グリトニル戦記   作:ヒナヒナ

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突撃

「突撃」

 

 

 

外圧や内圧を逃がすためのチューブ上の通路と、その途中途中にある円形の隔壁。白灰色に統一されたパネルの隙間から各種ケープルや修理ハッチが見える。そんな退屈な風景が続く通路だが、今は変化してしまっている。背景はそのままに肉塊が飛びかい、防衛用の砲塔が暴走して砲弾をばらまいていた。

 

 

そんな小型のバイドから放たれるエネルギー弾はフォースやビットで防げる程度ではあるが、次々に突入していくR機から見ると、狭い空間にあらゆる方向から飛んでくる敵弾を回避するという作業はとても困難なものであった。特に編隊で突入する身としてはフレンドリーファイアを避けなければならないが、バイドには同士討ちという概念が無いため、ともかく攻撃をまき散らしてくる。

 

 

グリトニル駐留艦隊で現場管制を担当しているジーフィは、目まぐるしく動く情報を統制し、データを選り分け、一緒に突入してきたR機に渡す任に着いていた。実態の目で周辺の敵弾を確認して回避し、脳内拡張野にある電子の目で広域情報を見ている。両方の目を駆使すると正直攻撃の方は疎かになるが、今は避けるだけなので何とかなっている。登録されていた味方機だけでなく、ここにきて友軍であるグランゼーラ陣営の各機にも情報の受け渡しすることになったため、忙しさも一塩である。露払いとして駐留艦隊のレイディラヴ部隊が先行しているため、最前線ほど敵弾が飛んでこないことだけは救いである。

 

 

「各機、研究区画C-2にレーザークリスタルがある。フォース装備機は補給していけ。ただし、反射レーザーだけは使うなよ。同士討ちになる。ケツ打ちもダメだ!」

 

 

ジーフィは先に亜空間偵察に入っているクレイ大尉の部隊からの情報を各機に伝える。突入前にもレーザーは使っていたため、そろそろレーザーのエネルギーが切れいているこえろだが、研究施設とあってレーザークリスタルの補充できたため、現地調達として使用することにした。各隊長機と後方にいるグランゼーラのラグナロク機にデータも送っておく。

 

 

『俺が、赤貰うぜ!』

「おい、貫通レーザークリスタルとった奴は前を行け。味方を巻き込まない様にな」

『了解。前に出るぞ』

 

 

ここで単機ならば自由に選ぶところであるが、このごた混ぜ状態で各機勝手にフォースに喰わせて補充すると混乱の元だ。特に反射レーザーは閉所での掃討戦では非常に役に立つのだが、乱反射して味方機のブーイングを買うことになる。特に連携のとれていない多数の部隊がいる中では絶対に使えない。散々警告をしておくことにする。赤――貫通レーザーは破壊力が強く最も信頼されるレーザーであるが、その貫通性能を活かせるのは先頭機にしかつかえない。これも事故の元だろう。

 

 

レイディラブ各機がクリスタルをフォースに喰わせて、攻撃力を強化していく。閉所編隊戦でもっとも役に立ったのは意外にも対地レーザーだった。上下方向に発射されたエネルギーは、壁面に沿って進みバイド体に接触すると反応して破壊する。上下方向の味方機に注意すれば乱射気味でも十二分に役に立ってくれた。先頭を行くレイディラブ隊は固定砲台や二脚移動砲台などを焼き払っていく。

 

 

ジーフィがレーダーを使って誘導を行っていると、高速で近づくグランゼーラ機の機影。高速機エクリプス編隊が突入してきたらしい。さすがに閉所とあってエクリプスの特長である高速モードは途中で解除されたが、後ろには少数のラグナロクも続いている。ジーフィは通信を開く。

 

 

「こちらグリトニル駐留艦隊管制機。ようこそ地獄の一丁目へ! 後ろのフォース装備機はC-2研究区画にレーザークリスタルがあるから足りないなら持って行け。先行部隊がいるから同士討ちに気をつけろ。この先のルート情報を送信する」

『こちらゲイルロズR機隊ダイアモンズ、了解した。後方から別部隊も突入してきている援護を頼む。バイドの撃ち漏らしもいるから気をつけてくれ』

「了解した。弾避けなら得意なんだ」

『我々はパーティに遅れずに済みそうだ』

 

 

一気に最短ルートを選んで進むグランゼーラ機達。この様子だと鈍足の機体は置いてきたのかも知れない。流石にキウィベリーやハクサン系列機はまだ見ていない。しかし、彼らが道すがら小型バイドを排除してくれていたので、弾避けもだいぶ楽になった。

 

 

「ん? 索敵範囲が」

 

 

その時、ジーフィの脳内の目で見えていた地図が一部消しゴムで消したように見えなくなった。こんな反応するのは決まっている。ジャミングだ。グランゼーラのサイレント機は、たしか入り口で突入支援していたはずであるが、こちらに来ているらしい。

 

 

ジャミング機、サイレントシリーズはグランゼーラの秘密兵器の一つだったものだ。自機とその周辺の物体のレーダー反射を欺瞞し、敵のレーダーから消し去るのだ。グランゼーラ奇襲戦術の要であり、地球連合軍の現場管制を担うジーフィとしては、身体に叩き込まれた最優先撃破目標だった。入り口で突入支援を行っていたジャミング機が奇妙な動きをしているのは気になるが、注意を払っておこうと頭のメモにこの事を貼り付ける。

 

 

脳内の目で先頭部隊が最奥の隔壁をぶち破ったのを見たジーフィは、管制支援にザプトムとやらの鎮座する区画に向かう。道中は申し訳程度の攻撃が来る程度、レイディラブ隊かエクリプス隊がぶっ壊したのか、円形砲台であるゴンドランの残骸が残っている。そろそろだ。最奥に近づくと流れ弾であるバイド粒子弾が通路の奥から飛び出してくる。当たれば最後だ。ジーフィは破れた最終隔壁の影に身を寄せる。ここならば敵の攻撃は届かず、それでいてアウルライトの目ならば奥の奥まで見通せる。

 

 

そして、ザプトムの“裏側”壁の中から覗いている機体と情報をリンクさせる。クレイらの亜空間機部隊からの情報を組み込むと、一気に視野が広がる。これで物陰にいても大広間の全容を送受信できる。亜空間機は意外と近眼なのでこちらからデータリンクしてやらないとならない。クレイの性格ならば波動砲はチャージ済みで飛び出すタイミングを計っているはずだ。

 

 

脳内の目にはこの広間の戦闘が隅々まで映し出されている。一番槍であるレイディラブ隊は一機減っている。彼らはエネルギー弾の飛び交うなか盾であるフォースを外すわけにも行かず。触手状のアームが波動砲を撃つのを邪魔してくるため、有効射を打つことができないようだ。あとから来たステイヤーも、水爆ミサイルバルムンクを撃つが決定打にならず、後ろに下がって代わるがわるエクリプスの前にバリア弾を張って段幕を防いでいた。こうしている間にもザプトムからは次々に攻撃が飛んできており、周囲のバイド化した防衛機構からも引っ切りなしに弾が飛んでくる。すでに何機か被弾してロストする機体が出ている。虎の子の波動砲もこの状況では良い射点につけず、有効打にならない。フォースシュートも難しい。パイロットたちの罵声が行き交っている。

 

 

『アームに邪魔されて波動砲が当たらない!』

『いっそフォースアタックを掛けるか?』

『馬鹿言うな。この段幕の中フォースを外すのは自殺行為だ!』

 

 

腹立ち紛れにレイディラブの一機が、チャージしていたい波動砲をザプトムに向けて打ち出す。やはりアームに邪魔をされて腹部コアではなく、頭部に逸れる。耳に残る轟音とともに装甲板を破壊する。お面の様な装甲が破壊されると、中から異様な機械と肉の塊が姿を現した。

 

 

『でたな悪夢め……』

 

 

誰の呟きが通信から聞こえる。ドプケラトプスの亜種ということは聞いていたが、まさにそれは鎧を着込んだドプケラドプスそのものだった。よく見れば装甲の中身はしわがれたミイラか、肉片の付いた骸骨の様だが、その異容はまさしくドプケラドプスのものだった。そこらでパイロット達が気色ばむ。この巨大バイドはコア以外は積極的には守らないようだ。コア以外は簡単に修復するからだろう。これでは先にこちらの集中力が切れてやられるだろう。すでに何機か撃墜されている。この空間に焦りが満ちてきた。

 

 

もう少し観察していると、どうやらこのザプトムには行動パターンがあるようだった。パイロットが苦戦するとおり、波動砲を撃とうとすると広間に設置されたアームや小型バイドを射出して邪魔をしてくる。どうやら波動砲が自身の天敵であると知っているかのようだ。いや、おそらく知っているのだろう、この基地にあった太陽系解放同盟は地球連合とグランゼーラを相手取って宣戦布告した。対R機戦闘に特化した戦術を分析し、その戦闘データをザプトムが喰ったのかもしれない。

ジーフィはふと思い立ち、連絡する。

 

 

「こちらジーフィ、聞こえるかLL1」

『こちらLL1クレイ。聞こえている。あいつをやる秘策でも思いついたか?』

「思いつきだが乗るか?」

『言って見ろ。全機波動砲チャージ済みだ。すぐにでも叩き込める』

「サンデーストライクで亜空間からあいつの背中側の隙間に接近。フォースを叩き込んで離脱する」

『波動砲を叩き込むんじゃ無いのか。背中側の隙間は狭すぎてフォースの勢いが足りないから、コアまでは届かないと思うぞ』

「ゆっくり波動砲など撃っていたら逃げられなくなる。フォースをおいてすぐに亜空間に逃げるんだ。そうすればあいつの防衛パターンが崩せるかもしれない。タイミングはこちらで指示する」

『勝機はあるようだな。了解した』

 

 

あまりジーフィの作戦を建てることは無いのだが、今までの経験から信頼してくれたようだ。後は大広間で前面に立っているR機に連絡する。グランゼーラ軍機もいるので、オープンで呼びかける。

 

 

「こちらグリトニル駐留艦隊アウルライト。各機に告ぐ。これから協力して欲しい」

 

 

ジーフィが作戦とも言いにくい作戦を告げると、効果があるのかと半信半疑といった反応であった。しかし、攻めあぐねていたのは全員同じであるので、こちらに従ってくれることになった。

 

 

「作戦の最終確認だ。亜空間潜行しているサンデーストライクが、陽動としてザプトムコアの裏側から攻撃を加える。これで防衛パターンが乱れたところに波動砲を叩き込む。これだけだ!」

 

 

先程からさらに何機か落ち、今突破力のある戦力はレイディラブ数機とイクリプスだろうステイヤーはすでに弾切れで下がっている。あとはジーフィのすぐそばまで接近してきたジャミング機がいるが、さすがにジャミング機に攻撃は期待してはいけないだろう。タイミングを図ってジーフィは作戦決行の合図をする。

 

 

「今だ! サンデーストライク隊ゴー」

 

 

壁とザプトムの隙間に、赤い揺らめきを伴って現れた一機のサンデーストライク。彼はフォースをザプトムの背中に叩き込むと、押しつぶさんと迫ってくるザプトムを回避するように壁の中に入っていった。ギリギリ正面に対峙しているR機からはザプトムが急に暴れ出した様にしか見えないが、電子の海に直接神経をつないでいるジーフィには手に取るように分かる。

 

 

ザプトムに支配されバイド化した施設アームがうごめく。牽制と邪魔なアームを叩くのにフォースが発射される。そして、堅かったガードが開く。

 

 

「発射用意……発射!」

 

 

青、緑燐光を発していた波動砲コンダクタが、爆発するように発光し、光が溢れる。肉眼は役に立たないが、ジーフィはたしかにコアに届いているのを見る。

 

 

「届いた!」

 

 

波動の燐光が晴れた後、ザプトムが操作していたアームはほとんど破壊され、白い装甲板は引きはがされており、腹部にあった醜悪な肉の獣は垂れ下がって溶けている。

が、中央部にある鈍色の球状コアは依然そこにあった。瞬膜の様なものが表面にうごめき、周囲が急速に再生していく。

 

 

「まずい、再生するぞフォース持ちはいないか!?」

『フォースがはじき飛ばされた。引き戻すのを待ってくれ』

『波動砲か、バルムンクはあるやつ!』

『今の衝撃でチャージが吹き飛ばされてる、クソッ』

 

 

この多数の波動砲をごた混ぜに発射した影響を受けて、虚数時空も影響を受けたらしく、一斉射撃に参加していなかった機体のコンダクタからもチャージ完了光が消えている。焦りと混乱が支配しているこの大広間。ジーフィはすぐに対抗手段を持った機体の検索をかけるが、間が悪くいなかった。ジーフィが悪態を付いていると、ジャミング機の方から通信が入る。そして相手がジャミング圏外に出てきた。

 

 

『こちらケンロクエン01、これより突貫する!』

 

 

赤い巨体がジーフィのアウルライトのそばを加速して通過していく、パイルバンカーに紫電が巻き付き、機体前面を覆うほどのシールドが前方にせり出し突撃体制に入る。グランゼーラ革命軍の決戦用R機ケンロクエンだ。

 

 

ザプトムも残った砲台からエネルギー弾を飛ばしてくるが、そんなもの物ともしない。少々のエネルギー弾はシールドに弾かれる。衝角の先に波動の光が一段と強くなり、ケンロクエンは吸い込まれるようにコアに突っ込む。

 

 

空間そのものが光っているような閃光と、鉄骨の軋むような音そして澄んだ破砕音。ジーフィのレーダー上からA級バイドの反応が消えた。ザプトムの腹部には壁まで貫通した大穴が空き、そこには赤いR機。パイルバンカーはザプトム背後壁面にまで到達している。

 

 

静まり返る一同を余所に、ケンロクエンは静かに後退してガシャりと音を立ててシールドをパージした。比較的スリムな形になったR機が旋回してこちらを向く。オープン回線で若い男の声が聞こえてきた。

 

 

『ドプケラバスターの名前は貰ったな。いやザプトムバスターか?』

 

 

それを聞いて怒濤のように全員から祝福の言葉が贈られる。混線しすぎて聞き取れないほどの量だ。今まで壁の中で索敵や遊撃に専念していたライムライト隊のサンデーストライクも通常空間に戻ってきているし、お祝い替わりにミサイルやレーザーが飛び交い周囲に残っていた小バイド体を排除する。ジャミング機すらバルカン砲をそこかしこに叩き込んでいる。もうめちゃくちゃだ。

 

 

当初の作戦に比べると少なくない被害もでているが、生ける悪魔の亜種を相手取ったにしては上々だろう。ジーフィは通信を中継しているミッドナイトアイに電信で本隊に連絡した後、周囲の機体とともにバルカンを撃ちまくった。祝砲には小さいが、戦友の死を弔うのにはちょうど良い。でも今は生きていることを喜ぼうと思った。

 




何はともかくケンロクエンを突撃させたかったのです。
その所為で尺が倍になったとしても。
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