グリトニル戦記   作:ヒナヒナ

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幕間 ワープ空間にて

幕間「ワープ空間にて」

 

 

 

 

つい半年前までそのTeam R-TYPEに所属していたユルハイネンは白皙の麗人であるが、現在は地球連合グランゼーラ混成艦隊――別名、英雄艦隊の旗艦に太陽系解放同盟側の人間として囚われの身である。現状にいたるのには紆余曲折があった。

 

 

***

 

 

英雄艦隊と太陽系解放同盟の決戦前、彼女はスーツを着込んで連絡シャトルに乗っていた。胸元には太陽系解放同盟の所属を示すピンが光っている。同乗者は二人、シャトルのパイロットと太陽系解放同盟の次席参謀のカトー大佐だ。彼女らはワープ空間まで自分たちを追撃してきた“英雄艦隊”に投降して、講和を申し込みに行くのだ。カトー大佐は死亡したキースン大将の代弁者として、そしてユルハイネンはBBS開発の責任者として。

 

 

シャトルが英雄艦隊の旗艦につくと、念入りに武器を持っていないか身体検査をされた後で会議室に通される。そこで艦隊司令である英雄殿と会談があるのだ。しかし、噂の英雄だが若い男である以上の感想は無かった。カトー大佐が饒舌に何かを話しているが、それもすべて右から左に流れていく。

 

 

もともとユルハイネンはそういう性質なのだ。興味の無いことは完全に耳目に入らない。発育障害や精神疾患を疑われた事もあるが、ハイスクールのときにどういった経緯か見聞きしたバイド研究だけは完全に別だった。研究については全ての事柄を覚えているし文字通り寝食を忘れて、すべてを捧げられた。

 

 

不意にカトー大佐から肩を叩かれ、BBSについて説明を求められた。この会談を全く聞いていなかったので少々驚いたが、彼女はバイド研究についてなら急な話でも問題なく話せる。事前に取り決めたラインの機密までを流れるように説明し座る。そしてそれに意見を挟むのはこの会談の末席に座る白衣の男だった。質問に見せかけて特に意味の無いことを話している彼は自分と同類だ。彼が私のターゲットである。そうユルハイネンは確信した。

 

 

場が進み、軍事作戦の話になると彼女にできることは何も無いし、興味も無い。彼女はたまに飛んでくる質問にオブザーバー的にアドバイスを果たして、会談が終わった。会談後も監視役が付けられているが問題ない。バイド研究者でありBBSを開発責任者である彼女が、空いている時間にTeam R-TYPEの研究員に話しかけるのは違和感が無いだろう。そうして相談スペースらしき場所で言葉を交わす。相手はドクターの略だと言ってドクと名乗ったが名前にも内容には意味が無い。

 

 

ワープ空間でのバイドの振る舞いについてであるとか、バイド侵食抵抗性素材など枯れ果てた話題から、波動砲についての他愛の無い常識的な話しをしている。

 

 

ユルハイネンがコーヒーを飲もうと手を伸ばしたとき、話しに夢中でコップを倒してしまう。あまり口を付けていなかったカップになみなみと注がれていたコーヒーは相手方、つまりはドクの方に流れていき、彼の袖口と手を濡らす。オーバーアクションで熱がるドクに、ユルハイネンは慌ててハンカチを取り出し、申し訳なさそうな顔をして彼の袖と手を拭う。周囲から見たら白皙の美人に手を握って貰って鼻の下を伸ばしている中年男といった風景だろう。

 

 

しかし、実際には彼女は全く申し訳なく思っていないし、ドクだって本気で熱がっているわけでは無いだろう。彼女がしたのはハンカチに忍ばせた小さな記録媒体を彼のシャツの袖口に滑り込ませただけ。それだけだった。

 

 

ユルハイネンはドクと見つめ合って、本日初めての心からの笑顔を浮かべた。ドクの顔が赤くなっていたのは機密データの受け渡しについての緊張の所為だけではあるまい。

 

 

艦隊は太陽系解放同盟の本隊に向かって移動している。英雄殿は解放同盟の投降を認めて、講和を進める気なのだろうか。しかし、そこに待っているのは臨戦状態で構えている同盟軍だ。もう少しで解放同盟と討伐艦隊の決戦が始まるのだろう。BBSは当初の予想と違い打ち出の小槌ではない。それどころか資源を喰いまくる金食い虫である。ならばリソースの限られている解放同盟の負けは見えている。ユルハイネンにとって先の見えた戦闘など価値は無かった。

 

 

***

 

 

彼女は珍しく過去の事を検証していたが、詰まらなそうにワープ空間を見やる。実に詰まらない。こんなに研究ができない時間が続くと余計な事を考えてしまう。しかし、BBSとバイドについての全研究成果とデータは引継ぎできたし、これで彼女にとっての太陽系解放同盟の役割は終わっている。しかし、できればまだバイドの研究をしたいが難しいだろうか?

 

 

一際大きな閃光が差し込んで以後、爆音がしなくなった。太陽系解放同盟との決戦は終わったようである。生き残ったはいいが、だまし討ちを画策したカトー大佐とともに捕虜として拘束されている現状は変わらない。この後は何事も無ければ、地球連合本部に引き渡され、軍事法廷に引き出されるだろう。しかし、彼女の母体であるTeam R-TYPEが介入することが考えられる。自分は客観的に見てBBS研究を任される程度には能力があるし、そのまま捨て置くかどうか検討ぐらいされるだろう。実際に介入してくるかどうかは判断材料に乏しく、適正に評価はできないが、司法取引が行われればTeam R-TYPEに研究員として戻ることができる。

 

 

なかなか確率としては小さいだろう。艦隊側に属しているドクに擁護してもらえば復帰できる確率は上がるだろうか。しかし、先程から艦が揺れる。何か緊急の事態だろうか? 

 

 

ユルハイネンは他人事のように自分の未来の事を考えていた。

 




アスペルガーとサイコパスの中間的な
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