりだヘイズ少将」

『輸送艦とデコイ、護衛を潰してあります。残存機はばらばらに4機。我々は少しだけ追う振りして離脱待機しますので、貴艦隊にこの後の追跡をお任せします』

「了解した。すでに追跡がはじまっている。貴軍に被害がないのならば追跡後直ちに次の段階に入るが?」

『R機が3機ばかり小破しましたが、簡易修理可能な程度です。そのまま作戦を遂行するべきでしょう』

「了解した」

 

 

別に馴れ合いたくもないが、もう少し何とかならないものだろうか。と思いながら、相変わらず愛想の全く見えないヘイズ少将との通信をきった。

 

 

***

 

 

ジャジール率いるゲイルロズ艦隊はカイパーベルト帯の奥深くに潜む解放同盟残党のねぐらを突き止め、現在、グリトニル駐留艦隊と敵基地を挟み込むような形で待機している。両艦隊とも、不安要因であったバイドに合うことも無く楽に来ることができた。追跡をしていたエクリプスとパワードサイレンスに補給が完了ししだい攻撃を仕掛けることになっている。

 

 

副官がジャジールに報告を持ってくる。

 

 

「ジャジール司令。すでにステイヤー部隊は展開済みです。追跡部隊はあと10分程度で補給が完了します」

「分った。それにしても直系数km程度の小惑星を抉って基地としているとは分らんはずだ」

「ええ、しかもソルモナジウム鉱床を含んでいたようです。基地建築資源は十分でしょう」

 

 

ディスプレイに望遠拡大された敵の基地は、いびつな形の巨岩の一角に穴が開いており、外部にはソルモナジウムの屑鉱床が露出しており、全体的にくすんだ青色を呈している。

外部は岩石そのものだが、内部は基地化されており小型艦艇が入れるドックになっていた。

グランゼーラ革命軍の採掘施設を太陽系解放同盟分離のドサクサに紛れてくすねたのかも知れない。

 

 

「人の家の台所を喰い荒らし疫病を撒く、そして住み家は穴倉。まさに、鼠ですね。司令」

「だが、鼠は追い詰めると噛み付く。努々油断するな」

 

 

ともすれば敵を侮る副官を諌めると、そろそろ作戦時間のようだった。

 

 

「さあ、定刻だ。オペレーション“ジェリーハント”最終局面の開始だ!」

 

 

ジャジールの指令の下、爆撃機ステイヤー部隊が先陣を切って突入する。唐突に現れたR機に基地側は反応が鈍い。一気に距離を詰めるステイヤー。細かくスラスターを噴出させて機動し、岩礁を避けながら射点に付くと、腹に抱えた大型ミサイルを解き放つ。レーザー水爆ミサイル“バルムンク”は試作型とはいえ波動砲に勝るとも劣らない武装だ。単発だが、波動砲と違ってチャージ要らずだし、その威力は馬鹿にならない。特に今回のような閉所へ叩き込めば、効果はかなり期待できる。

 

 

同盟軍秘密基地のある巨岩の割れ目に試作型バルムンクが吸い込まれていく。流石に革命軍側からも迎撃があり、その多くが推進装置や起爆装置を破壊され無効化される。遠距離より放ったため命中率は悪いが、3発ほどが敵基地に続く回廊に穴を開ける。

 

 

それを見越したかのようにグリトニル駐留艦隊からは既にR機が前進してきている。フォースを装着した量産機サンデーストライクと、R-9の系列機レディラブだ。波動砲はまだチャージしきっていないらしく、レーザーで湧き出てきた敵機を潰している。波動砲の速射性能において革命軍のR-9/0ラグナロクに秀でる物は無いことを確認する。

 

 

ジャジールは旗艦とその従艦を動かし、半包囲状態から完全に包みこむようにする。横目で見ると、一足早くグリトニル駐留艦隊はR機を使って包囲を完成させていた。かなり強気で勇猛な艦隊運用であるし、隷下のR機隊も練度が高い。ヘイズ艦隊の戦力評価について、上方修正するべきだろう。

 

 

あとは、敵が降伏するまでR機による攻撃を加えるだけだ。ステイヤーのバルムンクは乱戦では使えないが、この戦力差ならエクリプスで十分である。すでに、ヘイズ少将率いるグリトニル駐留艦隊は基地へフォースを叩き込む構えを見せている。

 

 

10分ほど待って、ジャジールは降伏を勧告しようと敵基地への通信を求めた。通信士が太陽系解放同盟の基地に通信をいれようとするが……

 

 

「敵基地、通信に反応ありません」

「徹底抗戦でもする気でしょうか?」

 

 

通信係りからの報告に参謀の一人が訝しげに言うが、本人もその発言を信じていないようだ。普通の軍人ならばこの状態まで追い込まれれば白旗を揚げるはず。ここはゲイルロズやグリトニルのように籠城戦を行える様な施設ではない。

 

 

「あ、反応ありました。これは……通信回します!」

 

 

通信士が突然顔を青くしてコンソールを叩くと、今まで、戦闘の様子を写していた正面サブディスプレイが切り替わり、血走った目をした太陽系解放同盟の士官が出た。背後では銃声さえ聞こえる。

 

 

『た、助けてくれ。実験設備でバイドが暴走して……司令部はダメだ、喰われた! 誰でも良いっ、助けて! もう直ぐ後ろまで……』

 

 

通信画面の向うで、背後を振り返った同盟軍士官の背が大写しになる。その後隔壁か装甲が破れる破砕音が聞こえ、男の悲鳴のあと通信が切れた。 ジャジールには分かりきった同盟軍兵の安否より気になる物があった。最後にちらりと映った赤紫色の触手。

バイドだ。

 

 

「司令! 敵基地よりバイド反応検知、急速に増大しています」

「R機隊の突入体制を解除して呼び戻せ。ステイヤーへのバルムンク搭載は終わったか!」

 

 

友軍の連合艦隊もバイド反応を認めたらしく、基地自体に激しく攻撃を加えている。ジャジールもすぐに基地を叩く体制を整え、攻撃を指示する。オペレーション“ジェリーハント”はネズミを穴蔵から追い出す作戦では無く、バイド汚染された基地自体を破壊する作戦に変わった。

 

 

***

 

 

「バイドを操作する実験だと!」

 

 

脱出艇で逃げてきた人員を捕縛し、バイドに汚染されていないことを幾度も確認した後、その解放同盟技術者の捕虜の言葉はジャジールを激怒させた。が、戦闘中であることを思い出して直ぐに、基地を飲み込みつつあるバイドの殲滅を命じた。

 

 

しかし、目の前にある基地が、隔壁が多く、内部向けて無人火器が多数設置されているという、何かを閉じ込める様な形状をしていることには気づいていなかった。 

 




こんなイメージで考えているので、グランゼーラ側の方がお年を召した司令官が多いように書いています。

地球連合軍  :旧来の将官は対バイド戦で初期にかなり喪失。
        指揮官適正試験と電脳プログラムで促成育成した若手司令官が多い
グランゼーラ軍:旧地球連合の将官がバイドの兵器利用を嫌がって多数流れていて、
        現場たたき上げの司令官が多い
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