グリトニル戦記   作:ヒナヒナ

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作られた悪魔

「作られた悪魔」

 

 

 

 

「バイドバインドシステム?」

 

 

地球連合軍グリトニル駐留艦隊司令官であるヘイズは、暫定友軍のグランゼーラ艦隊司令のジャジールから緊急連絡を受けていた。戦闘中、しかも急変した戦況下であまり悠長に話している暇はないのだが、ジャジールが逃げ出してきた解放軍シャトルの人員から聞き出したという情報は深刻であった。

 

 

この小惑星基地は、バイドに何らかの機器を埋め込み戦力とする実験施設だったらしい。それを彼らはBBS(BYDE BIND SYSTEM)と名づけ、実用段階まで研究済みであったらしい。太陽系開放同盟が少数戦力で蜂起したのは、この戦力が背景にあったらしい。その他の情報はまだ尋問中とのことだが、まあ、現在必要な情報ではないのだろう。

 

 

ヘイズはこの情報を脳内に焼き付けられた戦術規範や、自艦隊や友軍の戦力、士気と照らし合わせて吟味する。一拍の後、総合的に見て現戦術に変更はないと切り捨てる。BBSであろうが何だろうが、現状あれらは制御不能でバイド化している。人類の敵である。

 

 

「情報提供感謝しますジャジール提督。当艦隊は引き続き対バイド掃討戦として対処します」

『その方がよいだろう。あれはあってはならない兵器だ。フォースより、場合によってはバイドそのものよりも邪悪だな』

「制御できない兵器は兵器ではありません。あれはもはやただのバイドです。それよりこの位置は悪すぎる。ここがバイドの巣になるとグリトニル、ゲイルロズ双方の基地が危険に晒されます。駆逐すべきです」

『殲滅戦だな。バイドと解放軍機を逃がさぬように、R機で網を張るのでどうだろうか』

「異論はありません」

 

 

ヘイズは通信を切るとR機隊に指示をだし、ジャジールとの合意のとおり、敵を逃がさぬように隊形を整える。

 

 

現在、敵は混乱しているし問題ない変更だ。ジャジールの言う邪悪などという心象論は論外だが、あの調子ならば、内部進入時に開放同盟軍の実験成果を接収される心配は小さい。むしろ、バイド汚染の関係上施設そのものも破壊する必要がある。R-9Skプリンシパリティーズがあれば、内部消毒も簡単なのだが。この期に及んで基地ラボに引きこもっているTeam R-TYPEを脅しつけて、連中のR-9Skを借りてきてもよいだろう。

 

 

「いかんな。戦闘中に余計なことを考えすぎると、足元を掬われる」

 

 

ヘイズは取り留めのないことを考え続ける頭を軽く振って、宙域図を見据えた。これらは戦闘後に考えればいいことで、今は戦闘指揮に勤めるべく頭を切り替えた。

 

 

***

 

 

ヘイズの艦隊のR機部隊ライムライト隊がサンデーストライクを駆って、バイド化した開放同盟軍のR機を撃ち据える。波動砲だけでは手が足りなくなって、レーザーの集中砲火でバイド化した爛れた肉塊を焼ききる。友軍のグランゼーラ軍機が母艦を往復しながら水爆ミサイルを叩き込むのを横目で見ながら、サンデーストライクはフォースを叩き込み、バイドを蒸発させていく。

 

 

隊長機であるクレイ機が、隊員に向かって発破を掛ける。

 

 

「こちらライムライト1。敵の追加が少なくなってきたぞ、この作戦が終わったら酒奢ってやるから踏ん張れ」

『LL3です、いいんですか? 今のレコーダーに残ってますからね』

『こちらLL2、ゴチになりまっす!』

「おう、ただしここで緩んで被弾したら腕立て100回だからな。しっかりやれ」

 

 

クレイは内耳スピーカーから隊員達のブーイングを聞きながら、危なげない回避を取り、すれ違いざまに敵小型バイドをフォースで焼き切る。波動砲のチャージ完了音が響くと、敵が複数巻き込める位置に回りこみ、燐光を引く光の束を打ち出す。アンテナみたいな物が刺さったバイドを3機巻き込み、バイド素子を消毒して宇宙の塵に戻す。

 

 

「これであと2割ってところか。って、え……?」

 

 

その時、死角になっている位置にレーダーが反応を表示する。バイドのなり損ないリボーだ。小さく非力な機体であるためレーダー反応が弱かったようだ。しかし背後から撃たれれば危険である。体への負荷を無視した急制動を掛けて回避をかける。正直間に合うか微妙な所であるが、避けない訳には行かない。

 

 

が、目の前を青いレーザーが横切り、ついでにすぐ横にまで迫っていたリボーを粉砕する。クレイ機の後ろにはグランゼーラ機であるエクリプスが回りこんできており、クレイ機に接近する他のバイドを牽制する。そしてすぐにオープン通信から知らない声が聞こえてくる。

 

 

『こちらダイアモンド2、ケツに穴が増えなくてよかったな。フォース野郎』

「っち、グランゼーラの変形野郎どもか。こちらライムライト1。しょうがないから、どっかの基地で会うことがあったらまずい酒を飲ませてやるよ」

 

 

鼻で笑う声を残してエクリプスは巡航体形に変形し、スラスターをふかすとグランゼーラ軍の隊列に戻っていく。どうやら深追いして連合側に食い込んでいたR機らしい。クレイは、助けられた事に対して正直に「ありがとう」と言っておくべきだったかと考えたが、そもそも柄ではないし、意地の張り合いくらいがちょうど良いだろう思い直した。緩んでいるのは自分の方かと反省し、一旦補給を入れるべきだと考えて、クレイは一時着艦の申請を母艦に送った。

 

 

***

 

 

戦闘指揮所で、大勢を見れば順調に狩り続けるR機部隊と戦況を見守るヘイズ。周囲では戦闘時の忙しない報告が飛び交っている。現在、自軍被害は中破が2、大破が1だが、ヤケになった開放同盟軍機のステイヤーによるものなので、バイド汚染は考えなくて良いのが救いだ。そこに艦橋にいるクラネット艦長から内部通信があった。

 

 

『ヘイズ司令、懸念事項があります。あの設のバイド指数測定結果が奇妙なのです。内部からバイドが出てきているにも関わらず、バイド反応が小さすぎます』

「小さすぎる? BBSでバイド化が抑えられている分を差し引いてもか」

『はい。不用意に施設に近づけるのは危険だと愚考します』

 

 

R機隊は補給を挟みながら、掃討戦に入っている。そろそろ、施設内部への突入も視野に入れていたところに、この報告なので、ヘイズは眉間に皺を寄せてまた思考に入りそうになる。敵基地のバイド反応が小さいと言うことはどういうことだろうか。バイドがあらかた外に出てしまった所為だろうか。基地自体汚染されているだろうし、それは想定内のはずである。内部でバイドを叩いている者がいる? すでに敵は壊乱状態で組織的な行動はできないだろう。どういうことだろうか?

 

 

ヘイズが結局作戦に変更はないと判断を下そうとしたとき、後ろから場違いな声を掛けられた。その声に、ヘイズは更に眉間の皺を深くする。後ろに立っていたのは白衣の中年男。胸部に掲げた身分証にはTeam R-TYPEの文字。

 

 

「あ、あのヘイズ司令。これはあれかもしれませんよ」

「ガーミティ研究員。あれでは分からない上に、私はTeam R-TYPEに戦闘指揮所に入ることを許した覚えはない」

「えーと、それはTeam R-TYPEの研究に関する権限として、バイドに関する事項については軍内での行動の自由が認められていまして……。そうではなくて、いま艦長の言っていた件についてです」

「……発言を許す。20秒で言え」

「あの基地のバイド指数測定結果なのですが、あれは大型のバイド研究施設で使われている特殊処理隔壁の影響だと思います。Team R-TYPEの施設などで使われている技術です」

「その技術の出所は今は聞かん。それで、それは何を意味する?」

「あれは大型のバイドを培養する施設によく使われる装備なんです。もったいなくてBBSなんて小物にあんな設備は使いません。おそらく、あそこに合ったのはBBS研究施設だけではないはずです」

 

 

ヘイズとしては何が“大型バイドの培養”について“よく使われる”のか非常に頭の痛い話しだが、Team R-TYPEに探りを入れて良いことなど何もないというのが、軍人の常識である。今大事なのは、あの基地の内部に何があるのか、現状の戦力で掃討可能なのか、だ。

ヘイズは戦闘指揮所の隅にある補助椅子を指して、ガーミティ研究員にベルトをして絶対に動かないことを指示する。戦闘中に、見えないところで歩き回られるのは非常に不愉快かつ面倒である。

 

 

***

 

 

戦闘が終盤になったあたりで、ヘイズはライムライト隊に基地への潜入を命令した。亜空間から基地に近づけられれば、友軍であるグランゼーラ軍に感知されずに行動できる。場合によっては研究内容を連合軍で接収、抹消しなければならないからだ。BBSの兵器利用は論外だが、開放同盟への対策として研究情報は手に入れる必要がある。しかし、フォースですら嫌がるグランゼーラ軍にこれらの情報を手に入れたことがばれると、現状の控えめに言っても友好状態とは言いづらい関係が拗れる可能性が高い。開放同盟の危険度が上がった今、グランゼーラとも構えることは得策ではない。本来ならば、基地内部の消毒は近隣基地からR-9Skプリンシパリティーズを持ってきて、すべてを焼き払ってしまいたいのだが仕方がない。

 

 

しばらくして、アウルライトに通信を仲立ちされたライムライト隊から通信が入る。緊急通信によって戦闘指揮所に直通になった通信に、緊張度が増す。

 

 

『司令、基地最奥に大型バイド1! 小柄ですが装甲を付けたドプケラトプスのように見えます!』

 

 

ドプケラトプスという言葉の禍々しさに色めき立つ司令部、続けて送られてくる粒子の粗い画像に、息を呑む音が響く。それは白い装甲板に囲まれコントロールロッドのようなアンテナを大量に刺されたバイド。報告にあるスケールよりやや小型だが、その腹部にあるコアと頭部の形状などから、A級バイド“ドプケラドプス”であると皆が思った。

 

 

唯一、戦闘指揮所の隅に座っていたガーミティ研究員だけが、目を輝かせ感嘆していた。

 

 

「これが試作型ザプトム……素晴らしい」

 




このあたりからやはりTeam R-TYPEがしゃしゃり出てくる
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