グリトニル戦記   作:ヒナヒナ

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戦術

「戦術」

 

 

 

 

バイドとの開戦から2時間ほど。バイドの第一弾である先駆けはリボータイプの弱小バイドばかりであったので、特に問題なく各個撃破を続けていた。しかし、ここに来てのバイドの第二波が到着し始めている。戦力的に厳しいが、補給部隊から徴発したヨルムンガンド級輸送艦を二隻ほど加えており、R機も定数には補充されている。問題は連携だがそこは考えてはいけない。指揮を執るヘイズは、輸送艦についてはR機の輸送補給のためと割り切っていた。いざとなればバイドにぶつけるまでだ。

 

 

「提督、敵増援です。バイドシステムタイプ、アンフィビアンタイプがそれぞれ50程度です」

「岩礁帯に注意しろ。亜空間に潜んでいるかも知れん」

「R機隊各機へ、迎撃体形へシフト各機編隊を組め」

『ライムライト隊了解』

『モダンタイムス隊了解』

『サーカス隊了解』

 

 

補充された部隊やこの騒ぎで組み込まれた部隊から連絡が来る。流石にリボーを括弧つぶすだけの戦闘では脱落者はいなかった様だ。彼らが隊列を組んで構えるのは、R機の成れの果てと噂されるバイドシステムαやβ、海生生物に類似する特長を持ったアンフィビアンなどのバイドがメインの部隊の様だった。

 

 

バイドは一般的に一番近くの獲物に食いつくのだが、妙な動きを見せているものがいた。何よりバイドは大型の群れになればなるほど同士討ちも増えると言うのが定説であった。後方のバイドが前線の味方バイドごと攻撃してきたりする。中型群以上の規模のバイドを相手取るには、バイドをいかに上手く誘導するかにかかっているのだが。

 

 

「R機隊は外側から艦隊前面に敵を寄せ、おとり役は中央へ。クラネット艦長、艦首砲のチャージを開始してくれ」

 

 

管制の声が飛び交う現場で、艦隊司令のヘイズは時期を見計らって指示を出していた。ヘイズの駐留艦隊の戦略目標は時間稼ぎ。消耗を避けるためにはいかに効率よく敵を減らすかに係っていた。幸いバイドの部隊はその移動スピードから縦に伸びているようなので、このままいけば、明朝――あと16時間ほどならばギリギリ耐えられるラインでは無いかと分析している。そのうちバイドシステムとアンフィビアンがR機隊と交戦を始めた。

 

 

囮部隊に食いついたところで、両翼から追い込み艦首砲の餌食にする。重巡であるこの艦

は戦艦の攻撃力には劣るが、射程内の小型バイドならば簡単に殲滅できるだけの威力はあった。敵がまとまって攻めてきてくれる最初の一撃はなんとしても打ち込みたい。ヘイズはバイド戦での定石通りそう考え、陣形を組んで待っていたのだが、どうも集まりが悪い。

 

 

「敵の集まりが悪いですが、チャージは完了しました。これ以上先延ばしにするとR機隊に被害が出ます」

「亜空間からマッドフォレストです! 後方に抜けようとしています」

「! 艦首砲を発射して、回れるR機隊はマッドフォレストの処理を」

 

 

ヘイズの命令を受けて、クラネット艦長がすぐさま艦首砲発射の号令を掛ける。多数のバイドは塵も残さず消滅したが、岩礁地帯を迂回して顕現したマッドフォレストの所為で陣形は崩れている。まるで陽動のような動きだった。ヘイズは矢継ぎ早に指示を飛ばしながらも、奇妙な感覚を覚えた。見た目と実態が合致しないワープ空間のような気持ちの悪さ。

 

 

何かがおかしい。今までの対バイド戦闘とは違う。

まるで“中身入り”を相手にしているような……

ハッとするヘイズは今までの戦闘を検証する。そして結論。

 

 

「バイドが戦術を用いている?」

 

 

ここまでの戦闘でバイドの近眼的な行動原理に基づいた単純な罠は通用せず、ヘイズのひらめきを肯定していた。そこからの戦闘は熾烈を極めた。さらに追加で小型バイド群が後詰めに現れたからだ。こちらの陣形が乱れるのを待っていたのかも知れない。そんな懸念を抱いたそのとき横からその呟きに答える声が聞こえた。

 

 

「ええ、彼らのどこかに “司令官”がいるようですね?」

「私は戦闘中にここに入るなと言ったはずだ。ガーミティ研究員」

「そんなことはともかく、彼らは“司令官”の命令のとおり戦術性を持った行動をしてきますよ」

「……。君の言う“司令官”とはなんだ?」

「大型のバイドの群れには時たま他のバイドに指示を出す知能を備えた存在が確認されることがあります。おそらくバイドの性質はコアとなった物質や生物に由来する事が多いので、コアが何であるか気になりますね。いずれにせよ例外なくバイド係数の高い強力なバイドです」

 

 

興奮したように語るのは艦隊付きTeam R-TYPE研究員のガーミティだ。ヘイズは命令も許可も出していないのだが、当然の様に戦闘指揮所の補助席に座りベルトを締めながら会話をする。ヘイズはそれに多少苛つきはしたが、奇妙な振る舞いをするバイドと交戦している今、アドバイザーとして置いておくのも必要と割り切る。馬は合わないがTeam R-TYPEの研究者としてはまだまともであるし、研究のためとはいえグリトニルで退艦せずに、最前線まで付いてくる根性は認めよう。

 

 

「ガーミティ研究員。あの中に“司令官”はいるのか?」

「ええと、バイド係数はマックスで……いえ、おそらく“司令官”はこの戦場にはいないようですね。彼らはA級バイドに匹敵するはずですが、この群れにそこまでのバイドはいないようです」

「では、逆に言えば柔軟性には欠くと言う訳か。バイドに対して裏をかくとは妙な事になった」

 

 

ヘイズはバイド側の戦術目標を見極めて、その戦術性を逆に利用できるのではないか、と頭の隅に書き込んでおいた。

 

 

***

 

 

「被弾ブロック閉鎖! R機隊損傷率34%です」

「ライムライト隊から補給着艦要請です!」

「サーカス隊2機ロスト」

 

 

何とか戦線を維持できていたのは始めに艦首砲を撃ってから6時間後までだった。組織的と言えるバイドの攻撃に消耗を余儀なくされていた。遅れて、バイドの主力が戦場に姿を現したからだ。ゲインズやタブロックといった遠距離から高威力の攻撃を放ってくる危険性の高いバイド、そして大型バイドのボルドゲルドやベルメイトなどが現れたのだ。すでに戦線は2度下げており、すぐ後ろはグリトニルだ。グリトニル側の機動戦力はすでに作戦前に預かっており、外壁に設置された固定砲台で援護はあるが、正直まったく間に合わない。

 

 

そんな攻防戦のなか近づいてきたタブロックが打ち出した誘導ミサイルがR機隊を素通りして、後ろのグリトニル表面に叩き付けられた。比較的装甲の弱い搬入口はとうとう装甲版が剥がされる。

 

 

「グリトニル被弾。外壁が損傷したようです」

「グリトニルから連絡です。被害は限定的。ただし第一ワープ施設を完全閉鎖するとのことです」

「長距離砲撃が可能なゲインズ、タブロックを優先目標に設定。射程圏内のものは絶対撃ち漏らすな」

 

 

ついに来てしまった被害報告に、ヘイズは答える。防衛目標であるグリトニルに被害をだしたという焦燥の中、戦術的な指示はクラネット艦長に任せ、思考を高速で回していた。膨大な物量を誇るバイド相手に後手にまわっているのは危険である。相手の筋を読まなくてはならないと思考を加速させていく。ガーミティ研究員との話を元にバイドの戦術目標などを検討していった。

 

 

なぜ、艦隊ではなく堅牢なグリトニルに? 戦術目標がそこにあるのだろうか。被害は特に狙いやすいわけでない第一ワープ施設の外壁。しかし、もともと閉鎖されている施設だったはず……

 

 

ヘイズが思考を巡らす短い間にも、満身創痍のR機隊がミサイルの雨をかいくぐって、ゲインズをフォースで押しつぶしていく。ただ、タブロックは後方に戻ってしまい討ち取れない。その間にもベルメイトから放出された肉塊などの小物も押し寄せてくる。小さい物はグリトニル砲台に一部仕事を回す様な形になっていた。

 

 

***

 

 

『ヘイズ少将、作戦とは?』

 

 

旗艦のディスプレイに映るのは基地司令デンバーだ。その背後では忙しそうに走り回る司令部要員とその喧噪。まだ流れ弾程度だが基地の被害も拡大してきているため、対処に追われているのだろう。自分の考えを述べた。

 

 

「まず、ワープ施設に設置されている予備のワープ指標ビーコンを接収させていただきたい」

『ビーコンを? ……いや、続けてくれ』

「今回のバイド群はあきらかに戦術を理解……いや、戦術に従っています。そして、彼らは何故か第一ワープ施設に強力に引き寄せられています。何かに誘引されているか? そこにしかない目標がひとつだけあります」

『ワープ空間へ位置情報を発信しているビーコンか。しかし、あれが無いとワープ空間からの援軍が来られないぞ』

「ええ、だから彼らの“司令官”もそれを狙ってきたのです」

 

 

闘争意識の塊であるバイドが戦術を用いるなど噴飯物であったのだが、ヘイズはこれまでの戦闘から今回のバイドが戦術らしきものを持っていることを肌で感じている。そして、ガーミティ研究員から聞いた“司令官”の話。それらを組み合わせると、今回のバイドの群れには“司令官”はいない。末端のバイドはあまり融通が利かず単に優先目標に向かって攻撃をしてきているようだったからだ。しかし、太陽系各所から同時多発的に進撃してきたバイドの群れのどこかにいるはずであるが、今は関係ない。“司令官”を欠いた今回のバイドの群れは戦術を遵守するが、作戦運用に柔軟さは無く比較的愚直になるだろう。ここまで考えれば敵の行動原理も一部分かる。今回グリトニルに向かってきたバイドの群れは、ワープ空間からの援軍を警戒してグリトニルのワープ港としての機能を潰しに来た部隊だ。

 

 

「我々が最大出力で起動している予備ビーコンを持ってバイドを誘引します。その間グリトニル側のビーコンはすべて切って下さい。もし、我々が壊滅するようなら、そのときはグリトニル側のビーコンを起動してください」

『それだと、そちらにバイドがすべて食らいついてくるぞ』

「踏みとどまるのは難しいですが、誘引しながらの引撃ちなら時間は稼げます。我々が生きているならば、艦隊の所に援軍が来て彼らとともにグリトニルを援護できるでしょう。我々が壊滅するなら、グリトニル側のビーコンを起動して籠城し、援軍が来るのを待つことになるでしょう」

『このままでは共倒れか。……敵をすべて押しつけるようですまんな』

「いいえ、やっと我々が主導権を握れたのですから、これからは我々がバイドを引きずり回す番です」

 

 

すでにR機隊の消耗も激しいし、なにより6時間続く戦闘で、皆神経が参ってきているところだろう。しかし、ヘイズは精一杯の虚勢を張って通信を終えた。

 

 

***

 

 

簡易封鎖されていた第二ワープ施設で、作業用の無人クレーンやアームを使い予備ビーコンを荒々しくもぎ取ると、POWアーマーの内部に何とか積み込み、艦内に引き返してきた。そこからは、格納庫にいた整備員達が競うようビーコンを格納庫に設置する。あり合わせの部品で床に固定し、変圧器を噛ませてから無理矢理に電力を引き込んでくる。じりじりとそれを待っていた駐留艦隊とグリトニルだが、もうじき終わるという頃に、バイドが防衛網を抜けてきた。

 

 

「ゲインズ接近! グリトニルに向け砲撃体制、間に合いません!」

「グリトニル被弾! 港湾区画かなり深くまで穴が空いています」

「優先目標グリトニル攻撃圏内にいるゲインズ」

 

 

それを確認した戦闘指揮所ではヘイズが声を張り上げる。そしてグリトニルには白兵戦型の白いゲインズやベルメイトが肉塊をまとって接近していた。R機隊が攻撃力の高いゲインズに四苦八苦している間に、ベルメイトが震えたと思うと肉塊がグリトニルに発射されるグリトニルの壁面近くまで飛んでくる。そして、ベルメイトのコアから発生する衝撃波が、肉塊をすり潰した。

 

 

「同士討ち? いや」

「提督、ベルメイト肉塊から飛び散った微細なバイド組織がグリトニルに!」

「バイド指数は?」

「指数0.13。基地に使われている対バイド素材であれば、増殖はしないはずです」

「生身の人間は別だ。何よりグリトニルには穴が空いている……グリトニルに注意喚起。ともかくビーコンで誘引急げ!」

 

 

グリトニルの外壁に付着した大部分のバイド組織体は、そのバイド指数の弱さから物質を侵食する能力はとても弱いが、その生命力を活かして基地外壁を這いずりまわる。一部はゲインズやタブロックが破壊した穴から内部に潜り込んでいったようだ。艦隊でヘイズが歯がみしている中、ビーコン設置完了の報が戦闘指揮所に届いた。

 

 

「よし、ワープ指標ビーコン、起動せよ!」

「通電。……起動確認しました。出力強度50%」

「提督、周囲のバイドがこちらに向かってきます!」

「出力上げろ。もっとだ!」

「出力80……90……100%、最大出力です」

 

 

ビーコンを最大出力近くまで上げたあたりで、打合せ通りグリトニル側のビーコンが停止する。それを皮切りに目標を見失った小型バイドまでがダミービーコンに反応し、艦隊に向かってきた。細分されたバイド肉塊はそのままグリトニルに張り付いているが、ガウパーやタブロックなどの中型バイドは一気にこちらに向き直り、ゲインズやバイドシステムなどの小型バイドもいる。もっとも危険であるのはバイドの艦艇たるボルドゲルドやベルメイトだろう。バイドの群れが一気にこちらに向きなおったため、戦闘指揮所のスタッフは思わず息を呑んだ。

 

 

「クラネット艦長。R機隊は帰還させ補給を、この隙に体制を整える」

「了解しました。後進速度50を維持、振り切らないように注意」

「足の速いバイドを叩きながら、グリトニルとの距離200まで引き付ける」

 

 

後ろに下がり始める艦隊はに追いつこうとするバイドの群れ。先頭を切るアンフィビアンやリボーを艦のレーザーで叩きながら、後退を続ける。その先には冥王星衛星のカロンがあった。

 

 

「こちら駐留艦隊ヘイズです。誘引は成功しましたが、グリトニル表面の肉塊は取りこぼしました」

『デンバーだ。先のゲインズの砲撃での人的被害はほとんど無いが、防壁は港湾P3区画まで破られた。表面にいるバイドについてはなんとか対応できるだろう』

「我々はビーコン最大出力のままバイドを誘引し、カロン方面まで下がります」

『……わかった。死なん様にな』

 

 

戦闘指揮所のメインディスプレイには、画面にはみ出すほどのバイドの群れが、獲物に食いつかんと迫ってきていた。ヘイズは、まだまだ続く激戦に向けて、気合いを入れ直していた。

 




この戦場に“彼”はいません。バイド本隊は別宙域からの進撃ですね。

バイド側ではベルメイトが好きでした。強いし艦艇機能あるし、遠距離まで手が届くし。
ベルルはラスボス戦で使えるし。ボルド系列は……ねぇ?
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